財産評価ガイド|土地・建物・マンション・金融資産の相続税評価

相続税の額を大きく左右するのが財産の評価です。土地の路線価方式と画地調整、貸家建付地・借地権、マンション評価、配偶者居住権、金融資産、総則6項、2027年から予定されている貸付用不動産の評価見直し(通達案)までを、計算例と計算ツールで解説します。

相続税・贈与税 総合ガイド|財産評価

財産評価路線価・画地調整・貸家建付地・マンション・配偶者居住権・2027年の見直し

相続税は財産の「時価」に課税されますが、実務では国税庁の財産評価基本通達で評価します。土地は路線価と土地の形、使い方で評価額が大きく変わります。調整率表の全数値を使った土地評価ツールで、実際に計算できます。

調整率表(付表1〜9)の全数値を収録2027年の評価見直し(通達案)に対応2026年10月17日時点
約8割路線価の水準(公示価格に対して)出典:国税庁
30.2%相続財産に占める土地の割合(令和6年分)出典:国税庁
2027年1月貸付用不動産の評価見直し(通達案)の適用予定出典:財務省・国税庁
3ツール土地・マンション・配偶者居住権出典:本ガイド
第1章

財産評価の基本:時価と財産評価基本通達

相続税と贈与税は、受け取った財産を「いくらと見るか」で税額が決まります。この章では、その出発点となる「時価」の考え方と、国税庁の財産評価基本通達のしくみを説明します。

この章の結論

  • 相続税・贈与税の財産は「時価」で評価するのが相続税法22条の原則です。土地・建物・株式など多くの財産の具体的な評価方法は、国税庁の財産評価基本通達(以下「評基通」)が定めています。
  • 評価の基準日(課税時期)は、相続・遺贈なら亡くなった日、贈与なら財産をもらった日です。土地の路線価も課税時期の年分を使い、2026年(令和8年)中の相続・贈与なら令和8年分で評価します。
  • 2026年中の評基通の改正は2本だけで、土地・家屋・預貯金の評価方法は変わっていません。2027年(令和9年)からの貸付用不動産の評価の見直しは通達案の段階です。

相続税法の「時価」と財産評価基本通達

相続税法22条は、相続・遺贈・贈与で取得した財産の価額を「時価」で計算すると定めています。これを時価主義といいます。

相続税法は、配偶者居住権(23条の2)や定期金に関する権利(24条・25条)など一部の財産について評価方法を定めています。一方、土地・建物・株式・預貯金などの具体的な評価方法は、国税庁の財産評価基本通達(評基通)が財産の種類ごとに定めています。

評基通1は、時価を、課税時期に不特定多数の人の間で自由に取引した場合に通常成立する価額と説明しています。そして、その価額は評基通の定めによって評価した価額によるとしています。申告では、評基通に沿って評価するのが基本です。

評基通は国税庁の内部の通達で、国民を直接しばる法律ではありません。それでも最高裁令和4年4月19日判決は、課税庁が特定の人だけ評基通より高い価額で課税することは、合理的な理由がない限り平等原則に反するとしました。評基通は、全国の納税者に共通するものさしとして働いています。

ただし、評基通どおりに評価することが著しく不適当な場合は、国税庁長官の指示を受けて別の方法で評価されます。これが総則6項(評基通6)で、詳しくは総則6項と最高裁令和4年判決で説明します。

課税時期:いつの時点で評価するか

財産は「課税時期」の価額で評価します。課税時期は、相続・遺贈では被相続人(亡くなった人)が亡くなった日、贈与では財産を取得した日です。贈与で財産を取得した日がいつになるかは、贈与の成立と課税の時期で説明します。

評価は、課税時期の状況(現況)にもとづいて行います。たとえば土地の地目は登記簿ではなく課税時期の現況で判定し、面積も課税時期の実際の面積を使います。課税時期に何を確かめるかを、財産ごとにまとめると次のとおりです。

課税時期に確かめること(主な財産)
財産課税時期に確かめること
土地現況の地目、実際の面積、自分で使っているか人に貸しているか
路線価・評価倍率課税時期の属する年分の路線価図・評価倍率表(令和8年分は2026年1月1日〜12月31日の取得分に適用)
貸家・貸家建付地課税時期に実際に賃貸されている部分の割合(賃貸割合)
上場株式課税時期の終値と、課税時期の属する月・前月・前々月の終値の月平均額
外貨建ての財産取引金融機関が公表する課税時期の対顧客直物電信買相場(TTB)

路線価は毎年1月1日を評価時点として定められ、令和8年分は2026年7月1日に公表されました。1月〜6月に亡くなった場合も、その年分の路線価を使います。公表前に相続があったときは、公表を待って評価します。

  1. 2026年1月1日令和8年分の路線価の評価時点
  2. 2026年3月10日(例)相続開始=課税時期。上場株式は3月10日の終値と、3月・2月・1月の月平均額を比べます
  3. 2026年7月1日令和8年分の路線価が公表されます。この相続の土地は令和8年分で評価します
  4. 相続税の申告期限死亡を知った日の翌日から10か月以内(申告・納税までの全体スケジュール)

評価の原則:評価単位・共有・果実など

評基通は、第1章の総則で評価全体に共通するルールを定めています。そのあと第2章で土地、第3章で家屋、第4章で構築物の評価を定めています。このほか、立木、動産、株式・公社債・預貯金などの評価方法も定めています。

評基通の総則の主なルール
ルール内容例・詳しい章
評価単位(評基通1)財産は評価単位ごとに評価宅地は利用の単位である「1画地」ごと(土地評価の全体像)
すべての事情の考慮(評基通1)価額に影響を及ぼすすべての事情を考慮関連:利用価値が著しく低下している宅地の10%減(不整形地・無道路地など)
共有財産(評基通2)財産全体の価額を持分割合で按分評価額5,000万円の土地の2分の1の持分なら2,500万円
区分所有財産(評基通3)全体の評価額をもとに、各部分の使用収益の状況などを考慮して計算マンションはマンションの評価
元物と果実(評基通4)天然果実は元の財産に含めて評価、家賃・利息などの法定果実は別に評価未収の家賃は別に計上(保険・暗号資産など)
販売用の不動産(評基通4-2)不動産業者が販売のために持つ土地・建物は、たな卸商品に準じて評価路線価などでは評価しません
外貨建て財産(評基通4-3)TTBで円に換算(外貨建ての債務はTTS)預貯金・上場株式など
定めのない財産(評基通5)評基通の評価方法に準じて評価暗号資産など(保険・暗号資産など)
国外財産(評基通5-2)評基通により評価。難しい場合は売買実例価額・精通者意見価格などを参酌保険・暗号資産など
総則6項(評基通6)評基通による評価が著しく不適当な財産は、国税庁長官の指示を受けて評価総則6項

主な財産の評価方法一覧

財産の種類ごとの評価方法の要点を、不動産と、金融資産・その他に分けて示します。計算の詳細は、右の列の章で説明します。

不動産の評価方法の要点
財産評価方法の要点詳しい章
宅地(市街地)路線価方式:路線価×奥行価格補正率などの補正率×地積路線価と基本の計算〜地積規模の大きな宅地
宅地(市街地以外)倍率方式:固定資産税評価額×国税局長が定める倍率土地評価の全体像
貸している土地貸宅地=自用地としての価額×(1−借地権割合)、貸家建付地=自用地としての価額×(1−借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)貸家建付地・借地権
農地・山林・原野純農地などは倍率方式、市街地農地などは宅地比準方式(宅地とした場合の価額−宅地造成費)農地・山林・原野
家屋(自分で使用)固定資産税評価額×1.0家屋・構築物
貸家自用家屋としての価額×(1−借家権割合30%×賃貸割合)家屋・構築物
分譲マンション2024年(令和6年)1月1日以後の相続・贈与は、従来の評価額×区分所有補正率マンションの評価
配偶者居住権相続税法23条の2の算式(建物の耐用年数・存続年数と、法定利率3%による複利現価率を使用)配偶者居住権の評価
金融資産・その他の財産の評価方法の要点
財産評価方法の要点詳しい章
預貯金預入高+(既経過利子−源泉徴収されるべき所得税相当額)。普通預金などは、既経過利子が少額なら預入高のみで評価可預貯金・上場株式など
上場株式課税時期の終値と、課税時期の属する月・前月・前々月の終値の月平均額の4つのうち、最も低い価額で評価可預貯金・上場株式など
投資信託上場していないものは、基準価額から解約時の源泉所得税相当額・信託財産留保額・解約手数料を差し引いた額。ETF・J-REITは上場株式に準じて評価預貯金・上場株式など
個人向け国債課税時期に中途換金した場合の受取額(額面金額+経過利子相当額−中途換金調整額)預貯金・上場株式など
非上場株式(自社株)株主の区分と会社規模に応じて、類似業種比準方式・純資産価額方式(またはその併用)・配当還元方式株式評価:評価が必要な場面
生命保険契約に関する権利相続開始時に解約した場合の解約返戻金の額(掛捨て型は評価の対象外)保険・暗号資産など
ゴルフ会員権取引相場のあるものは、通常の取引価格の70%+取引価格に含まれない預託金等保険・暗号資産など
暗号資産活発な市場があるものは、納税義務者が取引する暗号資産交換業者が公表する課税時期の取引価格とされています保険・暗号資産など
自動車・家財売買実例価額・精通者意見価格などを参酌して評価(不明なら新品の小売価額−償却費)保険・暗号資産など

表の借家権割合30%は、札幌国税局の令和8年分の財産評価基準書で確認できる割合です。

2026年の改正状況と検討中の見直し

2026年10月17日時点で確認できる評基通の改正と、検討中の見直しは次のとおりです。改正は、いつ取得した財産から適用されるかで使い分けます。申告書を出す日ではなく、課税時期で判断します。

財産評価の改正・見直しの状況(2026年10月17日時点)
項目内容状態対象となる取得
非上場株式の純資産価額で差し引く法人税額等相当額37%から38%へ(防衛特別法人税の創設に伴う評基通186-2の改正)。株式評価:純資産価額方式施行中2026年4月1日以後の相続・遺贈・贈与
立木(山林の樹木)の標準価額表立木価格の実態に合わせた見直し。農地・山林・原野施行中2026年1月1日以後の相続・遺贈・贈与
貸付用不動産・不動産小口化商品の評価課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産などを、通常の取引価額で評価する個別通達の案。2026年9月18日公表、意見募集は10月18日締切。貸付用不動産の見直し通達案2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用予定
非上場株式の評価方法国税庁の有識者会議で見直しを検討中(2026年8月20日に骨子を提示)。株式評価:評価方法の見直し検討中適用時期は未定
居住用の区分所有財産(マンション)区分所有補正率による評価。係数の改定は2026年10月時点で未公表。マンションの評価施行中2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与

土地・家屋・預貯金などの評価方法そのものを変える評基通の改正は、2026年10月17日時点では行われていません。貸付用不動産の見直しも、評基通の改正ではなく、別の個別通達の案として示されています。最終的な内容と制定日は、国税庁の公表を確認する必要があります。

2026年中の相続・贈与は現行の評価です

貸付用不動産の見直しの適用は2027年1月1日以後の予定で、2026年12月31日までの相続・贈与は現行の評価方法で評価します。ただし、現行の評価でも総則6項が適用される可能性は残ります(総則6項)。

一物多価:同じ財産でも場面で価額が違う

同じ土地や株式でも、どの税金のどの場面かによって、使う価額が違います。これを「一物多価」といいます。相続税評価額は、相続税・贈与税で無償の取得を評価するための価額で、どの場面でも通用する値段ではありません。

同じ財産でも使う価額が違う主な場面
場面使う価額根拠・詳しい章
相続・遺贈・贈与で土地をもらう評基通による評価額(路線価方式・倍率方式など)この章、土地評価の全体像
親子など個人の間で土地・建物を売買する、負担付贈与をする取得時の通常の取引価額(相続税評価額ではありません)負担付贈与通達(贈与税:みなし贈与)
相続した土地を売る(譲渡所得)亡くなった人の取得費と取得時期を引き継いで計算所得税法60条(譲渡所得:取得費・取得時期の引継ぎ)
個人が法人に非上場株式を売る所得税基本通達59-6による時価(相続税評価額と異なる場合あり)株式評価:所得税・法人税の時価

よくある誤り

  • 「親子間なら路線価(相続税評価額)で土地を売買すれば贈与税はかからない」は誤りです。個人間の売買で取得した土地・建物の時価は通常の取引価額とされ、差額が贈与とみなされるおそれがあります。「著しく低い価額」かどうかは取引ごとに判定されます。
  • 「相続税評価額=実際に売れる値段」ではありません。土地の路線価は、地価公示価格等の80%程度を目途に定められています。
  • 「評基通どおりに評価すれば否認されることはない」も「評基通の評価は否認される」も誤りです。総則6項が適用されるのは、評価額の開きに加えて、実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合です。

他の税金との関係

評基通の評価額に納得できない場合でも、評基通で申告しなければなりませんか。

評基通は法律ではないため、評基通以外の方法で時価を算定することが直ちに否定されるわけではありません。ただし、申告では評基通に沿って評価するのが基本です。たとえばマンションでは、市場価格の大幅な下落など算式に反映されない事情があれば、鑑定評価などで個別に時価を算定する余地があるとされています。判断は専門家に相談してください。

2026年の春に亡くなりましたが、当時は令和8年分の路線価が出ていませんでした。前年分を使ってよいですか。

使えません。土地は課税時期の属する年分の路線価・評価倍率で評価します。令和8年分は2026年7月1日に公表されているので、令和8年分で評価します。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 相続税法22条(時価主義)。評価方法を法律で定めるものとして、相続税法23条の2(配偶者居住権等)、24条・25条(定期金に関する権利)などがあります。
  • 評基通1(評価単位、時価の意義、すべての事情の考慮)、2(共有財産)、3(区分所有財産)、4(元物と果実)、4-2(たな卸資産である不動産は評基通133に準じる)、4-3(外貨建て財産の円換算:TTB、債務はTTS)、4-4(基準年利率)、5(評価方法の定めのない財産)、5-2(国外財産)、6(この通達の定めにより難い場合の評価)。
  • 評基通の前文の最終改正表示は「令和8年5月25日付課評2-39」です。2026年中の改正は、令和8年3月25日付課評2-28ほか(評基通186-2の割合を37%から38%へ。2026年4月1日以後の取得に適用)と、令和8年5月25日付課評2-39(別表2の標準伐期にある森林の立木の標準価額表。2026年1月1日以後の取得に適用)の2本です。
  • 最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号、民集76巻4号411頁)は、評価通達は行政内部の通達で、国民に対し直接の法的効力を持たないとしました。そのうえで、特定の者についてのみ通達評価額を上回る価額で課税するには平等原則から合理的な理由が必要であり、通達評価額と鑑定評価額の大きなかい離だけではその事情に当たらないと示しました。
  • 負担付贈与通達(平成元年3月29日直評5・直資2-204):負担付贈与または個人間の対価を伴う取引で取得した土地等・家屋等は、取得時の通常の取引価額で評価します。取得価額が課税時期の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、取得価額によることもできます。

実務論点

  • 上場株式を負担付贈与・個人間の対価を伴う取引で取得した場合は、月平均額の特例は使えず、課税時期の終値で評価します(評基通169)。
  • 貸付用不動産の通達案は、評基通第2章から第4章(土地・家屋・構築物)とマンション通達の定めにかかわらず評価する個別通達の構成で、第1章(総則6項を含む)は引き続き適用されます。評基通185(純資産価額)で評価する土地等・家屋等には適用しないとされています。
  • 評価明細書などの様式は、申告書の提出日ではなく課税時期で使い分けます(非上場株式の評価明細書は、2026年4月1日以後の取得から「令和8年4月1日以降用」)。
  • 総則6項の適用件数は、国税庁資料で平成27〜令和6事務年度の計27件(不動産13件・株式14件)です。
第2章

土地評価の全体像:地目・評価単位・路線価方式と倍率方式

土地の評価は、「どの地目か」「どこまでを1つの土地とみるか」「路線価方式か倍率方式か」を決めることから始まります。この章では、土地評価の全体の流れと、路線価図・評価倍率表の読み方を説明します。

この章の結論

  • 地目(宅地・田・畑・山林など)は登記簿ではなく課税時期の現況で判定し、地目ごとに評価します。面積も登記簿ではなく実際の面積を使います。
  • 宅地は「1画地」(利用の単位)ごとに評価します。登記の単位である筆とは一致せず、自宅の敷地と貸家の敷地は別々の単位になります。
  • 市街地は路線価方式(路線価×補正率×地積)、それ以外は倍率方式(固定資産税評価額×倍率)で評価します。どちらも課税時期の年分を使い、2026年(令和8年)中の相続・贈与は令和8年分です。

土地評価の5つのステップ

土地の評価は、次の順番で進めます。最初の3つで「何を、どの範囲で、何㎡として評価するか」を決め、4つ目で金額を計算し、5つ目で貸しているかどうかなどの権利関係を反映します。

  1. 地目を判定する課税時期の現況で、宅地・田・畑・山林・原野・雑種地などに分けます。
  2. 評価単位を決める宅地は1画地、田・畑は1枚の農地など、地目ごとの単位に区切ります。
  3. 地積を確かめる登記簿の面積ではなく、課税時期の実際の面積を使います。
  4. 評価方式を確かめて計算する路線価図・評価倍率表で、路線価方式か倍率方式かを確認し、自用地(自分で使っている土地)としての価額を計算します。
  5. 権利関係を反映する貸宅地・貸家建付地・借地権など、利用状況に応じて評価額を調整します(貸家建付地・借地権)。

評価額が決まったら、相続税の計算では小規模宅地等の特例を検討します。要件を満たせば、自宅の敷地などの評価額から最大80%を減額できます(小規模宅地等の特例の全体像)。

地目の判定:登記簿ではなく現況で

土地は地目ごとに評価します(評基通7)。地目は、宅地、田、畑、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地、雑種地の9つです。山林には保安林も含みます。

地目は、登記簿に書かれた地目ではなく、課税時期の現況で判定します。たとえば登記簿上は「畑」でも、課税時期に家が建って宅地として使われていれば、宅地として評価します。宅地に当たらない駐車場や、ゴルフ場、遊園地、運動場、鉄軌道用地などは雑種地です。

地目ごとに評価するのが原則ですが、例外が2つあります。1つは、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合で、主な地目の土地として一団ごとに評価します。たとえば、ゴルフ練習場の建物の敷地と駐車場などを一体として使っている場合です。

もう1つは、市街化調整区域以外の都市計画区域で、市街地のような形態になっている地域の例外です。対象は、市街地農地(生産緑地を除く)・市街地山林・市街地原野・宅地と状況が似た雑種地です。このうち2以上の地目が隣り合い、形状や位置などから一団で評価するのが合理的な場合は、その一団ごとに評価します。

地目ごとの評価単位
地目評価単位
宅地1画地の宅地(利用の単位となっている1区画。筆とは一致しない)
田・畑1枚の農地(耕作の単位)。市街地周辺農地・市街地農地・生産緑地は、利用の単位となっている一団の農地
山林1筆。市街地山林は、利用の単位となっている一団の山林
原野1筆。市街地原野は、利用の単位となっている一団の原野
牧場・池沼原野に準じる
鉱泉地原則として1筆
雑種地利用の単位となっている一団の雑種地(同じ目的に使われている部分)

宅地の評価方式はこの章の後半と路線価と基本の計算以降で、農地・山林・原野・雑種地の評価は農地・山林・原野・雑種地と北海道の注意点で説明します。

評価単位:宅地は「1画地」ごと

宅地は「1画地」ごとに評価します。1画地は、利用の単位となっている1区画のことで、登記の単位である筆とは一致しません。2筆以上で1画地になることも、1筆が2画地以上に分かれることもあります。

区切り方の基本は、次の2つです。

  • 自分で使っている土地(自用地)は、居住用か事業用かを問わず、全体を1画地とします。
  • 他の人の権利(借地権・借家権など)がある場合は、権利の有無・種類・権利者ごとに区分します。貸家が数棟あれば、原則として各棟の敷地ごとに1画地です。

使用貸借(無償で土地を貸すこと。固定資産税などの相当額以下の金銭のやりとりを含みます)による土地の使用権は、他の人の権利としては扱いません(価額は零)。自分の土地の一部を使用貸借で貸していても、全体を自用地として1画地で評価します。逆に、隣の土地を使用貸借で借りて一体で使っていても、借りている土地は合算しません。

宅地の評価単位の判定例
土地の状況評価単位
2筆の土地にまたがって自宅が建っている2筆を合わせて1画地
1筆の土地に自宅と自分の店舗がある全体で1画地(自用地)
1筆の土地に自宅とアパート1棟がある自宅の敷地とアパートの敷地で2画地
1筆の土地に貸家が3棟ある原則として各棟の敷地ごとに3画地
土地の一部を子に無償で貸し、子が家を建てている全体を自用地として1画地(使用貸借の使用権は零)
遺産分割で、道路に接しない細い部分だけを1人が取得した著しく不合理な分割なら、分割前の土地を1画地として評価し、取得部分の価額の比で按分

最後の例は「不合理分割」と呼ばれます。贈与や遺産分割で、分割後の土地が通常の用途に使えないなど著しく不合理な場合が対象です。無道路地・帯状の土地・著しく狭い土地が生じる分割や、建物を建てるための接道義務を満たさない間口での分割などが当たります。

実務のコツ

奥行や間口、角地かどうかといった補正は、1画地ごとに判定します。評価単位の区切り方を誤ると、補正率がすべてずれてしまいます。計算に入る前に、土地の利用状況を図に描いて区切りを確かめると安全です。

地積:登記簿ではなく実際の面積

地積(土地の面積)は、課税時期の実際の面積で評価します(評基通8)。登記簿の面積と実際の面積が違うことがあるため、測量図などで確認します。

倍率方式で評価する土地で、実際の面積が固定資産税の台帳の面積と違う場合は、実際の面積に対応する固定資産税評価額を求め、それに倍率を掛けます。山林の面積は、傾斜面の面積ではなく水平面積で測ります。

路線価方式と倍率方式

宅地は、市街地のような形態になっている地域では路線価方式、それ以外の地域では倍率方式で評価します(評基通11)。自分の土地がどちらの地域にあるかは、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認します。

路線価方式(路線価地域)

  • 算式:路線価×奥行価格補正率などの補正率×地積
  • 路線価は、道路ごとに付けられた1㎡当たりの価額(路線価図では千円単位)
  • 奥行・間口・形・接する道路の数に応じて補正
  • 主に市街地の土地

倍率方式(倍率地域)

  • 算式:固定資産税評価額×国税局長が定める倍率
  • 倍率は、地価事情が似た地域ごとに設定
  • 固定資産税評価額は、固定資産税の計算のもとになる価額
  • 主に市街地以外の土地

路線価は、国税局長が売買実例価額、地価公示価格、鑑定評価額、精通者意見価格などをもとに評定します。毎年1月1日を評価時点とし、地価公示価格等の80%程度を目途に定められます。

路線価の基準になるのは、その道路のほぼ中央にあり、その道路だけに接し、標準的な間口と奥行をもつ長方形・正方形の宅地です。実際の土地がこの標準と違えば、奥行や形などに応じて補正します(路線価と基本の計算〜不整形地・無道路地など)。奥行価格補正率をはじめ多くの補正率は、ビル街・高度商業・繁華街・普通商業・併用住宅・普通住宅・中小工場・大工場の7つの地区区分ごとに違います。

路線価地域でも、路線価の付いていない道路だけに接する宅地があります。この場合は、納税義務者の申出などにより、税務署長がその道路に特定路線価を設定することができます(評基通14-3)。

計算例1:路線価方式の基本(補正のない宅地)

前提:普通住宅地区、路線価200千円(20万円)。間口15m・奥行20mの長方形の宅地(300㎡)で、1つの道路だけに接しています。奥行20mの奥行価格補正率は1.00、間口15mなので間口が狭いことによる補正はなく、奥行÷間口も2未満なので奥行が長いことによる補正もありません。

