相続税の計算と税額控除|4ステップ・配偶者の税額軽減・2割加算

相続税は、法定相続分で分けたと仮定して総額を出し、実際の取得割合で按分する独特の計算をします。課税価格から納付税額までの4ステップ、端数処理、配偶者の税額軽減などの税額控除を、計算例とシミュレーターで確認できます。

相続税・贈与税 総合ガイド|相続税の計算

相続税の計算と税額控除課税価格から納付税額まで、端数処理と計算例つきで

相続税の計算は、分け方に関係なく相続税の総額が決まり、各人の負担は取得割合と税額控除で決まる、という仕組みを押さえると理解しやすくなります。端数処理まで国税庁の手順どおりに解説します。

端数処理まで国税庁の手順どおり各人の税額まで出るシミュレーター2026年10月17日時点
8段階相続税の速算表(10%〜55%)出典:国税庁 No.4155
1億6,000万円配偶者の税額軽減(法定相続分まで)出典:国税庁 No.4158
20%2割加算(兄弟姉妹・孫養子など)出典:国税庁 No.4157
5家族計算例で確認出典:本ガイド
第1章

相続税の計算の4ステップ

相続税は「各人の課税価格」「課税遺産総額」「相続税の総額」「各人の納付税額」の4ステップで計算します。この章では全体の流れと、端数処理・税額控除の順序をまとめて確認します。

この章の結論

  • 相続税は、①財産を取得した人ごとの課税価格、②課税価格の合計から基礎控除を引いた課税遺産総額、③相続税の総額、④各人の納付税額、の順に計算します。
  • 相続税の総額は、実際の分け方に関係なく「法定相続人が法定相続分どおりに取得した」と仮定して計算します。分け方で変わるのは、誰がいくら負担するかです。
  • 端数は、課税価格と法定相続分に応ずる取得金額で1,000円未満、相続税の総額と納付税額で100円未満を切り捨てます。税額控除は決まった順序で差し引き、途中で0円になればそれ以上は引きません。例外は相続時精算課税分の贈与税額で、引ききれない額は還付されます。
STEP1各人の課税価格取得財産+みなし財産−非課税−債務・葬式費用+生前贈与加算千円未満切捨てSTEP2課税遺産総額課税価格の合計−基礎控除3,000万円+600万円×人数STEP3相続税の総額法定相続分で分けたと仮定速算表で税額を出し全員分を合計総額は百円未満切捨てSTEP4各人の納付税額総額を取得割合で按分2割加算・税額控除(配偶者の軽減など)百円未満切捨て分け方に関係なく相続税の総額が決まり、各人の負担は取得割合と税額控除で決まります
図:相続税の計算の4ステップと端数処理

計算は4つのステップで進みます

相続税は、亡くなった人(被相続人)から財産を取得した人ごとにかかる税金です。一方で、税率の高さは遺産全体の大きさと法定相続人の構成で決まります。このため計算は「全体で税額の総額を出し、それを各人に配る」という2段構えになっています。

  1. ステップ1:各人の課税価格財産を取得した人ごとに、取得した財産とみなし相続財産から非課税財産と債務・葬式費用を引き、加算する生前贈与などを足します。1,000円未満は切り捨てます。
  2. ステップ2:課税遺産総額全員の課税価格を合計し、遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引きます。0円以下なら相続税はかかりません。
  3. ステップ3:相続税の総額課税遺産総額を法定相続分で分けたと仮定し、1人ずつ速算表で税額を出して合計します。分けた金額は1,000円未満、総額は100円未満を切り捨てます。
  4. ステップ4:各人の納付税額総額を各人の課税価格の割合で分けて算出税額を出し、2割加算と税額控除を行います。最後に100円未満を切り捨てます。

ステップ2で0円以下になっても、小規模宅地等の特例を使った結果であれば申告が必要です。申告が必要かどうかの判定は、基礎控除と申告が必要な人で説明しています。

ステップ1・2:各人の課税価格と課税遺産総額

課税価格とは、税金を計算するもとになる金額のことです。相続税では、財産を取得した人ごとに課税価格を出します。

各人の課税価格=取得した財産+みなし相続財産−非課税財産+相続時精算課税の贈与財産−債務・葬式費用(ここまでで赤字なら0円)+加算対象期間内の暦年課税の贈与財産

  • 小規模宅地等の特例を使う宅地は、減額した後の価額で入れます。
  • 相続時精算課税の贈与は、2024年(令和6年)1月1日以後の分は、年分ごとに110万円の基礎控除を引いた残りを入れます。施行中2023年(令和5年)12月31日以前の分は、贈与時の価額をそのまま入れます。
  • 暦年課税の贈与は、相続開始日が2026年(令和8年)12月31日以前なら、相続開始前3年以内の分を加えます。2027年(令和9年)1月1日以後の相続から加算期間が段階的に延び、2031年(令和13年)1月1日以後の相続で7年になります。施行中

ステップ2では、全員の課税価格を合計し、基礎控除額を引いて課税遺産総額を出します。法定相続人の数は、相続を放棄した人も含めて数えます。養子は、実子がいれば1人、実子がいなければ2人までです。

課税価格の合計が基礎控除額以下なら、申告も納税も不要です。ただし、この判定は小規模宅地等の特例を使う前の金額で行います。各項目の詳しい計算は課税価格の計算:各人ごとにで説明します。

ステップ3:相続税の総額は「法定相続分で分けた」と仮定します

相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して計算します。遺言や遺産分割で実際にどう分けたかは、この段階では関係ありません。

手順は3つです。まず、課税遺産総額に各人の法定相続分を掛けます(1,000円未満切捨て)。次に、その金額を速算表に当てはめて1人ずつ税額を出します。最後に全員分を合計し、100円未満を切り捨てます。

このため、遺産の額と法定相続人の構成が同じなら、分け方を変えても総額は変わりません。分け方で変わるのは、ステップ4で総額をどう配るかと、配偶者の税額軽減などの控除の効き方です。速算表と法定相続分の当てはめ方は相続税の総額:速算表と法定相続分で説明します。

ステップ4:算出税額・2割加算・税額控除

各人の算出税額は、相続税の総額にその人の按分割合を掛けて出します。按分割合は、その人の課税価格を課税価格の合計額で割った割合です。実際に多く取得した人ほど、多く負担する仕組みです。

次に、配偶者と一親等の血族(子・父母)以外の人は、算出税額に20%を加えます。これを2割加算といいます。代襲相続人(先に亡くなった子などに代わって相続人になった孫)は加算されませんが、孫養子は原則として加算されます(各人の税額と2割加算)。

最後に税額控除を差し引きます。差し引く順序は決まっており、下の表のとおりです。

税額控除を差し引く順序
順序税額控除概要詳しい章
1暦年課税分の贈与税額控除加算した生前贈与にかかった贈与税を控除贈与税額控除
2配偶者の税額軽減配偶者の取得額が1億6,000万円と法定相続分相当額の多い方までなら税額0円配偶者の税額軽減
3未成年者控除18歳未満の法定相続人が対象。18歳までの年数×10万円未成年者控除
4障害者控除障害者である法定相続人が対象。85歳までの年数×10万円(特別障害者は20万円)障害者控除
5相次相続控除亡くなった人が10年以内の相続で財産を取得し、相続税を課されていた場合相次相続控除
6外国税額控除国外の財産に、外国で相続税にあたる税が課された場合外国税額控除
7相続時精算課税分の贈与税額控除精算課税で納めた贈与税を控除し、控除しきれない額は還付精算課税の精算と還付

1〜6の途中で税額が0円になったら、残りの控除は使わずに0円とします。マイナスにはなりません。7の相続時精算課税分の贈与税額だけは、引ききれない額が還付されます。暦年課税分の贈与税額は、引ききれなくても還付されません。

税額控除を終えたら、各人の納付すべき税額の100円未満を切り捨てます。

端数処理の一覧

相続税の計算では、決まった段階で端数を切り捨てます。国税庁の通達には「切り捨てる」(必ず行う)と「切り捨てても差し支えない」(行ってよい)の2種類があり、下の表では前者を義務、後者を許容と表しています。

相続税の計算の端数処理
段階端数処理扱い
各人の課税価格1,000円未満を切捨て(全額が1,000円未満なら全額を切捨て)義務(相基通16-2)
課税価格の合計額切捨て後の各人の課税価格を合計国税庁の記載例による
法定相続分に応ずる取得金額1,000円未満を切捨て許容(相基通16-3)
相続税の総額100円未満を切捨て許容(相基通16-3)
按分割合小数点以下2位未満の端数を、合計が1になるよう調整可(申告書には小数点以下10位まで記入可)任意。財産を取得した全員の選択が前提(相基通17-1)
計算の途中で出る1円未満切捨て国税通則法基本通達
各人の納付すべき税額100円未満を切捨て(全額が100円未満なら0円)国税の確定金額の端数処理

課税価格の切捨ては、各人ごとに行ってから合計します。合計してから切り捨てると、1,000円単位で結果がずれることがあります。

計算例:4ステップを通しで計算する

計算例:配偶者・長男・長女が相続した場合

前提:2026年中に亡くなった人の相続です。相続人は配偶者・長男・長女(17歳2か月)の3人です。各人の課税価格(切捨て前)は配偶者52,905,480円、長男31,743,920円、長女21,162,350円とします。2割加算の対象者はなく、未成年者控除の要件は満たすものとします。

ステップ1・2:課税価格と課税遺産総額
項目配偶者長男長女
課税価格(切捨て前)52,905,480円31,743,920円21,162,350円
課税価格(1,000円未満切捨て)52,905,000円31,743,000円21,162,000円

課税価格の合計額:52,905,000円+31,743,000円+21,162,000円=105,810,000円
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:105,810,000円−48,000,000円=57,810,000円

ステップ3:相続税の総額
法定相続人法定相続分法定相続分に応ずる取得金額速算表による税額
配偶者2分の128,905,000円28,905,000円×15%−50万円=3,835,750円
長男4分の114,452,000円(14,452,500円の1,000円未満切捨て)14,452,000円×15%−50万円=1,667,800円
長女4分の114,452,000円1,667,800円
合計1―7,171,350円(100円未満切捨てで7,171,300円)
ステップ4:各人の納付税額
項目配偶者長男長女
按分割合0.500.300.20
算出税額(7,171,300円×按分割合)3,585,650円2,151,390円1,434,260円
2割加算0円0円0円
税額控除−3,585,650円(配偶者の税額軽減)0円−100,000円(未成年者控除)
差引税額0円2,151,390円1,334,260円
納付税額(100円未満切捨て)0円2,151,300円1,334,200円

按分割合は、52,905,000円÷105,810,000円=0.5のように、各人の課税価格を合計額で割って出します。この例は割り切れますが、割り切れない場合の扱いは各人の税額と2割加算で説明します。

配偶者の税額軽減額は、7,171,300円×52,905,000円÷105,810,000円=3,585,650円です。配偶者の課税価格が1億6,000万円以下なので、算出税額の全額が差し引かれます。長女は18歳まで10か月で、1年未満は1年に切り上げるため、未成年者控除は1年×10万円=10万円です。

答え:相続税の総額は7,171,300円です。納付税額は配偶者0円、長男2,151,300円、長女1,334,200円で、合計3,485,500円です。

この例の配偶者は納付税額が0円ですが、配偶者の税額軽減を受けるには申告書の提出が必要です。軽減の要件は配偶者の税額軽減で確認してください。

よくある誤り

  • 速算表を、各人が実際に取得した額や課税遺産総額の全体に当てはめるのは誤りです。速算表は「法定相続分に応ずる取得金額」に当てはめます。
  • 課税価格を合計してから1,000円未満を切り捨てるのは誤りです。切捨ては各人の課税価格ごとに行い、切り捨てた後の金額を合計します。
  • 税額控除で引ききれない分も還付されると考えるのは誤りです。還付があるのは相続時精算課税分の贈与税額だけです。暦年課税分の贈与税額や配偶者の税額軽減などは、0円で止まります。
  • 納付税額が0円なら申告しなくてよいと考えるのは誤りです。配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、申告書を出さないと使えません。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 計算の構造:相続税法11条〜20条の2(課税価格・基礎控除・税率・相続税の総額・各人の税額・2割加算・税額控除)、21条の9〜21条の16(相続時精算課税)、33条の2、令和5年改正法附則19条(暦年課税の加算対象期間の経過措置)。
  • 相続税の総額は、分割の有無や取得者に関係なく、法定相続人が法定相続分に応じて取得したものとして計算します(相基通16-1)。
  • 端数処理:各人の課税価格の1,000円未満切捨て(相基通16-2)、法定相続分に応ずる取得金額の1,000円未満と相続税の総額の100円未満の切捨て(相基通16-3)、按分割合の小数点以下2位未満の調整(相基通17-1)。計算途中の1円未満の切捨ては国税通則法基本通達(第119条関係)によります。課税価格の1,000円未満切捨ては国税通則法118条1項、納付税額の100円未満切捨ては同法119条1項によるものとされています。
  • 税額控除の順序:相基通20の2-4。医療法人持分税額控除(措法70条の7の13)は、相続時精算課税分の贈与税額控除の後に税額が残る場合に限り適用します。

実務論点

  • 申告書との対応:各人の課税価格から納付税額までは第1表、相続税の総額は第2表、2割加算は第4表で計算します。税額控除は、暦年課税分の贈与税額控除が第4表の2、配偶者の税額軽減が第5表、未成年者控除・障害者控除が第6表、相次相続控除が第7表、外国税額控除が第8表、相続時精算課税分の贈与税額控除が第11の2表で、内訳は第8の8表に集計します。
  • 作成順序(国税庁の記載例):評価明細書→第9表→第10表→第11・11の2表の付表1〜4→第11表の付表1〜4→第13表→第14表→第15表→第11表→第1表→第2表→第4表→第4表の2→第5表→第6表→第7表→第8表→第8の8表。
  • 申告義務者は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用しないものとして計算したときに納付税額が算出される人です(相基通27-1)。
  • 令和8年分の申告書は様式が変わり、控用の様式は廃止されています。旧様式を使わないよう注意が必要です。
  • 基準日(2026年10月17日)時点の相続は暦年課税の3年以内加算の期間中です。2024年1月1日以後の贈与は、2027年以後に開始する相続で加算対象期間の延長の影響を受けます。
第2章

課税価格の計算:各人ごとに

相続税は財産を取得した人ごとにかかるため、最初に「各人の課税価格」を出します。何を足し、何を引き、どの順で計算するかで、各人の税額が変わります。

この章の結論

  • 各人の課税価格=取得した財産+みなし相続財産−非課税財産+相続時精算課税の贈与財産−債務・葬式費用(ここまでで赤字なら0円)+加算対象の暦年課税の贈与財産です。1,000円未満は切り捨てます。
  • 小規模宅地等の特例を使う宅地は減額後の価額で入れます。精算課税の贈与は2024年(令和6年)以後の分は年110万円を引いた残りを、暦年課税の贈与は2026年(令和8年)中の相続なら3年以内の分を110万円以下でも加えます。
  • 債務が多くて赤字になる人の課税価格は0円で、その赤字をほかの人の課税価格から引くことはできません。暦年課税の贈与は赤字と相殺せず、0円の上に加えます。

課税価格の算式と6つの要素

課税価格とは、税金を計算するもとになる金額のことです。相続税では、相続や遺贈(遺言による贈与)で財産を取得した人ごとに課税価格を出し、その合計から相続税の総額を計算します。

