非上場株式(自社株)の評価|類似業種比準・純資産価額・配当還元・所得税の時価

自社株の評価は、相続・贈与だけでなく、後継者や会社への売買、事業承継の手法選びを左右します。現行の財産評価基本通達による評価方法と、所得税・法人税上の時価、2026年の改正(38%・新様式)、有識者会議の検討状況までを解説します。

相続税・贈与税 総合ガイド|非上場株式の評価

非上場株式(自社株)の評価評価方式の判定から所得税・法人税の時価、事業承継まで

同じ株式でも、相続税の評価、配当還元価額、所得税の時価で価額が大きく違います。評価方式の判定から計算、売買のときの注意点まで、国税庁の設例と同じ手順で確認できます。

純資産価額の38%(2026年4月〜)に対応株価・規模・株主区分の計算ツール2026年10月17日時点
38%評価差額に対する法人税等相当額(2026年4月1日以後)出典:国税庁
0.7・0.6・0.5類似業種比準価額の斟酌率出典:財産評価基本通達180
10%配当還元方式の還元率出典:財産評価基本通達188-2
検討中評価方法の見直し(有識者会議)出典:国税庁
第1章

自社株の評価が必要になる場面と一物多価

上場していない会社の株式(自社株)には、市場でついた値段がありません。そのため、税金の種類と取引の相手によって、使う評価額が変わります。この章では、評価が必要になる場面と、同じ株式に複数の価格がつく「一物多価」の全体像を整理します。

この章の結論

  • 相続・贈与で取得した自社株は、国税庁の財産評価基本通達で評価します。株式を取得した人の議決権と会社の規模によって、評価方式が決まります。
  • 同じ株式でも、相続税の評価額・配当還元価額・所得税や法人税の時価・M&Aの価格は一致しません。誰から誰へ動くのか、どの税金の場面なのかで、使う価格を選びます。
  • 2026年(令和8年)4月1日以後の相続・贈与から、純資産価額の計算で差し引く法人税額等相当額は38%です(それより前は37%)施行中。評価方法の抜本的な見直しは国税庁の有識者会議で検討中で検討中、2026年10月時点の評価は現行の通達で行います。

自社株の評価が必要になる場面

自社株の評価が必要になるのは、相続や贈与のときだけではありません。後継者への売買、会社や持株会社への売却、従業員への譲渡など、株式が動くたびに「税務上いくらと考えるか」が問題になります。取引価格が税務上の時価より低すぎると、買った人に贈与税がかかったり、売った人が時価で売ったとみなされたりします。

上場株式や気配相場等のある株式以外の株式を、国税庁の財産評価基本通達(以下「評価通達」)では「取引相場のない株式」と呼びます。主な場面と、使う評価の基準は次のとおりです。

自社株の評価が必要になる主な場面
場面主にかかわる税金使う評価の基準詳しい説明
相続・遺贈で取得相続税評価通達(取得した人の取得後の議決権で判定)評価方式の判定
生前贈与で取得贈与税(相続時精算課税なら、相続時に贈与時の価額で加算)評価通達相続時精算課税
後継者など個人への売買売主は譲渡所得。著しく低い価格なら買主に贈与税買主側は評価通達(買主の取得後の議決権)みなし贈与
発行会社への売却(金庫株)売主はみなし配当と譲渡所得(相続税額がある相続人などには特例あり)所得税の時価(所得税基本通達59-6)金庫株とみなし配当の特例
持株会社など法人への売却・贈与個人側は譲渡所得(贈与や時価の2分の1未満での売却は時価で課税)。法人は受贈益所得税の時価、法人税の時価所得税・法人税上の時価
従業員・従業員持株会への譲渡従業員側は、低い価格なら贈与税の問題同族株主等でない従業員は配当還元方式配当還元方式
第三者への売却(M&A)売主は株式の譲渡所得当事者の交渉による価格株式の譲渡と相続した株式
事業承継税制の適用贈与税・相続税の納税猶予。特例措置は2027年(令和9年)12月31日までの贈与・相続が対象期限あり評価通達事業承継税制と承継手法

従業員への譲渡では、譲り受けるのが個人か法人かで結論が変わります。同族株主等に当たらない従業員個人が配当還元価額で買っても、贈与税の問題は通常生じません。一方、一般社団法人や持株会社などの法人が譲り受けるなら、売主の議決権で判定した所得税の時価が基準になり、時価の2分の1未満とされるおそれがあります。

一物多価:同じ株式に複数の価格がある

相続税・贈与税、所得税、法人税は、それぞれ違う目的で株式の価額を決めるため、自社株の「時価」は1つではありません。M&Aの価格は、税金とは別に当事者の交渉で決まります。