200,000円×1.00×300㎡=60,000,000円

答え:自用地としての評価額は6,000万円です。奥行・間口などによる補正の計算は路線価と基本の計算・角地・二方路線などで説明します。

計算例2:倍率方式で評価する宅地

前提:倍率地域の宅地。固定資産税評価額1,000万円、評価倍率表の宅地の倍率1.1(国税庁の評価倍率表の説明にある例)。

1,000万円×1.1=1,100万円

答え:自用地としての評価額は1,100万円です。

固定資産税評価額は、市町村が発行する固定資産評価証明書で確認できます。所有する不動産の一覧である名寄帳も、土地の漏れを防ぐのに役立ちます。名寄帳は市町村ごとに作られるので、他の市町村にある土地はそれぞれの市町村で取得します。札幌市では、評価証明書は1通450円、名寄帳の写しは無料で、市税事務所などで取得します(札幌の相続の窓口)。

路線価・評価倍率は、課税時期の属する年分を使います。令和8年分は2026年7月1日に公表され、2026年1月1日から12月31日までに取得した財産の評価に使います。国税庁の路線価のサイトでは、平成30年分から令和8年分まで見ることができます。

路線価図と評価倍率表の読み方

路線価図では、道路ごとに「215D」のような表示があります。数字は1㎡当たりの路線価を千円単位で表し、アルファベットは借地権割合を表します。「215D」なら、1㎡当たり215,000円、借地権割合60%です。

評価する土地200D数字:1㎡当たりの路線価(千円)200=200,000円記号:借地権割合A90% B80% C70% D60%E50% F40% G30%路線価方式:路線価×奥行価格補正率などの画地調整×地積。路線価のない地域は倍率方式(固定資産税評価額×倍率)。
図:路線価図の読み方
路線価図の借地権割合の記号
記号借地権割合記号借地権割合
A90%E50%
B80%F40%
C70%G30%
D60%

借地権割合は、借地権・貸宅地・貸家建付地など、他の人の権利が関係する土地の評価に使います(貸家建付地・借地権)。自分で使っている土地(自用地)の評価には使いません。

路線価図には、その道路の地区区分も記号で示されています。記号の「黒塗り」「斜線」などで、地区区分と借地権割合が適用される範囲も示されます。どの地区区分に当たるかで補正率が変わるので、路線価とあわせて確認します。

倍率地域の土地は、評価倍率表で倍率を調べます。評価倍率表には、市区町村の町(丁目)または大字ごとに、借地権割合と、宅地・田・畑・山林・原野・牧場・池沼の倍率が載っています。

評価倍率表の主な欄の読み方
欄読み方
町(丁目)又は大字名五十音順に並んでいます
適用地域名「全域」なら、その町丁の全体が路線価地域か倍率地域のどちらか。「一部」「路線価地域」とあれば両方が混在するので、路線価図で所在を確認
借地権割合倍率地域の借地権割合(路線価地域は路線価図の記号で確認)
宅地の倍率固定資産税評価額に掛ける倍率。「路線」とあれば路線価地域
田・畑・山林・原野「純」「中」は純農地・中間農地などの倍率。「比準」「周比準」「市比準」は宅地比準方式などで評価する地域(例:田の欄の「純 48」は、純農地で固定資産税評価額×48倍)
牧場・池沼分類・評価方式と倍率

国税庁は、申告の際に路線価図・評価倍率表の正誤表を必ず確認するよう案内しています。北海道・札幌の令和8年分の路線価の動きは令和8年分 北海道・札幌の路線価で紹介しています。

土地を評価する前にそろえる資料

  • 課税時期の年分の路線価図・評価倍率表と、その正誤表
  • 固定資産評価証明書(固定資産税評価額の確認)と名寄帳(市町村ごとの所有不動産の一覧)
  • 登記事項証明書(所有者・共有持分の確認)
  • 実際の面積がわかる資料(測量図など)
  • 利用状況がわかる資料(自宅・貸家・貸地・駐車場などの区分、賃貸借契約書)
自分の土地が路線価地域か倍率地域かは、どこで調べられますか。

国税庁の「路線価図・評価倍率表」のサイトで、課税時期の年分と都道府県・市区町村を選び、評価倍率表を開きます。宅地の倍率の欄に「路線」とあれば路線価地域なので、路線価図で路線価を確認します。数字があれば倍率地域で、その倍率を固定資産税評価額に掛けます。

路線価が付いていない道路だけに面している土地は、どう評価しますか。

路線価の付いていない道路だけに接する宅地は、税務署長に特定路線価の設定を申し出て、その路線価をもとに評価する方法があります(評基通14-3)。申出の手続は税務署で確認してください。

よくある誤り

  • 登記簿の地目や面積のまま評価する。地目は課税時期の現況で、面積は実際の面積で判定します。
  • 固定資産税評価額を、そのまま宅地の相続税評価額にする。倍率地域では倍率を掛け、路線価地域では路線価方式で計算します。
  • 前年分の路線価で評価する。1月〜6月の相続・贈与でも、その年分の路線価を使います。
  • 自宅の敷地と貸家の敷地を1つの土地としてまとめて評価する。権利関係が違う部分は別の評価単位です。
  • 子に無償で貸している部分から借地権を差し引く。使用貸借の使用権は零なので、自用地として評価します。

2027年(令和9年)からの貸付用不動産の評価

課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産を、路線価などではなく通常の取引価額で評価する通達案が公表されています通達案。2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される予定で、2026年10月時点では未制定です(貸付用不動産の見直し)。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評基通7(地目別評価。地目は課税時期の現況により、不動産登記事務取扱手続準則68条・69条に準じて判定。一団の土地の例外2つ)、7-2(評価単位)、8(地積=課税時期の実際の面積)、11(評価の方式)、13(路線価方式)、14(路線価:毎年1月1日を評価時点、地価公示価格等の80%程度を目途)、14-2(地区)、14-3(特定路線価)、21・21-2(倍率方式)。
  • 農用地区域内・市街化調整区域内の農業用施設用地は評基通24-5で評価し、評価倍率表の宅地の倍率をそのまま使いません。
  • 使用貸借:昭和48年11月1日付直資2-189ほか「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」。令和8年8月31日付課資2-14で一部改正されましたが、国税システムの更改に伴う整備とされ、使用借権を零とする評価上の取扱いが変わったとの公表はありません。

実務論点

  • 評価単位は、質疑応答事例「宅地の評価単位」「使用貸借」「不合理分割」に具体例があります。同族会社間などの不合理分割も同様に扱われます。
  • 倍率地域で実際の地積が台帳地積と異なる場合の取扱いは、質疑応答事例「倍率方式によって評価する土地の実際の面積が台帳地積と異なる場合の取扱い」を確認します。
  • 原子力発電所事故の帰還困難区域内(2026年1月1日現在)の土地等は、価額を0として申告して差し支えないとされています。
  • 評価倍率表の「比準」「市比準」「周比準」の地域は、宅地比準方式等で評価します(農地・山林・原野)。
第3章

路線価の見方と基本の計算(奥行価格補正)

路線価方式の土地評価は、路線価に奥行に応じた補正率を掛け、面積を掛けるのが基本です。この章では、計算の土台となる奥行価格補正を、計算例と計算ツールで確かめます。

この章の結論

  • 基本の算式は「路線価×奥行価格補正率×地積」です。路線価は1㎡当たりの価額で、路線価図では千円単位で表示されます(「200」なら20万円)。
  • 奥行価格補正率は、地区区分(7区分)と奥行距離で決まります。普通住宅地区では奥行10m以上24m未満が1.00で、それより短くても長くても率が下がります。
  • 例:普通住宅地区・路線価20万円・奥行30m・地積300㎡の土地は、奥行価格補正率0.95で、奥行価格補正後の額は5,700万円です。間口10mの細長い土地なので、さらに奥行長大補正率0.96を掛け、評価額は5,472万円になります。

基本の算式と用語

1つの道路だけに接する宅地は、次の算式で評価します(評基通15)。

自用地としての評価額=路線価×奥行価格補正率×地積

路線価の基準になるのは、その道路のほぼ中央にあり、その道路だけに接し、標準的な間口と奥行をもつ長方形・正方形の宅地です。奥行が標準と違う土地は、奥行距離に応じた奥行価格補正率で調整します。

路線価
道路(路線)ごとに付けられた1㎡当たりの価額です。毎年1月1日を評価時点とし、地価公示価格等の80%程度を目途に国税局長が定めます。路線価図では千円単位で表示されます。
正面路線
評価の基準にする道路です。1つの道路だけに接する土地は、その道路が正面路線です。2つ以上の道路に接する場合の決め方は角地・二方路線などで説明します。
奥行距離
正面路線から土地の奥までの距離です。長方形の土地なら、道路と垂直な辺の長さです。形の整っていない土地では、地積を間口距離で割った「計算上の奥行距離」を使う場合があります(不整形地・無道路地など)。
地積
課税時期の実際の面積です(土地評価の全体像)。
地区区分
路線価地域を、ビル街・高度商業・繁華街・普通商業・併用住宅・普通住宅・中小工場・大工場の7つに分けたものです(評基通14-2)。奥行価格補正率をはじめ、多くの補正率が地区区分ごとに違います。

路線価図の数字は千円単位なので、「200」は1㎡当たり20万円です。数字のあとのアルファベットは借地権割合で、自分で使っている土地(自用地)の計算には使いません(路線価図の読み方)。

地区区分で奥行価格補正率が違う

奥行価格補正率は、地区区分ごとに別の表になっています。同じ奥行でも、住宅地と商業地、工場地では率が違います。主な地区区分の率を、代表的な奥行で比べると次のとおりです。

奥行価格補正率の地区区分による違い(付表1の一部)
奥行距離高度商業普通商業・併用住宅普通住宅中小工場
4m未満0.900.900.900.85
8m以上10m未満0.960.970.970.95
20m以上24m未満1.001.001.001.00
28m以上32m未満1.001.000.951.00
40m以上44m未満1.000.930.911.00
60m以上64m未満0.960.860.860.99
100m以上0.800.800.800.90

たとえば奥行30mの土地は、普通住宅地区なら0.95に下がりますが、普通商業・併用住宅地区や中小工場地区では1.00のままです。奥行60m以上64m未満では、普通住宅地区が0.86なのに対し、中小工場地区は0.99です。地区区分を取り違えると、評価額が大きくずれます。

地区区分は、正面路線の地区で判断します。ビル街地区・繁華街地区・大工場地区を含む7地区すべての率は、このページの計算ツールに収録しています。

普通住宅地区の奥行価格補正率

普通住宅地区の奥行価格補正率の主な値と、路線価20万円の場合の1㎡当たりの価額は次のとおりです。率を掛けた結果を見ると、奥行の違いが価額にどれだけ影響するかがわかります。

普通住宅地区の奥行価格補正率(平成30年分以降用・抜粋)
奥行距離補正率路線価20万円の場合の1㎡当たり価額
4m未満0.90180,000円
4m以上6m未満0.92184,000円
6m以上8m未満0.95190,000円
8m以上10m未満0.97194,000円
10m以上24m未満1.00200,000円
24m以上28m未満0.97194,000円
28m以上32m未満0.95190,000円
32m以上36m未満0.93186,000円
36m以上40m未満0.92184,000円
40m以上44m未満0.91182,000円
44m以上48m未満0.90180,000円
48m以上52m未満0.89178,000円
100m以上0.80160,000円

52m以上100m未満は、0.88から0.81まで段階的に下がります。全区分の値は計算ツールに収録しています。

表の区分は「○m以上○m未満」で、境目の値は大きい側の区分に入ります。奥行がちょうど24mなら「24m以上28m未満」の0.97で、1.00ではありません。奥行がちょうど10mなら「10m以上」の区分で1.00です。

この表は、相続税・贈与税の財産評価基本通達の付表1(平成30年分以降用)です。2018年(平成30年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与に使う表で、2026年(令和8年)10月時点でも現行です施行中。それより前の取得に使う旧表とは値が違います。

計算例で確かめる

計算例1:普通住宅地区・路線価20万円・奥行30m・地積300㎡

前提:普通住宅地区。正面路線価200千円。間口10m・奥行30mの長方形の宅地(300㎡)で、1つの道路だけに接する自用地とします。

計算の手順
手順内容金額・率
1 奥行価格補正率奥行30m=「28m以上32m未満」0.95
2 補正後の1㎡当たり価額200,000円×0.95190,000円
3 奥行価格補正だけを反映した額190,000円×300㎡57,000,000円
4 間口と奥行の確認間口10m(8m以上)なので間口狭小補正率1.00。奥行30m÷間口10m=3.0なので奥行長大補正率0.961.00・0.96
5 補正後の1㎡当たり価額190,000円×1.00×0.96182,400円
6 評価額182,400円×300㎡54,720,000円

200,000円×0.95=190,000円(奥行価格補正後)
190,000円×300㎡=57,000,000円(奥行価格補正だけを反映した額)
190,000円×1.00×0.96×300㎡=54,720,000円(評価額)

答え:奥行価格補正後の額は5,700万円で、間口10m・奥行30mの細長い土地なので奥行長大補正も加わり、評価額は5,472万円です。奥行長大補正で228万円下がります。

この例のように、奥行価格補正は計算の1段目にすぎません。奥行が間口の2倍以上ある土地は奥行長大補正、間口が狭い土地は間口狭小補正がかかります(角地・二方路線など)。同じ300㎡でも、間口15m・奥行20mの土地なら奥行価格補正率は1.00で、ほかの補正もかからず、評価額は6,000万円です(200,000円×1.00×300㎡)。

計算例2:同じ奥行30mでも地区区分で結果が違う

前提:普通商業・併用住宅地区。正面路線価500千円。間口12m・奥行30mの長方形の宅地(360㎡)で、1つの道路だけに接する自用地とします。

普通商業・併用住宅地区では、奥行30mの奥行価格補正率は1.00です。奥行÷間口は2.5ですが、この地区の奥行長大補正率は2以上3未満で1.00、間口12mの間口狭小補正率も1.00です。

500,000円×1.00×1.00×1.00×360㎡=180,000,000円

答え:評価額は1億8,000万円です。普通住宅地区なら奥行30mで0.95、奥行÷間口2.5で0.98の補正がかかるところ、この地区では補正がありません。

計算例3:奥行が短い土地も補正で下がる

前提:普通住宅地区。正面路線価150千円。間口15m・奥行7mの長方形の宅地(105㎡)で、1つの道路だけに接する自用地とします。

奥行7mは「6m以上8m未満」で、奥行価格補正率は0.95です。間口15mなので間口狭小補正率は1.00、奥行÷間口は2未満なので奥行長大補正もありません。

150,000円×0.95×105㎡=14,962,500円

答え:評価額は14,962,500円です。補正がなければ15,750,000円(150,000円×105㎡)なので、奥行が短いことで787,500円下がります。

奥行価格補正の確認ポイント

  • 正面路線の地区区分を確認した
  • 奥行距離を測った(形の整っていない土地は計算上の奥行距離を検討した)
  • 境目の値がどの区分に入るかを確認した
  • 財産評価基本通達の付表1(平成30年分以降用)を使った
  • 間口と奥行の比率、接する道路の数を確認した

よくある誤り

  • 固定資産税の「画地計算法」の補正率表を使う。相続税・贈与税では、財産評価基本通達の付表を使います。値も区分も違います。
  • 平成29年分以前用の旧表を使う。2018年1月1日以後の相続・贈与には現行の付表1を使います。
  • 境目の読み違い。奥行24mちょうどは0.97、奥行10mちょうどは1.00です。
  • 路線価の単位の読み違い。路線価図の「200」は1㎡当たり20万円です。
  • 奥行価格補正だけで計算を終える。間口と奥行の比率、接する道路の数、土地の形も必ず確認します。

計算ツールで試す

次のツールで、地区区分・路線価・奥行・間口・地積を入力すると、奥行価格補正から評価額までを計算できます。角地や裏面の道路(角地・二方路線など)、不整形地(不整形地・無道路地など)、地積規模の大きな宅地(地積規模の大きな宅地)、貸家建付地などの利用区分(貸家建付地・借地権)も入力できます。

入力する主な項目は次のとおりです。地区区分は正面路線の地区、路線価は1㎡当たりの金額です(路線価図の「200」は200,000円)。奥行・間口はメートル、地積は㎡です。

角地などの場合は、側方路線・裏面路線の路線価と、その道路から見た奥行、角地・準角地・二方路線の別を入力します。貸している土地では、借地権割合と賃貸割合も入力します。

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ツールを使うときの注意

  • ツールは、1㎡当たりの価額を端数を残したまま計算し、評価額の円未満を切り捨てて表示します。
  • 無道路地・がけ地・容積率の異なる地域にわたる宅地・私道などの補正は入力の対象外です。該当する場合は個別に計算してください。
  • 結果は目安です。申告には、国税庁の評価明細書に沿った計算と、専門家の確認をおすすめします。

補正の全体の順序

路線価方式の補正は、国税庁の「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」の欄の順に行います。奥行価格補正はその最初の段階です。全体の流れは次のとおりです。

  1. 奥行価格補正正面路線価×奥行価格補正率(この章)
  2. 側方・二方路線の加算角地や裏面にも道路がある土地の加算(角地・二方路線など)
  3. 間口狭小・奥行長大、または不整形地の補正どちらか一方を使い、重ねては使いません(角地・二方路線など・不整形地・無道路地など)
  4. 規模格差補正地積規模の大きな宅地に当たる場合(地積規模の大きな宅地)
  5. 無道路地・がけ地・容積率・私道などの補正該当する場合(不整形地・無道路地など)
  6. 地積を掛ける1㎡当たり価額×地積=自用地としての評価額
  7. セットバック・都市計画道路予定地評価額からの控除・補正(不整形地・無道路地など)
  8. 利用区分の反映貸家建付地・貸宅地・借地権など(貸家建付地・借地権)

路線価の付いていない道路だけに接する宅地は、税務署長に特定路線価の設定を申し出る方法があります。倍率地域の宅地は、固定資産税評価額に倍率を掛けて評価します(土地評価の全体像)。

他の税金との関係

奥行価格補正率が1.00を超えることはありますか。

ありません。付表1の率は、どの地区区分でも最大1.00です。奥行による補正は、評価額を下げる方向にだけ働きます。評価額が上がる方向の調整は、角地や裏面にも道路がある土地の加算です(角地・二方路線など)。

奥行が場所によって違う土地は、どの奥行で計算しますか。

台形など形の整っていない土地は不整形地として評価し、奥行は、地積を間口距離で割った計算上の奥行距離などを使います。ただし、土地全体を囲む長方形(想定整形地)の奥行が上限です。詳しくは不整形地・無道路地・がけ地・セットバック・私道で説明します。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評基通13(路線価方式)、14(路線価)、14-2(地区)、14-3(特定路線価)、15(奥行価格補正)、付表1「奥行価格補正率表」(平成30年分以降用)。2018年1月1日以後の相続・遺贈・贈与に適用され、平成29年分以前用の旧表とは値が異なります。
  • 評価明細書(平成31年1月分以降用)第1表の1欄(A)=正面路線価×奥行価格補正率。以下、2〜4欄(B〜D)側方・二方加算、5-1欄(E)間口狭小・奥行長大、5-2欄(F)不整形地、6欄(G)規模格差、7欄(H)無道路地、8欄(I・J)がけ地・特別警戒区域、9欄(K)容積率、10欄(L)私道、M=自用地の評価額。5-1と5-2は重複適用できません。

実務論点

  • 国税庁の調整率表PDFの表題は「平成31年1月分以降用」のままですが、国税庁は2024年(令和6年)1月1日以後の取得分にも同じPDFを指定しています。2024年以後に率が変わった事実はありません。
  • 通達の付表(HTML)の空欄は「上の行と同じ値」を意味し、0や適用なしではありません。
  • 1㎡当たり価額の各段階の円未満の端数処理は、通達や評価明細書の様式からは明確な定めを読み取れません。本章の計算例は、円未満の端数が出ない数値にしています。
  • 正面路線の判定、地区の異なる路線に接する宅地の扱いは角地・二方路線などを参照してください。
第4章

角地・二方路線・間口狭小・奥行長大

2つ以上の道路に接する土地は評価額が加算され、間口が狭い土地や奥行が長すぎる土地は減額されます。この章では、加算と減額のしくみと計算の順番を、計算例で説明します。

この章の結論

  • 2つ以上の道路に接する土地は、「路線価×奥行価格補正率」が高い方の道路を正面路線とし、ほかの道路の分を加算します。普通住宅地区の加算率は、角地0.03、準角地0.02、裏面の道路(二方路線)0.02です。
  • 間口が狭い土地や、奥行が間口の2倍以上ある土地は減額します。普通住宅地区では、間口8m未満で間口狭小補正率0.90〜0.97、奥行÷間口が2以上で奥行長大補正率0.90〜0.98です。
  • 計算の順番は「奥行価格補正→側方・二方の加算→間口狭小・奥行長大の補正→地積を掛ける」です。減額の補正は、加算したあとの1㎡当たり価額に掛けます。

正面路線の決め方

2つ以上の道路に接する土地では、まず評価の基準にする「正面路線」を決めます。正面路線は、原則として「路線価×奥行価格補正率」が高い方の道路です。路線価そのものが高い方とは限りません。

地区区分が違う道路に接する場合は、それぞれの道路の地区区分の奥行価格補正率で計算して比べます。計算した額が同じなら、土地が接している距離が長い方を正面路線とします。

正面路線の判定例(普通住宅地区・道路Aに15m、道路Bに30m接する長方形の角地・450㎡)
道路路線価その道路から見た奥行奥行価格補正率路線価×補正率
道路A200,000円30m0.95190,000円
道路B195,000円15m1.00195,000円

路線価は道路Aの方が高いものの、奥行価格補正後の額は道路Bの方が高いので、正面路線は道路Bです。道路Aは側方路線になり、1㎡当たりの価額は195,000円+200,000円×0.95×0.03=200,700円です。正面路線の間口は30m、奥行÷間口は2未満なので減額の補正はなく、評価額は200,700円×450㎡=90,315,000円になります。

正面路線が決まったら、側方路線の奥行価格補正率と加算率も、正面路線の地区区分の表を使います。側方路線が別の地区区分にあっても、その地区の表は使いません。

側方路線影響加算:角地・準角地

正面と側面の2つの道路に接する角地は、側方路線の影響を加算します(評基通16)。

1㎡当たりの加算額=側方路線価×側方路線から見た奥行の奥行価格補正率×側方路線影響加算率

この加算額を、正面路線価に奥行価格補正率を掛けた額に足し、最後に地積を掛けます。側方路線から見た奥行は、長方形の土地なら、正面路線から見たときの間口の長さにあたります。加算率は地区区分と、角地か準角地かで決まります。準角地とは、1つの道路が折れ曲がった部分の内側にある土地のことです。

角地でも、角地としての効用を現実に持たない場合は、側方路線影響加算率の代わりに二方路線影響加算率を使います。また、土地の一部しか側方路線に接していない場合は、接している部分の割合に応じて加算額を調整します。

計算例1:普通住宅地区の角地

前提:普通住宅地区。正面路線価200千円で、正面から見た奥行20m(奥行価格補正率1.00)。側方路線価150千円で、側方から見た奥行15m(1.00)。角地。間口15m・奥行20mの長方形の宅地(300㎡)。

正面:200,000円×1.00=200,000円
側方の加算:150,000円×1.00×0.03=4,500円
1㎡当たり:200,000円+4,500円=204,500円
間口15mなので間口狭小補正なし、奥行20m÷間口15m=1.33…で2未満なので奥行長大補正なし
評価額:204,500円×300㎡=61,350,000円

答え:評価額は6,135万円です。正面の道路だけに接する場合の6,000万円と比べ、角地であることで135万円加算されます。

二方路線影響加算:裏面にも道路がある土地

正面と裏面の両方に道路がある土地は、裏面の道路の影響を加算します(評基通17)。三方・四方を道路に囲まれた土地は、側方と二方の加算を合わせて計算します(評基通18)。

1㎡当たりの加算額=裏面路線価×裏面から見た奥行の奥行価格補正率×二方路線影響加算率

側方路線影響加算率(付表2)・二方路線影響加算率(付表3)
地区区分側方:角地側方:準角地二方
ビル街地区0.070.030.03
高度商業地区・繁華街地区0.100.050.07
普通商業・併用住宅地区0.080.040.05
普通住宅地区・中小工場地区0.030.020.02
大工場地区0.020.010.02

