贈与税 完全ガイド|暦年課税・相続時精算課税・非課税特例・名義預金

贈与税は相続税を補う税金で、暦年課税と相続時精算課税の2つの方法があります。税率と計算、選び方、非課税の特例、みなし贈与、名義預金と贈与の証拠、申告・納付までを、2026年10月時点の制度で解説します。

相続税・贈与税 総合ガイド|贈与税

贈与税暦年課税と相続時精算課税、非課税特例、みなし贈与、名義預金

2024年から相続時精算課税に年110万円の基礎控除ができ、暦年課税の生前贈与加算は2027年から段階的に7年へ延びます。どちらの方法が向いているかは、財産の規模と種類、贈与する人の年齢で変わります。

暦年・精算課税・住宅資金・配偶者控除の計算ツール2026年12月31日の期限に注意2026年10月17日時点
110万円暦年課税の基礎控除出典:国税庁 No.4408
年110万円+2,500万円相続時精算課税の控除出典:国税庁 No.4103
2026年12月31日住宅取得等資金の非課税の期限出典:国税庁 No.4508
2,000万円贈与税の配偶者控除出典:国税庁 No.4452
第1章

贈与税の仕組み:暦年課税と相続時精算課税

贈与税は、個人から財産をもらった人が納める税金です。計算方法は「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つで、どちらを使うかにより、贈与したときの税金も相続のときの扱いも変わります。

この章の結論

  • 贈与税を納めるのはもらった人(受贈者)です。相続税を補う税金で、法人からもらった財産には贈与税ではなく所得税がかかります。
  • 手続をしなければ暦年課税(年110万円を引き、10%〜55%の累進税率)です。60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫などへの贈与は、届出により相続時精算課税を選べます。年110万円と累計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた部分は20%です(贈与者が亡くなったときに相続税で精算します)。一度選ぶと撤回できません。
  • 申告・納付は、もらった年の翌年2月1日〜3月15日に受贈者の住所地の税務署へ行います。2026年(令和8年)中の贈与なら2027年(令和9年)2月1日(月)〜3月15日(月)です。

贈与税とは:もらった人が納め、相続税を補う税金

贈与税は、個人から財産を無償でもらったときにかかる税金です。納めるのは、あげた人(贈与者)ではなく、もらった人(受贈者)です。

生前の贈与に税金がかからなければ、亡くなる前に財産を家族へ配るだけで相続税の負担を免れられてしまいます。そこで、生前の財産の移転に課税して相続税を補うのが贈与税の役割です。国税庁も、贈与税を「相続税を補う税」と位置づけ、申告していない人を中心に調査しています。

非課税の枠も大きく違います。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですが、暦年課税の贈与税の基礎控除は、もらう人1人につき年110万円です。

贈与税は「もらった人ごと」「1年(1月1日〜12月31日)ごと」に計算し、暦年課税では同じ年に複数の人からもらった財産をすべて合計します。法人(会社)からもらった財産は、所得税(一時所得など)の対象です(法人と個人の間の贈与)。契約上は贈与でなくても、保険金の受取りや時価より安い売買などで実質的に財産をもらったのと同じ利益を受けると、「みなし贈与」として課税されます(みなし贈与)。

2025年(令和7年)分の贈与税の申告人員は47万人(暦年課税39万人、相続時精算課税8万人)、申告納税額は5,038億円でした(国税庁、2026年5月公表)。

2つの課税方法:暦年課税と相続時精算課税

暦年課税は原則の計算方法で、誰からの贈与にも使えます。1年間にもらった財産の合計から基礎控除110万円を引き、残りに10%〜55%の累進税率をかけます。税率は2種類あり、その年の1月1日に18歳以上の人が直系尊属(父母・祖父母など)からもらった財産は「特例税率」、それ以外は「一般税率」です(暦年課税の計算)。

相続時精算課税は、贈与のときの負担を軽くし、贈与した人が亡くなったときに相続税で精算する方法です。贈与の年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母などから、同日に18歳以上の子・孫などが受ける贈与で、受贈者が選んだ場合に使えます。年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除を引き、超えた部分に一律20%をかけます(相続時精算課税:年110万円の基礎控除と2,500万円)。

精算課税は贈与者ごとに選びます。父からは精算課税、祖母からは暦年課税という使い分けもできます。

暦年課税と相続時精算課税の比較(2026年10月時点)
観点暦年課税相続時精算課税
使える人誰からの贈与でも60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫などへ(年齢は贈与の年の1月1日で判定)
毎年の基礎控除110万円(受贈者1人につき。暦年課税でもらった財産の合計から引く)110万円(受贈者1人につき。精算課税の贈与者が複数なら按分)施行中
累計の特別控除なし特別控除2,500万円(贈与者ごと。期限内申告が条件)
税率10%〜55%の累進特別控除を超えた部分に一律20%
選ぶ手続不要最初の年の翌年2月1日〜3月15日に選択届出書を提出(贈与者ごと)
やめられるか要件を満たせば、後の年から精算課税を選べる撤回できない
相続のときに加算される贈与相続などで財産を取得した人が、相続開始前の一定期間(2026年中の相続は3年、段階的に7年へ)に受けた贈与。110万円以下も含む選択後のすべての贈与(年110万円の基礎控除の部分を除く)
加算する金額贈与時の価額贈与時の価額から基礎控除を引いた額
納めた贈与税相続税から差し引く(還付なし)相続税から差し引き、引ききれない分は還付

相続のときの扱いの違い

2つの方法の最大の違いは、贈与した人が亡くなったときの扱いです。暦年課税の贈与は、相続・遺贈などで財産を取得した人が受けたもののうち、次の期間内の分が相続財産に加算されます(生前贈与加算)施行中。

  • 2026年12月31日までの相続:相続開始前3年以内の贈与
  • 2027年1月1日〜2030年(令和12年)12月31日の相続:2024年(令和6年)1月1日以後の贈与
  • 2031年(令和13年)1月1日以後の相続:相続開始前7年以内の贈与

110万円以下の贈与も加算され、3年より前の延長部分は合計から100万円を引いて加算します(生前贈与加算(7年加算)と相続時精算課税の加算)。遺産も死亡保険金なども受け取らない孫などへの贈与は加算されません。

精算課税の贈与は、期間に関係なく選択後の分がすべて加算されますが、年110万円の基礎控除の部分は加算されません。加算額は贈与時の価額で固定され、その後の値上がり・値下がりは反映されません(災害で被害を受けた土地・建物の特例を除きます)。納めた贈与税は相続税から差し引かれ、引ききれない分は還付されます(相続時精算課税の精算と還付)。

計算例:父から現金500万円をもらった場合(2026年中の贈与)

前提:子は2026年1月1日に18歳以上、父は同日に60歳以上。この年に子へのほかの贈与はありません。

暦年課税(父は直系尊属なので特例税率):(500万円−110万円)×15%−10万円=48.5万円
相続時精算課税:500万円−110万円=390万円 → 特別控除390万円を使う → 贈与税0円(特別控除の残りは2,500万円−390万円=2,110万円)

精算課税でも110万円を超えるので、期限内の申告と選択届出書の提出が必要です。暦年課税の場合、この贈与が加算されるのは、父の相続で財産を取得し、加算期間内に当たるときです。

答え:贈与した年の税金は、暦年課税なら48.5万円、精算課税なら0円です。ただし精算課税では、父の相続のときに期間に関係なく390万円が相続財産に加算されます。

海外に住む人への贈与:納税義務者の区分

贈与税の納税義務者は、贈与時の受贈者と贈与者の住所などで4つに区分され、課税される財産の範囲が変わります。

贈与税の納税義務者の区分と課税される財産
区分課税される財産
居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者もらった財産の全部(国内・国外を問わない)
居住制限納税義務者・非居住制限納税義務者国内にある財産のみ

受贈者が日本に住んでいれば、原則として国外の財産も課税されます。海外に住む受贈者の区分は、日本国籍の有無、贈与前10年以内に日本に住所があったか、贈与者の住所や在留資格などの組み合わせで決まります。例えば、日本国籍のある人が海外に移っても、贈与前10年以内に日本に住所があれば、国外の財産も含めて課税されるとされています。

住所は「生活の本拠」で判定し、日本国籍のある人の海外勤務がおおむね1年以内と見込まれる場合などは、日本に住所があるものとして扱います。日本に住所がない受贈者は、納税管理人を定めて届け出たうえで申告します。判定が複雑なため、国外が絡む贈与は事前に確認してください(相続税の納税義務者と国外財産、国際相続:海外資産と海外在住の相続人)。

申告と納付の要点

次のどれかに当たる人は申告が必要です。

  • 暦年課税で、その年にもらった財産の合計が110万円を超える人
  • 精算課税で、その年にもらった財産が110万円を超える人(精算課税の贈与者が複数なら合計で判定)
  • 精算課税を初めて選ぶ人(申告が不要な年でも選択届出書の提出が必要)
  • 贈与税の配偶者控除や住宅取得等資金の非課税を受ける人(税額0円でも必要。住宅取得等資金の非課税は2026年12月31日までの贈与が対象期限あり)

申告期間は翌年2月1日〜3月15日(期限が土日祝日なら翌平日)で、提出先は受贈者の住所地の税務署です。亡くなった人の住所地で申告する相続税とは異なります。e-Taxも使えます。

納付は申告期限までに金銭で一括が原則です。税額が10万円を超え一括で納めるのが難しい場合は、原則として担保を提供して、5年以内の延納を申請できます。物納の制度はなく、振替納税も使えません(贈与税の申告・納付・延納・期間制限)。

よくある誤り

  • 「年110万円以下の贈与なら相続のときも関係ない」:暦年課税の贈与は、相続などで財産を取得する人なら、加算期間内の分は110万円以下でも加算されます。逆に、精算課税の年110万円の基礎控除の部分は加算されません。
  • 「精算課税を選んでも、あとで暦年課税に戻せる」:戻せません。その贈与者からの贈与には、暦年課税の110万円の基礎控除も使えなくなります(精算課税の110万円に置き換わります)。
  • 「海外に住めば贈与税はかからない」:日本国籍のある受贈者は、贈与前10年以内に日本に住所があった場合などは、国外の財産も含めて課税されるとされています。
贈与税は、あげた人ともらった人のどちらが払うのですか?

もらった人が申告して納めます。受贈者が納めないときは、贈与者が、贈与した財産の価額を限度に連帯して納付を求められることがあります。贈与者が受贈者の贈与税を代わりに払うと、その分が新たな贈与とされることがあります。

親子や夫婦の間でも贈与税はかかりますか?

かかります。ただし、生活費や教育費を必要な都度、直接渡す場合などは非課税です(贈与税がかからない財産・場合)。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠条文

  • 納税義務者・課税財産の範囲:相続税法1条の4、2条の2(一時居住者は1条の3第3項)。区分は財産を取得した時ごとに判定(相基通21の2-1)。
  • 暦年課税:相続税法21条の2、21条の5・措法70条の2の4(基礎控除110万円)、21条の7(一般税率)、措法70条の2の5(特例税率)。
  • 相続時精算課税:相続税法21条の9〜21条の18。年110万円の基礎控除は21条の11の2・措法70条の3の2(2024年1月1日以後の贈与)。
  • 申告・納付:相続税法28条、33条、34条4項(贈与者の連帯納付義務)、38条3項・39条(延納)。法人からの贈与は21条の3第1項1号で非課税、所基通34-1(5)で一時所得。

実務論点

  • 精算課税の基礎控除は、同じ年に2人以上の特定贈与者がいれば課税価格の比で按分(相基通21の11の2-2)。特別控除は期限内申告書の提出が要件で宥恕規定なし(21の12-1)、届出書の期限後提出による選択も不可(21の9-3)。期限内に届出書だけを出していれば期限後申告でも精算課税は適用されますが、その年の特別控除は使えず翌年以降に繰り越されます(質疑応答事例)。
  • 2023年(令和5年)以前に選択済みの人は、2024年以後の贈与に再度の届出は不要です。選択前に同じ贈与者から受けた暦年課税の贈与で加算対象期間内のものは生前贈与加算の対象です(相基通19-11)。
  • 端数処理:控除後の課税価格は1,000円未満切捨て(相基通21の2-5)、税額は100円未満切捨て(21の7-1。暦年課税分と精算課税分の合計で判定)。
  • 受贈者が財産を費消するなどして資力を喪失し納付困難なために行われた連帯納付には、求償権の放棄をみなし贈与とする相基通8-3の取扱いは適用されません(相基通34-3)。

納税義務者の区分で使う用語

一時居住者
贈与時に在留資格(入管法別表第一)を有し、贈与前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の人。
外国人贈与者
贈与時に在留資格を有し、かつ国内に住所を有していた贈与者(2021年(令和3年)4月1日以後の贈与では居住期間の要件なし)。
非居住贈与者
贈与時に国内に住所がない贈与者のうち、贈与前10年以内に国内に住所があり、そのいずれの時も日本国籍がなかった人、又は贈与前10年以内に国内に住所がなかった人。

住所の判定は相基通1の3・1の4共-5〜共-7(重国籍者は日本国籍を有する個人に含む)。受贈者が一時居住者で、贈与者が外国人贈与者又は非居住贈与者の場合は居住制限納税義務者になるとされています。判定表はタックスアンサーNo.4432を参照してください。

第2章

贈与の成立と課税の時期

贈与税は、贈与によって財産を取得した時にかかります。贈与がいつ成立し、どの年の贈与になるかで、税額や申告の要否、相続税への加算まで変わります。

この章の結論

  • 贈与は「あげる」と「もらう」の合意で成立する契約です。もらう人が知らないまま名義だけを移しても、贈与は成立していないと判断されることがあります。
  • 課税の時期は、口頭の贈与なら実際に渡した時(履行の時)、書面による贈与なら契約の効力が生じた時です。年末に約束して翌年に振り込めば、翌年分の贈与です。
  • 不動産や株式で「登記・登録の時」に贈与があったとされるのは、贈与の時期がはっきりしない場合の取扱いです。「登記した日が必ず贈与の日」ではありません。

贈与は「あげる」と「もらう」の合意で成立する

民法上、贈与は、あげる人(贈与者)が財産を無償で与える意思を示し、もらう人(受贈者)が受け入れる(受諾する)ことで成立する契約とされています(民法549条)。書面は成立の条件ではなく、口約束でも成立します。

大事なのは、もらう人の受諾が必要な点です。親が子の名義の口座に積み立てていても、子がそれを知らず、通帳や印鑑も親が管理していれば「あげたつもり」にすぎず、贈与は成立していないと判断されることがあります。その預金は親の財産(名義預金)として、親の相続のときに相続税の対象になります。

国税庁の資料は、名義にかかわらず誰の財産かを判断する要素として3つを示しています。「誰が資金を出したか」「誰が管理・運用していたか」「贈与の事実(あげる・もらうの合意)があったか」です。詳しくは名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方で説明します。

受贈者が未成年のときは、親権者が法定代理人として受諾することができます。国税不服審判所の裁決にも、未成年の子の名義の口座について、親権者の受諾と贈与のための入金の実態を認め、子の財産と判断した例があります。

書面によらない贈与と書面による贈与

書面によらない贈与(口約束の贈与)は、まだ渡していない部分に限り、あげる側ももらう側も解除できるとされています。渡し終わった部分は解除できません(民法550条)。2020年(令和2年)4月1日施行の民法改正で、用語が「撤回」から「解除」に改められましたが、実質は変わっていません施行中。

書面による贈与は解除できません。書面があると、①贈与の時期が「契約の効力が生じた時」としてはっきりする、②一方的に取りやめられない、③「あげる」「もらう」の合意の証拠になる、という効果があります。

ただし、書面があっても、受渡しや受贈者による管理の実態がなければ、贈与と認められないことがあります。前記の裁決では、成人の子の名義の口座について、子の署名・押印がなく、子が存在も知らなかった「贈与証」だけでは、書面による贈与は成立しないと判断されました。

なお、贈与者の死亡によって効力が生じる贈与(死因贈与)は、遺贈と同じく相続税の対象で、贈与税はかかりません。

課税の時期:どの年の贈与になるか

贈与によって財産を取得した時(課税の時期)は、贈与の形によって次のように決まります。この時期で、どの年分の贈与になるか、財産をいつの時点の価額で評価するかが決まります。

贈与により財産を取得した時期(課税の時期)
贈与の形財産を取得した時期具体例・補足
書面によらない贈与(口頭)贈与の履行があった時振込・引渡しをした日。約束した日ではない
書面による贈与贈与契約の効力が発生した時契約書で効力の発生日を定めればその日、定めがなければ契約の日
停止条件付贈与条件が成就した時「大学に合格したら車をあげる」なら合格した時
農地・採草放牧地の贈与(農地法の許可・届出が必要なもの)許可があった日、又は届出の効力が生じた日許可・届出の後に贈与があったと認められる場合は、その贈与の時
登記・登録の対象となる財産(不動産・株式など)で、上の原則で時期が明確でないもの登記・登録があった時(特に反証がない限り)時期がはっきりしない場合に限った取扱い

計算例:年末に口約束し、年明けに振り込んだ場合

前提:父が子(2026年(令和8年)1月1日に18歳以上)に、2025年(令和7年)12月25日に「100万円あげる」と口頭で約束し、2026年1月8日に振り込みました。父は2026年12月にも100万円を振り込みました。契約書はなく、ほかの贈与はありません(暦年課税)。

判定:口頭の贈与は履行(振込)の時に財産を取得したものとされるので、1月8日の100万円は2026年分です。

2025年分:0円 → 申告不要
2026年分:100万円+100万円=200万円 → 200万円−110万円=90万円 → 90万円×10%=9万円(特例税率。基礎控除後200万円以下は10%)

答え:2026年分として贈与税9万円がかかり、2027年(令和9年)2月1日〜3月15日に申告・納付が必要です。約束した日ではなく振り込んだ日で年分が決まるため、2025年中の贈与にはなりません。

不動産や株式は「登記の時」とされる場合がある

不動産や株式など、登記・登録の対象になる財産には特別な扱いがあります。上の原則で贈与の時期がはっきりしないときに限り、特に反証がない限り、登記・登録があった時に贈与があったものとされます。

例えば、不動産を書面で贈与したことにして登記を数年後にした場合、契約書の日付が実体を伴わない形だけのものであれば、登記の時の贈与と認定されることがあります。逆に、書面による贈与の効力が生じた時期が実体を伴って明らかであれば、原則どおりその時が贈与の時期です。

「登記した日が必ず贈与の日」と考えるのも、「契約書の日付を前にしておけばその年の贈与になる」と考えるのも誤りです。

時期の判断が税金に与える影響

  • 年分と申告:どの年分かで、その年のほかの贈与との合計、基礎控除110万円を超えるか、申告期限が決まります。
  • 相続税への加算:生前贈与加算の対象期間に入るかどうかも、贈与の時期で判定します。前記の裁決の事案では、2001年(平成13年)に「贈与証」が作られ、毎年子の名義の口座に入金されていました。しかし成人の子については、贈与の成立・履行は、残高を払い出して通帳とともに子へ渡した2015年(平成27年)8月と認定されました。その結果、相続開始前3年以内の贈与として相続税に加算されています(生前贈与加算)。
  • まとめて約束した場合:最初に「10年間毎年100万円ずつ贈与する」と約束すると、約束した年に「定期金に関する権利」の贈与を受けたものとして課税されます。
  • 贈与をやめた場合:法律に定められた取消権・解除権に基づいて取り消し・解除した場合は、贈与がなかったものとされます。当事者の合意による解除では、贈与税が課税されます。

よくある誤り

  • 「年末に約束したから今年の贈与」:口頭の贈与は実際に渡した時の年分です。12月に約束して翌年1月に振り込めば、翌年のほかの贈与と合計されます。
  • 「贈与契約書を作れば、その日付で贈与が成立する」:受贈者の受諾と、受渡し・管理の実態が伴わなければ、贈与と認められないことがあります。
  • 「不動産は登記した日が贈与の日」:登記の時とされるのは、贈与の時期がはっきりしない場合の取扱いです。

実務のコツ:時期と合意をはっきりさせる

法令上の要件ではありませんが、贈与のたびに受贈者も署名した契約書を作り、引渡しの時期を書いておきます。その時期に受贈者名義の口座へ振り込めば、贈与の時期と合意の両方を説明しやすくなります。証拠の残し方のチェックリストは名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方にあります。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 民法549条(贈与の成立。諾成契約)、550条(書面によらない贈与の解除。履行の終わった部分を除く)、551条2項(負担付贈与の贈与者の担保責任)、554条(死因贈与への遺贈の規定の準用)。2020年4月1日施行の改正で、550条の「撤回」が「解除」に、549条の「自己の財産」が「ある財産」に改められました(実質的な変更はないとされています)。
  • 財産取得の時期:相基通1の3・1の4共-8〜共-11。農地等は農地法3条1項・5条1項本文の許可、又は5条1項6号の届出を要するもの。共-11は、登記・登録の目的となる財産について時期が明確でない場合に、反証のない限り登記・登録の時(鉱業権は鉱業原簿への登録の日)とする推定的な取扱いです。
  • 死因贈与:相続税法1条の3(「遺贈」に贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む)。小規模宅地等の特例(措法69条の4)は相続・遺贈(死因贈与を含む)による取得が対象で、贈与(死因贈与を除く)で取得した宅地等は、生前贈与加算や相続時精算課税で課税価格に含まれても適用されません。
  • 名義変更通達(昭和39年5月23日直審(資)22・直資68):法定の取消権・解除権に基づく取消し・解除は贈与がなかったものとし(第8項。申告後なら国税通則法23条2項の更正の請求、第9項)、合意による取消し・解除は贈与税を課税(第11項)。取消し等に伴う名義の回復は贈与として扱いません(第12項)。
  • 定期金の権利の贈与:都度の贈与契約なら各年に暦年課税の基礎控除が適用され、当初に総額・回数を約束した場合は約束した年に定期金に関する権利の贈与となります(タックスアンサーNo.4402 Q&A。評価は相続税法24条)。

実務論点

  • 令和3年9月17日裁決(国税不服審判所):被相続人が2001年に子4人への毎年の贈与を記した「贈与証」を作り、妻が子名義の口座へ毎年入金。成人の子については受贈者の署名押印がなく存在も知らなかったため書面による贈与を否定し、口座は被相続人の支配下にあったとして、2015年8月の払出し・通帳の交付の時に贈与が成立・履行されたと認定(相続開始前3年以内の贈与として加算)。未成年だった子については、唯一の親権者が法定代理人として受諾し、口座は贈与の履行のために開設され入金は贈与分のみであったとして、子に帰属すると判断しました。事実認定による判断で、一般化はできません。
  • 書面による贈与で効力発生日と登記日が離れる場合、契約書の日付の実体性(履行・管理の状況)が共-11の「反証」として問われます。
  • 譲渡所得では、贈与で取得した資産は贈与者の取得費・取得時期を引き継ぎます(所得税法60条1項1号)。贈与税の課税時期とは別の概念です。
第3章

贈与税がかからない財産・場合

財産をもらっても、法律で贈与税がかからないとされているものがあります。ただし多くは「通常必要な範囲」「社会通念上相当」といった条件付きで、渡し方や使い方によっては課税されます。

この章の結論

  • 扶養義務者(親・祖父母・配偶者など)からの生活費・教育費は、必要な都度、直接その費用に充てる分に限り非課税です。まとめて渡して預金や投資に回すと課税されます。
  • 法人からもらった財産は贈与税ではなく所得税の対象です。香典・祝い金・見舞いなどは社会通念上相当な範囲で非課税、離婚の財産分与は原則非課税(過当な部分や税逃れ目的なら課税)です。
  • 相続・遺贈で財産を取得した人が、亡くなった年に故人から受けた贈与は、贈与税ではなく相続税の計算に入ります。何も取得しない人は贈与税の申告が必要です。

