相続税の基本|誰に・どの財産に・どれだけかかるか

相続税は「誰が・どの財産を・いくら受け取ったか」で決まります。相続人と法定相続分、基礎控除、課税される財産と非課税の財産、債務控除、生前贈与加算(7年加算の経過措置)までを、2026年10月時点の法令で解説します。

相続税・贈与税 総合ガイド|相続税の基本

相続税の基本相続人・基礎控除・課税財産・生前贈与加算・納税義務者

相続税がかかるかどうかは、遺産の額と法定相続人の数で決まる基礎控除で判定します。このページでは、相続人の決まり方、課税される財産と非課税の財産、債務・葬式費用、生前贈与加算までを順に説明します。

基礎控除3,000万円+600万円×人数7年加算の経過措置に対応2026年10月17日時点
3,000万円+600万円×人数相続税の基礎控除出典:国税庁 No.4152
500万円×人数生命保険金・死亡退職金の非課税出典:国税庁 No.4114
3年→7年生前贈与加算(2027年から段階的に延長)出典:国税庁 No.4161
10か月相続税の申告期限出典:相続税法27条
第1章

相続税の仕組み:全体像

相続税は、亡くなった人の財産を受け継いだ人が、受け継いだ財産の額に応じて納める税金です。この章では、誰が・何に対して・どう計算して納めるのかを、計算の4段階と数値例で一通り押さえます。

この章の結論

  • 相続税を納めるのは、相続や遺贈(遺言による贈与。死因贈与を含む)で財産を取得した人です。亡くなった人や遺産そのものに課税されるのではありません。
  • 計算は「各人の課税価格を出す→基礎控除を引く→法定相続分で分けたと仮定して相続税の総額を出す→実際の取得割合で分けて税額控除をする」の4段階です。
  • 相続税の総額は、遺産をどう分けても変わりません。分け方で変わるのは、各人の負担額と、配偶者の税額軽減などの効き方です。
  • 申告と納税の期限は、相続の開始を知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内です。提出先は亡くなった人の住所地の税務署です。

相続税とは:財産を受け継いだ人にかかる税金

相続税は、亡くなった人(被相続人)から財産を受け継いだ人に対し、その人が受け継いだ財産の額をもとに課税されます。納税の義務を負うのは、財産を受け継いだ一人ひとりです。

ただし、税額は一人ずつ別々に計算するわけではありません。いったん遺産全体から「相続税の総額」を出し、それを各人に割り振るという独特の方法をとります。

財産の受け継ぎ方には次の3つがあり、いずれも相続税の対象です。

相続
民法で決まっている相続人(配偶者や子など)が、亡くなった人の財産を受け継ぐことです。誰が相続人になるかは相続人と法定相続分で説明します。
遺贈
遺言によって財産を与えることです。孫や子の配偶者など、相続人ではない人も受け取れます。
死因贈与
「自分が死亡したらこの土地を贈る」のように、贈与する人の死亡によって効力が生じる贈与です。相続税法では遺贈に含めて扱い、相続税の対象になります。

このほか、亡くなった人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金や、死亡退職金も、相続で取得したものとみなして相続税の対象になります(みなし相続財産)。また、生前に相続時精算課税(贈与税の特別な課税方式)を選んで贈与を受けていた人は、相続で何も取得しなくても相続税の納税義務者になります。

もっとも、課税価格の合計額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかからず申告も不要です。令和6年分(2024年中に亡くなった人の分。2025年(令和7年)12月公表)の統計では、亡くなった人のうち相続税額のある申告書が提出された人の割合(課税割合)は10.4%でした。判定のしかたは基礎控除と申告が必要な人で説明します。

計算の流れ:4つの段階

相続税の計算は、次の4段階で進みます。第2・第3段階では「遺産全体」と「法定相続分」を使い、第4段階で「実際に誰がどれだけ取得したか」に戻るのが特徴です。

STEP1各人の課税価格取得財産+みなし財産−非課税−債務・葬式費用+生前贈与加算千円未満切捨てSTEP2課税遺産総額課税価格の合計−基礎控除3,000万円+600万円×人数STEP3相続税の総額法定相続分で分けたと仮定速算表で税額を出し全員分を合計総額は百円未満切捨てSTEP4各人の納付税額総額を取得割合で按分2割加算・税額控除(配偶者の軽減など)百円未満切捨て分け方に関係なく相続税の総額が決まり、各人の負担は取得割合と税額控除で決まります
図:相続税の計算の4ステップ
  1. 第1段階:各人の課税価格を出す財産を取得した人ごとに、取得した財産にみなし相続財産などを足し、非課税財産と債務・葬式費用を引き、生前贈与の加算分を足します。千円未満は切り捨てます。
  2. 第2段階:課税遺産総額を出す全員の課税価格を合計し、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引きます。残りがなければ相続税はかかりません。
  3. 第3段階:相続税の総額を出す課税遺産総額を、法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して分けます。それぞれの金額に速算表を当てはめ、税額を合計します。
  4. 第4段階:各人の納付税額を出す相続税の総額を、各人の課税価格の割合で分けます。そのうえで2割加算をし、配偶者の税額軽減などの税額控除を差し引きます。

第1段階:課税価格(税金を計算するもとになる金額)

課税価格は、財産を取得した人ごとに次の表のように足し引きして求めます。小規模宅地等の特例を使う宅地は、減額した後の価額で計算します。債務などを引いて赤字になる場合は0とし、そのあとで暦年課税の贈与を加えます。

各人の課税価格の求め方
足すか引くか項目主なもの詳しい説明
足す相続・遺贈で取得した財産土地・建物、預貯金、有価証券など相続税がかかる財産
足すみなし相続財産死亡保険金、死亡退職金などみなし相続財産
引く非課税財産墓地・仏壇など。相続人が受け取った死亡保険金・死亡退職金のうち、それぞれ500万円×法定相続人の数までの部分相続税がかからない財産
足す相続時精算課税の贈与財産贈与した時の価額(2024年以後の贈与は、年110万円の基礎控除を引いた残り)生前贈与加算
引く債務・葬式費用借入金、未払いの入院費や税金、通夜や葬儀の費用など債務控除と葬式費用
足す暦年課税の贈与の加算加算対象期間内に受けた贈与。2026年(令和8年)中の相続は相続開始前3年以内施行中生前贈与加算

第2段階・第3段階:基礎控除と相続税の総額

全員の課税価格を合計した額(課税価格の合計額)から基礎控除を引いた残りが「課税遺産総額」です。基礎控除の計算に使う「法定相続人の数」は、相続放棄をした人も含めて数え、養子は実子がいれば1人、いなければ2人までしか数えません(相続人と法定相続分)。

次に、課税遺産総額を法定相続分どおりに分けた金額(法定相続分に応ずる取得金額。千円未満切捨て)を出し、それぞれに速算表を当てはめます。その合計が「相続税の総額」です。速算表の税率は、1,000万円以下の10%から6億円超の55%までの8段階です(たとえば1,000万円超〜3,000万円以下は税率15%・控除額50万円)。表と当てはめ方は相続税の総額:速算表と法定相続分で説明します。

第4段階:各人の納付税額

相続税の総額を、各人の課税価格が課税価格の合計額に占める割合で分けると、各人の「算出税額」になります。そこから次の調整をして、各人が納める税額を出します。

  • 2割加算:配偶者と、亡くなった人の子・父母(子が先に亡くなっていて代襲相続人になった孫を含む)以外の人は、算出税額に2割を加えます。兄弟姉妹や、代襲相続人でない孫養子などが対象です(各人の税額と2割加算)。
  • 税額控除:生前贈与加算をした贈与にかかった贈与税、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除などを、決まった順序で差し引きます。相続時精算課税で納めた贈与税は、これらの控除の後に差し引き、引ききれない分は還付されます(相続税の計算の4ステップ)。

相続税の総額は「分け方」で変わらない

第3段階では、実際の遺産分割の内容に関係なく、法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して相続税の総額を計算します(相続税法基本通達16-1)。そのため、遺産を誰がどれだけ取得しても、また遺産分割がまとまっていなくても、相続税の総額は同じ金額になります。

分け方によって変わるのは、次の3点です。

  • 各人の負担額:相続税の総額を、実際に取得した財産の割合で分けるためです。多く取得した人ほど多く負担します。
  • 配偶者の税額軽減の効き方:配偶者が実際に取得した正味の遺産額が一定額までなら、配偶者に相続税はかかりません。一定額とは、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額です(配偶者の税額軽減)。この範囲内なら、配偶者が多く取得するほど今回の納税額の合計は少なくなります。
  • 人ごとに働く加算・控除の効き方:2割加算や未成年者控除・障害者控除は人ごとに適用されるため、誰が取得するかで税額の合計が変わります。

相続税の総額は相続人の構成と遺産の額で決まり、各人の負担は取得割合と人ごとの加算・控除で決まります。これが相続税の基本構造です。

計算例:課税価格1億円を配偶者と子2人で相続

計算例:課税価格の合計額1億円、相続人が配偶者・長男・長女の場合

前提:法定相続人は配偶者・長男・長女の3人です。課税価格の合計額(債務・葬式費用を引き、非課税部分を除いた後の額)は1億円とします。生前贈与の加算や小規模宅地等の特例はないものとします。

基礎控除=3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額=1億円−4,800万円=5,200万円

相続税の総額の計算(法定相続分どおりに分けたと仮定)
法定相続人法定相続分法定相続分に応ずる取得金額速算表による税額
配偶者2分の12,600万円2,600万円×15%−50万円=340万円
長男4分の11,300万円1,300万円×15%−50万円=145万円
長女4分の11,300万円1,300万円×15%−50万円=145万円
相続税の総額―5,200万円340万円+145万円×2=630万円

相続税の総額630万円を実際の取得割合で分けます。3通りの分け方を比べると、総額は同じでも、納める税額の合計は大きく違います。

分け方による各人の納付税額の違い(相続税の総額はいずれも630万円)
分け方配偶者長男長女納付税額の合計
A:法定相続分どおり(配偶者5,000万円、子は各2,500万円)315万円→軽減後0円157万5,000円157万5,000円315万円
B:子2人がすべて取得(各5,000万円)取得なし315万円315万円630万円
C:配偶者がすべて取得(1億円)630万円→軽減後0円取得なし取得なし0円

Aの配偶者:630万円×5,000万円÷1億円=315万円(配偶者の税額軽減により全額を控除)
Aの子:630万円×2,500万円÷1億円=157万5,000円
Bの子:630万円×5,000万円÷1億円=315万円

答え:相続税の総額は630万円です。法定相続分どおりに分けると、配偶者は0円、長男・長女は各157万5,000円で、合計315万円を納めます。

Cは今回の税額が0円になりますが、配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)で子の負担が増えることがあります。配偶者の取得割合は、二次相続まで含めて検討します(二次相続まで考えた遺産分割)。

申告と納税:10か月以内に、亡くなった人の住所地の税務署へ

相続税の申告書の提出と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内です。たとえば2026年6月9日に亡くなった場合、期限は2027年(令和9年)4月9日(金)です。期限の日が土曜・日曜・祝日などに当たるときは、その翌日が期限になります。

提出先は、亡くなった人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地の税務署ではありません。提出はe-Tax、郵便・信書便、税務署の時間外収受箱で行えます。

納税は、申告期限までに金銭で一括して納めるのが原則です。申告書を出しても税務署から納付書は送られてこないため、自分で納付の手続をします。分割払い(延納)や財産での納付(物納)は、申告期限までに申請して許可を受けます(納付・延納・物納)。

遺産分割が期限までにまとまらなくても、期限は延びません。民法の相続分(包括遺贈があればその割合)で取得したものとして期限内に申告し、分割後に修正申告や更正の請求で精算します(遺産が未分割のときの申告)。全体の段取りは申告までの10か月のスケジュールで説明します。

よくある誤り

  • 「相続税は遺産全体にかかり、亡くなった人の名前で納める」:相続税を納めるのは、財産を取得した一人ひとりです。各人の税額を計算し、それぞれが納めます。
  • 「速算表は各人が実際に受け取った額に当てはめる」:速算表は「法定相続分に応ずる取得金額」に当てはめます。実際の取得額や課税遺産総額の全体に当てはめるのは誤りです。
  • 「申告期限は死亡日から10か月」:正しくは、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。通常は死亡日と同じ日付の10か月後が期限で、1月6日に亡くなった場合は11月6日です。

他の税金とのつながり

  • 贈与税の仕組み:加算対象期間内の暦年課税の贈与と相続時精算課税の贈与は相続税の計算に取り込まれ、納めた贈与税は相続税から差し引きます(生前贈与加算)。
  • 準確定申告:亡くなった年の所得は、相続人が4か月以内に所得税の準確定申告をします。納める所得税は、相続税の計算で債務として差し引けます。
  • 相続で取得した資産の取得費と取得時期:相続した財産を売ると、亡くなった人の取得費と取得時期を引き継ぎます。相続税額がある人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、相続税の一部を取得費に加算できます(取得費加算の特例)。
  • みなし譲渡:限定承認をした場合や法人に遺贈した場合は、亡くなった人が財産を時価で譲渡したものとみなされ、所得税の対象になります。
  • 非上場株式(自社株)の評価:会社の株式を相続すると、取引相場のない株式として独自の方法で評価します。
相続税は、相続人全員で連帯して払うのですか?

各人が自分の税額を納めるのが原則です。ただし、同じ人から相続や遺贈で財産を取得した人は、相続などで受けた利益の価額を限度として、互いに連帯して納付する義務を負います(相続税法34条)。他の相続人が納めない場合、税務署から納付を求められることがあります。

遺産を何も受け取らなかった相続人も、申告が必要ですか?

相続や遺贈で何も取得せず、相続時精算課税の贈与も受けていなければ、その人に相続税はかからず、申告の義務もありません。暦年課税の生前贈与の加算も、相続・遺贈や相続時精算課税で財産を取得した人だけが対象です。ただし、亡くなった人が保険料を負担していた死亡保険金の受取人は、保険金を相続や遺贈で取得したものとみなされるため、財産を取得した人に当たります。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 課税原因:相続税法1条の3第1項1号(遺贈には贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む)。相続時精算課税適用者は、特定贈与者の相続で財産を取得しなくても納税義務者となり、課税財産は精算課税の適用財産に限られます(相続税法21条の9〜21条の16、相基通1の3・1の4共-3)。
  • 計算構造:相続税法11条〜20条の2(15条=遺産に係る基礎控除、16条=相続税の総額、17条=各人の相続税額、18条=2割加算、19条=暦年課税分の贈与税額控除、19条の2=配偶者の税額軽減)。相続税の総額は、分割の有無や取得者にかかわらず法定相続分どおり取得したと仮定して計算します(相基通16-1)。
  • 端数処理:各人の課税価格は1,000円未満を切り捨てます(相基通16-2。義務)。法定相続分に応ずる取得金額の1,000円未満と、相続税の総額の100円未満は、切り捨てて差し支えありません(相基通16-3)。あん分割合は、財産取得者全員が選んだ方法で合計1に調整できます(相基通17-1)。
  • 税額控除の順序:暦年課税分の贈与税額控除、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除(途中で0以下は0)、相続時精算課税分の贈与税額控除(控除不足は還付)、医療法人持分税額控除(相基通20の2-4、相続税法33条の2、措法70条の7の13)。
  • 申告期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条1項)。「知った日」は相続人ごとに異なることがあります(相基通27-4。失踪宣告、胎児、相続人以外の受遺者、停止条件付遺贈など)。
  • 未分割:民法の相続分または包括遺贈の割合で課税価格を計算します(相続税法55条)。分割後は、税額が減る者は分割を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求(32条1項1号)、増える者は修正申告をします(31条1項)。

実務論点

  • 配偶者の税額軽減額は、相続税の総額に「①課税価格の合計額×配偶者の法定相続分と1億6,000万円のいずれか多い額」と「②配偶者の課税価格」のいずれか少ない額を乗じ、課税価格の合計額で除して求めます。総額は分割で動かない一方、軽減額は取得額で動くため、分割案は一次の納付税額の合計と二次相続の税額の両方で比較します。
  • 暦年課税の加算対象期間は、2026年12月31日までの相続開始が3年以内、2027年1月1日〜2030年(令和12年)12月31日の相続開始が2024年1月1日以後の贈与、2031年(令和13年)1月1日以後が7年以内です。3年以内より前の部分は合計額から100万円を控除します(相続開始が2027年1月2日以後の場合)。
第2章

相続人と法定相続分

相続税の計算は「誰が相続人か」を確定するところから始まります。この章では、民法で決まる相続人と法定相続分を全パターンで整理し、相続税の計算に使う「法定相続人の数」が民法の相続人とどこで違うのかを説明します。

この章の結論

  • 配偶者は常に相続人です。血族は「子→直系尊属(父母など)→兄弟姉妹」の順で、先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません。
  • 法定相続分は、配偶者と子なら2分の1ずつ、配偶者と直系尊属なら3分の2と3分の1、配偶者と兄弟姉妹なら4分の3と4分の1です。同じ順位の人が複数いれば均等に分けます。
  • 相続税の「法定相続人の数」は、相続放棄をした人も含めて数え、養子は実子がいれば1人、いなければ2人までしか数えません。民法上の相続人とは一致しないことがあります。

相続人になる人:配偶者と3つの順位

民法では、亡くなった人の配偶者は常に相続人になります。ここでいう配偶者は法律上の婚姻をしている人で、内縁関係(事実婚)の人は相続人になりません。

配偶者以外の相続人(血族相続人)には順位があり、先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません。配偶者は、そのとき相続人になる血族と一緒に相続します。

亡くなった人被相続人配偶者常に相続人第2順位 父母直系尊属第1順位 子亡くなっていれば孫第3順位 兄弟姉妹亡くなっていれば甥・姪法定相続分(配偶者がいる場合)子と:配偶者 1/2・子 1/2父母と:配偶者 2/3・父母 1/3兄弟姉妹と:配偶者 3/4・兄弟姉妹 1/4先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません
図:相続人の順位と法定相続分
相続人の順位
順位相続人相続人になる条件代襲相続
常に配偶者法律上の婚姻をしていること(内縁は含まない)なし
第1順位子(実子・養子)子がいれば必ず相続人になる孫、ひ孫と下の世代へ続く(再代襲あり)
第2順位直系尊属(父母・祖父母など)子も子の代襲相続人もいない場合。親等の近い人が先で、父母の一方でも存命なら祖父母は相続人にならないなし
第3順位兄弟姉妹子(代襲相続人を含む)も直系尊属もいない場合甥・姪まで(甥・姪の子は代襲しない)

相続人を確定するには、亡くなった人の戸籍を出生から死亡までたどり、子や兄弟姉妹の有無を確認します。相続税の申告書にも、相続人全員を明らかにする戸籍謄本(図形式の法定相続情報一覧図の写しでもよい)を添付します。集め方は相続人の調査:戸籍と法定相続情報で説明します。

代襲相続:子や兄弟姉妹が先に亡くなっている場合

相続人になるはずだった子が、相続開始以前に死亡しているときは、その子の子(孫)が代わりに相続人になります。これを代襲相続といいます。孫も死亡していれば、ひ孫が相続人になります(再代襲)。ただし、養子縁組の前に生まれていた養子の子は、亡くなった人の直系卑属ではないため代襲しません。