商業地ほど加算率が高く、普通住宅地区の加算は小さめです。同じ土地で、もう1つの道路の付き方による違いを比べると次のとおりです。

道路の付き方による評価額の違い(普通住宅地区・正面路線価200千円・間口15m・奥行20m・300㎡、もう1つの道路の路線価150千円)
道路の付き方1㎡当たりの計算評価額
正面の道路だけ200,000円×1.00=200,000円60,000,000円
角地200,000円+150,000円×1.00×0.03=204,500円61,350,000円
準角地200,000円+150,000円×1.00×0.02=203,000円60,900,000円
裏面にも道路(二方路線)200,000円+150,000円×1.00×0.02=203,000円60,900,000円
角地で裏面にも道路(三方路線)200,000円+150,000円×1.00×0.03+150,000円×1.00×0.02=207,500円62,250,000円

側方から見た奥行は15m、裏面から見た奥行は20mで、いずれも奥行価格補正率は1.00です。三方路線は、側方と二方の加算を合わせて計算します。

この例では、正面の道路だけの場合と比べた増加は、角地で2.25%、準角地・二方路線で1.5%です。増加の割合は、もう1つの道路の路線価と加算率で決まります。高度商業地区・繁華街地区のように角地の加算率が0.10の地区では、角地の影響がより大きくなります。

間口狭小補正・奥行長大補正

間口が狭い土地や、奥行が間口に比べて長すぎる土地は減額します(評基通20-4)。間口距離は、正面路線に接している部分の長さです。対象は、不整形地と無道路地以外の宅地です。不整形地と無道路地は、それぞれの補正の中で間口の狭さを考慮します(不整形地・無道路地など)。

評価額=(奥行価格補正・加算後の1㎡当たり価額)×間口狭小補正率×奥行長大補正率×地積

普通住宅地区の間口狭小補正率(付表6)
間口距離補正率
4m未満0.90
4m以上6m未満0.94
6m以上8m未満0.97
8m以上1.00
普通住宅地区の奥行長大補正率(付表7)
奥行距離÷間口距離補正率
2未満補正なし
2以上3未満0.98
3以上4未満0.96
4以上5未満0.94
5以上6未満0.92
6以上0.90

奥行長大補正率は、奥行の長さではなく「奥行距離÷間口距離」の比率で引きます。奥行40mでも間口が25mなら比率は1.6で、奥行長大補正はかかりません(奥行価格補正は別にかかります)。逆に奥行20mでも間口が5mなら比率は4.0で、奥行長大補正率0.94がかかります。

率は地区区分ごとに違います。たとえば普通商業・併用住宅地区の間口狭小補正率は、4m未満0.90、4m以上6m未満0.97で、6m以上は1.00です。奥行長大補正率も、比率2以上3未満は1.00で、3以上4未満が0.99です。

計算例2:間口が狭く奥行の長い土地

前提:普通住宅地区。路線価150千円。間口5m・奥行20mの長方形の宅地(100㎡)で、1つの道路だけに接しています。

奥行価格補正:150,000円×1.00(奥行20m)=150,000円
間口狭小補正率:間口5m=4m以上6m未満で0.94
奥行長大補正率:奥行20m÷間口5m=4.0で0.94
1㎡当たり:150,000円×0.94×0.94=132,540円
評価額:132,540円×100㎡=13,254,000円

答え:評価額は13,254,000円です。補正がなければ15,000,000円なので、1,746,000円(約11.6%)下がります。

計算の順番:加算してから減額する

角地などの加算と、間口狭小・奥行長大の減額が両方ある土地は、加算したあとの1㎡当たり価額に減額の補正率を掛けます。国税庁の評価明細書の欄も、この順番で並んでいます。

  1. 正面路線を決める各道路の「路線価×奥行価格補正率」を比べます。
  2. 奥行価格補正正面路線価×奥行価格補正率(路線価と基本の計算)。
  3. 側方・二方の加算側方路線・裏面路線の影響を1㎡当たりで加算します。
  4. 間口狭小・奥行長大の補正加算後の1㎡当たり価額に掛けます。不整形地の場合は不整形地補正を使います。
  5. 地積を掛ける地積規模の大きな宅地に当たる場合は、地積を掛ける前に規模格差補正率も掛けます(地積規模の大きな宅地)。

計算例3:角地で奥行が長い土地

前提:普通住宅地区。正面路線価200千円で、正面から見た奥行25m(奥行価格補正率0.97)、間口10m。側方路線価100千円で、側方から見た奥行10m(1.00)。角地。宅地の面積は250㎡です。正面路線の判定は、200,000円×0.97=194,000円が、100,000円×1.00=100,000円より高いので、200千円の道路が正面です。

正面:200,000円×0.97=194,000円
側方の加算:100,000円×1.00×0.03=3,000円
加算後:194,000円+3,000円=197,000円
減額の補正:間口10mで間口狭小補正率1.00、奥行25m÷間口10m=2.5で奥行長大補正率0.98
1㎡当たり:197,000円×1.00×0.98=193,060円
評価額:193,060円×250㎡=48,265,000円

答え:評価額は48,265,000円です。順番を誤って、先に194,000円に0.98を掛けてから3,000円を足すと、1㎡当たり193,120円、評価額48,280,000円となり、15,000円過大になります。

角地・細長い土地の確認ポイント

  • 接している道路をすべて洗い出し、各道路の路線価と、その道路から見た奥行を確認した
  • 「路線価×奥行価格補正率」を比べて正面路線を決めた
  • 角地・準角地・二方路線のどれに当たるか、角地としての効用があるかを確認した
  • 側方路線に土地の一部しか接していないかを確認した
  • 正面路線の間口距離と、奥行÷間口の比率を計算した

よくある誤り

  • 路線価が高い道路を、そのまま正面路線にする。正面路線は、奥行価格補正率を掛けたあとの額で比べて決めます。
  • 側方路線の奥行価格補正率や加算率に、側方路線の地区区分の表を使う。どちらも正面路線の地区区分の表を使います。
  • 奥行長大補正率を奥行の長さで引く。奥行÷間口の比率で引き、2未満なら補正はありません。
  • 間口狭小・奥行長大の補正率を、加算する前の価額に掛ける。加算後の1㎡当たり価額に掛けます。
  • 不整形地補正と、間口狭小・奥行長大の補正を重ねて使う。どちらか一方です(不整形地は不整形地・無道路地など)。
角地なら、どんな場合でも側方路線の加算がかかりますか。

側方路線に接していれば加算するのが原則です。ただし、角地としての効用を現実に持たない場合は、側方路線影響加算率の代わりに二方路線影響加算率を使います。土地の一部しか側方路線に接していない場合は、接している部分の割合に応じて加算額を調整します。

正面路線と側方路線で地区区分が違う場合は、どう計算しますか。

まず、それぞれの道路の地区区分の奥行価格補正率で「路線価×奥行価格補正率」を計算し、高い方を正面路線にします。正面路線が決まったら、側方路線の奥行価格補正率と加算率も、正面路線の地区区分の表で計算します。国税庁のタックスアンサーNo.4605に計算例があります。

間口狭小補正と奥行長大補正は、両方かかることがありますか。

あります。間口が狭く、奥行が間口の2倍以上ある土地は、2つの補正率を両方掛けます。計算例2の土地は、間口狭小補正率0.94と奥行長大補正率0.94の両方がかかっています。

旗竿地(細い通路で道路に出る土地)には、間口狭小補正を使いますか。

自宅への通路として専用に使っている路地状の部分は、私道として別に評価せず、奥の宅地と一体で1画地として評価します。全体を不整形地として評価する場合は、間口狭小補正率を不整形地補正率に掛け合わせる形で間口の狭さを反映します(下限0.60)。詳しくは不整形地・無道路地・がけ地・セットバック・私道で説明します。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評基通16(側方路線影響加算)、17(二方路線影響加算)、18(三方又は四方路線影響加算)、20-4(間口狭小・奥行長大)。付表2(側方路線影響加算率表、平成19年分以降用)、付表3(二方路線影響加算率表、平成19年分以降用)、付表6(間口狭小補正率表、平成19年分以降用)、付表7(奥行長大補正率表)。
  • タックスアンサーNo.4604:正面路線は原則として路線価×奥行価格補正率が高い路線(地区の異なる路線に接する場合は各地区の補正率で比較、同額なら接する距離が長い方)。角地としての効用を有しない場合は二方路線影響加算率を使用。側方路線に一部だけ接する場合は加算額を接する部分の割合で調整。
  • タックスアンサーNo.4605:側方路線の奥行価格補正率・加算率も正面路線の地区区分による。設例は3,000千円×1.0+1,850千円×0.99×0.10=3,183.15千円、×960㎡=3,055,824千円。
  • 質疑応答事例「側方路線影響加算又は二方路線影響加算と間口狭小補正との関係」:加算後の1㎡当たり価額に間口狭小補正率等を乗じます。

実務論点

  • 評基通20-4は、地積が大きいものなどについて、近傍の宅地の価額との均衡を考慮し、付表6・7の補正率を適宜修正できるとしています。
  • 付表6のビル街地区の間口8m未満は「-」で率の定めがありません。付表7は比率2未満の区分がなく、補正なしです。付表3の原表は普通住宅・中小工場・大工場地区を1行(0.02)にまとめています。
  • 評価明細書では、5-1欄(間口狭小・奥行長大)と5-2欄(不整形地)は重複適用できません。不整形地で間口狭小補正がある場合は「付表5の率×間口狭小補正率」(小数点以下2位未満切捨て、下限0.60)とし、奥行長大補正がある場合は選択で「間口狭小補正率×奥行長大補正率」によることもできます(不整形地・無道路地など)。
  • 側方路線に一部だけ接する場合の按分の具体的な算式は、タックスアンサーNo.4604と質疑応答事例「側方路線に宅地の一部が接している場合の評価」の図で確認してください。
第5章

不整形地・無道路地・がけ地・セットバック・私道

形がいびつな土地や道路に面していない土地は、整った土地より使いにくいため、評価額を下げる補正が用意されています。どの補正がどれだけ効くのかを、計算例で確認します。

この章の結論

  • 不整形地は「想定整形地」と「かげ地割合」から補正率を求めます。普通住宅地区・500㎡未満でかげ地割合30%なら、補正率は0.90(10%減)です。
  • 無道路地は、通路を開設する部分の価額を差し引きます(評価額の40%が上限)。がけ地・土砂災害特別警戒区域・都市計画道路予定地は、割合に応じた補正率を掛けます。
  • セットバック部分は、その部分の評価額の70%を差し引きます(30%で評価)。行き止まりの私道は30%で評価し、通り抜けできる私道は評価しません(0円)。

不整形地:想定整形地とかげ地割合で補正する

三角形・台形・L字形などの不整形地は、整形地としての価額に不整形地補正率を掛けて評価します。整形地としての価額は、計算上の奥行距離(地積÷間口距離。想定整形地の奥行が上限)を使う方法など、国税庁が示す4つの方法のいずれかで求めます。

補正率は、次の順に決めます。まず、正面路線に面して土地全体を囲む長方形(または正方形)を描きます。これを想定整形地といい、土地からはみ出した部分を「かげ地」と呼びます。

かげ地割合=(想定整形地の地積−不整形地の地積)÷想定整形地の地積

次に、地区区分と地積区分で、使う列を選びます。普通住宅地区の地積区分は、A=500㎡未満、B=500㎡以上750㎡未満、C=750㎡以上です(普通商業・併用住宅地区は650㎡と1,000㎡で区切ります)。最後に、かげ地割合の行の率を読みます。かげ地割合が10%未満なら補正はありません。

普通住宅地区の不整形地補正率(付表5の代表値)
かげ地割合A(500㎡未満)B(500〜750㎡)C(750㎡以上)
10%以上15%未満0.980.990.99
20%以上25%未満0.940.970.98
30%以上35%未満0.900.930.96
40%以上45%未満0.850.880.92
50%以上55%未満0.790.820.87
60%以上65%未満0.700.730.78
65%以上0.600.650.70

原表は5%刻みです(例:普通住宅地区Aの25%以上30%未満は0.92、35%以上40%未満は0.88)。全区分の率は、路線価の見方と基本の計算の計算ツールに組み込んでいます。

間口が狭い不整形地は、「不整形地補正率×間口狭小補正率」を補正率とします。積は小数点以下2位未満を切り捨て、0.60が下限です。奥行長大補正もかかる土地は、「間口狭小補正率×奥行長大補正率」と比べて低い方を選べます。間口狭小・奥行長大の単独の補正(角地・二方路線・間口狭小・奥行長大)と、不整形地補正を重ねて掛けることはできません。

計算例1:かげ地割合30%の不整形地(普通住宅地区・地積区分A)

前提:普通住宅地区、正面路線価150,000円、地積350㎡、間口距離17.5m。正面路線に面して土地全体を囲む想定整形地は、間口方向20m×奥行25m=500㎡です。

計算の手順
手順計算結果
①かげ地割合(500㎡−350㎡)÷500㎡30%
②地積区分350㎡は500㎡未満A
③不整形地補正率付表5(普通住宅地区・A・30%以上)0.90
④計算上の奥行距離350㎡÷17.5m(想定整形地の奥行25m以下)20m
⑤奥行価格補正率普通住宅地区・20m以上24m未満1.00
⑥1㎡当たりの価額150,000円×1.00×0.90135,000円
⑦評価額135,000円×350㎡47,250,000円

間口17.5mは8m以上なので間口狭小補正はなく、奥行÷間口も2未満なので奥行長大補正もありません。

答え:評価額は4,725万円です。補正がなければ150,000円×350㎡=5,250万円なので、525万円(10%)下がります。

無道路地:通路を開設する部分の価額を差し引く

無道路地は、道路に接していない宅地です。道路に接していても、建物を建てるのに必要な接道義務を満たしていない宅地も含みます。

  1. 合わせた土地を計算実際に利用している路線の路線価で、無道路地と前面の宅地を合わせた土地の価額を求めます。
  2. 前面の宅地を差し引く合わせた土地の価額から前面の宅地の価額を引き、無道路地の価額とします。
  3. 不整形地補正をする間口は接道義務を満たす最小限の幅とみなして間口狭小補正率を使います。奥行長大補正との選択もできます。
  4. 通路部分を控除する通路を開設する部分の価額(路線価×通路部分の地積)を差し引きます。控除額は、補正後の価額の40%が上限です。

計算例2:道路に接していない宅地(無道路地)

前提:普通住宅地区、路線価100,000円。評価する土地は幅10m×奥行20m=200㎡で、道路との間に他人の宅地(幅10m×奥行20m)があります。接道義務を満たす最小限の通路は、幅2m×長さ20m=40㎡とします。

計算の手順
手順計算結果
①合わせた土地(奥行40m)100,000円×0.91×400㎡36,400,000円
②前面の宅地(奥行20m)100,000円×1.00×200㎡20,000,000円
③無道路地の価額①−②(1㎡当たり82,000円)16,400,000円
④不整形地補正率かげ地割合(400㎡−200㎡)÷400㎡=50%、地積区分A→0.79。0.79×間口狭小0.90=0.7110.71
⑤補正後の価額82,000円×0.71×200㎡11,644,000円
⑥通路部分の価額100,000円×40㎡(上限は⑤×40%=4,657,600円)4,000,000円
⑦評価額⑤−⑥7,644,000円

④では、間口狭小0.90×奥行長大0.90(奥行40m÷間口2m=20)=0.81も選べますが、低い0.71を使います。

答え:評価額は764万4,000円です。道路に面した同じ広さの土地(100,000円×1.00×200㎡=2,000万円)の約38%になります。

がけ地と土砂災害特別警戒区域

平らな部分とがけ部分が一体になった宅地で、がけ部分を通常の用途に使えないときは、がけ地がないとした価額にがけ地補正率を掛けます。補正率は、総地積に占めるがけ地の割合と、斜面の向きで決まります。地区区分による違いはありません。

がけ地補正率(付表8の代表値)
がけ地の割合南東西北
0.10以上0.20未満0.960.950.940.93
0.30以上0.40未満0.880.870.860.83
0.50以上0.60未満0.820.810.780.73
0.70以上0.80未満0.760.740.700.63
0.90以上0.700.650.600.53

原表は0.10刻みです(例:南向き0.20以上0.30未満は0.92)。

表にない向き(東南など)は、両方の向きの率の平均でかまいません。がけ部分を山林などの別の評価単位として評価する場合は、この補正は使いません。

土砂災害特別警戒区域(いわゆるレッドゾーン)を含む宅地は、区域外とした価額に特別警戒区域補正率を掛けます施行中。2019年(平成31年)1月1日以後の相続・贈与から適用されています。区域内の割合が0.10以上なら0.90、0.40以上なら0.80、0.70以上なら0.70です。がけ地補正もかかる場合は2つの率を掛け合わせ(小数点以下2位未満切捨て)、0.50が下限です。

国税庁の設例:総地積400㎡のうち区域内300㎡(0.75→0.70)、南向きのがけ地200㎡(0.50→0.82)
0.70×0.82=0.574→0.57 評価額=100,000円×1.00×0.57×400㎡=22,800,000円

対象は、課税時期に指定されている特別警戒区域だけです。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は対象外で、倍率地域の宅地も対象外です。

容積率の異なる地域にまたがる宅地と都市計画道路予定地

1つの宅地が容積率の違う2つ以上の地域にまたがる場合は、容積率の差に応じた控除割合で減額します。控除割合には、地区ごとの「影響度」が掛かります。影響度は高度商業・繁華街地区0.8、普通商業・併用住宅地区0.5、普通住宅地区0.1です。普通住宅地区は影響度が小さいため、減額もわずかです。

容積率は、都市計画で定める指定容積率と、前面道路の幅で決まる基準容積率のうち小さい方を使います。正面路線側の容積率の方が低いなど、控除割合がマイナスになる場合は減額しません。

都市計画道路の予定地を含む宅地は、予定地がないとした価額に補正率を掛けます。補正率は地区区分・容積率・予定地部分の割合で決まり、0.50〜0.99の範囲です。普通住宅地区では0.80〜0.99で、容積率が高いほど、予定地部分の割合が大きいほど低くなります。

私道とセットバック

行き止まりの私道のように、特定の人だけが通る私道は、私道でないとした価額の30%で評価します。一方、不特定多数の人が通る私道は評価しません(0円)。

30%で評価する私道

  • 行き止まりで、沿道の住民など特定の人だけが通る私道
  • 倍率地域では、私道でないとした固定資産税評価額×倍率×30%

評価しない私道(0円)

  • 公道から公道へ通り抜けできる私道
  • 行き止まりでも、集会所・公園・商店街などへ不特定多数の人が出入りする私道
  • 一部がバスの転回場・停留所になっている私道

どちらに当たるかは、幅員の大小ではなく、ある程度の公共性があるかで判断します。自宅への通路として自分だけが使う路地状の部分は私道ではなく、宅地と一体で1画地として評価します。

幅4m未満の道路(建築基準法42条2項の道路)に面した宅地は、建替えのときに道路として土地を提供する必要があります。原則として、道路の中心線から2m後退した線が道路境界線とみなされます。この提供部分をセットバック部分といい、その部分の評価額の70%を差し引きます。

計算例3:セットバックが必要な宅地

前提:幅員3mの道路に間口12mで面する宅地150㎡。セットバックしないとした評価額は3,000万円です。道路中心線から2m下がるため、0.5m×12m=6㎡を道路として提供します。

控除額=3,000万円×(6㎡÷150㎡)×0.7=84万円
評価額=3,000万円−84万円=2,916万円

答え:評価額は2,916万円です。減るのは提供部分6㎡(120万円相当)の70%だけで、土地全体が30%減るわけではありません。

利用価値が著しく低下している宅地と、補正をかける順番

付近の宅地に比べて利用価値が著しく低い宅地は、低下している部分の面積に対応する価額の10%を差し引けます。国税庁のタックスアンサーが示す取扱いで、通達の条文ではありません。

  • 道路より著しく高い・低い位置にあり、付近の宅地に比べて高低差が著しい宅地
  • 地盤に甚だしい凹凸がある宅地、震動が甚だしい宅地
  • 騒音、日照阻害(建築基準法の日影時間を超えるもの)、臭気、忌みなどで、取引金額に影響があると認められる宅地

ただし、路線価や固定資産税評価額、倍率がその事情を考慮して付けられている場合は使えません。付近の宅地も同じ程度の高低差があるなら、「著しい」とはいえません。

複数の補正がある土地は、評価明細書の順に計算します。順番を間違えると評価額が変わります。

  1. 奥行価格補正・路線の加算路線価×奥行価格補正率に、側方・二方路線の加算をします。
  2. 形状の補正間口狭小・奥行長大の補正、または不整形地補正(どちらか一方)。
  3. 規模・接道・災害規模格差補正(地積規模の大きな宅地)→無道路地→がけ地または特別警戒区域。
  4. 容積率・私道容積率による減額→私道(30%)。ここまでの1㎡当たり価額に地積を掛けます。
  5. 道路関係の減額セットバック→都市計画道路予定地。
  6. 利用区分貸家建付地・貸宅地・借地権などの評価(貸家建付地・借地権・貸宅地・使用貸借)。

10%の減額は評価明細書に専用の欄がないため、備考欄などで計算します。不整形地補正やセットバックを含む路線価方式の計算は、路線価の見方と基本の計算の計算ツールで試算できます。

よくある誤り

  • 「セットバックで土地全体が30%減る」は誤りです。減額されるのは道路として提供する部分だけで、その部分の評価額の70%を差し引きます。
  • 通り抜けできる私道を30%で評価してしまう誤りがあります。不特定多数の人が通る私道は0円です。逆に、行き止まりの私道を0円にもできません。
  • 市町村の固定資産税の「画地計算法」の補正率を使ってしまう誤りがあります。相続税・贈与税は、財産評価基本通達の付表の率を使います。
  • 土砂災害の補正を、倍率地域の宅地やイエローゾーンに使うことはできません。

他の税金・特例とのつながり

  • 小規模宅地等の特例の減額(80%・50%)は、この章の補正をした後の評価額をもとに計算します(小規模宅地等の特例の全体像)。
  • 自宅の維持に欠かせない私道の共有持分も、小規模宅地等の特例の対象になり得ます(誤りやすい論点と事例)。
  • 相続した土地を売ったときの取得費加算は、その土地が課税価格に算入された額(補正や特例の後の額)を使います(相続税の取得費加算の特例)。
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 不整形地:評基通20、付表4(地積区分表)、付表5(不整形地補正率表)。付表5注3=間口狭小補正率の適用がある場合は付表5の率×間口狭小補正率(下限0.60)、奥行長大補正率の適用がある場合は選択により間口狭小補正率×奥行長大補正率。注4=大工場地区は原則として補正せず、地積おおむね9,000㎡程度までは中小工場地区の区分で補正可。ビル街地区は付表4・5に掲げられていません。付表5の列は「高度商業・繁華街・普通商業・併用住宅・中小工場地区」と「普通住宅地区」の2グループです。
  • 無道路地:評基通20-3(注1=接道義務を満たしていない宅地を含む、注2=付表5注3の計算は接道義務に基づく最小限度の間口距離で間口狭小補正率を適用)。評価明細書7欄の割合=(正面路線価×通路部分の地積)÷(F又はGの1㎡当たり価額×評価対象地の地積)、上限0.4。割合の端数処理の定めはありません。
  • がけ地:評基通20-5、付表8(注1=方位は斜面の向き、注2=2方位以上はがけ地全体の割合で各方位の率を引き地積で加重平均、注3=表にない方位は平均可)。特別警戒区域:評基通20-6、付表9(平成30年12月10日付課評2-49ほか)。がけ地補正との併用時は積を小数点以下2位未満切捨て・下限0.50とし、評価明細書は8-1欄ではなく8-2欄で計算します。市街地農地・市街地山林・市街地原野、宅地比準の雑種地にも準用されます。
  • 容積率:評基通20-7。控除割合は小数点以下第3位未満を四捨五入(注1)、負数なら適用しない(注2)、正面路線の価額が他の路線の価額を下回る場合は最も高い価額となる路線を正面路線とみなし地区区分もその路線による(注3)。容積率は指定容積率と基準容積率(建築基準法52条2項)の小さい方で、特定道路による緩和等は考慮しません(質疑応答事例)。影響度の表にビル街・中小工場・大工場地区は掲げられていません。
  • 私道:評基通24。セットバック:評基通24-6(控除額=価額×提供部分の地積÷総地積×0.7)。都市計画道路予定地:評基通24-7。利用価値の低下:タックスアンサーNo.4617。宅地比準で評価する農地・山林を宅地転用する場合で、造成費を考慮してもなお著しく低下している部分も同様です。