純資産価額=取得した財産+みなし相続財産−非課税財産+相続時精算課税の贈与財産−債務・葬式費用(赤字なら0円)
各人の課税価格=純資産価額+加算対象期間内の暦年課税の贈与財産(1,000円未満切捨て)

課税価格を構成する6つの要素
要素足す・引く主な内容詳しい章
取得した財産足す土地・建物・預貯金・株式など(小規模宅地等の特例は減額後)財産評価の基本
みなし相続財産足す生命保険金・死亡退職金などみなし相続財産
非課税財産引く保険金・退職金の非課税部分、墓地・仏壇など相続税がかからない財産
相続時精算課税の贈与財産足す選択後の贈与のすべて(贈与時の価額。2024年以後の分は年110万円の基礎控除後)生前贈与加算と精算課税の加算
債務・葬式費用引く亡くなった時点の確実な債務と葬式費用債務控除と葬式費用
暦年課税の贈与財産足す加算対象期間内の贈与(2026年中の相続は3年以内)生前贈与加算

計算の順序に注意が必要です。相続時精算課税の贈与財産は、債務を引く前の段階で足します。暦年課税の贈与財産は、赤字を0円にした後に足します。

足すもの:みなし相続財産と生前の贈与

みなし相続財産とは、民法上の遺産ではないものの、相続税では相続や遺贈で取得したものとみなされる財産です。代表は、被相続人が保険料を負担していた生命保険金と、死亡後3年以内に支給額が確定した死亡退職金です。

生命保険金と死亡退職金には、それぞれ別枠で「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります。使えるのは相続人が受け取った分だけで、相続を放棄した人や相続人でない人の分には使えません。複数の相続人が受け取った場合は、次の算式で按分します。

各人の非課税金額=非課税限度額×その人の受取額÷相続人全員の受取額の合計

なお、生命保険金の非課税限度額の引上げが令和9年度税制改正で要望されていますが、2026年(令和8年)10月時点では決まっていません。要望段階

相続時精算課税(贈与のときに贈与税を納め、相続のときに相続税で精算する制度)を選んだ贈与は、期間の制限なく課税価格に足します。足す金額は相続時の時価ではなく贈与時の価額です。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与は、年分ごとに110万円の基礎控除を引いた残りだけを足します。施行中

2023年(令和5年)12月31日以前の精算課税の贈与は、贈与時の価額をそのまま足します。精算課税で贈与を受けた人は、相続や遺贈で何も取得しなくても相続税の納税義務者になります。

暦年課税の贈与は、相続や遺贈で財産を取得した人(相続時精算課税で贈与を受けた人を含みます)が、加算対象期間内に被相続人から受けた分を足します。相続開始日が2026年12月31日以前なら、相続開始前3年以内の贈与が対象です。2027年(令和9年)1月1日以後の相続から、加算期間が段階的に延びます。施行中

  • 110万円以下で贈与税がかからなかった贈与や、亡くなった年の贈与も足します。
  • 相続や遺贈でも精算課税でも財産を取得していない人(財産を受け取らない孫など)への贈与は足しません。ただし、死亡保険金の受取人になった孫は遺贈で取得した人にあたるため、足す対象になります。
  • 贈与税の配偶者控除を受けた部分や、住宅取得等資金の非課税の適用を受けた部分は足しません。

引くもの:非課税財産と債務・葬式費用

非課税財産の代表は、墓地・墓石・仏壇・仏具など日常の礼拝に使うもの、生命保険金・死亡退職金の非課税部分、申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人などに寄附した財産です。

債務は、亡くなった時点で確実にあった借入金や未払金です。亡くなった人の所得税(準確定申告分)や、未納の固定資産税・住民税も含まれます。生前に買った墓地の未払代金や、団体信用生命保険で返済が免除される住宅ローンは差し引けません。

葬式費用は、葬式・火葬・納骨の費用やお寺へのお礼などが対象です。香典返し、墓地・墓石の購入費用、初七日などの法事の費用は差し引けません。

債務と葬式費用を差し引けるのは、相続人と包括受遺者(遺産の全部または一定の割合を遺贈された人)で、相続時精算課税の適用者も含みます。特定の財産だけを遺贈された相続人でない人は差し引けません。ただし、相続を放棄した人が実際に負担した葬式費用は、遺贈で取得した財産から差し引いてかまいません。国内の財産だけに課税される人(制限納税義務者など)は、差し引ける債務の範囲が限られ、葬式費用は差し引けません。

小規模宅地等の特例は「減額後の価額」で入れます

小規模宅地等の特例は、亡くなった人の自宅や事業に使っていた土地などについて、一定の面積まで評価額を80%または50%減らす制度です。課税価格には、減額した後の金額を入れます。たとえば評価額4,000万円の自宅の土地に80%の減額を適用すると、課税価格に入る金額は4,000万円×(1−80%)=800万円です。

減額の効果は、その土地を取得した人の課税価格に表れます。課税価格の合計が下がるので相続税の総額が減り、その人の按分割合も下がります。

特例を受けるには、申告書の提出と、申告期限までの遺産分割が必要です(間に合わないときは分割見込書を添付し、申告期限から3年以内に分割すれば受けられます)。特例の対象になりうる宅地を取得した人が2人以上いる場合は、どの宅地に特例を使うかについて全員の同意も要ります。贈与で取得した宅地(相続時精算課税や暦年課税の加算の対象になるもの)には、特例を使えません。制度の全体像は小規模宅地等の特例の全体像をご覧ください。

計算例:配偶者・長男・長女の課税価格

計算例:3人の相続人の課税価格を出す

前提:2026年中に父が亡くなりました。相続人は配偶者・長男・長女の3人(法定相続人の数3人)です。特例などの要件は満たすものとします。

  • 配偶者:自宅の土地(評価額4,000万円に小規模宅地等の特例の80%減額を適用した後の800万円)、自宅の建物200万円、預貯金23,456,789円を取得しました。生命保険金2,000万円を受け取り、葬式費用180万円と未払の医療費30万円を負担しました。2025年(令和7年)に暦年課税で100万円の贈与を受けています。
  • 長男:賃貸アパートの土地・建物3,500万円と預貯金5,234,567円を取得し、アパートの借入金2,000万円を引き継ぎました。生命保険金1,000万円を受け取り、2024年に暦年課税で300万円の贈与を受けています。
  • 長女:上場株式12,345,678円と預貯金800万円を取得しました。2025年に相続時精算課税を選び、1,110万円の贈与を受けています(贈与税は特別控除の範囲内で0円)。
各人の課税価格の計算(単位:円)
項目配偶者長男長女
①相続・遺贈で取得した財産33,456,78940,234,56720,345,678
②生命保険金(みなし相続財産)20,000,00010,000,0000
③生命保険金の非課税金額−10,000,000−5,000,0000
④相続時精算課税の贈与財産0010,000,000
⑤債務・葬式費用−2,100,000−20,000,0000
⑥純資産価額(①〜⑤の合計、赤字なら0)41,356,78925,234,56730,345,678
⑦暦年課税の贈与財産(3年以内)1,000,0003,000,0000
⑧課税価格(⑥+⑦、1,000円未満切捨て)42,356,00028,234,00030,345,000

非課税限度額:500万円×3人=1,500万円
配偶者の非課税金額:1,500万円×2,000万円÷3,000万円=1,000万円
長男の非課税金額:1,500万円×1,000万円÷3,000万円=500万円
長女の精算課税の加算額:1,110万円−110万円(基礎控除)=1,000万円

配偶者の100万円の贈与は贈与税がかかっていませんが、3年以内の贈与なので足します。長男が300万円の贈与で納めた贈与税は、後で算出税額から差し引きます(暦年課税分の贈与税額控除)。

答え:課税価格は配偶者42,356,000円、長男28,234,000円、長女30,345,000円です。合計は100,935,000円で、基礎控除額4,800万円を引いた課税遺産総額は52,935,000円になります。

この続きは相続税の総額の方法で計算します。

債務が多くて赤字になる人がいる場合

債務や葬式費用が取得した財産より多いと、純資産価額が赤字になります。この場合、その人の純資産価額は0円とし、そこに暦年課税の贈与財産を足して課税価格を出します。

計算例:借入金が取得財産より多い人

相続人のAさんは、事業用の財産3,000万円を取得し、事業の借入金3,800万円を引き継ぎました。Aさんは相続開始前3年以内に、暦年課税で500万円の贈与も受けています。

純資産価額:3,000万円−3,800万円=−800万円 → 赤字なので0円
課税価格:0円+500万円=500万円

贈与財産を先に足して「3,000万円+500万円−3,800万円=−300万円 → 0円」とするのは誤りです。引ききれない800万円を、ほかの相続人の課税価格から差し引くこともできません。

答え:Aさんの課税価格は500万円です。

実務のコツ

債務や葬式費用を、取得する財産より多く負担する人がいると、引ききれない部分が生じます。遺産の分け方を決めるときは、誰がどの債務や葬式費用を負担するかも併せて確認しましょう。

課税価格の集計で確認すること

  • 生命保険金を受取人ごとに集計したか
  • 死亡後3年以内に支給額が確定した退職金がないか
  • 3年以内の暦年課税の贈与を、110万円以下の分も含めて足したか
  • 精算課税の贈与を、選択後のすべての年分について足したか
  • 未納の固定資産税・住民税や準確定申告の所得税を債務に入れたか
  • 小規模宅地等の特例の分割と同意の要件を確認したか

よくある誤り

  • 3年以内の暦年課税の贈与のうち、110万円以下で申告していない分を足さないのは誤りです。贈与税がかからなかった贈与も足します。
  • 相続時精算課税の贈与を相続時の時価で足すのは誤りです。足すのは贈与時の価額です。2024年以後の分は年110万円の基礎控除を引いた残りだけを足します。
  • 2つの110万円を混同しないよう注意します。精算課税の基礎控除部分は足しませんが、暦年課税の贈与は110万円以下でも加算対象期間内なら足します。
  • 債務超過の人の赤字を、ほかの相続人の課税価格から引くのは誤りです。各人の課税価格は0円が下限で、赤字はほかの人に移せません。

他の税金とのつながり

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 課税価格:相続税法11条の2。非課税財産は12条、債務控除は13条・14条、暦年課税の贈与財産の加算は19条(加算対象期間は令和5年改正法附則19条の経過措置による)、相続時精算課税の贈与財産の算入は21条の15・21条の16。
  • 生命保険金・死亡退職金は相続税法3条により相続・遺贈で取得したものとみなされ、非課税限度額は12条・15条に定められています。
  • 小規模宅地等の特例:措法69条の4第1項(減額後の価額を課税価格に算入)。贈与により取得した宅地等は対象外です。課税価格の1,000円未満切捨ては相基通16-2。

実務論点

  • 計算順序:相続時精算課税の贈与財産は債務控除と同じ純資産価額の段階で算入し、赤字なら0とした後に暦年課税の贈与財産を加算します。精算課税財産は債務と相殺されますが、暦年課税の加算額は相殺されません。
  • 申告書の流れ:第9表(生命保険金)、第10表(退職手当金)、第11表(財産の明細)、第11の2表(精算課税適用財産)、第11・11の2表の付表1(小規模宅地等、選択の同意欄)、第13表(債務・葬式費用)、第14表(暦年課税の贈与の加算)、第15表(種類別価額表)から、第1表の各人の課税価格に集計します。
  • 相続を放棄した人・相続権を失った人には債務控除(相続税法13条)の適用はありませんが、現実に葬式費用を負担した場合は、その額を遺贈で取得した財産の価額から控除して差し支えないとされています(相基通13-1)。
  • 相続・遺贈で財産を取得しなかった人には、暦年課税の贈与を加算しません(相基通19-3)。死亡保険金の受取人になった孫などは遺贈により取得した人にあたるため、加算の対象です。
  • 代償分割:代償財産の価額は原則として代償債務の額です。対象財産が特定され、代償債務の額が分割時の時価を基に決められている場合は、相続開始時の相続税評価額との比で調整します(相基通11の2-9・11の2-10)。
  • 特別寄与料:特別寄与者は確定した特別寄与料を遺贈により取得したものとみなされ、支払った相続人は負担額を自分の課税価格から控除します(相続税法4条2項・13条4項)。
第3章

相続税の総額:速算表と法定相続分

相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定し、速算表で計算します。実際の分け方と切り離して計算するのが、相続税の大きな特徴です。

この章の結論

  • 相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分で分けた金額(1,000円未満切捨て)ごとに速算表で税額を出し、それを合計した額(100円未満切捨て)です。
  • 速算表に当てはめるのは「法定相続分に応ずる取得金額」です。各人が実際に取得した額や、課税遺産総額の全体ではありません。
  • 相続放棄があっても放棄がなかったものとし、養子は実子がいれば1人・いなければ2人までとして、人数と法定相続分を決めます。

総額は「法定相続分で分けた」と仮定して計算します

相続税の総額は、遺産分割がまとまったかどうかや、誰が何を取得したかに関係なく計算します。課税遺産総額を法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定し、その仮の取得金額に税率を当てはめます(相続税法基本通達16-1)。

このため、遺産の額と法定相続人の構成が同じなら、総額は1つに決まります。遺言で長男に多く渡しても、遺産分割で配偶者に多く分けても、総額は同じです。分け方で変わるのは、総額を各人にどう配るか(各人の算出税額)と、配偶者の税額軽減などの控除の効き方です。

法定相続分に応ずる取得金額=課税遺産総額×法定相続分(1,000円未満切捨て)
各人の仮の税額=法定相続分に応ずる取得金額×税率−控除額
相続税の総額=各人の仮の税額の合計(100円未満切捨て)

課税遺産総額は、課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引いた金額です。課税価格の出し方は課税価格の計算:各人ごとにをご覧ください。

分け方を変えても総額が変わらないことを、課税価格の合計額2億円、相続人が配偶者と子2人のケースで確かめます。総額はどの分け方でも2,700万円です(計算は下の計算例①)。

分け方と相続税の総額・各人の負担(課税価格の合計額2億円、単位:万円)
分け方相続税の総額配偶者の納付税額子2人の納付税額の合計納付税額の合計
法定相続分どおり(配偶者1億円、子5,000万円ずつ)2,70001,3501,350
配偶者が全部を取得2,7005400540
子2人が1億円ずつ取得2,70002,7002,700

配偶者が全部を取得した場合、配偶者の算出税額2,700万円から、配偶者の税額軽減2,700万円×1億6,000万円÷2億円=2,160万円を引いた540万円を納めます。法定相続分どおりなら、配偶者の算出税額1,350万円は全額が軽減されます。

このように、分け方で変わるのは納付税額の合計であって、総額ではありません。ただし、配偶者が多く取得すると、配偶者が亡くなったときの二次相続で税金が増えることがあります(二次相続まで考えた遺産分割)。軽減の仕組みは配偶者の税額軽減で説明します。

速算表(8段階)と使い方

相続税の速算表(2026年(令和8年)10月時点)
法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%―
1,000万円超〜3,000万円以下15%50万円
3,000万円超〜5,000万円以下20%200万円
5,000万円超〜1億円以下30%700万円
1億円超〜2億円以下40%1,700万円
2億円超〜3億円以下45%2,700万円
3億円超〜6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