自社株の主な価格(一物多価)
価格の種類主に使う場面決め方の要点
相続税評価額(原則的評価方式)同族株主等が相続・贈与で取得した株式会社規模に応じて、類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用で評価
配当還元価額(特例的評価方式)同族株主等以外の少数株主が相続・贈与で取得した株式年配当金額を10%で還元。原則的評価方式の価額が上限
個人間の売買で使う価額買主への贈与税(みなし贈与)の判定相続税評価と同じ考え方で、買主の取得後の議決権で判定
所得税の時価個人から法人(発行会社・持株会社・一般社団法人など)への譲渡・贈与所得税基本通達59-6。評価通達の方法を、売主の立場に合わせた4つの条件付きで使用(下の比較を参照)
法人税の時価法人から個人への譲渡、法人どうしの売買、法人が持つ株式の評価損益法人税基本通達9-1-14・4-1-6など。課税上弊害がない限り、評価通達の方法を条件付きで使用
M&Aの価格第三者への売却当事者の交渉による価格で、評価通達の評価額とは別
会社法の手続による買取りの価格など会社法の手続で会社などが株式を買い取る場合会社法の手続の中で決まる価格で、税務上の評価額とは別

価格が分かれる大きな理由は、税金ごとに「誰の立場で評価するか」が違うことです。相続税・贈与税は財産を取得した人に課税するので、取得した人の取得後の議決権で評価方式を判定します。

一方、譲渡所得の課税は、売った人のもとで生じた値上がり益を株式が移るときに清算するものです。最高裁は2020年(令和2年)3月24日の判決で、この場合は売った人の会社への支配力に応じた評価方法を使うべきだと判断しました。同年8月には、所得税基本通達59-6でこの点を明確にする改正がされています。

相続税・贈与税(取得した人の視点)

  • 株主の区分は、取得した人の取得後の議決権で判定
  • 少数株主が取得すれば配当還元価額
  • 純資産価額では、評価差額に対する法人税額等相当額(38%。2026年3月31日以前の取得は37%)を控除
  • 会社が持つ土地は路線価など評価通達の評価額

所得税(売った人の視点)

  • 株主の区分は、売った人の譲渡・贈与直前の議決権で判定
  • 売った人が中心的な同族株主なら、会社を小会社とみなして計算
  • 法人税額等相当額の控除なし
  • 会社が持つ土地・上場有価証券は譲渡の時の時価

よくある誤り:「相続税評価額で売れば安全」

相続税評価額や配当還元価額で法人に売れば問題ない、とは限りません。個人が法人に時価の2分の1未満の価格で売ると、時価で売ったものとみなされます(所得税法59条1項2号)。このときの時価は所得税の時価で、相続税評価額より高くなることがあります。

特に、配当還元価額での売却は買い手が法人のときに注意が必要です。売り手が原則的評価方式の対象となる株主なら、所得税ではその時価が基準になります。2020年の最高裁判決は、この構図の事案でした。

評価の流れ:株主の区分から評価額まで

相続・贈与で取得した自社株は、次の順序で評価します。最初の株主の区分で同族株主等以外となれば、会社規模に関係なく配当還元方式です。原則的評価方式の価額の方が低ければそれが上限になりますが、原則的評価方式の価額の方が高いと認められるときは、その計算を省略できます(評価明細書の記載方法)。

1 株主の区分同族株主等か配当還元方式同族株主等以外の株主同族株主等以外2 会社規模大・中(L)・小同族株主等3 特定の評価会社か株式・土地保有など純資産価額方式が原則株式保有特定会社はS1+S2も可該当一般の評価会社(原則的評価方式)大会社:類似業種比準価額 中会社:類似×L+純資産×(1−L)小会社:純資産価額(L=0.50の併用も可) ※類似に代えて純資産も可該当しない
図:非上場株式の評価の流れ
  1. 株主の区分を判定する取得した人が同族株主等かを議決権で判定します(評価方式の判定)。
  2. 会社規模を判定する従業員数・総資産価額・取引金額で大会社・中会社・小会社に区分します(会社規模の判定)。
  3. 特定の評価会社に当たるか確認する株式等保有特定会社・土地保有特定会社などは、純資産価額を中心とした別の評価です(特定の評価会社)。
  4. 評価方式を当てはめる類似業種比準価額と純資産価額を計算します(類似業種比準方式・純資産価額方式)。
  5. 評価額を確定する会社規模ごとの算式で1株当たりの評価額を求めます(会社規模ごとの評価額)。
3つの評価方式の考え方
評価方式考え方計算の要点
類似業種比準方式事業が似ている上場会社の株価との比較類似業種の株価×配当・利益・純資産の比準割合×斟酌率(大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5)
純資産価額方式会社の財産を相続税評価額で評価し直した純資産(相続税評価額による純資産−評価差額×38%)÷発行済株式数。2026年3月31日以前の取得は37%
配当還元方式受け取る配当の額からの逆算年配当金額÷10%×1株当たりの資本金等の額÷50円。年配当金額は2円50銭が下限