実務論点

  • 評価明細書(平成31年1月分以降用)の欄順:A(奥行価格補正)→B〜D(側方・二方加算)→E(間口狭小・奥行長大)又はF(不整形地)→G(規模格差)→H(無道路地)→I(がけ地)又はJ(特別警戒区域)→K(容積率)→L(私道)→M(自用地の評価額)。第2表でN(セットバック)・O(都市計画道路予定地)。EとFは重複適用できません。
  • 端数処理:不整形地補正率(付表5の率×間口狭小補正率)と特別警戒区域補正率×がけ地補正率は小数点以下2位未満切捨て、容積率の控除割合は小数点以下第3位未満四捨五入。1㎡当たり価額の円未満の処理は、同様式に指示がありません。
  • 不整形地補正率の比較例:普通住宅地区A・かげ地割合35%(0.88)、間口5m(0.94)、奥行÷間口=4(0.94)なら、0.88×0.94=0.8272→0.82と、0.94×0.94=0.8836を比べて0.82を使います。かげ地割合65%以上のA(0.60)に間口狭小0.90を掛けると0.54ですが、下限の0.60を使います。
  • 容積率の国税庁設例:600,000円×1.00−600,000円×1.00×0.167=499,800円が、裏面路線の500,000円×1.00=500,000円を下回るため、減額せず裏面路線を正面路線とみなします。正面路線に接する部分の容積率が2以上でも、それと異なる容積率の部分がなければ減額しません。
  • 都市計画道路予定地の補正率表は、列と容積率区分の対応を通達24-7の原表で確認して使ってください。
  • 無道路地や帯状地を生じさせる不合理な分割は、分割前の画地を1画地として評価します(土地評価の全体像)。
第6章

地積規模の大きな宅地

面積の大きい宅地は、「規模格差補正率」を掛けて評価額を下げられます。札幌市を含む北海道では、1,000㎡以上が面積の基準です。

この章の結論

  • 三大都市圏では500㎡以上、それ以外(札幌市を含む北海道全域)では1,000㎡以上の宅地が対象です。路線価地域では、普通住宅地区か普通商業・併用住宅地区にあることも必要です。
  • 市街化調整区域(一部の区域を除く)、工業専用地域、指定容積率400%以上(東京都の特別区は300%以上)の地域、大規模工場用地は対象外です。
  • 規模格差補正率=(地積×Ⓑ+Ⓒ)÷地積×0.8で、小数点以下2位未満は切り捨てます。札幌市内の1,500㎡なら0.77となり、評価額は23%下がります。

どんな制度か:広い宅地の評価額を補正率で下げる

地積規模の大きな宅地の評価は、面積が一定以上の宅地について、通常の路線価方式の計算に規模格差補正率を掛ける仕組みです施行中。2018年(平成30年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用されています。

同じ時期に、それまでの「広大地の評価」は廃止されました。2017年(平成29年)12月31日までの相続等に使われた旧制度とは要件も計算方法も異なるため、混同しないよう注意が必要です。

規模格差補正率は、三大都市圏以外なら1,000㎡で0.80(20%減)、10,000㎡で0.68(32%減)です。面積が大きいほど補正率は低くなります。

適用要件:面積・地区・除外の確認

面積要件は、三大都市圏で500㎡以上、それ以外の地域で1,000㎡以上です。面積は登記簿の地積ではなく、課税時期の実際の面積で判定します。土地を評価する単位(1画地)ごとの面積で見る点にも注意が必要です(土地評価の全体像)。

路線価地域では、普通住宅地区または普通商業・併用住宅地区にあることが必要です。ビル街・高度商業・繁華街・中小工場・大工場地区の宅地は対象外です。正面路線が2つ以上の地区にまたがるときは、宅地の過半が属する地区で判定します。倍率地域には地区の要件がありません。

適用要件チェックリスト(すべて満たせば対象)

  • 宅地の実際の面積が、三大都市圏なら500㎡以上、それ以外なら1,000㎡以上ある
  • 路線価地域なら、普通住宅地区か普通商業・併用住宅地区にある(倍率地域はこの要件なし)
  • 市街化調整区域にない(都市計画法34条10号・11号の区域で、宅地分譲の開発ができる場合を除く)
  • 工業専用地域にない(またがる場合は過半で判定)
  • 指定容積率が400%未満(東京都の特別区は300%未満)である
  • 大規模工場用地に当たらない

容積率は、都市計画で定める指定容積率で判定します。前面道路の幅で決まる基準容積率ではありません。指定容積率が2つ以上にまたがる宅地は、面積で加重平均した容積率で判定します。

共有地は、持分に応じた面積ではなく、共有地全体の面積で判定するとされています(国税庁の質疑応答事例。詳しくは税務署等で確認してください)。

札幌市・北海道は「三大都市圏以外」:1,000㎡が基準

三大都市圏は、首都圏整備法・近畿圏整備法・中部圏開発整備法で指定された一部の区域です。北海道は含まれません。そのため、札幌市を含む北海道内の宅地は1,000㎡以上が面積要件で、補正率の計算にも「三大都市圏以外」の数値を使います。

札幌市内でも、次の宅地は対象外です。市街化調整区域(上の一部の区域を除く)、工業専用地域、札幌都心部の商業地域など指定容積率400%以上の地域、ビル街・高度商業・繁華街・中小工場・大工場地区の宅地です。

実務のコツ:1,000㎡の境目は実測で確認

札幌市で1,000㎡ちょうどの宅地は補正率0.80(20%減)ですが、999㎡なら補正はありません。面積は実際の面積で判定するため、登記簿の地積が1,000㎡に少し足りない土地は、測量図などで実際の面積を確かめる価値があります。北海道の土地評価の注意点は北海道の土地の評価で注意する点にまとめています。

規模格差補正率の計算

規模格差補正率=(Ⓐ×Ⓑ+Ⓒ)÷Ⓐ×0.8
Ⓐ=地積(㎡)。小数点以下2位未満を切り捨てます。

規模格差補正率のⒷとⒸ(普通商業・併用住宅地区と普通住宅地区で共通)
地積三大都市圏 Ⓑ三大都市圏 Ⓒ三大都市圏以外 Ⓑ三大都市圏以外 Ⓒ
500㎡以上1,000㎡未満0.9525適用なし適用なし
1,000㎡以上3,000㎡未満0.90750.90100
3,000㎡以上5,000㎡未満0.852250.85250
5,000㎡以上0.804750.80500
規模格差補正率の早見表(算式どおりに計算し、2位未満切捨て)
地積三大都市圏以外(札幌市など)三大都市圏
500㎡対象外0.80
750㎡対象外0.78
1,000㎡0.800.78
1,500㎡0.770.76
2,000㎡0.760.75
3,000㎡0.740.74
5,000㎡0.720.71
10,000㎡0.680.67

端数は四捨五入ではなく切捨てです。たとえば三大都市圏以外の3,000㎡は(3,000×0.85+250)÷3,000×0.8=0.7466…で、四捨五入なら0.75ですが、切り捨てて0.74になります。

計算例:札幌市内の1,500㎡の宅地

計算例:札幌市内(三大都市圏以外)・普通住宅地区・1,500㎡

前提:市街化区域内で、指定容積率は400%未満、工業専用地域ではありません。正面路線価80,000円、間口37.5m×奥行40m=1,500㎡の長方形の宅地です。

計算の手順
手順計算結果
①規模格差補正率(1,500×0.90+100)÷1,500×0.8=0.7733…0.77
②奥行価格補正率普通住宅地区・40m以上44m未満0.91
③1㎡当たりの価額80,000円×0.91×0.7756,056円
④評価額56,056円×1,500㎡84,084,000円

間口37.5mなので間口狭小補正はなく、奥行÷間口は約1.07で奥行長大補正もありません。規模格差補正がなければ、80,000円×0.91×1,500㎡=1億920万円です。

答え:評価額は8,408万4,000円で、補正がない場合より2,511万6,000円(23%)低くなります。

同じ土地が三大都市圏にあれば、(1,500×0.90+75)÷1,500×0.8=0.76となり、補正率は少し低くなります。

他の補正との併用・倍率地域・農地や山林

路線価地域では、路線価×奥行価格補正率×各種の画地補正率×規模格差補正率×地積で評価します。不整形地・無道路地・セットバックなどの補正は、通常どおり併用できます(不整形地・無道路地・がけ地・セットバック・私道)。間口狭小・奥行長大の補正がある場合も、さらに規模格差補正率を掛けます。

倍率地域では、次の2つのうち低い方で評価します。

  • 固定資産税評価額×倍率
  • 近くの標準的な宅地の固定資産税評価額×倍率を路線価とみなし、普通住宅地区の画地補正率と規模格差補正率を適用した価額

市街地農地・市街地周辺農地・市街地山林・市街地原野と、宅地に状況が似ている雑種地にも適用があります。宅地であるとした場合に要件を満たすことが条件で、宅地への転用が見込めない土地は対象外です。規模格差補正率には造成費が含まれないため、補正後に宅地造成費を別に差し引きます。

国税庁の設例(三大都市圏以外・普通住宅地区・畑1,500㎡・路線価100,000円・奥行価格補正率0.89・整地費600円/㎡)
1㎡当たり=100,000円×0.89×0.77−600円=67,930円 評価額=67,930円×1,500㎡=101,895,000円

農地や山林の評価の全体は農地・山林・原野・雑種地と北海道の注意点で説明します。

アパートが2棟建っている1,600㎡の土地(札幌市)も対象になりますか?

貸家が何棟もある土地は、原則として各棟の敷地ごとに評価単位(1画地)が分かれます。800㎡ずつに分かれるなら、どちらも1,000㎡未満で対象外です。対象になる場合は、規模格差補正をした自用地の評価額をもとに貸家建付地の評価をします(貸家建付地・借地権・貸宅地・使用貸借)。

遺産分割で土地を2人で分けると、面積の判定はどうなりますか?

分けて取得した後の土地ごとに評価単位を判定するため、1,000㎡を下回れば対象外になることがあります。ただし、通常の用途に使えない土地を生むような著しく不合理な分割は、分割前の土地全体を1画地として評価します(土地評価の全体像)。

自宅の敷地は登記簿では980㎡ですが、対象になる余地はありますか?

面積は課税時期の実際の面積で判定します。実測で1,000㎡以上あり、他の要件も満たせば対象です。逆に、登記簿が1,000㎡以上でも実測が下回れば対象外です。

よくある誤り

  • 札幌市の宅地を三大都市圏と同じ500㎡基準で判定してしまう誤りがあります。北海道は1,000㎡以上が基準で、ⒷⒸも「三大都市圏以外」の欄を使います。
  • 規模格差補正率を四捨五入してしまう誤りがあります。小数点以下2位未満は切捨てです。
  • 容積率を基準容積率で判定してしまう誤りがあります。判定に使うのは指定容積率です。共有地も、持分に応じた面積ではなく全体の面積で判定するとされています。
  • 2017年までの「広大地の評価」と混同する誤りがあります。現行制度は、この章の面積・地区・除外の要件で判定します。

他の税金・特例とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評基通20-2(地積規模の大きな宅地の評価)。三大都市圏=首都圏整備法の既成市街地・近郊整備地帯、近畿圏整備法の既成都市区域・近郊整備区域、中部圏開発整備法の都市整備区域。倍率地域は評基通21-2、大規模工場用地は22-2、市街地周辺農地・市街地農地は39・40、市街地山林は49、市街地原野は58-3。
  • 規模格差補正率のⒷⒸは普通商業・併用住宅地区と普通住宅地区で共通。小数点以下第2位未満切捨て(評基通20-2、評価明細書6欄も同じ)。
  • 適用時期:平成30年1月1日以後の相続・遺贈・贈与(同時に広大地の評価を廃止)。国税庁の解説(平成29年10月資産評価企画官情報)、タックスアンサーNo.4609、適用要件チェックシート。

実務論点

  • 指定容積率(建築基準法52条1項)で判定し、基準容積率は使いません。複数の指定容積率にわたる場合は面積加重平均。正面路線が2以上の地区にわたる場合は宅地の過半が属する地区で判定し(質疑応答事例 計算例④)、用途地域が2以上にわたる場合も過半で判定します。
  • 市街化調整区域は、都市計画法34条10号・11号により宅地分譲の開発行為ができる区域を除きます。その区域でも、開発の内容が宅地分譲に当たらない場合は対象外です。
  • 共有地の地積規模は、共有持分ではなく共有地全体の地積で判定するとされています(質疑応答事例「共有地の場合の地積規模の判定」)。
  • 国税庁の計算例(三大都市圏・普通住宅地区・路線価300,000円・奥行30m・600㎡):300,000円×0.95=285,000円、規模格差補正率0.79、285,000円×0.79=225,150円、×600㎡=135,090,000円。
  • 切捨ての影響:三大都市圏以外の1,000㎡は(1,000×0.90+100)÷1,000×0.8=0.80ですが、1,001㎡は0.7999…となり0.79です。
  • 倍率地域は、固定資産税評価額×倍率と、近傍標準宅地の価額を路線価とみなして普通住宅地区の画地補正率と規模格差補正率を適用した価額の低い方(質疑応答事例 計算例⑤)。
  • 市街地農地等は、規模格差補正率に造成費相当が含まれないため、補正後の1㎡当たり価額から宅地造成費を控除します。
第7章

貸家建付地・借地権・貸宅地・使用貸借

土地を人に貸していたり、土地の上のアパートを貸していたりすると、土地の評価額は「自用地としての価額」から他人の権利の分を差し引いて計算します。逆に、家族に無償で貸している土地は、原則として減額されません。

この章の結論

  • 出発点は「自用地としての価額」です。借地権=自用地×借地権割合、貸宅地(底地)=自用地×(1−借地権割合)、貸家建付地=自用地×(1−借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)で評価します。
  • 借地権割合60%の地域でアパートが満室なら、敷地は18%減です(1億円→8,200万円)。一時的な空室は賃貸中として扱えますが、全室空室や入居前の新築の敷地は自用地のままです。
  • 親の土地に子が無償(使用貸借)で家を建てても借地権は生じず、土地は親の自用地として評価します。会社に貸す土地は、相当の地代や無償返還の届出の有無で評価が変わります。

評価の出発点は「自用地としての価額」

自用地としての価額は、所有者が自分で使っているとした場合の評価額です。路線価方式や倍率方式で計算した額で、前の章までの補正もすべて含みます。土地を貸していると、ここから借地人や借家人の権利の分を差し引きます。

自用地としての価額1億円・借地権割合60%の土地の評価(利用状況別)
利用状況評価の区分と算式評価額
所有者が自宅として使っている自用地:1億円1億円
所有者がアパートを建てて貸している(満室)貸家建付地:1億円×(1−0.6×0.3×100%)8,200万円
他人に貸し、借地人が家を建てている貸宅地(底地):1億円×(1−0.6)4,000万円
上の土地を借りて家を建てている借地人の権利借地権:1億円×0.66,000万円
子に無償で貸し、子が家を建てている使用貸借:自用地のまま1億円
同族会社に貸し、無償返還の届出がある(地代あり)自用地×80%8,000万円

借地権割合は、路線価図の記号で示されます。A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%です。倍率地域では、評価倍率表に割合が載っています(土地評価の全体像)。

借地権と貸宅地(底地)

借地権は、建物を建てるために他人の土地を借りる権利です。普通借地権・旧法の借地権は、自用地としての価額×借地権割合で評価し、借地人の相続財産になります。土地の所有者側の貸宅地(底地)は、自用地としての価額から借地権の価額を差し引いて評価します。

借地権を設定するときに権利金を払う慣行がないと認められる地域では、借地権は評価しません。その場合でも、貸宅地は借地権割合を20%として差し引きます(自用地の80%)。国税局長が貸宅地割合を定めている地域では、その割合によります。

定期借地権の目的となっている宅地は、自用地としての価額から定期借地権の価額を差し引きます。ただし、差し引く額が次の割合の額より少ないときは、その割合の額を差し引きます。

定期借地権の目的となっている宅地で差し引く最低限の割合
定期借地権の残存期間自用地としての価額に対する割合
5年以下5%
5年超10年以下10%
10年超15年以下15%
15年超20%

たとえば自用地1億円、残存期間12年、定期借地権の価額が800万円なら、15%の1,500万円を差し引いて8,500万円になります。一般定期借地権の底地には、課税上の弊害がなければ、底地割合を使う別の評価方法も認められています。

借りた土地の上のアパートを貸している場合の借地権(貸家建付借地権)も、貸家建付地と同じ考え方で借家人の権利の分を差し引きます。借地権を第三者に又貸ししている場合(転貸借地権)は、借地権の価額から転借権の価額を差し引きます。

貸家建付地:借地権割合×借家権割合×賃貸割合を差し引く

所有者が自分の土地にアパートや貸家を建てて貸している場合、その敷地を貸家建付地といいます。借家人は建物を通じて土地も利用しているため、その分を差し引きます。

貸家建付地の評価額=自用地としての価額−自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

借家権割合は30%です。札幌国税局の令和8年分の財産評価基準書でも30%で、他の国税局も30%とされています。

賃貸割合は、建物の各独立部分の床面積の合計のうち、課税時期に賃貸されている部分の床面積の割合です。独立部分とは、壁や扉、天井・床で他と完全に区切られ、独立した出入口がある部分をいいます。共用の廊下や階段を通って出入りする部屋も独立部分です。ふすまやベニヤ板の仕切りでは、独立部分になりません。

計算例:アパートの敷地(貸家建付地)

前提:自用地としての価額1億円、借地権割合60%(記号D)、借家権割合30%。アパートは同じ広さの10室で、賃貸割合は床面積で計算します(各室が同じ広さなので室数の比と同じ)。

入居の状況による違い
入居の状況差し引く額評価額
満室(空室が一時的な場合を含む)1億円×0.6×0.3×100%=1,800万円8,200万円
2室が長く空室で、募集もしていない1億円×0.6×0.3×80%=1,440万円8,560万円

答え:満室なら8,200万円(18%減)、一時的とはいえない空室が2室あれば8,560万円です。空室の扱いだけで360万円違います。

満室の貸家建付地の減額割合(借地権割合×30%)
路線価図の記号借地権割合減額割合
A90%27%
B80%24%
C70%21%
D60%18%
E50%15%
F40%12%
G30%9%

建物(貸家)も、固定資産税評価額から借家権割合×賃貸割合の分を差し引いて評価します(家屋・構築物の評価)。

2027年(令和9年)からの見直し(通達案)

課税時期前5年以内に対価を払って取得・新築した貸付用不動産を、通常の取引価額で評価する通達案が公表されています通達案。2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される予定です。案は2026年(令和8年)9月18日に公表され、意見募集の締切は10月18日です。2026年10月時点で通達は制定されていません。

対象になると、貸家建付地の減額は重ねて使えないと解されています。詳しくは2027年からの貸付用不動産・小口化商品の評価見直しを見てください。

空室があるとき:賃貸割合と一時的な空室

課税時期にたまたま空いていた部屋が一時的な空室にすぎないなら、賃貸されているものとして扱えます。一時的かどうかは、次の点を総合して判断します。

一時的な空室かどうかの判断要素

  • 課税時期より前から、継続して賃貸されてきた部屋か
  • 前の入居者の退去後、すぐに新しい入居者を募集したか
  • 空室の間に、他の用途に使っていないか
  • 空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度など一時的な期間か
  • 課税時期の後の賃貸が、一時的なものではないか

「1か月程度」はあくまで例示で、超えたらすぐ認められないという基準ではありません。一方、全室が空いていて借家人がいない貸家の敷地は、貸家建付地ではなく自用地として評価します。賃貸するために新築しても、課税時期にまだ貸していなければ同じく自用地です。借地借家法の適用がない従業員社宅の敷地も、自用地として評価します。

なお、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)にも空室の判定がありますが、根拠も基準も評価とは別です。特例では、いつでも入居できる状態で募集を続けているかが問われます(貸付事業用宅地等)。

使用貸借:親の土地に子が家を建てた場合

使用貸借は、土地を無償で貸すことです。固定資産税などの公租公課に相当する額以下のお金を受け取っている場合も、使用貸借に当たります。権利金や、地代の代わりになる経済的な利益を受け取っている場合は当たりません。

建物を建てるための使用貸借による土地の使用権は、価額を零とします。そのため、子が親の土地を無償で借りて家を建てても、借地権相当額の贈与税はかかりません。

その後に親が亡くなり、子が土地を相続した場合は、土地は自用地として評価します。子の建物がアパートで他人に貸していても、土地は貸家建付地になりません。建物の方は、自用か貸付けかに応じて評価します。

反対に、借地人の子などが底地を取得して地代を払わなくなると、借地権の贈与があったものとして扱われます。「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を出せば、課税されません。借地人の子が親の借地権を無償で使って家を建てる場合は、「借地権の使用貸借に関する確認書」で使用貸借であることを確認します。

相当の地代と土地の無償返還に関する届出書

権利金を払う慣行のある地域で、権利金の代わりに相当の地代を払う方法があります。相当の地代は、土地の自用地としての価額のおおむね年6%程度です。自用地としての価額は、設定や相続などの年以前3年間の平均額を使います。

会社と個人の間でよく使われるのが、土地の無償返還に関する届出書です。将来、借地人が土地を無償で返すことを届け出るもので、評価は次のようになります。

相当の地代・無償返還の届出がある場合の評価
貸し方借地人の借地権所有者の土地
相当の地代を払っている(権利金などなし)零自用地×80%
無償返還の届出あり(地代を払う賃貸借)零自用地×80%
無償返還の届出あり(無償の使用貸借)零自用地×100%

実際の地代が相当の地代に満たない場合は、借地人が地主から利益の贈与を受けたものとして借地権を計算します。また、被相続人が同族会社に土地を貸していて自用地の80%で評価したときは、残りの20%相当額をその会社の株式の評価(純資産価額)に含めます。個人と会社を通じて、土地の価額が100%反映されるようにする趣旨です。

よくある誤り

  • 貸家建付地を「30%減」と計算してしまう誤りがあります。減額は借地権割合×30%×賃貸割合で、借地権割合60%・満室なら18%減です。
  • 全室空室のアパートや、完成直後で入居前の貸家の敷地を、貸家建付地として評価してしまう誤りがあります。どちらも自用地です。
  • 親の土地に子がアパートを建てて貸している(使用貸借)のに、親の土地を貸家建付地や貸宅地として評価してしまう誤りがあります。土地は自用地です。
  • 使用貸借の土地について「借地権を差し引く」と考えてしまう誤りがあります。使用借権の価額は零で、差し引くものはありません。

他の税金・特例とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 貸宅地:評基通25。(1)借地権の目的となっている宅地=自用地としての価額−借地権の価額(借地権の取引慣行がないと認められる地域は借地権割合20%として控除)。(2)定期借地権等の目的となっている宅地=自用地としての価額−定期借地権等の価額。ただし控除額が残存期間に応じた割合(5年以下5%、5年超10年以下10%、10年超15年以下15%、15年超20%)の額を下回る場合はその額を控除。
  • 貸家建付地:評基通26。借家権割合30%は国税局長が定める割合(札幌国税局の令和8年分財産評価基準書で確認)。
  • 借地権:評基通27(ただし書=取引慣行がないと認められる地域の借地権は評価しない)。定期借地権等:評基通27-2・27-3。原則は課税時期に借地権者に帰属する経済的利益と存続期間を基に評定し、課税上弊害がなければ、設定時の経済的利益の総額の割合と、残存期間・設定期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率の比を自用地価額に乗じる方法によります(経済的利益は権利金等、保証金等の運用益相当額、差額地代の現在価値)。
  • 貸家建付借地権・転貸借地権・転借権・借家人の有する宅地等に対する権利:評基通28〜31。転貸借地権は借地権の価額−転借権の価額(29)、借家人の権利は権利金等の名称で取引される慣行のない地域では評価しない(31)。
  • 一般定期借地権の目的となっている宅地:平成10年8月25日付課評2-8ほか。底地割合はC地域55%、D60%、E65%、F70%、G75%。A・B地域と借地権の取引慣行がない地域は対象外(評基通25(2)で評価)。借地権者が設定者の親族・同族会社等の場合は課税上弊害があるとして適用されません。
  • 使用貸借:昭和48年11月1日付直資2-189ほか「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」施行中。令和8年8月31日付課資2-14で一部改正されていますが、趣旨は国税システムの更改に伴う所要の整備とされ、使用借権を零とする取扱いが変わったとの公表は確認できません。
  • 相当の地代・無償返還:昭和60年6月5日付課資2-58ほか「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」、昭和43年10月28日付直資3-22「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(20%相当額の純資産価額への算入)。相当の地代を収受している貸宅地で権利金等がある場合は、自用地価額−借地権価額(上限は自用地の80%)。