代襲相続が起きるのは、相続人になるはずだった人が①相続開始以前に死亡していた、②相続欠格に当たる、③廃除された、のいずれかの場合です。相続放棄は代襲の原因になりません。子が相続放棄をしても、その子の子(孫)が代わりに相続人になることはありません。

兄弟姉妹が相続人になる場合も、兄弟姉妹が相続開始以前に死亡しているときなどは、その子(甥・姪)が代襲します。ただし再代襲はなく、甥・姪の子は相続人になりません。

代襲相続人の相続分は、代わりに相続するはずだった人の相続分と同じで、代襲相続人が複数いれば均等に分けます。たとえば配偶者と子2人で、長男が先に死亡して長男の子が2人いる場合、配偶者2分の1、次男4分の1、長男の子2人は各8分の1です。

相続税では、子の代襲相続人になった孫は法定相続人の数に入り、税額の2割加算もかかりません。孫を養子にしていた場合でも、その孫が代襲相続人であれば実子として数え、養子の人数制限の対象になりません。

法定相続分:全パターンの早見表

法定相続分は、遺言がない場合の遺産の取り分の目安として民法が定める割合です。相続人の組合せごとに次のとおりです。

法定相続分の早見表(民法900条)
相続人の組合せ配偶者血族相続人の全体例:各人の法定相続分
配偶者のみ全部なし配偶者がすべて
配偶者と子2分の12分の1子2人なら各4分の1
配偶者と直系尊属3分の23分の1父母2人なら各6分の1
配偶者と兄弟姉妹4分の34分の1兄弟姉妹2人(いずれも父母が同じ)なら各8分の1
子のみなし全部子3人なら各3分の1
直系尊属のみなし全部父母2人なら各2分の1
兄弟姉妹のみなし全部兄弟姉妹2人(いずれも父母が同じ)なら各2分の1

同じ順位の人が複数いれば、各人の相続分は均等です。実子と養子の間に差はありません。

兄弟姉妹には例外があります。父母の一方だけが同じ兄弟姉妹(半血)の相続分は、父母の両方が同じ兄弟姉妹(全血)の2分の1です。たとえば配偶者がなく、全血の兄と半血の弟が相続人なら、兄3分の2、弟3分の1です。配偶者がいれば、兄弟姉妹全体の4分の1を2対1で分け、兄12分の2、弟12分の1になります。

婚姻していない父母の間に生まれた子(嫡出でない子)の相続分は、2013年(平成25年)9月5日以後に開始した相続では、婚姻中の父母の間に生まれた子と同じです施行中。以前は2分の1とされていましたが、最高裁判所の決定(2013年9月4日)を受けて民法が改正されました。2001年(平成13年)7月1日から2013年9月4日までに開始した相続でも、同日までに遺産分割の協議成立や審判の確定などで決着していなければ、同等に扱われます。

法定相続分は「必ずこの割合で分けなければならない」というものではありません。遺言で相続分を指定することも、相続人全員の協議(遺産分割協議)で別の割合に決めることもできます。一方、相続税の総額の計算では、実際の分け方に関係なく法定相続分を使います(相続税の仕組み:全体像)。

養子・胎児・相続欠格・廃除・相続放棄

養子

養子は、縁組の日から養親の嫡出子と同じ身分になり、実子と同じ順位・同じ相続分で相続人になります。普通養子は実親との親族関係も続くため、実親と養親の両方の相続人になります。特別養子は実親側との親族関係が終わるため、実親の相続人にはなりません。民法上、養子の人数に制限はありません。

胎児

相続が開始した時にまだ生まれていない胎児は、相続についてはすでに生まれたものとみなされます。ただし、死産だった場合はこの扱いはありません。

相続欠格と廃除

次のような人は、手続を経ずに当然に相続人の資格を失います(相続欠格)。主な例は次のとおりです。

  • 故意に亡くなった人や先順位・同順位の相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた人
  • 詐欺や強迫で、遺言の作成や撤回を妨げた人
  • 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した人

また、亡くなった人を虐待したり重大な侮辱を加えたりした推定相続人(兄弟姉妹を除く)は、亡くなった人が家庭裁判所に請求することで相続権を失わせることができます(廃除)。遺言で廃除の意思を示すこともできます。相続欠格・廃除のいずれの場合も、その人の子が代襲相続します。

相続放棄

相続放棄をした人は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされます。同じ順位の全員が放棄すると、次の順位の人が相続人になります(子が全員放棄すれば直系尊属、直系尊属もいなければ兄弟姉妹)。放棄は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述して行います(相続放棄・限定承認)。

なお、内縁の配偶者や子の配偶者(いわゆる長男の妻など)は相続人ではありません。遺言による遺贈で財産を渡すことはできますが、その人の相続税は2割加算されます。子の配偶者などが無償で介護に尽くした場合は、相続人に「特別寄与料」を請求できる制度があります(配偶者居住権・配偶者短期居住権・特別寄与料)。

相続税の「法定相続人の数」:民法の相続人との違い

相続税の計算では、民法上の相続人とは別に「法定相続人の数」を数えます。この数は次の4つの計算に使います。

  • 遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
  • 死亡保険金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)
  • 死亡退職金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)
  • 相続税の総額(法定相続分で分けたと仮定する計算)

数え方のルールは2つです。第一に、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます。第二に、養子は、亡くなった人に実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までしか数えません。

ただし、次の人は実子とみなされ、養子の人数制限を受けません。

  • 特別養子縁組による養子
  • 亡くなった人の配偶者の実子で、亡くなった人の養子になった人(配偶者の連れ子)
  • 結婚前に配偶者の特別養子になり、結婚後に亡くなった人の養子になった人
  • 代襲相続人になった直系卑属(孫など)

また、養子を数に入れることで相続税の負担を不当に減らす結果になると認められる場合は、その原因となる養子は数に入れません。

民法の相続人と相続税の「法定相続人の数」の違い
論点民法(遺産分割・相続権)相続税(法定相続人の数)
相続放棄初めから相続人でなかったものとみなす。同順位の全員が放棄すると次順位が相続人になる放棄がなかったものとして数える
養子の人数制限なし。全員が子として相続人になる実子がいれば1人、いなければ2人まで(特別養子・配偶者の連れ子・代襲相続人などは実子として数える)
節税目的の養子専ら節税のための縁組でも、直ちに無効にはならない(最高裁2017年(平成29年)1月31日判決)相続税の負担を不当に減らす結果になる場合、その原因となる養子は数に入れない
胎児生まれたものとみなす(死産の場合を除く)申告期限までに生まれていなければ、胎児がいないものとして申告する
主に使う場面遺産分割、相続放棄、遺留分基礎控除、死亡保険金・死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額

子が全員相続放棄をして、民法上は親や兄弟姉妹が相続人になった場合でも、相続税の基礎控除や相続税の総額は、放棄がなかったもの(子がいるもの)として計算します。新たに相続人になった兄弟姉妹が財産を取得すると、その人の税額には2割加算がかかります。

計算例:子の1人が相続放棄した場合

計算例:長女が相続放棄をした場合の基礎控除と相続税の総額

前提:亡くなった人の相続人は配偶者・長男・長女の3人です。長女は家庭裁判所で相続放棄をし、何も取得していません。配偶者と長男が取得した財産の課税価格の合計額は1億2,000万円です。

民法上は、長女は初めから相続人でなかったものとみなされ、相続人は配偶者と長男(法定相続分は各2分の1)です。しかし相続税の計算では、放棄がなかったものとして、法定相続人を3人、法定相続分を配偶者2分の1・長男4分の1・長女4分の1とします。

基礎控除=3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額=1億2,000万円−4,800万円=7,200万円

相続税の総額の計算(放棄がなかったものとして計算)
法定相続人法定相続分法定相続分に応ずる取得金額速算表による税額
配偶者2分の13,600万円3,600万円×20%−200万円=520万円
長男4分の11,800万円1,800万円×15%−50万円=220万円
長女(放棄)4分の11,800万円1,800万円×15%−50万円=220万円
相続税の総額―7,200万円520万円+220万円×2=960万円

この960万円を、実際に財産を取得した配偶者と長男が、取得した割合に応じて負担します。配偶者の税額軽減などは、その後で各人ごとに計算します(各人の税額と2割加算)。

もし放棄した長女を除いて2人で計算すると、基礎控除は4,200万円、課税遺産総額は7,800万円です。配偶者・長男とも取得金額3,900万円で、税額は3,900万円×20%−200万円=580万円ずつとなり、相続税の総額は1,160万円になります。正しい額より200万円多くなってしまいます。

答え:基礎控除は4,800万円、相続税の総額は960万円です(放棄がなかったものとして3人で計算)。

よくある誤り

  • 相続放棄をした人を「法定相続人の数」から外す:誤りです。基礎控除、死亡保険金・死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額のいずれも、放棄がなかったものとして数えます。一方、放棄した人が受け取った死亡保険金・死亡退職金には、非課税枠を使えません。
  • 孫2人を養子にしたので法定相続人が2人増える:実子がいれば、数に入れられる養子は1人です。実子の長男と孫養子2人なら、法定相続人の数は「長男+養子1人」の2人です(国税庁の誤りやすい事例集でも取り上げられています)。
  • 「遺産はいらない」と伝えた・遺産分割で何も取得しなかったから相続放棄をした:民法上の相続放棄は、家庭裁判所への申述が必要です。遺産分割で取得しないだけでは、借入金などの債務の負担を免れません。
  • 長男の妻(子の配偶者)も相続人になる:子の配偶者は相続人ではありません。財産を渡すには遺言などが必要で、受け取った人の相続税は2割加算になります。

他の税金とのつながり

  • みなし相続財産:相続放棄をしても死亡保険金は受け取れますが、放棄した人には非課税枠(500万円×法定相続人の数)が使えません。
  • 養子縁組:孫を養子にすると基礎控除などは増えますが、その孫の相続税額は2割加算されます(代襲相続人の場合を除く)。
  • 配偶者の税額軽減:配偶者は、法定相続分相当額と1億6,000万円のいずれか多い金額まで、相続税がかかりません。
  • みなし譲渡(限定承認):相続人全員で限定承認をすると、亡くなった人が財産を時価で譲渡したものとみなされ、含み益に所得税がかかります(準確定申告が必要)。
内縁の妻(夫)は相続人になれますか?

なれません。相続人になる配偶者は、法律上の婚姻をしている人だけです。遺言で遺贈すれば財産を渡せますが、相続税は2割加算の対象になり、配偶者の税額軽減も使えません。受け取った死亡保険金にも、相続人ではないため非課税枠はありません。

前の配偶者との間の子も相続人ですか?

はい。離婚した前の配偶者は相続人になりませんが、前の配偶者との間に生まれた子は、亡くなった人の子として第1順位の相続人です。法定相続分も、今の配偶者との間の子と同じです。

孫を養子にすると、相続ではどう扱われますか?

民法上は実子と同じ「子」として、同じ順位・同じ相続分で相続人になります。相続税では、法定相続人の数に入れられる養子は実子がいれば1人、いなければ2人までです。また、孫養子が財産を取得すると、代襲相続人でもある場合を除き、その人の税額は2割加算されます(養子縁組)。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠(民法)

  • 相続人:886条(胎児)、887条1項(子)・2項(代襲。被相続人の直系卑属でない者は代襲しない)・3項(再代襲)、889条1項(直系尊属・兄弟姉妹)・2項(兄弟姉妹の代襲。887条3項は準用しない)、890条(配偶者)。
  • 相続分:900条(4号ただし書=半血の兄弟姉妹は全血の2分の1)、901条(代襲相続人の相続分)、902条(遺言による指定)、902条の2(相続債権者は法定相続分で各相続人に請求できる)。
  • 嫡出でない子:平成25年の民法改正で900条4号ただし書前段を削除し、同年9月5日以後に開始した相続に適用しています(改正法附則2項)。最高裁平成25年9月4日大法廷決定は、旧規定が遅くとも平成13年7月当時に憲法14条1項に違反すると判断しました。
  • 養子:809条、817条の9(特別養子と実方との親族関係の終了)。欠格:891条。廃除:892条・893条(遺言による廃除は遺言執行者が家庭裁判所に請求し、効力は死亡時に遡る)。放棄の効果:939条。

根拠(相続税法)

  • 法定相続人の数:相続税法15条2項(放棄がなかったものとした場合の相続人の数、養子の数の制限)・3項(実子とみなす者)、相続税法施行令3条の2、相基通15-1〜15-6。否認:相続税法63条、相基通63-1・63-2。
  • 2割加算:相続税法18条。孫養子は原則として加算対象で、代襲相続人を兼ねる場合は対象外です(相基通18-3)。相続を放棄した一親等の血族が遺贈を受けても加算しません(相基通18-1)。
  • 胎児:申告期限までに出生していなければ、胎児がいないものとして申告します。胎児が生まれたものとすると全員の申告義務がなくなる場合は、出生後2か月の範囲で期限を延長できます(相基通27-6)。

実務論点

  • 最高裁平成29年1月31日判決は、専ら相続税の節税目的の養子縁組でも直ちに縁組意思を欠くとはいえないとした民法上の判断で、相続税法63条の適用を否定したものではありません。
  • 申告書には、被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍謄本(図形式の法定相続情報一覧図の写し等でも可。養子がいる場合は養子の戸籍謄本または抄本も)を添付します。
  • 先順位の全員放棄で兄弟姉妹が民法上の相続人になると、遺産分割協議の当事者と、基礎控除・相続税の総額の計算上の法定相続人がずれます。両者を一覧表にして確認すると誤りを防げます。
第3章

基礎控除と申告が必要な人

相続税がかかるかどうかは、遺産の額が「基礎控除」を超えるかどうかで決まります。この章では、基礎控除の計算、申告が必要かどうかの判定手順、税額が0円でも申告が必要になるケース、全国と北海道の課税割合を説明します。

この章の結論

  • 基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続人が配偶者と子2人なら4,800万円です。
  • 課税価格の合計額(遺産に死亡保険金などの課税部分や一定の生前贈与を加え、債務・葬式費用を引いた額)が基礎控除を超えると、申告が必要です。判定は小規模宅地等の特例を使う前の金額で行います。
  • 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額が0円になる場合も、申告しなければ特例は使えません。
  • 令和6年分(2024年中に亡くなった人の分)で相続税額のある申告書が提出された人の割合は、全国10.4%、北海道(札幌国税局管内)5.7%です。

基礎控除の計算と早見表

相続税には、遺産全体から差し引ける「遺産に係る基礎控除額」があります。計算式は次のとおりです。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

基礎控除は相続人一人ひとりに与えられるものではなく、全員の課税価格を合計した額から1回だけ差し引きます。差し引いた残りがなければ、相続税はかかりません。

法定相続人の数ごとの基礎控除額
法定相続人の数計算基礎控除額相続人の例
1人3,000万円+600万円×13,600万円子1人
2人3,000万円+600万円×24,200万円配偶者と子1人
3人3,000万円+600万円×34,800万円配偶者と子2人
4人3,000万円+600万円×45,400万円配偶者と子3人
5人3,000万円+600万円×56,000万円配偶者と兄弟姉妹4人
6人3,000万円+600万円×66,600万円配偶者と兄弟姉妹5人

法定相続人の数は、相続放棄をした人も含めて数えます。養子は、実子がいれば1人、いなければ2人までしか数えません。詳しい数え方は相続人と法定相続分で説明しています。

申告が必要かどうかの判定手順

相続税の申告が必要になるのは、課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合です。わずかでも超えれば申告が必要で、基礎控除額以下なら申告も納税も不要です。次の順で判定します。

  1. 相続人と法定相続人の数を確認する戸籍で相続人を確定し、相続放棄をした人も含めて数えます。養子の数の制限に注意します。
  2. 基礎控除額を計算する3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します。
  3. 課税価格の合計額を計算する相続・遺贈で取得した財産、死亡保険金などの非課税枠を超える部分、相続時精算課税の贈与財産、加算対象期間内の暦年課税の贈与を合計し、債務・葬式費用を引きます。小規模宅地等の特例はまだ使いません。
  4. 両者を比べる課税価格の合計額が基礎控除額を超えれば申告が必要です。期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。

判定は、小規模宅地等の特例などを使う前の金額で行います。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は、申告書を提出して初めて使える制度なので、特例を使う前の金額が基礎控除を超えるなら申告が必要です。

申告書を提出する義務があるのは、財産を取得した人のうち、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使わずに計算すると納める税額が出る人です(相続税法基本通達27-1)。財産を取得した人が複数いる場合、申告書は共同で作成して提出することも、別々に提出することもできます。

課税価格に含めるもの:判定前のチェックリスト

判定でよくある誤りは、課税価格に含めるべきものを落とすことです。次の項目を一つずつ確認してください。

課税価格の合計額のチェックリスト

  • 土地・建物を、小規模宅地等の特例を使う前の評価額(路線価や固定資産税評価額による評価)で計算した
  • 預貯金・現金・上場株式・投資信託・国債などを、亡くなった日を基準とした残高や評価額で集計した(ネット銀行・ネット証券を含む)
  • 家族名義でも、亡くなった人がお金を出し管理していた預金や株式(名義預金・名義株)を含めた
  • 死亡保険金・死亡退職金は、非課税枠(それぞれ500万円×法定相続人の数。相続人が受け取った分に限る)を超える部分を含めた
  • 相続時精算課税を選んで受けた贈与を、贈与時の価額で含めた(2024年以後の贈与は年110万円の基礎控除を引いた残り)
  • 相続・遺贈で財産を取得した人が加算対象期間内に受けた暦年課税の贈与を、110万円以下のものも含めて加えた(2026年(令和8年)中の相続は相続開始前3年以内施行中)
  • 未収の給与・家賃、準確定申告による所得税の還付金、生命保険契約に関する権利などを含めた
  • 墓地・仏壇などの非課税財産は除いた
  • 借入金・未払いの税金などの債務と葬式費用を差し引いた(香典返しや法事の費用は差し引かない)
  • 法定相続人の数は、相続放棄をした人を含め、養子の数の制限に従って数えた

それぞれの扱いは、相続税がかかる財産、みなし相続財産、相続税がかからない財産、債務控除と葬式費用、生前贈与加算で説明します。

税額が0円でも申告が必要な場合

次の2つの特例は、申告書に適用を受ける旨を書き、計算明細書などを添付することが条件です。特例を使えば納める税額が0円になる場合でも、申告書を提出しなければ特例は使えません。

  • 小規模宅地等の特例:亡くなった人の自宅や事業用の宅地などの評価額を、一定の面積まで80%または50%減らす特例です(申告手続・分割要件・添付書類)。
  • 配偶者の税額軽減:配偶者が取得した正味の遺産額が、1億6,000万円と法定相続分相当額のいずれか多い金額までなら、配偶者に相続税がかからない制度です(配偶者の税額軽減)。

どちらの特例も、原則として申告期限までに分割された財産が対象です。分割がまとまらない場合は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して期限内に申告します。3年以内に分割できれば、分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をして特例を受けられます。

計算例:特例を使えば0円になるが、申告が必要なケース

前提:相続人は配偶者と子2人(法定相続人3人、基礎控除4,800万円)です。配偶者が自宅の土地(200㎡)と建物、死亡保険金2,000万円を取得し、子2人が預貯金を取得しました。自宅の土地は特定居住用宅地等として80%減額の対象です。