税額は「法定相続分に応ずる取得金額×税率−控除額」で計算します。控除額は、段階を超えた部分にだけ高い税率がかかるように調整するための金額です。

たとえば取得金額が5,000万円なら、1,000万円までに10%、次の2,000万円に15%、残りの2,000万円に20%がかかります。

段階ごとに計算:1,000万円×10%+2,000万円×15%+2,000万円×20%=100万円+300万円+400万円=800万円
速算表で計算:5,000万円×20%−200万円=800万円

どちらで計算しても同じ800万円です。段階の境目でも税額は連続しています。3,000万円は、15%の段階でも20%の段階でも400万円です(3,000万円×15%−50万円=400万円、3,000万円×20%−200万円=400万円)。

速算表の税率と基礎控除額は、令和8年度税制改正で変わっていません。

法定相続分の当てはめ方

法定相続分は、民法が定める相続人ごとの取り分の目安です。相続税の総額では、次の表の割合を課税遺産総額に掛けます。

法定相続分(民法900条)
法定相続人の組合せ配偶者血族の相続人
配偶者と子2分の12分の1を子の数で均等に分ける
配偶者と父母など(直系尊属)3分の23分の1を均等に分ける
配偶者と兄弟姉妹4分の34分の1を均等に分ける
配偶者のみ全部―
子のみ・直系尊属のみ・兄弟姉妹のみ―全部を均等に分ける

兄弟姉妹のうち、父母の一方だけが同じ人(半血)の相続分は、父母の両方が同じ人(全血)の2分の1です。

子が先に亡くなっている場合は、その子(孫)が代襲相続人となり、亡くなった子の相続分を引き継ぎます。代襲相続人が複数なら、その相続分を均等に分けます。兄弟姉妹が相続人の場合も、亡くなった兄弟姉妹の子(おい・めい)が代襲しますが、おい・めいの子は代襲しません。相続人の範囲は相続人と法定相続分で詳しく説明しています。

相続放棄・養子がいる場合の人数と法定相続分

相続税の総額を計算するときの法定相続人と法定相続分は、民法上の相続人と次の2点で異なります。

  • 相続放棄:放棄した人がいても、放棄がなかったものとして人数と法定相続分を決めます。民法では放棄した人は初めから相続人でなかったことになり、次の順位の人が相続人になることもありますが、総額の計算には影響しません。
  • 養子:実子がいれば1人、実子がいなければ2人まで数えます。特別養子、配偶者の実子で養子になった人、代襲相続人になった孫などは実子とみなされ、この制限を受けません。養子を数に含めることで相続税の負担を不当に減らす結果になる場合は、その養子を数に入れない規定もあります。
民法上の相続人と、相続税の総額の計算上の人数・法定相続分
ケース民法上の相続人と相続分相続税の総額の計算
配偶者と子2人で、長女が相続放棄配偶者2分の1、長男2分の13人:配偶者2分の1、長男4分の1、長女4分の1
相続人が子1人で、その子が相続放棄(配偶者・直系尊属はなく、兄弟姉妹が2人)兄弟姉妹2人が各2分の11人:子が全部(基礎控除額は3,600万円)
配偶者と実子1人・養子2人配偶者2分の1、子3人が各6分の13人:配偶者2分の1、子2人として各4分の1

2つ目のケースでは、総額は子1人が相続したものとして計算します。実際に財産を取得する兄弟姉妹の税額には、2割加算がかかります(各人の税額と2割加算)。

人数を誤ると、基礎控除額と相続税の総額の両方がずれます。この人数は、生命保険金と死亡退職金の非課税限度額の計算にも使います。放棄の効果は相続放棄・限定承認、養子の扱いは養子縁組で説明しています。

計算例で確認する(3つのケース)

計算例①:配偶者と子2人、課税遺産総額1億5,200万円

課税価格の合計額が2億円の場合です。基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円で、課税遺産総額は2億円−4,800万円=1億5,200万円です。

計算例①の相続税の総額
法定相続人法定相続分取得金額税額
配偶者2分の17,600万円7,600万円×30%−700万円=1,580万円
子A4分の13,800万円3,800万円×20%−200万円=560万円
子B4分の13,800万円560万円
合計11億5,200万円2,700万円

答え:相続税の総額は1,580万円+560万円×2人=2,700万円です。国税庁のタックスアンサーの計算例と同じ結果です。

計算例②:配偶者なし・子3人、課税遺産総額9,000万円

課税価格の合計額が1億3,800万円の場合です。課税遺産総額は1億3,800万円−4,800万円(3,000万円+600万円×3人)=9,000万円で、子1人あたりの取得金額は9,000万円×3分の1=3,000万円です。

計算例②の相続税の総額
法定相続人法定相続分取得金額税額
子A3分の13,000万円3,000万円×15%−50万円=400万円
子B3分の13,000万円400万円
子C3分の13,000万円400万円
合計19,000万円1,200万円

答え:相続税の総額は400万円×3人=1,200万円です。3,000万円は「1,000万円超〜3,000万円以下」の段階(15%)にあたります。

計算例③:配偶者と兄弟姉妹2人(子・直系尊属なし)

課税価格の合計額が1億円の場合です。基礎控除額は4,800万円(法定相続人3人)で、課税遺産総額は1億円−4,800万円=5,200万円です。兄弟姉妹の法定相続分は、4分の1を2人で分けて各8分の1です。

計算例③の相続税の総額
法定相続人法定相続分取得金額税額
配偶者4分の33,900万円3,900万円×20%−200万円=580万円
兄8分の1650万円650万円×10%=65万円
妹8分の1650万円65万円
合計15,200万円710万円

答え:相続税の総額は580万円+65万円×2人=710万円です。

同じ課税遺産総額5,200万円でも、相続人が配偶者と子2人なら総額は630万円です。法定相続分の構成が変わると、総額も変わります。

配偶者と子2人の場合:2,600万円×15%−50万円=340万円、1,300万円×15%−50万円=145万円
相続税の総額:340万円+145万円×2人=630万円

遺言で全財産を長男に相続させる場合も、法定相続分で総額を計算するのですか?

はい。相続税の総額は、実際に誰が取得したかに関係なく、法定相続分で分けたと仮定して計算します。総額を出した後、全財産を取得した長男の按分割合は1になるため、長男が総額の全額を負担します(2割加算や税額控除がない場合)。

申告期限までに胎児が生まれていない場合は、どう数えますか?

申告期限までに生まれていなければ、胎児がいないものとして申告します。胎児が生まれたものとすると全員に申告義務がなくなる場合は、出生の日の後2か月の範囲で申告期限を延ばせます。

よくある誤り

  • 相続を放棄した人を除いて人数や法定相続分を計算するのは誤りです。放棄がなかったものとして計算します。
  • 養子を全員数えるのは誤りです。配偶者がなく、実子1人と孫養子2人がいる場合の法定相続人の数は、実子と養子1人の2人です(国税庁の誤りやすい事例集にも挙がっています)。
  • 速算表を各人が実際に取得した額に当てはめるのは誤りです。当てはめるのは法定相続分に応ずる取得金額です。
  • 法定相続分に応ずる取得金額を四捨五入するのは誤りです。1,000円未満は切り捨てます。

他の税金とのつながり

  • 贈与税:贈与税の速算表は、贈与を受けた人ごとに、基礎控除後の課税価格へ当てはめます。法定相続分で仮に分けてから当てはめる相続税とは、仕組みが違います。暦年課税の計算:一般税率と特例税率
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 相続税の総額:相続税法16条。分割の有無・取得者にかかわらず法定相続分で計算する点は相基通16-1。取得金額の1,000円未満と総額の100円未満の切捨ては相基通16-3(いずれも「切り捨てても差し支えない」)。
  • 法定相続人の数:相続税法15条(養子の数の制限は2項、実子とみなす者は3項)、63条(養子の数の否認)、相続税法施行令3条の2、相基通15-1〜15-6・63-1・63-2。
  • 法定相続分:民法900条(4号ただし書で半血の兄弟姉妹は全血の2分の1)、901条(代襲相続人の相続分)。

実務論点

  • 申告書では第2表(相続税の総額の計算書)で、基礎控除額、法定相続人と法定相続分、相続税の総額を計算します。
  • 法定相続人の数を使う計算は、遺産に係る基礎控除額、生命保険金の非課税限度額、死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額の4つです。
  • 二次相続(配偶者の相続)では、法定相続人が1人減って基礎控除額が600万円下がり、配偶者の税額軽減も使えず、法定相続分が子に集中して高い税率の段階にかかりやすくなります。一次相続の分け方を決める際の比較は二次相続まで考えた遺産分割で扱います。
  • 嫡出でない子の相続分は、2013年(平成25年)9月5日以後に開始した相続では嫡出子と同等です。
第4章

各人の税額と2割加算

相続税の総額を、各人が実際に取得した割合で分けたものが「算出税額」です。配偶者と一親等の血族以外の人は、この算出税額に20%が上乗せされます。

この章の結論

  • 各人の算出税額=相続税の総額×その人の課税価格÷課税価格の合計額です。割合の小数点以下2位未満の端数は、財産を取得した全員が選んだ方法で、合計が1になるよう調整できます。
  • 配偶者と一親等の血族(子・父母と、代襲相続人になった孫など)以外の人は、算出税額の20%が加算されます。兄弟姉妹・おい・めい・祖父母・孫養子や、遺贈を受けた子の配偶者・第三者などが対象です。
  • 孫養子は原則として加算の対象です。ただし、子が先に亡くなり、その孫が代襲相続人になっている場合は加算されません。

算出税額は「総額×按分割合」で出します

各人の算出税額は、相続税の総額にその人の按分割合を掛けて出します。按分割合は、その人の課税価格を課税価格の合計額で割った割合です。

各人の算出税額=相続税の総額×その人の課税価格÷課税価格の合計額

総額を出すときは法定相続分で仮に分けましたが、ここでは実際に取得した課税価格の割合で配ります。法定相続分より多く取得した人は、そのぶん多く負担します。

たとえば課税価格の合計額が1億円で、相続人が配偶者と子2人なら、相続税の総額は630万円です(計算は相続税の総額の計算例③の後半)。配偶者が6,000万円、長男が3,000万円、長女が1,000万円を取得すると、算出税額は次のとおりです。

配偶者:630万円×0.6=378万円
長男:630万円×0.3=189万円
長女:630万円×0.1=63万円

配偶者の378万円は、配偶者の課税価格が1億6,000万円以下なので、配偶者の税額軽減で全額が差し引かれます(配偶者の税額軽減)。

按分割合の端数は全員の選択で調整できます

按分割合が割り切れないときは、小数点以下2位未満の端数を調整して計算できます。調整は財産を取得した全員が選んだ方法で行い、全員の割合の合計をちょうど1にします。申告書には小数点以下10位まで書けるため、調整せずに細かい割合のまま計算することもできます。

調整のしかたで各人の負担が少し変わるため、全員の選択が前提になっています。子3人が同じ額を取得した例で確かめます。

計算例:按分割合の調整で負担が変わる

子3人の課税価格が33,333,000円ずつの場合です(合計額99,999,000円)。課税遺産総額は99,999,000円−4,800万円=51,999,000円で、1人あたりの取得金額は17,333,000円です。相続税の総額は、(17,333,000円×15%−50万円)×3人=2,099,950円×3人=6,299,850円の100円未満を切り捨てた6,299,800円です。

按分割合の扱いと各人の税額
按分割合の扱い長男次男三男
3分の1のまま:算出税額2,099,933円2,099,933円2,099,933円
3分の1のまま:納付税額2,099,900円2,099,900円2,099,900円
0.33・0.33・0.34に調整:算出税額2,078,934円2,078,934円2,141,932円
0.33・0.33・0.34に調整:納付税額2,078,900円2,078,900円2,141,900円

3分の1のままなら、6,299,800円÷3の1円未満を切り捨てて2,099,933円です。0.33の人は6,299,800円×0.33=2,078,934円、0.34の人は6,299,800円×0.34=2,141,932円になります。

答え:2位で調整すると、0.34を受け持つ三男の納付税額は、ほかの2人より63,000円多くなります。3人の納付税額の合計は、どちらの方法でも6,299,700円です。

2割加算の対象になる人・ならない人

相続や遺贈、相続時精算課税の贈与で財産を取得した人が、配偶者でも一親等の血族でもない場合は、その人の算出税額に20%を加えます。これを相続税額の2割加算といいます。

一親等の血族とは、亡くなった人の子と父母です。子が先に亡くなるなどして、その子(孫)が代襲相続人になった場合も、加算しない人に含まれます。親族関係は、原則として亡くなった時点の状況で判定します。

2割加算の対象になる人・ならない人
財産を取得した人2割加算補足
配偶者なし婚姻の届出をした配偶者
子(実子・養子)なし孫養子は下の行を参照
父母なし―
代襲相続人になった孫などなし孫養子が代襲相続人を兼ねる場合もなし
相続を放棄した子なし遺贈で取得しても一親等の血族なので加算なし
孫養子(代襲相続人でない)あり民法上は子でも、2割加算では対象
祖父母あり―
兄弟姉妹あり―
おい・めいあり兄弟姉妹の代襲相続人として取得しても加算
相続人でない孫・子の配偶者・内縁の配偶者・第三者あり遺贈や死亡保険金で取得した場合
特別寄与者あり通常は一親等の血族でも配偶者でもないため

加算額は、税額控除を差し引く前の算出税額×20%です。加算した後に、未成年者控除などの税額控除を差し引きます。

孫養子と代襲相続人の孫の違い

孫を養子にすると、民法上はその孫も子として相続人になります。しかし2割加算では、亡くなった人の直系卑属(孫など)で養子になっている人を、加算しない一親等の血族に含めない扱いです。このため、孫養子は原則として2割加算の対象です。

一方、子が先に亡くなっていて、その子(孫)が代襲相続人になっている場合は加算されません。孫養子が同時に代襲相続人でもある場合も、加算されません。

養子には、相続税の計算上の法定相続人の数に入れられる人数の制限(実子がいれば1人まで)もあります。人数の制限と2割加算は別のルールなので、両方を確認します。養子縁組の効果と注意点は養子縁組で詳しく説明しています。

計算例:孫養子がいる場合

計算例:子2人と孫養子1人が相続した場合

前提:配偶者は既に亡くなっています。相続人は長男・長女と、長男の子である孫養子の3人です。実子がいるので数に入れられる養子は1人で、法定相続人の数は3人です。課税価格は長男6,000万円、長女6,000万円、孫養子3,000万円(合計1億5,000万円)とし、2割加算以外の加算や税額控除はないものとします。

基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:1億5,000万円−4,800万円=1億200万円
1人あたりの取得金額:1億200万円×3分の1=3,400万円
相続税の総額:(3,400万円×20%−200万円)×3人=480万円×3人=1,440万円

孫養子がいる場合の各人の税額
相続人按分割合算出税額2割加算納付税額
長男0.4576万円0円576万円
長女0.4576万円0円576万円
孫養子0.2288万円57万6,000円345万6,000円
合計1.01,440万円57万6,000円1,497万6,000円

答え:孫養子の2割加算額は288万円×20%=57万6,000円で、納付税額は288万円+57万6,000円=345万6,000円です。3人の納付税額の合計は1,497万6,000円です。