計算例:同じ株式に3つの価格

例:X社株式1株の価格は、場面によって1,000円から8,980円まで変わる

前提(数値は仮定):X社は製造業で、会社規模は中会社(L=0.90)。資本金等の額1,000万円、発行済株式数2万株で、1株当たりの資本金等の額は500円です。

課税時期・譲渡日は2026年7月10日(法人税額等相当額は38%)。総資産は相続税評価額で4億円(うち土地等1億6,000万円、上場株式2,000万円)、帳簿価額で2億7,000万円、負債は1億5,000万円。類似業種比準価額は3,360円(計算は類似業種比準方式の計算例)、年配当金額は10.0円です。

X社株式1株の3つの価格
場面計算1株の価格
相続人A(Aのグループの議決権60%)が相続純資産価額:評価差額は(4億円−1億5,000万円)−(2億7,000万円−1億5,000万円)=1億3,000万円。(2億5,000万円−1億3,000万円×38%)÷2万株=10,030円
評価額:3,360円×0.90+10,030円×0.10=3,024円+1,003円
4,027円
従業員(議決権1%、同族株主等以外)が取得10.0円÷10%×500円÷50円1,000円
代表者B(中心的な同族株主)が法人Y社に譲渡するときの所得税の時価土地等を時価2億円、上場株式を時価2,200万円に置き換えた総資産は4億円+(2億円−1億6,000万円)+(2,200万円−2,000万円)=4億4,200万円。法人税額等相当額を控除しない純資産価額は(4億4,200万円−1億5,000万円)÷2万株=14,600円
小会社とみなし、14,600円と(3,360円×0.50+14,600円×0.50=8,980円)の低い方。類似業種比準価額は実際の規模(中会社)の斟酌率0.6で計算した3,360円のまま
8,980円

答え:同じ1株が、相続では4,027円、少数株主の取得では1,000円、法人への譲渡の所得税では8,980円になります。BがY社に2,000株を相続税評価額の4,027円(総額805万4,000円)で売るとします。この価格は所得税の時価8,980円の2分の1(4,490円)未満なので、時価の1,796万円(8,980円×2,000株)で売ったものとみなされます。

補足:M&Aの価格と相続税評価額が大きく違うとき

通達どおりの評価が著しく不適当と認められる財産は、国税庁長官の指示で別の方法により評価されます(いわゆる総則6項)。国税庁の資料では、2015〜2024事務年度(平成27〜令和6事務年度)の適用27件のうち14件が株式でした。相続の前後に第三者への売却交渉や売却がある場合などは、評価額と取引価格の差が問題になり得ます(総則6項と最高裁令和4年判決)。

2026年10月時点の制度の状態

自社株の評価にかかわる主な動き(2026年10月17日時点)
項目内容状態
法人税額等相当額の割合2026年4月1日以後の相続・遺贈・贈与から37%を38%に改正(防衛特別法人税の創設に伴うもの)施行中
評価明細書の様式「令和8年4月1日以降用」を新設。2026年4月1日以後の取得に使用施行中
類似業種の株価(2026年分)8月分まで公表。課税時期が9月以降の評価に必要な株価は未公表公表待ち
評価方法の見直し国税庁の有識者会議が、規模別の評価体系をやめて残余利益方式に原則一本化する骨子を提示。適用時期は未定検討中
事業承継税制(特例措置)特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日期限あり
令和9年度税制改正要望経済産業省が、評価方式の見直しに当たり事業承継などを妨げないよう慎重な検討を要望要望段階

評価方法の見直しは適用時期・経過措置が示されておらず、最終的には税制改正のプロセスで決まるとされています。現時点の相続・贈与は現行の評価通達で評価します(評価方法の見直しの検討状況)。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 相法22条(時価)。取引相場のない株式の定義は評基通168(3)。評価方法は評基通178〜189-7で、原則的評価方式は178・179、同族株主以外の株主等が取得した株式は188・188-2。
  • 所得税:所法59条1項(法人に対する贈与・著しく低い価額の対価による譲渡のみなし譲渡)、所令169条(時価の2分の1に満たない金額)、所法59条2項(個人に対する2分の1未満の対価による譲渡の損失はなかったものとみなす)。所基通59-6は23〜35共-9(4)ニの価額の算定方法なので、売買実例の有無を先に検討します(所得税・法人税上の時価)。
  • 法人税:法基通9-1-13・9-1-14(評価損)、4-1-5・4-1-6(評価益)、2-3-4(低廉譲渡の通常得べき対価の額)。9-1-14は課税上弊害がない限りの取扱いで、株主区分の判定時期の明文はありません。
  • 個人間の低額譲受けは相法7条で、2分の1のような数値基準はありません。同族会社への低額譲渡で株価が増加した場合の他の株主へのみなし贈与は相法9条・相基通9-2(4)。

判例・国税庁資料

  • 最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号、破棄差戻し):譲渡所得課税では譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきとし、譲受人基準で配当還元価額を時価とした原判決を破棄しました。
  • 所基通59-6は令和2年8月28日付課資4-2ほかで改正。国税庁は従来の取扱いの明確化と説明しています(資産課税課情報第22号、令和2年9月30日)。
  • 総則6項(評基通6)の適用は平成27〜令和6事務年度で計27件、うち株式14件(国税庁資料)。判断の枠組みは最高裁令和4年4月19日判決(不動産の事案)によります。