課税価格の合計額(小規模宅地等の特例の適用前と適用後)
項目特例の適用前特例の適用後
自宅の土地(200㎡)4,000万円800万円
自宅の建物500万円500万円
預貯金1,800万円1,800万円
死亡保険金のうち非課税枠(500万円×3人)を超える部分500万円500万円
債務・葬式費用−300万円−300万円
課税価格の合計額6,500万円3,300万円

特例の適用前:4,000万円+500万円+1,800万円+500万円−300万円=6,500万円(基礎控除4,800万円を超える)
特例の適用後:土地4,000万円×(1−80%)=800万円、課税価格の合計額は6,500万円−3,200万円=3,300万円(基礎控除以下)

答え:特例を使えば相続税は0円ですが、特例を使う前の6,500万円が基礎控除4,800万円を超えるため、申告書の提出が必要です。

申告義務がなくても申告したほうがよい場合

相続時精算課税を選んで生前に贈与を受け、贈与税を納めていた人は、相続税の申告をすると、相続税から引ききれない贈与税が還付されます。この還付を受けるための申告書は、相続開始日の翌日から5年を経過する日まで提出できます。

数字で見る課税割合:全国10.4%、北海道5.7%

国税庁が2025年(令和7年)12月に公表した令和6年分の統計では、亡くなった人のうち相続税額のある申告書が提出された人の割合(課税割合)は、全国で10.4%でした。北海道(札幌国税局管内。2025年12月公表)は5.7%で、全国の約半分です。

相続税の課税割合と1人当たりの課税価格・税額(相続税額のある申告書)
項目全国 令和5年分全国 令和6年分北海道 令和5年分北海道 令和6年分
亡くなった人の数1,576,016人1,605,378人75,120人76,669人
相続税額のある申告書の被相続人数155,740人166,730人3,970人4,336人
課税割合9.9%10.4%5.3%5.7%
1人当たりの課税価格1億3,891万円1億4,025万円1億2,818万円1億2,330万円
1人当たりの税額1,930万円1,946万円1,526万円1,460万円

全国では亡くなった人の約10人に1人(1,605,378人÷166,730人≒9.6人)、北海道では約18人に1人(76,669人÷4,336人≒17.7人)に相続税がかかった計算です。申告書を提出した人数・課税価格・税額の総額は、全国・北海道とも、基礎控除が引き下げられた2015年(平成27年)分以降で最高です。

この課税割合には、特例を使って税額が0円になった申告は含まれていません。令和6年分の税額0円の申告は、全国で39,755人、北海道で844人です。これを含めると、申告書が提出された人の割合は全国で約12.9%((166,730人+39,755人)÷1,605,378人)、北海道で約6.8%((4,336人+844人)÷76,669人)になります。

令和7年分(2025年中に亡くなった人の分)の統計は、例年どおりなら2026年12月ごろに公表される見込みです。詳しい数字は数字で見る相続税:全国と北海道と数字で見る北海道の相続税にまとめています。

国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」

国税庁のウェブサイトには、申告が必要かどうかを自分で確かめられる相続税の申告要否判定コーナーがあります。財産や債務の金額などを入力すると、法定相続人の数から基礎控除額を自動で計算し、申告が必要かどうかのおおよその判定が表示されます。

できること

  • 申告が必要かどうかのおおよその判定
  • 小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等、上限330㎡)と配偶者の税額軽減を使った場合の税額の試算
  • 税務署から届く「相続についてのお尋ね」の回答づくりへの活用
  • 入力データを保存し、後から再開すること

できないこと・注意点

  • 申告書は作成できず、結果を申告書に書き写すこともできない
  • 税額の試算は2割加算を考慮していない
  • 法定相続人が0人または6人以上の場合は、税額を試算できない
  • 死亡保険金・死亡退職金・相続時精算課税の財産は、便宜上法定相続分で取得したものとして計算する

判定結果はあくまで目安です。財産の評価や名義預金の判断に迷う場合は、この章のチェックリストで漏れを確認したうえで、税理士や税務署に相談してください。全体の見通しを先に知りたい方は、30秒診断:相続税はかかる?何から始める?も使えます。

よくある誤り

  • 「税額が0円なら申告しなくてよい」:小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って0円になる場合は、申告書の提出が特例の条件です。
  • 「特例を使った後の金額が基礎控除以下なら申告不要」:申告が必要かどうかは、特例を使う前の金額で判定します。
  • 「死亡保険金には相続税がかからない」:非課税は500万円×法定相続人の数までで、超える部分は課税価格に入ります。相続人以外の人が受け取った保険金には非課税枠がありません。
  • 「110万円以下の生前贈与は関係ない」:相続・遺贈で財産を取得した人が加算対象期間内に受けた暦年課税の贈与は、110万円以下でも課税価格に加えます。
  • 「課税割合10.4%は申告した人の割合」:10.4%は相続税額のある申告の割合で、税額0円の申告を含めると約12.9%です。

他の税金とのつながり

  • 相続税の取得費加算の特例:相続した財産を売ったときに相続税の一部を取得費に加算できるのは、原則として相続税額がある人です。基礎控除以下で相続税がかからなかった人や、配偶者の税額軽減で0円になった人は使えません。暦年課税分・相続時精算課税分の贈与税額控除で納める額が0円になった人は、控除を足し戻した相続税額で判定します。
  • 準確定申告:相続税の申告が不要でも、亡くなった人に申告が必要な所得があれば、相続人が4か月以内に所得税の準確定申告をします。
  • 相続時精算課税:精算課税で納めた贈与税は相続税から差し引き、引ききれない分は相続税の申告で還付されます。
遺産が基礎控除以下なら、何も手続はいりませんか?

相続税の申告と納税は不要です。ただし、預貯金の払戻しや不動産の相続登記など、相続そのものの手続は別に必要です(死亡後の手続一覧)。亡くなった人の所得税の準確定申告が必要になる場合もあります。

相続放棄をした子も、基礎控除の人数に入りますか?

入ります。基礎控除の「法定相続人の数」は、相続放棄がなかったものとして数えます。配偶者と子2人のうち1人が放棄しても、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 基礎控除:相続税法15条1項。法定相続人の数と養子の数の制限は同条2項・3項。
  • 申告義務:相続税法27条1項。申告書の提出義務者は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用しないで計算した場合に納付すべき相続税額がある者(相基通27-1)。
  • 申告要件:配偶者の税額軽減は、申告書(または更正の請求書)への明細の記載と書類の添付が要件です(相続税法19条の2第3項)。小規模宅地等の特例も、申告書(期限後申告書・修正申告書を含む)への記載と計算明細書等の添付が要件です。やむを得ない事情がある場合の宥恕規定もあります(いずれも措法69条の4。申告要件)。
  • 未分割:申告期限後3年以内の分割見込書を添付し、3年以内に分割すれば、分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。やむを得ない事情があるときは、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に承認申請をします(相続税法19条の2第2項・3項、32条1項8号。小規模宅地等の特例も同様の手続)。
  • 還付申告:相続時精算課税分の贈与税額の還付を受けるための申告書は、相続開始日の翌日から5年を経過する日まで提出できます(相続税法27条3項、相基通27-8)。

統計の定義

  • 課税割合は、相続税額のある申告書(本書)を提出した被相続人数を死亡者数(厚生労働省「人口動態統計」)で除したもので、税額0円の申告書(外書)は含みません。
  • 令和6年分は、2025年10月31日までに提出された申告書(修正申告書を除く)のデータです。統計上の課税価格は、相続財産の価額+相続時精算課税の財産−債務・葬式費用+相続開始前3年以内の贈与財産です。

実務論点

  • 小規模宅地等の特例を前提に「申告不要」と判断する誤りに注意します。特例は申告のほか、申告期限までの分割と、特例対象宅地等を取得した者全員の選択の同意も要件です。
  • 申告要否判定コーナーは2割加算を考慮せず、死亡保険金等・死亡退職金等・精算課税財産を便宜上法定相続分で計算するため、取得者ごとの税額の確認には向きません。
第4章

相続税がかかる財産

相続税は、亡くなった人が持っていた財産に、種類を問わず広くかかります。この章では、課税される財産の種類と、全国・北海道の相続財産の構成を説明します。あわせて、申告で漏れやすい財産(家族名義の預金、死亡直前に引き出した現金、死亡後に受け取るお金、まだ保険金が出ていない保険)を整理します。

この章の結論

  • 土地・建物、現金・預貯金、株式・投資信託、貸付金、自動車・家財、暗号資産、国外の財産など、相続や遺贈で取得した財産は、非課税財産を除いてすべて課税価格に入ります。価額は亡くなった日の時価で評価します。
  • 令和6年分(2024年中に亡くなった人の分)の相続財産は、全国では現金・預貯金等34.9%、土地30.2%、有価証券17.8%の順で、北海道では現金・預貯金等が44.9%を占めます。
  • 家族名義の預金でも、亡くなった人がお金を出して管理していたものは相続財産です。死亡直前に引き出して残っていた現金、未収の給与・家賃、準確定申告の還付金も相続財産になります。

相続税がかかる財産の範囲と評価の考え方

相続や遺贈で取得した財産は、墓地・仏壇などの非課税財産(相続税がかからない財産)を除き、すべて課税価格に入ります。現金や不動産のような目に見える財産だけでなく、貸付金や未収のお金のような権利も含みます。

このほか、民法上は相続財産ではないものの相続税では相続財産とみなされるもの(死亡保険金・死亡退職金など。みなし相続財産)と、課税価格に加算される生前贈与(生前贈与加算)があります。この章では、亡くなった人がもともと持っていた本来の相続財産を扱います。

相続税がかかる主な財産と評価の説明先
財産の種類主な例評価の詳しい説明
土地・土地の上の権利自宅の敷地、貸している土地、賃貸アパートの敷地、農地、山林、借地権土地評価の全体像、貸家建付地・借地権
家屋・構築物自宅、貸家、賃貸アパート、門や塀などの設備家屋・構築物の評価
現金・預貯金手元の現金、普通預金、定期預金、外貨預金預貯金・上場株式など
有価証券上場株式、投資信託、公社債、個人向け国債、非上場株式(自社株)預貯金・上場株式など、自社株の評価
事業用の財産個人事業の機械・器具、商品、売掛金財産の種類ごとに評価
家庭用財産・自動車家具、貴金属、書画骨とう、自動車保険・動産・暗号資産など
債権など貸付金、未収の給与・家賃、所得税の還付金保険・動産・暗号資産など
その他ゴルフ会員権、暗号資産、生命保険契約に関する権利、国外の預金・不動産保険・動産・暗号資産など、納税義務者と国外財産

財産の価額は、亡くなった日(課税時期)の時価で評価します。時価とは、不特定多数の当事者の間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額で、実際には国税庁の財産評価基本通達の定めに従って評価します(財産評価の基本)。たとえば土地は路線価方式か倍率方式で、上場株式は亡くなった日の終値と、その月・前月・前々月の終値の月平均額のうち最も低い価額で評価します。

なお、貸付用不動産と不動産小口化商品の評価方法を見直す通達案が公表されています通達案。対象は、相続開始前5年以内に取得・新築した貸付用不動産と、取得の時期を問わず不動産小口化商品です。2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から適用される予定です(2027年からの貸付用不動産・小口化商品の評価見直し)。

国外にある財産も、日本に住所がある相続人は原則として課税されます。外国に住む相続人や外国籍の相続人は、条件によって国内の財産だけが課税対象になります(相続税の納税義務者と国外財産)。

数字で見る相続財産の構成:最も多いのは現金・預貯金

国税庁の令和6年分の統計(2025年(令和7年)12月公表)で、相続税額のある申告書に計上された相続財産の内訳は次のとおりです。

相続財産の金額と構成比(令和6年分、相続税額のある申告書)
財産の種類全国 金額全国 構成比北海道 金額北海道 構成比
現金・預貯金等8兆5,602億円34.9%2,447億円44.9%
土地7兆4,074億円30.2%1,197億円22.0%
有価証券4兆3,676億円17.8%706億円13.0%
家屋1兆1,901億円4.8%292億円5.4%
その他3兆162億円12.3%802億円14.7%
合計24兆5,415億円100%5,445億円100%

北海道は札幌国税局管内の数値です。公表値は単位未満を端数処理しているため、内訳の合計が合計欄と一致しない場合があります。

全国で最も多いのは現金・預貯金等で、土地を上回っています。国税庁の公表値では、令和3年分(2021年分)から現金・預貯金等が土地を上回る状態が続いています(令和3年分は現金・預貯金等6兆6,846億円、土地6兆5,428億円)。「相続財産の中心は土地」という説明は、今の統計には当てはまりません。

北海道では現金・預貯金等の割合が44.9%と全国より約10ポイント高く、土地は22.0%と全国より約8ポイント低くなっています。北海道の相続では、預貯金の調べ漏れがないよう特に注意が必要です。

なお、この相続財産の合計は、統計上の課税価格(令和6年分の全国で23兆3,846億円)とは一致しません。課税価格は、相続財産から債務・葬式費用を引き、生前贈与などを加えた金額だからです。

家族名義の預金・株式(名義預金・名義株)

子や孫、配偶者の名義になっている預金でも、実質的に亡くなった人の財産であれば相続財産です。これを名義預金といいます。家族名義の株式や無記名の財産も、亡くなった人のものと認められれば相続税の対象になります(国税庁の誤りやすい事例集)。

国税庁は、名義預金かどうかの判断のポイントとして、次の3つを挙げています。

  • 資金の出どころ:預金の原資を誰が出したか(亡くなった人の収入から預け入れたか)
  • 管理・運用の状況:誰が管理し、預け替えなどの運用をしていたか
  • 贈与の事実:亡くなった人と名義人の間で「あげる」「もらう」という贈与があったか

裁判例も、名義だけでは判断していません(東京地裁2008年(平成20年)10月17日判決)。原資を出した人、管理・運用の状況、利息などの利益が誰のものになっていたか、名義人との関係、名義を得た経緯などを総合的に考えて判断しています。国税不服審判所の裁決には、印鑑の保管場所や、名義人が贈与を受けた認識の有無を考慮したものもあります。

たとえば、亡くなった父が自分の収入から子の名義で定期預金をし、父が管理・運用していて、子が贈与を受けた事実がない場合、その預金は父の相続財産として申告します。毎年110万円以下の入金を続けていても、子が知らず、親が通帳や印鑑を管理していれば、贈与は成立していないと判断されることがあります。

家族名義の財産と知りながら申告しないことは、重加算税(仮装・隠蔽に対する重い加算税)の対象となる類型として、国税庁の事務運営指針に明記されています。国税庁の調査事例には、基礎控除以下になるよう預金を相続人や家族の名義に移し、申告していなかった事例があります。この事例では課税価格が約7億2,000万円増え、約4億3,000万円が追徴されました(令和6事務年度)。贈与の証拠の残し方は名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方で説明します。

死亡直前に引き出した現金・金庫の中身・ネットの口座

亡くなる前に本人の預金から引き出した現金も、亡くなった時点で手元に残っていれば「現金」として相続財産です。口座から引き出しても、相続財産から外れるわけではありません。

国税庁の調査事例には、相続開始前に引き出した現金を相続人の自宅の金庫に保管し、申告から除外していた事例があります。この事例では課税価格が約2億5,000万円増え、約1億2,000万円が追徴され、重加算税も課されました(令和6事務年度)。

引き出したお金を亡くなる前に入院費の支払いなどに使っていれば、その分は財産にも債務にもなりません。亡くなった後に葬儀費用の支払いに充てた場合は、亡くなった時点の現金を相続財産に計上したうえで、葬儀費用を葬式費用として差し引きます(債務控除と葬式費用)。

自宅の金庫や銀行の貸金庫にある現金・貴金属・書画骨とうなども、亡くなった人の財産であれば相続財産です。国税不服審判所の裁決には、鍵の管理状況などから、金庫の現金を亡くなった人の財産と認めたものがあります。

通帳のないネット銀行・ネット証券の口座や暗号資産も、見落としやすい財産です。郵便物やメール、スマートフォンのアプリ、確定申告書の控えなどから取引先を確認します(財産と債務の調べ方)。

葬儀費用などで急いで預金が必要な場合は、遺産分割の前でも、相続人が単独で払戻しを受けられる制度があります。上限は、相続開始時の預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分で、1つの金融機関につき150万円までです。払い戻した預金は、その相続人が遺産の一部を取得したものとして扱われます。

未収の給与・家賃・配当、還付金など死亡後に受け取るお金

亡くなった後に支払われるお金には、相続財産になるものと、ならないもの(受け取った人の所得税の対象になるものなど)があります。主なものは次のとおりです。

死亡後に受け取るお金の相続税での扱い
お金の種類相続税での扱い
支給日がまだ来ていない給与本来の相続財産
亡くなった後に支給額が決まった賞与本来の相続財産(退職手当金等には当たらない)
死亡後3年以内に支給額が確定した退職金・功労金みなし相続財産(非課税枠あり。みなし相続財産)
支払期限が来ているのに受け取っていない家賃・地代・利息本来の相続財産(受け取るべき金額で計上)
支払期日が来ていない家賃(月末払いで月の途中に亡くなった場合の、その月の分など)相続財産に含めなくてよい
配当の基準日の翌日から、配当の効力が生じる日までの株式の配当配当期待権として相続財産(予想配当額から、源泉徴収される所得税と、特別徴収される住民税(道府県民税)の相当額を引いた額)
準確定申告で戻る所得税の還付金本来の相続財産(還付加算金は相続人の雑所得)
未支給年金(国民年金など)相続財産ではない(受け取った遺族の一時所得)
遺族年金(公的年金)原則として相続税も所得税もかからない

準確定申告の還付金は、亡くなった後に手続をして受け取るお金ですが、亡くなった人がもともと持っていた権利が具体化したものなので、相続財産になります。一方、未支給年金は遺族が自分の権利として受け取るもので、相続税の対象ではありません。この2つを逆に扱う誤りが多いので注意します。

生命保険契約に関する権利:まだ保険金が出ていない保険

亡くなった人が保険料を負担していた生命保険のうち、亡くなった時点でまだ保険事故が起きていない契約(家族を被保険者とする契約など)は、「生命保険契約に関する権利」として相続税の対象になります。死亡保険金と違ってお金が支払われないため、見落とされがちです。

評価額は、亡くなった日に解約したとした場合の解約返戻金の額が基本です。一定期間内に保険事故が起きなければ返戻金のない掛捨て型の保険は、評価しません。

生命保険契約に関する権利の課税関係(保険料は亡くなった人が負担)
契約者相続税での扱い誰が取得するか
亡くなった人本来の相続財産契約者の地位を引き継ぐ人(遺産分割の対象)
亡くなった人以外(例:被保険者である妻自身)みなし相続財産契約者(相続などで取得したものとみなされる)

たとえば、夫が保険料を払い、妻を被保険者とする終身保険(契約者は夫)があり、夫が先に亡くなった場合は、解約返戻金相当額が夫の相続財産になります。死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、亡くなった人の死亡によって受け取る死亡保険金についての制度です。保険料を負担した人・被保険者・受取人の組合せによる課税の違いはみなし相続財産で説明します。

よくある誤り

  • 「名義が子や孫なら、その人の財産」:名義ではなく、資金の出どころ・管理の状況・贈与の事実で判断します。亡くなった人がお金を出して管理していた預金は相続財産です。
  • 「亡くなる前に預金を下ろしておけば相続財産にならない」:亡くなった時点で残っていた現金は相続財産です。隠して申告しなければ重加算税の対象になります。
  • 「未支給年金や還付加算金も相続財産に入れる」:どちらも相続税の対象ではなく、受け取った人の所得税の対象です。反対に、準確定申告の所得税の還付金は相続財産に入れます。
  • 「保険金が出ていない保険は関係ない」:亡くなった人が保険料を負担していた、解約返戻金のある保険は、生命保険契約に関する権利として課税されます。

他の税金とのつながり

  • 名義預金・名義株と贈与:贈与が成立していれば名義人の財産で、暦年課税で年110万円を超える年は贈与税の申告が必要です。成立していなければ、亡くなった人の相続財産になります。
  • 準確定申告:亡くなった人の所得税は、還付になれば相続財産、納付になれば債務として差し引きます。
  • 生命保険・退職金・年金の課税関係:未支給年金は遺族の一時所得になるなど、相続税以外の税金の対象になるお金があります。
  • 相続した資産の取得費と取得時期:相続した不動産や株式を売るときは、亡くなった人の取得費と取得時期を引き継いで譲渡所得を計算します。
亡くなった人の入院費やクレジットカードの未払い分はどうなりますか?