同じ孫でも、長男が先に亡くなっていて代襲相続人として取得する場合は、2割加算はかかりません。

遺贈・死亡保険金・特別寄与料で取得した人

相続人でない孫・子の配偶者・友人などが遺贈で財産を取得した場合は、2割加算の対象です。ただし、相続人でない父母や相続を放棄した子は、一親等の血族なので加算されません。相続人でない孫が死亡保険金の受取人になった場合も、遺贈で取得したものとみなされます。この孫には死亡保険金の非課税がなく、2割加算がかかり、生前の暦年課税の贈与も加算の対象になります(みなし相続財産)。

特別寄与料は、相続人でない親族(たとえば亡くなった人の子の配偶者)が、無償で療養看護などをして財産の維持・増加に特別の寄与をした場合に、相続人へ請求できる金銭です。相続税では、確定した特別寄与料を遺贈で取得したものとみなします。

特別寄与者は通常、一親等の血族でも配偶者でもないため、2割加算の対象です。申告期限は、特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内です。支払った相続人は、負担した額を自分の課税価格から差し引きます。請求の期限などは配偶者居住権・配偶者短期居住権・特別寄与料で説明しています。

子のいない夫婦で、配偶者と兄弟姉妹が相続する場合も、兄弟姉妹には2割加算がかかります。相続税の総額の計算例③(課税価格の合計額1億円、総額710万円)で、配偶者が7,500万円、兄と妹が1,250万円ずつ取得したとします。

兄・妹の算出税額:710万円×0.125=88万7,500円
2割加算:88万7,500円×20%=17万7,500円
兄・妹の納付税額:88万7,500円+17万7,500円=106万5,000円(各人)

配偶者の算出税額710万円×0.75=532万5,000円は、配偶者の税額軽減で全額が差し引かれます。

よくある誤り

  • 孫養子に2割加算をかけ忘れないよう注意します。代襲相続人でない孫養子は加算の対象です。
  • 代襲相続人になった孫に2割加算をかけるのは誤りです。代襲相続人の孫は加算されません。
  • 兄弟姉妹の2割加算を忘れないよう注意します。国税庁の誤りやすい事例集にも挙がっている誤りです。
  • 相続を放棄した子が遺贈を受けたときに加算するのは誤りです。子は一親等の血族なので、放棄していても加算されません。
  • 税額控除を引いた後の税額に20%を掛けるのは誤りです。加算は税額控除の前の算出税額に対して行います。

他の税金とのつながり

  • 贈与税:相続時精算課税で贈与を受けた人も、2割加算の対象になりえます。贈与を受けた時点で一親等の血族だった場合は、加算しない税額を計算する調整があります。相続時精算課税:年110万円の基礎控除と2,500万円
  • 譲渡所得:2割加算を含めた各人の相続税額は、相続した財産を売ったときの取得費加算の特例で、取得費に加える金額のもとになります。相続税の取得費加算の特例
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 各人の相続税額:相続税法17条。按分割合の小数点以下2位未満の端数は、財産取得者全員が選択した方法で割合の合計が1になるよう調整して計算している場合に認められます(相基通17-1)。
  • 2割加算:相続税法18条。相続を放棄した人・相続権を失った人が遺贈で取得しても、一親等の血族は加算しません(相基通18-1)。一親等の血族かどうかは原則として相続開始時で判定し(相基通18-2)、孫養子が代襲相続人である場合は加算しません(相基通18-3)。
  • 相続時精算課税:相続税法21条の15・21条の16。精算課税の読替え規定では代襲相続人となった直系卑属も一親等の血族に含め(相基通18-4)、贈与時に一親等の血族だった場合は一定の税額を加算しません(相基通18-5)。
  • 特別寄与料:民法1050条、相続税法4条2項(遺贈とみなす)、13条4項(支払った相続人の控除)、29条1項(申告期限)。

実務論点

  • 申告書:按分割合は第1表に小数点以下10位まで記入でき、2割加算は第4表・付表(相続税額の加算金額の計算書)で計算します。
  • 配偶者がいる場合の端数調整:配偶者の税額軽減額は「相続税の総額×(①と②のいずれか少ない方)÷課税価格の合計額」で計算し、按分割合を使いません。配偶者の割合を切り上げると算出税額が軽減額を上回り、わずかな納付税額が生じることがあるため、調整方法を選ぶ際は配偶者の割合の扱いに注意します。
  • 相続人でない孫を死亡保険金の受取人にすると、非課税の対象外、2割加算、暦年課税の贈与の加算の3点が同時に生じます。
  • 代襲相続人になった孫が加算の対象外であることは、国税庁の誤りやすい事例集(事例3)でも取り上げられています。
  • 特別寄与料について協議が調わないときの家庭裁判所への請求は、特別寄与者が相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を経過するとできなくなります。制度は2019年(令和元年)7月1日に施行され、それより前に開始した相続では使えません。
第5章

配偶者の税額軽減

夫や妻が亡くなったとき、残された配偶者の相続税は大きく軽減されます。この章では、税金がかからない上限の決まり方、軽減額の計算式、使うための要件、二次相続との関係を計算例で確認します。

この章の結論

  • 配偶者が実際に取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い額までなら、配偶者の相続税は0円です。
  • 使うには、婚姻届を出した配偶者であること、申告期限までに遺産を分けること(間に合わなければ分割見込書を出すこと)、税額が0円でも申告することが必要です。
  • 一次相続で配偶者に多く分けるほど、配偶者が亡くなったとき(二次相続)の税金は増えます。一次と二次の合計で考えます。

税金がかからない上限:1億6,000万円か法定相続分の多い方

配偶者の税額軽減は、亡くなった人の配偶者が取得した財産について、相続税を大きく減らす制度です。配偶者が遺産分割や遺贈で実際に取得した正味の遺産額が、次のいずれか多い金額までなら、配偶者に相続税はかかりません。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額(課税価格の合計額×配偶者の法定相続分)

正味の遺産額とは、配偶者の課税価格(税金を計算するもとになる金額)のことです。取得した財産に生命保険金などのみなし相続財産や生前贈与加算の額を加え、非課税の額や債務・葬式費用を差し引いて求めます(課税価格の計算:各人ごとに)。

配偶者の法定相続分は、ほかの相続人の組合せで決まります。子がいれば2分の1、子がなく親などの直系尊属がいれば3分の2、子も直系尊属もなく兄弟姉妹がいれば4分の3です(相続人と法定相続分)。配偶者のほかに相続人がいなければ法定相続分は全部なので、配偶者がいくら取得しても配偶者の税額は0円です。

配偶者の税額が0円になる取得額の上限(課税価格の合計額別)
課税価格の合計額子がいる(配偶者の法定相続分2分の1)子がなく直系尊属がいる(3分の2)子も直系尊属もなく兄弟姉妹がいる(4分の3)
1億6,000万円以下全額全額全額
2億円1億6,000万円1億6,000万円1億6,000万円
3億円1億6,000万円2億円2億2,500万円
6億円3億円4億円4億5,000万円
12億円6億円8億円9億円

上限は「1億6,000万円」と「課税価格の合計額×配偶者の法定相続分」の多い方です。「子」には代襲相続人の孫を含みます。按分割合の端数の調整方法によっては、上限内でもわずかな税額が出ることがあります(専門家向けの欄を参照)。

遺産が1億6,000万円以下なら、配偶者が全部を取得しても配偶者の税額は0円です。遺産がそれより多いときも、法定相続分までなら0円です。ただし、ほかの相続人の税額は残るので、家族全体の税額は別に計算します。

軽減額の計算式と計算例

軽減額は次の式で計算します。①と②の少ない方を使う点がポイントです。

配偶者の税額軽減額=相続税の総額×(①と②のいずれか少ない方)÷課税価格の合計額

①
課税価格の合計額×配偶者の法定相続分と、1億6,000万円のいずれか多い方
②
配偶者の課税価格(申告期限までに分割されていない財産の価額は除く)

配偶者の算出税額は「相続税の総額×配偶者の課税価格÷課税価格の合計額」です(各人の税額と2割加算)。②が①以下なら、軽減額は算出税額と同じになり、配偶者の税額は0円です。②が①を超えると、超えた部分に対応する税額だけが残ります。

軽減は税額控除の2番目に行います。暦年課税分の贈与税額控除を引いた後の税額から差し引き、マイナスになるときは0円とします(相続税の計算の4ステップ)。申告書では第5表(配偶者の税額軽減額の計算書)で計算します。

計算例:遺産3億円・配偶者と子2人で、配偶者の取得額を変えた場合

前提:課税価格の合計額は3億円(小規模宅地等の特例や債務控除などを適用した後の額)です。相続人は配偶者・長男・長女で、法定相続分は配偶者2分の1、子は各4分の1です。配偶者以外の財産は子2人が均等に取得します。2割加算やほかの税額控除はなく、按分割合は端数を調整せずに計算します。

基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:3億円−4,800万円=2億5,200万円
配偶者分:2億5,200万円×2分の1=1億2,600万円→1億2,600万円×40%−1,700万円=3,340万円
子1人分:2億5,200万円×4分の1=6,300万円→6,300万円×30%−700万円=1,190万円
相続税の総額:3,340万円+1,190万円×2人=5,720万円(取得金額・総額とも端数なし)
①:3億円×2分の1=1億5,000万円と1億6,000万円の多い方=1億6,000万円

配偶者の取得額ごとの各人の税額(単位:円)
項目A 法定相続分どおりB 1億6,000万円C 2億円
配偶者の取得額(課税価格)150,000,000160,000,000200,000,000
配偶者の算出税額28,600,00030,506,66638,133,333
配偶者の税額軽減額28,600,00030,506,66630,506,666
配偶者の納付税額007,626,600
子1人の取得額75,000,00070,000,00050,000,000
子1人の納付税額14,300,00013,346,6009,533,300
家族の納付税額の合計28,600,00026,693,20026,693,200

検算(B):配偶者の算出税額は5,720万円×1億6,000万円÷3億円=30,506,666円です(1円未満切捨て)。軽減額も①と②がともに1億6,000万円なので、同じ式で30,506,666円です。子1人は5,720万円×7,000万円÷3億円=13,346,666円で、100円未満を切り捨てて13,346,600円です。

検算(C):配偶者の算出税額は5,720万円×2億円÷3億円=38,133,333円です。軽減額は①の1億6,000万円が上限なのでBと同じ30,506,666円で、差額7,626,667円の100円未満を切り捨てて7,626,600円です。子1人は5,720万円×5,000万円÷3億円=9,533,333円→9,533,300円です。

答え:配偶者の納付税額はAとBが0円、Cが762万6,600円です。家族の合計はAが2,860万円、BとCがともに2,669万3,200円です。1億6,000万円を超えて配偶者に渡しても、一次相続の合計税額はそれ以上減りません。

AからBへ配偶者の取得を1,000万円増やすと、子の税額の合計は約190万円減ります(2,860万円−2,669万3,200円=190万6,800円)。一次相続の実効税率(相続税の総額5,720万円÷課税価格の合計額3億円=約19.1%)の分だけ税が減るためです。ただし、その1,000万円は配偶者の財産として、二次相続で課税されます。二次相続でこの1,000万円にかかる速算表の税率が約19.1%を超えるなら、一次と二次の合計ではかえって不利になります(財産の増減や相次相続控除を考えない単純化した見方です)。

適用を受けるための要件

配偶者の税額軽減を受けるには、次の要件をすべて満たす必要があります。

配偶者の税額軽減の要件チェック

  • 婚姻届を出した法律上の配偶者であること(内縁・事実婚の人は対象外。婚姻期間の長さは問いません)
  • 配偶者が取得する財産が、申告期限までに遺産分割または遺言で決まっていること
  • 決まっていない財産があるときは、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けること
  • 申告書に軽減の明細(第5表)を書き、戸籍謄本等と、遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し(相続人全員の印鑑証明書付き)を添付すること
  • 軽減で税額が0円になる場合も、申告書を提出すること
  • 財産を隠したり偽ったりしていないこと(仮装・隠蔽した財産の分は軽減の計算から除かれます)

申告が必要かどうかは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使わないものとして計算し、人ごとに判定します。軽減を使えば0円になる人も、使う前の計算で税額が出るなら申告しなければなりません。2024年(令和6年)分では、軽減や特例などで相続税額が0円となった申告書を出した被相続人が39,755人いました(国税庁、2025年(令和7年)12月公表)。

申告期限までに分割できないとき

申告期限までに分割されていない財産は、原則として軽減の対象になりません。この場合は、民法の相続分などで取得したものとして期限内に申告し、納税します。そのとき申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けておけば、後で分割したときに軽減を受けられます。

  1. 申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)未分割のまま申告・納税し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。
  2. 申告期限から3年以内遺産分割を成立させます。
  3. 分割の日の翌日から4か月以内更正の請求をして、軽減を適用した税額との差額の還付を受けます。配偶者の税額軽減の期限には特例があります(下の段落)。
  4. 3年以内に分割できない事情があるとき申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署長に出します。
  5. 承認後、事情がなくなった日の翌日から4か月以内分割すれば軽減を受けられます。分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。

配偶者の税額軽減の更正の請求は、「分割の日の翌日から4か月」と「申告期限から5年」のいずれか遅い日までできます(相続税法基本通達32-2)。この期限の特例は配偶者の税額軽減だけのものです。小規模宅地等の特例を分割後に受けるための更正の請求は、分割の日の翌日から4か月以内です。両方を受けるときは、分割が決まったら4か月以内に手続すると確実です。

未分割のときの申告の詳しい手順は、遺産が未分割のときの申告で説明しています。

二次相続まで考えた分け方

一次相続で配偶者が多く取得すると、一次相続の税金は減ります。しかし配偶者が亡くなる二次相続では、配偶者の税額軽減は使えません。相続人が1人減るので、基礎控除も600万円小さくなります。そのため、一次と二次の合計では配偶者に多く分けた方が不利になることがあります。

たとえば、夫の遺産2億円・妻固有の財産1,000万円・子2人で、二次相続まで財産が増減しないと仮定した試算があります。一次と二次の合計税額は、妻の取得割合0%で2,700万円、100%で4,018万円で、最も少ないのは26%の2,198万円でした。100%の場合は、一次で妻が納めた540万円を妻の財産から差し引いて計算しています。配偶者固有の財産や二次相続までの年数などの前提で結論は変わるため、二次相続まで考えた遺産分割で個別に試算します。

一次相続で配偶者が相続税を納めていれば、10年以内の二次相続で相次相続控除を受けられます。一次で配偶者の税額が軽減により0円だった場合は、相次相続控除はありません(贈与税額控除・相次相続控除・外国税額控除)。

実務のコツ:小規模宅地等の特例との組合せ

小規模宅地等の特例をどの宅地に使うかで、各人の課税価格と按分割合が変わります。配偶者が取得する宅地に使うと、配偶者以外の人の按分割合が上がることがあります。配偶者の税額軽減とあわせて各人の税額を試算してから選びます(限度面積の調整と有利な選び方)。

よくある誤り

  • 「配偶者は1億6,000万円まで非課税」とだけ覚えるのは不正確です。正しくは「1億6,000万円」と「法定相続分相当額」のいずれか多い額までです。子がいる場合、遺産が3億2,000万円を超えると法定相続分の方が大きくなります。
  • 税額が0円になるからと申告しないのは誤りです。軽減は申告書の提出が要件です。
  • 未分割のまま、分割見込書を付けずに申告するのは避けます。分割見込書は、後で分割したときに軽減を受けるための手続です。
  • 贈与税の配偶者控除と混同して「婚姻20年以上が必要」と考えるのは誤りです。相続税の配偶者の税額軽減に、婚姻期間の要件はありません。
遺言で配偶者が取得する財産にも使えますか?