贈与税がかからない財産の一覧

国税庁は、贈与税がかからない財産として次のものを挙げています。

贈与税がかからない主な財産(2026年(令和8年)10月時点)
非課税になるもの条件・ポイント
法人からの贈与で取得した財産贈与税ではなく所得税の対象(原則は一時所得)
扶養義務者からの生活費・教育費通常必要と認められるもので、必要な都度、直接充てるものに限る
宗教・慈善・学術など公益を目的とする事業を行う一定の人が取得した財産その公益目的の事業に使われることが確実なもの
公益信託から交付される金品など公益信託の受託者が信託財産として取得したものを含む
地方公共団体の条例による心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権給付金を受け取る権利そのものが非課税
公職の候補者が選挙運動に関して取得した金品など公職選挙法の規定で報告されたもの
特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権特別障害者は6,000万円、それ以外の一定の特定障害者は3,000万円まで。信託の際に申告書の提出が必要
個人から受ける香典・花輪代・年末年始の贈答・祝物・見舞いなど社会通念上相当と認められるもの
直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち非課税の適用を受けた部分2026年12月31日までの贈与期限あり。税額が0円でも申告が必要
直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち非課税の適用を受けた部分2027年(令和9年)3月31日までの拠出期限あり
相続・遺贈で財産を取得した人が、相続開始の年に被相続人から受けた贈与財産贈与税ではなく相続税の課税価格に加算

住宅取得等資金と結婚・子育て資金の非課税は期限のある特例で、期限後の扱いは令和9年度税制改正(大綱は2026年12月に決定予定)で決まります。結婚・子育て資金は期限到来での廃止が要望されています要望段階(2026年10月時点で未確定。住宅取得等資金の非課税、教育資金・結婚子育て資金の一括贈与)。

教育資金の一括贈与の非課税は、2026年3月31日で新たな適用が終わりました新規適用終了。それまでに拠出された分は既存の契約で管理が続き、受贈者が30歳になったときや贈与者が亡くなったときの課税も残ります。

生活費・教育費は「必要な都度・直接」が条件

家族の生活費や学費を負担しても、条件を満たせば贈与税はかかりません。非課税になるのは、扶養義務者から、生活費や教育費として必要な都度、直接その費用に充てるためにもらった財産で、通常必要と認められる範囲のものに限られます。

扶養義務者には、配偶者、親・祖父母などの直系血族、兄弟姉妹などが含まれます。祖父母も直系血族なので、孫の学費を祖父母が出す場合も、この非課税の対象になりえます。

  • 生活費:通常の日常生活に必要な費用です。治療費や養育費など、子育てに関する費用も含みます(保険金や損害賠償金で補塡される部分を除きます)。
  • 教育費:学費・教材費・文具費などです。義務教育に限りません。
  • 通常必要と認められる範囲:もらう人の必要の程度と、渡す人の資力などの事情を考え合わせ、社会通念上適当と認められる範囲です。

生活費や教育費の名目でもらっても、預貯金にした場合や、株式・家屋の購入代金に充てた場合は、通常必要な範囲を超えたものとして贈与税がかかります。また、財産の利息などの果実だけを生活費に充てるために財産の名義を変えた場合は、名義を変えた時に贈与があったものとされます。

非課税になる例

  • 大学の授業料を、請求のたびに親や祖父母が学校へ直接払う
  • 毎月の生活費として必要な額を渡し、実際に生活費に使う
  • 子や孫の治療費、保育料などの子育ての費用を、必要なときに払う

課税される例

  • 「4年分の学費」としてまとめて渡し、受け取った人が預金しておく
  • 生活費の名目で渡したお金で、株式などに投資する
  • 生活費の名目で渡したお金を、家の購入代金に充てる

家の購入資金を父母・祖父母からもらう場合は、別の制度である住宅取得等資金の非課税の要件を満たせば、その範囲で非課税になります(住宅取得等資金の非課税)。

生活費・教育費の非課税に当たるかのチェック

  • 渡す人は扶養義務者(配偶者・親・祖父母・兄弟姉妹など)か
  • 必要になったその都度渡しているか(何年分も前渡ししていないか)
  • 学費・生活費などに直接使っているか(預金・投資・不動産の購入に回していないか)
  • 金額は、もらう人の必要と渡す人の資力から見て社会通念上適当か

計算例:祖父が孫に学費をまとめて渡し、孫が預金した場合

前提:2026年に、祖父が大学生の孫(2026年1月1日に18歳以上)へ「4年分の学費」として600万円を一度に渡し、孫は預金しました。この年にほかの贈与はありません。

判定:必要な都度、直接学費に充てたものではないため非課税にならず、通常の贈与として課税されます。祖父は直系尊属なので特例税率を使います。

(600万円−110万円)×20%−30万円=68万円

同じ祖父が、毎年の学費をその都度大学へ直接払っていれば非課税で、贈与税も申告も不要です。

答え:まとめて渡して預金した場合は、贈与税68万円がかかります。

香典・祝い金・見舞いと、法人からの贈与

個人から受け取る香典・花輪代、年末年始の贈答、祝い金、見舞いなどは、社会通念上相当と認められる範囲なら贈与税がかかりません。相当かどうかは、贈る人と受け取る人の関係などに照らして判断されます。名目がお祝いでも、社会通念上相当といえない高額なものは、通常の贈与として扱われます。

法人(会社など)からもらった財産に、贈与税はかかりません。贈与税は個人からの贈与にかかる税金で、法人からもらった財産は所得税の対象になります。ここでいう法人には、国や地方公共団体も含まれます。

法人からの贈与は原則として一時所得ですが、業務に関して受けるものや継続的に受けるものは除かれます。勤務先から受けるものは、給与所得などとして課税されるのが通常です(法人と個人の間の贈与)。

障害のある人の生活を支えるための特定障害者扶養信託も、信託受益権の価額のうち特別障害者は6,000万円、それ以外の一定の特定障害者は3,000万円まで非課税です。信託をするときに「障害者非課税信託申告書」を、信託会社などを通じて税務署に提出します。

離婚の財産分与

離婚(又は婚姻の取消し)による財産分与で取得した財産は、原則として贈与で取得したものにはならず、贈与税はかかりません。ただし、次の場合は贈与税がかかります。

  • 分与された財産の額が、婚姻中の夫婦の協力で得た財産の額その他一切の事情を考えても、なお多すぎる(過当な)場合:その多すぎる部分
  • 離婚を手段として贈与税や相続税を逃れようとしたと認められる場合:取得した財産の全部

一方、土地や建物を財産分与で渡した側には、分与した時の時価で譲渡したものとして譲渡所得が生じます。分与を受けた側が後でその財産を売るときの取得費は、分与を受けた時の価額です(負担付贈与・離婚の財産分与・配偶者居住権の消滅)。

亡くなった年に受けた贈与

贈与した人が、贈与したのと同じ年に亡くなることがあります。この場合の扱いは、もらった人が相続・遺贈で財産を取得したかどうかで分かれます。

相続開始の年に被相続人から受けた贈与の扱い
もらった人扱い贈与税の申告
相続・遺贈で財産を取得した人(死亡保険金・死亡退職金だけを受け取った人を含む)暦年課税の贈与は贈与税の課税価格に入れず、相続税の課税価格に加算不要
相続・遺贈で何も取得しない人(遺産も死亡保険金なども受け取らない孫・子の配偶者など)贈与税の対象(贈与財産の全額を課税価格に算入)その年の贈与の合計が110万円を超えれば必要
相続時精算課税の贈与を受けた人相続税で精算不要(初めて精算課税を選ぶなら選択届出書は必要)
婚姻期間20年以上の配偶者で、居住用不動産やその取得資金の贈与を受けた人(過去にその人から配偶者控除を受けていない場合)配偶者控除の適用があるとされる部分(最高2,000万円)は相続税に加算しない必要(配偶者控除を適用して申告)

最後の配偶者の例外を使うには贈与税の申告が欠かせないため、亡くなった年の夫婦間の自宅の贈与は、相続税の申告とあわせて確認が必要です(贈与税の配偶者控除)。

よくある誤り

  • 「教育費や生活費なら、いくらまとめて渡しても非課税」:非課税は必要な都度、直接その費用に充てる分だけです。まとめて渡して預金・投資・住宅購入に回した分は課税されます。
  • 「お祝い金や香典は、金額にかかわらず非課税」:社会通念上相当な範囲に限られます。
  • 「亡くなった年の贈与は、相続税で精算されるので誰も申告しなくてよい」:相続・遺贈で何も取得しない孫などは、贈与税の申告が必要です。
孫の大学の学費を祖父母が払うと、贈与税はかかりますか?

祖父母も扶養義務者に当たるため、必要な都度、学費に直接充てる形なら非課税になりえます。大学へ直接振り込む、請求のたびに必要な額を渡してそのまま支払う、といった方法です。数年分をまとめて渡して預金した分は課税の対象です。

生活費として毎月もらったお金の残りを貯金しています。問題になりますか?

生活費の名目でもらったお金でも、預貯金にした部分は、通常必要な範囲を超えたものとして課税の対象になりえます。必要な額をその都度もらい、生活費に充てることが非課税の前提です。

離婚の財産分与で自宅をもらいました。贈与税はかかりますか?

原則としてかかりません。ただし、分与の額が過当な部分や、税逃れ目的と認められる場合は課税されます。自宅を渡した側には、譲渡所得の申告が必要になることがあります。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 相続税法21条の3第1項各号(贈与税の非課税財産)、21条の4(特定障害者扶養信託)、相基通21の3-1〜21の3-10、21の4-1・21の4-2。
  • 生活費・教育費:相基通21の3-3(生活費の範囲。治療費・養育費その他子育てに関する費用を含み、保険金・損害賠償金で補塡される部分を除く)、21の3-4(教育費。学資・教材費・文具費等で義務教育に限らない)、21の3-5(必要な都度直接充てるものに限り、預貯金・株式や家屋の購入代金に充てた場合は該当しない)、21の3-6(通常必要と認められるもの)、21の3-7(果実だけを生活費等に充てるための名義変更)。
  • 法人からの贈与:相基通21の3-1(法人には国・地方公共団体・外国法人を含む)、21の3-2(代表者・管理者の定めのある人格のない社団・財団からの贈与も同様)、所基通34-1(5)(一時所得。業務に関して受けるもの・継続的に受けるものを除く)。
  • 公益信託(相基通21の3-8)、選挙運動に関する金品(21の3-9)、香典・祝物等(21の3-10)。
  • 離婚の財産分与:相基通9-8。分与者の譲渡所得は所基通33-1の4、分与を受けた者の取得費は所基通38-6。
  • 相続開始年の贈与:相続税法19条、21条の2第4項、相基通21の2-3(1)(相続・遺贈で財産を取得しない者は贈与税の課税価格に算入)、21の2-3(2)(精算課税の贈与は申告書の提出不要で、更正・決定もしない)、19-9(配偶者控除の特定贈与財産)。

実務論点

  • 特定障害者扶養信託:特別障害者以外の特定障害者として適用を受けた後に特別障害者となった場合は、6,000万円から適用済額を控除した残額まで追加適用できます。特別障害者として3,000万円を超えて適用を受けた後に特別障害者以外の特定障害者となった場合、追加適用はできませんが、適用済みの分が遡って取り消されることはありません(相基通21の4-1・21の4-2)。
  • 教育資金の一括贈与の非課税(措法70条の2の2)は新規適用の終了により、タックスアンサーNo.4405の非課税財産の列挙から外れています。扶養義務者が必要な都度直接教育費に充てるための贈与は、相続税法21条の3により従来どおり非課税です。
  • 扶養義務者の範囲は、配偶者、直系血族、兄弟姉妹、3親等内の親族のうち一定の者です。「通常必要と認められるもの」は被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して判断するもので、金額で一律に決まるものではありません。法令上の要件ではありませんが、請求書や振込記録など、都度・直接の支払いであることがわかる資料を残すと説明しやすくなります。
  • 相続開始の年に贈与を受けた宅地は、相続税の課税価格に加算されても小規模宅地等の特例の対象外です(措法69条の4は相続・遺贈による取得が対象。質疑応答事例)。
第4章

みなし贈与:保険金・低額譲受け・債務免除・その他の利益

「あげる」「もらう」という贈与の契約がなくても、実質的に財産をもらったのと同じ利益を受けると、贈与とみなして贈与税がかかります。これを「みなし贈与」といいます。

この章の結論

  • 保険料を負担していない人が保険金を受け取ると、保険料を負担した人からの贈与とみなされます。被保険者・保険料の負担者・受取人が全員違う契約が典型です。
  • 個人から時価より著しく低い価額で財産を買うと、時価との差額が贈与とみなされます。土地・建物の時価は通常の取引価額で、路線価などの相続税評価額ではありません。個人間の売買に「時価の2分の1」という基準はありません。
  • 借金の免除や肩代わり、同族会社への無償の財産提供による株価の上昇、対価なしで信託の受益者になることなども、みなし贈与になります。親子などの間で無利子でお金を借りると、利息に相当する金額が贈与とされることがあります。

みなし贈与とは

民法上の贈与は「あげる」「もらう」の合意による契約です(贈与の成立と課税の時期)。しかし、契約の形でなければ課税できないとすると、保険や売買の形を借りて財産を移すだけで贈与税を免れられてしまいます。そこで相続税法は、実質的に贈与と同じ経済的利益の移転があれば、贈与で取得したものと「みなして」課税しています。

みなし贈与の金額は、その年のほかの贈与と合計し、通常の贈与と同じように基礎控除110万円などを差し引いて税額を計算します。主な類型は次のとおりです。

みなし贈与の主な類型
類型根拠どんなときか誰から誰への贈与か
保険金相続税法5条保険料を負担していない人が保険金を受け取った保険料の負担者から受取人へ
定期金6条掛金を負担していない人が定期金(生命保険を除く)を受け取ることになった掛金の負担者から受取人へ
低額譲受け7条個人から著しく低い価額で財産を買った売った人から買った人へ(時価と代金の差額)
債務免除など8条借金を免除してもらった、代わりに返してもらった免除・返済をした人から債務者へ
その他の利益9条同族会社への無償の財産提供で株価が上がった、無利子で借りた など利益を受けさせた人から受けた人へ
信託9条の2適正な対価を負担せずに信託の受益者になった委託者から受益者へ

生命保険金と定期金

生命保険の満期保険金や死亡保険金を、保険料を負担していない人が受け取ると、保険料を負担した人から贈与で取得したものとみなされます。損害保険の死亡保険金も同じで、けがや病気で受け取る保険金は対象外です。保険料を複数の人が負担していた場合は、受取人以外の人が負担した割合に応じた部分が対象です。

死亡保険金の税金は、誰が保険料を負担し、誰が受け取るかで分かれます。判定は契約者の名義ではなく、実際に保険料を負担した人で行います。

死亡保険金の課税関係(契約形態の例)
被保険者保険料の負担者受取人かかる税金
夫夫子相続税(受取人が相続人なら相続、相続人以外なら遺贈で取得したものとみなす)
夫子子所得税(一時金は一時所得、年金は雑所得)
妻夫子贈与税(保険料を負担した夫から子への贈与)

満期保険金も同じ考え方で、保険料の負担者と受取人が同じなら所得税(一時所得)、違えば贈与税です。年金で受け取る場合は年金受給権に贈与税がかかり、その後毎年の年金は所得税で課税部分と非課税部分に振り分けます。契約者を変更しただけでは課税されませんが、新しい契約者が解約して解約返戻金を受け取ると、保険料の負担者からの贈与として課税されます。

計算例:夫が保険料を負担し、妻の死亡で子が保険金を受け取った場合

前提:夫が保険料を負担し、妻が被保険者、子が受取人の生命保険です。2026年(令和8年)に妻が亡くなり、子(2026年1月1日に18歳以上)が死亡保険金2,000万円を受け取りました。この年に子へのほかの贈与はありません。

判定:保険料を負担した夫から子への贈与とみなされ、贈与税の対象です。夫は子の直系尊属なので特例税率を使います。

(2,000万円−110万円)×45%−265万円=585.5万円

答え:贈与税は585.5万円です。妻が自分で保険料を負担していれば相続税の対象となり、相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。

生命保険以外の定期金給付契約でも、掛金を負担していない人が定期金を受け取ることになれば、掛金の負担者から定期金を受け取る権利の贈与を受けたものとみなされます。また、「10年間毎年100万円ずつ贈与する」と最初に約束すると、約束した年に「定期金に関する権利」の贈与として課税されます(名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方)。

低額譲受け:時価より安く買ったとき

個人から時価より著しく低い価額で財産を譲り受けると、時価と支払った代金との差額を、譲った人から贈与で取得したものとみなされます。遺言による低額での譲渡なら、遺贈として相続税の対象です。「時価」は財産の種類で異なります。

  • 土地・借地権・家屋・構築物など:通常の取引価額に相当する金額。路線価などの相続税評価額ではありません。
  • それ以外の財産:相続税評価額。ただし上場株式を個人間の売買などで取得した場合は、月平均額による評価の特例は使えず、取引の日の終値で評価します。

土地・建物の時価を通常の取引価額とするのは、国税庁の「負担付贈与通達」(1989年(平成元年)3月29日付)によります。通常の取引価額と相続税評価額の開きを利用した負担回避に対処するもので、個人間の売買や、借金の引受けなどを条件にした贈与(負担付贈与)で取得した土地・建物に適用されます。

「著しく低い価額」かどうかに数値の基準はなく、取引の事情や当事者の関係などを総合的に考え、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかで判定します。個人が法人に時価の2分の1未満で売ると時価で売ったとみなす所得税のルールがありますが、この「2分の1」は個人間の判定基準ではないと国税庁は明記しています。土地・建物の売買で代金が売主の取得価額を下回る場合は、価額の下落などの合理的な理由がない限り「著しく低い価額」に当たるとされています。

計算例:子が父から土地を時価より安く買った場合

前提:2026年に、子(2026年1月1日に18歳以上)が父から土地を3,000万円で買いました。この土地の通常の取引価額は6,000万円、相続税評価額(路線価による評価額)は4,800万円です。この年にほかの贈与はなく、この売買が「著しく低い価額」による譲受けと判定されたものとします。

みなし贈与額:6,000万円−3,000万円=3,000万円(相続税評価額との差の4,800万円−3,000万円=1,800万円ではありません)
贈与税(父は直系尊属なので特例税率):(3,000万円−110万円)×45%−265万円=1,035.5万円

売った父は、受け取った3,000万円を収入金額として譲渡所得を計算します。個人間の売買なので、時価で売ったとみなされることはありません。

答え:みなし贈与額は3,000万円、子の贈与税は1,035.5万円です。

負担付贈与で土地・建物を取得した場合は、通常の取引価額から負担額を差し引いた額が贈与税の課税価格です。贈与した側には、負担額を対価とする譲渡所得が生じることがあります(負担付贈与・離婚の財産分与・配偶者居住権の消滅)。

借金の免除・肩代わり

対価を払わずに(又は著しく低い対価で)借金を免除してもらった、引き受けてもらった、第三者に代わりに返してもらった場合が対象です。その借金の金額を、免除などをした人から贈与で取得したものとみなされます。

典型例は、親が子の住宅ローンを代わりに返すケースです。住宅取得等資金の非課税期限あり(2026年12月31日までの贈与)は、住宅ローンの返済資金には使えません(住宅取得等資金の非課税)。

夫婦の連帯債務で、一方が自分の負担部分を超えて返し、相手に請求する権利(求償権)を放棄した場合は、超えた金額が贈与とみなされます。保証人が代わりに返して求償権を放棄した場合も同じです。贈与者が受贈者の贈与税を代わりに払う場合も、受贈者の債務を代わりに返したことになり、新たな贈与とされることがあります。

例外は、資力を失って返済が困難な人が、借金を免除してもらった場合や、扶養義務者に引き受けてもらったり代わりに返してもらったりした場合です。このときは、返済が困難な部分の金額は贈与とみなされません。

その他の利益:同族会社の株価・名義変更・無利子の貸付けなど

このほかにも、対価を払わずに(又は著しく低い対価で)利益を受けると、利益を受けさせた人からの贈与とみなされます。「利益」は、おおむね財産が増えたり債務が減ったりした場合をいい、無償で働いてもらうなどの労務の提供は含みません。通達で示されている主な場面は次のとおりです。

「その他の利益」として贈与とみなされる主な場面(相続税法基本通達9条関係)
場面扱い
同族会社に無償で財産を提供した、著しく低い価額で現物出資や譲渡をした、会社の借金を免除したり肩代わりしたりした結果、株価が上がった株価が上がった分を、その行為をした人から株主への贈与とする
同族会社の新株発行で、株主の親族などが他の株主より有利な条件で株式を引き受ける権利を与えられた株主からの贈与とする(給与所得・退職所得として課税される場合を除く)
不動産や株式などの名義を対価なしで変えた、他人の名義で不動産や株式を買った原則として名義人への贈与とする
夫婦・親子・祖父母と孫などの間で、土地・家屋・金銭を無償や無利子で貸した利息相当額などの利益を受けたものとする(少額の場合や課税上の弊害がない場合は課税しない)
共有者の1人が自分の持分を放棄した(相続の放棄を除く)他の共有者が持分の割合に応じて贈与で取得したものとする
配偶者居住権を合意や放棄で消滅させ、建物の所有者が対価を払わなかった建物の所有者が配偶者から贈与で取得したものとする(期間満了や配偶者の死亡による消滅を除く)

同族会社(オーナー一族などが支配する会社)に財産をただで渡すと、会社の財産が増えて株価が上がり、その上がった分が、財産を渡した人から株主への贈与とされます。ただし、会社が法的整理や再建のための負債整理に入っている場合に役員などが私財を提供したときは、債務超過額に相当する部分は株主への贈与としません。会社側の課税は法人と個人の間の贈与で扱います。

親子などの間のお金の貸し借りは、返済能力や返済状況から本当に貸し借りと認められれば、借りたお金そのものは贈与になりません。ただし無利子なら、利息相当額が贈与とされることがあります。「ある時払いの催促なし」「出世払い」の貸し借りは、借りたお金そのものが贈与とされます(親子間の金銭貸借・土地の貸し借り・売買)。

信託の受益者になったとき

信託は、財産を信頼できる人に託して管理・運用してもらう仕組みです。適正な対価を負担せずに受益者(信託から利益を受ける人)になると、委託者から信託に関する権利の贈与を受けたものとみなされます。委託者の死亡によって受益者になった場合は、遺贈として相続税の対象です。

受益者の交代・追加、権利の一部の放棄・消滅、信託の終了による残った財産の受取りでも課税関係が生じます。家族信託は、設計の段階で課税の時期を確認しておく必要があります(家族信託・遺言・認知症対策と税務)。