亡くなった時点で支払う義務が確定していた未払金は、債務として相続財産から差し引けます(債務控除と葬式費用)。亡くなった後に相続人が支払った場合も、債務控除の対象です。

子ども名義の口座に毎年お金を入れてきました。相続財産になりますか?

子がその贈与を知って受け入れ、子自身が口座を管理していれば、子の財産と認められやすくなります。親が通帳や印鑑を管理し、子が知らなければ、名義預金として親の相続財産と判断されることがあります。判断の分かれ目と記録の残し方は名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方で説明します。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠(評価・課税財産)

  • 評価の原則:相続税法22条、評基通1(時価の意義)、評基通5(評価方法の定めのない財産)、評基通6(総則6項)。
  • 預貯金:評基通203(預入高+既経過利子−源泉徴収されるべき所得税相当額。定期性のもの以外で既経過利子が少額なものは預入高のみ)。上場株式:評基通169〜172。
  • 債権・果実:評基通204・205(貸付金債権等)、208(未収法定果実は課税時期に収入すべき期限が到来しているもの)、193(配当期待権)。支払期日未到来の既経過家賃は相続財産に算入しなくてよいとされています(国税庁質疑応答事例)。
  • 給与・賞与・退職手当:死亡後に支給期の到来する給与、死亡後に額が確定した賞与は本来の相続財産(相基通3-32・3-33)。死亡後3年以内に支給額が確定した退職手当金等はみなし相続財産(相続税法3条1項2号、相基通3-30・3-31)。
  • 準確定申告の還付金は本来の相続財産で、還付加算金は相続人の雑所得(国税庁質疑応答事例、誤りやすい事例7)。未支給年金は遺族固有の権利で相続税の対象外(誤りやすい事例8)。
  • 生命保険契約に関する権利:評基通214(解約返戻金の額等。掛捨て型は含まれない)。契約者が被相続人なら本来の相続財産、契約者が他の者ならみなし相続財産(相続税法3条1項3号)。被保険者でない契約者が死亡し、保険料も負担していなかった場合は課税関係が生じません(相基通3-36)。

名義財産の判断

  • 誤りやすい事例集(事例6)は、資金の拠出、管理・運用、贈与の事実の有無で判断し、被相続人の財産と認められる家族名義・無記名の預貯金・株式等は申告すべきとしています。
  • 東京地裁平成20年10月17日判決は、出捐者、管理・運用の状況、利益の帰属者、名義人との関係、名義取得の経緯などの総合考慮で帰属を判断し、遺産分割調停での合意は課税庁を拘束しないとしました。
  • 国税不服審判所令和3年9月17日裁決は、受贈者の署名押印がなく受贈者が知らなかった贈与証による書面贈与の成立を否定する一方、未成年の子名義の口座は親権者の受諾があったとして子に帰属すると判断しました。金庫の現金は、鍵の管理状況等から被相続人の財産と認定しています。
  • 被相続人以外の名義・架空名義・無記名の財産と認識しながら申告しない行為は、重加算税の対象となる隠蔽・仮装の類型として事務運営指針に明記されています。

実務論点

  • 死亡直前の多額の出金は、使途を「生前の支払」「相続開始時の手元現金」「相続人に渡したもの」に区分します。相続人に渡したものは、贈与なら加算対象期間内かを判定し、預かっただけなら被相続人の現金として計上します。
  • 遺産分割前の預貯金の払戻し(民法909条の2)を受けた部分は、その相続人が遺産の一部分割で取得したものとみなされるため、遺産分割協議書と申告書の取得者を一致させます。
第5章

みなし相続財産:生命保険金・死亡退職金など

死亡保険金や死亡退職金は、亡くなった人の財産ではなく受取人のお金です。それでも相続税の計算では、相続財産と同じように扱います。これを「みなし相続財産」といい、非課税枠を使える人と使えない人がはっきり分かれます。

この章の結論

  • 亡くなった人(被相続人)が保険料を負担していた死亡保険金と、死亡後3年以内に支給額が確定した死亡退職金は、相続税の対象です。
  • 非課税枠は、保険金と退職金のそれぞれに「500万円×法定相続人の数」です。使えるのは相続人が受け取った分だけで、相続を放棄した人や孫など相続人以外が受け取った分には使えません。
  • どの税金がかかるかは、契約者の名義ではなく、保険料を実際に負担した人で決まります。負担者と受取人が同じなら所得税、3人とも別なら贈与税です。

みなし相続財産とは:遺産でなくても課税される

死亡保険金は、保険契約にもとづいて受取人が保険会社から受け取るお金です。最高裁2004年(平成16年)10月29日決定は、保険金の請求権は受取人が自分固有の権利として取得するもので、相続財産に属さないと判断しました。このため、相続を放棄しても受取人は保険金を受け取れます。

一方、相続税法は、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金などを、相続や遺贈(遺言による贈与)で取得したものと「みなして」課税します。受取人が相続人なら相続、相続人以外なら遺贈で取得したものとして扱います。民法上の遺産かどうかと、相続税がかかるかどうかは別の問題です。

主なみなし相続財産と課税のポイント
種類どんなものか課税のポイント
死亡保険金被相続人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金と、偶然の事故による死亡に伴う損害保険の保険金非課税枠は500万円×法定相続人の数(相続人の受取分だけ)
死亡退職金被相続人に支給されるはずだった退職手当金・功労金などで、死亡後3年以内に支給額が確定したもの非課税枠は500万円×法定相続人の数(保険金とは別枠)
生命保険契約に関する権利被相続人が保険料を負担し、まだ保険事故が起きていない契約のうち、契約者が被相続人以外のもの解約返戻金の額を基に評価。死亡保険金の非課税枠は使えないとされています
定期金に関する権利年金の形で給付を受ける権利。死亡保険金を年金で受け取る場合の受給権など評価方法は相続税法で定められています
特別寄与料相続人以外の親族が、介護などの貢献に応じて相続人から受け取るお金遺贈で取得したものとみなされ、通常は2割加算の対象
教育資金・結婚子育て資金の管理残額一括贈与の非課税制度で、贈与者が亡くなった時点で残っている額一定の部分が相続・遺贈で取得したものとみなされます

このほか、遺言で財産を時価より著しく低い価額で譲った場合の差額なども、遺贈で取得したものとみなされます。この章では、実務で出会うことが多い死亡保険金と死亡退職金を中心に説明します。

生命保険金:保険料を負担した人で税金が変わる

死亡保険金にかかる税金は、被保険者、保険料を負担した人、保険金の受取人の組み合わせで決まります。判断の基準は、契約書上の契約者ではありません。保険料を実際に負担した人です。

死亡保険金の契約形態とかかる税金(被保険者Aが死亡した場合)
被保険者保険料の負担者受取人かかる税金
AAB相続税(Bが相続人なら相続、相続人以外なら遺贈で取得したとみなす)
ABB所得税(一時金は一時所得、年金は雑所得)
ABC贈与税(BからCへの贈与とみなす)

同じ2,000万円の保険金でも、契約形態によって税金の重さは大きく変わります。

  • 子が自分で保険料800万円を払っていた場合:一時所得は2,000万円−800万円−特別控除50万円=1,150万円です。その2分の1の575万円を他の所得と合わせて、所得税・住民税を計算します(その年に他の一時所得がない場合)。
  • 夫が保険料を払い、妻が被保険者、18歳以上の子が受取人の場合:夫から子への贈与となり、特例税率で(2,000万円−110万円)×45%−265万円=585万5,000円の贈与税がかかります。受取額の約3割です。

贈与税は税率が高くなりやすいため、契約形態は早めに確認しておくことが大切です。詳しい比較は生命保険・退職金・年金の課税関係で説明します。

契約者の名義を変えただけでは、贈与税はかかりません。ただし、新しい契約者が解約して解約返戻金を受け取ると、保険料を負担した人からの贈与として課税されます。

保険金と一緒に受け取る前納保険料・剰余金・割戻金も、保険金に含めて計算します。損害保険の保険金が相続税の対象になるのは、偶然の事故による死亡に伴うものです。

実務のコツ:保険料の負担者を資料で確かめる

保険証券で被保険者・契約者・受取人を確認し、保険料がどの口座から払われていたかも確かめましょう。契約者が子でも、保険料を親の口座から払っていれば、保険料の負担者は親です。

非課税枠「500万円×法定相続人の数」の使い方

相続人が受け取った死亡保険金には、次の非課税枠があります。相続人全員の受取額の合計がこの額以下なら、相続人の受取分は全額が非課税です。

非課税限度額=500万円×法定相続人の数

法定相続人の数は、相続を放棄した人がいても、放棄がなかったものとして数えます。養子は、実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までです。数え方は相続人と法定相続分で説明しています。

受取額の合計が非課税限度額を超えるときは、各相続人の受取額の割合で非課税枠を分けます。

各相続人の非課税額=非課税限度額×その相続人の受取額÷相続人全員の受取額の合計

計算例1:法定相続人3人、保険金2,000万円を相続人2人が1,000万円ずつ受け取った

前提:相続人は配偶者・長男・長女の3人です。保険料は被相続人が負担していました。受取人は配偶者と長男で、各1,000万円です。

非課税限度額=500万円×3人=1,500万円(受取額の合計2,000万円がこれを超える)
配偶者の非課税額=1,500万円×1,000万円÷2,000万円=750万円
長男の非課税額=1,500万円×1,000万円÷2,000万円=750万円

計算例1の結果
受取人受取額非課税額課税される額
配偶者1,000万円750万円250万円
長男1,000万円750万円250万円
合計2,000万円1,500万円500万円

答え:課税されるのは合計500万円(各250万円)です。保険金を受け取っていない長女も、法定相続人の数には入ります。

よくある誤り:放棄した人・孫が受け取った保険金

  • 相続を放棄した人は、相続税法上の「相続人」に当たりません。放棄した人が受け取った保険金には非課税枠が使えず、全額が課税されます。それでも法定相続人の数には、放棄した人を数えます。
  • 孫や子の配偶者など、相続人でない人が受取人の場合も非課税枠はありません。さらに遺贈で財産を取得した人になるため、被相続人から加算対象期間内に受けた贈与が生前贈与加算の対象になります。代襲相続人でない孫は、相続税額の2割加算の対象にもなります。
  • 放棄した子が保険金を受け取っても、子は被相続人の一親等の血族なので、2割加算はありません。

なお、2027年度(令和9年度)の税制改正要望で、金融庁は非課税限度額の引上げを求めています要望段階。現行の額に「500万円×配偶者及び未成年の被扶養法定相続人の数」を加える内容です。2026年(令和8年)10月時点では決まっておらず、扱いは2026年12月に予定される税制改正大綱で示される見込みです。2026年10月時点の相続は、現行の「500万円×法定相続人の数」で計算します。

死亡退職金と弔慰金

被相続人の死亡によって勤務先から支払われる退職手当金・功労金なども、みなし相続財産です。対象は、被相続人に支給されるはずだったもので、死亡後3年以内に支給額が確定したものです。生前に退職していて、死亡後3年以内に額が確定した場合も含みます。名目は問わず、現物で支給されたものも対象です。

ここでいう「支給が確定」とは、支給額が確定したことをいいます。実際の支払いが3年を過ぎても、3年以内に額が確定していれば対象です。死亡後3年を過ぎてから額が確定したものは相続税の対象ではなく、受け取った遺族の一時所得として所得税の対象とされています。

死亡退職金にも「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、生命保険金の枠とは別に使えます。使えるのは相続人が受け取った分だけで、分け方も保険金と同じです。申告書では、保険金は第9表、退職金は第10表に記入します。

計算例2:相続を放棄した人がいる場合(国税庁の例)

前提:法定相続人は配偶者・長男・長女の3人です。死亡退職金を、配偶者が2,000万円、長男が1,000万円、相続を放棄した長女が500万円受け取りました。

非課税限度額=500万円×3人=1,500万円(放棄した長女も人数に入る)
相続人の受取額の合計=2,000万円+1,000万円=3,000万円(長女の分は入れない)
配偶者の非課税額=1,500万円×2,000万円÷3,000万円=1,000万円
長男の非課税額=1,500万円×1,000万円÷3,000万円=500万円

計算例2の結果
受取人受取額非課税額課税される額
配偶者2,000万円1,000万円1,000万円
長男1,000万円500万円500万円
長女(放棄)500万円0円500万円
合計3,500万円1,500万円2,000万円

答え:課税される額は、配偶者1,000万円、長男500万円、長女500万円です。

勤務先から受け取る弔慰金は、次の額までは弔慰金として扱い、相続税がかかりません。これを超える部分は退職手当金等として扱い、上の非課税枠の計算に含めます。

弔慰金が非課税になる範囲
死亡の原因非課税になる範囲普通給与が月50万円の場合
業務上の死亡普通給与の3年分1,800万円まで
業務外の死亡普通給与の半年分300万円まで

たとえば業務外の死亡で弔慰金を500万円受け取った場合、50万円×6か月=300万円は弔慰金として非課税です。残りの200万円は退職手当金等になります。

死亡後に額が確定した賞与や、支給日が来ていなかった給与は、退職手当金等ではありません。本来の相続財産として扱うので、非課税枠は使えません。

生命保険契約に関する権利・定期金・特別寄与料

生命保険契約に関する権利

被相続人が保険料を負担し、被保険者が別の人で、相続開始の時点で保険事故がまだ起きていない契約があります。この場合は「生命保険契約に関する権利」が相続税の対象です。相続開始時に解約したとすれば支払われる解約返戻金の額を基に評価します。掛捨て型で返戻金がない契約は評価しません。

契約者も被相続人だった場合は本来の相続財産で、契約者の地位を引き継ぐ人を遺産分割で決めます。契約者が子など別の人だった場合は、その契約者が取得したものとみなされます。この権利には、死亡保険金の非課税枠は使えないとされています。評価の詳細は保険・定期金などの評価で説明します。

定期金に関する権利

年金のように定期的に給付を受ける権利(定期金に関する権利)も、相続税の対象になる場合があります。死亡保険金を年金の形で受け取る場合は、その受給権に相続税がかかります。評価の方法は相続税法で定められています。

国民年金・厚生年金などの公的年金から遺族に支給される遺族年金は、相続税も所得税も原則としてかかりません。亡くなった人が受け取るはずだった未支給年金は遺族固有の権利で、相続財産ではなく遺族の一時所得です(相続税がかからない財産)。

特別寄与料

相続人ではない親族(たとえば長男の妻)が、無償で療養看護などをして被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に特別寄与料を請求できます。請求の期限など民法上の手続は配偶者居住権・特別寄与料の章で説明します。

特別寄与料の額が確定すると、受け取る人は被相続人から遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象になります。通常は一親等の血族でも配偶者でもないため、相続税額の2割加算の対象です。申告期限は、額の確定を知った日の翌日から10か月以内です。支払った相続人は、負担した額を自分の課税価格から差し引けます。

教育資金・結婚子育て資金の管理残額

教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与を受けていた場合、贈与者が亡くなった時点の管理残額のうち一定の部分は、相続・遺贈で取得したものとみなされます。教育資金は2026年3月31日で新規適用が終わりました新規適用終了が、既存の契約にはこの扱いが残ります。結婚・子育て資金は2027年(令和9年)3月31日までの拠出が対象です期限あり。詳しくは教育資金・結婚子育て資金の一括贈与をご覧ください。

相続を放棄しても、生命保険金は受け取れますか?

受け取れます。受取人に指定された人が、自分の権利として受け取るお金だからです。ただし相続税の対象になり、放棄した人は非課税枠を使えません。被相続人から加算対象期間内に贈与を受けていれば、その贈与も生前贈与加算の対象になります。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • みなし相続財産:相続税法3条1項1号(保険金)、2号(退職手当金等)、3号(生命保険契約に関する権利)。特別寄与料は同法4条2項(遺贈による取得とみなす規定)。
  • 非課税:相続税法12条1項(相続人が取得した保険金・退職手当金等のうち、500万円×法定相続人の数まで)。法定相続人の数は同法15条2項・3項(放棄者を含めること、養子の数の制限)。
  • 退職手当金等の範囲:相続税法基本通達3-18〜3-33。3-30・3-31は生前退職と額の確定、3-32・3-33は死亡後に確定した賞与・支給期未到来の給与(本来の相続財産)の取扱い。弔慰金は相基通3-20(業務上は普通給与の3年分、業務外は半年分を超える部分を退職手当金等とする取扱い)。
  • 生命保険契約に関する権利:財産評価基本通達214(解約返戻金の額等。掛捨て型は含みません)。保険料を負担していない契約者が死亡した場合は、課税関係が生じません(相基通3-36)。
  • 判例:最高裁平成16年10月29日第二小法廷決定(民集58巻7号1979頁)。死亡保険金請求権は受取人固有の権利で、民法903条1項の遺贈・贈与に当たらないと判断しました。ただし、相続人間の不公平が同条の趣旨に照らし到底是認できないほど著しい特段の事情があれば、同条の類推適用で持戻しの対象になるとしています。

実務論点

  • 非課税の按分は、相続人の受取額の合計が非課税限度額を超える場合に行います。分母は相続人の受取額の合計で、放棄者や相続人以外の受取額は含めません(国税庁タックスアンサーNo.4117の例)。
  • 保険金とともに払い戻される前納保険料・剰余金・割戻金は保険金に含め、第9表に合算します(国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」事例5)。
  • 退職手当金等の支給確定は額の確定を意味し、支払時期が3年を超えても構いません。課税時期を支給確定時とする質疑応答事例があります。死亡後3年経過後に確定したものは相続税の対象外で、遺族の一時所得とされます(所得税基本通達34-2・9-17の組合せによる整理)。
  • 相続放棄者が遺贈により財産を取得しても、一親等の血族であれば2割加算はしません(相基通18-1)。
  • 特別寄与料:申告期限は相続税法29条1項、支払った相続人の控除は同法13条4項、2割加算は同法18条1項。
  • 令和9年度税制改正要望(金融庁、2026年9月1日に財務省が公表):死亡保険金の非課税限度額に「500万円×配偶者及び未成年の被扶養法定相続人の数」を加算する内容です。2026年10月17日時点で未確定です。
第6章

相続税がかからない財産

相続や遺贈で取得した財産でも、相続税がかからないものがあります(非課税財産)。お墓や仏壇、死亡保険金・死亡退職金の一定額、申告期限までに国などへ寄附した財産が代表例です。