実務論点

  • 評価単位:自用地と貸家建付地は別の評価単位です。貸家が数棟あれば、原則として各棟の敷地ごとに1画地。使用貸借の使用借権は他者の権利として扱わず、自己所有地の一部を使用貸借で貸していても全体を自用地として1画地とします。
  • 一時的な空室は、質疑応答事例の5つの判断要素で総合判断します。評価の賃貸割合(評基通26)と、小規模宅地等の特例の貸付事業用の判定(措通69の4-24の2)は根拠が別です。
  • 居住用の区分所有財産(マンション)は、区分所有補正率を適用した後の価額を自用地・自用家屋の価額とみなして貸家建付地・貸家の評価をします。国税庁Q&A問7:自用地価額7,325,100円(4,500,000円×1.6278)→貸家建付地6,006,582円(×(1−0.6×0.3))。敷地利用権が借地権のときは、補正後の自用地価額×借地権割合(問8)。
  • 相当の地代に満たない地代の場合の借地権価額は、自用地価額・借地権割合・実際の地代・相当の地代を用いて相当の地代通達の算式で計算します。
第8章

家屋・構築物の評価

家屋は、原則として固定資産税評価額をそのまま評価額とします。貸家、建築中の家屋、増改築した家屋、門・塀や庭、構築物には、それぞれ別の調整があります。

この章の結論

  • 自分で使う家屋は「固定資産税評価額×1.0」です。評価は原則1棟ごとで、電気・ガス・給排水など家屋と一体の設備は家屋に含めます。
  • 貸家は固定資産税評価額×(1−借家権割合30%×賃貸割合)で、満室なら30%減です。全室空室の貸家は自用の家屋として評価します。
  • 建築中の家屋は費用現価の70%、門・塀や構築物は(再建築価額−償却費)×70%、庭園設備は調達価額の70%です。増改築が固定資産税評価額に反映されていなければ、増改築部分を加えます。

家屋の基本:固定資産税評価額×1.0

自分で住んだり使ったりしている家屋(自用家屋)は、固定資産税評価額に1.0を掛けた額で評価します。札幌国税局の令和8年分の財産評価基準書でも、倍率は1.0です。建築費や購入価格ではありません。

評価の単位は、原則として1棟ごとです。電気・ガス・衛生・給排水・温湿度調整(冷暖房など)・消火・昇降機などの設備は、家屋と構造上一体のものとして家屋の価額に含め、別に評価しません。ネオンサインや投光器などは家屋に含めません。

家屋・構築物の評価方法の一覧
区分評価方法
自用家屋固定資産税評価額×1.0
貸家自用家屋の価額×(1−借家権割合30%×賃貸割合)
建築中の家屋費用現価×70%
増改築が固定資産税評価額に反映されていない家屋増改築部分以外の固定資産税評価額+増改築部分の価額
門・塀・外井戸など(再建築価額−償却費の合計額又は減価の額)×70%(定率法)
庭園設備(庭木・庭石・あずまや・庭池など)調達価額×70%
構築物(アスファルト舗装の駐車場など)(再建築価額−償却費の合計額又は減価の額)×70%(定率法)

マンションの家屋部分は、固定資産税評価額に区分所有補正率を掛けて評価します(マンションの評価)。配偶者居住権の評価でも、この章の家屋の評価額が計算のもとになります(配偶者居住権の評価)。

実務のコツ:固定資産税評価額の確かめ方

家屋の固定資産税評価額は、市町村の固定資産評価証明書や名寄帳で確認します。使うのは、課税時期(相続なら亡くなった日)の年の1月1日を賦課期日(固定資産税の課税の基準日)とする年度の評価額です。2026年(令和8年)中の相続なら、1月〜3月に亡くなった場合も令和8年度の評価額を使います。

札幌市の評価証明書は1通450円で、区を担当する市税事務所か、市役所本庁舎2階の税の証明窓口で取れます(区役所では取れません)。名寄帳は無料で、不動産がある市町村ごとに取ります(札幌の相続の窓口)。

貸家:借家権割合×賃貸割合を差し引く

アパートや貸家として人に貸している家屋は、借家人の権利の分を差し引いて評価します。

貸家の評価額=自用家屋の価額×(1−借家権割合×賃貸割合)

借家権割合は30%で、賃貸割合は床面積のうち課税時期に貸している部分の割合です。満室なら30%減になります。一時的な空室の扱いは、敷地の貸家建付地と同じです(貸家建付地・借地権・貸宅地・使用貸借)。全室が空いている貸家は、自用家屋として評価します。

計算例1:固定資産税評価額2,000万円のアパート

満室:2,000万円×(1−0.3×100%)=1,400万円
賃貸割合80%:2,000万円×(1−0.3×80%)=1,520万円

答え:満室なら1,400万円、賃貸割合80%なら1,520万円です。自用なら2,000万円のままです。

借家人が持つ借家権は、家屋の価額×借家権割合×賃借割合で評価します。ただし、権利金などの名称で借家権が取引される慣行のない地域では評価しません。

2027年(令和9年)からの見直し(通達案)

課税時期前5年以内に対価を払って取得・新築した貸付用の家屋は、通常の取引価額で評価する通達案が公表されています通達案。2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される予定で、2026年10月時点で通達は制定されていません。案では、一定の場合に、取得価額から定額法の償却費を差し引いた額の80%で評価する方法も選べます。詳しくは2027年からの貸付用不動産・小口化商品の評価見直しを見てください。

建築中の家屋と、増改築が反映されていない家屋

課税時期に建築中の家屋は、まだ固定資産税評価額がありません。そこで、費用現価の70%で評価します。費用現価とは、課税時期までに投じた建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計です。たとえば費用現価が1,800万円なら、評価額は1,260万円です。

増改築をしたのに、固定資産税評価額がまだ見直されていない家屋もあります。この場合は、増改築部分以外の固定資産税評価額に、増改築部分の価額を加えます。増改築部分は、原則として付近の似た家屋の固定資産税評価額をもとに、構造・経過年数・用途などの違いを考えて評価します。似た家屋がない場合は、次の算式によります。

増改築部分の価額=(再建築価額−償却費相当額)×70%
償却費相当額=(再建築価額−再建築価額×0.1)×経過年数÷耐用年数

耐用年数は税法の耐用年数省令によります。経過年数は増改築の時から課税時期までで、1年未満の端数は1年とします。課税時期から申告期限までに、課税時期の状況に応じた固定資産税評価額が付けられた場合は、その額を使います。

計算例2:増築部分が固定資産税評価額に反映されていない自宅

前提:増築部分以外の固定資産税評価額600万円。増築部分は木造の住宅用(耐用年数22年)で、再建築価額440万円。増築から課税時期まで4年3か月(端数を切り上げて5年)。付近に似た家屋はないものとします。

償却費相当額=(440万円−440万円×0.1)×5年÷22年=90万円
増築部分の価額=(440万円−90万円)×70%=245万円
家屋の評価額=600万円+245万円=845万円

答え:家屋の評価額は845万円です。固定資産税評価額600万円だけで申告すると、245万円の計上漏れになります。

門・塀・庭園設備と構築物

門・塀・外井戸・屋外のごみ処理設備などの附属設備は、再建築価額から建築時から課税時期までの償却費の合計額(または減価の額)を差し引き、その70%で評価します。償却は定率法で、耐用年数は耐用年数省令によります。

庭木・庭石・あずまや・庭池などの庭園設備は、調達価額の70%で評価します。たとえば調達価額が200万円なら、評価額は140万円です。なお、自動車や家財は「調達価額の70%」ではなく、売買実例価額などで評価します(保険・定期金・ゴルフ会員権・暗号資産・動産・国外財産)。

土地や家屋とは別に評価する構築物は、原則として1個ごとに評価します。分けると利用価値が著しく下がるものは、まとめて評価します。評価額は(再建築価額−建築時から課税時期までの償却費の合計額または減価の額)×70%です。期間の1年未満の端数は1年とし、償却は定率法、耐用年数は耐用年数省令によります。

よくある誤り

  • 家屋を建築費や購入価格で評価してしまう誤りがあります。自用家屋は固定資産税評価額×1.0で評価します。
  • 全室空室の貸家や、完成直後で入居前の貸家を「貸家」として30%減にしてしまう誤りがあります。どちらも自用家屋です。
  • 増改築部分や建築中の家屋を、固定資産税評価額がないからと財産から漏らしてしまう誤りがあります。
  • 自動車や家財を「調達価額の70%」で評価してしまう誤りがあります。70%は庭園設備などのルールです。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 家屋:評基通88(評価単位は原則1棟)、89(固定資産税評価額×別表1の倍率1.0)。札幌国税局の令和8年分財産評価基準書「家屋の固定資産税評価額に乗ずる倍率」も1.0。
  • 評価に使う固定資産税評価額は、課税時期の属する年の1月1日を賦課期日(地方税法359条)とする年度の価格(基準年度の価格又は比準価格)です。国税庁は、東日本大震災関係の評価通達の一部改正(平成24年6月20日付課評2-26ほか)で、これを「課税時期に対応する年度の家屋の固定資産税評価額」と定義しています。同改正の趣旨説明(同年6月21日の情報)は、この評価額による評価を「評価通達89における原則的な取扱い」としています。
  • 建築中の家屋:評基通91(費用現価の70%)。附属設備等:評基通92。(1)家屋と構造上一体となっている設備は家屋の価額に含める、(2)門・塀・外井戸・屋外じんかい処理設備等は(再建築価額−償却費の合計額又は減価の額)×70%(定率法)、(3)庭園設備は調達価額の70%。
  • 貸家:評基通93、借家権:評基通94(権利金等の名称で取引される慣行のない地域の借家権は評価しない)。
  • 構築物:評基通96・97(原則1個ごと、(再建築価額−償却費の合計額又は減価の額)×70%、1年未満の端数は1年、定率法)。土地・家屋と一括して評価するものを除きます。
  • 増改築:質疑応答事例「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」(評基通5・89・93)。

実務論点

  • 増改築部分の償却費相当額は「再建築価額×0.9×経過年数÷耐用年数」の定額的な計算で、門・塀・構築物の定率法とは償却方法が違います。
  • 居住用の区分所有財産は、区分所有権の価額(固定資産税評価額×1.0)に区分所有補正率を乗じた額を自用家屋の価額とみなし、貸家の評価をします。国税庁Q&A問7:家屋5,000,000円×1.6278=8,139,000円→貸家5,697,300円(×(1−0.3))。
  • 配偶者居住権の評価に用いる「建物の時価」は相続税評価額(固定資産税評価額×1.0)で、賃貸部分がある場合は賃貸部分以外の床面積の割合で調整します。
  • 一時的な空室の判断は貸家建付地と共通です(質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」)。
第9章

マンションの評価(居住用の区分所有財産)

2024年(令和6年)1月1日以後に相続・贈与で取得した分譲マンションは、従来の評価額に「区分所有補正率」を掛けて評価します。補正率は、築年数・総階数・所在階・敷地の持分という4つの数字だけで決まります。

この章の結論

  • 2024年1月1日以後の相続・贈与で取得した居住用の分譲マンション(区分所有の一室)が対象です施行中。建物と敷地の従来の評価額に、それぞれ区分所有補正率を掛けて評価します。
  • 補正率は「評価乖離率」から決まります。従来の評価額が市場価格の推計値の6割未満なら6割の水準まで引き上げ、6割以上10割以下なら補正せず、10割を超えるなら引き下げます。
  • 2階建て以下の建物、区分登記のない一棟の賃貸マンション、居住用の部屋が3室以下で所有者と親族だけが住む二世帯住宅などは対象外です。2027年(令和9年)以後は、5年以内に買った貸付用のマンションに別の通達案が優先する予定です通達案。

2024年から評価方法が変わった理由

従来、マンションの一室は、建物を固定資産税評価額×1.0、敷地を路線価等×敷地全体の面積×敷地権の割合で評価していました。この方法は今も計算の出発点です(建物の評価は家屋・構築物の評価を参照)。

ところが国税庁の調査では、2018年(平成30年)の分譲マンションの取引で、売買価格が相続税評価額の平均2.34倍に達していました。約65%の物件は2倍以上の開きがあり、一戸建ての平均1.66倍を大きく上回る水準です。

この差を使った相続税の負担軽減が問題になりました。最高裁令和4年4月19日判決(総則6項と最高裁令和4年判決)や令和5年度与党税制改正大綱を受けて、有識者会議が2023年(令和5年)1月〜6月に計3回開かれています。その結果、2023年9月28日付で通達「居住用の区分所有財産の評価について」が定められました。2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用されています施行中。

対象になるマンション・ならないマンション

対象は、区分所有者がいる一棟の建物のうち、居住用の専有部分一室の区分所有権(共用部分の持分を含む)と敷地利用権です。居住用かどうかは、原則として登記簿の建物の種類に「居宅」が含まれるかで判定します。次のものは対象外で、従来の方法で評価します。

マンション通達の対象外になるもの
対象外のもの具体例・判定のポイント
構造上、主に居住用に使えないもの事業用のテナント物件など
区分建物の登記がないもの一棟を丸ごと所有する賃貸マンションなど
地階を除く総階数が2以下のもの2階建ての低層の集合住宅など
居住用の専有部分が3室以下で、全室を区分所有者か親族が居住用に使っているもの二世帯住宅など(課税時期の現況で判定)
たな卸商品等に当たるもの不動産業者の販売用の部屋など
借地権付・定期借地権付分譲マンションの底地地主が持つ底地は貸宅地として評価

区分所有補正率の求め方

評価額は、建物と敷地の従来の評価額に、それぞれ区分所有補正率を掛けて求めます。

評価額=建物の固定資産税評価額×区分所有補正率+敷地の自用地としての価額×区分所有補正率

補正率のもとになるのが評価乖離率です。これは「市場価格が従来の評価額の何倍か」を推計する値で、次の式で計算します。

評価乖離率=A+B+C+D+3.220

評価乖離率の4つの指数
指数求め方端数処理など
A 築年数築年数×△0.033建築時から課税時期までの年数。1年未満は1年に切上げ(3年4か月なら4年)
B 総階数総階数指数×0.239総階数指数は地階を除く総階数÷33で、小数点以下第4位を切捨て、1を超えるときは1。積も第4位を切捨て
C 所在階所在階×0.018地階は0階。複数階にまたがる部屋は低い方の階
D 敷地持分狭小度敷地持分狭小度×△1.195敷地利用権の面積÷専有部分の面積で、第4位を切上げ。積も第4位を切上げ

式の符号から、築年数が浅いほど、総階数が多く所在階が高いほど、評価乖離率は大きくなります。部屋の広さに比べて敷地の持分が小さい場合も大きくなります。

次に、評価水準=1÷評価乖離率を求めます。評価水準は「従来の評価額が市場価格の何割か」を表し、その値で補正率が決まります。

評価水準と区分所有補正率
評価水準(1÷評価乖離率)区分所有補正率結果
0.6未満評価乖離率×0.6評価額が上がる
0.6以上1以下補正しない従来の評価額のまま
1を超える評価乖離率評価額が下がる

0.6という水準は、一戸建ての相続税評価額が市場価格のおおむね6割であることとの釣り合いから決められました。評価乖離率が零または負数になる場合は、建物・敷地とも評価しません(零円)。一棟の全部屋と敷地を1人で所有している場合は、敷地の補正率は1が下限です(建物には下限がありません)。

計算例:築27年・11階建ての3階(国税庁タックスアンサーNo.4667の例)

前提:専有部分の面積60.00㎡、敷地全体の面積3,500.00㎡、敷地権の割合6,300/1,050,000、正面路線価50万円(奥行価格補正などはないものとします)、家屋の固定資産税評価額400万円。

評価乖離率の計算
指数計算結果
A27×△0.033△0.891
B11÷33=0.333(第4位切捨て)、0.333×0.239=0.079587(第4位切捨て)0.079
C3×0.0180.054
D敷地利用権の面積3,500.00㎡×6,300/1,050,000=21.00㎡、21.00÷60.00=0.350、0.350×△1.195=△0.41825(第4位切上げ)△0.419
評価乖離率△0.891+0.079+0.054+△0.419+3.2202.043

評価水準は1÷2.043≒0.489で、0.6未満です。したがって区分所有補正率は2.043×0.6=1.2258です。

建物:400万円×1.2258=4,903,200円
敷地:50万円×3,500.00㎡×6,300/1,050,000=1,050万円、1,050万円×1.2258=12,870,900円

評価額は4,903,200円+12,870,900円=17,774,100円です。従来の方法による1,450万円の1.2258倍になります。

同じ算式でも、条件によって補正率は大きく変わります。国税庁の資料にある例と、当ガイドの試算を並べると次のとおりです。

条件による区分所有補正率の違い
例建物の条件敷地持分狭小度評価乖離率区分所有補正率
国税庁パンフレットの例築15年・11階建ての3階0.3352.4571.4742(増額)
上の計算例築27年・11階建ての3階0.3502.0431.2258(増額)
国税庁Q&Aの例築10年・38階建ての8階0.1353.1111.8666(増額)
当ガイドの試算築40年・5階建ての1階0.2911.606補正なし

検算:パンフレットの例は△0.495+0.079+0.054+△0.401+3.220=2.457、評価水準1÷2.457≒0.407、2.457×0.6=1.4742。Q&Aの例は総階数指数が1を超えるため1として、△0.330+0.239+0.144+△0.162+3.220=3.111、3.111×0.6=1.8666。当ガイドの試算は△1.320+0.036+0.018+△0.348+3.220=1.606、評価水準1÷1.606≒0.623で0.6以上1以下のため補正なし。

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賃貸中の部屋・小規模宅地等の特例・総則6項との関係

補正後の価額は、「自用地としての価額」「自用家屋としての価額」とみなされます。部屋を貸している場合は、補正後の価額から貸家建付地・貸家の評価をします(貸家建付地・借地権)。小規模宅地等の特例も、補正後の敷地の価額をもとに適用します。

国税庁のQ&Aには、補正率1.6278の部屋を賃貸割合100%で貸している例があります。敷地は自用地価額450万円×1.6278=7,325,100円で、借地権割合60%・借家権割合30%なら、7,325,100円×(1−0.6×0.3×1.0)=6,006,582円です。建物は500万円×1.6278=8,139,000円で、貸家として8,139,000円×(1−0.3)=5,697,300円になります。

新しい評価方法で計算しても、総則6項(通達どおりの評価が著しく不適当な場合の例外)は引き続き適用されることがあります。反対に、市場価格の大幅な下落など算式に表れない事情があれば、鑑定評価などで個別に時価を求める余地もあります。

よくある誤り

  • 「タワーマンションの高層階だけが対象」は誤りです。地階を除く総階数が3以上であれば、低層の建物も対象になり得ます。補正するかどうかは算式で決まります。
  • 「補正率は必ず評価額を上げる」も誤りです。評価水準が0.6以上1以下なら補正せず、1を超えれば評価額は下がります。
  • Bの積は切捨て、Dの積は切上げです。逆にすると評価乖離率がずれます。
  • 一棟を丸ごと所有する賃貸マンションでも、区分建物の登記がなければ対象外です。

係数の見直しと2027年からの見直し(通達案)

通達の趣旨説明では、評価乖離率の算式と0.6の水準を適時見直すこととされています。時期は、3年に1度の固定資産税の評価替えに合わせるのが合理的とされています。ただし2026年(令和8年)10月時点で、係数(3.220、△0.033など)を改める通達改正は確認できません。国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)も制定時の算式のままです。

別の動きとして、国税庁は2026年9月18日に「貸付用不動産の評価について」の通達案を公表しました通達案。意見公募の締切は10月18日で、2026年10月時点では通達はまだ制定されていません。2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用する予定とされています。

案では、課税時期前5年以内に購入・新築した貸付用不動産を、マンション通達の定めにかかわらず評価します。原則は通常の取引価額で、取得価額を基にした価額の80%も選べる内容です。対象は賃貸している家屋とその敷地なので、自宅として住んでいる部屋は案の対象ではありません。詳しくは2027年からの貸付用不動産の評価見直しで解説します。

他の税金・制度とのつながり

  • タワーマンション・賃貸マンションによる対策の効果と限界:賃貸物件・タワーマンションと2027年の見直し
  • 自宅マンションの敷地に小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減額)を使う場合は、補正後の敷地の価額から減額します:特定居住用宅地等
  • 会社が持つマンションも、非上場株式を純資産価額で評価するときはこの通達で評価します(課税時期前3年以内の取得分を除く):純資産価額方式
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 根拠は「居住用の区分所有財産の評価について」(令和5年9月28日付課評2-74・課資2-16、法令解釈通達)の1項〜3項です。令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産に適用されます。
  • 対象外のたな卸商品等は評基通133、借地権付分譲マンションの底地は評基通25で評価します。二世帯住宅の除外でいう親族は民法725条の親族です。総則6項(評基通6)の適用は否定されておらず、評価乖離率が零以下で評価額が零となる場合も同じです。
  • 取引相場のない株式を純資産価額(評基通185)で評価する場合も適用されます。ただし課税時期前3年以内に取得した土地家屋等は、通常の取引価額によります。

端数処理と面積の取り方

  • 敷地利用権の面積は、敷地全体の面積×敷地権の割合(敷地権でない場合は共有持分の割合、賃借権・地上権の場合は準共有持分の割合)で、小数点以下第3位を切り上げます。専有部分の面積は登記簿上の床面積(内法)です。
  • 敷地は1画地の宅地が基本で、私道部分を含めることもできます。離れた場所にある規約敷地は含めません。1階と地階にまたがる部屋の所在階は0とします。
  • 評価乖離率・区分所有補正率そのものの端数処理を定めた規定は確認できません。A・Cは3桁で確定し、B・Dは第4位で処理するため、乖離率は3桁になります。国税庁の例では補正率を4桁(1.2258など)のまま使っています。
  • 敷地利用権の面積の計算では、登記上の持分ではなく、その専有部分に対応する敷地の持分を使います(Q&A問11:築25年・5階建ての2階、持分1/20、補正率1.2714)。

実務の流れ

  • 国税庁が公表している「区分所有補正率の計算明細書」(令和6年1月1日以降用)と計算ツール(Excel)を使います。専有部分の床面積・敷地権の割合などは登記事項証明書で確認します。
  • 2027年1月1日以後の相続等で、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得した貸付用の部屋は、通達案では「マンション通達の定めにかかわらず」評価する構成です。最終的な通達の内容は、制定後に確認が必要です。
第10章

配偶者居住権の評価

配偶者居住権は、亡くなった人の配偶者が、自宅に無償で住み続けられる権利です。相続税では、自宅の評価額を「配偶者の権利」と「所有者の権利」に分けて評価し、その分け方は相続税法の算式で決まっています。

この章の結論

  • 配偶者居住権を設定すると、自宅の建物と土地の評価額は、配偶者居住権・居住建物の所有権・敷地利用権・敷地の所有権の4つに分かれます。4つの合計は、設定しない場合の評価額と同じです。
  • 配偶者の権利の価額は、建物の耐用年数(住宅用の耐用年数×1.5)・経過年数・存続年数(終身なら平均余命)と、法定利率3%の複利現価率で計算します。法定利率は2026年(令和8年)4月1日以後も3%に据え置かれています施行中。
  • 配偶者の死亡で権利が消えても贈与税はかかりません。一方、合意解除や放棄で建物の所有者が対価を払わないと、所有者に贈与税がかかります。

配偶者居住権と4つの評価対象

配偶者居住権は、2020年(令和2年)4月1日以後に開始した相続で使える制度です。遺産分割(協議・調停・審判)か遺贈で取得し、存続期間は原則として配偶者の終身です。登記が第三者への対抗要件で、他人に譲渡することはできません。民法上のルールは配偶者居住権・配偶者短期居住権で解説しています。

配偶者居住権を設定すると、自宅は次の4つの財産に分かれ、それぞれに相続税がかかります。典型は、配偶者が居住権を取得し、子が建物と土地の所有権を取得する分け方です。