よくある誤り

  • 「時価の2分の1以上で買えば低額譲受けにならない」:2分の1は、個人が法人に売る場合の所得税の基準です。個人間の売買は、「著しく低い価額」かどうかを個別に判定します。
  • 「親子間で土地を路線価(相続税評価額)で売買すれば贈与税はかからない」:個人間の土地・建物の売買では、時価は通常の取引価額です。相続税評価額との差額がみなし贈与とされるおそれがあり、最終的には取引ごとに判断されます。
  • 「保険の契約者を子に変えれば、贈与税なしで子のものにできる」:契約者の変更だけでは課税されませんが、子が解約して返戻金を受け取れば、保険料を負担した親からの贈与として課税されます。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 相続税法5条(生命保険金。2項で解約返戻金等の返還金)、6条(定期金)、7条(低額譲受け)、8条(債務免除等)、9条(その他の利益の享受)、9条の2(信託に関する権利)。相基通5-1〜5-7、6-1〜6-3、7-1〜7-5、8-1〜8-4、9-1〜9-14、9の2-1〜9の2-6。
  • 負担付贈与通達(平成元年3月29日直評5・直資2-204、平成3年12月18日課資2-49ほか改正)。1989年4月1日以後の取得に適用。譲渡者等の取得価額が課税時期の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、その取得価額(家屋等は償却費相当額等を控除)によることができます。
  • 上場株式を負担付贈与・個人間の対価を伴う取引で取得した場合は、課税時期の最終価格で評価(評基通169(2))。

実務論点

  • 所得税法59条1項・所令169条の「時価の2分の1未満」は個人間の低額譲受けの判定基準ではありません(タックスアンサーNo.4423)。2以上の財産は譲渡の時ごとに一括判定(相基通7-1)、公開市場等での取得は課税上弊害がある場合を除き適用しない(7-2)。扶養義務者からの譲受けの例外における資力喪失・弁済困難な部分の意義は7-3〜7-5(債務には公租公課を含む)で、債務免除等にも準用されます(8-4)。
  • 譲渡者側:個人間の低額譲渡はみなし譲渡の対象外で、実際の対価で譲渡所得を計算します。時価の2分の1未満の対価で譲渡損失が生じる場合はその損失はなかったものとみなされ(所得税法59条2項)、譲受人が取得費・取得時期を引き継ぎます(所得税法60条1項2号)。
  • 負担付贈与の課税価格は、負担がないものとした場合の価額(土地・建物は通常の取引価額)から負担額を控除した額(相基通21の2-4)。負担額が第三者の利益になる場合は、その第三者が負担額相当額を贈与で取得したものとみなします(9-11)。賃貸アパートの贈与と同時に敷金相当額の現金を贈与した場合は、実質的な負担がないため負担付贈与通達は適用されません(質疑応答事例)。
  • 契約者変更後に保険料負担者(旧契約者)が死亡した場合は、相続税の「生命保険契約に関する権利」の問題になります(相基通3-36関係)。
  • 相基通9-2の取得時期は財産の提供・債務の免除・財産の譲渡等の時。9-3の資力喪失は会社更生・民事再生等の法定手続又は再建のための負債整理に入った場合をいい、一時的な債務超過は含みません。
  • 無利子の金銭貸与等(相基通9-10)は、実質が贈与なのに貸与の形式をとったものでないかの確認も必要とされています(詳細は親子間の貸借の章)。
第5章

暦年課税の計算:一般税率と特例税率

暦年課税の贈与税は、1年間にもらった財産の合計から110万円を引き、残りに速算表を当てはめて計算します。速算表は「一般税率」と「特例税率」の2種類があり、誰から誰への贈与かで使い分けます。

この章の結論

  • 1月1日から12月31日までにもらった財産を合計し、基礎控除110万円を引いた残りに税率をかけます。110万円は受け取る人1人につき年110万円で、贈与者ごとではありません。
  • その年の1月1日に18歳以上の人が、父母・祖父母などの直系尊属からもらった財産は、税率の低い「特例税率」で計算します。夫婦間・兄弟間・義父母からなどは「一般税率」です。
  • 両方の財産がある年は、合計額に2つの税率表をそれぞれ当てはめ、財産の割合で按分して足します。課税価格は1,000円未満、税額は100円未満を切り捨てます。

計算の流れ:合計して110万円を引き、速算表を当てはめる

暦年課税(年ごとに計算する通常の贈与税)では、1年間に受けた贈与をまとめて計算します。複数の人から贈与を受けたときも、全員の分を合計します。

ただし、法人からもらった財産は贈与税ではなく所得税の対象なので含めません(法人と個人の間の贈与)。相続時精算課税を選んだ贈与者からの分も、別に計算します(相続時精算課税)。

  1. その年の贈与を合計する1月1日〜12月31日に暦年課税で受けた財産の価額を、贈与者全員の分まで合計します。これが課税価格(税金を計算するもとになる金額)です。
  2. 控除を差し引く贈与税の配偶者控除(最高2,000万円)を受ける人はそれを先に引き、次に基礎控除110万円を引きます。
  3. 1,000円未満を切り捨てる控除した後の課税価格の、1,000円未満の端数を切り捨てます。
  4. 速算表を当てはめる控除後の金額×税率−控除額で税額を出します。特例税率か一般税率かは、贈与者と受贈者の関係で決まります。
  5. 100円未満を切り捨てる税額の100円未満を切り捨てた額が、納める贈与税です。

基礎控除の110万円は「受け取った人1人につき年110万円」です。父から100万円、母から100万円をもらうと、1人ずつは110万円以下でも合計は200万円です。

200万円−110万円=90万円 → 90万円×10%=9万円

この場合は9万円の贈与税がかかり、申告も必要です。この金額では一般税率でも特例税率でも税率は同じ10%です。

速算表:一般税率と特例税率

速算表は「基礎控除後の課税価格」に当てはめます。税額は「基礎控除後の課税価格×税率−控除額」です。

贈与税の速算表(一般税率:一般贈与財産用)
基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%―
200万円超〜300万円以下15%10万円
300万円超〜400万円以下20%25万円
400万円超〜600万円以下30%65万円
600万円超〜1,000万円以下40%125万円
1,000万円超〜1,500万円以下45%175万円
1,500万円超〜3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円
贈与税の速算表(特例税率:特例贈与財産用)
基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%―
200万円超〜400万円以下15%10万円
400万円超〜600万円以下20%30万円
600万円超〜1,000万円以下30%90万円
1,000万円超〜1,500万円以下40%190万円
1,500万円超〜3,000万円以下45%265万円
3,000万円超〜4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

2つの表は、基礎控除後の課税価格が300万円以下(1年間の贈与額が410万円以下)なら税額が同じになります。差が出るのは300万円を超えてからで、金額が大きいほど特例税率が有利です。

1年間の贈与額ごとの贈与税額(暦年課税・ほかに贈与がない場合)
1年間の贈与額一般税率の税額特例税率の税額
110万円0円0円
200万円9万円9万円
300万円19万円19万円
400万円33.5万円33.5万円
500万円53万円48.5万円
700万円112万円88万円
1,000万円231万円177万円
1,500万円450.5万円366万円
2,000万円695万円585.5万円
3,000万円1,195万円1,035.5万円
5,000万円2,289.5万円2,049.5万円

計算式:(贈与額−110万円)×税率−控除額。例:1,000万円を特例税率で計算すると、890万円×30%−90万円=177万円で、贈与額の17.7%にあたります。

特例税率を使える人・使えない人

特例税率を使えるのは、贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の人が、直系尊属から受けた贈与です。直系尊属とは、父母・祖父母・曽祖父母のように、自分より前の世代の直通の血族をいいます。この財産を「特例贈与財産」、それ以外を「一般贈与財産」と呼びます。

年齢は贈与の日ではなく、その年の1月1日で判定します。2026年(令和8年)1月1日に17歳だった人は、年の途中で18歳になっても、その年の贈与はすべて一般税率です。なお、2022年(令和4年)3月31日以前の贈与では、年齢要件は20歳以上でした。

贈与者と受贈者の関係で決まる税率
贈与者から受贈者へ使う税率ポイント
父母・祖父母から子・孫(1月1日に18歳以上)特例税率戸籍の謄本等の添付が必要な場合あり
父母・祖父母から子・孫(1月1日に18歳未満)一般税率年齢は1月1日で判定
配偶者の父母(義父母)から子の配偶者一般税率養子縁組をしていれば特例税率
夫婦の間一般税率居住用不動産なら配偶者控除を検討
兄弟姉妹・おじ・おばから一般税率直系尊属ではない
親族以外の個人から一般税率―

義父母は直系尊属ではないため、子の配偶者が義父母からもらう財産は一般税率です。国税庁も、夫の父からの贈与などには特例税率を使えないことを例示しています。義父母と養子縁組をしていれば法律上の親子になり、特例税率の対象になります。

特例税率を使う場合は、受贈者の戸籍の謄本や抄本など(氏名・生年月日と、贈与者の直系卑属であることがわかるもの)を申告書に添付します。添付が必要なのは、基礎控除後の課税価格が300万円を超えるときです。一般贈与財産もある年は、合計から基礎控除(一般贈与財産に配偶者控除を受けるときはその額も)を引いた額で判定します。同じ贈与者からの贈与で以前に提出していれば、申告書第一表の「過去の贈与税の申告状況」欄に年分と税務署名を書くことで、再提出は不要です。

計算例:特例税率だけの年と、両方がある年

例1:20歳の子が父から現金500万円をもらった(2026年中)

2026年1月1日に20歳の子が、父から現金500万円の贈与を受けました。父は直系尊属で、子は1月1日に18歳以上なので特例税率を使います。

基礎控除後の課税価格:500万円−110万円=390万円
贈与税(特例税率):390万円×15%−10万円=48.5万円

同じ500万円を一般税率で計算すると、390万円×20%−25万円=53万円です。特例税率のほうが4.5万円少なくなります。基礎控除後の課税価格が300万円を超えるので、戸籍の謄本等の添付が必要です。

答え:贈与税は48万5,000円です。申告と納付の期間は2027年(令和9年)2月1日(月)〜3月15日(月)です。

例2:一般贈与財産100万円と特例贈与財産400万円がある年

30歳の人が同じ年に、配偶者の父(義父)から100万円、自分の父から400万円をもらった場合です。義父からの100万円は一般贈与財産、父からの400万円は特例贈与財産です。合計500万円から基礎控除110万円を引いた390万円に、2つの税率表をそれぞれ全額当てはめます。

一般と特例が混在する年の按分計算
計算の段階一般税率で計算特例税率で計算
390万円全体の税額390万円×20%−25万円=53万円390万円×15%−10万円=48.5万円
按分の割合100万円÷500万円400万円÷500万円
按分後の税額53万円×100万円÷500万円=10.6万円48.5万円×400万円÷500万円=38.8万円

答え:10.6万円+38.8万円=49.4万円(国税庁タックスアンサーの計算例と同じ結果です)。

按分の割合は、基礎控除を引く前の財産の価額(100万円と400万円)で計算します。

同じ考え方で、25歳の人が父から700万円(特例)、叔父から300万円(一般)をもらった年は、基礎控除後が890万円です。一般税率の税額は231万円(890万円×40%−125万円)で、按分すると231万円×300万円÷1,000万円=69.3万円です。特例税率の税額は177万円(890万円×30%−90万円)で、177万円×700万円÷1,000万円=123.9万円です。合計は193.2万円になります。

金額を変えて試算したいときは、下の計算ツールを使ってください。暦年課税(一般税率・特例税率)、相続時精算課税、住宅取得等資金の非課税、贈与税の配偶者控除を選んで、贈与税額を計算できます。

計算ツールを表示するには JavaScript を有効にしてください。

端数処理と申告が必要になる場合

端数は2段階で切り捨てます。基礎控除などを引いた後の課税価格は1,000円未満を、税額は100円未満を切り捨てます。暦年課税と相続時精算課税の両方がある人は、2つの税額を合計してから100円未満を切り捨てます。

叔父から3,457,500円をもらった場合
3,457,500円−1,100,000円=2,357,500円 → 1,000円未満を切り捨てて2,357,000円
2,357,000円×15%−100,000円=253,550円 → 100円未満を切り捨てて253,500円

暦年課税の贈与の合計が110万円を超える年は、翌年2月1日〜3月15日に、受贈者の住所地の税務署へ申告し、同じ期限までに納付します。110万円以下なら申告は不要です。ただし、贈与税の配偶者控除や住宅取得等資金の非課税期限あり(2026年12月31日までの贈与)を使う年は、税額が0円でも申告しないと適用を受けられません。手続の詳細は贈与税の申告・納付・延納・期間制限で説明します。

よくある誤り

  • 「父と母からそれぞれ110万円までなら非課税」は誤りです。基礎控除は受け取る人1人につき年110万円で、全員からの贈与の合計に対して1回だけ引きます。
  • 「義父母からの贈与も特例税率」は誤りです。養子縁組をしていない限り一般税率です。
  • 「18歳の誕生日以後の贈与は特例税率」は誤りです。判定はその年の1月1日の年齢です。
  • 一般と特例の両方がある年に、それぞれから110万円を引くのは誤りです。合計から1回だけ引き、税額を財産の割合で按分します。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠条文・通達

  • 課税価格:相続税法21条の2です。法人からの贈与により取得した財産は贈与税の非課税財産で(相続税法21条の3第1項1号)、所得税の課税対象になります。
  • 基礎控除110万円:租税特別措置法70条の2の4(相続税法21条の5の特例)です。
  • 税率:一般税率は相続税法21条の7、特例税率は租税特別措置法70条の2の5です。
  • 控除の順序:配偶者控除は基礎控除より先に控除します(相続税法基本通達21の6-6)。
  • 端数処理:控除後の課税価格は1,000円未満を切り捨てます(相基通21の2-5。精算課税は特定贈与者ごと)。税額は100円未満を切り捨て、暦年課税分と精算課税分の合計額で判定します(相基通21の7-1)。

実務上の論点

  • 特例税率の年齢要件は、贈与年の1月1日現在で判定します。2022年3月31日以前の贈与は20歳以上でした。
  • 混在年の税額は、基礎控除後の合計額に一般税率・特例税率をそれぞれ全額適用し、基礎控除前の一般贈与財産・特例贈与財産の価額の比で按分して合計します(TA No.4408)。
  • 戸籍の謄本等の添付は、基礎控除後(混在年で一般贈与財産に配偶者控除を受ける場合はその控除後)の課税価格が300万円超の場合に必要です。同一贈与者について過去に提出済みなら、第一表の「過去の贈与税の申告状況」欄の記載で足ります。
  • 相続・遺贈で財産を取得した人が相続開始年に被相続人から受けた暦年課税の贈与は、贈与税の課税価格に算入しません(相続税法21条の2第4項)。相続・遺贈で何も取得しない人は、贈与税の申告が必要です(相基通21の2-3)。
  • 精算課税を選択した贈与者からの贈与は、暦年課税の課税価格に含めません。逆に、精算課税を選択していない贈与者からの贈与は、精算課税適用者であっても暦年課税で計算します。
第6章

相続時精算課税:年110万円の基礎控除と2,500万円

相続時精算課税は、生前の贈与には累計2,500万円まで贈与税をかけず、贈与者が亡くなったときに相続税でまとめて精算する仕組みです。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与からは、これとは別に毎年110万円の基礎控除ができ施行中、少額の贈与にも使いやすくなりました。

この章の結論

  • 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選べます(年齢はその年の1月1日で判定)。最初の年の翌年2月1日〜3月15日に届出書を出す必要があり、一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せません。
  • 贈与税は、毎年110万円の基礎控除を引き、残りは累計2,500万円の特別控除まで0円、超えた部分に一律20%です。その年の贈与が110万円以下なら申告は不要です。
  • 贈与者が亡くなると、基礎控除部分を除いた贈与財産を「贈与時の価額」で相続税に加え、納めた贈与税は差し引かれ、引ききれなければ還付されます。値上がりする財産に向く一方、値下がりした財産では不利になり、小規模宅地等の特例も使えません。

使える人:60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ

相続時精算課税(以下「精算課税」)を選んだ贈与者を「特定贈与者」、選んだ受贈者を「精算課税適用者」と呼びます。選ぶのは受贈者で、贈与者ごとに選びます。

精算課税を使える人と対象
項目要件
贈与者贈与をした年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母など
受贈者贈与を受けた年の1月1日に18歳以上で、贈与の時に贈与者の直系卑属である推定相続人(子や、代襲相続人である孫など)または孫
推定相続人の判定贈与の日の状況で判定(その時点で最も先の順位の相続人。代襲相続人を含む)
対象になる財産財産の種類・金額・回数に制限なし
選択の単位贈与者ごと(父は精算課税、母は暦年課税という組合せも可)

推定相続人ではない孫も受贈者になれますが、子の配偶者は、養子縁組をしていない限り義父母からの贈与に使えません。

年の途中で養子縁組などにより推定相続人や孫になった場合、その前に受けた贈与は暦年課税です。養子縁組の解消などで推定相続人でなくなった後も、その特定贈与者からの贈与は引き続き精算課税になります。

例外もあります。住宅取得等資金の贈与に精算課税を使う特例では、贈与者の年齢要件がなく、60歳未満の父母からの贈与にも使えます。対象は2026年(令和8年)12月31日までの贈与です期限あり。期限後の扱いは、令和9年度税制改正要望で「所要の措置」が求められている段階です要望段階。

また、非上場株式等や個人の事業用資産の納税猶予の特例の対象財産は、推定相続人・孫以外の18歳以上の人も受贈者になれます(事業承継税制と自社株の承継手法)。

選択の手続:届出書は期限内に、撤回はできない

  1. 贈与を受けた年その贈与者から初めて精算課税で贈与を受けます。
  2. 翌年2月1日〜3月15日「相続時精算課税選択届出書」に戸籍の謄本等を添え、受贈者の納税地の税務署長へ出します。申告が必要な年は申告書に添付します。2026年中の贈与なら2027年(令和9年)2月1日〜3月15日です。
  3. 2年目以降精算課税の贈与が110万円を超える年だけ申告します。申告書第二表は特定贈与者ごとに作ります。届出書の再提出は不要です。
  4. 特定贈与者が亡くなったとき相続税の申告で精算します。期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
  • 届出書は贈与者ごとに出します。父について選んでも、母から精算課税で受けるには改めて届出が必要です。
  • 110万円以下で申告が不要な年でも、精算課税を選ぶなら届出書が必要です。期限までに出さないと暦年課税になり、期限後に選ぶことはできません。
  • 期限内に届出書だけを出していれば、期限後申告になっても精算課税は適用されます。ただし特別控除は期限内申告が条件なので、その年は使えず、使えなかった額は翌年以降に繰り越します。
  • 一度選ぶと撤回できません。その特定贈与者からの贈与は、以後すべて精算課税です。
  • 2023年(令和5年)以前に精算課税を選んでいる人は、改めて届け出る必要はありません。2024年以後の贈与には110万円の基礎控除が自動的に適用されます。

贈与税の計算:110万円、2,500万円、20%の順に

  1. 特定贈与者ごとに合計するその年に精算課税で受けた贈与を、特定贈与者ごとに合計します。
  2. 基礎控除110万円を引く受贈者1人につき年110万円です。同じ年に2人以上の特定贈与者から受けたときは、110万円を贈与額の割合で按分します。
  3. 特別控除を引く特定贈与者ごとに累計2,500万円まで(前年までに使った分を除いた残り)です。期限内に申告した場合に限り使えます。
  4. 残りに20%をかける残額(1,000円未満切捨て)×20%が贈与税です(100円未満切捨て)。

精算課税の110万円は、暦年課税の110万円とは別枠です。父からは精算課税、祖母からは暦年課税で受けると、それぞれで110万円を引けます。その年の精算課税の贈与が合計110万円以下なら申告は不要です。

例1:父から3,000万円を一度にもらい、精算課税を選んだ

父(2026年1月1日に68歳)が長男(同40歳)に、2026年中に現金3,000万円を贈与しました。長男は期限内に届出書と申告書を出しました。

3,000万円−基礎控除110万円=2,890万円
2,890万円−特別控除2,500万円=390万円
390万円×20%=78万円

答え:贈与税は78万円で、特別控除2,500万円はこの年で使い切ります。同じ3,000万円を暦年課税(特例税率)で受けると、2,890万円×45%−265万円=1,035.5万円です。

例2:同じ年に父から1,000万円、母から100万円(どちらも精算課税)

基礎控除は父と母に110万円ずつではなく、合計110万円を1,000万円対100万円の割合で按分します。

2人の特定贈与者からの贈与の計算
計算の段階父からの贈与母からの贈与
贈与額1,000万円100万円
基礎控除(按分)110万円×1,000÷1,100=100万円110万円×100÷1,100=10万円
基礎控除後900万円90万円
特別控除(残り)900万円(1,600万円)90万円(2,410万円)
贈与税0円0円

答え:贈与税は0円ですが、合計が110万円を超えるので申告が必要です。期限内に申告しないと特別控除を使えません。

父がこの年のうちに亡くなった場合、父からの贈与は贈与税の申告が不要になり、父の相続税に900万円を加えます。基礎控除の按分には亡くなった父の分も含めるため、母からの贈与の課税価格は90万円のままです(国税庁の質疑応答事例の結論と同じです)。

贈与者が亡くなったとき:贈与時の価額で相続税に加算

特定贈与者が亡くなると、精算課税で受けた財産を相続税の課税価格に加えます。精算課税適用者は、相続や遺贈で財産をもらわなくても相続税の納税義務者になります。

  • 加えるのは贈与時の価額です。相続時に値上がり・値下がりしていても変わりません。
  • 2024年以後の贈与は、年分ごとに「贈与時の価額の合計−基礎控除」を加えます。基礎控除部分は、亡くなる直前の贈与でも加算されません。基礎控除の額は、申告した年は申告した額、申告していない年は110万円(特定贈与者が複数なら按分額)です。2023年以前の贈与は、贈与時の価額をそのまま加えます。
  • 暦年課税の生前贈与加算(3年〜7年)は、精算課税の贈与には適用しません。ただし、同じ贈与者から精算課税を選ぶ前に暦年課税で受けた贈与が加算期間内にあれば、その分は加算されます。
  • 納めた贈与税(外国税額控除前の額)は、ほかの税額控除を済ませた後、最後に相続税から差し引きます。引ききれない分は相続税の申告をすれば還付され、還付の申告は相続開始の翌日から5年以内にできます。
  • 精算課税適用者でも、被相続人の1親等の血族と配偶者以外の人は相続税額の2割加算の対象です。孫は孫養子を含めて原則として対象で、代襲相続人である孫は対象外です。
  • 2024年以後に生じた災害で、贈与された土地・建物が被害を受けたときの特例があります。被災価額が贈与時の価額などの10%以上なら、税務署長の承認を受けて加算額から被災価額を差し引けます。地価の下落など経済的な値下がりは対象外です。

例3:例1の父が2030年(令和12年)に亡くなった場合の相続税

2030年に父が亡くなりました。相続人は長男と次男の2人で、母は既に亡くなっています。父のほかの遺産5,110万円を、長男1,110万円・次男4,000万円で相続しました。債務・葬式費用・ほかの贈与はないものとします。

加算額:贈与時の価額3,000万円−基礎控除110万円=2,890万円
課税価格:長男1,110万円+2,890万円=4,000万円、次男4,000万円、合計8,000万円
課税遺産総額:8,000万円−基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円×2人)=3,800万円
法定相続分(各2分の1)の1,900万円×15%−50万円=235万円、2人分で相続税の総額470万円
各人の税額:470万円×4,000万円÷8,000万円=235万円(長男・次男とも)

答え:長男は235万円−精算課税分の贈与税78万円=157万円、次男は235万円です。

贈与しなかった場合との比較(家族全体の税額)
贈与した財産の相続時の価値贈与しなかった場合の相続税の総額精算課税で贈与した場合の税額差
3,000万円のまま486.5万円470万円16.5万円有利
5,000万円に値上がり786.5万円470万円316.5万円有利
1,500万円に値下がり261.5万円470万円208.5万円不利