この章の結論

  • 墓地・墓石・仏壇・仏具など、日常の礼拝に使うものは非課税です。骨とう的な価値があるものや、投資の対象・商品として持っているものは課税されます。
  • 死亡保険金と死亡退職金はそれぞれ「500万円×法定相続人の数」まで、勤務先からの弔慰金は一定額まで非課税です。
  • 相続した財産を申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人などに寄附すると、その財産は非課税です。ただし、土地や株式を法人に寄附すると、寄附した人に所得税がかかる場合があります。

非課税財産の一覧

相続税法などは、一部の財産に相続税をかけないと定めています。主なものは次の表のとおりです。非課税財産は、課税価格(税金を計算するもとになる金額)から除いて計算します。

主な非課税財産
財産非課税になる範囲注意点
墓地・墓石・仏壇・仏具・神を祭る道具など日常の礼拝に使っているもの骨とう的な価値があるもの、投資の対象・商品として持つものは課税
死亡保険金500万円×法定相続人の数まで相続人が受け取った分だけ
死亡退職金500万円×法定相続人の数まで(保険金とは別枠)死亡後3年以内に支給額が確定したもの。相続人が受け取った分だけ
弔慰金業務上の死亡は普通給与の3年分、業務外の死亡は半年分まで超える部分は退職手当金等として扱う
国・地方公共団体・特定の公益法人などへの寄附相続財産を申告期限までに寄附した場合の、その財産寄附先が対象の法人か確認する

表のほかにも、法律で非課税とされている財産があります。国税庁が挙げている主なものは次のとおりです。

  • 宗教・慈善・学術など公益を目的とする事業を行う一定の個人などが、相続や遺贈で取得した財産で、その事業に使われることが確実なもの
  • 地方公共団体の条例による心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利(精神や身体に障害のある人や、その人を扶養する人が取得するもの)
  • 個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で、一定の要件を満たすもの(相続人のいずれかが引き続きその幼稚園を経営することが必要)
  • 相続や遺贈で取得した金銭を申告期限までに特定公益信託の信託財産とするために支出したもの、または取得した財産を申告期限までに公益信託の信託財産とするために支出したもの

申告が必要かどうかも、非課税財産を除いた課税価格の合計で判定します(基礎控除と申告が必要な人)。

お墓・仏壇は「日常の礼拝用」が条件

墓地や墓石、仏壇、仏具、神棚など神を祭る道具は、日常の礼拝に使っているものであれば相続税がかかりません。

ただし、骨とう的な価値があるなど投資の対象になるものや、商品として持っているものは課税されます。たとえば仏具店が販売用に持っている在庫の仏壇は、日常の礼拝用ではないので非課税になりません。

お墓や仏壇は、いつ買って、いつ支払ったかで相続税への影響が変わります。被相続人に預金があり、墓地・墓石の代金が300万円の場合で比べます。

墓地を買うタイミングと課税価格(墓地・墓石の代金300万円の例)
ケース相続開始時の財産と債務課税価格への影響
生前に購入し、預金から支払済み預金が300万円減り、墓地は非課税300万円減る
生前に契約し、代金は未払いのまま死亡墓地は非課税。未払代金300万円は債務として差し引けず、支払うはずだった預金300万円は課税減らない
亡くなった後に、相続人が遺産の預金で購入相続開始時は預金300万円のまま。購入費は葬式費用にも当たらない減らない

よくある誤り:墓地の未払金・借入金

墓地や仏壇の未払代金、購入のための借入金は、債務控除(遺産から借金などを差し引くこと)ができません。非課税財産に関する債務だからです。生前に用意するなら、代金の支払いまで済んでいるかどうかで結果が変わります。

生命保険金・死亡退職金・弔慰金の非課税部分

被相続人が保険料を負担していた死亡保険金と、死亡後3年以内に支給額が確定した死亡退職金は、みなし相続財産として相続税の対象です。ただし、それぞれ次の額までは非課税です。

非課税限度額=500万円×法定相続人の数(保険金と退職金で別々に計算)

たとえば法定相続人が配偶者と子2人の3人なら、保険金で1,500万円、退職金で1,500万円まで非課税です。使えるのは相続人が受け取った分だけで、相続を放棄した人や、孫など相続人以外が受け取った分には使えません。

勤務先から受け取る弔慰金は、業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外の死亡なら半年分までが非課税です。分け方の計算や例はみなし相続財産の章で説明しています。

申告期限までに国や公益法人などに寄附した財産

相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人などに寄附すると、寄附した財産には相続税がかかりません(租税特別措置法70条)。申告書の第14表に、寄附した財産の明細を書きます。

対象になるのは、相続などで取得した財産そのものを寄附した場合です。申告期限を過ぎてからの寄附は対象外なので、寄附先が特例の対象になる法人かどうかを、寄附の前に確認しておきましょう。

2026年(令和8年)4月1日以後の寄附から、対象になる専修学校(専門課程)の要件が「授業時間数1,700時間以上」から「単位数62単位以上」に改められました施行中。学校教育法の改正で単位制に移行したことに合わせた見直しです。

他の税金との関係:寄附と譲渡所得

  • 相続した土地や株式を法人に寄附すると、寄附した人がその財産を時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税がかかります(みなし譲渡)。国・地方公共団体への寄附と、国税庁長官の承認を受けた公益法人等への寄附は、譲渡がなかったものとみなされます:みなし譲渡:限定承認・法人への贈与・低額譲渡

そもそも相続税の対象にならないもの

非課税財産とは別に、そもそも相続税の対象にならないものもあります。所得税など別の税金の対象になるものがあるので、取り違えに注意します。

相続税の対象にならない主なもの
もの相続税他の税金での扱い
公的年金の遺族年金原則かからない所得税も原則かからない
未支給年金(亡くなった人が受け取るはずだった年金)かからない遺族固有の権利で、受け取った遺族の一時所得
準確定申告の還付加算金かからない相続人の雑所得(還付金そのものは相続財産)
死亡後3年を過ぎて支給額が確定した退職金かからない遺族の一時所得とされています
受取人が保険料を負担していた死亡保険金かからない受取人の所得税(一時金なら一時所得)

葬儀で受け取る香典は、社会通念上相当な額であれば贈与税がかかりません。一方、香典返しの費用は、葬式費用として遺産から差し引けません(債務控除と葬式費用)。

よくある誤り

  • 「生命保険金は相続税がかからない」:非課税なのは500万円×法定相続人の数までです。超える部分は課税されます。
  • 「お墓や仏壇なら何でも非課税」:骨とう的な価値があるもの、投資目的や商品として持つものは課税されます。
  • 「年金は全部相続財産」:公的年金の遺族年金は原則非課税、未支給年金は遺族の一時所得です。どちらも相続財産には入れません。
生前にお墓を買っておくと、相続税は減りますか?

預金などで代金の支払いまで済ませていれば、その分の預金が非課税の墓地に替わるので、課税価格は減ります。未払いのままだったり、借入金で買ったりした場合、その債務は差し引けません。骨とう的な価値があるものや投資目的のものは課税されます。

相続した預金の一部を寄附したいと考えています。

相続税の申告期限までに、対象となる国・地方公共団体・公益法人などに寄附すると、寄附した分には相続税がかかりません。申告書の第14表に明細を書きます。寄附先が対象の法人かどうかは、事前に確認しましょう。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 非課税財産:相続税法12条1項(2号 墓所・霊びょう・祭具等、3号 公益事業を行う者で政令で定めるものが取得した財産で公益事業の用に供することが確実なもの、4号 公益信託の受託者が遺贈により取得した信託財産、5号 条例による心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権、6号・7号 相続人が取得した保険金・退職手当金等の非課税部分など)。国税庁タックスアンサーNo.4108。
  • 公益事業用財産(12条1項3号)は、取得した者が取得の日から2年以内に公益事業の用に供しない場合などには、課税価格に算入されます(同条2項)。
  • 個人経営の幼稚園の事業用財産(相続税法施行令附則4)と、特定公益信託・公益信託の信託財産とするための支出(措置法70条、令和6年改正法附則54)も、No.4108に非課税財産として掲載されています。
  • 国等に対して相続財産を贈与した場合の非課税:租税特別措置法70条1項。専修学校の要件の見直しは同法施行規則23条の3第1項2号(2026年4月1日以後の贈与から適用。財務省「令和8年度 税制改正の解説」)。
  • 弔慰金:相続税法基本通達3-20。
  • 香典・祝物等(贈与税の非課税):相基通21の3-10。
  • 法人への贈与のみなし譲渡:所得税法59条1項。国・地方公共団体、国税庁長官の承認を受けた公益法人等への寄附の特例:租税特別措置法40条。

実務論点

  • 非課税財産に関する債務(墓地の未払代金、墓の購入資金の借入金)は、債務控除できません(国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」事例11、タックスアンサーNo.4126)。
  • 遺族年金(公的年金)は相続税・所得税とも原則非課税です。未支給年金は遺族固有の権利で、遺族の一時所得です(誤りやすい事例集 事例8)。
  • 準確定申告の所得税の還付金は本来の相続財産、還付加算金は相続人の雑所得です(質疑応答事例「被相続人の準確定申告に係る還付金等」)。
  • 相続財産の取得費加算(措置法39条)の分母には、非課税財産(相続税法12条1項、措置法70条1項の寄附)の価額を含めません(措置法通達39-3)。
  • 寄附の非課税は、申告書第14表(特定の公益法人などに寄附した相続財産の明細書)に記載します。
第7章

債務控除と葬式費用

亡くなった人の借入金や未払いの税金、葬式の費用は、遺産の額から差し引いて相続税を計算します(債務控除)。ただし、差し引けない費用の典型も決まっているので、申告の前に一つずつ確認します。

この章の結論

  • 差し引けるのは、亡くなった時点で確実にあった債務(借入金・未払金・未納の税金など)と、通夜・葬式・火葬・納骨などの葬式費用です。
  • 墓地・仏壇の未払代金、団体信用生命保険で返済されるローン、香典返し、初七日などの法事の費用は差し引けません。
  • 差し引けるのは相続人と包括受遺者(相続時精算課税の適用者を含む)です。差し引いた結果が赤字の人は0とし、生前贈与加算の額とは相殺できません。

債務控除の基本:誰が、どこから差し引くか

相続税は、財産を取得した人ごとに課税価格(税金を計算するもとになる金額)を出します。債務と葬式費用は、その計算の途中で差し引きます。

各人の課税価格=取得した財産+みなし相続財産−非課税財産+相続時精算課税の贈与財産−債務・葬式費用(ここで赤字なら0)+生前贈与加算の贈与財産

差し引けるのは、相続人と包括受遺者(遺言で遺産の全部や一定の割合を受け取る人)です。相続時精算課税で贈与を受けた人も含みます。国内外のすべての財産に相続税がかかる人(無制限納税義務者)であれば、この章で説明する債務と葬式費用を差し引けます。

国内の財産だけに相続税がかかる人(制限納税義務者)は、差し引ける債務の範囲が限られ、葬式費用は差し引けません。区分は納税義務者と国外財産の章で説明します。

相続を放棄した人は、相続税法上の相続人に当たりません。このため、原則として債務控除の対象外です。

ただし、相続を放棄した人が実際に葬式費用を負担した場合は、その人が遺贈によって取得した財産の価額から、負担した額を差し引いてもよいとされています。たとえば、相続を放棄した人が受け取った死亡保険金は、遺贈で取得したものとみなされます。その保険金の価額から、負担した葬式費用を差し引けます。

差し引ける債務・差し引けない債務

差し引ける債務は、被相続人が亡くなった時点で負っていて、確実と認められるものです。被相続人に課される税金で、亡くなった後に納めるものも含みます。

債務控除できるもの・できないもの
項目可否ポイント
銀行などからの借入金できる亡くなった日の残高
未払金(亡くなるまでにかかった入院費など)できる亡くなった時点で支払いが済んでいないもの
準確定申告で納める所得税できる被相続人に課される税金で、亡くなった後に納めるもの(準確定申告の期限は4か月以内)
亡くなった年分の固定資産税・住民税の未納分できる納税通知書が届く前でも差し引ける
墓地・仏壇などの未払代金、購入のための借入金できない非課税財産に関する債務
団体信用生命保険で返済が免除される住宅ローンできない保険金で返済されることが確実
相続人の責任で生じた延滞税・加算税できない相続人の責めによるもの
保証債務原則できない主たる債務者が返済できず、求償しても返してもらえない部分に限り差し引けるとされています

固定資産税や住民税は、亡くなった年の分に未納があれば、納税通知書がまだ届いていなくても差し引けます。差し引き忘れが起きやすい項目です。

準確定申告(亡くなった人の所得税の申告)で税金を納める場合、その所得税は債務になります。反対に還付される場合、その還付金は相続財産です。還付加算金は相続人の所得になります。

葬式費用:差し引けるもの・差し引けないもの

葬式費用は被相続人の債務ではありませんが、相続人などが負担した分を遺産から差し引けます。国税庁は、差し引けるものと差し引けないものを次のように示しています。

差し引ける葬式費用

  • 葬式(仮葬式と本葬式の両方)や、火葬・埋葬・納骨の費用
  • 遺体や遺骨の回送費用
  • 通夜など、葬式の前後に生じ、通常葬式に欠かせない費用
  • お寺などへの読経料などのお礼
  • 死体の捜索、死体や遺骨の運搬の費用

差し引けない費用

  • 香典返しの費用
  • 墓石・墓地の購入費用、墓地を借りる費用
  • 初七日や四十九日など法事の費用
  • 医学上や裁判上の特別な処置にかかった費用

葬儀で受け取る香典は、社会通念上相当な額であれば贈与税がかかりません。その一方で、香典返しの費用は葬式費用として差し引けません。墓地や墓石の購入費も葬式費用にはなりません。墓地や墓石そのものは、相続税がかからない財産です(相続税がかからない財産)。

実務のコツ:領収書が出ない支払いも記録する

お寺へのお礼など、領収書が出ない支払いもあります。支払った日・相手・金額・内容をメモに残しておくと、申告書の明細を作るときに役立ちます。葬儀社の請求書に香典返しや法事の費用が含まれている場合は、分けて把握しておきましょう。

赤字になる人と生前贈与加算

債務控除は、財産を取得した人ごとに行います。差し引いた結果が赤字になっても、その人の金額は0で止まります。そのあとで生前贈与加算の贈与財産を加えるので、赤字と相殺はできません。

計算例1:債務が財産を上回る相続人がいる場合

前提:長男は遺産分割で財産1,000万円を取得し、借入金1,500万円を負担することになりました。長男は被相続人から、加算対象期間内に暦年課税の贈与を300万円受けています。

財産1,000万円−債務1,500万円=−500万円 → 0とする
長男の課税価格=0円+生前贈与加算300万円=300万円

答え:長男の課税価格は300万円です。−500万円と300万円を相殺して0にすることはできず、赤字の500万円を他の相続人の課税価格から引くこともできません。

債務を誰が負担するかによって、差し引ける額が変わることがあります。遺産分割では、債務を負担する人に、差し引けるだけの財産があるかも確認しましょう。生前贈与加算の仕組みは生前贈与加算の章で説明します。

亡くなる直前の預金引出しと葬式費用

亡くなる直前に被相続人の預金から現金を引き出しても、相続税は減りません。相続開始時に残っている現金は、手元や自宅の金庫にあっても相続財産です。

引き出した現金を相続人の自宅の金庫に保管して申告から外し、重加算税が課された調査事例もあります(相続税がかかる財産)。

計算例2:直前に引き出した現金の扱い

前提:父が亡くなる前に預金から500万円を引き出し、入院費120万円を支払いました。残りの380万円は自宅に保管していました。父の死後、この現金から葬式費用200万円(差し引ける範囲のもの)を支払いました。

計算例2の整理
項目相続税での扱い金額
相続開始時に残っていた現金相続財産に入れる380万円
生前に支払った入院費財産にも債務にもならない0円
死後に支払った葬式費用葬式費用として差し引く−200万円
課税価格への影響差引180万円

380万円−200万円=180万円

答え:課税価格に入るのは差引180万円です。入院費を払わずに亡くなった場合も、現金500万円−未払金120万円−葬式費用200万円=180万円で、結果は同じです。

葬式費用の支払いなどで預金が必要な場合は、遺産分割の前でも、相続人が一定額まで単独で払戻しを受けられる制度があります(遺産分割と相続預金の払戻し)。

借入金で不動産を買うと相続税は減るのか

借入れをすると、借りた現金(財産)と借入金(債務)が同じ額だけ増えます。差し引くと、正味の課税価格は変わりません。課税価格が下がるのは、借りた現金で、相続税評価額が時価より低い土地や建物を買ったときの差額の部分です。

同じ不動産を自己資金で買っても、評価の差による課税価格の減少額は変わりません。借入れそのものに相続税を減らす効果はなく、仮定の数値による計算例は不動産と相続税:評価が下がる仕組みと限界で示しています。

2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から、相続などの前5年以内に取得した貸付用不動産を、原則として「通常の取引価額」で評価する通達案が公表されています通達案。2026年(令和8年)10月時点では制定されていません(貸付用不動産・小口化商品の評価見直し)。

また、相続税の負担を減らすための借入れや購入で、実質的な租税負担の公平に反する事情があると、通達の評価ではなく鑑定評価額などで課税されることがあります(最高裁2022年(令和4年)4月19日判決)。評価額と時価の差が大きいだけでは、この事情には当たりません(総則6項と最高裁令和4年判決)。

よくある誤り

  • 団体信用生命保険が付いた住宅ローンは、返済が免除されるので債務に入れられません。
  • 墓地や仏壇の未払代金は、非課税財産に関する債務なので差し引けません。
  • 香典返しや初七日などの法事の費用は、葬式費用に含められません。
  • 亡くなった年分の固定資産税・住民税の未納分は、納税通知書が届いていなくても差し引けます。差し引き忘れが多い項目です。

債務・葬式費用の確認リスト

  • 亡くなった日時点の借入金の残高を確認
  • 住宅ローンに団体信用生命保険が付いているかを確認
  • 入院費などの未払金の請求書を確認
  • 亡くなった年分の固定資産税・住民税の未納分を確認
  • 準確定申告で納める所得税(または還付金)を確認
  • 葬式費用の領収書と、領収書が出ない支払いのメモを用意
  • 香典返し・法事・墓地の費用を葬式費用から除外

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 債務控除:相続税法13条(控除できる者・範囲)、14条(確実と認められる債務、公租公課)。国税庁タックスアンサーNo.4126・No.4129。
  • 葬式費用の範囲:相続税法基本通達13-4(葬式に際して施与した金品は、被相続人の職業・財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに限る)、13-5(香典返戻費用、墓碑・墓地の買入費と墓地の借入料、法会に要する費用、医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用は葬式費用に含めない)。タックスアンサーNo.4129は、お寺などへの読経料などのお礼を葬式費用に含めています。
  • 相続を放棄した者・相続権を失った者には相続税法13条の適用はありませんが、現実に被相続人の葬式費用を負担した場合は、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除して差し支えないとされています(相基通13-1)。放棄者が取得した生命保険金等は、遺贈により取得したものとみなされます(相続税法3条1項)。
  • 保証債務:原則として控除できず、主たる債務者が弁済不能の状態にあり、求償しても返還を受けられない部分に限り控除できるとされています(相基通14-3)。
  • 特別寄与料を支払った相続人は、負担額を課税価格から控除します(相続税法13条4項)。
  • 国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」:事例11(墓地の未払金・借入金は控除不可)、事例12(死亡年分の未納の固定資産税・住民税は納税通知書の到着前でも控除可)、事例13(団体信用生命保険で免除されるローンは控除不可)。