実務論点

  • 価格設定では、①相続税評価(取得者基準)、②所基通59-6(譲渡人基準)、③法基通9-1-14等、④売買実例の有無を並べて確認します。売主の所得税と買主の贈与税・法人税で、基準となる時価が異なります。
  • 評基通186-2の割合は令和8年3月25日付課評2-28ほかの改正によるもので、取得日(課税時期)で38%と37%を使い分けます。
第2章

評価方式の判定:株主の区分

自社株の評価で最初に行うのが、株式を取得した人がどの区分の株主に当たるかの判定です。ここで原則的評価方式か配当還元方式かが決まり、評価額が数倍違うこともあります。

この章の結論

  • 同族株主等(会社を支配するグループの株主)が取得した株式は原則的評価方式、それ以外の株主が取得した株式は配当還元方式で評価します。
  • 判定は株式数ではなく議決権で、取得した人の「取得後」の議決権で行います。基準は30%(筆頭グループが50%超なら50%超)で、同族株主のいない会社は15%です。
  • 同族株主でも、取得後の議決権が5%未満で、中心的な同族株主がいて、本人が中心的な同族株主でも役員でもなければ配当還元方式です。平取締役はこの「役員」に当たりません。

原則的評価方式と配当還元方式の分かれ目

財産評価基本通達(以下「評価通達」)は、株式を取得した人を「同族株主等」と「同族株主等以外の株主」に分けます。同族株主等が取得した株式は、会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式やその併用で評価します。これを原則的評価方式といいます。

同族株主等以外の株主が取得した株式は、会社規模に関係なく配当還元方式(特例的評価方式)で評価します。ただし、配当還元価額が原則的評価方式の価額を超えるときは、原則的評価方式の価額によります。

判定は課税時期(相続・遺贈なら亡くなった日、贈与なら取得した日)の状況で行います。使うのは、取得した人の株式取得後の議決権です。所得税の時価を考えるときは、逆に売った人の譲渡直前の議決権で判定します(所得税・法人税上の時価)。

原則的評価方式と配当還元方式
項目原則的評価方式配当還元方式(特例的評価方式)
対象となる株式同族株主等が取得した株式同族株主等以外の株主が取得した株式
評価方法会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式。特定の評価会社は別の方法年配当金額÷10%×1株当たりの資本金等の額÷50円
反映されるもの会社の配当・利益・純資産(財産の含み益を含む)配当の額だけ
上限・下限なし原則的評価方式の価額が上限。年配当金額は2円50銭が下限

株式等保有特定会社や土地保有特定会社などの特定の評価会社でも、同族株主等以外の株主が取得した株式は配当還元方式で評価します。ただし、開業前・休業中の会社と清算中の会社は除きます(特定の評価会社)。

同族株主と同族関係者の範囲

同族株主とは、課税時期の株主のうち、株主の1人とその同族関係者の議決権の合計が議決権総数の30%以上となるグループに属する株主です。ただし、議決権が最も多いグループ(筆頭グループ)が50%超を持つ会社では、50%超のグループに属する株主だけが同族株主になります。

「株主の1人」は、税金を納める人に限りません。どの株主を中心にしてもよいので、グループを組んで30%(または50%超)に届くかを確かめます。筆頭グループが30%以上50%以下なら、30%以上のグループが2つあり、どちらも同族株主になることもあります。

同族関係者は、法人税法施行令4条の「特殊の関係のある個人・法人」で、次の範囲です。

親族
6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族
事実婚の相手
婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある人
使用人など
個人株主の使用人、株主から受ける金銭などで生計を維持している人、これらの人や事実婚の相手と生計を一にするその親族
支配している会社
株主(個人なら同族関係者を含む)が発行済株式(自己株式を除く)の50%超を持つなどして支配している会社。その会社がさらに支配する会社も含みます
議決権の行使に同意している人
同じ内容で議決権を行使することに同意している人の議決権は、その株主の議決権とみなします

親族の範囲は各株主から見て判定します。そのため同じ一族でも、誰が取得するかで結論が変わります。具体的な例は、この章の判定例と同族株主のいない会社の説明で示します。

同族株主でも配当還元方式になる場合

同族株主に当たっても、議決権の少ない親族などは配当還元方式になることがあります。ここで使うのが「中心的な同族株主」と「5%」「役員」の基準です。

中心的な同族株主とは、同族株主の1人と、その人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族(配偶者の父母や子の配偶者)の議決権の合計が25%以上となる場合のその株主です。これらの人の同族関係者である会社のうち、これらの人が議決権の25%以上を持つ会社の議決権も合計に含めます。範囲は同族関係者より狭く、おじ・おば・おい・めい・いとこは入りません。

同族株主のいる会社で、次の4つをすべて満たす人が取得した株式は配当還元方式です。

  • 中心的な同族株主がいる会社の株主であること
  • 本人は中心的な同族株主ではないこと
  • 株式取得後の議決権が議決権総数の5%未満であること
  • 役員ではないこと(課税時期に役員である人と、課税時期の翌日から法定申告期限までに役員となる人は原則的評価方式)