精算課税の470万円は、贈与税78万円と相続税392万円(157万円+235万円)の合計です。加算額が2,890万円で固定されるため、相続時の価値に関係なく同じ額です。価値が変わらなくても16.5万円の差が出るのは、基礎控除110万円が加算されず、その分に税率15%がかからないためです(110万円×15%)。

相続税がかからない家庭では、納めた贈与税が戻ります。国税庁の例では、3,300万円の贈与で贈与税138万円((3,300万円−110万円−2,500万円)×20%)を納めました。その後の相続で、相続財産1,500万円と加算額3,190万円の合計4,690万円が基礎控除4,800万円(法定相続人3人)以下になり、138万円が還付されます。

受贈者が先に亡くなったとき:権利と義務を相続人が引き継ぐ

精算課税適用者が特定贈与者より先に亡くなると、精算課税に伴う納税の権利と義務は相続人に移ります。引き継ぐのは、適用者の相続人(包括受遺者を含み、特定贈与者を除く)です。相続人が2人以上なら、特定贈与者がいないものとして計算した民法の相続分で引き継ぎます。

例えば、父から精算課税で贈与を受けた長男が父より先に亡くなり、長男の相続人が妻と子の2人なら、妻と子が2分の1ずつ引き継ぎます。その後に父が亡くなると、2人が長男に代わって相続税を申告します(還付になることもあります)。

  • 適用者の相続人が特定贈与者だけのときは、権利と義務は引き継がれずに消えます。後の順位の相続人にも移りません。
  • 引き継いだ相続人も特定贈与者より先に亡くなれば、その人の相続人へさらに移ります。そこでも先に亡くなれば消滅します。
  • 適用者自身の相続税の計算では、この将来の納税義務を債務として差し引くことはできません。

メリットとデメリット:値上がり・収益に強く、値下がり・土地の特例に弱い

相続時精算課税のメリット・デメリット
項目精算課税での扱い評価
贈与時の税負担累計2,500万円と毎年110万円まで0円。超える部分も一律20%有利
値上がりする財産加算は贈与時の価額で固定され、値上がり分は相続税の対象外有利
収益物件贈与後の家賃収入などは受贈者に帰属し、贈与者の財産への蓄積なし有利
年110万円以下の贈与基礎控除部分は相続税への加算なし有利
相続税がかからない家庭納めた贈与税は相続時に還付有利
値下がりする財産贈与時の価額のまま加算(救済は災害の特例のみ)不利
自宅などの土地贈与で取得した宅地は小規模宅地等の特例の対象外不利
不動産の移転コスト登録免許税は贈与2%(相続0.4%)。不動産取得税は贈与なら課税(相続は非課税)不利
物納精算課税で取得した財産は物納不可注意
撤回撤回不可。その贈与者からの暦年課税の110万円も使用不可注意

精算課税は「必ず得」でも「相続税対策にならない」でもなく、上の差を家庭の事情に当てはめて選びます。比べ方は暦年課税と相続時精算課税の選び方で説明します。

よくある誤り

  • 「父と母からそれぞれ年110万円まで」は誤りです。基礎控除は受贈者1人につき年110万円で、特定贈与者が複数なら按分します。
  • 「110万円以下なら何も出さなくてよい」は誤りです。精算課税を選ぶ最初の年は、申告が不要でも届出書を期限内に出す必要があります。
  • 「2,500万円は毎年使える」は誤りです。特定贈与者ごとの累計です。
  • 「相続時の時価で精算する」は誤りです。加えるのは贈与時の価額(2024年以後の贈与は基礎控除後)です。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠条文・通達

  • 選択・適用対象者:相続税法21条の9、相基通21の9-1(推定相続人の判定は贈与の日)、21の9-3(期限後の選択不可)、21の9-4(年の中途で推定相続人等になった場合)です。
  • 基礎控除:相続税法21条の11の2、租税特別措置法70条の3の2、相基通21の11の2-1(受贈者ごとに年110万円)・21の11の2-2(複数の特定贈与者の按分。年の中途で死亡した特定贈与者の分も母数に含める)です。
  • 特別控除:相続税法21条の12、相基通21の12-1(期限内申告が要件。宥恕規定なし)です。税率20%を含む贈与税の計算は相続税法21条の9〜21条の13に定められています。
  • 相続時:相続税法21条の14〜21条の16、33条の2(還付)、相基通21の15-1〜21の15-4、19-11(選択前の暦年課税贈与の加算)、1の3・1の4共-3(特定納税義務者)です。
  • 承継:相続税法21条の17・21条の18、相基通21の17-1〜21の17-4です。
  • 特例:住宅取得等資金の精算課税の特例は租税特別措置法70条の3、災害の特例は同70条の3の3です。物納の除外は相続税法41条です。

実務上の論点

  • 届出書の期限内単独提出後に期限後申告した場合:精算課税は適用、特別控除は不可、控除できなかった額は翌年以降へ繰越し可です(いずれも質疑応答事例)。
  • 相続時に控除する基礎控除額は、申告があればその申告の額、申告がなければ110万円(複数の特定贈与者なら按分額)です(相基通21の15-2の2)。
  • 相続開始年の精算課税の贈与は、贈与税の申告書の提出が不要です。ただし未届出なら選択届出書は必要です(相基通21の2-3)。
  • 2割加算:孫養子の精算課税適用者は加算対象、代襲相続人の孫は対象外です(質疑応答事例)。贈与時に1親等の血族で相続時に該当しない場合の調整は相基通18-5です。
  • 受贈者死亡による承継:承継される納付義務は受贈者の相続税の計算上、債務控除の対象外です(質疑応答事例)。適用者の相続人が特定贈与者のみなら消滅します(相基通21の17-3)。
  • 災害の特例の承認申請期限は、原則として災害発生日から3年を経過する日です(特定贈与者の死亡後の特則あり)。
  • 還付申告の期限:相続開始の日の翌日から5年を経過する日まで(相基通27-8)です。
第7章

暦年課税と相続時精算課税の選び方

生前贈与を暦年課税で受けるか、相続時精算課税で受けるかは、贈与者ごとに選びます。精算課税は一度選ぶと戻せないため、相続税の見込み・贈与者の年齢・財産の種類などを比べてから決めます。

この章の結論

  • いちばん大きな違いは相続時の扱いです。暦年課税の贈与は、相続開始前3年以内(2027年(令和9年)以後の相続は段階的に延び、最長7年)の分が加算されます。精算課税の贈与は、年110万円の基礎控除部分を除いて、期間の制限なく加算されます。
  • 相続税がかからない見込みの家庭、値上がりや収益が見込まれる財産、高齢の親から年110万円以内の贈与を続ける場合は精算課税が向きやすくなります。相続・遺贈で何も取得しない孫への贈与や、加算期間を超えて長く続けられる場合は暦年課税が向きやすくなります。
  • 自宅の敷地など小規模宅地等の特例が使える土地は、どちらで贈与しても特例が使えなくなります。精算課税は撤回できないので、試算してから選びます。

選び方の前提:贈与者ごとに選び、精算課税は撤回できない

選択は贈与者ごとです。例えば、父からの贈与は精算課税、母と祖父母からの贈与は暦年課税という組合せができます。

  • 精算課税を選んだ贈与者からの贈与は、以後すべて精算課税です。その贈与者からは暦年課税の110万円が使えなくなり、精算課税の110万円に置き換わります。
  • 精算課税を使えるのは、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与だけです(年齢はその年の1月1日で判定)。子の配偶者や兄弟姉妹への贈与は、暦年課税しかありません。
  • 受贈者から見ると、精算課税の110万円(特定贈与者が複数なら按分)と、暦年課税の110万円(暦年課税の贈与者全員の合計に対して)の両方を使えます。特別控除を使わなくても、1年に合計220万円までは贈与税がかかりません。

制度の詳しい内容は、暦年課税の計算と相続時精算課税の章で説明しています。

仕組みの対照表:違いは相続のときに出る

暦年課税と相続時精算課税の比較
観点暦年課税相続時精算課税
使える人誰からでも60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫などへ(年齢は1月1日判定)
控除の枠基礎控除110万円(受贈者ごと)基礎控除110万円(受贈者ごと。特定贈与者が複数なら按分)と、累計2,500万円の特別控除(特定贈与者ごと)
税率10〜55%の累進(一般税率・特例税率)特別控除を超える部分に一律20%
相続時に加算される贈与相続・遺贈などで財産を取得する人への、加算期間内(3年〜7年)の贈与。110万円以下も加算選択後の全期間の贈与。ただし年110万円の基礎控除部分は加算対象外
加算する価額贈与時の価額(延長された期間の分は合計から100万円を控除)贈与時の価額−基礎控除
納めた贈与税相続税から控除。引ききれなくても還付なし相続税から控除。引ききれなければ還付
やめられるか選択の手続はなく、毎年その都度課税撤回不可
贈与した宅地の小規模宅地等の特例対象外対象外
申告年110万円を超える年に必要最初の年に届出書が必要。年110万円を超える年に申告

暦年課税の加算期間は、亡くなった日によって次のように変わります施行中。2026年(令和8年)10月時点で亡くなった場合は、まだ3年加算です。

暦年課税の生前贈与加算の期間(相続開始日で決まる)
相続開始日(亡くなった日)加算される贈与の期間
2026年12月31日まで相続開始前3年以内
2027年1月1日〜2030年(令和12年)12月31日2024年(令和6年)1月1日から亡くなった日まで
2031年(令和13年)1月1日以後相続開始前7年以内

相続開始前3年以内より前の期間(延長された期間)の贈与は、その合計額から総額100万円を引いた残りを加算します。加算の対象者や計算の詳細は生前贈与加算(7年加算)と相続時精算課税の加算を参照してください。

判断の視点:どちらが向きやすいかの目安

国税庁などが「どちらを選ぶべきか」を示した基準はありません。次の表は、制度の仕組みから導ける傾向をまとめたものです。

暦年課税と精算課税が向きやすい場合
視点暦年課税が向きやすい精算課税が向きやすい
相続税の見込み相続税がかかり、加算期間を超えて計画的に贈与できる家庭贈与した分を含めても遺産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下で、相続税がかからない見込みの家庭。納めた贈与税も相続時に還付
贈与者の年齢・健康贈与から相続まで長い期間(7年超)が見込める場合(加算期間より前の贈与は加算対象外)加算期間内に相続が起きる可能性が高く、年110万円以内の贈与で加算を避けたい場合
受贈者相続・遺贈で何も取得しない孫など(暦年課税の贈与は加算対象外)遺産を相続する子など(暦年課税でも加算期間内の分は加算対象)
財産の値動き値下がりのおそれがある財産値上がりが見込まれる財産(成長が見込まれる会社の株式、地価上昇が見込まれる土地など)
収益性収益を生まない財産賃貸物件など収益を生む財産(贈与後の収益は受贈者のもの)
贈与の金額110万円を超える額を、低い税率の範囲で何年にも分けて贈与する場合まとまった額を一度に(2,500万円までは0円、超える部分も20%)

土地については注意が必要です。自宅の敷地など小規模宅地等の特例の対象になる土地は、暦年課税でも精算課税でも、贈与すると特例が使えません。相続で取得すれば、要件を満たす限り特定居住用宅地等として330㎡まで評価額が80%減る可能性があります。贈与するかどうかは、相続まで持ち続ける場合と比べて決めます。

不動産は移転のコストも贈与のほうが重く、登録免許税は贈与2%・相続0.4%、不動産取得税は贈与なら課税・相続なら非課税です。

試算:毎年110万円を10年間贈与した場合

例:同じ贈与を暦年課税と精算課税で受けたときの、相続時の加算額

前提:父(2026年1月1日に60歳以上)が、遺産を相続する予定の子(同18歳以上)に毎年110万円を贈与します。贈与は2026年から2035年(令和17年)まで毎年1月10日の10回で、合計1,100万円です。亡くなる日は、いずれも12月20日と仮定します。

贈与税はどちらも0円です。暦年課税は各年110万円以下なので申告不要です。精算課税も各年が基礎控除の範囲内なので申告不要です(2026年分の届出書は2027年2月1日〜3月15日に出します)。違いは相続のときに出ます。

亡くなった年ごとの加算額(暦年課税と精算課税)
亡くなった日それまでの贈与暦年課税で加算される額精算課税で加算される額
2026年12月20日1回・110万円110万円(3年以内)0円
2029年(令和11年)12月20日4回・440万円340万円(3年以内の3回330万円+2026年の1回110万円−100万円)0円
2035年12月20日10回・1,100万円670万円(3年以内の3回330万円+その前4年間の4回440万円−100万円)0円
2038年(令和20年)12月20日10回・1,100万円340万円(7年以内の4回440万円−100万円)0円
2042年(令和24年)12月20日10回・1,100万円0円(最後の贈与から7年超)0円

2029年の相続は「2024年1月1日から亡くなった日まで」が加算期間です。3年以内(2026年12月20日以後)の3回は全額、それより前の2026年1月の1回は100万円を引いた10万円を加えます。2031年以後の相続は7年以内が対象で、3年より前の4年間の分は合計から100万円を引きます。

加算額が相続税をどれだけ増やすかは、その家庭の税率で決まります。例えば、法定相続分に応ずる取得金額が全員3,000万円超5,000万円以下(税率20%)にとどまる家庭なら、670万円の加算で相続税の総額は134万円(670万円×20%)増えます。

答え:少額の贈与を続ける場合、加算期間内に相続が起きると、暦年課税ではこの例で最大670万円が加算されますが、精算課税では加算がありません。最後の贈与から7年を超えて相続が起きれば、暦年課税でも加算は0円です。

ただし、精算課税を選ぶと、その父からは暦年課税の110万円が使えません。後で110万円を超える贈与をすると、超えた部分は2,500万円の特別控除を使い、相続時には期間に関係なく加算されます。また、受贈者が相続・遺贈で何も取得しない孫なら、暦年課税の贈与はもともと加算されません。

まとまった額を贈与するとき:税率の比較と値動き

暦年課税で110万円を超える贈与をするときは、贈与税の税率と相続税の税率を比べる方法が実務で使われます。特例税率なら、年510万円(基礎控除後400万円)までの贈与は、最も高い部分でも税率15%です。510万円の贈与税は(510万円−110万円)×15%−10万円=50万円で、贈与額の約9.8%です。

相続税の限界税率(遺産が増えた分にかかる税率)が、この贈与税の税率(最高15%)より高い家庭では、加算期間を超えた贈与は家族全体の税負担を減らす方向に働きます。一方、加算期間内に相続が起きると贈与財産は加算され、納めた贈与税は相続税から差し引かれますが、引ききれない分は戻りません。

精算課税なら、まとまった額でも2,500万円までは贈与税0円、超える部分も20%で移せます。ただし相続時には贈与時の価額で加算されるため、相続税を減らす効果があるのは、贈与後の値上がり分、贈与後の収益、年110万円の基礎控除部分に限られます。3,000万円を贈与し、相続時に5,000万円へ値上がりすれば316.5万円有利、1,500万円へ値下がりすれば208.5万円不利です。この試算は相続時精算課税の例3で示しています。

賃貸物件を贈与するときは、評価の見直しにも注意します。取得から5年以内の貸付用不動産と、取得の時期を問わず不動産小口化商品を、原則として「通常の取引価額」で評価する通達案が公表されました通達案。2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用される予定です。

2026年10月時点では意見公募の段階で、通達は制定されていません。案のとおり決まれば、贈与時の価額、つまり精算課税で固定される価額も高くなる可能性があります(2027年からの貸付用不動産・小口化商品の評価見直し)。

選ぶ前のチェックリスト

  • 贈与する分を含めた遺産の総額を出し、相続税の基礎控除と比べた
  • 受贈者が相続・遺贈(死亡保険金・死亡退職金を含む)で財産を取得する予定かを確認した
  • 贈与する財産が、値上がり・収益・値下がりのどれに当たりそうかを考えた
  • 自宅の敷地など、小規模宅地等の特例の対象になる土地を贈与しようとしていないか確認した
  • 精算課税なら、年齢の要件(贈与者60歳以上・受贈者18歳以上、1月1日判定)と届出書の期限(翌年2月1日〜3月15日)を確認した
  • 精算課税は撤回できず、その贈与者からは暦年課税の110万円が使えなくなることを家族で確認した
孫に贈与するなら、どちらがよいですか。
孫が相続・遺贈で何も取得しない(死亡保険金の受取人にもならない)なら、暦年課税の贈与は加算期間内でも相続税に加算されません。精算課税を選ぶと、基礎控除を超えた部分は祖父母の相続税に加算され、孫は通常2割加算の対象にもなります。年110万円以内なら精算課税でも加算はありませんが、それを超える贈与では暦年課税が向きやすくなります。
父について精算課税を選ぶと、母からの贈与も精算課税になりますか。
なりません。選択は贈与者ごとです。母からの贈与は、母について届出書を出さない限り暦年課税のままです。

よくある誤り

  • 「7年加算になったので暦年贈与は意味がない」は誤りです。加算されるのは相続・遺贈で財産を取得する人への加算期間内の贈与だけで、2026年中の相続はまだ3年加算です。
  • 「孫への贈与は加算されない」は条件付きです。孫が遺贈や死亡保険金・死亡退職金を受け取ると加算の対象になり、通常は相続税額の2割加算もあります。
  • 「精算課税を選べば相続税が減る」は誤りです。基礎控除を超えた部分は贈与時の価額で加算されるため、減るのは値上がり分・収益・110万円部分などに限られます。
  • 「同じ贈与者から暦年課税の110万円と精算課税の110万円を両方使える」は誤りです。同じ贈与者からはどちらか一方です。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠条文・通達

  • 暦年課税の生前贈与加算:相続税法19条、相続税法施行令4条、令和5年改正法附則19条(経過措置)、相基通19-1〜19-3です。加算対象者は相続・遺贈・精算課税の贈与で財産を取得した人です(相基通19-3)。
  • 精算課税:相続税法21条の9〜21条の16、21条の11の2(基礎控除)、租税特別措置法70条の3の2です。選択前の同一贈与者からの暦年課税の贈与で加算期間内のものは加算します(相基通19-11)。
  • 特例税率:租税特別措置法70条の2の5です。小規模宅地等の特例は相続・遺贈で取得した宅地等に限られ、精算課税で取得した宅地等は対象外です(TA No.4124)。

実務上の論点

  • 死亡保険金・死亡退職金の受取人は、相続・遺贈で取得したものとみなされるため加算対象者になります(国税庁 教育資金の一括贈与Q&A Q4-5の注)。相続を放棄した人や相続人でない孫も同様です。
  • 延長期間の100万円控除は受贈者ごとの合計額から総額100万円で、年ごとではありません。相続開始日が2027年1月2日以後の場合に問題になります。
  • 暦年課税から精算課税へ切り替えても、選択前の暦年課税の贈与のうち加算期間内のものは加算されます。切替えの時期は、贈与者の年齢と加算期間を合わせて検討します。
  • 加算された暦年課税の贈与に係る贈与税額控除に還付はなく、精算課税分は還付があります(相続税法33条の2)。
  • 選択の優劣を示す公的資料はありません。比較は、贈与税と相続税の限界税率、贈与者の年齢・健康、二次相続、不動産の登録免許税・不動産取得税、小規模宅地等の特例の適否を合わせて行います。
  • 貸付用不動産・特定小口化商品の評価の通達案は、2026年9月18日公表、10月18日締切の意見公募中で、2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用予定とされています。最終通達で内容が変わる可能性があります。
第8章

贈与税の配偶者控除:夫婦間の居住用不動産

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、自宅(居住用不動産)やその購入資金を贈与したときは、基礎控除110万円とは別に最高2,000万円を控除できます。適用期限のない恒久的な制度ですが施行中、税額が0円でも申告しないと使えません。

この章の結論

  • 婚姻期間20年以上の配偶者から、国内の居住用不動産かその取得資金の贈与を受け、翌年3月15日までに住んでその後も住み続ける見込みなら、最高2,000万円を控除できます。基礎控除と合わせて2,110万円までは贈与税がかかりません。
  • 同じ配偶者からは一生に一度だけです。税額が0円でも、戸籍の謄本や戸籍の附票の写しなどを添えて贈与税の申告をする必要があります。
  • 控除を受けた部分は相続税の生前贈与加算の対象外です。自宅の建物や敷地そのものの贈与なら、民法上も遺産分割での持戻し免除が推定されます。一方、登録免許税と不動産取得税がかかり、小規模宅地等の特例も使えなくなるため、相続まで持つ場合や二次相続と比べて判断します。

4つの要件:婚姻20年・居住用不動産・期限内の居住・一生に一度

贈与税の配偶者控除の要件
要件内容注意点
婚姻期間贈与の時点で婚姻期間が20年以上1年未満の端数の切上げなし(19年超20年未満は不可)
贈与する財産国内の居住用不動産(専ら住むための土地・借地権・家屋)、または居住用不動産を取得するための金銭国外の不動産は対象外
居住贈与を受けた年の翌年3月15日までに実際に住み、その後も引き続き住む見込みがあること金銭の場合は、その金銭で取得した不動産に居住
回数同じ配偶者からの贈与については一生に一度過去にその配偶者から受けていれば適用不可
手続贈与税の申告(税額0円でも必要)戸籍の謄本・戸籍の附票の写しなどを添付

婚姻期間は「20年目に入った」では足りず、満20年以上が必要です。婚姻期間は婚姻の届出のあった日から数えるとされ、内縁の期間は含まれないとされています(詳しくは税務署などで確認してください)。

対象になる居住用不動産の範囲

  • 家屋だけ、敷地だけの贈与も対象です。敷地だけの場合は、家屋の所有者が夫か妻であるか、受贈配偶者と同居する親族であることが必要です。
  • 敷地の一部(持分)の贈与もできます。借地権を持つ人が金銭の贈与を受けて底地を買う場合も対象です。
  • 店舗兼住宅は、住まいの部分だけが対象です。住まいの部分がおおむね10分の9以上なら、全体を居住用として扱えます。持分を贈与するときは、住まいの部分の割合の範囲内で、住まいの部分から優先して贈与を受けたものとして申告できます。
  • 家屋の増築も「取得」に含まれます。
  • 金銭と、居住用不動産以外の財産を同時に受けたときは、金銭はまず居住用不動産の取得に充てたものとして扱えます。
  • 配偶者から時価より低い価額で居住用不動産を買った場合の差額(みなし贈与。みなし贈与)にも、配偶者控除を使えます(国税庁の質疑応答事例)。

控除額と計算例:2,000万円と110万円を順に引く

計算では、配偶者控除(最高2,000万円)を先に引き、次に基礎控除110万円を引きます。夫婦間の贈与なので、残りには一般税率を使います(暦年課税の計算)。

控除の対象は、居住用不動産の価額と、居住用不動産の取得に充てた金銭の合計です。不動産の価額は財産評価基本通達による評価額で、土地は路線価方式・倍率方式など(土地評価の全体像)、家屋は固定資産税評価額×1.0で評価します。マンションには別の補正があります(マンションの評価)。

例:婚姻30年の夫から妻へ、自宅の土地と建物を全部贈与した

贈与税の評価額は土地と建物の合計で2,300万円です。妻は翌年3月15日までにその家に住み、その後も住み続ける見込みです。

2,300万円−配偶者控除2,000万円−基礎控除110万円=190万円
190万円×10%(一般税率)=19万円

答え:贈与税は19万円です。評価額が2,110万円以下なら贈与税は0円ですが、その場合も申告は必要です。

居住用不動産の評価額と贈与税(配偶者控除を使い、ほかに贈与がない場合)
贈与した居住用不動産の評価額配偶者控除・基礎控除後贈与税
2,110万円0円0円
2,300万円190万円19万円
2,500万円390万円53万円(390万円×20%−25万円)
3,000万円890万円231万円(890万円×40%−125万円)