実務論点

  • 各人の課税価格は「純資産価額(赤字なら0)+加算対象期間内の暦年課税の贈与財産」です。債務超過の人の赤字は、生前贈与加算額や他の人の課税価格と通算しません。課税価格は千円未満切捨てです。
  • 制限納税義務者は控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用は控除できません(No.4126)。
  • 死亡直前の預金引出し:相続開始時に残る現金は相続財産です。被相続人が鍵を管理していた金庫の現金を相続財産とした裁決(令和3年9月17日)があります。
  • 遺産分割前の払戻し(民法909条の2、上限は平成30年法務省令第29号で金融機関ごとに150万円)は、払い戻した相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。遺産分割前に処分された財産は、処分した相続人を除く共同相続人全員の同意で、遺産に含めて分割できます(民法906条の2)。
  • 借入金による不動産取得:評価差による課税価格の減少と、総則6項の適用(最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決、民集76巻4号411頁)。貸付用不動産の評価見直しは通達案で、2027年1月1日以後の相続等から適用予定(2026年10月17日時点で未制定)。
  • 取得費加算(措置法39条)の分母は、債務控除前の課税価格(措置法施行令25条の16第1項2号)。
第8章

生前贈与加算(7年加算)と相続時精算課税の加算

亡くなる前の一定期間に被相続人から受けた贈与は、相続税の計算に足し戻します(生前贈与加算)。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から加算期間が3年から7年に延びましたが、経過措置があるため、2026年(令和8年)中に亡くなった場合はまだ「3年以内」です。

この章の結論

  • 加算されるのは、相続・遺贈・相続時精算課税で財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間内に受けた暦年課税の贈与です。110万円以下の贈与も、亡くなった年の贈与も、贈与時の価額で加算します。
  • 加算対象期間は相続開始日で決まり、2026年12月31日までの相続は3年以内です。2027年(令和9年)1月1日〜2030年(令和12年)12月31日の相続は2024年1月1日から死亡日まで、2031年(令和13年)1月1日以後の相続は7年以内が対象です。延長された部分の贈与は、合計から100万円を差し引きます。
  • 相続時精算課税を選んだ贈与は、期間に関係なく全部を加算します(2024年以後の贈与は年110万円の基礎控除部分を除く)。納めた贈与税は相続税から差し引き、引ききれない額が還付されるのは精算課税分だけです。

生前贈与加算とは:対象になる贈与と加算する価額

生前贈与加算は、相続・遺贈・相続時精算課税で財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間内に暦年課税で受けた贈与財産を、その人の相続税の課税価格に加える仕組みです。暦年課税とは、年110万円の基礎控除を使う通常の贈与税の計算方法をいいます。

加算する贈与には、次のものも含まれます。

  • 贈与税がかからなかった110万円以下の贈与
  • 贈与税を申告して納めた贈与(納めた贈与税は相続税から差し引きます。引ききれなくても還付はありません)
  • 亡くなった年に受けた贈与(贈与税の申告は不要で、相続税に加算します)

加算する価額は、相続開始時の価額ではなく贈与を受けた時の価額です。たとえば贈与時に500万円だった上場株式が、相続開始時に200万円に値下がりしていても、500万円を加算します。値上がりしていても、加算するのは贈与時の価額です。

加算した結果、課税価格の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えれば、相続税の申告が必要です。申告が必要かどうかの判定にも、加算する贈与を含めます(基礎控除と申告が必要な人)。

補足:名義預金は生前贈与加算とは別の問題

贈与が成立していない家族名義の預金(名義預金)は、贈与ではなく被相続人の財産そのものです。生前贈与加算の期間に関係なく、全額が相続財産になります(名義預金・名義株と贈与の証拠の残し方)。

加算対象期間:経過措置と100万円控除

加算対象期間は、2024年1月1日以後の贈与から「相続開始前3年以内」が「7年以内」に延びました施行中。ただし延長は、相続開始日に応じて段階的に進みます。

相続開始日と加算対象期間(経過措置)
相続開始日(亡くなった日)加算対象期間
2026年12月31日まで相続開始前3年以内
2027年1月1日〜2030年12月31日2024年1月1日から死亡日まで(3年超〜7年弱)
2031年1月1日以後相続開始前7年以内
20202021202220232024202520262027202820292030203120322026年10月の相続3年以内(全額)2029年6月の相続延長分(−100万円)3年以内(全額)2032年6月の相続延長期間(合計−100万円)3年以内(全額)2024年1月1日(改正後の贈与の開始)2027〜2030年の相続は2024年1月1日以後の贈与が加算対象。2031年以後は7年分(●=相続開始日)
図:生前贈与加算の経過措置(相続開始の年による加算対象期間の違い)

「3年以内」は、死亡日の3年前の同じ日(応当日)から死亡日までをいいます。「7年以内」も同じ数え方です。2026年10月時点で亡くなった場合は3年以内のままで、7年分の贈与が加算されるのは2031年1月1日以後の相続からです。

延長された期間の100万円控除

加算対象期間のうち、相続開始前3年以内より前の期間(延長された部分)に受けた贈与は、その合計額から100万円を差し引いた残りを加算します。100万円は贈与ごとや年ごとではなく、受贈者(贈与を受けた人)ごとに、延長部分の合計から1回だけ差し引きます。3年以内の贈与からは差し引きません。

2027年1月1日に亡くなった場合は、加算対象期間(2024年1月1日から)と3年以内の期間が同じになり、延長部分は生じません。このため100万円控除が実際に問題になるのは、相続開始日が2027年1月2日以後の場合です。

相続開始日ごとの加算対象期間の例
相続開始日加算対象期間うち延長部分(100万円控除の対象)
2026年12月31日2023年(令和5年)12月31日〜2026年12月31日なし
2027年1月1日2024年1月1日〜2027年1月1日なし
2028年(令和10年)6月30日2024年1月1日〜2028年6月30日2024年1月1日〜2025年(令和7年)6月29日
2030年12月31日2024年1月1日〜2030年12月31日2024年1月1日〜2027年12月30日
2031年1月1日2024年1月1日〜2031年1月1日2024年1月1日〜2027年12月31日
2033年(令和15年)4月1日2026年4月1日〜2033年4月1日2026年4月1日〜2030年3月31日

3年以内は死亡日の3年前の応当日から、7年以内は7年前の応当日から数えて整理しています。

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加算の対象になる人・ならない人

生前贈与加算の対象は、相続・遺贈・相続時精算課税で財産を取得した人です。被相続人から贈与を受けていても、相続や遺贈で何も取得しない人には加算しません。

加算される人

  • 相続人として遺産を取得した人
  • 遺言で遺贈を受けた人
  • 被相続人から相続時精算課税で贈与を受けた人(相続で何も取得しなくても対象)
  • 被相続人が保険料を負担した死亡保険金や、死亡退職金を受け取った人(遺産をもらわない孫や子の配偶者、相続を放棄した人も含む)

加算されない人

  • 相続・遺贈で何も取得しない孫や子の配偶者
  • 相続を放棄し、保険金なども受け取らない人
  • 教育資金・結婚子育て資金の一括贈与の管理残額のほかに、何も取得していない人

死亡保険金は、受取人が相続人なら相続、相続人以外なら遺贈で取得したものとみなされます。このため、孫を保険金の受取人にしていると、その孫は遺贈で財産を取得した人になり、孫への贈与も加算の対象になります。

よくある誤り:「孫への贈与は加算されない」

孫への贈与が加算されないのは、孫が遺贈・死亡保険金・死亡退職金を一切受け取らない場合に限ります。孫が保険金の受取人だと、①生前贈与加算の対象になる、②死亡保険金の非課税枠が使えない、③代襲相続人でなければ相続税額の2割加算の対象になる、の3つが重なります(みなし相続財産)。

相続や遺贈で何も取得しない人が、被相続人が亡くなった年に贈与を受けた場合、その贈与は相続税ではなく贈与税の対象です。その年に受けた贈与の合計が110万円を超えれば、贈与税の申告が必要です。

加算しない贈与と、亡くなった年の贈与

次の贈与は、加算対象期間内であっても加算しません。いずれも、非課税の特例の適用を受けた部分に限られます。

生前贈与加算をしない贈与
特例加算しない部分2026年10月時点の状態
贈与税の配偶者控除(婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産など)配偶者控除を受けた部分(最高2,000万円)期限の定めなし
直系尊属からの住宅取得等資金の非課税非課税の適用を受けた部分2026年12月31日までの贈与が対象期限あり
教育資金の一括贈与の非課税非課税の適用を受けた部分2026年3月31日で新規適用終了新規適用終了
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税非課税の適用を受けた部分2027年3月31日までの拠出が対象期限あり

教育資金と結婚・子育て資金は、贈与者が亡くなった時の管理残額が、相続などで取得したものとみなされる場合があります(教育資金・結婚子育て資金の一括贈与)。住宅取得等資金の非課税の延長は、2026年10月時点では決まっていません(住宅取得等資金の非課税)。

亡くなった年に受けた贈与

相続・遺贈で財産を取得した人が、被相続人が亡くなった年に受けた暦年課税の贈与は、贈与税の課税価格に入れず、相続税の課税価格に加算します。このため、その贈与について贈与税の申告は不要です。

例外があります。亡くなった年に、婚姻期間20年以上の被相続人から居住用不動産(またはその取得資金)の贈与を受け、過去にその人からの贈与で配偶者控除を受けていない場合です。この場合は配偶者控除の対象となる部分(最高2,000万円)を加算せず、その部分について贈与税の申告をします。要件を満たせば、配偶者控除で贈与税を0円にできます(贈与税の配偶者控除)。

計算例:2026年中の相続と2029年(令和11年)中の相続

計算例1:2026年中に亡くなった場合(3年以内の贈与を加算)

前提:父が2026年12月10日に死亡し、長男が遺産を相続しました。父から長男への贈与は、すべて暦年課税で次のとおりです(長男は各年の1月1日時点で18歳以上)。3年以内の起点(応当日)は2023年12月10日です。

計算例1の贈与と加算の判定
贈与の日金額判定その年の贈与税
2022年(令和4年)6月1日200万円加算しない(期間より前)9万円
2023年12月20日150万円加算する4万円
2024年6月1日300万円加算する19万円
2025年6月1日110万円加算する(110万円以下でも加算)0円
2026年6月1日100万円加算する(亡くなった年の贈与)申告不要

各年の贈与税(基礎控除110万円、税率10%):2022年は(200万円−110万円)×10%=9万円、2023年は(150万円−110万円)×10%=4万円、2024年は(300万円−110万円)×10%=19万円
加算額=150万円+300万円+110万円+100万円=660万円
贈与税額控除=4万円+19万円=23万円

答え:長男の課税価格に660万円を加算し、長男の相続税から23万円を差し引きます。2022年の贈与は加算しないので、その年の贈与税9万円は差し引きません。

同じ贈与で、父の死亡が2027年1月5日だった場合は、2024年1月1日以後の贈与だけが対象になります。2023年12月20日の150万円は加算されず、加算額は300万円+110万円+100万円=510万円、差し引く贈与税は19万円です。亡くなる時期が数週間違うだけで、加算される贈与が変わる例です。

計算例2:2029年中に亡くなった場合(100万円控除が働く)

前提:母が2029年5月10日に死亡し、長女が遺産を相続しました。加算対象期間は2024年1月1日から死亡日までです。3年以内の起点(応当日)は2026年5月10日で、これより前が延長部分になります。母から長女への暦年課税の贈与は次のとおりです。

計算例2の贈与と区分
贈与の日金額区分
2023年12月25日300万円加算しない(2024年1月1日より前)
2024年4月1日110万円延長部分
2025年4月1日200万円延長部分(その年の贈与税9万円)
2026年4月1日110万円延長部分
2027年4月1日110万円3年以内
2028年4月1日110万円3年以内
2029年1月10日110万円3年以内(亡くなった年の贈与)

延長部分=110万円+200万円+110万円=420万円 → 420万円−100万円=320万円
3年以内=110万円+110万円+110万円=330万円
加算額=320万円+330万円=650万円
贈与税額控除=2025年分の9万円((200万円−110万円)×10%。按分は100万円控除前の価額で行うので、9万円×200万円÷200万円=9万円)

答え:長女の課税価格に650万円を加算し、相続税から9万円を差し引きます。2026年4月1日の贈与は、2026年の贈与でも応当日(5月10日)より前なので延長部分です。

相続時精算課税の加算と贈与税の精算

相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫などへの贈与で選べる制度です(年齢は贈与の年の1月1日で判定)。選ぶと、その贈与者(特定贈与者)からの贈与は、期間に関係なく全部が特定贈与者の相続税の課税価格に加算されます。

  • 加算する価額は贈与時の価額です。2024年1月1日以後の贈与は、年分ごとに「贈与時の価額の合計−基礎控除(110万円)」を加算します施行中。基礎控除以下の部分は、亡くなる直前の贈与でも加算しません。
  • 2023年12月31日以前の精算課税の贈与は、贈与時の価額をそのまま加算します。
  • 精算課税で贈与を受けた人は、相続や遺贈で何も取得しなくても相続税の納税義務者になります。2割加算も、通常どおり判定します。
  • 納めた精算課税の贈与税は、他の税額控除の後で相続税から差し引き、引ききれない額は還付されます。還付を受けるための申告書は、相続開始の日の翌日から5年を経過する日まで出せます。

計算例3:精算課税の贈与税が還付される場合(国税庁の例)

前提:相続時精算課税で3,300万円の贈与を受け、贈与税を納めました。その後、贈与者が亡くなりました。相続財産は1,500万円、法定相続人は3人です。

贈与税=(3,300万円−基礎控除110万円−特別控除2,500万円)×20%=690万円×20%=138万円
相続時の加算額=3,300万円−110万円=3,190万円
課税価格の合計=1,500万円+3,190万円=4,690万円(基礎控除4,800万円=3,000万円+600万円×3人以下)

答え:相続税は0円で、納めた贈与税138万円は相続税の申告により還付されます。

暦年課税と相続時精算課税:相続時の加算の比較
項目暦年課税相続時精算課税
加算する期間3年〜7年以内(経過措置あり)選択後の全期間
加算する価額贈与時の価額(延長部分は合計から100万円を控除)贈与時の価額−基礎控除(2024年以後の贈与)
110万円以下の贈与期間内なら加算する基礎控除部分は加算しない
納めた贈与税相続税から控除(還付なし)相続税から控除(引ききれない額は還付)
贈与された宅地の小規模宅地等の特例使えない使えない

精算課税で贈与を受けた土地・建物が、2024年1月1日以後の災害で一定の被害を受けた場合は、加算する価額から被災した分を差し引ける特例があります施行中(税務署長の承認が必要)。詳しくは相続時精算課税の精算と還付、制度の選び方は暦年課税と相続時精算課税の選び方で説明します。

毎年110万円以下の贈与なら、相続税には関係ありませんか?

関係があります。相続・遺贈で財産を取得する人への贈与は、110万円以下でも加算対象期間内なら加算します。加算されないのは、相続・遺贈で何も取得しない人への贈与と、相続時精算課税の基礎控除部分です。

加算された贈与の贈与税が相続税より多い場合、差額は戻りますか?

暦年課税の贈与税は、相続税から差し引ききれなくても還付されません。還付があるのは、相続時精算課税で納めた贈与税だけです。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 生前贈与加算・贈与税額控除:相続税法19条1項、相続税法施行令4条1項。経過措置は所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則19条。
  • 相続税法基本通達19-1・19-2・19-7(加算の範囲等)、19-3(相続・遺贈により財産を取得しなかった者には加算しない取扱い)、19-11(精算課税を選択する前の同じ贈与者からの暦年課税の贈与で、加算対象期間内のものを加算する取扱い)。
  • 亡くなった年の贈与:相続税法21条の2第4項(取得者の贈与は贈与税の課税価格に算入しない規定)、相基通21の2-3(取得しなかった者は贈与税の対象)。配偶者控除の特例は相続税法21条の6・相基通19-9。
  • 相続時精算課税:相続税法21条の9〜21条の16、租税特別措置法70条の3の2(年110万円の基礎控除)、相基通21の15-1〜21の15-4。還付申告の期限は相基通27-8。災害による被害の特例は租税特別措置法70条の3の3。

実務論点

  • 100万円控除は、加算対象期間のうち相続開始前3年以内以外の期間に受けた贈与の合計額から、受贈者ごとに総額100万円です。相続開始日が2027年1月2日以後の場合に問題となります(国税庁タックスアンサーNo.4161)。
  • 国税庁の例(夫が2028年4月1日に死亡):長男は〔(200万円+100万円)−100万円〕+〔100万円+200万円〕=500万円、長女は〔(150万円+300万円)−100万円〕+〔200万円+200万円〕=750万円です。2023年12月31日以前の贈与は加算しません。
  • 贈与税額控除は年分ごと・特例贈与財産と一般贈与財産ごとに計算し、按分は100万円控除前の価額で行います。加算税・延滞税・利子税は含めず、還付はありません。
  • 加算対象者には、死亡保険金・死亡退職金だけを取得した者(相続放棄者や相続人以外を含む)が含まれます(国税庁「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」に関する問答集 Q4-5の注)。教育資金・結婚子育て資金の管理残額以外に取得財産がない者は対象外です(No.4161)。
  • 精算課税適用者は、相続・遺贈で財産を取得しなくても特定納税義務者となります(相基通1の3・1の4共-3)。精算課税の贈与財産には、暦年課税の加算期間の規定は適用しません。
  • 取得費加算(措置法39条)の分子・分母には、3年超7年以内の暦年課税の贈与は100万円控除後、2024年以後の精算課税の贈与は基礎控除後の価額を用います(No.3267)。
  • 申告書は第14表(純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額等の明細書)に記載します。
第9章

相続税の納税義務者と国外財産

相続税がどこまでの財産にかかるかは、財産を受け取った人と亡くなった人の「住所・国籍・在留資格」で決まります。この章では、納税義務者の5つの区分と、海外にある財産(国外財産)の扱いを整理します。

この章の結論

  • 日本にある不動産や、国内の営業所(支店など)に預けた預金などの国内財産は、相続人や亡くなった人がどこに住んでいても、どの区分でも相続税の対象です。
  • 海外の財産まで課税されるかは、相続人と被相続人の住所・国籍・在留資格と「10年」の基準で決まります。日本人どうしの相続では、相続人と被相続人の両方が日本を離れて10年を超えている場合を除き、海外の財産も課税されます。
  • 国外財産も日本の評価ルールで評価して円に換算し、外国で課された相続税は外国税額控除で調整します。日本に住所がない相続人は、納税管理人を定めて申告します。

納税義務者は「財産を受け取った人」です

相続税を納めるのは、相続や遺贈で財産を受け取った人です。亡くなった人(被相続人)が納める税金ではありません(全体像は相続税の仕組み)。

財産を受け取った人は、課税される財産の範囲によって5つに区分されます。基本は、国内と国外の全部の財産に課税される「無制限納税義務者」と、日本国内にある財産だけに課税される「制限納税義務者」です。