配偶者居住権を設定したときの4つの財産
財産主に取得する人評価の考え方
配偶者居住権配偶者建物の時価から、存続期間が終わった時点の建物の価値(現在価値に割り引いた額)を差し引いた額
居住建物(所有権)子など建物の時価−配偶者居住権の価額
敷地利用権配偶者土地の時価から、存続期間が終わった時点の土地の価値(現在価値に割り引いた額)を差し引いた額
居住建物の敷地(所有権)子など土地の時価−敷地利用権の価額

評価の算式

算式は相続税法23条の2で決まっています。ここでいう「時価」は相続税評価額のことで、建物は固定資産税評価額×1.0、土地は路線価方式か倍率方式で評価した額です。

①配偶者居住権=建物の時価−建物の時価×(耐用年数−経過年数−存続年数)÷(耐用年数−経過年数)×複利現価率
②居住建物の価額=建物の時価−配偶者居住権の価額
③敷地利用権=土地の時価−土地の時価×複利現価率
④居住建物の敷地の価額=土地の時価−敷地利用権の価額

①の分子(耐用年数−経過年数−存続年数)か分母(耐用年数−経過年数)が零以下になるときは、その値を零とします。建物が古く、存続年数が残りの耐用年数(耐用年数−経過年数)以上になる場合は、建物の時価の全額が配偶者居住権になります。

算式に入れる数字:耐用年数・経過年数・存続年数

耐用年数は、耐用年数省令の住宅用の耐用年数に1.5を掛けた年数です。店舗併用住宅でも、全体を住宅用とみなします。

構造別の耐用年数(住宅用×1.5)
構造住宅用の耐用年数評価で使う耐用年数
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造47年71年
れんが造・石造・ブロック造38年57年
金属造(骨格材の肉厚4mm超)34年51年
金属造(3mm超4mm以下)27年41年
金属造(3mm以下)19年29年
木造・合成樹脂造22年33年
木骨モルタル造20年30年

経過年数は、建物の新築時から配偶者居住権が設定された時までの年数です。増改築があっても新築時から数えます。存続年数は、終身の場合は設定時の配偶者の平均余命、期間を定めた場合はその満了までの年数です(平均余命が上限)。

耐用年数・経過年数・存続年数は、いずれも6か月以上の端数を1年に切り上げ、6か月未満を切り捨てます。たとえば経過年数10年3か月は10年、平均余命11.71年は12年です。

「設定された時」は、遺産分割による場合は遺産分割が行われた時(協議の成立日、調停の成立日、審判の確定日)です。遺贈による場合は相続開始の時です。登記をした日ではありません。

法定利率と平均余命:2026年時点の数字

複利現価率は、1÷(1+法定利率)の存続年数乗で求め、小数点以下第3位未満を四捨五入します。法定利率は設定時の民法404条の利率で、3年ごとに見直されます。2026年4月1日から2029年(令和11年)3月31日までの法定利率は、年3%のまま据え置かれました施行中。2020年4月1日から2029年3月31日までの設定は、いずれも3%で計算します。

平均余命は、設定時の属する年の1月1日現在で公表されている最新の完全生命表で、満年齢により求めます。第23回完全生命表は2022年(令和4年)3月2日に公表され、2023年(令和5年)1月1日以後の設定に使われています。国税庁の評価明細書(令和5年1月1日以降用)も、第23回にもとづく平均余命を載せています。

完全生命表は、5年ごとの国勢調査の年を対象に、国勢調査の確定数が公表された後に作られます。2025年(令和7年)の国勢調査の結果は2026年5月から公表されているため、2026年1月1日の時点で最新の完全生命表は第23回です。

この章では、2026年の設定を第23回で計算しています。2027年(令和9年)以後の設定では、その年の1月1日までに新しい完全生命表が公表されたかを、国税庁の評価明細書などで確かめてください。評価明細書に掲載された平均余命と、それに応じた複利現価率は次のとおりです。

平均余命(第23回生命表・端数処理後)と複利現価率(3%)
満年齢男性の存続年数男性の複利現価率女性の存続年数女性の複利現価率
60歳24年0.49229年0.424
65歳20年0.55425年0.478
70歳16年0.62320年0.554
75歳13年0.68116年0.623
80歳9年0.76612年0.701
85歳7年0.8139年0.766
90歳4年0.8886年0.837

複利現価率は1÷1.03の存続年数乗を小数点以下第3位未満で四捨五入した値です(0.492・0.424・0.681・0.813・0.888は当ガイドが同じ方法で計算)。

計算例:国税庁の質疑応答事例(子が建物と土地を取得する場合)

前提:木造の自宅(耐用年数33年)、新築2010年(平成22年)12月1日、相続開始2020年10月1日、遺産分割2021年(令和3年)3月20日、配偶者は80歳の女性で終身。2021年の設定のため第22回生命表を使い、平均余命11.71年から存続年数12年、複利現価率0.701です。建物の相続税評価額は2,000万円、土地は5,000万円です。

経過年数:2010年12月1日から2021年3月20日まで10年3か月→10年
①配偶者居住権:2,000万円−2,000万円×(33−10−12)÷(33−10)×0.701=2,000万円−6,705,217円=13,294,783円
②居住建物:2,000万円−13,294,783円=6,705,217円
③敷地利用権:5,000万円−5,000万円×0.701=14,950,000円
④居住建物の敷地:5,000万円−14,950,000円=35,050,000円

検算:20,000,000×11÷23×0.701=6,705,217.39……で、国税庁の値と一致します。

配偶者が取得する価額は13,294,783円+14,950,000円=28,244,783円、子は6,705,217円+35,050,000円=41,755,217円です。合計は7,000万円で、設定しない場合と同じです。

2026年に遺産分割で設定する場合を、第23回生命表で計算してみます。木造で経過年数15年、建物1,000万円・土地3,000万円の自宅について、配偶者の年齢と性別を変えると次のようになります。

2026年に設定する場合の比較(木造・経過年数15年・建物1,000万円・土地3,000万円)
配偶者存続年数複利現価率配偶者居住権敷地利用権配偶者の合計
妻80歳12年0.7017,663,333円8,970,000円16,633,333円
夫80歳9年0.7666,170,000円7,020,000円13,190,000円
妻70歳20年0.5541,000万円13,380,000円23,380,000円

検算:妻80歳は1,000万円−1,000万円×(33−15−12)÷(33−15)×0.701=7,663,333円(円未満四捨五入)、3,000万円−3,000万円×0.701=8,970,000円。夫80歳は1,000万円−1,000万円×9÷18×0.766=6,170,000円、3,000万円×(1−0.766)=7,020,000円。妻70歳は分子33−15−20が零以下のため零とし、建物の時価の全額1,000万円が配偶者居住権、3,000万円×(1−0.554)=13,380,000円。

配偶者が若く存続年数が長いほど、配偶者の権利の価額は大きくなります。反対に、子が取得する所有権の価額は小さくなります。

計算ツールを表示するには JavaScript を有効にしてください。

賃貸部分・共有がある場合と、権利が消滅したときの課税

建物の一部を賃貸していた場合や、配偶者と共有していた場合は、計算のもとになる時価を調整します。賃貸・共有でないとした時価に、賃貸部分以外の床面積の割合と、被相続人の持分割合を掛けます。敷地は、土地の持分と建物の持分のうち低い割合を使います。たとえば建物の時価2,000万円、床面積の4分の1を賃貸、配偶者との共有で被相続人の持分2分の1なら、2,000万円×3/4×1/2=750万円がもとになります。

なお、被相続人が配偶者以外の人と共有していた建物には、配偶者居住権を設定できません。一時的な空室は、賃貸している部分に含めることができます。

配偶者の死亡や存続期間の満了、建物の全部滅失で権利が消滅しても、贈与税はかかりません。一方、合意解除や放棄で消滅し、建物の所有者が対価を払わない(または著しく低い)ときは贈与税の対象です。所有者が配偶者から、消滅直前の権利の価額に相当する利益を贈与で受けたものとされます。対価を払った場合は、受け取った配偶者に譲渡所得(総合課税)が生じます(配偶者居住権の消滅と譲渡所得)。

よくある誤り

  • 国税庁の質疑応答事例(2020年公表)の平均余命は第22回生命表です。2023年以後の設定にそのまま使うと誤りになります。
  • 遺産分割で設定したのに、相続開始日で経過年数や平均余命を計算するのは誤りです。基準は遺産分割の日です。
  • 耐用年数は住宅用の耐用年数×1.5です。1.5を掛け忘れたり、店舗併用住宅で事業用の耐用年数を使ったりするのは誤りです。
  • 複利現価率に、財産評価で使う基準年利率は使いません。配偶者居住権は法定利率3%です。また終身定期金の余命年数は1年未満切捨てで、6か月基準の配偶者居住権とは端数処理が違います。

他の税金・制度とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評価は相続税法23条の2第1項〜第4項、相続税法施行令5条の8によります。民法は1028条〜1036条(配偶者居住権)、404条(法定利率)です。
  • 令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率は年3%です(令和7年3月31日法務省告示第73号)。第3期の基準割合0.4%と第1期の0.7%の差が1%未満のため、変動しませんでした。令和11年4月1日以後は未確定です。
  • 関係する通達は、相基通23の2-1(一時的な空室)、23の2-2(設定された時。停止条件付遺贈は効力発生日)、23の2-3(増改築があっても新築時から)、23の2-4(設定時の法定利率)、23の2-5(設定時の属する年の1月1日現在で公表されている最新の完全生命表)です。
  • 設定後に、その建物・敷地を相続や贈与で取得した場合は、取得時に設定があったものとして23条の2に準じて計算します(相基通23の2-6)。

端数処理と実務の流れ

  • 国税庁資料では、基礎となる金額の各項目は円未満切捨て、配偶者居住権の価額は円未満四捨五入です。複利現価率は小数点以下第3位未満を四捨五入します。
  • 申告には「配偶者居住権等の評価明細書」(令和5年1月1日以降用)を使います。記載方法等の参考2が第23回生命表の平均余命、参考3が法定利率3%の複利現価率です。
  • 厚生労働省は、完全生命表を国勢調査年を対象に5年ごとに作成し、国勢調査年はまず簡易生命表を作り、国勢調査の確定数の公表後に完全生命表を作るとしています。第23回は令和2年の生命表です。令和7年国勢調査は人口速報集計が2026年5月29日、人口等基本集計が同年9月29日の公表で、2026年1月1日現在で公表されている最新の完全生命表は第23回です(相基通23の2-5)。
  • 小規模宅地等の特例では、配偶者居住権の目的となっている建物の敷地等について、宅地等の面積に各権利の価額の割合を乗じた面積を特例の面積とみなします(措令40条の2第6項。令和2年4月1日以後の相続等)。
  • 合意解除・放棄(民法1032条4項による消滅を含む)で対価が支払われない場合のみなし贈与は相基通9-13の2です。存続期間の満了・配偶者の死亡・建物の全部滅失による消滅は対象外です。消滅の対価は配偶者の譲渡所得の収入金額(所基通33-6の8)です。長期か短期かは被相続人の建物(敷地)の所有期間で判定し、5年超なら長期です。建物所有者の取得費は所得税法60条2項、配偶者居住権の取得費は同条3項によります。
第11章

農地・山林・原野・雑種地と北海道の注意点

農地・山林・原野・雑種地は、場所によって評価方式が大きく変わります。郊外では固定資産税評価額に倍率を掛ける方式が中心ですが、市街化区域の中では宅地に近い水準で評価されます。

この章の結論

  • 農地は純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4つに分けます。純農地と中間農地は倍率方式、市街地農地は宅地比準方式(宅地としての価額−宅地造成費)、市街地周辺農地は市街地農地とした場合の80%で評価します。
  • 山林・原野も、純・中間は倍率方式、市街地は宅地比準方式です。牧場・池沼は原野に準じます。地目は登記ではなく、課税時期の現況で判定します。
  • 北海道の宅地造成費(2026年(令和8年)分)は、整地費が1㎡当たり700円、傾斜度3度超5度以下の傾斜地で1㎡当たり24,800円などです。宅地比準の価額が近隣の純山林の価額を下回る市街地山林は、純山林に比準して評価します。

地目・評価単位・地積の基本

土地は地目ごとに評価し、地目は課税時期の現況で判定します。登記簿の地目が「田」でも、現況が資材置場なら雑種地として評価します。宅地に当たらない駐車場や運動場なども雑種地です。

評価の単位も地目で違います。田・畑は1枚の農地(耕作の単位)ごと、山林・原野は1筆ごとが原則です。ただし市街地農地・市街地周辺農地・生産緑地、市街地山林、市街地原野は、利用の単位となっている一団の土地ごとに評価します。雑種地は、同じ目的に使われている一団ごとです。

地積は課税時期の実際の面積で、登記簿の面積ではありません。山林の地積は、傾斜面の面積ではなく水平面積です。地目・評価単位の全体像は土地評価の全体像を参照してください。

農地の4分類と評価方式

農地は、農地法や都市計画法などの区分に応じて4つに分類します。最初に市街地農地に当たるかを判定し、当たらないものを他の3つに振り分けます。

農地の分類と評価方式
分類主な範囲評価方式
純農地農用地区域内の農地、市街化調整区域内の第1種農地・甲種農地など倍率方式(固定資産税評価額×倍率)
中間農地第2種農地、第2種農地に準ずる農地倍率方式
市街地周辺農地第3種農地、第3種農地に準ずる農地市街地農地であるとした場合の価額の80%
市街地農地市街化区域内の農地、農地法の転用許可を受けた農地など宅地比準方式(国税局長が倍率を定めた地域は倍率方式)

宅地比準方式では、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額から、1㎡当たりの宅地造成費を差し引き、地積を掛けます。宅地としての価額は、付近の宅地の評価額をもとに位置や形状の違いを考えて求めます。地積規模の大きな宅地の要件を満たせば、規模格差補正率を適用してから造成費を差し引きます。

市街地農地の価額=(宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額−1㎡当たりの宅地造成費)×地積

どの方式で評価するかは、評価倍率表で確認できます。田・畑の欄の「純」は純農地、「中」は中間農地、「周比準」は市街地周辺農地、「比準」「市比準」は市街地農地を示します。たとえば田の欄に「純 48」とあれば、純農地として固定資産税評価額の48倍で評価します。

生産緑地と貸し付けている農地

生産緑地は、生産緑地でないものとして評価した価額から、買取りの申出ができるまでの期間に応じた割合を控除します。

生産緑地の控除割合
課税時期の状況控除割合
買取りの申出ができるまで5年以下10%
5年超10年以下15%
10年超15年以下20%
15年超20年以下25%
20年超25年以下30%
25年超30年以下35%
買取りの申出ができる(申出中を含む)5%

農業の主たる従事者が亡くなり、買取りの申出ができるようになった場合も5%の控除です。たとえば生産緑地でないとした価額が5,000万円なら、5,000万円×(1−0.05)=4,750万円です。申出から3か月を経過しているものは、生産緑地としての減額はありません。

人に貸している農地は、貸し方で評価が変わります。耕作権の目的となっている純農地・中間農地は、耕作権割合50%を控除します。市街地農地などの耕作権は、離作料や付近の借地権の価額などを参考に求めます。

10年以上の期間を定めた賃貸借で、農地法18条1項本文(解約の制限)の適用がないものは、自用地としての価額から5%を控除します。農地中間管理機構への10年以上の賃貸借も同じです。機構への貸付けでも10年未満なら、耕作権の目的となっている農地として評価します。

山林・原野・牧場・池沼

山林は、純山林・中間山林が倍率方式、市街地山林が宅地比準方式(または倍率方式)です。市街地山林でも、宅地への転用が見込めないものは、近隣の純山林の価額に比準して評価します。宅地比準の価額が純山林に比準した価額を下回る場合や、急傾斜などで宅地造成ができない場合がこれに当たります。

森林法などで伐採が制限されている保安林等は、通常の価額から制限の程度に応じた割合を控除します。控除割合は、一部皆伐0.3、択伐0.5、単木選伐0.7、禁伐0.8です。特別緑地保全地区内の山林は、一部の例外を除き80%を控除します。山林に生えている立木は、土地とは別に評価します。

原野も、純原野・中間原野は倍率方式、市街地原野は宅地比準方式(または倍率方式)です。牧場と池沼は原野に準じて評価し、評価単位も原則1筆です。採草放牧地は農地法上の区分なので、評価上の地目は課税時期の現況で個別に判定します。

雑種地:駐車場・資材置場など

雑種地は、状況が似ている付近の土地(宅地や農地など)の1㎡当たりの価額をもとに、位置や形状の違いを考えて評価します。国税局長が倍率を定めている地域は、固定資産税評価額×倍率です。

所有者が自ら経営する月極駐車場は、自用地として評価します。駐車場の利用権は土地そのものに及ばないためです。市街化調整区域内の雑種地は、周囲の状況から比べる地目を判定し、宅地に比準する場合は法的な規制などによる減価(しんしゃく割合)を個別に判断します。

賃借権の目的となっている雑種地は、自用地としての価額から賃借権の価額を控除します。ただし控除額には最低限があり、地上権に準ずる賃借権は残存期間に応じ自用地価額の5%(5年以下)〜20%(15年超)、それ以外の賃借権はその2分の1です。このほか、市街化区域などのゴルフ場用地は宅地としての価額の60%から造成費相当額を差し引き、鉄軌道用地は沿接する土地の価額の3分の1で評価します。

北海道(札幌国税局)の注意点:2026年分の財産評価基準書

宅地比準方式で差し引く宅地造成費は、国税局長が年分ごとに定めます。北海道の2026年分は次のとおりで、年分が変われば金額も変わります。

北海道の宅地造成費(2026年分)
区分工事の内容金額
平坦地整地費1㎡当たり700円
平坦地伐採・抜根費1㎡当たり1,100円
平坦地地盤改良費1㎡当たり2,600円
平坦地土盛費1㎥当たり7,400円
平坦地土止費(擁壁)1㎡当たり88,800円
傾斜地3度超5度以下1㎡当たり24,800円
傾斜地5度超10度以下1㎡当たり30,100円
傾斜地10度超15度以下1㎡当たり47,600円
傾斜地15度超20度以下1㎡当たり66,700円
傾斜地20度超25度以下1㎡当たり73,800円
傾斜地25度超30度以下1㎡当たり76,900円

傾斜度3度以下は平坦地として計算します。傾斜度は、評価する土地に最も近い道路面の高さを起点に測ります。傾斜地の金額には伐採・抜根費が含まれないため、必要なら加算します。

北海道は傾斜地や大規模な林地が多く、宅地比準の価額が純山林の価額を下回り、純山林比準になるかどうかが論点になりやすい地域です。比準のもとにするのは、評価する土地から距離的に最も近い純山林です。

計算例:札幌近郊の市街化区域内にある傾斜地の山林(仮の数字)

前提:地積800㎡(1,000㎡未満のため地積規模の大きな宅地には当たりません)、傾斜度4度。宅地造成費は傾斜地(3度超5度以下)24,800円に、伐採・抜根費1,100円を加えた1㎡当たり25,900円です。近隣の純山林に比準した価額は1㎡当たり200円とします。

宅地としての価額による違い
ケース宅地としての1㎡当たり価額宅地比準の計算評価額
A30,000円(30,000円−25,900円)×800㎡=3,280,000円。純山林比準の160,000円(200円×800㎡)を上回る3,280,000円
B20,000円20,000円−25,900円=△5,900円で、純山林比準の価額を下回る160,000円

Aは宅地比準方式で3,280,000円、Bは宅地への転用が見込めないものとして純山林比準の160,000円です。宅地造成費が大きい土地ほど、評価額は大きく下がります。

森林の立木について、北海道では杉・から松・とど松の標準価額表が財産評価基準書に掲載されています。とうひ・ストローブはから松に、えぞ松・あかえぞ松はとど松に準じます。

財産評価基本通達の別表2にある「標準伐期にある森林の立木の標準価額表」は、2026年5月25日付で改正されました。2026年1月1日以後の相続・遺贈・贈与に適用されています施行中。ただし、この表には札幌国税局の欄がなく、北海道は基準書の表によります。

伐採制限を受けている山林は、保安林の種類のほか、自然公園法の地域区分なども確認します。北海道の財産評価基準書には、たとえば特別保護地区は禁伐0.8、第2種特別地域は原則として択伐0.5、第3種特別地域は一部皆伐0.3などの区分表があります。砂防指定地・急傾斜地崩壊危険区域などは、条例等を確かめて個別に判定します。

牧場は原野に準じて評価し、北海道の評価倍率表では牧場・池沼の欄に倍率が付いています。大規模な原野・牧場は倍率方式が中心ですが、市街化区域内や市街地の近郊では「比準」「市比準」と表示され、宅地比準方式になります。このときは宅地造成費の控除に加え、1,000㎡以上なら地積規模の大きな宅地(地積規模の大きな宅地)の規模格差補正率も検討します。

よくある誤り

  • 登記簿の地目で評価するのは誤りです。地目は課税時期の現況で判定します。
  • 市街化区域内の農地を、純農地と同じ倍率方式で評価するのは誤りです。倍率が定められた地域を除き、宅地比準方式です。
  • 前の年分の宅地造成費を使う誤りがあります。課税時期の年分の財産評価基準書を使います。
  • 傾斜地の宅地造成費に伐採・抜根費が含まれていると考えて、加算を漏らす誤りがあります。
  • 自分で経営する月極駐車場を、貸宅地のように減額して評価するのは誤りです。

他の税金・制度とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 地目と評価単位は評基通7・7-2、地積は評基通8です。農地は評基通34・36〜40(分類と評価方式)、40-3(生産緑地)、41・42・別表1(耕作権・貸し付けられている農地)によります。
  • 山林は評基通45〜55(49は市街地山林、50-2は特別緑地保全地区)、立木は113〜127(保安林等の控除割合は123)です。別表2の「標準伐期にある森林の立木の標準価額表」は令和8年5月25日付課評2-39で改正されました(2026年1月1日以後の取得に適用)。伐採の制限が重複する場合は、最も厳しい制限の割合を使います。原野・牧場・池沼は評基通57〜62、雑種地は82〜87です。
  • 10年以上の期間の定めのある賃貸借・農地中間管理機構への賃貸借による5%控除は、国税庁の質疑応答事例で示されています。

実務論点

  • 自ら耕作する所有地は耕作の区分にかかわらず全体で1単位とし、生産緑地の部分と、耕作権等を設定した部分(貸付先ごと)は別単位とします(市街地農地等の評価単位)。
  • 市街地周辺農地を純農地の価額に比準して評価する場合は、80%への減額は不要です(札幌国税局の宅地造成費の金額表の補足)。宅地比準では、土砂災害特別警戒区域内の補正も準用されます。
  • 市街化調整区域内の雑種地のしんしゃく割合は、質疑応答事例「市街化調整区域内にある雑種地の評価」の考え方により、周囲の状況に応じて個別に判定します。農地等に比準する資材置場等は農地の価額に造成費相当額を加えた額で、宅地比準の価額が上限です。臨時的な使用や存続期間1年以下の賃借権は、更新が明らかな場合を除き評価しません。
  • 相続・遺贈(包括遺贈と、被相続人から相続人に対する遺贈に限る)で取得した立木は、取得した時の時価に100分の85を乗じて評価します(相続税法26条)。贈与や相続人以外への特定遺贈には適用されません(相基通26-1)。
  • 北海道の評価倍率表(大規模工場用地用・ゴルフ場用地等用)、耕作権・占用権の評価、農業投資価格の金額表も財産評価基準書に掲載されています。立木の標準価額の個別の数値は、基準書のPDFで確認してください。北海道の一部(網走東部など)には、標準伐期が定められていない地域があります(評基通116)。
第12章

預貯金・上場株式・投資信託・公社債・外貨建て財産

金融資産は、課税時期(相続なら亡くなった日、贈与なら財産を取得した日)の残高や価格をもとに評価します。預貯金の利息の扱いや上場株式の月平均額の特例など、資産ごとに細かいルールがあります。

この章の結論

  • 預貯金は、課税時期の残高に、解約した場合の既経過利子から源泉徴収される所得税相当額を差し引いた額を加えて評価します。普通預金などは、既経過利子が少額なら残高だけで評価できます。
  • 上場株式は、課税時期の終値と、その月・前月・前々月の終値の月平均額の4つのうち、最も低い価額で評価できます。ETFとJ-REITも同じ方法です。
  • 上場していない投資信託は、基準価額から源泉所得税相当額・信託財産留保額・解約手数料を差し引いた解約価額で評価します。外貨建て財産は、取引金融機関の電信買相場(TTB)で円に換算します。