使えます。遺贈で取得した財産も対象です。遺言で配偶者が取得すると決まっている財産は、遺産分割を待たずに軽減の計算に入れられます。この場合の添付書類は、戸籍謄本等と遺言書の写しです。

配偶者が全財産を相続すれば、相続税はかかりませんか?

課税価格の合計額が1億6,000万円以下なら、配偶者の税額は0円です。ただし、基礎控除を超えるなら申告は必要です。また、二次相続で子の税額が大きくなることがあるため、一次と二次の合計で比べます。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 根拠は相続税法19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)です。添付書類は相続税法施行規則1条の6・16条、分割後の更正の請求は相続税法32条1項(1号・8号)によります。
  • 申告義務は、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を適用しないものとして判定します(相基通27-1)。
  • 2026年(令和8年)10月時点で、令和8年度税制改正による本制度の改正はありません。

実務論点

  • ②の配偶者の課税価格からは、申告期限までに分割されていない財産を除きます。遺贈で取得した財産は分割を要しません。
  • 按分割合の端数調整(相基通17-1)は、取得者全員が選んだ方法による任意の扱いです。計算例Bを小数点以下2位で調整し、配偶者0.53・長男0.24・長女0.23とすると、子2人の納付税額の合計は26,884,000円となり、調整しない場合より190,800円多くなります。配偶者0.54・子各0.23とすると、配偶者の算出税額30,888,000円が軽減額30,506,666円を上回り、配偶者に381,300円の納付税額が生じます(合計26,693,300円)。軽減額は割合ではなく①・②の金額で計算されるため、調整方法で結果が変わります。
  • 未分割財産は、分割見込書を添付して申告期限から3年以内に分割した場合、分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。やむを得ない事情があるときの承認申請書は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に提出します。配偶者の税額軽減の分割要件のただし書(相続税法19条の2第2項ただし書)に該当した場合の更正の請求の期限は、「分割の日の翌日から4か月」と「法定申告期限から5年」のいずれか遅い日です(相基通32-2)。この取扱いは配偶者の税額軽減に限られます。小規模宅地等の特例の分割後の更正の請求は分割の日の翌日から4か月以内で、期限を過ぎた請求を不適法とした裁決(2021年(令和3年)6月22日)があります。
  • 隠蔽・仮装された財産は軽減の計算の基礎から除かれ、その部分の税額には重加算税(過少申告の場合35%、無申告の場合40%)が課されます。
  • 取得費加算(措置法39条)の相続税額は、納付税額に暦年課税分の贈与税額控除・相次相続控除・相続時精算課税分の贈与税額控除の額を加えた額で、配偶者の税額軽減は加えません(措令25条の16)。
  • 相次相続控除は、前回の相続で今回の被相続人に相続税が課されていることが前提です(相続税法20条)。一次で軽減により配偶者の税額が0円なら、二次で控除は生じません。
第6章

未成年者控除・障害者控除

相続人に18歳未満の人や障害のある人がいるときは、その人の相続税から一定額を差し引けます。控除額の計算方法、対象になる人、引ききれない額の扱いを順に確認します。

この章の結論

  • 未成年者控除:18歳未満の法定相続人は、10万円×18歳になるまでの年数(1年未満は切上げ)を相続税から差し引けます。
  • 障害者控除:障害者である法定相続人は、10万円(特別障害者は20万円)×85歳になるまでの年数を差し引けます。国内に住所がない人は使えません。
  • 本人の税額から引ききれない額は、扶養義務者(親・兄弟姉妹など)の相続税から差し引けます。

未成年者控除:18歳未満の法定相続人

未成年者控除は、相続人が18歳未満のとき、18歳になるまでの年数に応じて相続税を減らす制度です。次の要件をすべて満たす人が対象です。

  1. 相続や遺贈で財産を取得した時に18歳未満であること
  2. 法定相続人であること(相続放棄をした人も、放棄がなかったものとした場合に相続人なら対象)
  3. 財産を取得した時に国内に住所があること(一時居住者で、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人の場合を除く)。国内に住所がない人でも、一定の日本国籍者などは対象になります

未成年者控除額=10万円×満18歳になるまでの年数(1年未満の期間は切り上げて1年)

年齢の1年未満を切り捨てて「18−年齢」としても同じ結果です。15歳9か月なら15歳として、18歳までの3年×10万円=30万円です。胎児の場合の控除額は180万円(10万円×18年)です。

年齢の基準は、2022年(令和4年)4月1日以後に財産を取得した人から18歳未満になりました施行中。2022年3月31日以前に取得した人は20歳未満が基準で、胎児の控除額も200万円でした。

障害者控除:85歳までの年数で計算

障害者控除は、障害のある相続人の相続税を、85歳になるまでの年数に応じて減らす制度です。要件は次の3つです。

  1. 相続や遺贈で財産を取得した時に障害者であること
  2. 法定相続人であること(相続放棄をした人も、放棄がなかったものとした場合に相続人なら対象)
  3. 財産を取得した時に国内に住所があること(一時居住者で、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人の場合を除く)。未成年者控除と違い、国内に住所がない人は対象になりません

一般障害者:10万円×満85歳になるまでの年数
特別障害者:20万円×満85歳になるまでの年数
(いずれも1年未満の期間は切り上げて1年)

50歳4か月の一般障害者なら、85歳までは34年8か月で、切り上げて35年です。控除額は35年×10万円=350万円になります。

未成年者控除

  • 対象:18歳未満の法定相続人
  • 控除額:10万円×18歳までの年数
  • 国内に住所がない人:一定の日本国籍者などは対象
  • 引ききれない額:扶養義務者の税額から控除

障害者控除

  • 対象:障害者である法定相続人
  • 控除額:10万円(特別障害者20万円)×85歳までの年数
  • 国内に住所がない人:対象外
  • 引ききれない額:扶養義務者の税額から控除

補足:以前の相続でも控除を受けている場合

2回目以降の相続では、控除できる額に上限があります。上限は、最初の相続のときに控除できた額から、これまでに控除を受けた額の合計(扶養義務者の税額から差し引いた分を含みます)を差し引いた残りです。障害者控除も同じ考え方です。

今回の控除額=今回の計算額と、残り(最初の相続で控除できた額−既に控除を受けた額の合計)のいずれか少ない額

たとえば、父の相続(10歳)で控除できた額は10万円×8年=80万円でした。本人の税額が50万円で、差し引ける扶養義務者の税額もなかったため、実際に控除したのは50万円です。母の相続(14歳)での計算額は10万円×4年=40万円ですが、残りは80万円−50万円=30万円なので、控除できるのは30万円です。どちらも2022年4月1日以後の相続とします。

障害者の範囲:一般障害者と特別障害者

障害者に当たるか、特別障害者(重い障害のある人)に当たるかは、手帳の等級や判定・認定で決まります。判定は、財産を取得した時の状況で行います。

障害者控除の対象になる人の範囲
区分障害者に当たる人うち特別障害者
1精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人全員
2児童相談所などの判定で知的障害者とされた人重度と判定された人
3精神障害者保健福祉手帳(1〜3級)の交付を受けている人1級の人
4身体障害者手帳(1〜6級)の交付を受けている人1級・2級の人
5戦傷病者手帳の交付を受けている一定の人特別項症〜第三項症の人
6原爆被爆者で、厚生労働大臣の認定を受けている人全員
7常に就床を要し複雑な介護を要する人のうち、市町村長等の認定を受けた人特別障害者に準ずると認定された人
865歳以上で、障害の程度が区分1・2・4の人に準ずると市町村長等の認定を受けた人特別障害者に準ずると認定された人

相続開始の時に手帳の交付を受けていなくても、障害者として扱われる場合があります。一つ目の条件は、申告書を提出する時に、手帳の交付を受けているか交付を申請中であることです。二つ目は、手帳や交付申請用の医師の診断書などから、相続開始の時に手帳に記載される程度の障害があったと明らかに認められることです。対象は区分3〜5の手帳(精神障害者保健福祉手帳・身体障害者手帳・戦傷病者手帳)です。

控除額の計算例

計算例1:年齢と区分ごとの控除額

年齢は、相続や遺贈で財産を取得した時(通常は相続開始の時)の年齢です。基準の年齢までの期間に1年未満の端数があれば、切り上げて年数を数えます。

未成年者控除・障害者控除の控除額の例
相続人取得時の年齢基準の年齢までの期間年数(切上げ)控除額
未成年者15歳9か月18歳まで2年3か月3年30万円
未成年者8歳2か月18歳まで9年10か月10年100万円
一般障害者50歳4か月85歳まで34年8か月35年350万円
特別障害者70歳2か月85歳まで14年10か月15年300万円

3年×10万円=30万円/10年×10万円=100万円/35年×10万円=350万円/15年×20万円=300万円

答え:控除額は、切り上げた年数に10万円(特別障害者は20万円)を掛けて求めます。15歳9か月を「2年」と数えると20万円になり、誤りです。

引ききれない額は扶養義務者の税額から差し引く

控除額が本人の相続税額より大きいときは、引ききれない額を、その人の扶養義務者の相続税額から差し引けます。扶養義務者とは、本人の配偶者、直系血族(親や祖父母など)、兄弟姉妹、3親等内の親族のうち一定の人です。差し引く相手も、同じ相続で財産を取得して相続税額があることが前提です。

控除は「配偶者の税額軽減→未成年者控除→障害者控除」の順に行います。そのため、未成年の子の親(亡くなった人の配偶者)の税額が配偶者の税額軽減で0円なら、親からは差し引けません。ほかに税額のある扶養義務者がいなければ、引ききれない額は使えず、還付もありません。

計算例2:障害者控除の引ききれない額を、きょうだいの税額から差し引く

前提:被相続人は父で、配偶者はいません。相続人は長女(50歳4か月・一般障害者)と長男の2人です。課税価格は長女4,000万円、長男6,000万円で、合計1億円です。2割加算やほかの税額控除はありません。

基礎控除:3,000万円+600万円×2人=4,200万円
課税遺産総額:1億円−4,200万円=5,800万円
1人分:5,800万円×2分の1=2,900万円→2,900万円×15%−50万円=385万円
相続税の総額:385万円×2人=770万円
算出税額:長女=770万円×4,000万円÷1億円=308万円、長男=770万円×6,000万円÷1億円=462万円
長女:308万円−障害者控除350万円→0円(引ききれない額42万円)
長男:462万円−42万円=420万円

答え:長女の納付税額は0円、長男は420万円です。長男は長女のきょうだい(兄弟姉妹)で扶養義務者に当たるため、引ききれなかった42万円を長男の税額から差し引けます。家族の合計は770万円から420万円に減ります。

計算例3:未成年者控除の引ききれない額を、母ではなく兄の税額から差し引く

前提:被相続人は父です。相続人は母(配偶者)、長男(20歳)、次男(8歳2か月)の3人です。課税価格は母4,000万円、長男2,000万円、次男2,000万円で、合計8,000万円です。2割加算やほかの税額控除はありません。

基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:8,000万円−4,800万円=3,200万円
母の分:3,200万円×2分の1=1,600万円→1,600万円×15%−50万円=190万円
子1人の分:3,200万円×4分の1=800万円→800万円×10%=80万円
相続税の総額:190万円+80万円×2人=350万円
算出税額:母=350万円×4,000万円÷8,000万円=175万円、長男・次男=各350万円×2,000万円÷8,000万円=87万5,000円
母:175万円−配偶者の税額軽減175万円=0円
次男:87万5,000円−未成年者控除100万円(10年×10万円)→0円(引ききれない額12万5,000円)
長男:87万5,000円−12万5,000円=75万円

答え:母と次男は0円、長男は75万円です。母も次男の扶養義務者ですが、配偶者の税額軽減で税額が0円なので差し引けません。次男の兄である長男は扶養義務者で税額があるため、12万5,000円を長男の税額から差し引けます。

よくある誤り

  • 20歳未満で計算するのは誤りです。2022年4月1日以後に財産を取得した人は18歳未満が基準です。
  • 年数の1年未満を切り捨てるのは誤りです。1年未満の期間は切り上げます。
  • 法定相続人でない孫に遺贈しても、未成年者控除は使えません。法定相続人でない人は対象外で、孫は相続税額の2割加算の対象にもなります(各人の税額と2割加算)。
  • 海外に住む障害のある相続人は、障害者控除を使えません。障害者控除は国内に住所がある人だけが対象です。
相続を放棄した未成年の子が生命保険金を受け取りました。未成年者控除は使えますか?

使えます。法定相続人かどうかは、相続放棄がなかったものとして判定するためです。亡くなった人が保険料を負担していた生命保険金を放棄した人が受け取ると、遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。ただし、放棄した人は生命保険金の非課税(500万円×法定相続人の数)を使えません。

代襲相続人になった18歳未満の孫にも、未成年者控除はありますか?

あります。代襲相続人の孫は法定相続人なので対象です。また、代襲相続人の孫は相続税額の2割加算の対象にもなりません。

他の税金・手続との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 未成年者控除の根拠は、相続税法19条の3、相続税法施行令4条の3、相基通19の3-1・19の3-3・19の3-4・19の3-5です。
  • 障害者控除の根拠は、相続税法19条の4、相続税法施行令4条の4、相基通19の4-1〜19の4-4です。対象者の範囲は国税庁タックスアンサーNo.4167の範囲表によります。
  • 扶養義務者の範囲は相基通1の2-1によります。
  • 申告書では第6表(未成年者控除額・障害者控除額の計算書)を使い、扶養義務者からの控除もこの表で計算します。

実務論点

  • 年齢基準は取得時期で判定します。2022年4月1日以後の取得は18歳未満(胎児180万円)、同年3月31日以前の取得は20歳未満(胎児200万円)です。
  • 法定相続人は、相続放棄がなかったものとした場合の相続人で判定します。放棄者でも、遺贈で財産を取得すれば控除の対象になり得ます。
  • 国内に住所がない未成年者は、一定の日本国籍者などが対象になります。障害者控除は国内住所が必須です。一時居住者で被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人の場合は、いずれの控除も対象外です。
  • 2回目以降の控除の限度:その者又は扶養義務者が既に控除を受けている場合、今回控除できる金額は、既に控除を受けた金額の合計額が最初の相続の際に控除を受けることができた金額に満たない部分の範囲内に限られます(相続税法19条の3第3項。障害者控除は19条の4第3項で準用)。最初の相続の際の控除可能額は、今回の相続が2022年4月1日以後に開始したものなら、前の相続の際の18歳までの年数で計算します(相基通19の3-5)。
  • 前の相続で一般障害者として控除を受け、今回は特別障害者である場合の今回の控除可能額は、{20万円×(85−Y)+10万円×(Y−X)}−Aです(X:前の相続開始時の年齢、Y:今回の相続開始時の年齢、A:前の相続で控除を受けた障害者控除額。相基通19の4-4)。
  • 障害者かどうかは財産取得時の状況で判定します。相続開始の時に精神障害者保健福祉手帳・身体障害者手帳・戦傷病者手帳の交付を受けていない人でも、①申告書を提出する時に手帳の交付を受けているか交付を申請中で、②手帳又は交付申請用の医師の診断書等により、相続開始の時の現況で明らかに手帳に記載される程度の障害があると認められる場合は、障害者(特別障害者)として扱います(相基通19の4-3)。基準は申告期限ではなく申告書の提出時です。
  • 控除の順序は配偶者の税額軽減の後です。扶養義務者が亡くなった人の配偶者で、軽減後の税額が0円なら、その人からは控除できません。
  • 相続時精算課税の適用者にも障害者控除の適用があります(未成年者控除は限られた場合のみ)。
  • 取得費加算(措置法39条)の相続税額は、未成年者控除・障害者控除の後の額です。これらの控除は足し戻しの対象ではありません(措令25条の16)。
第7章