相続税の納税義務者の区分と課税される財産
区分どんな人か(概要)課税される財産
居住無制限納税義務者財産を取得した時に日本に住所がある人(一時居住者で、被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人の場合を除く)国内と国外の全部の財産
非居住無制限納税義務者日本に住所がない人のうち、日本国籍があり相続開始前10年以内に日本に住所があった人など(下の判定表)国内と国外の全部の財産
居住制限納税義務者日本に住所がある一時居住者で、被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人の場合国内にある財産だけ
非居住制限納税義務者日本に住所がなく、非居住無制限納税義務者に当たらない人国内にある財産だけ
特定納税義務者相続や遺贈では財産を取得していない、相続時精算課税の適用者相続時精算課税を適用した贈与財産

区分は、相続人については財産を取得した時、被相続人については亡くなった時の状況で判定します。日本国籍と外国籍の両方を持つ人は、日本国籍がある人として扱います。

判定に使う4つの言葉

区分を決めるには、次の4つの言葉の意味を押さえておく必要があります。

住所
その人の生活の本拠のことで、客観的な事実で判定します。出張や留学などで一時的に日本を離れている人は、日本に住所がある人として扱います。日本国籍の人や永住者で、海外勤務がおおむね1年以内の見込みの人や、日本にいる人の扶養親族として海外に留学している人も、原則として同じです。
一時居住者
相続開始の時に出入国管理及び難民認定法(入管法)の別表第一の在留資格を持つ人のうち、相続開始前15年以内に日本に住所があった期間の合計が10年以下の人です。別表第一の在留資格には、経営・管理、技術・人文知識・国際業務、留学などがあります。
外国人被相続人
亡くなった時に別表第一の在留資格を持ち、日本に住所があった被相続人です。現在の定義では、日本に住んでいた期間の長さは問いません。
非居住被相続人
亡くなった時に日本に住所がなかった被相続人のうち、次のどちらかに当たる人です。①相続開始前10年以内に日本に住所があったが、その間ずっと日本国籍がなかった人。②相続開始前10年以内に日本に住所がなかった人。

ここでいう在留資格は別表第一のものに限られ、永住者や日本人の配偶者等(別表第二)は含まれません。そのため永住者は、一時居住者にも外国人被相続人にも当たらず、日本人と同じように判定されます。

判定表:国外財産まで課税されるのは誰か

相続人の状況(行)と被相続人の状況(列)を当てはめると区分が決まります。表の「10年以内」は、相続開始前10年以内のことです。

相続税の納税義務者の区分の判定表
相続人(財産を取得した時)被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人のどちらでもない被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人
日本に住所あり(一時居住者でない)居住無制限居住無制限
日本に住所あり(一時居住者)居住無制限居住制限(国内財産のみ)
日本に住所なし・日本国籍あり・10年以内に日本に住所あり非居住無制限非居住無制限
日本に住所なし・日本国籍あり・10年以内に日本に住所なし非居住無制限非居住制限(国内財産のみ)
日本に住所なし・日本国籍なし非居住無制限非居住制限(国内財産のみ)

国税庁タックスアンサーNo.4138の定義と場合分けをもとに整理した表です。被相続人が国外転出時課税の納税猶予の特例を受けていた場合や、過去の改正の経過措置が関係する場合は、表と異なる判定になることがあります。

表のとおり、国外財産が課税されないのは、相続人と被相続人の両方に「日本とのつながりが薄い」条件がそろったときだけです。具体的なケースに当てはめると、次のようになります。

ケース別の判定例
ケース区分課税される財産
①札幌に住む日本人の父が死亡。日本国籍の長男は米国に住んで8年非居住無制限米国の預金なども含む全部
②日本国籍の父は米国に20年住み、米国で死亡。長女も日本国籍で、日本に住んだことがない非居住制限国内の営業所に預けた預金・日本の不動産など国内財産だけ
③②と同じ父で、相続人の長男は日本に住んでいる居住無制限米国の財産も含む全部
④在留資格「経営・管理」で日本に住む外国籍の人が死亡。子は外国籍で本国に住んでいる非居住制限日本にある財産だけ
⑤永住者として日本に住む外国籍の人が死亡。子は外国籍で本国に住んでいる非居住無制限本国の財産も含む全部

①は、長男が日本を離れて10年以内なので、父の状況にかかわらず国外財産も課税されます。②は、父も長女も相続開始前10年以内に日本に住所がないため、国内財産だけが課税されます。⑤は、永住者が外国人被相続人に当たらないため、④と結論が逆になります。

区分によって使える控除・特例が変わります

基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は、区分に関係なく同じ式で計算します。一方で、次の控除・特例は区分によって扱いが違います。

区分によって扱いが違う主な控除・特例
項目無制限納税義務者制限納税義務者
債務控除通常どおり控除できる控除できる債務の範囲が限られる
葬式費用控除できる控除できない
障害者控除日本に住所がある人(居住無制限)だけ使える使えない
小規模宅地等の家なき子特例ほかの要件を満たせば使える日本国籍がある人は使えるが、日本国籍がない人は使えない

未成年者控除は、原則として財産を取得した時に日本に住所がある人が対象です(一時居住者で、被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人の場合を除く)。ただし日本に住所がなくても、一定の日本国籍の人などは使えます(未成年者控除・障害者控除)。家なき子特例の要件は家なき子特例で説明します。

国外財産の判定・評価と外国税額控除

国内財産か国外財産かは、相続税法10条の「財産の所在」の決まりで判定します。不動産と動産はその所在地、預貯金は預け入れた営業所・事業所の所在地、株式や社債は発行した法人の本店(主たる事務所)の所在地です。この決まりにより、日本の銀行の海外支店の預金は国外財産、外国の銀行の日本支店の預金は国内財産になります。どの決まりにも当たらない財産は被相続人の住所地で判定し、判定は財産を取得した時の状況で行います。

国外財産も、国内の財産と同じく財産評価基本通達で評価します。通達で評価できないものは、通達に準じるか、売買実例価額や精通者意見価格などを参考にします。課税上の弊害がなければ、取得価額を現地の価格動向で時点修正した価額なども使えます。

外貨建ての財産は、原則として取引金融機関が公表する相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)で円に換算します。外貨建ての債務は電信売相場(TTS)で換算します(詳しくは国外財産などの評価)。

国外財産に外国でも相続税にあたる税が課されると、同じ財産に二重に税がかかります。この場合は、外国で課された税額を日本の相続税額から差し引けます(外国税額控除)。控除できる額には上限があり、計算方法は外国税額控除で説明します。

海外に住む相続人の申告と国外財産調書

海外に住む相続人も、申告期限は国内の相続人と同じで、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。被相続人が亡くなった時に日本に住所があった場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署に申告書を出します。

日本に住所がない人が申告するときは、納税管理人を定めて「納税管理人届出書」を提出し、納税地の所轄税務署長に申告・納税します。被相続人が海外に住んでいた場合の提出先は、事前に税務署で確認してください。

国外財産調書は、国外財産を多く持つ人が税務署長に出す調書です(国外送金等調書法5条)。居住者(非永住者を除きます)で、その年の12月31日の国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える人が、翌年6月30日までに提出します。相続が開始した年の分は、相続や遺贈で取得した国外財産を除いて判定できます。相続税とも関係があり、国外財産の申告漏れがあったときの加算税が次のように変わります。

  • 調書にその国外財産の記載があった場合:相続税の過少申告加算税・無申告加算税が5%軽減されます。
  • 調書を出していない場合や、記載がなかった場合:加算税が5%加重されます。
  • 国外財産に関する書類の提示・提出を求められて応じなかった場合:軽減を受けられず、さらに5%加重されます。

財産債務調書にも同じような加算税の特例があります。記載があった場合の5%軽減は所得税と相続税が対象ですが、提出がない場合などの5%加重は所得税だけが対象です。

よくある誤り:海外に住めば日本の相続税はかからない

  • 日本にある不動産や、国内の営業所に預けた預金などの国内財産は、どの区分でも課税されます。
  • 日本国籍の相続人は、次の2つがそろわない限り、国外財産も課税されます。①本人が相続開始前10年以内に日本に住所がないこと。②被相続人が外国人被相続人か非居住被相続人であること(日本人の被相続人なら、相続開始前10年以内に日本に住所がないこと)。
  • 相続人が外国籍で海外に住んでいても、被相続人が日本に住む日本人や永住者なら、国外財産も課税されます(非居住無制限納税義務者)。
3年の予定で海外赴任中に親が亡くなりました。海外の財産も課税されますか。

課税されます。3年の予定の海外勤務は「おおむね1年以内」に当たらないため、住所は生活の本拠がどこにあるかで判定します。日本に住所がないと判定されても、日本国籍があり相続開始前10年以内に日本に住所があったので、非居住無制限納税義務者です。日本に住所があると判定されれば居住無制限納税義務者で、どちらでも国内と国外の全部の財産が課税されます。

海外に住む相続人は、日本の税務署に出向く必要がありますか。

納税管理人を定めて届け出れば、納税管理人を通じて申告・納税できます。申告期限は国内の相続人と同じ10か月以内なので、早めに納税管理人を決めておくと手続が滞りません。

他の税金との関係

  • 贈与税の納税義務者も、贈与者と受贈者の住所・国籍・在留資格で同じように区分されます(贈与税の仕組み)。
  • 1億円以上の有価証券等を持つ被相続人から、海外に住む相続人(所得税法の非居住者)が有価証券等を取得すると、被相続人が譲渡したものとみなして所得税がかかります(国外転出時課税)。対象は原則として、相続開始前10年以内に日本に5年超住んでいた被相続人です。相続人は被相続人の準確定申告(4か月以内)で申告し、その所得税は相続税の債務控除の対象になります(国際相続、株式の譲渡と相続した株式)。
  • 海外に住む相続人がいる場合の手続や具体例は海外・非居住者のケースにまとめています。
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 納税義務者:相続税法1条の3(一時居住者の定義は同条3項)。課税財産の範囲:同法2条。特定納税義務者の課税範囲:相基通1の3・1の4共-3。
  • 住所の判定:相基通1の3・1の4共-5(生活の本拠・客観的事実で判定)、共-6(国外勤務等がおおむね1年以内と見込まれる者、留学中の扶養親族などの取扱い)、共-7(重国籍者は日本国籍を有する個人に含む)。
  • 財産の所在:相続税法10条。1項1号(動産・不動産・不動産の上に存する権利はその所在)、4号(預金・貯金・積金等は受入れをした営業所又は事業所の所在)、5号(保険金は保険会社等の本店又は主たる事務所。国内に本店又は主たる事務所がない場合に、国内にその保険の契約に係る事務を行う営業所、事務所その他これらに準ずるものを有するときは、その営業所、事務所その他これらに準ずるもの)、7号(貸付金債権は債務者の住所又は本店等)、8号(社債・株式・出資は発行法人等の本店又は主たる事務所)。2項は国債・地方債を国内、外国等が発行する公債をその外国にあるものとし、3項は1項・2項以外の財産を被相続人の住所の所在で、4項は取得した時の現況で判定するとしています。評価:評基通4-3(外貨建て財産はTTB、外貨建て債務はTTS)、5-2(国外財産の評価)。
  • 外国税額控除:相続税法20条の2。相基通20の2-1(外国税額は納付すべき日のTTSで換算。国内から送金する場合は著しく遅延しない限り送金日の相場も可)、20の2-2(控除限度額の計算上の財産の価額は、その財産に係る債務を差し引いた額)、20の2-4(税額控除の順序は6番目)。
  • 債務控除:相続税法13条(制限納税義務者は控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用は控除不可)。納税管理人:国税通則法117条。国外財産調書の加算税の特例:国外送金等調書法6条。財産債務調書の加算税の特例は、5%軽減が所得税・相続税を、5%加重が所得税だけを対象とします。
  • 国外財産調書の提出義務:国外送金等調書法5条1項(居住者〔非永住者を除く〕で、その年の12月31日の国外財産の価額の合計額が5,000万円超。翌年6月30日までに、所得税の納税地又は住所地等の所轄税務署長へ提出。期限までに提出しないで死亡・出国した場合は不要)。相続開始年分は、相続・遺贈で取得した国外財産(相続国外財産)を除外して同項を適用できます(同条2項)。

実務論点

  • 判定表は現行の定義(外国人被相続人に居住期間の要件はない)によります。古い相続や、通達にいう「非居住外国人」に当たる場合は、平成29年・30年改正などの経過措置で扱いが異なりうるため、相続開始日の法令で確認します。
  • 被相続人が2015年(平成27年)7月1日以後に国外転出時課税の納税猶予の特例を受けていた場合は、10年を超えて国外にいても判定が異なる場合があります(タックスアンサーNo.4138の注記)。
  • 取引相場のない外国法人の株式は、類似業種比準方式に準じた評価は原則としてできず、純資産価額方式に準じて評価します。評価差額に対する法人税額等相当額は、その国の法人税等に相当する税の税率で計算できます。
  • 外国で相続税に相当する税が課された際の価額は、鑑定評価に基づくなど課税時期の時価として合理的に算定されていれば、それによって評価して差し支えないとされています(質疑応答事例)。
  • 相続人ごとに区分が異なりうるため、課税範囲と、債務控除・葬式費用・未成年者控除・障害者控除・家なき子特例の可否を相続人ごとに確認します。
  • 国外財産調書の加算税の特例を相続税でどう判定するか(誰の調書で判定するか等)は、国税庁の資料で確認してから判断します。
第10章

申告・納税までの全体スケジュール

相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。その間に、相続放棄(3か月)や準確定申告(4か月)など先に来る期限と、税額を左右する判断がいくつもあります。

この章の結論

  • 相続税の申告と納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。2026年(令和8年)6月9日に亡くなり、その日に知った場合は2027年(令和9年)4月9日が期限で、提出先は被相続人の住所地の税務署です。
  • それより前に、相続放棄・限定承認(知った時から3か月以内)と準確定申告(知った日の翌日から4か月以内)の期限が来ます。財産と債務の大枠は、最初の3か月でつかみます。
  • 小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、申告期限までの遺産分割と申告が条件です。分け方と売る時期は、二次相続や譲渡所得の特例まで見て決めます。

相続開始から申告・納付までの流れ

相続税の手続は、遺言の確認や遺産分割といった民法の手続と並行して進みます。おおまかな順番は次のとおりです。

  1. 死亡届と葬儀死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に出します。葬式費用の多くは相続税の計算で差し引けるので、領収書を保管します(債務控除と葬式費用)。
  2. 遺言の確認公正証書遺言と、法務局に保管された自筆証書遺言は検認が不要です。それ以外の自筆証書遺言などは、家庭裁判所の検認を受けます。
  3. 相続人の確定被相続人の出生から死亡までの戸籍で相続人を確認します。法定相続情報一覧図の写しは、相続税の申告にも使えます(相続人の調査)。
  4. 財産と債務の調査預貯金の残高証明書、固定資産の名寄帳、借入金の残高などを集め、財産と債務の一覧を作ります(財産と債務の調べ方)。
  5. 相続放棄・限定承認の判断借金が多い場合などは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述します(相続放棄・限定承認)。
  6. 準確定申告被相続人のその年1月1日から亡くなった日までの所得税を、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告します(準確定申告)。
  7. 財産の評価土地は路線価などで、非上場株式は評価明細書で評価します(財産評価の基本)。
  8. 遺産分割相続人全員で協議し、遺産分割協議書を作ります。特例の要件や二次相続の税額も見ながら分け方を決めます(遺産分割協議書の作り方)。
  9. 申告書の作成課税価格と税額を計算し、特例の明細と添付書類をそろえます(必要書類チェックリスト)。
  10. 申告と納付相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告し、同じ日までに納めます。延納・物納を希望する場合も、この日までに申請します。
  11. 相続登記と名義変更不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記をする義務があります(2024年(令和6年)4月1日施行)施行中。預貯金や株式の名義変更も進めます。

期限の数え方と主な期限

相続税と準確定申告の期限は、相続の開始を「知った日の翌日」から数えます。通常は亡くなった日に知るので、亡くなった日と同じ日付の10か月後が相続税の期限です(例:1月6日に死亡なら11月6日)。ただし、知った日が月の末日のときは、10か月後の月の末日が期限です(例:9月30日に死亡なら翌年7月31日。国税通則法10条1項)。期限が土曜・日曜・祝日などに当たるときは、その翌日が期限になります。

「知った日」は相続人ごとに違うことがあります。たとえば相続人ではない人が遺贈を受けた場合は遺贈を知った日、胎児は法定代理人が出生を知った日が起点です。

  1. 7日以内死亡届(死亡の事実を知った日から。国外で亡くなった場合は3か月以内)
  2. 3か月以内相続放棄・限定承認の申述(自己のために相続の開始があったことを知った時から。家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることもできます)
  3. 4か月以内準確定申告と納付(相続の開始を知った日の翌日から)
  4. 10か月以内相続税の申告と納付(相続の開始を知った日の翌日から)
  5. 申告期限から3年以内申告時に未分割だった財産を分割すれば、小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減を受けられます(申告書に分割見込書を添付した場合)
  6. 申告期限の翌日以後3年まで相続した財産を売ったときに、相続税の一部を取得費に加えられる期限(相続開始からおよそ3年10か月)
  7. 取得を知った日から3年以内不動産の相続登記

亡くなった日を入れて期限を一覧にするには期限カレンダーを、月ごとの作業は申告までの10か月のスケジュールを使ってください。年金や健康保険など税金以外の手続は死亡後の手続一覧にまとめています。

例:2026年6月9日(火)に亡くなり、同じ日に死亡を知った場合

税金の主な期限を、それぞれの数え方に当てはめると次のとおりです。

主な税金の期限(2026年6月9日に死亡した場合)
手続数え方期限
準確定申告翌日(6月10日)から4か月を経過した日の前日2026年10月9日(金)
相続税の申告・納付翌日から10か月以内2027年4月9日(金)
取得費加算の対象となる売却相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで2030年(令和12年)4月9日(火)

相続税の期限は2027年4月9日です。1日後の2026年6月10日に亡くなった場合は、10か月後の2027年4月10日が土曜日に当たるため、期限は2027年4月12日(月)になります。

各段階で税金に効く判断

10か月の途中には、あとから変えにくい判断がいくつもあります。税額に大きく影響するものを、時期ごとに整理します。

時期ごとの判断と税金への影響
時期判断すること税金への影響
〜3か月相続放棄・限定承認をするか放棄した人も、基礎控除の「法定相続人の数」には数えます。ただし放棄した人が受け取った生命保険金には、非課税枠が使えません。限定承認をすると、土地や株式などは被相続人が時価で売ったものとみなされ、含み益に所得税がかかります。
〜4か月準確定申告の内容準確定申告で納める所得税は、相続税の計算で債務として差し引けます。還付される所得税は相続財産に含めます。
遺産分割まで自宅や事業用の土地を誰が取得するか小規模宅地等の特例は、取得する人によって要件が違います。同居していた親族は申告期限まで住み続けて持ち続けること、事業用の土地は申告期限まで事業を引き継いで持ち続けることが要件です(配偶者が自宅を取得する場合は不要)。
遺産分割まで配偶者がどれだけ取得するか配偶者は、1億6,000万円と法定相続分相当額のどちらか多い額までなら税額が0円です。ただし配偶者が多く取得すると、配偶者の相続(二次相続)の税額が増えることがあります。
申告期限まで相続した土地などを売るか申告期限まで持ち続けないと、小規模宅地等の特例が使えなくなる場合があります。売却で納税資金を作るなら、取得費加算の期限内で時期を選べます。配偶者の税額軽減で相続税が0円の人は、取得費加算を使えません。
申告期限まで納税資金をどう用意するか金銭での一括納付が原則です。延納・物納は申告期限までの申請が必要で、小規模宅地等の特例を受けた土地を物納すると、減額後の価額で収納されます。