中心的な同族株主が1人もいない会社では、同族株主は議決権の割合にかかわらず原則的評価方式です。

この判定でいう役員は、社長・理事長と、次の人に限られます(法人税法施行令71条1項1号・2号・4号)。

  • 代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人
  • 副社長、専務、常務など、これらに準ずる職制上の地位を持つ役員
  • 指名委員会等設置会社の取締役、監査等委員である取締役、会計参与、監査役、監事

代表権や副社長・専務・常務などの地位のない取締役(いわゆる平取締役。使用人兼務役員を含む)は、この役員に当たりません。ただし、指名委員会等設置会社の取締役と監査等委員である取締役は、上の一覧のとおり役員に含まれます。5%未満の親族を平取締役にしても、この基準では原則的評価方式になりません。

同族株主のいない会社:15%と中心的な株主

どのグループも議決権が30%に届かない会社を「同族株主のいない会社」といいます。この会社では、株主1人とその同族関係者の議決権の合計が15%未満のグループに属する人が取得した株式は、配当還元方式です。

15%以上のグループに属する人でも、配当還元方式になる場合があります。15%以上のグループのいずれかに、単独で議決権総数の10%以上を持つ株主(中心的な株主)がいる会社で、取得後の議決権が5%未満、かつ役員でも役員となる人でもない場合です。

国税庁の質疑応答には、親族の範囲を各株主から見て判定する例があります。株主が亡くなり、その配偶者が株式を相続した事例です。亡くなった人の血族である株主が、配偶者から見て親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)に当たらないため、配偶者のグループが15%未満となり、配当還元方式とされています。例えば亡くなった人のいとこは、配偶者から見ると4親等の姻族で、親族に入りません。

同じ株式を子が相続した場合は、その株主が子の6親等内の血族に当たるため、15%以上のグループになります。ただし、その株主が中心的な株主で、子の取得後の議決権が5%未満なら、役員などでない限り配当還元方式です。

判定表と判定例

ここまでの基準を、評価明細書の第1表の1と同じ順序で整理します。ステップ1でグループの議決権割合を見て、同族株主等に当たれば、ステップ2で配当還元方式になる場合に当たらないかを確かめます。

ステップ1:グループの議決権割合による判定
筆頭グループの議決権割合50%超30%以上50%以下30%未満(同族株主のいない会社)
取得した人のグループがこの割合以上なら同族株主等50%超30%以上15%以上
この割合未満なら同族株主等以外(配当還元方式)50%未満30%未満15%未満
ステップ2:同族株主等のうち配当還元方式になる人
会社取得した人の状況評価方式
同族株主のいる会社取得後の議決権が5%以上原則的評価方式
同族株主のいる会社5%未満で、中心的な同族株主がいない場合原則的評価方式
同族株主のいる会社5%未満で中心的な同族株主がいるが、本人が中心的な同族株主原則的評価方式
同族株主のいる会社5%未満で中心的な同族株主がいるが、本人が役員(法定申告期限までに役員となる人を含む)原則的評価方式
同族株主のいる会社上記以外配当還元方式
同族株主のいない会社(15%以上のグループの株主)取得後の議決権が5%以上原則的評価方式
同族株主のいない会社(15%以上のグループの株主)5%未満で、中心的な株主がいない場合原則的評価方式
同族株主のいない会社(15%以上のグループの株主)5%未満で中心的な株主がいるが、本人が役員(役員となる人を含む)原則的評価方式
同族株主のいない会社(15%以上のグループの株主)上記以外配当還元方式

次のツールに、筆頭グループの議決権割合、取得した人のグループと本人の取得後の議決権割合、役員かどうか、中心的な同族株主(同族株主のいない会社では中心的な株主)の有無などを入れてください。この判定表に沿って、評価方式の目安を表示します。親族の範囲と議決権の数え方は、この章の説明で確認してから入力してください。

計算ツールを表示するには JavaScript を有効にしてください。

例:社長一族が議決権70%を持つ甲社で、誰が取得すると配当還元方式になるか

前提(課税時期の取得後の議決権):社長A 45%、Aの妻B 10%、長男C 10%、Aの弟D 2%、Dの子E(Aのおい)3%で、社長一族の合計は70%。残りは取引先F社 20%、従業員G 1%、その他の従業員 9%です。F社・Gは社長一族と親族関係も資本関係もありません。社長Aは中心的な同族株主です(A+妻B+長男C+弟Dで67%)。