金融資産の評価方法:一覧

主な金融資産の評価方法をまとめると、次のとおりです。非上場株式(自社株)は評価の仕組みが大きく違うため、自社株の評価が必要になる場面から始まる別ページで解説しています。

主な金融資産の評価方法
財産評価のしかた
預貯金課税時期の預入高+既経過利子(源泉所得税相当額を控除)
上場株式・ETF・J-REIT課税時期の終値と、当月・前月・前々月の月平均額のうち最も低い価額
登録銘柄・店頭管理銘柄課税時期の取引価格と、課税時期の属する月以前3か月間の各月平均額のうち最も低い価額
上場していない証券投資信託基準価額×口数−源泉所得税相当額−信託財産留保額・解約手数料
利付公社債上場なら最終価格、それ以外は売買参考統計値の平均値や発行価額に、税引き後の既経過利息を加算
個人向け国債課税時期に中途換金した場合の受取額
外貨建ての財産外貨の額×取引金融機関のTTB(外貨建ての債務はTTS)

預貯金:残高に税引き後の既経過利子を加える

預貯金は、課税時期の預入高に、課税時期に解約した場合に受け取れる既経過利子を加えます。ただし既経過利子からは、その利子について源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を差し引きます。この税額には復興特別所得税を含め、所得税と合わせて15.315%で計算します。

預貯金の価額=預入高+(既経過利子の額−既経過利子に対する源泉所得税相当額)

定期預金・定期郵便貯金・定額郵便貯金以外の預貯金(普通預金など)は、既経過利子の額が少額であれば、預入高だけで評価できます。

計算例:定期預金の評価(仮の数字)

前提:定期預金の元本1,000万円。課税時期に解約した場合の既経過利子は2万円です。

源泉所得税相当額:2万円×15.315%=3,063円
評価額:1,000万円+(2万円−3,063円)=10,016,937円

評価額は10,016,937円です。元本だけで計算すると、評価額が16,937円少なくなります。

亡くなった人以外の名義でも、実質的に亡くなった人の預金(名義預金)は相続財産に含めます。判断の基準は名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方で解説しています。

上場株式:4つの価額のうち最も低い価額

上場株式は、課税時期の最終価格(終値)で評価するのが原則です。ただし次の4つのうち最も低い価額で評価できます。

  1. 課税時期の終値
  2. 課税時期の属する月の毎日の終値の月平均額
  3. 前月の毎日の終値の月平均額
  4. 前々月の毎日の終値の月平均額

計算例:上場株式1,000株の評価(仮の数字)

前提:2026年(令和8年)6月15日(月曜日)に亡くなり、A社株式を1,000株持っていました。

A社株式の4つの価額
価額1株当たり
①課税時期(6月15日)の終値2,500円
②6月の終値の月平均額2,450円
③5月の終値の月平均額2,380円
④4月の終値の月平均額2,600円

最も低い価額は③の2,380円
評価額:2,380円×1,000株=238万円

評価額は238万円です。終値で評価した250万円(2,500円×1,000株)より12万円低くなります。

負担付贈与や、個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式には、月平均額の特例は使えず、課税時期の終値で評価します。国内の2つ以上の取引所に上場している銘柄は、納税者がどの取引所の価格を使うかを選べます。

課税時期が土日などで終値がない場合は、課税時期の前後で最も近い日の終値を使い、前後が同じ日数なら平均します。たとえば土曜日に亡くなった場合は、1日前の金曜日が2日後の月曜日より近いので金曜日の終値です。権利落ちや配当落ちの前後には、別の修正ルールがあります。

配当の基準日の翌日から配当の効力が生じる日までの間に相続が起きた場合は、株式とは別に「配当期待権」を評価します。予想配当金額から、源泉徴収されるべき所得税と道府県民税の相当額を差し引いた額です。株式の割当てを受ける権利や株式無償交付期待権も、それぞれ別に評価します。外国の証券取引所に上場している株式も上場株式に準じて評価し、TTBで円に換算します。

気配相場等のある株式

日本証券業協会の登録銘柄・店頭管理銘柄は、課税時期の取引価格と、課税時期の属する月以前3か月間の各月の平均額のうち、最も低い価額で評価します。取引価格は、高値と安値が公表されていればその平均です。負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した場合は、課税時期の取引価格です。

上場の承認が公表されてから上場日の前日までの公開途上にある株式は、公募・売出しがあれば公開価格で評価します。公募・売出しがない場合は、課税時期以前の取引価格などを勘案して評価します。

投資信託・ETF・J-REIT

上場していない証券投資信託は、課税時期に解約した場合に受け取れる額(解約価額)で評価します。具体的には、1口当たりの基準価額×口数から、解約した場合に源泉徴収されるべき所得税相当額と、信託財産留保額・解約手数料(消費税相当額を含む)を差し引きます。1万口当たりの基準価額が公表されている場合は、その単位で計算します。課税時期の基準価額がない場合は、直近の基準価額を使います。

MMFや中期国債ファンドなどの日々決算型の投資信託は、基準価額×口数に、再投資されていない未収分配金を加えます。そこから、未収分配金に対する源泉所得税相当額と、信託財産留保額・解約手数料を差し引きます。

取引所に上場しているETFは、上場株式と同じく4つの価額のうち最も低い価額で評価します。ETFの金銭分配期待権は、配当期待権に準じて評価します。上場不動産投資信託(J-REIT)も1口ごとに上場株式に準じて評価し、上場された受益証券発行信託の受益証券も同様です。

公社債・個人向け国債

公社債は、券面額100円当たりの価額を求め、券面額÷100を掛けて計算します。利付公社債は、上場していれば課税時期の最終価格に、源泉所得税相当額を差し引いた既経過利息を加えます。売買参考統計値が公表されている銘柄は、その平均値を使います(上場銘柄は最終価格との低い方)。どちらもない銘柄は、発行価額に税引き後の既経過利息を加えます。

上場も売買参考統計値の公表もない割引発行の公社債は、次の算式で評価します。

発行価額+(券面額−発行価額)×発行日から課税時期までの日数÷発行日から償還期限までの日数

個人向け国債は、課税時期に中途換金した場合の受取額(額面金額+経過利子相当額−中途換金調整額)で評価します。発行後1年未満で贈与により取得した場合も、中途換金額で評価して差し支えないとされています。

外貨建て財産の円換算:TTBを使う

外貨建ての財産は、納税者の取引金融機関が公表する、課税時期の最終の対顧客直物電信買相場(TTB)で円に換算します。課税時期に相場がなければ、課税時期前の最も近い日の相場を使います。外貨建ての債務は、電信売相場(TTS)で換算します。

外貨預金のように取引金融機関が決まっているものは、その金融機関の相場を使います。先物外国為替契約で相場が確定している場合は、その相場です。取引金融機関には、銀行のほか証券会社・ゆうちょ銀行・農協なども含みます。国外の不動産などで金融機関が特定できない場合は、各相続人の取引金融機関のTTBを使うため、相続人ごとに換算額が違うこともあります。

手元にある外貨の現金もTTBで換算します。たとえば2万ドルの外貨預金で、課税時期のTTBが1ドル150.00円(仮の数字)なら、2万ドル×150.00円=300万円に、税引き後の既経過利子を加えます。国外にある財産全般の評価は保険・暗号資産・国外財産などを参照してください。

よくある誤り

  • 上場株式を亡くなった日の終値だけで評価すると、評価額が高くなることがあります。4つの価額のうち最も低い価額を選べます(負担付贈与などを除く)。
  • 定期預金を元本だけで申告するのは誤りです。税引き後の既経過利子を加えます。
  • 上場していない投資信託を基準価額のまま評価するのは誤りです。源泉所得税相当額・信託財産留保額・解約手数料を差し引きます。
  • 外貨の現金を、外国通貨の現金買相場で換算するのは誤りです。現金もTTBで換算します。

金融資産の評価チェックリスト

  • 定期預金・定額貯金などに、税引き後の既経過利子を加えた
  • 上場株式・ETF・J-REITは、終値と3か月分の月平均額を比べて最も低い価額を選んだ(負担付贈与などは終値)
  • 配当の基準日の翌日から効力発生日までの相続なら、配当期待権を計上した
  • 上場していない投資信託は、源泉所得税相当額・信託財産留保額・解約手数料を差し引いた
  • 個人向け国債は、中途換金した場合の受取額で評価した
  • 外貨建ての財産は取引金融機関のTTB、外貨建ての債務はTTSで換算した
  • 家族名義の預金・株式のうち、実質的に亡くなった人のものがないか確認した

他の税金とのつながり

  • 相続した株式を売るときの取得費は、相続税評価額ではなく、亡くなった人の取得価額を引き継ぎます。NISA口座から相続したものは、相続日の終値で取得したものとみなします:株式の譲渡と相続した株式
  • 相続税を納めた人が、相続した株式などを一定の期間内に売ると、相続税の一部を取得費に加算できます:相続税の取得費加算の特例
  • 名義預金・名義株と判断される基準と、生前贈与の証拠の残し方:名義預金・名義株
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 預貯金は評基通203、上場株式は168〜172、気配相場等のある株式は174〜177-2、株式の割当てを受ける権利・株式無償交付期待権・配当期待権は190〜193です。公社債は197〜198、証券投資信託は199、J-REIT等は213・213-2、外貨の換算は4-3です。
  • 預貯金の控除税額に復興特別所得税を含めることは、質疑応答事例で示されています。通達203の文言で控除するのは「源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額」で、配当期待権(193)のような「特別徴収されるべき道府県民税の額に相当する金額を含む」旨の括弧書きはありません。
  • 令和8年度改正で、2027年(令和9年)分以後は復興特別所得税が1.1%に下がり、防衛特別所得税1%が創設されます成立・施行待ち。源泉徴収の合計税率(所得税率×102.1%)は変わりません。防衛特別所得税も、源泉徴収義務者が所得税と併せて徴収する仕組みです(防衛財確法5条の26第1項)。上記の質疑応答事例は令和7年8月1日現在の法令・通達等によるもので、防衛特別所得税相当額の扱いには触れていません。2027年以後の課税時期では、申告時に国税庁の取扱いを確認してください。

実務論点

  • 課税時期が権利落等の日から株式の割当て等の基準日までの間にある場合は、権利落等の前日以前で最も近い日の終値を使います(評基通170)。月平均額の計算期間に権利落等がある月は修正します(171・172)。
  • 外国の証券取引所に上場している株式は、上場株式に準じて課税時期の終値で評価し、月平均額の特例も選択できます(質疑応答事例)。
  • 利付公社債で、上場かつ売買参考統計値の公表銘柄は、平均値と最終価格のいずれか低い方を使います。転換社債型新株予約権付社債(197-5)、貸付信託受益証券(198)は別の算式です。
  • 外貨の換算で使う相場は、指標性のある相場が必要です。取引金融機関が複数ある場合は選択できます。
第13章

保険・定期金・ゴルフ会員権・暗号資産・動産・国外財産

相続税の申告では、土地や預貯金のほかにも評価が必要な財産があります。この章では、保険や年金の権利、ゴルフ会員権、暗号資産、家財、未収金、信託、国外財産の評価方法をまとめます。

この章の結論

  • 被相続人が保険料を負担し、保険事故が起きていない生命保険契約は、相続開始時の解約返戻金の額で評価します。返戻金のない掛捨て型は評価しません。
  • ゴルフ会員権は取引価格の70%に預託金等を加えた額、暗号資産は交換業者が公表する課税時期の取引価格、自動車や家財は売買実例価額などで評価します。
  • 未収の家賃は支払期日が来ている分だけを計上し、準確定申告の還付金は相続財産に含めます。国外財産も財産評価基本通達で評価するのが原則です。
この章で扱う財産と評価方法の早見表
財産評価の方法(要点)
生命保険契約に関する権利相続開始時に解約した場合の解約返戻金の額
定期金に関する権利(給付事由が発生済み)解約返戻金・一時金・算式による金額のうち、いずれか多い金額
ゴルフ会員権(取引相場あり)取引価格×70%+取引価格に含まれない預託金等
暗号資産(活発な市場あり)交換業者が公表する課税時期の取引価格
自動車・家財などの動産売買実例価額・精通者意見価格等を参酌
貸付金債権元本+課税時期までの既経過利息
未収の家賃・地代支払期日が到来している未収額
信託受益権受益者の分かれ方に応じて信託財産の価額などで評価
国外財産財産評価基本通達で評価(弊害がなければ取得価額の時点修正なども可)

生命保険契約に関する権利と定期金に関する権利

被相続人が保険料を負担し、被保険者が配偶者や子など別の人になっている生命保険契約は、相続が起きても保険金は支払われません。それでも解約すればお金が戻るため、契約には財産としての価値があります。これを生命保険契約に関する権利といいます。

評価額は、相続開始の時に解約したとした場合の解約返戻金の額です。前納保険料や剰余金の分配額があれば加え、返戻金にかかる源泉所得税相当額があれば差し引きます。返戻金のない掛捨て型の保険は評価しません。被相続人が契約者で契約者貸付金などがある場合は、その額を債務として差し引けます。

生命保険契約に関する権利の課税関係(被保険者は被相続人以外)
契約の形相続税の扱い
被相続人が契約者で、保険料も負担本来の相続財産です。契約者の地位を引き継ぐ人が取得し、遺産分割の対象になります
被相続人が保険料を負担し、契約者は別の人契約者が取得したものとみなされます(みなし相続財産)
被相続人は契約者だが保険料を負担しておらず、被保険者でもない相続税はかかりません

死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、支払われる死亡保険金が対象の制度です。保険事故が起きていないこの権利には使えないと解されています。なお生前に契約者を変更しただけでは贈与税はかかりませんが、新しい契約者が解約して返戻金を受け取ると、保険料を負担した人からの贈与になります。

定期金に関する権利

定期金に関する権利は、毎年一定額を受け取るなど、定期的に給付を受ける権利です。契約で定めた給付の原因(給付事由)がすでに発生しているかで評価方法が分かれます。死亡保険金を年金で受け取る場合も、相続税は毎年の年金ではなく年金の受給権にかかります。

給付事由が発生している定期金に関する権利(3つのうち最も多い金額で評価)
種類①解約返戻金②一時金③算式
有期定期金解約返戻金の金額定期金に代えて一時金で受け取れる場合の額1年当たりの平均額×残存期間に応ずる予定利率の複利年金現価率
無期定期金同上同上1年当たりの平均額÷予定利率
終身定期金同上同上1年当たりの平均額×平均余命に応ずる予定利率の複利年金現価率

複利年金現価率=〔1−(1+r)−n〕÷r(rは権利取得時の契約の予定利率、nは年数)

予定利率は契約で定められた利率で、国税庁が定める基準年利率とは別のものです。給付事由が発生していない権利は、解約返戻金を支払う定めがあれば解約返戻金の額で評価し、定めがなければ相続税法25条の別の算式によります。

計算例:給付事由が発生している有期定期金(数値は仮定)

前提:年額120万円を残り10年受け取る権利で、契約の予定利率は1.0%です。解約返戻金は1,050万円、一時金で受け取る場合の額は1,100万円とします。

複利年金現価率=(1−1.01−10)÷0.01=(1−0.905287)÷0.01=9.4713→9.471(小数点以下第3位未満を四捨五入)
③の金額=120万円×9.471=11,365,200円

①1,050万円、②1,100万円、③11,365,200円のうち、最も多い③が評価額になります。

答え:11,365,200円

公的年金の遺族年金は、相続税も所得税も原則としてかかりません。亡くなった人が受け取るはずだった未支給年金は遺族固有の権利で、相続税ではなく遺族の一時所得の対象です。

ゴルフ会員権・自動車・家財などの動産

取引相場のあるゴルフ会員権は、課税時期の通常の取引価格の70%で評価し、取引価格に含まれない預託金等を加えます。直ちに返還される預託金等は返還額、一定期間後に返還されるものは返還額に基準年利率による複利現価率を掛けた額です(1年未満の端数は1年)。

取引相場のない会員権は、株主でなければ会員になれないものは株式の評価額、株主であることと預託金等の両方が必要なものはその合計、預託金等だけが必要なものは預託金等で評価します。株式も預託金等もなく譲渡もできない、プレーできるだけの会員権は評価しません。

計算例:取引相場のあるゴルフ会員権(数値は仮定)

前提:課税時期の取引価格は300万円です。取引価格に含まれない預託金100万円は、直ちに返還を受けられるものとします。

300万円×70%+100万円=210万円+100万円=310万円

答え:310万円

自動車や家具、家電などの一般動産は、原則として1個または1組ごとに、売買実例価額(実際の取引事例の価格)や精通者意見価格等(専門家の意見による価格など)を参酌して評価します。これらが明らかでない場合は、同種・同規格の新品の課税時期の小売価額から、製造時からの償却費(定率法、1年未満の端数は1年)を差し引きます。

家庭用の動産で1個または1組が5万円以下のものは、一世帯ごとにまとめて評価できます。電話加入権もこの一括評価に含めてかまいません。書画や骨とう品も、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価します。

暗号資産

暗号資産は財産評価基本通達に評価方法の定めがないため、「評価方法の定めのない財産」として通達の評価方法に準じて評価します。具体的な方法は国税庁のFAQで示されています。

活発な市場がある暗号資産は、相続人などの納税義務者が取引している暗号資産交換業者が公表する課税時期の取引価格で評価します。交換業者が発行する残高証明書に記載された取引価格も使えます。

  • 販売所で購入価格と売却価格が別々に公表されている場合は、売却価格で評価してかまいません。
  • 複数の交換業者で取引している場合は、納税義務者が選んだ交換業者の価格によってかまいません。

「活発な市場がある」とは、十分な数量と頻度の取引が行われ、価格の情報が継続して提供されている状態です。活発な市場がない暗号資産は、内容や取引の実態を踏まえ、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して個別に評価します。

所得税では、相続や相続人への遺贈などで取得した暗号資産の取得価額は、被相続人が選んでいた評価方法による金額を引き継ぎます。相続後に売ったときの所得の計算に影響します。

貸付金・未収家賃・還付金・死亡後に確定した退職手当

被相続人が人や会社に貸していたお金(貸付金債権)は、元本に課税時期までの既経過利息を加えた額で評価します。債務者の破産手続開始の決定や、業況不振による6か月以上の休業など、通達が定める回収困難な事情がある部分は元本に入れません。

未収の家賃・地代は、課税時期に支払期日が到来しているものだけを計上します。月末払いの家賃で月の途中に亡くなった場合、その月の経過分は相続財産に入れなくてよいとされています(国税庁の質疑応答事例)。

配当の基準日の翌日から効力の発生日までに亡くなった場合は、配当期待権として、予想配当額から源泉徴収される所得税と特別徴収される道府県民税の相当額を差し引いて評価します。

準確定申告(亡くなった人の所得税の申告)で戻る還付金は、死亡後に確定しても本来の相続財産です。還付金に付く還付加算金は相続人の雑所得で、相続税の対象ではありません。

死亡により支給される退職手当金等は、死亡後3年以内に支給額が確定したものがみなし相続財産です。額が3年以内に決まれば、支払が3年を過ぎても対象です。死亡後に額が確定した賞与や支給期が来ていない給与は、本来の相続財産です。3年を過ぎて額が確定したものは相続税の対象外で、遺族の一時所得になるとされています。

信託受益権と基準年利率

信託の受益権は、元本と収益の受益者が同じ人なら信託財産の価額で評価します。受益者が別々なら、収益受益権は将来の利益を基準年利率による複利現価率で割り引いた額の合計、元本受益権は信託財産の価額から収益受益権の価額を引いた額です。

基準年利率は、将来の金額を現在の価値に直すときに使う利率です。国税庁が月ごとに定め、期間に応じて短期・中期・長期の3つがあります。

2026年(令和8年)分の基準年利率(2026年10月時点で確認できた月)
課税時期の月短期中期長期
1月〜4月1.00%1.50%2.50%
5月1.00%2.00%3.00%
6月1.50%2.00%3.00%

7月以降は、国税庁の「令和8年分の基準年利率について」で課税時期の月の値を確認してください。基準年利率は、ゴルフ会員権の預託金、信託の収益受益権、定期借地権などの計算に使います。定期金は契約の予定利率、配偶者居住権は法定利率3%を使い、基準年利率は使いません。

国外財産の評価

国外にある財産も、財産評価基本通達で評価するのが原則です。通達で評価できないものは、通達に準じて、または売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価します。課税上の弊害がない限り、次の方法も認められています。

  • 取得価額を、その国や地域の同種の財産の一般的な価格動向で時点修正した価額
  • 課税時期の後に譲渡した場合の譲渡価額をもとに、課税時期の価額として計算した価額

親族から低い価額で買った、借金返済のために売り急いだなど、取得価額や譲渡価額が適正な時価といえない場合は、弊害があるとされます。合理的な価額変動率がない場合も同じです。国外の土地は、売買実例価額、その国の地価公示制度に基づく価格(例:韓国の標準地公示価格)、鑑定評価額などを参酌します。

取引相場のない外国法人の株式は、類似業種比準方式に準じた評価が原則としてできません。比較する標本会社が日本の上場会社だからです。純資産価額方式に準じて評価でき、評価差額に対する法人税額等相当額は、その国の法人税等に相当する税の税率の合計で計算できます。外貨はTTB(対顧客直物電信買相場)で円に換算します。

よくある誤り

  • 「自動車や家財は調達価額で評価する」→ 売買実例価額・精通者意見価格等で評価し、不明なら新品の小売価額から償却費を引きます。調達価額の70%は庭園設備の評価です。
  • 「月の途中で亡くなったら、その月の家賃の経過分も計上する」→ 支払期日が来ていない家賃は計上しなくてかまいません。
  • 「準確定申告の還付金は死亡後に確定するので相続財産ではない」→ 還付金は本来の相続財産です。還付加算金は相続人の雑所得です。
  • 「ゴルフ会員権は取引価格で計上する」→ 取引相場のある会員権は取引価格の70%です(預託金等は別に加算)。
  • 「未支給年金も相続財産になる」→ 遺族固有の権利で、相続税ではなく遺族の一時所得の対象です。

他の税金・章とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 生命保険契約に関する権利:評基通214、相続税法3条1項3号、13条(契約者貸付金等の債務控除)、相基通3-36。定期金に関する権利:相続税法24条・25条、相基通24-1〜24-4・25-1、評基通200〜200-6。
  • ゴルフ会員権:評基通211。一般動産:評基通128〜130、134、135、161。暗号資産:評基通5、国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」(2025年(令和7年)12月26日版。相続・贈与は問4-1・4-2、所得税の取得価額の引継ぎは問1-5)。
  • 貸付金債権等:評基通204〜206、208、209、193。退職手当金等:相続税法3条1項2号、相基通3-30〜3-33。信託受益権:評基通202。基準年利率:評基通4-4、令和8年分の基準年利率について(令和8年5月25日付課評2-37、最終改訂は同年7月30日付課評2-55)。国外財産:評基通5-2、4-3。

実務論点

  • 定期金の評価明細書では、複利年金現価率等は小数点以下第3位未満を四捨五入します。給付期間・払込済期間の年数は1年未満切上げ、余命年数・経過期間の年数は1年未満切捨て、金額は1円未満切捨てです。平均余命は、権利取得時の属する年の1月1日現在で公表されている最新の完全生命表によります。国税庁の自動計算は、権利取得日が2028年(令和10年)1月1日以後だと使えないなどの制限があります。
  • 貸付金債権の元本不算入(205)の対象には、債務者について手形交換所の取引停止処分、会社更生・民事再生・特別清算・破産の開始決定、業況不振による6か月以上の休業等があった場合の債権額(質権・抵当権で担保された部分を除く)があります。債権の切捨て・棚上げ等による金額や、課税時期後5年を経過して弁済される部分なども元本に算入しません。
  • 配当期待権(193)には特別徴収される道府県民税相当額を含める括弧書きがあり、預貯金の既経過利子(203)にはありません。
  • 外国で相続税に相当する税が課された場合、その課税価格の基礎となった価額は、鑑定評価に基づくなど課税時期の時価として合理的に算定されていれば使えます。外国法人株式の純資産価額の円換算は原則として1株当たりの額をTTBで行い、資産・負債が2か国以上にある場合などは資産TTB・負債TTSの個別換算もできます。
第14章