申告期限までに遺産分割がまとまらないとき

分割協議がまとまらなくても、申告と納付の期限は延びません。未分割の財産は、各相続人が民法の相続分(法定相続分など)で取得したものとして計算し、期限内に申告・納付します。

未分割のままでは、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は使えません。そこで、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきます。

  1. 期限内に申告・納付法定相続分などで計算し、分割見込書を添付します。この時点では、特例を使わない税額を納めます。
  2. 3年以内に分割申告期限から3年以内に分割がまとまれば、特例を適用できます。訴訟などやむを得ない事情があるときは、3年を経過する日の翌日から2か月以内に、税務署長の承認を申請します。
  3. 分割後に更正の請求・修正申告分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をして、納め過ぎた税金の還付を受けます。分割の結果、税額が増える人は修正申告をします。

たとえば課税価格の合計額1億円を配偶者と子2人が相続する場合、相続税の総額は630万円です(計算は相続税の仕組み)。未分割で申告すると、配偶者も法定相続分に応じた315万円(630万円×2分の1)を納めます。その後に配偶者が法定相続分を取得する分割がまとまれば、更正の請求で315万円が戻ります。手続の詳細は遺産が未分割のときの申告で説明します。

申告書の提出と納付のポイント

  • 提出先は、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地の税務署ではありません。
  • 提出は、e-Tax、郵便・信書便、税務署の時間外収受箱でできます。国税庁の案内では、相続税の申告の約7割がe-Taxで提出されています。
  • 財産を取得した人が共同で1つの申告書を出すことも、連絡が取れないなどの理由で別々に出すこともできます。
  • 納期限は申告期限と同じ日です。申告書を出しても納付書は送られてこないので、ダイレクト納付、インターネットバンキング、金融機関の窓口などで期限までに納めます。
  • 納付が遅れると延滞税がかかります。2026年中の割合は、納期限の翌日から2か月以内が年2.8%、それ以後が年9.1%です(加算税・延滞税)。

よくある誤り

  • 申告期限は「死亡日から10か月」ではなく、「相続の開始を知った日の翌日から10か月以内」です。相続放棄の3か月も「知った時から」で、死亡日からではありません。
  • 「遺産分割がまとまってから申告すればよい」は誤りです。未分割でも期限内の申告・納付が必要で、遺産分割がまとまらないことは、無申告加算税がかからない理由になりません。
  • 「特例で税額が0円なら申告は不要」も誤りです。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って0円になる場合も、申告しなければ特例を受けられません(基礎控除と申告が必要な人)。

実務のコツ:葬儀費用や納税資金の手当て

遺産分割の前でも、各相続人は1つの金融機関につき150万円を上限に、預貯金の払戻しを単独で受けられます。上限の計算式は「相続開始時の預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分」です。払い戻した分は、遺産の一部を分割で取得したものとみなされます(遺産分割と相続預金の払戻し)。

他の税金との関係

  • 相続税額がある人が、相続した土地や株式を相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ると、相続税の一部を取得費に加算できます(相続税の取得費加算の特例)。
  • 亡くなった人が一人で住んでいた一定の家とその敷地を売る場合は、空き家の3,000万円控除も候補です。2027年12月31日までの譲渡が対象で期限あり、延長が要望されています(2026年10月時点で未確定)要望段階。同じ財産で取得費加算とは併用できません(空き家の3,000万円控除)。
  • 限定承認をすると、被相続人に譲渡所得の課税(みなし譲渡)が生じ、準確定申告で申告します(みなし譲渡)。
  • 配偶者の取得割合は、二次相続の税額まで合わせて決めます(二次相続まで考えた遺産分割)。
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 申告期限:相続税法27条1項。納期限:同法33条。期限が休日等に当たる場合:国税通則法10条2項。「知った日」の具体例:相基通27-4。
  • 熟慮期間:民法915条1項(家庭裁判所による伸長は同項ただし書)。期間内に限定承認・放棄をしないと単純承認とみなす:民法921条2号。
  • 準確定申告:所得税法125条1項(相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日まで)。
  • 未分割財産の課税価格:相続税法55条。分割要件:相続税法19条の2(配偶者の税額軽減)、租税特別措置法69条の4(小規模宅地等)。分割後の更正の請求:相続税法32条1項。
  • 取得費加算:租税特別措置法39条。相続登記の申請義務:不動産登記法76条の2。預貯金の払戻し:民法909条の2、平成30年法務省令第29号。

実務論点

  • 申告期限前1か月以内に認知などの事由が生じた場合、他の相続人等は申請により、事由を知った日から2か月の範囲で期限を延長できます(相基通27-5)。期限までに胎児が生まれていなければ、胎児がいないものとして申告します(相基通27-6)。
  • 相続人が申告前に死亡した場合は、その相続人の相続人が、その相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告します(相続税法27条2項)。取得費加算の譲渡期限も、承継後の申告期限の翌日以後3年で判定します(措通39-11)。
  • 配偶者の税額軽減を分割後に受けるための更正の請求の期限は、「分割の日の翌日から4か月」と「申告期限から5年」のいずれか遅い日です(相基通32-2)。この取扱いは配偶者の税額軽減に限られ、小規模宅地等の特例の更正の請求は分割の日の翌日から4か月以内です(期限を過ぎた更正の請求を不適法とした令和3年6月22日裁決があります)。
  • 期限内の申告義務がなかった人が、未分割財産の分割などで新たに納付税額が生じた場合は、期限後申告ができます(相続税法30条、相基通30-1)。
  • 取得費加算の「相続税額」には配偶者の税額軽減を足し戻さないため、軽減で納付税額が0円の配偶者は適用できません。暦年課税分の贈与税額控除・相次相続控除・相続時精算課税分の贈与税額控除で控除された額は足し戻します(措令25条の16、措通39-4)。
  • 延滞税の割合は年ごとに変わります。2027年の割合は2026年11月30日までに告示される平均貸付割合で決まり、基準日時点では未告示です。
第11章

相続税の負担の目安:早見表

遺産の額と家族の構成から、相続税がおよそいくらになるかを早見表で示します。一定の前提で計算した目安なので、前提と読み方を確認してから使ってください。

この章の結論

  • 早見表の「遺産額」は、基礎控除を引く前の正味の遺産額(課税価格の合計)です。土地は相続税の評価額(小規模宅地等の特例を使うなら減額後)、生命保険金・死亡退職金は非課税枠を引いた後の額で計算します。そこから債務と葬式費用を差し引いた額で見ます。
  • 配偶者がいる表は、配偶者が法定相続分を取得して配偶者の税額軽減を使った場合の、家族全員の納税額の合計です。配偶者の税額は0円になり、合計は相続税の総額の半分です。
  • 一次相続の税額だけで分け方を決めると、配偶者の相続(二次相続)で負担が増えることがあります。配偶者が多く取得するほど有利とは限りません。

早見表の前提

早見表は、次の前提で計算した目安です。実際の税額は、財産の分け方や使える控除によって変わります。

早見表の計算の前提
項目前提
遺産額課税価格の合計(基礎控除を引く前の正味の遺産額)
相続人配偶者と子1〜4人、または子1〜4人だけ
分け方法定相続分どおり(配偶者がいれば配偶者が2分の1を取得し、残りを子が均等に取得)
税額控除配偶者がいる表は配偶者の税額軽減だけを適用。2割加算、未成年者控除・障害者控除、相次相続控除、贈与税額控除などは考慮しない
表の金額相続人全員の納付税額の合計

基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。遺産額が基礎控除以下なら、相続税はかかりません(基礎控除と申告が必要な人)。

相続税の計算には似た言葉が出てくるので、早見表を見る前に違いを押さえておきます。

課税価格の合計
財産を取得した人ごとの課税価格(取得した財産から非課税財産や債務・葬式費用を引き、生前贈与の加算などをした額)を、全員分合計したものです。早見表の「遺産額」はこの額です。
課税遺産総額
課税価格の合計から基礎控除を引いた額です。この額を法定相続分で分けて、速算表を当てはめます。
相続税の総額
法定相続分で分けた額ごとの税額を合計したものです。実際の分け方に関係なく決まり、これを各人の取得割合で分けて各人の税額を出します。

早見表:配偶者がいる場合

相続税の早見表(配偶者あり:配偶者が法定相続分を取得し、配偶者の税額軽減を適用した場合の納付税額の合計)
課税価格(基礎控除前)子1人子2人子3人子4人
5,000万円40万円10万円0円0円
6,000万円90万円60万円30万円0円
7,000万円160万円112万5,000円79万9,800円50万円
8,000万円235万円175万円137万4,600円100万円
9,000万円310万円240万円199万9,800円162万4,800円
1億円385万円315万円262万4,700円225万円
1億5,000万円920万円747万5,000円664万9,800円587万4,800円
2億円1,670万円1,350万円1,217万4,600円1,125万円
2億5,000万円2,460万円1,985万円1,799万9,400円1,687万4,800円
3億円3,460万円2,860万円2,539万9,800円2,350万円
4億円5,460万円4,610万円4,154万9,300円3,850万円
5億円7,605万円6,555万円5,962万4,500円5,500万円
7億円1億2,250万円1億870万円9,884万9,000円9,300万円
10億円1億9,750万円1億7,810万円1億6,634万9,100円1億5,650万円

このガイドの計算エンジンで算出(2026年10月時点の速算表・基礎控除。法定相続分どおりに取得、2割加算・他の税額控除なし、各人の納付税額は百円未満切捨て)。各人ごとに百円未満を切り捨てた合計のため、総額を按分して丸めた早見表とは数百円ずれることがあります。

表の金額は、子が納める税額の合計です。配偶者は法定相続分(2分の1)を取得し、配偶者の税額軽減で税額が0円になるため、合計は相続税の総額の半分になります。子1人あたりの目安は、合計を子の人数で割った額です。

配偶者の税額が0円になるのは、配偶者の取得額が「1億6,000万円」と「法定相続分相当額」のどちらか多い額までの場合です。遺産額が3億2,000万円を超えると法定相続分相当額のほうが大きくなりますが、法定相続分どおりに分ける限り、配偶者の税額は0円のままです。

表にない遺産額は、前後の2つの金額の間で見当をつけます。税率は段階的に上がるので、基礎控除を超えている場合、遺産額が2倍になると税額は2倍を超えて増えます。たとえば配偶者と子2人の場合、遺産1億円なら合計315万円(相続税の総額630万円の半分。計算は相続税の仕組み)ですが、2億円なら1,350万円と4倍を超えます。

早見表:配偶者がいない場合

相続税の早見表(配偶者なし:子が均等に取得した場合の納付税額の合計)
課税価格(基礎控除前)子1人子2人子3人子4人
5,000万円160万円80万円19万9,800円0円
6,000万円310万円180万円120万円60万円
7,000万円480万円320万円219万9,900円160万円
8,000万円680万円470万円329万9,700円260万円
9,000万円920万円620万円480万円360万円
1億円1,220万円770万円629万9,700円490万円
1億5,000万円2,860万円1,840万円1,440万円1,240万円
2億円4,860万円3,340万円2,459万9,400円2,120万円
2億5,000万円6,930万円4,920万円3,959万9,700円3,120万円
3億円9,180万円6,920万円5,460万円4,580万円
4億円1億4,000万円1億920万円8,979万9,600円7,580万円
5億円1億9,000万円1億5,210万円1億2,979万9,200円1億1,040万円
7億円2億9,320万円2億4,500万円2億1,239万9,400円1億9,040万円
10億円4億5,820万円3億9,500万円3億4,999万9,500円3億1,770万円

同上。子だけが相続人で、均等に取得した場合。

配偶者がいない場合は配偶者の税額軽減がなく、基礎控除も配偶者の分の600万円だけ小さくなります。そのため同じ遺産額・同じ子の人数で比べると、配偶者がいる表より税額が大きくなります(どちらも0円の場合を除く)。

この表は、配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)の目安にも使えます。その場合は、配偶者がもともと持っていた財産と、一次相続で取得して残っている財産の合計額で見ます。

計算例:遺産2億円・配偶者と子2人

早見表の金額がどう計算されているかを、1つの例で確認します(速算表は相続税の総額で説明します)。

例:課税価格の合計2億円、相続人は配偶者と子2人、法定相続分どおりに取得

まず基礎控除を引き、課税遺産総額を出します。

基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:2億円−4,800万円=1億5,200万円

課税遺産総額を法定相続分で分けて速算表を当てはめ、合計して相続税の総額を出します。

配偶者(2分の1):7,600万円×30%−700万円=1,580万円
子(各4分の1):3,800万円×20%−200万円=560万円(2人で1,120万円)
相続税の総額:1,580万円+1,120万円=2,700万円

次に、総額を実際の取得割合で分け、配偶者の税額軽減を差し引きます。

配偶者の算出税額:2,700万円×1億円÷2億円=1,350万円
子の算出税額:2,700万円×5,000万円÷2億円=675万円(1人あたり)
配偶者の税額軽減:2,700万円×1億円÷2億円=1,350万円

軽減額の計算で使う1億円は、「1億6,000万円と法定相続分相当額(2億円×2分の1=1億円)の多い方=1億6,000万円」と「配偶者の取得額1億円」のうち少ない方です。

各人の税額(単位:万円)
相続人取得額算出税額配偶者の税額軽減納付税額
配偶者10,0001,3501,3500
子A5,000675―675
子B5,000675―675
合計20,0002,7001,3501,350

納付税額の合計は1,350万円(675万円×2人)で、相続税の総額2,700万円の半分です。遺産額に対する負担の割合は、1,350万円÷2億円=6.75%です。

早見表を使う前に遺産額を整える

早見表に当てはめる遺産額は、財産の時価の合計ではありません。次の点を確認してから表を見てください。

遺産額の確認リスト

  • 土地・家屋は時価ではなく相続税の評価額で計算(土地は路線価など、家屋は固定資産税評価額など。財産評価の基本)
  • 小規模宅地等の特例を使う自宅などの土地は、減額した後の金額で計算(小規模宅地等の特例)
  • 生命保険金と死亡退職金から、それぞれ500万円×法定相続人の数を差し引き(非課税枠は相続人が受け取った分だけ。みなし相続財産)
  • 加算対象の生前贈与を加算(2026年(令和8年)中の相続は、亡くなる前3年以内の贈与が対象施行中。生前贈与加算)
  • 相続時精算課税で受けた贈与を加算(2024年(令和6年)以後の贈与は、年110万円の基礎控除を引いた残りの額)
  • 借入金などの債務と葬式費用を差し引き(債務控除と葬式費用)

また、次のような場合は、早見表より税額が増えたり減ったりします。

  • 兄弟姉妹や甥・姪、孫養子(代襲相続人の場合を除く)などが財産を取得すると、その人の税額が2割増えます(各人の税額と2割加算)。
  • 18歳未満の相続人や障害のある相続人がいると、未成年者控除・障害者控除で税額が減ります(未成年者控除・障害者控除)。
  • 配偶者の取得割合が法定相続分と違うと、相続税の総額は同じでも、家族全員の納税額の合計は変わります。

家族ごとの条件を入れて計算するときは、相続税シミュレーターを使ってください。

よくある誤り:配偶者に全部相続させるのが一番得

配偶者の税額軽減を使えば、一次相続の税額は小さくなります。しかし配偶者が取得した財産は、配偶者が亡くなったときの二次相続で子に課税されます。二次相続では配偶者の税額軽減がなく、基礎控除も小さくなります。

たとえば夫の遺産2億円・妻の固有財産1,000万円・子2人で、二次相続が10年より後に起き、それまで財産が増減しないとします。一次と二次の合計税額は、妻が法定相続分(2分の1)を取得すると2,310万円、全部を取得すると4,018万円です(一次で妻が納めた税は妻の遺産から差し引いて計算)。結論は、配偶者の固有財産や二次相続までの年数で変わります(二次相続まで考えた遺産分割)。

早見表の金額は、子1人あたりの税額ですか。

いいえ、相続人全員の納付税額の合計です。配偶者がいる表では配偶者の税額が0円なので、合計を子の人数で割った額が、子1人あたりの目安になります。

子の1人が相続放棄をしても、早見表を使えますか。

使えます。相続税の総額は、放棄がなかったものとして法定相続人の数と法定相続分を数えて計算するため、放棄があっても変わりません。配偶者が2分の1を取得し、残りを放棄していない子が取得するなら、合計の納税額も表と同じです。

亡くなった子の代わりに、孫が相続人になる場合はどうなりますか。

亡くなった子に代わって孫1人が相続人(代襲相続人)になる場合は、子1人と同じように表を見られます。代襲相続人の孫には2割加算もありません。孫が2人以上で亡くなった子の相続分を分ける場合は、法定相続人の数と相続分が変わるため、表の金額とは一致しません。

早見表で0円でも申告が必要な場合

小規模宅地等の特例を使った後の遺産額が基礎控除以下になり、早見表で0円になる場合も、特例を受けるには申告が必要です。申告が必要かどうかは、特例を使う前の金額で判定します。配偶者の税額軽減で税額が0円になる場合も、同じく申告が必要です(基礎控除と申告が必要な人)。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 基礎控除:相続税法15条。相続税の総額:同法16条(法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して計算する=相基通16-1)。各人の算出税額:同法17条。配偶者の税額軽減:同法19条の2。
  • 端数処理:各人の課税価格は1,000円未満を切り捨てます(相基通16-2)。法定相続分に応ずる取得金額の1,000円未満と、相続税の総額の100円未満は、切り捨てて差し支えありません(相基通16-3)。按分割合は、財産取得者全員が選んだ方法で、合計が1になるよう調整できます(相基通17-1)。

実務論点

  • 配偶者の税額軽減額=相続税の総額×(①と②の少ない方)÷課税価格の合計額。①は課税価格の合計額×配偶者の法定相続分と1億6,000万円の多い方、②は配偶者の課税価格(申告期限までに分割されていない財産を除く)。
  • 法定相続分どおりの取得では、配偶者の課税価格が常に①以下になるため、配偶者ありの表の合計は相続税の総額の2分の1と一致します(端数処理による差を除く)。
  • 配偶者の取得額が①以下の範囲では、配偶者の取得を1円増やすと、一次では「一次の実効税率(総額÷課税価格の合計額)」だけ子の税が減り、二次では「二次の限界税率」だけ税が増えます。計算例の一次の実効税率は2,700万円÷2億円=13.5%で、実際の納付税額の負担割合6.75%とは別の指標です。
  • 生前贈与加算の対象期間は相続開始日で決まり、2027年(令和9年)1月1日以後の相続から段階的に延びます。早見表に当てはめる遺産額の算定時に、相続開始日に応じた加算額を織り込みます。
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このページの出典・参考資料(79件)

このページは、2026年10月17日時点で確認できた法令・通達・国税庁などの公表資料にもとづく一般的な解説です。税制や運用は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。実際の申告・手続の際は、最新の公表資料を確認するか、税理士などの専門家にご相談ください。

計算例・設例の数値は説明のための仮定です。計算ツールの結果は概算で、正確性や個別の結果を保証するものではありません。確定度ラベル(施行中・成立・施行待ち・通達案・検討中・要望段階など)は2026年10月17日時点の状態を示します。

最終確認日:2026年10月17日 作成:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)

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