甲社の判定例
取得した人判定の筋道評価方式
従業員G(1%)筆頭グループが50%超なので、同族株主は50%超のグループだけです。Gのグループは1%で、同族株主等以外です配当還元方式
長男C(10%)社長一族のグループ(70%)に属する同族株主で、取得後5%以上です原則的評価方式
弟D(2%・役員でない)5%未満ですが、D本人+子E+兄Aで50%となり、D自身が中心的な同族株主です原則的評価方式
おいE(3%・役員でない)同族株主で5%未満です。E本人+父Dは5%で中心的な同族株主ではなく、中心的な同族株主Aがいます。役員でもありません配当還元方式
おいE(3%・専務取締役)専務は判定上の役員に当たります原則的評価方式
おいE(3%・平取締役)平取締役は判定上の役員に当たりません配当還元方式

答え:従業員Gは同族株主等に当たらず、配当還元方式です。社長一族でも、5%未満で中心的な同族株主でも役員でもないおいEは配当還元方式です。一方、同じ5%未満でも、兄Aを合計に含められる弟Dは中心的な同族株主に当たり、原則的評価方式になります。

配当還元方式の金額の計算は配当還元方式で説明します。

議決権の数え方

判定はすべて株式数ではなく議決権の数で行います。発行済株式数と議決権総数は課税時期のものを使い、次のルールで数えます。

議決権の数え方のルール
項目扱い
自己株式会社が持つ自己株式の議決権は0として、議決権総数を計算します
相互保有株式評価する会社が議決権の4分の1以上を持つ会社などが株主の場合、その会社の議決権は0とします
議決権制限株式株主総会の一部の事項だけ議決権を行使できない株式は、議決権の数・議決権総数に含めます
完全無議決権株式議決権は0。株式数が多くても、議決権割合が5%未満なら配当還元方式になる場合があります
中小企業投資育成会社投資育成会社が同族株主などに当たっても、ほかに該当者がいなければ、該当しないものとして扱います
遺産が未分割各相続人が、自分の株式に未分割の株式の全部を加えた数で判定します
名義書換えが済んでいない株式贈与で取得した株式は、名義書換えが遅れていても議決権に含めて判定した裁判例があります
端数処理議決権割合は1%未満切捨て。ただし50%超51%未満は51%とします

よくある誤り

  • 株式数で判定する:判定は議決権で行います。自己株式・相互保有株式・完全無議決権株式は0です。
  • 取得前の議決権で判定する:相続税・贈与税では、取得した人の取得後の議決権で判定します。
  • 平取締役を役員とする:5%未満でも原則的評価方式になる役員は、社長・代表取締役・副社長・専務・常務・監査役などに限られます。
  • 中心的な同族株主と中心的な株主を混同する:前者は同族株主のいる会社の25%基準(本人+配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族)、後者は同族株主のいない会社の単独10%基準です。
  • 未分割なのに法定相続分で判定する:未分割の株式は、各相続人が全部を取得したものとして判定します。

判定に必要な資料のチェックリスト

  • 課税時期の株主名簿(株式数と議決権の数)
  • 株主どうしの親族関係がわかる資料(戸籍謄本や親族関係図)
  • 株主である会社の株主構成(支配関係の確認用)
  • 定款(種類株式・議決権制限の有無)と自己株式の数
  • 取得した人の役職と、法定申告期限までの役員就任の予定
  • 遺産分割の状況(未分割か、分割済みか)

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評基通188(1)(同族株主:30%以上。筆頭グループ50%超の会社は50%超)、188(2)(中心的な同族株主25%、取得後5%未満・役員でない者の取得株式)、188(3)(同族株主のいない会社の15%未満)、188(4)(中心的な株主=15%以上グループ内の単独10%以上)、188-2(配当還元方式)。判定に使う議決権は取得者の株式取得後のもの(188(2)(4))。
  • 同族関係者:法令4条(1項=個人、2項・3項=法人、6項=同一内容の議決権行使に同意している者)。役員:評基通188(2)、法令71条1項1号・2号・4号(3号の持分会社の業務執行社員、5号の同族会社の一定の役員は含みません)。
  • 議決権:評基通188-3(自己株式。会社法308条2項)、188-4(相互保有株式。会社法308条1項)、188-5(議決権制限株式は算入)、188-6(中小企業投資育成会社)。発行済株式数・議決権総数は課税時期(185注、明細書第1表の1)。

質疑応答・裁判例

  • 質疑応答「同族株主の判定」:「株主の1人」は納税義務者に限られません。
  • 質疑応答「同族株主がいない会社の株主の議決権割合の判定」:親族の範囲は各株主から見て判定し、配偶者が相続した場合と子が相続した場合で結論が分かれます。
  • 質疑応答「遺産が未分割である場合の議決権割合の判定」:各相続人の所有株式数に未分割株式の全部を加えて判定します。
  • 東京地裁令和2年2月25日判決(税務訴訟資料270号(順号13385)、請求棄却・確定):贈与契約で取得した株式の名義書換え未了は議決権を否定する理由にならず、取得後5%以上として原則的評価方式(大会社の類似業種比準方式)とされました。
  • 国税庁情報(平成19年3月、種類株式):同族株主等の判定は持株割合ではなく議決権割合で行います。