このほか、不動産の名義を移すと登録免許税がかかります。贈与による所有権移転は固定資産税評価額×2%で、相続なら0.4%です。固定資産税評価額が1,500万円なら、贈与は30万円、相続なら6万円です。不動産取得税も、相続では非課税ですが贈与では課税されます。

申告の手続:0円でも申告し、書類は贈与から10日後以降に取る

  1. 婚姻期間を確かめる戸籍で、贈与の日に婚姻期間が満20年以上あるかを確認します。
  2. 贈与と名義変更不動産そのものを贈与するときは所有権移転の登記をします。金銭の場合は、その資金で居住用不動産を取得します。
  3. 翌年3月15日までに住む実際に住み始め、その後も住み続ける見込みであることが必要です。
  4. 書類をそろえる贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作られた戸籍の謄本または抄本と、戸籍の附票の写しを取ります。居住用不動産を取得したことがわかる登記事項証明書なども用意します。
  5. 翌年2月1日〜3月15日に申告受贈者の住所地の税務署へ申告します。2026年(令和8年)中の贈与なら、2027年(令和9年)2月1日〜3月15日です。

登記事項証明書は、申告書に不動産番号を書けば添付を省略できます。不動産を贈与したときは、その評価額の計算明細なども添えます。

相続との関係:加算の対象外、相続開始の年も使える

配偶者控除を受けた部分(控除額に相当する部分)は、相続税の生前贈与加算の対象になりません。夫が贈与の翌年に亡くなっても、その部分は相続税に加えません。

ただし控除を超える部分は通常の暦年課税の贈与と同じです。上の例なら、2,300万円のうち控除を超える300万円は、加算期間内に夫が亡くなれば相続税に加算されます。その部分にかかった贈与税は、相続税から差し引かれます。

贈与した年に夫が亡くなった場合も使えます。過去にその夫から配偶者控除を受けていなければ、配偶者控除の対象になる部分は相続税の課税価格に加えません。そのかわり、その部分について贈与税の申告が必要で、配偶者控除を適用すれば税額を0円にできます。

民法にも関連するルールがあります。婚姻期間20年以上の夫婦の一方が、もう一方に居住用の建物や敷地を贈与・遺贈したとします。この場合、遺産分割で特別受益として持ち戻さない意思表示をしたものと推定されます(民法903条4項、2019年(令和元年)7月1日施行)。

贈与を受けた配偶者は、遺産分割の際、その自宅の分を自分の取り分から差し引かれずに済みます(推定なので、贈与した側が別の意思を示していれば別です)。ただし遺留分の計算では別の扱いになります。贈与税の配偶者控除とは別の制度で、民法の推定の対象は居住用の建物・敷地そのものの贈与・遺贈です。

使う前に比べること:小規模宅地等の特例と二次相続

配偶者控除が使えても、贈与が有利とは限りません。次の点を比べてから判断します。

生前に配偶者控除で贈与する

  • 控除額相当部分は夫の相続財産から外れ、加算もされません
  • 登録免許税は2%で、不動産取得税もかかります
  • 贈与した敷地には小規模宅地等の特例が使えません
  • 妻の財産が増え、妻の相続(二次相続)で課税の対象になります

相続まで持ち、妻が相続する

  • 要件を満たす限り、特定居住用宅地等として330㎡まで評価額が80%減る可能性があります
  • 妻が取得する財産は、配偶者の税額軽減で1億6,000万円か法定相続分相当額の多い額まで相続税がかかりません
  • 登録免許税は0.4%で、不動産取得税は非課税です
  • 二次相続での課税は、贈与した場合と同じく残ります

どちらが有利かは、自宅の評価額、ほかの財産の額、子の人数、二次相続までの見通しで変わります。妻が将来その家を売る場合は、取得費と取得時期を夫から引き継ぐ点も押さえておきます(相続・贈与で取得した資産の取得費と取得時期)。

自宅を夫婦の共有名義にする贈与でも使えますか。
使えます。土地や家屋の持分の贈与も対象です。共有持分の価額は、全体の評価額を持分の割合で按分して計算します。例えば評価額2,300万円の自宅のうち、評価額が2,110万円以下に収まる持分を贈与すれば、贈与税は0円です(申告は必要です)。
以前の配偶者から配偶者控除を受けたことがあります。再婚相手からの贈与にも使えますか。
一生に一度の制限は、同じ配偶者からの贈与についてのものです。今回の配偶者から過去に受けていなければ、今回の配偶者との婚姻期間が20年以上であることなど、ほかの要件を満たす限り使えます。

よくある誤り

  • 「配偶者控除は2026年12月31日まで」は誤りです。期限のない制度で、期限があるのは住宅取得等資金の非課税期限あり(2026年12月31日までの贈与)です。
  • 「婚姻20年目に入れば使える」は誤りです。満20年以上が必要で、端数は切り上げません。
  • 「税額が0円なら申告は不要」は誤りです。申告が適用の条件です。
  • 「現金を渡せば使える」は誤りです。居住用不動産の取得に充て、翌年3月15日までに住む必要があります。
  • 「戸籍は贈与の前に取っておけばよい」は誤りです。贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作られたものが必要です。

他の税金・制度との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠条文・通達

  • 配偶者控除:相続税法21条の6、相続税法施行規則9条です。基礎控除は相続税法21条の5と租税特別措置法70条の2の4です。
  • 相基通21の6-1〜21の6-5(居住用不動産の範囲、店舗兼住宅、増築、金銭の充当)、21の6-6(基礎控除より先に控除)、21の6-7(婚姻期間の1年未満の端数は切り上げない)、21の6-8(「当該配偶者」は今回の贈与者である配偶者)です。
  • 相続との関係:相続税法19条、21条の2第4項、相基通19-9(相続開始年の贈与のうち配偶者控除の対象となる部分)、19-8(加算対象期間内に配偶者控除を受けた場合の順序など)です。
  • 民法903条4項(持戻し免除の推定)、1028条3項(配偶者居住権の遺贈への準用)です。登録免許税は登録免許税法別表第一(贈与1,000分の20、相続1,000分の4)、相続による不動産取得の不動産取得税の非課税は地方税法73条の7第1号です。

実務上の論点

  • 店舗兼住宅の持分の贈与は、居住用部分の割合の範囲内で居住用部分から優先して贈与を受けたものとして申告できます(相基通21の6-3)。
  • 夫から時価より低い価額で居住用不動産を取得した場合の利益相当額(相続税法7条)にも配偶者控除を適用できます(質疑応答事例)。
  • 加算対象期間内の贈与でも、配偶者控除の控除額相当部分は加算しません(TA No.4161)。控除額を超える部分は加算され、その部分に対応する贈与税額は贈与税額控除の対象です。
  • 相続開始年の贈与は、過去にその被相続人から配偶者控除を受けていなければ、控除の適用があるものとされる部分を特定贈与財産として課税価格に加算せず、贈与税の申告を要します(TA No.4452 Q&A)。
  • 持戻し免除の推定は遺産分割の場面の規定で、遺留分の算定は別論です。遺留分の算定に算入される相続人への贈与は、相続開始前10年間の特別受益に当たるものです(民法1044条3項)。
第9章

住宅取得等資金の非課税(2026年12月31日まで)

父母や祖父母から、自分が住む家を建てる・買うためのお金をもらったとき、一定額まで贈与税がかからない特例です。対象は2026年(令和8年)12月31日までの贈与で期限あり、2026年10月時点では期限内ですが、残りは約2か月半です。

この章の結論

  • 父母・祖父母など直系尊属から住宅用のお金をもらった場合、省エネ等住宅なら1,000万円、それ以外の住宅なら500万円まで贈与税がかかりません(もらう人1人につき)。
  • 対象は2026年12月31日までの贈与です。2027年(令和9年)以後への延長は、2026年10月時点で決まっていません。
  • 税額が0円でも、2027年2月1日〜3月15日に贈与税の申告をしないと使えません。2027年3月15日までに家の新築・取得と入居(又は入居の確実な見込み)も必要です。

制度の全体像:2026年12月31日までの贈与が対象

この特例は、直系尊属(父母・祖父母など、自分より前の世代の直系の親族)から、住宅の新築・取得・増改築のための金銭をもらった場合に、一定額まで贈与税を非課税にする制度です。対象は2024年(令和6年)1月1日から2026年12月31日までの贈与です。

令和8年度税制改正では延長されず、期限は2026年12月31日のままです。延長されなければ、2027年1月1日以後の贈与には使えません。

令和9年度税制改正要望では、国土交通省が非課税限度額の取扱いなどについて「所要の措置」を求めています要望段階。ただし要望書に「延長」とは書かれていません。延長するかどうかは令和9年度税制改正で決まり、その大綱は2026年12月に決定予定です。

非課税限度額(2024年1月1日〜2026年12月31日の贈与)
住宅の種類非課税限度額条件
省エネ等住宅1,000万円省エネ・耐震・バリアフリーのいずれかの基準を満たし、証明書を申告書に添付した住宅
それ以外の住宅500万円上の基準を満たさない、又は証明書を添付しない住宅
  • 限度額はもらう人1人につきの金額です。父と祖父の両方からもらっても、合計で1,000万円(500万円)までです。どの人からの贈与に非課税を当てるかは、もらう人が選べます。
  • 2024年分・2025年(令和7年)分の贈与で一部を使っていれば、2026年分はその残りまでです。
  • 2009年(平成21年)分〜2023年(令和5年)分の旧制度で非課税の適用を受けたことがある人は、原則として使えません(一定の場合を除く)。

1,000万円の枠を使える「省エネ等住宅」の基準

1,000万円の枠を使うには、住宅が省エネ・耐震・バリアフリーのうちいずれか1つの基準を満たし、その証明書を申告書に添付する必要があります。2024年1月1日以後の贈与では、新築住宅の省エネ基準が引き上げられ、いわゆるZEH水準が求められます。

省エネ等住宅の基準(2024年1月1日以後の贈与)
基準新築(注文住宅、未使用の建売・分譲)中古住宅・増改築
省エネルギー性能断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上(ZEH水準)断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上
耐震性能耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物新築と同じ基準とされています(注)
バリアフリー性能高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上新築と同じ基準とされています(注)

注:中古住宅・増改築の耐震性能とバリアフリー性能の基準は、新築と同じとされています。証明書を取る前に、住宅会社や証明を行う機関、税務署で確認してください。

証明書には、住宅性能証明書、建設住宅性能評価書の写し、長期優良住宅や低炭素住宅の認定通知書などがあります。増改築の場合は増改築等工事証明書などを使います。新築には経過措置もあります。2023年12月31日以前に建築確認を受けた住宅や、2024年6月30日以前に建築された住宅は、中古住宅と同じ省エネ基準(等級4)で足ります。

もらう人(受贈者)の要件

もらう人は、次の要件をすべて満たす必要があります。特に「配偶者の親からは使えない」「所得はもらった年で判定」「自分の名義で家を持つ」の3点がよく誤解されます。

受贈者の要件チェックリスト

  • 贈与を受けた時に、贈与者の直系卑属(子・孫など)であること(配偶者の父母・祖父母は対象外。養子縁組をしていれば対象)
  • 贈与を受けた年の1月1日に18歳以上であること
  • 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること(家の床面積が40㎡以上50㎡未満なら1,000万円以下)
  • 2009年分〜2023年分の贈与税の申告で、旧制度の非課税を使ったことがないこと(一定の場合を除く)
  • 配偶者や親族など特別の関係がある人から家を買ったり、その人に工事を請け負わせたりしていないこと
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、もらったお金の全額を新築・取得・増改築に充て、その家を自分で所有すること(共有持分でも可)
  • 贈与を受けた時に国内に住所があること(一定の場合は国内に住所がなくても対象)
  • 翌年3月15日までにその家に住んでいること、又は同日後遅滞なく住むことが確実と見込まれること

合計所得金額は、前年ではなく贈与を受けた年の金額で判定します。年の途中で贈与を受けた場合も、その年1年間の所得で判定します。

配偶者の父母(義父母)は直系尊属ではないため、義父母からの資金には使えません。夫と妻がそれぞれ自分の親から受け取る場合は、それぞれが要件を満たし家の持分を持てば、1人ずつ限度額まで使えます。

家は、もらった人自身が所有する必要があります。夫が自分の親から資金をもらっても、家を妻だけの名義で登記すると、夫はこの特例を使えません。夫婦の共有にするときは、資金を出した割合に合わせて持分を登記するのが基本です。負担した割合と持分が違うと、その差が夫婦間の贈与とされることがあります(→名義と贈与の考え方)。

住宅の要件と、2027年3月15日までの期限

対象になる家は、国内にあり、登記簿上の床面積(マンションは専有部分)が40㎡以上240㎡以下で、その2分の1以上をもらった人が住むために使うものです。注文住宅の新築、建売住宅・分譲マンションや中古住宅の購入、増改築のいずれにも使えます。

  • 中古住宅は、1982年(昭和57年)1月1日以後に建てられたもの、又は耐震基準に適合することが証明されたものが対象です。どちらでもない場合も、取得の日までに耐震改修の申請をし、翌年3月15日までに耐震基準への適合が証明されれば対象になります。
  • 増改築は、自分が所有して住んでいる家の一定の工事が対象です。工事費用が100万円以上で、その2分の1以上が自分の居住部分の工事であり、増改築後の床面積が40㎡以上240㎡以下であることが必要です。
  • 家と一緒に取得する敷地(土地)の購入代金にも充てられます。ただし、翌年3月15日までに家の新築や取得をすることが前提です。

期限の考え方は、注文住宅の「新築」と、建売住宅・分譲マンションの「取得」で違います。新築は、翌年3月15日の時点で屋根(骨組みを含む)があり、土地に定着した状態(いわゆる上棟後)になっていれば足ります。一方、建売住宅や分譲マンションは、翌年3月15日までに引渡しを受けていなければ使えません。

  1. 2026年12月31日まで贈与を受けます。口約束の贈与は、実際にお金を受け取った時が贈与の時期です(→贈与の時期)。
  2. 2027年2月1日〜3月15日贈与税の申告をします。非課税の範囲内で税額が0円でも必要です。提出先は、もらった人の住所地の税務署です。
  3. 2027年3月15日までもらったお金の全額で新築・取得・増改築をし、住み始めます。同日後遅滞なく住むことが確実と見込まれる場合も認められます。新築は屋根まで、建売・マンションは引渡しまでが必要です。
  4. 2027年12月31日までこの日までに住んでいないと、原則として特例は使えず、修正申告が必要です(災害の場合は特例があります)。

年内に贈与を受けるときの確認ポイント

2026年中に贈与を受けても、2027年3月15日までに引渡しや上棟が間に合わなければ特例は使えません。入居も、同日まで(又は同日後遅滞なく入居することが確実な状態)が必要です。建売住宅や分譲マンションは、契約書で引渡し予定日を確認してから贈与の時期を決めてください。国税庁の資料にも、贈与を受けた年の翌年6月に引渡し予定の分譲マンションは対象外とする例があります。

申告の手続と、使えない典型例

この特例は、期限内に申告した場合に限り使えます。非課税の範囲内で税額が0円でも、申告が必要です。2026年中の贈与なら、2027年2月1日(月)〜3月15日(月)に申告します。

申告には、特例を受ける旨を書いた申告書(第一表の二)に、戸籍の謄本や、工事請負契約書・売買契約書の写しなどを添付します。1,000万円の枠を使う場合は、省エネ等住宅であることの証明書も必要です。登記事項証明書は、申告書に不動産番号を書けば添付を省略できます。

この特例を使えない典型例
ケース使えない理由
家や土地そのものをもらった対象は、住宅のための金銭の贈与だけです
住宅ローンの返済(繰上返済)資金をもらった既存の住宅ローンの返済資金は対象外です
配偶者の父母からもらった直系尊属からの贈与ではありません(養子縁組をしていれば対象)
2027年1月1日以後にもらった対象は2026年12月31日までの贈与です(延長は未定)
分譲マンションの引渡しが2027年3月16日以後建売住宅・分譲マンションは、翌年3月15日までの引渡しが必要です
家を配偶者だけの名義にしたもらった人が家を所有(共有持分を含む)する必要があります
親や親族から家を買った特別の関係がある人からの取得は対象外です
申告しなかった・期限後に申告した期限内の申告が適用の条件です

よくある誤り

  • 「非課税の範囲内なら申告しなくてよい」は誤りです。税額が0円でも、期限内に申告しないと特例は使えません。
  • 「贈与者ごとに1,000万円まで」は誤りです。限度額は、もらう人1人につき、すべての贈与者の合計です。
  • 「所得は前年の金額で判定」は誤りです。贈与を受けた年の合計所得金額で判定します。
  • 「マンションの売買契約をすれば間に合う」は誤りです。翌年3月15日までに引渡しを受ける必要があります。

限度額を超える部分の課税と計算例

限度額を超えてもらった部分には、通常の贈与税がかかります。暦年課税なら、基礎控除110万円を差し引いて計算します。相続時精算課税(贈与者の相続のときに相続税で精算する制度)を選ぶこともできます。その場合は基礎控除110万円と特別控除2,500万円(累計)を差し引き、超える部分に20%の税率がかかります。

住宅取得等資金には、相続時精算課税の特例もあります期限あり。通常の精算課税は贈与者が60歳以上である必要がありますが、この特例では贈与者の年齢を問いません。期限は同じく2026年12月31日までの贈与です。

受贈者は18歳以上の推定相続人である子や孫で、家の床面積は40㎡以上(上限なし)、所得の要件はありません。非課税の特例と併用するときは、非課税を差し引いた残りの部分にこの特例を使います。

計算例:父から1,500万円をもらい、ZEH水準の家を新築した場合

前提:30歳の子(2026年の合計所得金額600万円)が、2026年中に父から1,500万円をもらいました。断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上の家(床面積は40㎡以上240㎡以下)を新築し、2027年3月15日までに住み始めます。省エネ等住宅の証明書を添付して、期限内に申告します。

贈与税の計算(単位:万円)
手順①暦年課税②相続時精算課税
もらった金額1,5001,500
非課税(省エネ等住宅)−1,000−1,000
非課税を超える部分500500
基礎控除−110−110
基礎控除後の課税価格390390
特別控除なし−390
贈与税48.50

①暦年課税(父から18歳以上の子への贈与=特例税率):390万円×15%−10万円=48.5万円
②相続時精算課税:390万円−特別控除390万円=0円(特別控除の残りは2,500万円−390万円=2,110万円)

②は、父が60歳未満でも住宅取得等資金の精算課税の特例で選べます。参考までに、非課税を使わずに1,500万円全額を暦年課税にすると、(1,500万円−110万円)×40%−190万円=366万円です。非課税を使えば48.5万円になり、差は317.5万円です。

答え:①暦年課税なら贈与税は48.5万円、②相続時精算課税なら0円です。どちらも2027年2月1日〜3月15日の申告が必要です。②では、父の相続のときに390万円が相続財産に加算されます(非課税の1,000万円は加算されません)。

①を選んだ場合、非課税を超えた500万円は、子が父の相続で財産を取得すると、生前贈与加算の期間内なら相続税の計算に加算されます。②を選ぶと、期間に関係なく390万円が加算されます。また、住宅取得等資金の精算課税の特例を一度選ぶと、その後の父からの贈与は財産の種類を問わずすべて精算課税になり、撤回できません。どちらが有利かは、父の財産の規模や年齢で変わります(→暦年課税と相続時精算課税の選び方)。

2027年1月以後に贈与を受ける予定です。この特例は使えますか。

2026年10月時点の法律では、対象は2026年12月31日までの贈与です。延長されるかどうかは、2026年12月に決定予定の令和9年度税制改正大綱と、その後の法改正で決まります。2027年以後の贈与を予定している場合は、大綱の内容を確認してから判断してください。

親に住宅ローンを繰上返済してもらいました。非課税になりますか。

なりません。既存の住宅ローンの返済資金は、この特例の対象外です。通常の贈与として、暦年課税なら年110万円を超える部分に贈与税がかかります。親が直接金融機関に返済した場合も、借金の肩代わりとして贈与とみなされます(→みなし贈与)。

住宅ローン控除も受けます。借入金の全額が控除の対象になりますか。

全額が対象になるとは限りません。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の対象になる借入金は、住宅の取得対価が上限です。その取得対価からは、この非課税や、住宅取得等資金の精算課税の特例を受けた金額を差し引きます。

国税庁の質疑応答事例は、取得対価4,000万円の家の例です。贈与2,600万円(非課税と精算課税の特例を適用)を全額充て、銀行から2,000万円を借り入れています。この場合の取得対価は4,000万円−2,600万円=1,400万円で、借入金2,000万円のうち控除の対象は1,400万円、残りの600万円は対象外とされています。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 非課税:租税特別措置法70条の2、同施行令40条の4の2、同施行規則23条の5の2、措置法通達70の2-1・70の2-5、令和6年改正法附則54条。適用期間は2024年1月1日〜2026年12月31日の贈与。令和8年度改正の大綱「二 資産課税」に記載がなく、延長されていません。
  • 精算課税選択の特例:租税特別措置法70条の3(贈与者の年齢要件なし、受贈者は18歳以上の推定相続人である直系卑属又は孫、床面積40㎡以上で上限なし、所得要件なし、2026年12月31日までの贈与)。非課税と併用する場合は非課税適用後の残額に限り適用。選択後は当該贈与者からの贈与すべてに精算課税が適用され、撤回できません。
  • 令和9年度税制改正要望(国土交通省):非課税限度額の取扱い、60歳未満の贈与者からの住宅取得等資金への精算課税の適用、被災者特例について「所要の措置」。延長とは明記されていません。

実務論点

  • 限度額は受贈者単位で、2024年分〜2026年分を通じて管理します。複数の贈与者がいる場合、どの贈与者からの分に充てるかは受贈者が選択できます(No.4508のQ&Aの取扱い)。
  • 省エネ基準の「断熱等性能等級5以上」は、結露の発生を防止する対策に関する基準を除いて判定します。経過措置の対象(2023年12月31日以前に建築確認を受けたもの。2024年6月30日以前に建築されたものを除く)は、確認済証又は検査済証の写しも添付します。
  • 所得要件は贈与年の合計所得金額で判定します(前年ではありません)。床面積40㎡以上50㎡未満の家屋は1,000万円以下に下がります。
  • 新築は翌年3月15日時点で屋根(骨組みを含む)を有し土地に定着した建造物と認められる状態で足りますが、建売・分譲の取得は同日までの引渡しが必要です。翌年12月31日までに居住しないときは、原則として修正申告が必要です。
  • 相続税との関係:非課税部分は相続税法19条の加算対象外で、精算課税の加算対象からも除かれます(相基通21の15-1)。非課税を超える暦年課税部分は、受贈者が相続・遺贈等で財産を取得すれば加算期間内の贈与として加算されます。
  • 申告書は第一表の二を使用し、期限内申告が要件です。登記事項証明書は不動産番号の記載で省略できます。
  • 住宅借入金等特別控除との関係:控除額の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高は、住宅の取得等の対価の額又は費用の額が上限です。この額からは、補助金等の額と、措法70条の2第1項又は相続税法21条の12第1項の適用を受けた住宅取得等資金の額を控除します(措令26条6項、タックスアンサー1211-1)。質疑応答事例(取得対価4,000万円、措法70条の2・70条の3の適用を受けた贈与2,600万円、借入金2,000万円)では、住宅借入金等は1,400万円とされています。
第10章

教育資金・結婚子育て資金の一括贈与

祖父母や父母がまとまったお金を金融機関に預け、孫や子の教育費、結婚・子育ての費用に充てると、一定額まで贈与税がかからない制度です。2つの制度は期限も終了後の扱いも違うため、2026年(令和8年)10月時点の状況を分けて説明します。