贈与税額控除・相次相続控除・外国税額控除

同じ財産に税金が重ねてかからないように、相続税には3つの調整の控除があります。生前贈与にかかった贈与税、短い期間に続いた相続、外国の相続税について、計算方法と使えない場合を確認します。

この章の結論

  • 暦年課税分の贈与税額控除:相続税に加算した生前贈与にかかった贈与税を差し引きます。年分ごとに按分して計算し、引ききれなくても還付はありません。
  • 相次相続控除:10年以内に相続が続いたとき、前回の相続で今回の被相続人が納めた相続税の一部を、今回の相続人の税額から差し引きます。前回の税額が0円なら使えません。
  • 外国税額控除:国外の財産に外国で相続税にあたる税がかかったとき、その税額を差し引きます。控除できる額には上限があります。

税額控除の順序と3つの控除の位置

各人の算出税額に2割加算をした後の税額から、税額控除を決まった順序で差し引きます。途中で税額が0円になれば、その後の控除は使えず、マイナスにもなりません。引ききれない額が還付されるのは、最後の相続時精算課税分の贈与税額控除だけです。

  1. 暦年課税分の贈与税額控除この章で説明します。
  2. 配偶者の税額軽減配偶者の税額軽減で説明します。
  3. 未成年者控除未成年者控除・障害者控除で説明します。
  4. 障害者控除同じく未成年者控除・障害者控除で説明します。
  5. 相次相続控除この章で説明します。
  6. 外国税額控除この章で説明します。ここまでで税額が0円になれば0円とします。
  7. 相続時精算課税分の贈与税額控除引ききれない額は還付されます(相続時精算課税の精算と還付)。

暦年課税分の贈与税額控除:加算した贈与の贈与税を差し引く

亡くなった人から暦年課税で贈与を受けていた人は、一定期間内の贈与を相続税の課税価格に加えます(生前贈与加算)。加算の期間は2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から7年に延長されました施行中。ただし経過措置があり、2026年(令和8年)中の相続では、まだ相続開始前3年以内の贈与が対象です。期間が延び始めるのは2027年(令和9年)1月1日以後の相続からです。

加算した贈与に贈与税を納めていれば、同じ財産に二重に課税しないよう、その贈与税を相続税から差し引きます。これが暦年課税分の贈与税額控除です。加算の期間や対象者は生前贈与加算(7年加算)と相続時精算課税の加算で詳しく説明しています。

控除額=その年分の贈与税額×加算した贈与財産の価額÷その年分の贈与財産の価額の合計

  • 控除できるのは、加算した贈与財産にかかった贈与税です。加算税・延滞税・利子税は含みません。
  • 計算は年分ごとに行い、特例贈与財産(その年の1月1日に18歳以上の人が父母・祖父母など直系尊属から受けた贈与)と一般贈与財産は分けて計算します。
  • 相続税から引ききれない額があっても還付されません。
  • 亡くなった年に受けた贈与は、相続・遺贈で財産を取得した人なら贈与税の対象にならず、相続税に加算します。贈与税がかかっていないので、この控除もありません。

計算例1:父と祖母から同じ年に贈与を受けていた場合

前提:長男(30歳)は2024年に、父から現金500万円、祖母から現金300万円の贈与を受け、贈与税を申告して納めました(どちらも特例贈与財産)。父は2026年8月に亡くなり、長男は父の遺産を相続しました。

2024年分の贈与税:(500万円+300万円−110万円)×30%−90万円=117万円
相続税に加算する額:父からの500万円(相続開始前3年以内の贈与)。祖母からの300万円は加算しません
贈与税額控除:117万円×500万円÷800万円=73万1,250円

答え:長男の相続税額から73万1,250円を差し引きます。長男の相続税額がこれより少なくても、差額は還付されません。

2027年以後の相続:延長部分の100万円控除と贈与税額控除施行中

2027年1月1日から2030年(令和12年)12月31日までの相続では、2024年1月1日以後の贈与が加算の対象です。2031年(令和13年)1月1日以後の相続では、相続開始前7年以内の贈与が対象です。相続開始前3年より前の延長部分の贈与は、合計から100万円を引いた額を加算します(相続開始日が2027年1月2日以後の場合)。

このときの贈与税額控除は、100万円を引く前の価額で按分します。計算例1で父が2028年(令和10年)4月に亡くなった場合、2024年の500万円は延長部分の贈与なので加算額は400万円です。それでも控除額は、500万円をもとにした73万1,250円です。

相次相続控除:10年以内に相続が続いたとき

短い期間に相続が続くと、同じ財産に何度も相続税がかかります。そこで、今回亡くなった人が10年以内の前回の相続で財産を取得し、相続税を課されていた場合は、今回の相続人の税額から一定額を差し引きます。これが相次相続控除です。

典型は、父の相続(一次相続)で母が財産を取得して相続税を納め、その後10年以内に母が亡くなる(二次相続)場合です。母の相続人である子が、母が納めた相続税の一部を控除できます。要件は次のとおりです。

  • 今回の相続開始前10年以内に開始した相続で、今回の被相続人が相続・遺贈(相続時精算課税に係る贈与を含む)により財産を取得していること
  • その前回の相続で、今回の被相続人に相続税が課されていたこと。配偶者の税額軽減などで前回の税額が0円なら、控除はありません
  • 控除を受けるのは今回の相続人だけです。相続を放棄した人や相続権を失った人は、遺贈で財産を取得しても対象外です

相次相続控除の計算式と国税庁の例

相次相続控除額=A×C÷(B−A)×D÷C×(10−E)÷10
(C÷(B−A)が1を超えるときは1とします)

A
今回の被相続人が前回の相続で課された相続税額(相続時精算課税分の贈与税額控除後の額。納税猶予で免除された税額、延滞税・利子税・加算税は含みません)
B
今回の被相続人が前回の相続で取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額−債務・葬式費用。2024年以後の精算課税の贈与は基礎控除後の額)
C
今回の相続・遺贈・相続時精算課税の贈与で財産を取得した全員の純資産価額の合計
D
控除を受ける相続人の純資産価額
E
前回の相続から今回の相続までの年数(1年未満は切捨て)

式は3つに分けると分かりやすくなります。(10−E)÷10は、前回の税額を1年ごとに10%ずつ減らす部分です。D÷Cは、それを今回の取得者の純資産価額の割合で分ける部分です。C÷(B−A)は、前回より財産が減っていれば控除も減らす調整で、上限は1です。

計算例2:国税庁の例と、財産が減っていた場合

相次相続控除の計算(単位:万円)
項目国税庁の例財産が減っていた例(仮定)
A 前回の相続税額1,0001,000
B 前回取得した純資産価額15,00015,000
C 今回の全員の純資産価額18,0007,000
D 本人の純資産価額9,0003,500
E 経過年数4年(4年6か月)2年
C÷(B−A)1.28……→10.5
D÷C0.50.5
(10−E)÷100.60.8
相次相続控除額300200

国税庁の例:C÷(B−A)=18,000÷(15,000−1,000)=1.28……→1、控除額=1,000万円×1×0.5×0.6=300万円
財産が減っていた例:C÷(B−A)=7,000÷14,000=0.5、控除額=1,000万円×0.5×0.5×0.8=200万円

答え:国税庁の例の控除額は300万円です。財産が前回の半分に減っていた例では、C÷(B−A)が0.5になるため200万円です。

一次相続で配偶者が軽減の上限を超えて取得し、相続税を納めていた場合は、10年以内の二次相続でこの控除が働きます。夫の遺産2億円・妻固有の財産1,000万円・子2人で、妻が夫の遺産を全部相続して540万円を納め、二次相続まで財産が増減しないと仮定した試算があります。

この試算では、二次相続が1年後なら子2人の控除は合計486万円、5年後なら270万円です。それでも一次と二次の合計税額は、1年後で3,532万円、5年後で3,748万円です。妻が26%だけ取得した場合の2,198万円より大きくなりました(二次相続まで考えた遺産分割)。

外国税額控除:海外の財産に外国の相続税がかかったとき

海外にある財産を相続や遺贈で取得し、その財産に外国でも相続税にあたる税がかかった場合は、その税額を日本の相続税から差し引けます。同じ財産に日本と外国の両方で課税されるのを調整するしくみです。

  • 外国の税額は、納付すべき日の対顧客直物電信売相場(TTS)で円に換算します。国内から送金して納める場合は、送金が著しく遅れない限り、送金日のTTSでもかまいません。
  • 控除できる額には上限があります。一般に、日本の相続税額のうち国外財産に対応する部分(控除前の相続税額×国外財産の価額÷課税価格の計算の基礎に算入された財産の価額)が上限と説明されています。算式の細部は税務署等で確認してください。
  • 上限の計算に使う国外財産の価額は、国外財産の価額の合計から、その財産にかかる債務を差し引いた額です。

たとえば外国の相続税10万ドルを納め、納付すべき日のTTSが1ドル=150円なら、外国の税額は1,500万円として扱います(相場は仮定)。そのうえで上限と比べ、少ない方を控除します。

そもそも国外財産に日本の相続税がかかるかは、相続人と被相続人の住所や国籍などで決まります(相続税の納税義務者と国外財産)。日本にある不動産や、金融機関の国内の営業所に預けた預金などの国内財産は、どの区分でも課税されます。

よくある誤り

  • 生前贈与の贈与税は、相続税から引ききれなければ戻ってくると考えるのは誤りです。還付があるのは相続時精算課税分だけで、暦年課税分は還付されません。
  • 一次相続で配偶者の税額が軽減により0円だった場合、二次相続で相次相続控除は使えません。控除は、前回の相続で相続税が課されていたことが前提です。
  • 相続を放棄した子は、相次相続控除を使えません。控除を受けられるのは相続人だけです。
  • 外国の税額の換算に、財産の評価と同じ相場を使うのは誤りです。外貨建ての財産は課税時期の対顧客直物電信買相場(TTB)で評価しますが、外国税額の換算は納付すべき日のTTSです(預貯金・上場株式・投資信託・公社債・外貨建て財産)。

他の税金との関係

  • 贈与税:生前贈与の贈与税の計算は暦年課税の計算:一般税率と特例税率で説明しています。
  • 譲渡所得:相続した財産を売るときの取得費加算は、納付税額に暦年課税分の贈与税額控除・相次相続控除・相続時精算課税分の贈与税額控除の額を足し戻した相続税額で計算します。これらの控除で納付税額が0円でも、足し戻した後に相続税額があれば特例を使えます(相続税の取得費加算の特例)。
  • 国際相続:海外資産や海外に住む相続人の手続、国外財産調書は国際相続:海外資産と海外在住の相続人で説明しています。
専門家向け:根拠と実務論点

暦年課税分の贈与税額控除

  • 根拠は相続税法19条、令和5年改正法附則19条、相基通19-1・19-2・19-7です。申告書は第4表の2(暦年課税分の贈与税額控除額の計算書)です。
  • 控除額は年分ごと、特例贈与財産・一般贈与財産ごとに按分します。附帯税(加算税・延滞税・利子税)は除き、控除不足額の還付はありません。
  • 延長部分の贈与の100万円控除は加算額の計算上のもので、贈与税額控除の按分は控除前の価額で行います。
  • 加算の対象者は、相続・遺贈(相続時精算課税に係る贈与を含む)で財産を取得した人です。何も取得しない人への贈与は加算されず、その人の贈与税は相続税の計算に関係しません。

相次相続控除

  • 根拠は相続税法20条、相基通20-1〜20-4です。申告書は第7表(相次相続控除額の計算書)です。
  • 対象は相続人に限られます(相基通20-1)。Cには相続人以外の受遺者などの純資産価額も含まれるため、その人の割合に対応する部分は誰も控除できません。
  • 控除の対象は、今回の被相続人が前回の相続で負担した相続税に限られ、さらに前の相続の税額には及びません(相基通20-4)。
  • Eは1年未満を切り捨てるため、国税庁の例では経過期間4年6か月を4年として計算しています。

外国税額控除

  • 根拠は相続税法20条の2、相基通20の2-1(円換算は納付すべき日のTTS。送金日の相場も可)、20の2-2(国外財産の価額は債務控除後)、20の2-4(控除の順序)です。申告書は第8表(外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書)です。
  • 控除限度額の算式(控除前の相続税額×国外財産の価額÷課税価格計算の基礎に算入された財産の価額)は、条文で確認したうえで適用してください。
  • 相続時精算課税で国外財産の贈与を受け、贈与税で外国税額控除を受けていた場合も、相続税から控除する贈与税額は外国税額控除前の税額です(国税庁質疑応答事例)。

取得費加算との関係

  • 措置法39条の相続税額は、納付税額に贈与税額控除(相続税法19条)・相次相続控除(同20条)・相続時精算課税分の贈与税額控除の額を加えた額です(措令25条の16、措通39-4)。
第8章

相続時精算課税の精算と還付

相続時精算課税(以下「精算課税」)で受けた贈与は、贈与した人が亡くなったときに相続税の計算へ戻して精算します。加算する金額、納めた贈与税の差引きと還付、災害の特例を計算例で確認します。

この章の結論

  • 精算課税で受けた財産は、贈与した人(特定贈与者)の相続で贈与時の価額を課税価格に加えます。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与は年110万円の基礎控除を引いた残額、2023年(令和5年)以前の贈与は贈与時の価額のままです。
  • 納めた精算課税の贈与税は、ほかの税額控除の後に相続税から差し引き、引ききれない額は還付されます。還付の申告書は相続開始の日の翌日から5年を経過する日まで出せます。
  • 2024年1月1日以後の災害で、精算課税で受けた土地・建物が一定以上の被害を受けた場合は、税務署長の承認を受けて加算額を減らせます。

相続税に加えるのは「贈与時の価額−基礎控除」

精算課税は、贈与のときに贈与税を納め、贈与した人が亡くなったときに相続税で精算する制度です。受贈者が精算課税を選んだ贈与者を「特定贈与者」、選んだ受贈者を「精算課税適用者」といいます。

加える金額は贈与時の価額で、相続のときに値上がり・値下がりしていても変わりません。2024年1月1日以後の贈与施行中は、年分ごとに「贈与時の価額の合計−基礎控除額」の残額を加えます。基礎控除の部分は、相続の直前の贈与でも加えません。

基礎控除額は、贈与税の申告をした年はその申告額、申告していない年は110万円です。同じ年に父と母など2人以上の特定贈与者から受けた場合は、受贈者1人につき年110万円を贈与額の割合で分けます。

相続税の課税価格に加える額(精算課税の贈与)
贈与した年加える額その年に500万円を贈与その年に100万円を贈与
2023年以前贈与時の価額の合計500万円100万円
2024年以後贈与時の価額の合計−基礎控除額390万円0円