実務論点

  • 188(4)の「役員となる者」には、188(2)のような「法定申告期限までの間に」という期間の文言がありません。実務上は188(2)と同様に扱うのが一般的とみられますが、国税庁の明示的な資料は見当たりません。
  • 同族関係者となる法人の判定(支配関係の連鎖)は、法人株主の株主構成までさかのぼって確認します。
  • 有識者会議の骨子(2026年(令和8年)8月20日)は、配当還元方式の対象を「特定の少数株主の取得した株式」に縮小し、判定に使う親族を配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族に限る案や、議決権割合と株式保有割合のいずれかが3%未満かで判定する案を示しています検討中。適用時期は未定です(評価方法の見直しの検討状況)。
第3章

会社規模の判定

原則的評価方式で評価する場合は、次に会社を大会社・中会社・小会社に区分します。区分によって、類似業種比準方式と純資産価額方式の組み合わせ方と、類似業種比準価額の斟酌率が変わります。

この章の結論

  • 直前期末以前1年間の従業員数が70人以上なら、業種や金額に関係なく大会社です。
  • 70人未満なら、「総資産価額(帳簿価額)と従業員数のうち下位の区分」と「取引金額の区分」を比べ、上位の区分で大会社・中会社(L=0.90・0.75・0.60)・小会社を決めます。基準額は卸売業、小売・サービス業、それ以外の3業種で異なります。
  • 総資産価額は直前期末の帳簿価額(相続税評価額ではない)です。従業員数は、代表取締役などの役員を除き、パートなどは労働時間を1,800時間で割って数えます。

会社規模で評価方法が変わる

会社規模の判定が必要なのは、同族株主等が取得した株式を原則的評価方式で評価する場合です。配当還元方式で評価する株式は、会社規模に関係なく同じ算式を使います。

大会社ほど類似業種比準価額の比重が高く、小会社ほど純資産価額の比重が高くなります。規模の区分ごとの評価方法は次のとおりです。

会社規模と評価方法(一般の評価会社)
会社規模評価方法斟酌率
大会社類似業種比準価額。純資産価額の方が低ければ純資産価額0.7
中会社の大(L=0.90)類似業種比準価額×0.90+純資産価額×0.100.6
中会社の中(L=0.75)類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.250.6
中会社の小(L=0.60)類似業種比準価額×0.60+純資産価額×0.400.6
小会社純資産価額。選択により類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.500.5

中会社では算式中の類似業種比準価額を純資産価額に置き換えることもでき、小会社は2つの方法のうち低い方になります。詳しくは会社規模ごとの評価額で説明します。「中会社の大・中・小」は一般的な呼び方で、通達上の用語ではありません。会社規模は、土地保有特定会社に当たるかどうかの基準にも使います(特定の評価会社)。

補足:Lの割合と斟酌率は別物

Lの割合(0.90・0.75・0.60)は、類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせる割合です。斟酌率(0.7・0.6・0.5)は、類似業種比準価額の計算の中で掛ける割合で、規模が小さい会社ほど上場会社との類似性が薄れることを考慮したものです。中会社なら、Lが0.90でも0.60でも斟酌率は0.6です。

判定の手順

会社規模は、課税時期の直前に終了した事業年度(直前期)の数字で判定します。手順は次の5段階です。

  1. 業種区分を決める直前期末以前1年間の取引金額で、卸売業/小売・サービス業/卸売業、小売・サービス業以外のどれに当たるかを決めます。複数の業種があれば、取引金額が最も多い業種によります。
  2. 従業員数を確認する直前期末以前1年間の従業員数が70人以上なら、ほかの基準を見ずに大会社です。
  3. 総資産価額と従業員数で区分する直前期末の総資産価額(帳簿価額)の区分と従業員数の区分のうち、下位の区分をとります。
  4. 取引金額で区分する直前期末以前1年間の取引金額の区分をとります。
  5. 上位の区分で決める3と4のうち上位の区分が、その会社の規模(中会社ならLの割合)です。

「下位」と「上位」の組み合わせがポイントです。総資産が大きくても従業員が少なければ3の区分は低くなりますが、取引金額が大きければ4の区分で上がります。

判定基準の全数値

2017年(平成29年)1月1日以後の相続・贈与に適用されている基準です。業種ごとに、総資産価額・従業員数・取引金額の区分を示します。

会社規模の判定基準:卸売業
区分総資産価額(帳簿価額)従業員数取引金額
大会社20億円以上35人超30億円以上
中会社の大(L=0.90)4億円以上35人超7億円以上30億円未満
中会社の中(L=0.75)2億円以上20人超3億5,000万円以上7億円未満
中会社の小(L=0.60)7,000万円以上5人超2億円以上3億5,000万円未満
小会社7,000万円未満5人以下2億円未満
会社規模の判定基準:小売・サービス業
区分総資産価額(帳簿価額)従業員数取引金額
大会社15億円以上35人超20億円以上
中会社の大(L=0.90)5億円以上35人超5億円以上20億円未満
中会社の中(L=0.75)2億5,000万円以上20人超2億5,000万円以上5億円未満
中会社の小(L=0.60)4,000万円以上5人超6,000万円以上2億5,000万円未満
小会社4,000万円未満5人以下6,000万円未満
会社規模の判定基準:卸売業、小売・サービス業以外
区分総資産価額(帳簿価額)従業員数取引金額
大会社15億円以上35人超15億円以上
中会社の大(L=0.90)5億円以上35人超4億円以上15億円未満
中会社の中(L=0.75)2億5,000万円以上20人超2億円以上4億円未満
中会社の小(L=0.60)5,000万円以上5人超8,000万円以上2億円未満
小会社5,000万円未満5人以下8,000万円未満