この章の結論

  • 教育資金の一括贈与(最大1,500万円が非課税)は、2026年4月1日以後の拠出には使えません新規適用終了。既存の口座は続き、30歳到達時の残額や、贈与者が亡くなったときの管理残額に税金がかかることがあります。
  • 結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円、うち結婚関係300万円)は、2027年(令和9年)3月31日までの拠出が対象です期限あり。廃止が要望されていますが、2026年10月時点では決まっていません。
  • 扶養義務者が教育費や生活費を必要な都度、直接支払う分は、これらの制度とは関係なく、もともと贈与税がかかりません。

2つの制度の比較:2026年10月時点の状況

どちらの制度も、受贈者(もらう人)が金融機関と管理契約を結び、直系尊属(父母・祖父母など)が信託や預金などの形でまとめて資金を拠出します。受贈者は口座から払い出して、教育費や結婚・子育ての費用に充てます。最大の違いは、2026年10月時点で新しく使えるかどうかです。

教育資金と結婚・子育て資金の一括贈与の比較
項目教育資金結婚・子育て資金
対象になる拠出2013年(平成25年)4月1日〜2026年3月31日2015年(平成27年)4月1日〜2027年3月31日
2026年10月時点新しい拠出は不可(既存の口座は存続)新しい拠出も可能(廃止は要望段階)
非課税の上限(受贈者1人につき)1,500万円(学校等以外への支払は500万円まで)1,000万円(結婚に際して支払う費用は300万円まで)
受贈者の年齢30歳未満契約の日に18歳以上50歳未満
受贈者の所得拠出の前年の合計所得金額が1,000万円を超える人は不可(2019年(平成31年)4月1日以後の拠出)同じ
契約が終わる主な時30歳到達(在学中などで届出をした場合を除く)、40歳到達など50歳到達など
終わった時の残額贈与税の対象贈与税の対象
贈与者が亡くなった時の管理残額拠出の時期と受贈者の年齢などにより相続税の対象相続税の対象(年齢による除外なし)

教育資金の一括贈与:終わったことと残っていること

教育資金の一括贈与は、令和8年度税制改正で延長されず、2026年3月31日で新しい適用が終わりました。2026年4月1日以後に拠出したお金は、既存の口座への追加の拠出も含めて非課税になりません。通常の贈与として贈与税の対象です。

一方、2026年3月31日までに拠出した分は、従来どおりの扱いが続きます。口座は残り、教育費の払出しもできます。ただし、次のいずれか早い日に契約が終わり、使い切れなかった残額には贈与税がかかります。

  • 受贈者が30歳になった日(その時点で学校等に在学中、又は教育訓練を受講中で、その旨を届け出た場合を除く)
  • 30歳以上の受贈者が、在学や受講の届出をしなかった年の12月31日
  • 受贈者が40歳になった日
  • 残高がゼロになり、受贈者と金融機関が契約の終了に合意した日
  • 受贈者が亡くなった日(この場合、残額に贈与税はかかりません)

残額は、契約が終わった年の贈与として、その年の贈与税の課税価格に加えます。このうち2023年(令和5年)4月1日以後に拠出された分に対応する部分は、一般税率で計算します。18歳以上の孫や子でも、特例税率は使えません(→一般税率と特例税率)。

計算例:30歳で契約が終わり、残額に贈与税がかかる場合

前提:祖父が2024年(令和6年)に、孫の教育資金口座へ1,000万円を拠出しました。孫は教育資金として認められる支出に400万円を使い、30歳になった時点で在学していません(届出なし)。その年に、ほかの贈与はないものとします。

残額:1,000万円−400万円=600万円
基礎控除後の課税価格:600万円−110万円=490万円
贈与税(一般税率):490万円×30%−65万円=82万円

参考までに、同じ金額を特例税率で計算すると490万円×20%−30万円=68万円です。2023年4月1日以後の拠出分は特例税率を使えないため、この例では14万円多くなります。

答え:贈与税は82万円です。契約が終わった年の翌年2月1日〜3月15日に、孫が申告して納めます。

贈与者が亡くなったとき:管理残額と相続税

契約の途中で贈与者が亡くなると、その時点の管理残額(使われずに残っている非課税分)が、相続税の対象になることがあります。教育資金では、拠出した時期と受贈者の状況によって扱いが分かれます。

教育資金:贈与者が亡くなったときの管理残額の扱い
拠出の時期管理残額への相続税2割加算(孫など)
2019年3月31日以前課税なしなし
2019年4月1日〜2021年(令和3年)3月31日贈与者の死亡前3年以内の拠出分のみ課税(23歳未満等を除く)なし
2021年4月1日〜2023年3月31日課税(23歳未満等を除く)あり
2023年4月1日〜2026年3月31日課税(23歳未満等を除く。ただし贈与者の相続税の課税価格の合計が5億円超なら除外なし)あり
  • 「23歳未満等」とは、受贈者が23歳未満である場合と、23歳以上でも贈与者が亡くなった時に学校等に在学中、又は教育訓練を受講中である場合です(書類の提出が必要)。
  • 5億円かどうかは、管理残額を含めずに計算した、贈与者の相続税の課税価格の合計額で判定します。
  • 2割加算は、管理残額に対応する相続税額を2割増しにするものです。受贈者が贈与者の1親等の血族(代襲相続人を含む)や配偶者以外の人、たとえば孫である場合に適用されます(→2割加算の仕組み)。

生前贈与加算との関係も押さえておきます。管理残額のほかに、贈与者から相続や遺贈で何も取得していない受贈者には、暦年課税の生前贈与加算は適用されません。ただし、死亡保険金や死亡退職金などを受け取っていれば適用されます。なお、非課税で拠出された金額そのものは、生前贈与加算の対象になりません(→生前贈与加算)。

結婚・子育て資金の一括贈与:2027年3月31日まで

結婚・子育て資金の一括贈与は、2026年10月時点でまだ使えます。対象は2027年3月31日までの拠出で、令和8年度税制改正での変更はありません。

受贈者は、管理契約を結ぶ日に18歳以上50歳未満の子や孫などで、拠出の前年の合計所得金額が1,000万円以下の人です。非課税の上限は受贈者1人につき1,000万円で、そのうち結婚に際して支払う費用は300万円までです。対象になる費用の主な例は次のとおりです。

結婚関係(300万円まで)

  • 挙式や衣装などの婚礼費用(婚姻の日の1年前以後に支払うもの)
  • 新居の家賃・敷金
  • 転居の費用

子育て関係

  • 不妊治療・妊婦健診の費用
  • 分べん費・産後ケアの費用
  • 子の医療費
  • 保育料(ベビーシッター代を含む)

対象になる費用の詳細は、こども家庭庁の案内で確認できます。

契約は、受贈者が50歳になった日、残高がゼロになり終了に合意した日、受贈者が亡くなった日のいずれかで終わります。50歳到達や残高ゼロで終わった場合は、使い切れなかった残額がその年の贈与税の課税価格に加えられます。暦年課税では、2023年4月1日以後に拠出された分に対応する部分を一般税率で計算します。

贈与者が亡くなったときは、管理残額が相続や遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象になります。教育資金と違い、受贈者の年齢などによる除外はありません。受贈者が孫などの場合、2021年4月1日以後に拠出された分に対応する相続税額は2割加算の対象です。

令和9年度税制改正要望では、こども家庭庁と金融庁が、2027年3月31日の期限の到来をもってこの制度を廃止することを求めています要望段階。要望の内容は、同日までの拠出分には経過措置として引き続き適用するというものです。2026年10月時点では決まっておらず、扱いは2026年12月に決定予定の税制改正大綱で示されます。

「必要な都度の支払」との違い

扶養義務者が、子や孫の教育費・生活費を必要な都度、直接支払う分は、もともと贈与税がかかりません。扶養義務者には父母のほか、祖父母も含まれるとされています。一括贈与の制度を使わなくても、学費をその都度学校に振り込むといった方法なら非課税です。財務省も、教育資金の一括贈与を終了した理由の一つとして、この点を挙げています。

必要な都度の支払

  • 期限はなく、金融機関での手続も不要
  • 扶養義務者から、必要な都度、直接充てる分が非課税
  • 決まった上限額はなく、通常必要と認められる範囲
  • まとめて渡して預金や投資に回すと課税

教育資金の一括贈与

  • 2026年4月1日以後の拠出は不可
  • 既存の口座のみ存続(最大1,500万円)
  • 30歳到達時などの残額に贈与税
  • 贈与者が亡くなると管理残額に相続税の場合あり

結婚・子育て資金の一括贈与

  • 2027年3月31日までの拠出が対象
  • 最大1,000万円(結婚関係300万円)
  • 50歳到達時などの残額に贈与税
  • 贈与者が亡くなると管理残額に相続税

都度の支払が非課税になるのは、通常必要と認められる範囲に限られます。生活費や教育費の名目でまとめて渡しても、預貯金にしたり株式や家の購入代金に充てたりした分は、贈与税の対象です(→贈与税がかからない財産・場合)。まとめて渡したい場合は、暦年課税(年110万円の基礎控除)や相続時精算課税で、通常の贈与として扱うことになります。

よくある誤り

  • 「教育資金の一括贈与は終わったので、既存の口座も心配ない」は誤りです。30歳到達時などの残額には贈与税、贈与者が亡くなった時の管理残額には相続税がかかることがあります。
  • 「既存の口座への追加なら、2026年4月以後も非課税」は誤りです。追加の拠出も非課税になりません。
  • 「結婚・子育て資金も廃止された」は誤りです。2027年3月31日までの拠出は対象で、廃止は要望の段階です。
  • 「孫が23歳未満なら管理残額は非課税」とは限りません。教育資金の2023年4月1日以後の拠出分は、贈与者の課税価格の合計が5億円を超えると課税されます。結婚・子育て資金には年齢による除外がありません。
30歳になる時点で、まだ大学院に在学しています。口座はどうなりますか。

30歳の時点で学校等に在学中であることを届け出れば、30歳で契約は終わりません。その後は、在学や受講の届出をしなかった年の12月31日か、40歳になった日のいずれか早い日に終わります。終わった時点の残額が贈与税の対象です。

結婚・子育て資金の口座は、今から作っても間に合いますか。

2027年3月31日までの拠出であれば対象です。ただし、50歳到達時の残額には贈与税、贈与者が亡くなった時の管理残額には相続税がかかり、孫の場合は2割加算もあります。使い切れる金額かどうかを考えて拠出額を決めてください。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 教育資金:租税特別措置法70条の2の2、70条の2の5、同施行令40条の4の3、平成31年改正法附則79条、令和3年改正法附則75条、令和5年改正法附則51条、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)。
  • 結婚・子育て資金:租税特別措置法70条の2の3、70条の2の5、同施行令40条の4の4、令和3年改正法附則75条、令和5年改正法附則51条、平成27年内閣府告示第48号。
  • 都度の生活費・教育費:相続税法21条の3第1項2号、相続税法基本通達21の3-3〜21の3-6。

教育資金(新規適用終了後の既存契約)

  • 2026年3月31日後に取得等した信託受益権等には特例が適用されません。既存契約への追加拠出も同日までの信託等が要件のため非課税になりません(国税庁Q&A)。同日までの拠出分は、払出し・領収書等の提出・契約終了・贈与者死亡時の課税を含め従前の規定によります。
  • 終了時の課税対象額は、非課税拠出額から教育資金支出額(贈与者の死亡により相続等で取得したとみなされた管理残額を含む)を控除した残額です。受贈者の死亡による終了は課税されません。2023年4月1日以後の取得分に対応する部分は一般贈与財産として一般税率を適用します。
  • 贈与者死亡時の5億円基準は、管理残額を除いて計算した贈与者の相続税の課税価格の合計額で判定し、2023年4月1日以後の取得分に適用されます。2割加算は2021年4月1日以後の取得分に対応する部分が対象です。
  • 相続税法19条との関係:管理残額以外に贈与者から相続・遺贈により財産を取得していない受贈者には適用されませんが、死亡保険金・死亡退職金等のみなし相続財産を取得していれば適用されます(国税庁Q&AのQ4-5と注)。非課税拠出額そのものは加算対象外です(No.4161)。

結婚・子育て資金

  • 受贈者は契約締結日に18歳以上50歳未満、拠出前年の合計所得金額1,000万円以下(2019年4月1日以後の取得分)。契約終了事由は50歳到達・残高ゼロで終了合意・受贈者死亡で、前二者は残額(非課税拠出額−支出額−管理残額)を終了年の贈与税の課税価格に算入します。
  • 贈与者死亡時の管理残額は相続・遺贈による取得とみなされ、教育資金のような23歳未満等の除外はありません。管理残額以外に財産を取得していなければ相続税法19条の対象外です。
  • 令和9年度税制改正要望(こども家庭庁・金融庁の見直し事項):期限到来をもって廃止し、同日までの拠出分は経過措置で引き続き適用。要望書の利用件数は2023年217件、2024年253件、2025年(令和7年)219件。

実務論点

  • 既存の教育資金口座がある顧客には、受贈者の年齢(30歳・40歳)と在学状況、贈与者の健康状態と財産規模(5億円基準)を確認し、残額への贈与税と管理残額への相続税の見込みを把握しておきます。
  • 令和8年度改正の財務省解説は、終了の理由として新規契約数の大幅な減少、高資産層の利用による格差固定化の懸念、都度の贈与であれば通常必要な範囲で非課税であること、教育費の無償化等の拡充を挙げています。
第11章

名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方

子や孫の名義の預金でも、実質が親のお金なら、親が亡くなったときに相続税の対象になります。名義預金・名義株と判断される基準と、贈与をきちんと成立させて証拠を残す方法を説明します。

この章の結論

  • 誰の財産かは、名義ではなく実質で判断されます。国税庁の資料では、①お金を出したのは誰か、②誰が管理・運用していたか、③贈与の事実(あげる・もらうの合意)があったか、の3点が示されています。
  • 贈与は「あげる」と「もらう」の合意で成立します。もらう人が知らない口座への入金や、受贈者の署名がない書面だけでは、贈与と認められないことがあります。
  • 贈与のたびに契約書を作り、受贈者名義の口座に振り込み、受贈者自身が通帳や印鑑を管理します。暦年課税で年110万円を超えた年は、期限内に申告します。

名義預金とは:名義ではなく「実質」で判断されます

名義預金とは、子や孫、配偶者の名義になっていても、実際には別の人(多くは親)の財産と判断される預金です。国税庁は、名義にかかわらず、亡くなった人がお金を出しているなど亡くなった人の財産と認められるものは、相続税の対象になるとしています。

国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」は、子名義の定期預金を例に挙げています。①父の収入から預け入れたこと、②父が管理・運用していたこと、③子が父から贈与を受けた事実がないこと、の3点から、亡くなった父の財産として申告すべきとしています。家族名義や無記名の預貯金・株式・公社債・投資信託なども、同じく対象に挙げられています。

贈与税の側では、親の財産を無償で子の名義に変えた場合や、親が買った不動産を子の名義で登記した場合は、原則として名義人が贈与を受けたものとされます。ただし、実際には贈与の合意がなく、お金を出した人が管理を続けていれば、その財産はお金を出した人のものと判断されます。その人が亡くなると、相続財産として相続税の対象になります。

  1. お金を出したのは誰か名義人自身の給与などが原資なら、名義人の財産と判断されます。親が出したお金なら、次の点を確認します。
  2. あげる・もらうの合意があったか名義人が贈与を知り、受け入れていたかを確認します。幼い子の場合は、親権者が代わりに受諾したかが問題になります。
  3. 誰が管理・運用していたか通帳・印鑑・キャッシュカードの保管場所、届出印、入出金や運用を誰がしていたかを確認します。
  4. 判断合意があり、受贈者の側で管理していれば贈与が成立し、名義人の財産と認められます。合意がなく親が管理していれば、親の財産(名義預金)と判断されやすくなります。

「贈与税の期間制限が過ぎたから大丈夫」は誤りです

名義預金と判断された預金は、贈与されていない、つまりお金を出した人の財産のままという扱いです。そのため、入金から何年たっていても、贈与税の期間制限(原則6年)を理由に相続税の対象から外れることはありません。次に紹介する2021年(令和3年)の裁決が、その例です。2001年(平成13年)から毎年入金されていた成人の子の名義の口座について、入金の時点では贈与が成立していなかったと判断されました。

裁判例・裁決例から見える判断のポイント

結論は個別の事実によって分かれますが、傾向ははっきりしています。お金を出したのが亡くなった人で、通帳・印鑑・保管場所など管理が亡くなった人の側にあり、名義人に贈与を受けた認識がないと、相続財産とされやすくなります。逆に、名義人自身の収入が原資である場合や、贈与の受諾と実行が認められる場合は、相続財産から外れます。

名義預金に関する主な裁判例・裁決例
事案結論判断のポイント
2008年(平成20年)10月17日の東京地裁判決:妻名義の預金・有価証券夫の相続財産お金を出した人、管理・運用の状況、利益の帰属、夫婦の関係、名義人になった経緯などを総合して判断。原資は夫で、贈与契約書も贈与税の申告もなし。夫婦の間では、妻が管理していても決め手にならないと判断
2007年(平成19年)10月4日の国税不服審判所の裁決:妻・子名義の預貯金等相続財産(原資が不明な1口は除外)亡くなった人の筆跡のメモ、印鑑、保管場所、原資(退職手当)から、亡くなった人による管理を認定。妻は贈与を受けていないと申述し、贈与税の申告もなし
2021年9月17日の国税不服審判所の裁決:成人の子名義の口座入金の時点では贈与は不成立。残高を本人に渡した2015年(平成27年)に贈与が成立し、相続開始前3年以内の贈与として加算贈与証に受贈者の署名押印がなく、本人も存在を知らなかったこと。口座が亡くなった人の支配下にあったこと
同じ裁決:未成年だった子名義の口座子の財産(相続財産に含まれない)当時の唯一の親権者が法定代理人として受諾したこと。口座が贈与のために開かれ、入金が年1回の贈与分だけだったこと

2021年の裁決は、贈与契約書の役割を考えるうえで参考になります。亡くなった人は2001年に、子4人に毎年一定額を贈与するという「贈与証」を作りました。妻が指示を受けて、2012年(平成24年)まで毎年、子名義の口座に入金していました。成人の子については、贈与証に本人の署名押印がなく、本人もその存在を知らなかったため、書面による贈与は認められませんでした。

一方、当時未成年だった子については、唯一の親権者だった母が法定代理人として贈与を受諾したと認められました。通帳と印鑑は母が保管していましたが、子の財産とされています。ただし、これは個別の事実に基づく判断です。「契約書があれば安全」とも「未成年者名義なら必ず名義預金」とも言えません。

名義株と、名義を戻す・贈与を取り消す場合

名義株(ほかの人の名義で持っている株式)も、名義預金と同じく、名義人ではなく実際にお金を出した人の財産として扱われます。国税庁の事例集も、家族名義の株式を相続財産になる例に挙げています。実際の持ち主から名義人に株式を本当に移すときは、その時の贈与として扱われるのが原則です。自社株では、評価方式を決める株主の判定にも影響することがあります(→株主の区分)。

他人の名義で不動産や株式を取得してしまった場合でも、次の条件をすべて満たせば、贈与はなかったものとして扱われます(国税庁の名義変更通達)。

  • 名義人が、名義を使われたことを知らなかったこと(当時の状況から確認できる場合に限る)
  • 名義人が、その財産を使ったり収益を受け取ったりしていないこと(有価証券は管理運用や収益の受取りをしていないこと)
  • その財産について、最初の贈与税の申告や税務署の決定・更正の前に、本来の取得者の名義に戻したこと

贈与税を逃れる目的で他人の名義を使った場合は、この取扱いの対象外です。また、いったん成立した贈与を当事者の合意で取り消しても(合意解除)、贈与税は課税されます。もらったお金を返しても、贈与税はなくなりません。法律に定められた取消権や解除権による取消し・解除であれば、贈与はなかったものとされます。

毎年の贈与と「定期金」の贈与

毎年の贈与が、その年ごとの贈与契約にもとづくものなら、年ごとに暦年課税の基礎控除110万円が使えます。各年110万円以下なら贈与税はかからず、申告も要りません。

注意したいのは、最初にまとめて約束する場合です。「10年間にわたり毎年100万円ずつ贈与する」と約束すると、約束した年に贈与税がかかります。10年間、毎年100万円を受け取る権利(定期金に関する権利)を、その年にもらったものとされるためです。

その年ごとに契約して贈与する

  • 毎年、その年の贈与を決めて契約
  • 各年110万円以下なら、贈与税も申告も不要
  • 110万円を超えた年は、翌年2月1日〜3月15日に申告

最初に総額と期間を約束する

  • 例:「10年間、毎年100万円」と約束
  • 約束した年に、受け取る権利全体の贈与として課税
  • 毎年の受取額が110万円以下かどうかは無関係

国税庁が示しているのは「約束(契約)した場合」です。毎年同じ時期に同じ金額を贈与しただけで定期金の贈与になる、という基準は示されていません。それでも、毎年その年の契約書を作る、金額や時期を毎年決めるといった工夫は、その都度の贈与であることの証拠になります(法令上の要件ではありません)。

なお、毎年110万円以下の贈与でも、相続や遺贈で財産を取得する人については、亡くなる前の一定期間の分が相続税の計算に加算されます施行中。2026年(令和8年)中に亡くなった場合は3年分です。2027年(令和9年)以後は段階的に延び、2031年(令和13年)以後は7年分になります(→生前贈与加算)。

贈与の証拠の残し方:契約書・振込・管理・申告

贈与は、あげる・もらうの合意があれば口約束でも成立し、贈与契約書に決まった様式はありません。それでも書面を作ると、次の効果があります。

  • 贈与の時期が、契約の効力が生じた時として明確になります。
  • 書面によらない贈与と違い、解除できないとされています。
  • あげる・もらうの合意があったことの証拠になります。

ただし、契約書があっても、実際の振込や受贈者による管理がなければ、贈与と認められないことがあります。次の記載事項は法令上の要件ではなく、証拠としての力を高めるための実務上の工夫です。

贈与契約書の主な記載事項(法令で決まった様式はありません)
記載事項書き方のポイント
贈与者と受贈者双方の住所と氏名
贈与する財産現金なら金額。不動産は登記簿どおりの所在・地番・家屋番号、株式は銘柄と株数
引渡しの時期と方法例:「○年○月○日までに、受贈者名義の口座へ振り込む」
契約日実際に契約した日。毎年贈与するなら毎年作成
署名と押印双方が自署して押印。意思能力のない幼い子の場合は、親権者が法定代理人として受諾
確定日付(任意)公証役場で確定日付を受けると、その日に契約書が存在したことの証明になります

贈与の証拠チェックリスト

  • 贈与のたびに(毎年贈与するなら毎年)契約書を作り、贈与者と受贈者の双方が自署・押印した
  • 受贈者が贈与を知って受け入れている(幼い子は親権者が受諾した)
  • 現金の手渡しではなく、受贈者名義の口座に振り込んだ
  • 振込先の口座の通帳・印鑑・キャッシュカードを、受贈者が自分で管理している
  • 預金の引出しや運用を、受贈者自身が行っている
  • 「毎年○万円を○年間」のように、総額や期間をまとめて約束していない
  • 暦年課税で年110万円を超えた年は、翌年3月15日までに贈与税を申告した
  • 不動産や株式は、登記や名義書換えも遅らせずに済ませた
  • 契約書・振込の記録・申告書の控えを保管している