精算課税適用者は、遺産を何も取得しなくても相続税の納税義務者になります。暦年課税の生前贈与加算(2026年(令和8年)中の相続は3年以内施行中)は、精算課税の贈与には適用しません。ただし、精算課税を選ぶ前に同じ人から暦年課税で受けた贈与のうち、加算対象期間内のものは加えます。

納めた贈与税は最後に差し引き、引ききれなければ還付

精算課税で納めた贈与税は、相続税の計算の最後に差し引きます。ほかの税額控除で0円になった後でも差し引くので、その分が還付されます。

  1. 課税価格に加える精算課税の財産を、贈与時の価額(2024年以後の贈与は基礎控除後)で受贈者の課税価格に加えます。
  2. 相続税の総額と各人の税額ふつうの相続と同じ手順で総額を出し、課税価格の割合で分けます。2割加算もここで行います。
  3. ほかの税額控除暦年課税分の贈与税額控除、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除の順に差し引きます。
  4. 精算課税分の贈与税額控除納めた精算課税の贈与税を差し引き、引ききれない額は還付されます。

暦年課税の贈与税は、引ききれなくても還付されません。精算課税の還付を受けるには相続税の申告書を出す必要があり、課税価格の合計が基礎控除以下で申告義務がない場合も同じです。申告書では第11の2表で加算額と控除額を計算し、還付金の振込先は第1表の付表2に書きます。

計算例:納付になる場合と還付になる場合

例1:上場株式3,000万円を精算課税で贈与し、2年後に相続が起きた場合

  • 父(2024年1月1日に68歳)が長男(同40歳)に、2024年に上場株式(贈与時の評価額3,000万円)を贈与しました。長男は精算課税を選び、期限内に選択届出書と申告書を出しました。
  • 父は2026年に亡くなり、相続人は長男と次男です(母は既に死亡)。その他の遺産5,110万円は、長男が1,110万円、次男が4,000万円を取得しました。債務・葬式費用・ほかの贈与はありません。

贈与税(2024年分):(3,000万円−基礎控除110万円−特別控除2,500万円)×20%=78万円

加算額:3,000万円−110万円=2,890万円
課税価格:長男1,110万円+2,890万円=4,000万円、次男4,000万円、合計8,000万円
課税遺産総額:8,000万円−基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円×2人)=3,800万円
相続税の総額:3,800万円×1/2=1,900万円、(1,900万円×15%−50万円)×2人=470万円

例1の各人の税額
項目長男次男合計
課税価格4,000万円4,000万円8,000万円
算出税額(按分割合0.50ずつ)235万円235万円470万円
精算課税分の贈与税額控除△78万円―△78万円
納付税額157万円235万円392万円

答え:納付税額は長男157万円、次男235万円です。長男は先に納めた贈与税78万円と合わせて235万円を負担します。

例2:相続税がかからず、贈与税が全額戻る場合(国税庁の例)

贈与税:精算課税で3,300万円を贈与、(3,300万円−110万円−2,500万円)×20%=138万円
相続:相続財産1,500万円+加算額3,190万円=4,690万円、法定相続人3人の基礎控除4,800万円以下なので相続税は0円

答え:納めた贈与税138万円が還付されます。還付を受けるために相続税の申告書を提出します。

贈与時の価額で固定される意味:値上がりと値下がり

例1の株式の相続時の評価額で比べます。贈与しなかった場合は相続時の評価額で課税され、精算課税なら加算額は2,890万円のまま、相続税の総額は470万円です。

相続時の評価額ごとの比較(例1の家族)
相続時の株式の評価額贈与しなかった場合の課税価格の合計贈与しなかった場合の相続税の総額精算課税にした場合の増減
3,000万円(変わらない)8,110万円4,865,000円165,000円減
5,000万円(値上がり)1億110万円7,865,000円3,165,000円減
1,500万円(値下がり)6,610万円2,615,000円2,085,000円増

評価額3,000万円の場合:(8,110万円−4,200万円)×1/2=1,955万円、(1,955万円×15%−50万円)×2人=4,865,000円

評価額が変わらなくても165,000円少ないのは、基礎控除の110万円が加算されないためです(110万円×15%)。値上がりする財産では有利に、値下がりする財産では不利に働き、値下がりへの救済は次の災害の特例に限られます。

災害で被害を受けた土地・建物は加算額を減らせる

精算課税で受けた土地・建物が、2024年1月1日以後の災害で被害を受けた場合の特例です施行中。税務署長の承認を受けると、加算額を「贈与時の価額−被災価額」にでき、2024年以後の贈与ならさらに基礎控除を引きます。2023年以前の精算課税の贈与も対象です。

  • 贈与の日から特定贈与者の相続税の申告期限までに被害を受け、贈与の日から災害の日まで持ち続けていたこと
  • 被災価額(被害額−保険金などで補てんされた額)が、土地は贈与時の価額の10%以上、建物は想定価額の10%以上であること
  • 物理的な被害であること(地価の下落などは対象外)と、災害減免法の適用を受けていないこと
  • 承認申請書を、原則として災害の発生日から3年を経過する日までに、贈与税の納税地の所轄税務署長に出すこと

建物の想定価額は「贈与時の価額×(残存年数−贈与の日から災害の日までの年数)÷残存年数」で、残存年数は贈与時の事務所用の耐用年数をもとにします。

例3:精算課税で受けた建物が災害で被害を受けた場合(国税庁の例)

贈与時の価額2,000万円、想定価額1,600万円、被災価額300万円
判定:300万円 ≧ 1,600万円×10%=160万円なので要件を満たす
加算額:2,000万円−300万円=1,700万円(2024年以後の贈与なら、ここから基礎控除を引く)

答え:承認を受ければ、加算額は2,000万円ではなく1,700万円(基礎控除前)になります。

精算課税の財産がある相続で確認すること

精算課税の贈与は何年前のものでも加算するので、受贈者本人に贈与の記録を確かめます。

相続が起きたら確認すること

  • 選択届出書と贈与税の申告書の控えで、特定贈与者・年分・財産と価額、納めた贈与税を確かめた
  • 2024年以後の贈与は、年分ごとに基礎控除後の額を出した
  • 遺産を取得しない精算課税適用者も、申告書の作成に加えた
  • 受贈者が孫(孫養子を含む)なら2割加算を計算した(代襲相続人の孫は対象外)

精算課税で受けた宅地には小規模宅地等の特例が使えず、精算課税で取得した財産は物納にも充てられません。受贈者が先に亡くなった場合は、受贈者の相続人(特定贈与者を除く)が権利と義務を引き継ぎ、相続人が特定贈与者だけなら消えます。

よくある誤り

  • 相続時の時価で加算するのは誤りです。加算するのは贈与時の価額です。
  • 年110万円以下の精算課税の贈与も加算するのは誤りです。基礎控除の部分は加算しません。暦年課税は110万円以下でも加算対象期間内なら加算するので、扱いが逆です。
  • 遺産を取得しないので申告は関係ないと考えるのは誤りです。精算課税適用者は納税義務者で、還付にも申告が必要です。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点
  • 加算の根拠は相続税法21条の15・21条の16、基礎控除は21条の11の2・措法70条の3の2です。加算額は贈与時の価額(相基通21の15-2)、控除する基礎控除額は申告額、申告がなければ110万円または按分額です(21の15-2の2)。按分には年の中途で死亡した特定贈与者の分も含めます(21の11の2-2)。
  • 贈与税額の控除は相続税法21条の15第3項・21条の16第4項、33条の2で、他の税額控除の後に行います(相基通21の15-4)。控除するのは外国税額控除前の贈与税額です(質疑応答事例)。還付申告は相続税法27条3項、期限は相基通27-8です。
  • 災害の特例は措法70条の3の3、措令40条の5の3です。承認申請の期限には、特定贈与者の死亡後は死亡を知った日の翌日から6か月を経過する日の方が遅ければその日とするなどの特則があります。
  • 選択前の同じ贈与者からの暦年課税贈与で加算対象期間内のものは生前贈与加算の対象です(相基通19-11)。2割加算では、贈与時に一親等の血族だった場合の調整があります(相基通18-5)。
  • 期限内に選択届出書だけを出し、贈与税が期限後申告になった場合、精算課税は適用されますが特別控除は使えません(質疑応答事例)。
  • 取得費加算(措法39条)の相続税額は、精算課税分の贈与税額控除を足し戻した額です。受贈者が先に死亡した場合、承継される精算課税の納税義務は、その受贈者の相続税の計算で債務控除の対象になりません(質疑応答事例)。
  • 国税庁は、2026年9月下旬(予定)から書面提出分を含む精算課税の適用状況をe-Taxのマイページで確認できるようにすると案内していました(開始状況は国税庁の案内で確認)。
第9章

計算例で確認:5つの家族

家族構成と財産の違う5つの例で、課税価格から納付税額までを通して計算します。すべての数字を検算し、途中の式と端数処理を残しています。

この章の結論

  • 相続税の総額は、実際の分け方に関係なく、法定相続人の数と法定相続分で決まります。分け方で変わるのは、各人がいくら納めるかです。
  • 配偶者の取得額が1億6,000万円か法定相続分相当額の多い方までなら、配偶者の税額は0円です。ただし0円でも申告が必要です(家族1・2・4)。
  • 生命保険金の非課税と小規模宅地等の特例は課税価格を、孫養子の2割加算と未成年者控除は各人の税額を変えます。効く段階の違いを例で確かめてください(家族2〜5)。

5つの例の共通の前提と結果の一覧

どの例も、2026年(令和8年)中に亡くなった人の相続を、2026年10月時点の法令で計算しています。財産の額は評価した後の金額で、債務・葬式費用・生前贈与はないものとします。計算の手順は相続税の計算の4ステップ、総額の出し方は相続税の総額:速算表と法定相続分で説明しています。

端数は、各人の課税価格と法定相続分に応ずる取得金額は1,000円未満、相続税の総額と各人の納付税額は100円未満を切り捨てます。途中で出る1円未満も切り捨てます。按分割合は課税価格の比のまま計算し、小数点以下2位にそろえる方法との違いは家族3で示します。

5つの家族の計算結果
家族相続人課税価格の合計相続税の総額納付税額の合計
1配偶者・子2人1億円630万円315万円
2配偶者・子2人2億円2,700万円1,350万円
3子3人1億6,500万円1,740万円17,399,900円
4配偶者・子・孫養子3億円5,720万円30,888,000円
5子2人(1人は16歳)8,000万円470万円450万円

家族1:配偶者と子2人、遺産1億円を法定相続分で取得

家族1:遺産1億円を、配偶者5,000万円、長男・長女2,500万円ずつで分けた場合

法定相続人は3人で、法定相続分は配偶者2分の1、子は4分の1ずつです。

基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:1億円−4,800万円=5,200万円
法定相続分に応ずる取得金額:配偶者5,200万円×1/2=2,600万円、子5,200万円×1/4=1,300万円
税額:配偶者2,600万円×15%−50万円=340万円、子1,300万円×15%−50万円=145万円
相続税の総額:340万円+145万円×2人=630万円

配偶者の税額軽減:630万円×5,000万円÷1億円=315万円
(1億6,000万円と法定相続分相当額5,000万円の多い方は1億6,000万円。配偶者の課税価格5,000万円の方が少ないので5,000万円で計算)

家族1の各人の税額
項目配偶者長男長女合計
課税価格5,000万円2,500万円2,500万円1億円
按分割合0.500.250.251.00
算出税額315万円1,575,000円1,575,000円630万円
配偶者の税額軽減△315万円――△315万円
納付税額0円1,575,000円1,575,000円315万円

答え:相続税の総額は630万円、納付税額は配偶者0円、長男・長女1,575,000円ずつ(合計315万円)です。

この家族で注意すること:配偶者の税額を0円にするには、軽減の明細を書いた申告書の提出が必要です。また、配偶者が取得した5,000万円は二次相続で課税されます。配偶者に固有の財産がなく金額も変わらないと仮定すると、子2人の基礎控除4,200万円を引いた800万円に課税され、税額は80万円(40万円ずつ)です(現行の税率で計算)。

家族2:自宅に小規模宅地等の特例を使い、配偶者が1億円を取得

家族2:特例を適用した後の遺産2億円のうち、配偶者が自宅を含めて1億円を取得した場合

  • 自宅の土地(330㎡以内)の評価額5,000万円に、特定居住用宅地等の80%減額を使い、1,000万円にしました(5,000万円×(1−0.8)=1,000万円)。配偶者が取得する場合、居住や保有を続ける要件はありません。
  • 特例を適用した後の遺産は2億円(特例前は2億4,000万円)です。配偶者が自宅を含めて1億円、長男・次男が5,000万円ずつを取得しました。

課税遺産総額:2億円−基礎控除4,800万円=1億5,200万円
法定相続分に応ずる取得金額:配偶者1億5,200万円×1/2=7,600万円、子1億5,200万円×1/4=3,800万円
税額:配偶者7,600万円×30%−700万円=1,580万円、子3,800万円×20%−200万円=560万円
相続税の総額:1,580万円+560万円×2人=2,700万円(国税庁の計算例と同じ)
配偶者の税額軽減:2,700万円×1億円÷2億円=1,350万円(配偶者の課税価格1億円は1億6,000万円より少ない)

家族2の各人の税額
項目配偶者長男次男合計
課税価格1億円5,000万円5,000万円2億円
按分割合0.500.250.251.00
算出税額1,350万円675万円675万円2,700万円
配偶者の税額軽減△1,350万円――△1,350万円
納付税額0円675万円675万円1,350万円

答え:相続税の総額は2,700万円、納付税額は配偶者0円、長男・次男675万円ずつ(合計1,350万円)です。

特例を使わない場合と比べます。課税価格の合計は2億4,000万円、相続税の総額は3,700万円です。子の納付税額は7,708,300円ずつ、合計15,416,600円になります。

特例なしの総額:課税遺産総額1億9,200万円、配偶者9,600万円×30%−700万円=2,180万円、子4,800万円×20%−200万円=760万円、2,180万円+760万円×2人=3,700万円
特例なしの子の税額:3,700万円×5,000万円÷2億4,000万円=7,708,333円(100円未満を切り捨てて7,708,300円)

特例を使ったのは配偶者が取得した土地ですが、相続税の総額が下がるため、子2人の税額も合計1,916,600円減っています。

この家族で注意すること:小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、どちらも申告書の提出と申告期限までの遺産分割が条件です。分割が間に合わないときは「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、申告が必要かどうかは特例を使う前の2億4,000万円で判定します。

家族3:配偶者なし・子3人、長男が生命保険金3,000万円を受け取る

家族3:遺産1億5,000万円を子3人で5,000万円ずつ分け、長男が死亡保険金3,000万円を受け取った場合

  • 保険料は亡くなった父が負担し、受取人は長男です。保険金は長男固有の財産で遺産分割の対象になりませんが、相続税ではみなし相続財産として課税されます。
  • 非課税限度額は500万円×法定相続人3人=1,500万円です。受け取ったのは長男だけなので、全額を長男の保険金から引きます。

長男の保険金の課税額:3,000万円−1,500万円×(3,000万円÷3,000万円)=1,500万円
課税価格:長男5,000万円+1,500万円=6,500万円、次男・長女5,000万円ずつ、合計1億6,500万円
課税遺産総額:1億6,500万円−基礎控除4,800万円=1億1,700万円
法定相続分に応ずる取得金額:1億1,700万円×1/3=3,900万円(各人)
相続税の総額:(3,900万円×20%−200万円)×3人=580万円×3人=1,740万円