総則6項と最高裁令和4年判決

財産評価基本通達どおりに評価しても、その評価額が認められないことがあります。根拠は通達の6項(総則6項)で、最高裁令和4年判決がその適用の考え方を示しました。

この章の結論

  • 総則6項は、通達どおりの評価が著しく不適当と認められる財産を、国税庁長官の指示を受けて別の方法(不動産鑑定評価額など)で評価するという定めです。
  • 最高裁令和4年(2022年)4月19日判決は、通達評価額と時価の差が大きいことだけでは足りないとしました。そのうえで、相続税の軽減を意図した借入れと不動産購入で税額が0円になった事案について、鑑定評価額による課税を適法としました。
  • 適用件数は10年間で27件と多くはありません。ただし2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与からは、5年以内に取得した貸付用不動産を通常の取引価額で評価する見直しが予定されています通達案。

総則6項とは:通達による評価の例外

相続税法22条は、相続などで取得した財産の価額を、取得の時の時価によると定めています。その時価の求め方を具体的に定めたのが財産評価基本通達(評基通)で、実務では原則としてこの通達で評価します。評基通1は、時価を、不特定多数の人の間で自由に取引される場合に通常成立する価額と説明したうえで、通達の定めで評価した価額によるとしています。

評基通6は、通達の定めで評価することが著しく不適当と認められる財産は、国税庁長官の指示を受けて評価すると定めています。これがいわゆる総則6項です。通達評価額を上回る価額(不動産鑑定評価額など)で課税するときの根拠になります。

土地の路線価は、地価公示価格などの80%程度を目途に定められています。家屋は固定資産税評価額で評価し、賃貸物件は貸家建付地や貸家の減額も受けます。このため不動産の通達評価額は、市場での取引価格を下回ることがあります。この差は通達の仕組みから生じるもので、差があるだけで否認されるわけではありません。

最高裁令和4年判決の事案

被相続人は2012年(平成24年)6月17日に94歳で亡くなりました。その3年余り前と2年半ほど前に、主に借入金で2つの不動産(甲・乙)を購入していました。

最高裁令和4年4月19日判決の事案(判決が認定した主な数字)
項目甲不動産乙不動産
購入日2009年(平成21年)1月30日2009年12月25日
購入代金8億3,700万円5億5,000万円
購入のための借入れ信託銀行から6億3,000万円信託銀行から3億7,800万円、共同相続人の1人から4,700万円
通達評価額2億4万1,474円1億3,366万4,767円
鑑定評価額7億5,400万円5億1,900万円
相続後―2013年(平成25年)3月7日に5億1,500万円で売却

相続人は通達評価額(甲・乙の合計約3億3,371万円)で申告し、借入金を債務として差し引きました。その結果、課税価格の合計は2,826万1,000円、相続税の総額は0円でした。通達評価額の合計は、購入代金の合計13億8,700万円の約4分の1です。

税務署長は総則6項を適用し、鑑定評価額で更正しました。更正後の課税価格の合計は8億8,874万9,000円、相続税の総額は2億4,049万8,600円です。判決は、購入と借入れがなければ課税価格の合計は6億円を超えていたと認定しています。乙は相続の約9か月後に売却されています。

判決が示した判断の枠組み

  1. 時価と通達の関係相続税法22条の時価は、課税時期の客観的な交換価値です。通達は行政内部の命令で、国民を直接拘束する法令ではありません。課税した価額が客観的な交換価値を超えなければ、通達評価額を上回っても22条には反しません。
  2. 平等原則による歯止めただし、特定の人だけを通達評価額より高い価額で課税するには、合理的な理由が必要です(租税法上の平等原則)。
  3. 合理的な理由がある場合通達による画一的な評価が、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があれば、合理的な理由があるとされます。
  4. 差の大きさだけでは足りない通達評価額と鑑定評価額に大きな差があるというだけでは、その事情があるとはいえません。
  5. 本件の当てはめ相続税の軽減を知り、期待して購入と借入れを企画・実行し、税額が0円になるほど負担が軽くなりました。こうした行為をしない、またはできない納税者との間に看過しがたい不均衡が生じるとして、事情があると判断されました。

判決が重く見たのは、差の大きさそのものではなく、差を使って税負担を減らす行為と、その結果生じる不均衡です。通達評価額が時価より低いというだけで否認されるわけではありません。

国税庁の運用:適用件数と判決後の対応

国税庁の資料によると、総則6項の適用件数は2015〜2024事務年度(平成27〜令和6事務年度)の10年間で27件です。内訳は不動産13件、株式14件です。直近は2022事務年度6件、2023事務年度11件、2024事務年度2件でした。

非上場株式の評価方法の見直しを議論している国税庁の有識者会議検討中では、適用件数が少ないことは通達の見直しが不要という意味ではない、と国税庁が説明しています。

  1. 2022年4月19日最高裁判決
  2. 2023年(令和5年)9月28日「居住用の区分所有財産の評価について」(マンション通達)を新設。2024年(令和6年)1月1日以後の相続・贈与から適用施行中
  3. 2025年(令和7年)11月13日国税庁が政府税制調査会で、一棟賃貸マンションや不動産小口化商品による評価の圧縮事例を説明
  4. 2025年12月19日令和8年度税制改正大綱で、貸付用不動産と小口化商品の評価を通達で見直すことを決定
  5. 2026年(令和8年)9月18日国税庁が通達案を公表。意見公募は10月18日締切通達案

政府税制調査会の資料では、次のような例が示されました。

  • 一棟賃貸マンション:2019年(令和元年)8月に21.0億円で取得。通達評価額4.2億円、鑑定評価額18.5億円で、相続税が12.3億円から4.4億円に圧縮されていた例
  • 不動産小口化商品:信託受益権を3,000万円で取得し、9歳の孫などに贈与。通達評価額480万円で贈与税が1,195万円から49万円に圧縮され、贈与後にほぼ同額で売却された例

相続直前の駆け込み取得では乖離が中央値で3倍超、小口化商品では5倍超の例があるとされています。一方、日本税理士会連合会と日本公認会計士協会は、総則6項の多用は予測可能性を損なうとして、評価方法の明確化を求めました。

借入れで不動産を買う対策のリスク

借入金そのものは相続税を減らしません。借りると「借りた現金」と「借入金(債務)」が同じ額だけ増え、差し引きは変わらないからです。課税価格が下がるのは、その現金で評価額が時価より低い不動産を買ったときの評価の差によります。自己資金で同じ物件を買っても、減る額は同じです。

判決の事案では、高齢での購入、相続の数年前という時期、借入れが中心の資金計画、相続後間もない売却といった事実がありました。こうした事情は、不利な事情として扱われやすいとされています。ただし、どの事情がどの程度あれば否認されるかという一般的な基準は示されていません。

不動産を持つこと自体にも、空室による家賃収入の減少、貸家建付地の評価減の縮小、借入金の返済、売却時の譲渡所得課税といったリスクがあります。評価の差だけで判断しないことが大切です。

2027年からの通達案との関係

国税庁の通達案では、課税時期前5年以内に売買などで取得・新築した貸付用不動産は、課税時期の通常の取引価額で評価するのが原則になります通達案。取得価額をもとにした金額の80%で評価する方法も選べます。適用は2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与からの予定です。

通達案は、土地・家屋の評価の定めとマンション通達に代わる評価方法を定めるもので、総則(6項を含む)は引き続き適用されます。新しい評価方法の下でも、総則6項が使われる余地は残ります。

2026年12月31日までの相続・贈与には通達案は適用されず、従来の評価になります。ただし総則6項のリスクはこれまでどおりあります。5年を超えて持っている物件など、通達案の対象外の財産も、総則6項の対象外になるわけではありません。

総則6項が適用されると、いくらで課税されますか?

判決の事案では、不動産鑑定評価額で課税されました。判決は、課税した価額が客観的な交換価値(時価)を超えない限り、通達評価額を上回っても相続税法22条には反しないとしています。

通達評価額と時価の差が何倍になると適用されますか?

数値の基準はありません。判決は差の大きさだけでは足りないとし、税負担を減らす行為の意図や、軽減の程度、ほかの納税者との不均衡を考慮しました。

総則6項が適用されるかどうか、事前に税務署に確認できますか?

国税庁の「個別評価申出書」は、財産評価基準書で「個別評価」と表示された土地等について、評価を求める手続です。総則6項の適用について事前に照会する制度ではありません。

よくある誤解

  • 「借入れで不動産を買うと必ず否認される」→ 差が大きいだけでは足りないとされています。否認されたのは、税負担の軽減を意図した購入・借入れで税額が0円になり、看過しがたい不均衡が生じた事案です。
  • 「通達どおりに評価すれば必ず安全」→ 総則6項により、鑑定評価額などで課税されることがあります。
  • 「借入金の分だけ相続税が減る」→ 借入金は借りた現金と相殺されるだけです。課税価格が下がるのは、不動産の時価と評価額の差によります。
  • 「2026年中の相続なら見直し前なので問題ない」→ 通達案は適用されませんが、総則6項のリスクは残ります。

他の章とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

判決の特定と根拠

最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件)、民集76巻4号411頁で、結論は上告棄却(納税者の敗訴)です。根拠は相続税法22条、評基通1・6です。

実務論点

  • 判決は、22条違反か(客観的な交換価値を超えるか)と、平等原則違反か(通達評価額を上回る評価に合理的な理由があるか)を分けて検討しています。
  • 合理的な理由の判断で考慮されたのは、相続税負担の軽減を知り期待して行為を企画・実行したこと、税負担が著しく軽減されたこと、行為をしない(できない)納税者との不均衡です。乖離の大きさのみでは足りないとされています。
  • 調査官解説(法曹時報75巻12号178頁)は、このような乖離は本来、評価通達の見直し等で解消されるべきものと指摘しており、国税庁の政府税制調査会資料でも引用されています。
  • 株式14件の内訳は、2015事務年度1件、2017事務年度3件、2019事務年度1件、2022事務年度3件、2023事務年度6件です。
  • 政府税調資料の小口化商品の例は、受贈者が18歳未満で特例税率の対象外のため、一般税率で検算できます。(3,000万円−110万円)×50%−250万円=1,195万円、(480万円−110万円)×20%−25万円=49万円です。
  • 貸付用不動産の通達案は、評基通の第2章〜第4章とマンション通達の定めにかかわらず評価する構成で、第1章(総則)は引き続き適用されます。
第15章

2027年からの貸付用不動産・小口化商品の評価見直し(通達案)

賃貸不動産や不動産小口化商品を取得して相続税評価額を下げる方法に対し、評価方法の見直しが予定されています。2026年(令和8年)10月時点では国税庁の通達案の段階で、2027年(令和9年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される予定です。

この章の結論

  • 2026年9月18日に通達案が公表され、意見公募は10月18日に締め切られます。2026年10月17日時点で通達は制定されておらず、内容や制定日は今後変わる可能性があります通達案。
  • 課税時期前5年以内に売買などで取得・新築した貸付用不動産は、通常の取引価額で評価するのが原則になります。取得価額をもとに計算した金額の80%で評価する方法も選べます。
  • 不動産小口化商品は取得時期を問わず対象です。2026年中の相続・贈与は従来の評価ですが、総則6項のリスクは残ります。

見直しの経緯と現在の状態

賃貸不動産は、路線価や固定資産税評価額による評価に加えて貸家建付地や貸家の減額を受けるため、相続税評価額が市場価格を大きく下回ることがあります。国税庁は、最高裁令和4年判決の後もこの差を使った評価の圧縮が続いていると説明しています(総則6項と最高裁令和4年判決)。

2025年(令和7年)12月19日の令和8年度税制改正大綱は、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額の乖離の実態を踏まえ、評価方法を見直すとしました。相続税法の改正ではなく、国税庁の通達で対応します。

国税庁は2026年9月18日、法令解釈通達「貸付用不動産の評価について」の案を公表し、意見公募を始めました。締切は10月18日17時です。財産評価基本通達そのものの改正ではなく、新しい個別の通達として定める形です。通達の制定日は案では空欄で、まだ決まっていません。

  1. 2025年12月19日令和8年度税制改正大綱で、貸付用不動産と不動産小口化商品の評価を通達で見直すことを決定
  2. 2026年9月18日国税庁が通達案を公表し、意見公募を開始
  3. 2026年10月18日意見公募の締切(17時)
  4. 時期未定通達の制定(制定日が経過措置の基準日になる)
  5. 2027年1月1日この日以後に相続・遺贈・贈与で取得する財産から適用予定

2026年12月31日までの相続・贈与には適用されず、従来どおり路線価や固定資産税評価額、貸家建付地などで評価します。この章は案に基づく説明で、最終的な通達で文言や数値が変わる可能性があります。

対象になる貸付用不動産:5年以内の取得・新築

「貸付用不動産」は、全部または一部が借家権の目的になっている家屋(附属設備・構築物を含む)と、その家屋の敷地である宅地や借地権などです。家屋と併せて賃貸されている土地も含みます。アパートや賃貸マンション、賃貸ビルとその敷地がこれに当たります。

対象は、課税時期(相続は死亡の日、贈与は取得の日)の前5年以内に、売買など対価を伴う取引で取得または新築したものです。取得の時期は原則として引渡しの時で判定します。

土地等と家屋等は、それぞれの取得の時期で判定します。5年を超えて持っている土地は、その上の建物が新しくても、土地としては対象になりません。建物は、後で説明する経過措置に当たるかを確認します。

案では、5年以内に取得等されたものに「相続等により取得されたもの」も含めています。親が購入した物件を子が相続し、もとの購入から5年以内に子が亡くなった場合も対象になる、と読む解説があります(最終的な通達で確認が必要です)。

自宅など貸し付けていない不動産は対象外です。民間の解説では、建物のない月極駐車場や資材置場のような土地だけの貸付けは対象外、アパートと一体の入居者用駐車場は対象と読まれています。

対象になるかの確認(通達案ベース)

  • 相続・遺贈・贈与の日が2027年1月1日以後か
  • 賃貸している建物(借家権の目的になっている家屋)か、その敷地か
  • その日の前5年以内に、売買など対価を伴う取引で取得・新築したか(引渡しの時で判定。土地と建物は別に判定)
  • 収用の代替資産・交換・買換え特例・増改築部分・経過措置の除外に当たらないか
  • 不動産特定共同事業の契約や分割された信託受益権の商品か(該当すれば取得時期に関係なく小口化商品の評価)

評価の方法:通常の取引価額と80%評価

対象の貸付用不動産は、課税時期の通常の取引価額に相当する金額で評価するのが原則です。評基通の土地・家屋・構築物の評価の定めと、マンション通達の定めにかかわらず、この方法によります。

取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、次の金額の100分の80で評価することもできます。取得価額には、取得に要した金額のほか改良費や設備費を含みます。

80%評価の計算方法(通達案)
区分80%を掛ける前の金額計算のポイント
土地等取得価額×地価変動率地価変動率=課税時期の年の評価基準額÷取得時の年の評価基準額。評価基準額は路線価(倍率地域は倍率方式による価額)。適当でない場合は公示価格などの公的な価格情報
家屋等取得価額−償却費の額の合計額償却費は定額法(耐用年数は耐用年数省令)。取得から課税時期までの1年未満の端数は1年

価格の著しい変動などがある場合は、その事情を考慮します。案は土地・家屋の評価の定めにかかわらず評価する構成のため、80%評価からさらに貸家建付地や貸家の減額をすることはできないと解されています。5年以内に取得した貸付用の区分所有マンションも、対象になれば通達案がマンション通達より優先します。

計算例:5年以内に購入した新築の賃貸マンション(数値はすべて仮定・通達案ベース)

前提:2026年4月に新築の一棟賃貸マンションを1億5,000万円(土地6,000万円・建物9,000万円)で第三者から購入し、引渡しを受けました。取得価額は取得時の通常の取引価額に相当し、土地も同時に購入しているため経過措置には当たりません。全室賃貸中で、2029年(令和11年)6月に相続が発生しました。正面路線の路線価は2026年分25万円、2029年分26万円です。建物は鉄筋コンクリート造で、耐用年数47年・定額法償却率0.022と仮定します。

経過年数:2026年4月〜2029年6月=3年2か月→1年未満の端数を1年として4年
地価変動率:26万円÷25万円=1.04
土地等:6,000万円×1.04×80%=4,992万円
家屋等:(9,000万円−9,000万円×0.022×4)×80%=(9,000万円−792万円)×80%=65,664,000円
合計:49,920,000円+65,664,000円=115,584,000円

答え:1億1,558万4,000円(取得価額の約77%)

参考:同じ時点を従来の方法で評価した場合と比べます。自用地評価額は5,200万円(路線価26万円×200㎡、画地調整なし)、建物の固定資産税評価額は5,400万円、借地権割合60%、借家権割合30%と仮定します。土地は5,200万円×(1−0.6×0.3×1.0)=4,264万円、建物は5,400万円×(1−0.3×1.0)=3,780万円で、合計8,044万円(約54%)です。この仮定では、通達案の80%評価のほうが3,514万4,000円高くなります。

対象から外れるもの:買換え・交換・増改築・経過措置

5年以内に取得したものでも、課税上の弊害がない限り、次のものは対象から外れます通達案。

  • 収用等による代替資産、交換処分等・換地処分等による取得、収用交換等の5,000万円特別控除に伴い2年以内に取得した代替資産などで、取得価額が譲渡した資産の譲渡価額の120%以下のもの
  • 所得税法58条(固定資産の交換の特例)の適用を受けたもの(5年以内に取得した資産との交換によるものを除く)
  • 措置法37条1項(特定の事業用資産の買換え)の表の第3号の買換資産で、2029年3月31日までの譲渡に係り、取得価額が譲渡価額の120%以下のもの
  • 5年以内に行った増築・改築の部分で、もとの家屋等が5年以内に取得等したものでないもの(または5年以内に相続等で取得したもの)
  • 次の経過措置に当たる家屋等

経過措置

通達制定日までに新築された家屋等(建築中を含む)で、その敷地が次のどちらかに当たるものは対象外です。

  • 通達制定日前5年以内に取得したもの以外の土地等(制定日の5年より前から持っている土地)
  • 通達制定日前5年以内に相続等で取得した土地等

「建築中」とは、通達制定日までに新築の請負契約などが結ばれ、同日に工事が行われ、費用の全部または一部が支払われている状態をいいます。制定日前5年以内に購入した土地の上の建物は、経過措置の対象になりません。制定日より後に新築する建物は、古くから持っている土地の上でも対象です。

通達制定日は決まっていないため、経過措置の基準日もまだ確定していません。建築を計画している場合は、制定日の公表を確認する必要があります。

不動産小口化商品の評価

不動産特定共同事業契約に基づく権利や、事業者などが分割した信託受益権の対象になっている貸付用不動産(特定小口化商品)は、取得時期を問わず対象です。5年以内という要件はありません。

原則は課税時期の通常の取引価額です。案が定める「元本等相当額」が適正な価格情報に基づくと認められる場合はP1で評価でき、P2・P3が明らかなときはP1〜P3のうち最も低い金額によることもできます。

特定小口化商品の簡便な評価(通達案)
区分金額
P1元本等相当額×90%。事業開始が課税時期前5年以内なら、元本等相当額を地価変動率・償却費で修正した金額×95%
P2課税時期の精通者意見価格等(事業者の適正な価格情報を含む)
P3課税時期前1年以内の鑑定評価額(事業者が依頼したもので課税時期に最も近いもの)×95%

「5年以内」は、投資家が取得した時ではなく事業が始まった時から判定すると解説されています。事業開始から5年を超え、元本等相当額が1,000万円なら、P1は1,000万円×90%=900万円です。事業者の破綻などで事業の継続が難しく、精通者意見価格等もない場合は、原則に準じて評価します。

他の制度との関係と2026年中の相続・贈与

小規模宅地等の特例は法律(租税特別措置法69条の4)の制度で、通達案では変わりません。評価額が変わるため、特例で減る金額が変わります。贈与で取得した宅地等には、この特例は使えません。

貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減です施行中。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸し付けた宅地等は対象外です。被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、例外として対象になります(貸付事業用宅地等)。

非上場株式の純資産価額を計算するときの会社の土地・建物には、通達案は適用しないと明記されています。純資産価額では従来から、課税時期前3年以内に会社が取得・新築した土地・建物を通常の取引価額で評価しており、このルールは変わりません。

総則6項は、通達案の下でも引き続き適用されます。2026年12月31日までの相続・贈与は従来の評価ですが、総則6項のリスクはこれまでどおりあります。

2026年中に購入した物件でも、2027年以後の相続・贈与の時点で購入から5年以内なら対象になります。いま取得を検討している場合は、相続・贈与が5年以内に起きた場合の評価額も見込んでおく必要があります。

よくある誤り

  • 「貸付用不動産の評価は改正された」→ 2026年10月17日時点では通達案で、制定日・最終的な内容は決まっていません。
  • 「80%で評価するのが原則」→ 原則は通常の取引価額です。80%は、取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合に選べる方法です。
  • 「80%評価にさらに貸家建付地の減額をする」→ 案の構成上、重ねて減額できないと解されています。
  • 「小口化商品も5年以内に買ったものだけが対象」→ 取得時期を問いません。95%は事業開始から5年以内の場合で、元本等相当額を修正した金額に掛けます。
  • 「非上場株式の純資産価額にも80%評価が及ぶ」→ 適用されません。会社が3年以内に取得した土地・建物は従来どおり通常の取引価額です。

他の税金・章とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

通達案の位置づけ

  • 法令解釈通達「貸付用不動産の評価について」(案)です。根拠は相続税法22条と令和8年度税制改正大綱(二 資産課税 三 その他(国税)4)で、e-Govの案件番号は410080055です。
  • 評基通の第2章〜第4章とマンション通達(令和5年9月28日付課評2-74・課資2-16)の定めにかかわらず評価する構成で、第1章(総則。6項を含む)は適用されます。
  • 大綱では、5年以内取得の貸付用不動産は通常の取引価額とし、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価変動等を考慮した価額の100分の80でもよいとされました。小口化商品は取得時期にかかわらず通常の取引価額とし、事業者が示す処分・買取価格、売買実例、定期報告書等の価格を参酌できるとされました。通達で定める日の5年前から所有する土地に同日までに新築した家屋(建築中を含む)は、適用除外とされています。

記1(貸付用不動産)の実務論点

  • 5年の起算点は対価を伴う取引による取得等の時です。「相続等により取得されたものを含む」を、相続を挟んでも対価による取得等から5年以内なら対象と読む解説がありますが、最終通達・国税庁の解説での確認が必要です。
  • 地価変動率はPX÷PN(PX=課税時期の属する年の評価基準額、PN=取得時の属する年の評価基準額)です。端数処理の定めは最終通達で確認してください。
  • 家屋等の償却費は定額法・耐用年数省令によります。計算例の償却率0.022は耐用年数47年の定額法償却率として一般的な値を仮定したもので、案が償却率をどう定めるかは最終通達で確認してください。
  • 評基通185(純資産価額)で土地等・家屋等を評価する場合は適用しない旨の注記があります。185の3年以内取得ルールとは別物です。
  • 除外の根拠条文は、措法33条1項、33条の2第1項・2項、33条の3、33条の4第1項、所法58条、措法37条1項(表の第3号)です。経過措置の案文上の主語は家屋等で、敷地の土地等の扱いは明記されていません(5年超保有の土地はもともと対象外です)。

記2(特定小口化商品)の実務論点

  • 対象は、不動産特定共同事業法2条3項1号・3号の契約に基づく権利(これに相当するものを含む)と、金融商品取引法2条2項1号の信託受益権で事業関係者により分割されたものです。
  • 事業開始から5年超で元本等相当額によることが不適当な場合は、売買実例価額や定期報告書等の価格変動割合で修正した金額によりますが、この場合の乗率は案文上明記されていません。
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このページの出典・参考資料(131件)

このページは、2026年10月17日時点で確認できた法令・通達・国税庁などの公表資料にもとづく一般的な解説です。税制や運用は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。実際の申告・手続の際は、最新の公表資料を確認するか、税理士などの専門家にご相談ください。

計算例・設例の数値は説明のための仮定です。計算ツールの結果は概算で、正確性や個別の結果を保証するものではありません。確定度ラベル(施行中・成立・施行待ち・通達案・検討中・要望段階など)は2026年10月17日時点の状態を示します。

最終確認日:2026年10月17日 作成:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)

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