申告は、贈与があったことの有力な証拠になります。ただし、申告しただけで、実態が名義預金であるものが贈与に変わるわけではありません。

なお、2025年(令和7年)1月から、書面で提出した申告書の控えに税務署が収受日付印を押す取扱いはなくなりました。希望すれば、提出日などを記載したリーフレットを受け取れます。提出したことが分かる記録は、自分で保管しておきます。

不動産や株式を贈与したときは、登記や名義書換えも早めに行います。贈与の時期がはっきりしない場合は、登記や登録をした時に贈与があったものとして扱われるためです。契約書の日付に実態がないと、何年も後の登記の時の贈与とされることがあります(→贈与の成立と課税の時期)。

名義預金が見つかったとき・指摘されたとき

相続のときに、亡くなった人がお金を出して管理していた家族名義の預金が見つかったら、相続財産として申告に含めます。国税庁が公表した相続税の調査事例には、基礎控除以下になるよう預金を家族の名義に移していた無申告の事案があり、重加算税が課されています。贈与税では、2025年12月に公表された令和6事務年度の実地調査で、非違2,582件の83.4%が無申告でした。財産別の非違では、現金・預貯金等が62.9%を占めています。

申告した後で名義預金の漏れに気づいたら、修正申告で正しい内容に直します。税務署から調査の通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません(→修正申告・更正の請求、加算税・延滞税)。一方、家族名義の財産であると認識しながら申告しなかった場合は、重加算税の対象になる「隠蔽・仮装」の例として、国税庁の事務運営指針に挙げられています。

子どもが小さいうちに贈与し、通帳は親が管理してもよいですか。

幼い子への贈与は、親権者が法定代理人として受諾することで成立しえます。2021年の裁決でも、親権者が受諾し、贈与のために開いた口座に年1回の贈与分だけを入金していた未成年の子の口座は、子の財産と認められました。ただし、お金を出した親が自分のために引き出すなど、管理の実態が親の財産と変わらない場合は、名義預金と判断されるおそれがあります。子が自分で管理できる年齢になったら、通帳などを本人に渡しておくと、管理の実態がはっきりします。

毎年110万円ずつ子の口座に入金していれば安全ですか。

それだけでは安全とは言えません。次の3点を確認してください。

  • 子が贈与を知って受け入れ、自分で管理しているか(そうでなければ名義預金になりえます)。
  • 最初に総額や期間をまとめて約束していないか。
  • 相続や遺贈で財産を取得する子なら、亡くなる前の一定期間の贈与は110万円以下でも相続税に加算されます。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 民法549条(贈与は諾成契約で、受贈者の受諾が必要)、550条(書面によらない贈与は各当事者が解除できる。履行の終わった部分を除く)。
  • 相続税法9条、相続税法基本通達9-9(対価の授受のない名義変更、他人名義での不動産・株式等の取得は原則として贈与)。共働き夫婦が一方の名義で取得した場合、他方が負担した資金部分は名義人への贈与。
  • 相基通1の3・1の4共-8(書面による贈与は効力発生時、書面によらない贈与は履行時)、共-11(登記・登録の目的となる財産で時期が明確でない場合は、反証がない限り登記・登録時)。
  • 名義変更通達(昭和39年5月23日直審(資)22・直資68、昭和57年改正):名義人の不知・不使用と最初の申告等の前の名義回復で贈与なし(第1項・第2項)、脱税目的等は対象外(第4項)、過誤・軽率による他人名義も同様(第5項)、法令上の所有制限等によるやむを得ない名義借用(第6項)、法定の取消権・解除権による取消し等は贈与なし(第8項。申告後は国税通則法23条2項の更正の請求=第9項)、合意解除は課税(第11項)、取消し等に伴う名義の回復は贈与として扱わない(第12項)。
  • 連年贈与:国税庁タックスアンサーNo.4402のQ&A(総額・期間を約束した場合は、約束した年に定期金に関する権利の贈与)。権利の評価は相続税法24条。

名義預金の判断要素の位置づけ

国税庁の公表資料(誤りやすい事例集の事例6)で確認できる判断要素は、資金の拠出者、管理・運用者、贈与の事実の3点です。印鑑・通帳の保管状況、受贈者の認識、財産から生じる利益の帰属、名義取得の経緯などは、裁判例・裁決で総合考慮の要素として現れるもので、国税庁が基準として示したものではありません。顧客への説明でも区別しておきます。

裁判例・裁決

  • 東京地裁平成20年10月17日判決(税務訴訟資料):帰属は、出捐者、管理・運用の状況、利益の帰属者、被相続人と名義人・管理運用者との関係、名義取得の経緯等の総合考慮による。夫婦間では妻が管理・運用していても決定的ではない。遺産分割調停での合意は課税庁を拘束しない。
  • 国税不服審判所平成19年10月4日裁決(裁決事例集No.74):妻・子名義の預貯金等について、被相続人の筆跡のメモ、印鑑、保管場所、原資から被相続人の管理を認定。原資不明の1口を除き一部取消し。
  • 国税不服審判所令和3年9月17日裁決:受贈者の署名押印がなく本人が存在を知らない贈与証では書面による贈与の成立を認めず、毎年電話で申込み・受諾したとの陳述も採用しなかった。残高と通帳を交付した平成27年8月に贈与が成立・履行したとして、相続開始前3年以内の贈与として加算。未成年者名義の口座は親権者の受諾により受贈者に帰属。被相続人が鍵を管理していた金庫の現金は相続財産。
  • 公表裁決事例要旨(相続財産の帰属:預貯金)には、家族名義の預貯金等の被相続人への帰属を否定した裁決(平成13年3月29日、平成25年12月10日)も掲載されています。

名義株

  • 家族名義の株式も実質所有者の財産とされます(事例6)。実質所有者から名義人への実質的な移転は相基通9-9の問題になり、元々実質所有者の株式の名義を実質所有者に戻すことは贈与に当たらないと考えられます(名義変更通達の考え方による整理)。
  • 株主区分の判定では、贈与で取得した株式の名義書換えが未了でも議決権を否定する理由にならないとして、その議決権を含めて判定した裁判例があります(東京地裁令和2年2月25日判決)。

調査・加算税

  • 事務運営指針「相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて」は、被相続人以外の名義・架空名義・無記名・遠隔地の財産であると認識したうえで申告しないことなどを、隠蔽・仮装の類型に挙げています。
  • 過少申告加算税は、調査通知前かつ更正予知前の自主的な修正申告には課されません。
  • 令和6事務年度の贈与税の実地調査は2,778件、非違2,582件(うち無申告83.4%)、財産別の非違は現金・預貯金等62.9%です。
第12章

親子間の金銭貸借・土地の貸し借り・売買

親子の間でお金を貸す、土地をただで使わせる、財産を安く売るといった取引は、中身によって贈与税や所得税の問題になります。贈与とされないための条件と、売った親の譲渡所得への影響を整理します。

この章の結論

  • 親子間の借金は、返済能力や返済の状況からみて本当の貸し借りと認められれば贈与になりません。「出世払い」「ある時払いの催促なし」は、借りたお金そのものが贈与とされます。
  • 親の土地を無償(使用貸借)で借りて子が家を建てても、借地権の贈与税はかかりません。土地は親の財産のままで、自用地として評価されます。
  • 親子間の土地・建物の売買は、相続税評価額ではなく通常の取引価額(時価)で判定します。著しく安ければ差額が子へのみなし贈与になり、時価の2分の1未満で売って親に譲渡損失が出ても、その損失はなかったものとされます。

親子間のお金の貸し借り:贈与とされない条件

親が子にお金を貸すこと自体は、贈与ではありません。国税庁は、親子や祖父母と孫の間の貸し借りでも、本当の金銭の貸し借りと認められれば、借りたお金は贈与にならないと説明しています。判断の材料になるのは、借りた人の返済能力と、実際の返済の状況です。

一方で、次のような場合は、借りたお金そのものが贈与とされます。

  • 実質は贈与なのに、形だけ貸し借りにしている場合
  • 「ある時払いの催促なし」「出世払い」のように、返済の約束が事実上ない場合

無利子で貸したとき

無利子で借りた子は、本来払うはずの利子の分だけ得をしています。このため、利子に相当する金額が贈与として扱われることがあります。ただし、その金額が少額の場合や、課税上の弊害がないと認められる場合は、強いて課税しない取扱いです(相続税法基本通達9-10)。

国税庁は、利子相当額の計算方法や、何%の利率なら問題ないかという目安を示していません。「利息相当額が年110万円以下なら問題ない」といった数値の基準も、国税庁の資料にはありません。

返済を免除したとき・親が亡くなったとき

途中で親が返済を免除すると、免除した金額は子への贈与とみなされます(相続税法8条)。毎年少しずつ免除する場合も、その年に免除した額が贈与になります。子が債務超過などで返済が困難な状態にあり、返済できない部分を免除したときは、贈与とみなさない例外があります。

返済が終わる前に親が亡くなった場合、残っている貸付金は親の相続財産です。評価額は、元本に、亡くなった日までに経過した期間の未収利息を加えた金額が原則です(財産評価基本通達204)。

なお、親が子の住宅ローンを代わりに返済し、子が親に返さないなら、それは子の借金の肩代わりです。子が利益を受けたものとして贈与税の対象になります(みなし贈与:保険金・低額譲受け・債務免除・その他の利益)。

親子でお金を貸し借りするときの確認リスト

  • 金銭消費貸借契約書を作り、金額・返済期間・毎回の返済額・利息の有無を決めている
  • 返済額が、子の収入から無理なく払える水準になっている
  • 返済は子の口座から親の口座への振込で行い、記録が残っている
  • 契約書どおりに、実際に返済を続けている
  • 「返せるときに返す」「出世払い」のような取り決めになっていない
  • 途中で返済を免除すると、免除額が贈与とみなされることを家族で共有している

このリストは法令上の要件ではなく、本当の貸し借りであることを示すための実務上の備えです。

よくある誤り:「契約書があれば贈与にならない」

契約書を作っても、それだけでは足りません。国税庁が見るのは返済能力と返済の状況です。契約書は出発点で、口座振込による返済の記録を実際に積み重ねることが重要です。

親の土地に子が家を建てる:使用貸借なら贈与税はかからない

子が親の土地をただで借りて、自分の家を建てることがあります。このような無償の貸し借りを、民法では使用貸借といいます。国税庁の取扱いでは、建物を建てるための使用貸借による土地の使用権の価額はゼロとされ、土地を借りた時に借地権相当額の贈与税はかかりません。

子が親に固定資産税などの税金(公租公課)に相当する額以下のお金を払っていても、使用貸借に当たります。反対に、権利金を払ったり、地代に代わる経済的な利益を与えたりしていれば、使用貸借には当たりません。

土地は親の財産のままです。親が亡くなったときや、親が土地を子に贈与するときは、その土地を自用地(他人の権利が付いていない土地)として評価します。子の建物が自宅でも貸家でも同じで、借地権の分を差し引くことはできません。

親の相続で小規模宅地等の特例が使えるかは、子が親と生計を一にしているかで分かれます。生計が別の子が無償で借りた親の土地に子名義の家を建てて住んでいる場合、その土地は特例の対象外です。生計を一にする子なら、要件を満たすと特定居住用宅地等になりえます。

地代や権利金を払うと、借地権の問題になる

親子間でも、地代を払って土地を借りる賃貸借にすると、借地権(建物を建てるために土地を借りる権利)の問題が出てきます。借地権を設定するときに権利金を払う慣行がある地域では、注意が必要です。権利金を払わず、地代も相当の地代に満たないときは、借りた子が親から借地権に相当する利益の贈与を受けたものとして扱われます。

相当の地代とは、権利金の代わりに払う地代のことで、土地の自用地としての価額(過去3年間の平均)のおおむね年6%程度とされています。相当の地代を払っていれば、権利金などのやり取りがない限り、借地権の価額はゼロです。

親の土地を子が使う形と贈与税の扱い
土地の使い方贈与税の扱い
無償で借りる(使用貸借。固定資産税相当額以下の負担を含む)借地権相当額の贈与税は課税なし。土地は親の財産として自用地評価
権利金を払わず、相当の地代に満たない地代で借りる(権利金を払う慣行のある地域)借地権に相当する利益を、親から子への贈与として課税
相当の地代(自用地価額のおおむね年6%程度)を払って借りる権利金などのやり取りがなければ、借地権の価額はゼロ
親が地主から借りている土地(親の借地権)を、子が無償で借りて家を建てる「借地権の使用貸借に関する確認書」で、使用貸借であることを確認する取扱い
親が借りている土地の底地を子が地主から買い、親子間で地代のやり取りがなくなる親から子への借地権の贈与として課税。ただし「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を出せば課税なし

親の家に子がお金を出して増築する場合

国税庁の質疑応答事例「父所有の家屋に子が増築した場合の贈与税の課税関係」では、父名義の家(時価1,000万円)に子が1,000万円で増築しています。増築部分を元の家と分けて登記するのが難しいため、増築後の家を父と子の2分の1ずつの共有にしたいという照会です。

そのために、父は元の家の持分2分の1を時価で子に売ります。代金は、子が払った増築費用のうち父が負担すべき500万円(1,000万円×2分の1)と相殺します。国税庁は、この方法なら贈与税の課税関係は生じないとしています。

ただし、父には持分を売ったことによる譲渡所得が生じ、親子間の売買のため居住用財産の3,000万円の特別控除などは使えません。増築の前に、費用の負担と登記の形を税務署や専門家に確認してください。

親子間の売買①:安く買った子にはみなし贈与

個人から財産を著しく低い価額で買うと、時価と支払った代金の差額は、売った人からの贈与とみなされます(相続税法7条)。親子間の売買で問題になるのは、この「時価」と「著しく低い」の判断です。みなし贈与の全体像はみなし贈与:保険金・低額譲受け・債務免除・その他の利益で説明しています。

土地・建物(借地権や構築物を含む)の時価は、相続税評価額(路線価など)ではなく、通常の取引価額です。通常の取引価額と相続税評価額の開きを使った贈与税の負担回避に対処するため、国税庁の個別通達(負担付贈与通達)がこう定めています。土地・建物以外の財産の時価は、相続税評価額です。

「著しく低い」かどうかに数値の基準はなく、取引ごとに判断します。個人が法人に売るときの「時価の2分の1未満」という基準は、個人間の判定基準ではないと国税庁が明記しています。負担付贈与通達は、取引の事情や当事者の関係を総合的にみて、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかで判定するとしています。

土地・建物の代金が、売った親の取得価額を下回る場合は、値下がりなどの合理的な理由がない限り、著しく低い価額に当たるとされています。また、買った子が債務超過などで借金の返済が困難な状態にあり、その返済に充てるために扶養義務者である親から安く買ったときは、返済が困難な部分の金額は贈与とみなされません。

よくある誤り

  • 「親子間なら時価の2分の1以上で売れば贈与税はかからない」は誤りです。2分の1は個人が法人に売る場合の所得税の基準で、個人間は取引ごとに判定します。
  • 「路線価(相続税評価額)で売れば安全」とはいえません。土地・建物の個人間の売買では時価を通常の取引価額でみるため、差額がみなし贈与とされる可能性があります。

親子間の売買②:売った親の譲渡所得と取得費の引継ぎ

個人に売った場合は、法人に売った場合のような「時価で売ったものとみなす」扱い(みなし譲渡)はありません。売った親は、実際に受け取った代金をもとに譲渡所得を計算します。

ただし、時価の2分の1未満の代金で売り、代金が取得費と譲渡費用の合計に満たない(譲渡損失が出る)場合は、その損失はなかったものとみなされます(所得税法59条2項)。このとき、買った子は親の取得費と取得時期をそのまま引き継ぎます(所得税法60条1項2号)。

2分の1未満でも譲渡益が出る場合や、2分の1以上の代金で売った場合は、通常の売買として計算します。子の取得費は、実際に支払った代金です。

なお、土地・建物の譲渡損失は、同じ年の他の土地・建物の譲渡益とは差し引きできますが、給与などの所得とは通算できず、翌年への繰越しもありません(居住用財産の一定の特例を除きます)。

計算例:値下がりした土地を父が子に売る(2026年(令和8年)中の売買)

前提:父が2000年(平成12年)に5,000万円で買った土地(建物なし)。2026年の通常の取引価額(時価)は4,000万円、相続税評価額は3,200万円です。子が3つの価格で買う場合を比べます。譲渡費用はないものとします。

代金ごとの課税関係(金額の単位は万円)
項目①1,500万円で買う②3,200万円で買う③4,000万円で買う
時価の2分の1(2,000万円)との比較未満以上以上
子のみなし贈与4,000−1,500=2,500(著しく低い価額と判定された場合)4,000−3,200=800が著しく低い価額に当たるかは個別に判定なし
父の譲渡所得1,500−5,000=△3,500。この損失はなかったものとみなす扱い3,200−5,000=△1,800の損失(他の土地・建物の譲渡益とだけ差し引き可)4,000−5,000=△1,000の損失(他の土地・建物の譲渡益とだけ差し引き可)
子の取得費と取得時期父の5,000万円・2000年を引継ぎ3,200万円・2026年4,000万円・2026年

答え:①では、子に2,500万円のみなし贈与が生じ(著しく低い価額と判定された場合)、父の損失3,500万円はなかったものとされます。子は父の取得費5,000万円を引き継ぐので、将来売るときの譲渡所得はその分小さくなります。③の時価での売買なら贈与の問題はなく、父の損失は同じ年の他の土地・建物の譲渡益と差し引きできます。

実務のコツ

親子間で土地・建物を売買するときは、通常の取引価額をどのように見積もったかの資料を残しておきます。代金は振込で支払い、売買の事実と金額を後から説明できるようにしておくと安心です。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

金銭の貸借・債務免除

  • 相続税法9条、相基通9-10:特殊関係者間の無利子の金銭の貸与等は利息相当額の利益を受けたものとして扱いますが、少額・課税上弊害がない場合は強いて課税しません。実質が贈与かどうかの確認も求めています。
  • TA No.4420:真に金銭の貸借と認められれば借入金自体は贈与になりません。「ある時払いの催促なし」「出世払い」は借入金そのものが贈与です。利子相当額の計算方法や利率の目安は示されていません。
  • 相続税法8条、相基通8-1〜8-4:債務の免除・引受け・第三者のための弁済はみなし贈与です。債務者が資力を喪失して弁済が困難な場合の免除と、扶養義務者による引受け・弁済は、弁済困難な部分が除かれます。求償権の放棄も対象です(8-3)。
  • 貸付金債権の評価:評基通204(元本+既経過利息)、205(破産手続開始の決定があった場合などの元本不算入)。

土地の使用貸借・借地権

  • 使用貸借通達(1973年(昭和48年)11月1日付直資2-189ほか):建物所有を目的とする使用貸借の使用権の価額は零で、公租公課相当額以下の授受は使用貸借に当たります。土地は地上の建物が貸家でも自用地評価です。借地権の使用貸借に関する確認書、借地権者の地位に変更がない旨の申出書も同通達の取扱いです。
  • 相当の地代通達(1985年(昭和60年)6月5日付課資2-58ほか):相当の地代(自用地価額の過去3年間の平均のおおむね年6%)を支払えば、権利金等がない限り借地権の価額は零です。相当の地代に満たない地代では、借地権者が土地所有者から利益の贈与を受けたものとして計算します。

親の家屋への増築

  • 質疑応答事例「父所有の家屋に子が増築した場合の贈与税の課税関係」(2025年(令和7年)8月1日現在の法令・通達等):増築部分を旧家屋と区分して登記することが困難な事例です。旧家屋(時価1,000万円)の持分2分の1を父から子に時価で譲渡し、その代金を、子が支出した増築費用1,000万円のうち父が負担すべき部分500万円と相殺して2分の1ずつの共有とする場合、贈与税の課税関係は生じないとしています。父の持分の譲渡は親子間の譲渡のため、措法35条の居住用財産の譲渡所得の特別控除等は適用されません。

低額譲受けと譲渡所得

  • 相続税法7条、相基通7-1(譲渡の時ごとに一括判定)〜7-5。TA No.4423は、所得税法59条の2分の1基準が個人間の判定基準ではないと明記しています。
  • 負担付贈与通達(1989年(平成元年)3月29日付直評5・直資2-204。1989年4月1日以後の取得に適用):土地等・家屋等は取得時の通常の取引価額で評価し、譲渡者等の取得価額が通常の取引価額に相当すると認められれば、その取得価額によることができます。対価が譲渡者の取得価額を下回る場合は、価額の下落など合理的な理由がない限り著しく低い価額の対価に当たります。
  • 上場株式を個人間の対価を伴う取引で取得した場合は課税時期の最終価格で評価します(評基通169(2))。非上場株式には個人間取引の特則がなく、取得者基準の評基通の評価額によります。
  • 所得税法59条2項・60条1項2号:時価の2分の1未満の譲渡で譲渡損失が生じる場合は損失なしとし、譲受人が取得費・取得時期を引き継ぎます。それ以外の譲渡では引継ぎはなく、譲受人の取得費は支払った対価です。
第13章

法人と個人の間の贈与

贈与税は、個人から財産をもらった個人にかかる税金です。会社などの法人があげる側やもらう側になると所得税や法人税の問題に変わり、同族会社なら株主に贈与税がかかることもあります。

この章の結論

  • 個人が土地や株式などを法人に贈与したり、時価の2分の1未満で売ったりすると、あげた個人が時価で売ったものとみなされ、譲渡所得に課税されます(みなし譲渡)。
  • 法人からもらった財産に贈与税はかからず、所得税の対象です(原則は一時所得。勤務先からなら通常は給与所得)。財産をもらった法人では、受贈益として法人税の課税対象になります。
  • 同族会社に財産を無償や著しく低い価額で提供して株式の価値が上がると、ほかの株主が、提供した人から贈与を受けたものとみなされます(相続税法9条)。

全体像:誰に、どの税金がかかるか

贈与税を納めるのは、原則として財産をもらった個人です。法人が財産をもらえば法人税、個人が法人から財産をもらえば所得税の対象になります。法人がからむ取引では、あげた側・もらった側・株主の3者について、それぞれ別の税金を考える必要があります。

取引ごとの課税関係を早見表にまとめます。個人どうしの取引も、比べるために載せています。

個人・法人の間で財産を移したときの課税関係(早見表)
取引あげた・売った側もらった・買った側
個人から個人への贈与課税なし(もらった人が取得費を引き継ぐ)贈与税
個人から個人への著しく低い価額での売買実際の代金で譲渡所得(時価の2分の1未満で譲渡損失なら損失なし)時価との差額がみなし贈与(贈与税)
個人から法人への贈与時価で売ったものとみなして譲渡所得法人に受贈益(法人税)。持分の定めのない法人で、親族の相続税・贈与税が不当に減る場合は法人に贈与税
個人から法人への時価の2分の1未満での売買時価で売ったものとみなして譲渡所得法人に時価との差額の受贈益。同族会社なら株価の上昇分が株主へのみなし贈与
法人から個人への贈与法人税の論点(寄附金・役員給与など)所得税(原則は一時所得。業務に関するものや継続的なものは給与所得など)

個人から法人へ:贈与や安い売却は「時価で売った」とみなされる

個人が土地・建物・株式などの資産を法人に贈与すると、あげた個人は、その時の時価で資産を売ったものとみなされます(所得税法59条1項)。お金を受け取っていなくても、値上がり益に譲渡所得の税金がかかるということです。遺言で法人に遺贈した場合も同じです。

法人に売った場合でも、代金が時価の2分の1に満たないときは、時価で売ったものとみなされます(所得税法施行令169条)。2分の1以上の代金でも、同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条)に当たる場合は、時価で計算されることがあります(所得税基本通達59-3)。