長男:1,740万円×6,500万円÷1億6,500万円=6,854,545円(1円未満切捨て)
次男・長女:1,740万円×5,000万円÷1億6,500万円=5,272,727円

家族3の各人の税額(按分割合は課税価格の比)
項目長男次男長女合計
課税価格6,500万円5,000万円5,000万円1億6,500万円
按分割合約0.394約0.303約0.3031
算出税額6,854,545円5,272,727円5,272,727円17,399,999円
納付税額6,854,500円5,272,700円5,272,700円17,399,900円

答え:相続税の総額は1,740万円、納付税額は長男6,854,500円、次男・長女5,272,700円ずつ(合計17,399,900円)です。

按分割合を小数点以下2位にそろえる方法もあります。そのまま切り捨てると0.39・0.30・0.30で合計が0.99になるため、合計が1になるよう端数を調整します。長男を0.40とする方法を全員が選んだ場合は、長男696万円、次男・長女522万円ずつです。誰に端数を寄せるかで各人の税額が変わるので、相続人全員が選んだ方法であることが条件です。

この家族で注意すること:生命保険金の非課税は、受取人が相続人の場合だけ使えます。保険金を受け取った人はその分の相続税も負担するので、それも含めて分け方を決めます。

家族4:配偶者・子・孫養子、遺産3億円(孫養子に2割加算)

家族4:遺産3億円を、配偶者1億5,000万円、長男9,000万円、孫養子6,000万円で分けた場合

  • 孫養子は長男の子で、被相続人の養子です。長男が生きているので代襲相続人ではなく、2割加算の対象です。
  • 実子(長男)がいるので、法定相続人の数に入れる養子は1人までです。法定相続人は配偶者・長男・孫養子の3人で、法定相続分は配偶者2分の1、長男と孫養子は4分の1ずつです。

課税遺産総額:3億円−基礎控除4,800万円=2億5,200万円
法定相続分に応ずる取得金額:配偶者2億5,200万円×1/2=1億2,600万円、長男・孫養子2億5,200万円×1/4=6,300万円
税額:配偶者1億2,600万円×40%−1,700万円=3,340万円、長男・孫養子6,300万円×30%−700万円=1,190万円
相続税の総額:3,340万円+1,190万円×2人=5,720万円

配偶者の税額軽減:5,720万円×1億5,000万円÷3億円=2,860万円(配偶者の課税価格1億5,000万円は1億6,000万円より少ない)
孫養子の2割加算:算出税額1,144万円×20%=2,288,000円

家族4の各人の税額
項目配偶者長男孫養子合計
課税価格1億5,000万円9,000万円6,000万円3億円
按分割合0.500.300.201.00
算出税額2,860万円1,716万円1,144万円5,720万円
2割加算――2,288,000円2,288,000円
配偶者の税額軽減△2,860万円――△2,860万円
納付税額0円1,716万円13,728,000円30,888,000円

答え:相続税の総額は5,720万円、納付税額は配偶者0円、長男1,716万円、孫養子13,728,000円(合計30,888,000円)です。

参考までに、孫養子がおらず、その分も長男が取得した場合(配偶者・長男1億5,000万円ずつ)と比べます。基礎控除は4,200万円、相続税の総額は6,920万円、長男の納付税額は3,460万円です。

課税遺産総額:3億円−4,200万円=2億5,800万円
相続税の総額:2億5,800万円×1/2=1億2,900万円、(1億2,900万円×40%−1,700万円)×2人=3,460万円×2人=6,920万円

この家族で注意すること:孫養子は代襲相続人でない限り2割加算の対象で、代襲相続人になった孫とは扱いが違います。養子を数に入れることで相続税の負担を不当に減らす結果になると認められる場合は、その養子を数に入れない規定もあります(養子縁組)。

家族5:子2人のうち1人が16歳3か月(未成年者控除)

家族5:遺産8,000万円を、長男(30歳)と次男(16歳3か月)が4,000万円ずつ取得した場合

  • 配偶者はいません。法定相続人は子2人で、法定相続分は2分の1ずつです。
  • 次男は国内に住んでいて、相続のときに18歳未満の法定相続人なので、未成年者控除を受けられます。

課税遺産総額:8,000万円−基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円×2人)=3,800万円
法定相続分に応ずる取得金額:3,800万円×1/2=1,900万円(各人)
相続税の総額:(1,900万円×15%−50万円)×2人=235万円×2人=470万円
未成年者控除:18歳までの1年9か月を切り上げて2年、10万円×2年=20万円

家族5の各人の税額
項目長男次男合計
課税価格4,000万円4,000万円8,000万円
算出税額(按分割合0.50ずつ)235万円235万円470万円
未成年者控除―△20万円△20万円
納付税額235万円215万円450万円

答え:相続税の総額は470万円、納付税額は長男235万円、次男215万円(合計450万円)です。

未成年者控除が本人の税額より大きいときは、引ききれない額を扶養義務者の税額から引けます。この例では次男の税額から全額引けます。

この家族で注意すること:遺産分割協議では、未成年の次男は親権者などの法定代理人が代理します。代理人も相続人である場合など利益が相反するときは、家庭裁判所に特別代理人の選任を求めます(認知症・未成年者・相続人がいない場合・デジタル遺産)。

計算例でよくある誤り

  • 速算表を各人が実際に取得した額に当てはめるのは誤りです。当てはめるのは法定相続分に応ずる取得金額です(家族4で孫養子の取得額6,000万円に当てはめるのは誤り)。
  • 生命保険金の非課税を相続人でない受取人にも使うのは誤りです。非課税は受取人が相続人の場合だけです。
  • 孫養子の2割加算を忘れないよう注意します。代襲相続人でない孫養子は対象です。
  • 未成年者控除の1年未満を切り捨てるのは誤りです。1年未満は切り上げます(16歳3か月なら2年)。
  • 税額が0円になったので申告しないのは誤りです。配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は申告が条件です。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点
  • 相続税の総額は、法定相続人が法定相続分どおり取得したと仮定して計算します(相続税法16条、相基通16-1)。法定相続人の数は放棄がなかったものとし、養子は実子ありで1人・なしで2人までです(相続税法15条2項・3項)。否認規定は相続税法63条です。
  • 端数:課税価格の1,000円未満切捨ては相基通16-2(義務)、法定相続分に応ずる取得金額の1,000円未満と総額の100円未満の切捨ては相基通16-3(許容)です。按分割合の小数点以下2位での調整は相基通17-1で、全員の選択が前提です。申告書の按分割合は小数点以下10位まで書け、家族3を10位まで計算しても各人の税額は同じです。
  • 配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)の②配偶者の課税価格からは、申告期限までに分割されていない財産を除きます。家族2のように配偶者が取得した宅地に小規模宅地等の特例を使っても、総額が下がるため他の相続人の算出税額が下がります。
  • 2割加算(相続税法18条)は税額控除前の算出税額に乗じます。孫養子が代襲相続人を兼ねる場合は対象外です(相基通18-3)。
  • 未成年者控除(相続税法19条の3)は1年未満切上げで、控除不足額は扶養義務者から控除します。2022年(令和4年)4月1日前の取得は20歳基準でした。
  • 生命保険金の各相続人の非課税額は、非課税限度額×その相続人の受取額÷相続人全員の受取額です(相続税法12条)。前納保険料・剰余金・割戻金も保険金に含めます(国税庁「誤りやすい事例集」)。
  • 小規模宅地等の特例(措法69条の4)の特定居住用宅地等は330㎡・80%減額で、配偶者の取得には取得者要件がありません。申告義務の判定は特例を適用しないで計算します(相基通27-1)。
第10章

相続税シミュレーター

家族構成と財産の金額を入れると、法定相続人の判定から各人の納付税額までを試算できます。使う前に、入力する金額の考え方と、結果の前提・限界を確認してください。

この章の結論

  • 財産は評価した後の金額を入れます。小規模宅地等の特例は減額後の金額で入力し、土地や自社株の評価は別に行います。
  • 法定相続人の判定、生命保険金・死亡退職金の非課税、債務・葬式費用、生前贈与と相続時精算課税の加算、配偶者の取得割合、2割加算・未成年者控除・障害者控除を反映し、各人の税額と根拠を表示します。
  • 結果は目安です。申告が必要かどうかは特例を使う前の金額で判定し、相次相続控除・外国税額控除などは別に確認します。

シミュレーターで各人の税額を試算する

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このシミュレーターは、相続税の計算の4ステップの順に、各人の課税価格、課税遺産総額、相続税の総額、各人の納付税額を計算します。家族構成から法定相続人と法定相続分を判定し、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)も自動で出します。結果には、各人の税額と、どの控除をいくら引いたかの根拠が表示されます。

入力に慣れるには、計算例で確認:5つの家族の家族1を入れてみてください。配偶者と子2人、課税価格1億円、配偶者の取得割合2分の1なら、計算上は相続税の総額630万円、納付税額は配偶者0円、子1,575,000円ずつです。

入力の前に用意する情報

  1. 家族構成配偶者の有無、実子の数と養子の数です。子がいなければ父母、父母もいなければ兄弟姉妹の数を入れます。相続放棄をした人も数に含め、養子は実子がいれば1人、いなければ2人まで数えます(自動で調整)。亡くなった子に代わって孫が相続する代襲相続と、半血の兄弟姉妹は、このシミュレーターでは扱っていません。
  2. 財産の額土地・建物・株式などは相続税の評価額で入れます。小規模宅地等の特例を使う土地は減額後の金額です。
  3. 生命保険金・死亡退職金それぞれ500万円×法定相続人の数が非課税です。相続人以外や相続放棄をした人が受け取った分には非課税がありません。
  4. 債務・葬式費用控除できるものだけを入れます(債務控除と葬式費用)。
  5. 生前贈与暦年課税の加算額(2026年(令和8年)中の相続は相続開始前3年以内の贈与)と、精算課税の加算額(2024年(令和6年)以後の贈与は贈与時の価額−年110万円)です。
  6. 分け方と各人の事情配偶者の取得割合、2割加算の対象になる人(孫養子・兄弟姉妹など)、18歳未満の人と障害者の年齢、障害者の区分(一般・特別)です。

2027年(令和9年)1月1日以後の相続では、暦年課税の加算期間が段階的に延びます施行中。加算額は生前贈与加算(7年加算)と相続時精算課税の加算のツールで判定してから入れてください。

結果の見方:各人の税額と根拠

結果に表示される主な項目
項目意味詳しい説明
課税価格取得財産+みなし相続財産−非課税財産+精算課税の加算額−債務・葬式費用+暦年課税の加算額(1,000円未満切捨て)課税価格の計算
相続税の総額課税遺産総額を法定相続分どおりに分けたと仮定し、速算表で計算した税額の合計相続税の総額
算出税額・2割加算総額を課税価格の割合で分けた額と、対象者の20%の加算各人の税額と2割加算
税額控除配偶者の税額軽減、未成年者控除など配偶者の税額軽減・未成年者控除・障害者控除
納付税額各人が納める額(100円未満切捨て)相続税の計算の4ステップ

相続税の総額は分け方で変わらず、変わるのは各人の負担です。配偶者の取得額を1億6,000万円か法定相続分相当額の多い方まで増やすと、一次相続の納付税額は下がります。ただし、二次相続の税額が増えることがあります。

前提と限界

シミュレーターの前提
区分内容
入力前に別に計算するもの土地・建物・自社株などの評価、小規模宅地等の減額、生前贈与の加算額
反映されないか簡易な扱いのもの相次相続控除、外国税額控除(必要なら贈与税額控除・相次相続控除・外国税額控除の手順で別に計算)。代襲相続と半血の兄弟姉妹は扱いません。保険金・退職金・生前贈与の加算額は、各人の取得割合で配分する概算です(実際は受け取った人の課税価格に入ります)
基準とする法令2026年10月時点の基礎控除・速算表・非課税限度額

根拠の表示に出てこない控除は、計算に入っていません。未成年者控除・障害者控除で引ききれない額は、他の相続人の税額から順に差し引いて表示します。実際に差し引けるのは扶養義務者の税額に限られるため、表示を確かめて調整します。死亡保険金の非課税限度額の引上げが、令和9年度税制改正で要望されています要望段階。2026年10月時点では決まっていないため、現行の500万円×法定相続人の数で考えます。

注意:結果が基礎控除以下でも申告が必要な場合

小規模宅地等の特例の減額後の金額で入れると、結果が基礎控除以下になることがあります。申告が必要かどうかは特例を使う前の金額で判定し、特例も配偶者の税額軽減も申告しなければ使えません。申告期限までに遺産分割がまとまらない場合は、両方を使わない前提で試算します。

二次相続・小規模宅地・詳しい試算へ進む

国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」でも、申告が必要かどうかのおおよその判定と、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)・配偶者の税額軽減を使った税額の試算ができます。ただし2割加算は考えず、生命保険金・死亡退職金・精算課税の財産は便宜上法定相続分で計算する、と案内されています。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点
  • 計算の根拠は相続税法12条(非課税財産)、13条(債務控除)、15条(基礎控除)、16条(総額)、17条(按分)、18条(2割加算)、19条の2(配偶者の税額軽減)、19条の3(未成年者控除)、19条の4(障害者控除)、19条・21条の15・21条の16(贈与の加算)です。
  • 按分割合を課税価格の比のまま計算するか、小数点以下2位で調整するか(相基通17-1、全員の選択が前提)で、各人の税額が変わることがあります。家族3では長男の納付税額が105,500円違います。
  • 申告義務は、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用しないで計算して納付税額が出るかで判定します(相基通27-1)。
  • 未分割で申告する場合は、未分割財産を民法の相続分等で取得したものとして課税価格を計算します(相続税法55条)。
  • 精算課税分の贈与税額控除で引ききれない額は還付され、還付申告は相続開始の日の翌日から5年を経過する日まで提出できます(相基通27-8)。
CONSULTATION相続税・贈与税・資産税・事業承継のご相談

ジェイスタート会計事務所は、公認会計士・税理士の事務所として、生前対策から相続税の申告、不動産の売却、会社・事業の次世代への引き継ぎまでを支援しています。ご相談の内容は守秘義務のもとで取り扱います。

  • 相続税・贈与税・譲渡所得税の申告
  • 土地の評価(不整形地補正・小規模宅地等の特例)
  • 非上場株式の評価・同族会社の自社株集約
  • 生前対策・相続時精算課税の活用
  • 不動産売却における特別控除の適用
  • 事業承継税制のご提案と活用

相続税の申告期限は10か月。特例の適用は期限内申告が前提です。まずは期限とご状況をお知らせください。初回のご相談は無料です。お問い合わせには原則として翌営業日までにお返事します。

このページの出典・参考資料(56件)

このページは、2026年10月17日時点で確認できた法令・通達・国税庁などの公表資料にもとづく一般的な解説です。税制や運用は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。実際の申告・手続の際は、最新の公表資料を確認するか、税理士などの専門家にご相談ください。

計算例・設例の数値は説明のための仮定です。計算ツールの結果は概算で、正確性や個別の結果を保証するものではありません。確定度ラベル(施行中・成立・施行待ち・通達案・検討中・要望段階など)は2026年10月17日時点の状態を示します。

最終確認日:2026年10月17日 作成:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)

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