低い価額かどうかは、契約ごとに判定します。1つの契約で複数の資産を売ったときは、その合計額で判定します(同59-4)。贈与という名目でも、法人が借入金を引き受けるなどの経済的な利益があれば、対価のある売買として2分の1の基準で判定します(同59-2)。一般財団法人を設立するために財産を出すことも、法人への贈与に含まれます(同59-1)。

国や地方公共団体への寄附と、国税庁長官の承認を受けた公益法人等への寄附は、譲渡がなかったものとみなされ、譲渡所得はかかりません(租税特別措置法40条)。

非上場株式を法人に売るときの時価は、所得税基本通達59-6により、売った人の譲渡直前の議決権の数で株主の区分を判定するなど、相続税の評価とは異なる条件で計算します。詳しくは所得税・法人税上の時価:所基通59-6と最高裁令和2年判決で説明しています。

計算例:父が長男の会社に土地を安く売る(2026年(令和8年)中)

前提:父が20年以上前に1,000万円で買った土地(通常の取引価額5,000万円)を、長男が全株式を持つ同族会社B社に2,000万円で売ります。譲渡費用はないものとします。

① 2分の1の判定:5,000万円×2分の1=2,500万円。代金2,000万円はこれに満たないため、時価5,000万円で売ったものとみなします

② 父の譲渡所得:収入金額5,000万円−取得費1,000万円=4,000万円(所有期間5年超の長期譲渡所得)

③ 父の税額:所得税4,000万円×15%=600万円、復興特別所得税600万円×2.1%=12万6,000円、住民税4,000万円×5%=200万円、合計812万6,000円

④ B社:時価5,000万円−代金2,000万円=3,000万円が受贈益(法人税の課税対象)

⑤ 長男:B社の株式の価額が上がれば、その上昇分を父から贈与されたものとみなします(相続税法9条)

答え:父が受け取るのは2,000万円ですが、5,000万円で売ったものとして812万6,000円の税金がかかります。代金を2,500万円以上にすれば①のみなし譲渡は避けられますが、時価より低い代金である限りB社の受贈益は残り、長男へのみなし贈与も問題になりえます。

法人がもらう側:受贈益と、法人に贈与税がかかる例外

法人は贈与税を納める立場にありません。法人が無償で資産を譲り受けると、その時価が受贈益として法人税の課税所得の計算に加わります(法人税法22条2項)。時価より低い価額で買った場合も、時価との差額が受贈益です。

ただし例外があります。対象は、一般社団法人・一般財団法人のような持分の定めのない法人への贈与です。贈与した人の親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減る結果になると認められるときは、その法人を個人とみなして贈与税が課されます(相続税法66条4項)。代表者や管理者の定めのある人格のない社団・財団への贈与も、その社団・財団を個人とみなして贈与税が課される場合があります(同条1項)。

同族会社への贈与:株価が上がると株主にみなし贈与

オーナーの一族が経営を支配する同族会社に財産を無償で提供すると、会社の財産が増え、株式の価値も上がります。この上昇分は、提供した人からほかの株主への贈与とみなされます(相続税法9条、相続税法基本通達9-2)。たとえば父が長男の会社に財産を無償で提供すると、会社は受贈益で法人税、長男は株価の上昇分で贈与税の対象になります。

株主へのみなし贈与になるのは、次の4つの行為で株式の価額が増えた場合です。贈与の時期は、財産の提供や債務の免除などをした時です。

  • 会社に財産を無償で提供する
  • 時価より著しく低い価額で現物出資をする
  • 会社の借入金などの債務を、対価なしで免除・引受け・弁済する
  • 時価より著しく低い価額で会社に財産を売る

たとえば、社長が会社に貸しているお金(会社から見た役員借入金)を放棄する場合です。貸付金は社長が亡くなれば相続財産になりますが、生前に放棄すると債務の免除に当たり、株価が上がればほかの株主へのみなし贈与が問題になります。会社側の法人税の扱い(債務免除益)もあわせて確認が必要です。

例外は、会社が資力を喪失した場合です。会社更生・民事再生などの法的手続や再建のための負債整理に入った会社に、取締役などが私財の提供や債務の免除をしても、会社の債務超過額に相当する部分は株主への贈与として扱いません。一時的に債務超過になっているだけでは、この例外に当たりません。

実務のコツ

同族会社に財産を移すときは、①あげた個人の譲渡所得(みなし譲渡)、②会社の受贈益(法人税)、③ほかの株主へのみなし贈与(株価の上昇)の3つを、移す前に同時に試算します。1つだけを見ると、ほかの税金を見落とすことがあります。

法人からもらう・安く買う:贈与税ではなく所得税

個人が法人から財産をもらっても、贈与税はかかりません。法人からの贈与は贈与税の非課税財産とされ、代わりに所得税の対象になります(相続税法21条の3)。暦年課税の年110万円の基礎控除とも関係ありません。

法人から贈与を受けた金品は、原則として一時所得です(所得税基本通達34-1)。ただし、業務に関して受けるものや継続的に受けるものは一時所得から除かれます。勤務先の会社から役員や従業員が受けるものは給与所得、取引先から業務に関して受けるものは事業所得や雑所得として課税されるのが通常です。

一時所得の金額は、もらった金額から、そのために支出した金額と特別控除(最高50万円)を差し引いて計算します。所得税の計算で総所得金額に加えるのは、その2分の1です。

計算例:業務と関係のない法人から現金300万円をもらった

一時所得の金額=300万円−支出した金額0円−特別控除50万円=250万円

総所得金額に加える額=250万円×2分の1=125万円

答え:贈与税はかからず、125万円をほかの所得と合計して所得税を計算します。

法人から時価より安く財産を買った場合も、時価との差額は経済的な利益として所得税の対象です。買ったのが役員や従業員なら給与所得、それ以外の個人なら一時所得とするのが一般的な扱いです。売った法人の側では、差額が寄附金や役員給与として扱われ、損金にならない場合があります。

よくある誤り

  • 「会社から社長がもらったお金は、贈与税の110万円の範囲なら非課税」は誤りです。法人からの贈与は所得税の対象で、勤務先からなら通常は給与所得です。
  • 「会社に寄附すれば個人に税金はかからない」も誤りです。土地や株式を法人に贈与すると、時価で売ったものとみなされ、値上がり益に譲渡所得の税金がかかります。
  • 「時価の2分の1以上で会社に売れば問題ない」とはいえません。同族会社等の行為計算の否認、会社の受贈益、株主へのみなし贈与が問題になることがあります。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

個人から法人への移転(所得税)

  • 所得税法59条1項1号・2号、所得税法施行令169条(著しく低い価額=時価の2分の1に満たない金額)。所基通59-1(一般財団法人の設立のための拠出も贈与に含む)、59-2(債務引受け等の経済的利益があれば2号で判定)、59-3(2分の1以上でも所得税法157条に該当すれば時価で計算)、59-4(契約ごとに判定し、一の契約で複数資産なら合計額で判定)。
  • 非上場株式の時価は所基通59-6によります(譲渡・贈与直前の議決権で判定、中心的な同族株主なら発行会社を小会社とみなす、土地・上場有価証券は時価、評価差額に対する法人税額等相当額は控除しない)。最高裁令和2年(2020年)3月24日判決は、所得税法59条1項の時価は譲渡人の会社支配力に応じた評価方法によるべきとして原判決を破棄し差し戻しました。同判決の補足意見を受けて同年8月28日付で所基通59-6が改正され、従来の取扱いが明確化されています(取扱いの変更ではありません)施行中。
  • 租税特別措置法40条(国等や承認を受けた公益法人等への寄附)。同法40条の3の2は、中小企業者の取締役等が債務処理計画に基づき2028年(令和10年)3月31日までに行う事業用資産の法人への贈与で、一定の要件を満たすものを非課税としています期限あり。

法人側・株主側(法人税・贈与税)

  • 法人税法22条2項(無償による資産の譲受け等による収益)。法人税上の時価は法人税の取扱い(法人税基本通達)によります。
  • 相続税法66条1項(代表者等の定めのある人格のない社団・財団を個人とみなす)、4項(持分の定めのない法人への贈与で、贈与者の親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合)、相基通1の3・1の4共-2。
  • 相続税法9条、相基通9-2(無償の財産提供、著しく低い価額の現物出資、債務の免除・引受け・弁済、著しく低い価額の譲渡による同族会社の株式等の価額の増加)、9-3(資力喪失時の債務超過額相当部分の除外)、9-4〜9-7(同族会社の新株発行に伴う募集株式引受権等)、9-14(著しく低い価額等の意義は相基通7-1・7-3〜7-5に準ずる)。

法人から個人への移転(所得税)

  • 相続税法21条の3第1項1号(法人からの贈与は贈与税の非課税財産)、所得税法34条、所基通34-1(5)(法人からの贈与により取得する金品は一時所得。業務に関して受けるもの・継続的に受けるものを除く)。
  • 法人が有価証券を無償・低額で譲渡した場合の対価は通常得べき対価の額です(法人税法61条の2第1項1号、法基通2-3-4)。差額は、相手方に応じて寄附金(法人税法37条)や役員給与等(同法34条)とされえます。個人側の所得区分は、取引の事実関係によって判断します。
第14章

贈与税の申告・納付・延納・期間制限

贈与税は、財産をもらった人が翌年2月1日から3月15日までに自分で申告し、納める税金です。申告の要否、納付と延納、贈与者の連帯納付義務、誤りの直し方と期間制限、調査の状況を説明します。

この章の結論

  • 2026年(令和8年)中の贈与の申告・納付期限は、2027年(令和9年)3月15日(月)です。提出先は、もらった人(受贈者)の住所地の税務署です。
  • 配偶者控除と住宅取得等資金の非課税期限ありは、税額が0円でも申告が必要です(住宅取得等資金の非課税は2026年12月31日までの贈与が対象)。相続時精算課税の届出や特別控除のように、期限を過ぎると使えなくなるものがあります。
  • 贈与税に物納はなく、延納は5年以内です。税務署が税額を直せる期間は法定申告期限から6年(偽りその他不正の行為があれば7年)で、相続税の5年より長くなっています。

申告が必要な場合と申告期限・提出先

贈与税の申告は、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産について、翌年2月1日から3月15日までに行います。期限が土日祝日に当たるときは、翌平日が期限です。2026年中の贈与なら、申告期間は2027年2月1日(月)から3月15日(月)までです。

提出先は、財産をもらった人の住所地を管轄する税務署です。亡くなった人の住所地の税務署に申告する相続税とは異なります。国内に住所がない人は、納税管理人を定めて届け出たうえで申告・納税します(日本の贈与税がかかる財産の範囲は贈与税の仕組みで説明しています)。

贈与税の申告が必要かどうか
ケース申告・届出
暦年課税でもらった財産の合計が年110万円を超える申告が必要
相続時精算課税の贈与が年110万円を超える(特定贈与者が複数なら合計で判定)申告が必要
相続時精算課税を初めて選ぶ選択届出書が必要(申告が不要な年も同じ)
配偶者控除・住宅取得等資金の非課税を受ける税額が0円でも申告が必要
亡くなった人から相続開始の年に贈与を受け、相続・遺贈でも財産を取得した贈与税の申告は不要(相続税の課税価格に加算)
亡くなった人から相続開始の年に贈与を受け、相続・遺贈では何も取得しない贈与税の対象(暦年課税なら贈与額の全額で判定し、110万円を超えれば申告が必要)
法人から財産をもらった贈与税の申告は不要(所得税の対象)

精算課税の年110万円の基礎控除は2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から適用されています施行中(それ以前は金額にかかわらず申告が必要でした)。相続開始の年の贈与でも、配偶者控除を受ける部分は申告が必要です。相続開始の年の精算課税の贈与は申告不要ですが、初めて選ぶなら選択届出書が必要です。

  1. 2026年1月1日〜12月31日この1年間にもらった財産を合計します。暦年課税と相続時精算課税の110万円の基礎控除も、この1年単位です。
  2. 2027年2月1日(月)2026年分の申告の受付が始まります。
  3. 2027年3月15日(月)申告・納付の期限です。相続時精算課税の選択届出書と、延納の申請書もこの日までに出します。
  4. 2027年3月16日以後納付が遅れると延滞税がかかります。2027年の割合は、2026年11月30日までに告示される平均貸付割合で決まり、2026年10月時点では未定です。
  5. 法定申告期限から6年税務署が更正・決定できる期間の終わりです(偽りその他不正の行為があれば7年)。

申告書の種類・添付書類・提出方法

申告書は、暦年課税は第一表、住宅取得等資金の非課税は第一表の二、相続時精算課税は第二表を使います。第二表は、特定贈与者(精算課税を選んだ相手の贈与者)ごとに作ります。申告書にはマイナンバーを書き、本人確認書類を添付します(e-Taxなら別送は不要です)。

主な添付書類は、特例税率で基礎控除後の課税価格が300万円を超えるときの戸籍の謄本など、相続時精算課税を初めて選ぶときの選択届出書などです。配偶者控除や住宅取得等資金の非課税では、戸籍の謄本や登記事項証明書、契約書の写しなどが必要です(申告書に不動産番号を書けば登記事項証明書は省略できます)。要件は暦年課税の計算、相続時精算課税、贈与税の配偶者控除、住宅取得等資金の非課税の各章で説明しています。

提出方法は、e-Tax(スマートフォンからの申告もできます)、郵便・信書便、税務署の窓口や時間外収受箱です。郵送の場合は、通信日付印の日が提出日になります。2025年(令和7年)1月から、申告書の控えへの収受日付印の押なつは廃止されています施行中。

期限を過ぎると使えなくなるもの

  • 相続時精算課税の選択届出書:期限後に出しても精算課税は選べず、暦年課税で計算されます。救済の規定はありません。
  • 相続時精算課税の特別控除(累計2,500万円):期限内申告が条件です。期限後申告になった年は使えず、使えなかった分は翌年以後に繰り越されます(届出書を期限内に出していれば、精算課税自体は適用されます)。
  • 住宅取得等資金の非課税:期限内に申告することが要件です。

納付の方法と延滞税

納期限は申告期限と同じで、2026年分は2027年3月15日です。暦年課税と相続時精算課税の税額を合計して納めます。申告書を出しても、税務署から納付書は送られてきません。

納付は、ダイレクト納付、インターネットバンキング・ATM、クレジットカード(1,000万円未満。手数料がかかります)、スマホアプリやQRコードでのコンビニ納付(30万円以下)、金融機関・税務署の窓口でできます。振替納税は利用できません。

納期限までに納めないと、納期限の翌日から納めた日までの日数に応じて延滞税がかかります。割合は、納期限の翌日から2か月以内が「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」の低い方、その後は「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」の低い方です。

延滞税の割合(年率)
期間納期限の翌日から2か月以内2か月を過ぎた後
2026年1月1日〜12月31日2.8%9.1%
2022年(令和4年)1月1日〜2025年12月31日2.4%8.7%

延滞の期間が年をまたぐときは、各年の日数にその年の割合を当てはめます。

延納と贈与者の連帯納付義務

贈与税を一度に納められないときは、延納(年払いの分割納付)を申請できます。期間は5年以内で、次の要件をすべて満たす必要があります。贈与税には、相続税のような物納(財産で納める方法)はありません。

贈与税の延納の要件
要件内容
税額申告により納める税額が10万円を超えている
納付困難金銭で一度に納めることが難しい理由がある
担保担保を提供する(延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下なら不要)
申請期限納期限までに延納申請書と担保提供関係書類を提出する
期間5年以内の年賦

延納の許可を受けた税額には、延滞税ではなく利子税がかかります。利子税の本則は年6.6%で、延納特例基準割合が7.3%未満の年は「6.6%×延納特例基準割合÷7.3%」(0.1%未満切捨て)に下がります。2026年の延納特例基準割合1.3%で計算すると、6.6%×1.3%÷7.3%=1.17…%で、0.1%未満を切り捨てて年1.1%です。これは計算上の値なので、申請のときに税務署で確認してください。

贈与者の連帯納付義務

受贈者が贈与税を納めないときは、財産をあげた贈与者も、贈与した財産の価額を限度として、連帯して納める義務を負います(相続税法34条4項)。

注意したいのは、贈与者が受贈者の代わりに贈与税を払う場合です。贈与税は受贈者自身の債務なので、贈与者が肩代わりして返してもらわなければ、その金額が新たな贈与とみなされることがあります(相続税法8条)。ただし、受贈者がもらった財産を使ってしまうなどして資力を失い、納められないために連帯納付義務に基づいて払った場合は、この取扱いをしないとされています(相続税法基本通達34-3)。

よくある誤り:「贈与税は親が払ってあげる」

親が子の贈与税を代わりに納めると、その税額分も子への贈与とみなされることがあります。納税資金も渡したいなら、その分を加えて贈与し(贈与税もその分増えます)、子が自分で申告・納付する形が明確です。

申告の誤りを直す手続と期間制限

申告した税額が少なかったときは修正申告を、多すぎたときは更正の請求をします。修正申告では、不足分の税額に加えて加算税や延滞税がかかる場合があります。更正の請求ができるのは、贈与税では原則として法定申告期限から6年以内です(相続税法32条2項)。相続税の5年より1年長い期間です。

相続開始の年に亡くなった人から贈与を受けて贈与税を申告した人が、その後に相続・遺贈で財産を取得し、その贈与が相続税の課税価格に加算されることになる場合があります。このときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に、贈与税の更正の請求ができます(相続税法32条1項10号)。

贈与契約が、法律で認められた取消権や解除権によって取り消し・解除された場合は、贈与はなかったものとされ、申告後なら更正の請求の対象になります。一方、当事者の合意で贈与をなかったことにする合意解除では、贈与税が課税されます。

税務署が税額を直せる期間(除斥期間)

更正・決定ができる期間
税目通常偽りその他不正の行為がある場合
贈与税法定申告期限から6年法定申告期限から7年
相続税法定申告期限から5年法定申告期限から7年

加算税のあらまし

期限後申告や修正申告には、加算税がかかることがあります。無申告加算税は、自主的な期限後申告なら5%ですが、調査の通知後は10%〜25%、調査による決定などは15%〜30%です。税額300万円超の部分の25%・30%は、2024年1月1日以後に法定申告期限が来るものに適用されています施行中。

財産を隠したり事実を偽ったりした場合は、重加算税(35%または40%)の対象です。法定申告期限から1か月以内の自主的な期限後申告で一定の要件を満たす場合や、調査の通知前の自主的な修正申告には、加算税はかかりません。詳しくは加算税・延滞税で説明しています。

数字で見る贈与税の申告と調査

国税庁によると、令和7年分(2025年中の贈与)の贈与税の申告人員は47万人(前年比1.2%減)、納税人員は32万人(同2.8%減)でした。申告納税額は5,038億円(同28.0%増)です(2026年5月公表)。申告人員のうち、暦年課税は39万人、相続時精算課税は8万人です。

国税庁は、贈与税を相続税を補う税と位置づけ、無申告の事案を中心に調査するとしています。令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の全国の実地調査の状況は次のとおりです(2025年12月公表)。

贈与税の実地調査の状況(全国)
項目令和5事務年度令和6事務年度
実地調査件数2,847件2,778件
申告漏れ等の非違件数2,630件2,582件
申告漏れ課税価格264億円275億円
追徴税額108億円123億円
1件当たりの追徴税額380万円443万円

令和6事務年度の非違2,582件のうち、83.4%(2,154件)は無申告でした。財産別(延べ件数)では、現金・預貯金等が62.9%と最も多く、有価証券14.2%、土地2.8%、家屋1.0%、その他19.1%です。札幌国税局の贈与税の実地調査は59件(令和5事務年度は44件)、追徴税額は1億400万円でした。

実務のコツ

調査で最も多く見つかっているのは、現金・預貯金の贈与です。振込で渡し、110万円を超えたら期限内に申告します。証拠の残し方は名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方で説明しています。

110万円以下の贈与でも、申告しておいたほうがよいですか?

暦年課税で年110万円以下なら、申告は不要です。申告は贈与の事実を示す資料の一つにはなりますが、申告しただけで、親が管理している名義預金が子の財産に変わるわけではありません。大切なのは、あげる・もらうの合意があり、もらった人が自分で管理していることです。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

申告・提出

  • 申告期限は相続税法28条。期限が休日等に当たる場合は国税通則法10条2項により翌日で、令和7年分は2026年3月16日(月)が期限でした。
  • 納税地は受贈者の住所地(相続税法62条)。国内に住所がない受贈者は納税管理人を届け出ます(国税通則法117条)。納税義務者の区分は財産を取得した時ごとに判定します(相基通21の2-1)。
  • 相続開始年の贈与:相続税法21条の2第4項、相基通21の2-3(取得しない者は暦年課税なら全額算入。精算課税は申告不要だが、届出書が未提出なら提出が必要)。
  • 精算課税:相基通21の9-3(期限後の選択不可)、21の12-1(特別控除は期限内申告に限る)。期限後申告で使えなかった特別控除の翌年以降への繰越しは質疑応答事例によります。

納付・延納・連帯納付

  • 納期限は相続税法33条、延滞税は国税通則法60条・租税特別措置法94条。延滞税特例基準割合は平均貸付割合+1%で、2026年は1.8%です。計算期間の特例(国税通則法61条)は、重加算税が課される場合には適用されません。
  • 延納は相続税法38条3項・39条、利子税は同法52条・租税特別措置法93条。延納特例基準割合は平均貸付割合+0.5%で、2026年は1.3%です。
  • 連帯納付は相続税法34条4項。相基通34-3は、受贈者が財産を費消するなどして資力を喪失し納付が困難なための連帯納付には、求償権の放棄をみなし贈与とする相基通8-3の取扱いを適用しないとしています。

更正の請求・期間制限・加算税

  • 期間制限は相続税法37条1項(6年)・4項(偽りその他不正の行為は7年)。以前は36条にあった規定です。期間満了前6か月以内の更正の請求に係る更正は請求日から6か月まで(同条2項)、満了前3か月以内の期限後申告に係る無申告加算税の賦課決定は提出日から3か月まで(同条3項)行えます。
  • 更正の請求の期間:贈与税の申告書を提出した者には、国税通則法23条1項の「五年」を「六年」と読み替えます(相続税法32条2項)。相続税は同項どおり5年です。国税庁の手続案内(B1-27 相続税及び贈与税の更正の請求手続)も、贈与税は原則として法定申告期限から6年以内としています。
  • 更正の請求の特則:相続税法32条1項10号(贈与税の課税価格に算入した財産が21条の2第4項に該当した場合。知った日の翌日から4か月以内)。
  • 名義変更通達(1964年(昭和39年)5月23日付直審(資)22・直資68):法定の取消権・解除権による取消し等は贈与なし(申告後は国税通則法23条2項の更正の請求)、合意解除は課税です。
  • 加算税は国税通則法65条〜68条と、相続税・贈与税の加算税に関する事務運営指針(最終改正2023年(令和5年)6月23日)によります。
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このページの出典・参考資料(101件)

このページは、2026年10月17日時点で確認できた法令・通達・国税庁などの公表資料にもとづく一般的な解説です。税制や運用は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。実際の申告・手続の際は、最新の公表資料を確認するか、税理士などの専門家にご相談ください。

計算例・設例の数値は説明のための仮定です。計算ツールの結果は概算で、正確性や個別の結果を保証するものではありません。確定度ラベル(施行中・成立・施行待ち・通達案・検討中・要望段階など)は2026年10月17日時点の状態を示します。

最終確認日:2026年10月17日 作成:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)

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