総資産価額と従業員数は、両方の基準を満たす区分のうち下位の区分をとります。例えば卸売業、小売・サービス業以外で総資産5億円・従業員30人なら、従業員の基準で中会社の中(L=0.75)の区分です。従業員数70人以上は、業種・金額にかかわらず大会社です。

次のツールに業種・従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額を入れると、上の基準で会社規模とLの割合、斟酌率を判定します。

計算ツールを表示するには JavaScript を有効にしてください。

従業員数の数え方

従業員数は、直前期末以前1年間の実態で数えます。正社員だけでなくパートなども、労働時間で換算して含めます。

従業員数=継続勤務従業員の数+継続勤務従業員以外の従業員の1年間の労働時間の合計÷1,800時間

継続勤務従業員とは、直前期末以前1年間ずっと勤務した従業員です。ただし、就業規則などで定める1週間の労働時間が30時間未満の人は除き、労働時間の換算の方に入れます。計算した人数は端数をそのまま使い、5.1人なら「5人超」、4.9人なら「5人以下」に当てはめます。

例えば、継続勤務従業員が18人で、それ以外の従業員(途中で入社した人や週30時間未満のパートなど)の労働時間の合計が4,500時間とします。この場合は18人+4,500時間÷1,800時間=20.5人で、「20人超」の区分に入ります。

従業員から除く役員は、社長、理事長、代表取締役、副社長・専務・常務などの役員、指名委員会等設置会社の取締役、監査等委員である取締役、会計参与、監査役、監事です。使用人兼務役員や平取締役は、除く役員として列挙されていないため、従業員に含めて数える扱いと読めます。出向者は、雇用契約を結んで賃金を支払っている会社の従業員として数え、派遣労働者は派遣元の従業員として数えます。

総資産価額・取引金額・業種区分の意味

総資産価額(帳簿価額)は、直前期末の確定決算における各資産の帳簿価額の合計です。相続税評価額ではありません。次の点に注意します。

  • 減価償却累計額(間接法の場合)は控除します。
  • 貸倒引当金は控除しません。
  • 前払費用・繰延資産・繰延税金資産は含めます。
  • 圧縮記帳の引当金・積立金・特別勘定は控除しません。

取引金額は、直前期の事業上の収入金額(売上高)です。金融業・証券業は収入利息と収入手数料によります。直前期が1年未満の場合は直前期末以前1年間の実際の収入金額を使い、区分が難しければ月数で按分できます。

業種区分は、直前期末以前1年間の取引金額が最も多い業種で決めます。類似業種比準方式で使う「業種目」とは別の判定です。どの業種区分に当たるかは、国税庁が業種目別株価とあわせて示す対比表で確認するのが一般的とされています(判断に迷う場合は税務署等で確認)。持分の定めのある医療法人は「小売・サービス業」に当たります。

判定例

例:製造業(卸売業、小売・サービス業以外)の会社の規模はどうなるか

基本のケースは、従業員数25人、総資産価額(帳簿価額)2億7,000万円、取引金額5億円の会社です(類似業種比準方式などの計算例で使うX社)。数字を変えた4つのケースとあわせて判定します。

会社規模の判定例(卸売業、小売・サービス業以外)
ケース従業員数総資産価額取引金額判定
①X社25人2億7,000万円5億円総資産と従業員はともにL0.75の区分、取引金額はL0.90の区分。上位をとり中会社の大(L=0.90)
②売上が少ない25人2億7,000万円1億5,000万円総資産・従業員はL0.75、取引金額はL0.60。中会社の中(L=0.75)
③従業員が少ない5人2億7,000万円5億円従業員5人以下で、総資産・従業員の区分は小会社。取引金額はL0.90。中会社の大(L=0.90)
④売上が大きい30人3億円16億円取引金額15億円以上で大会社の区分。大会社
⑤小規模4人3,000万円7,000万円総資産・従業員、取引金額とも小会社の区分。小会社

答え:X社は中会社の大(L=0.90)で、類似業種比準価額の斟酌率は0.6です。従業員が5人でも、取引金額が大きければ中会社の大になります(③)。小会社になるのは、総資産価額か従業員数のどちらかが小会社の基準に当たり、かつ取引金額も小会社の基準に当たる場合です(⑤)。

よくある誤り

  • 総資産を相続税評価額で判定する:会社規模の判定は直前期末の帳簿価額です。貸倒引当金は控除しません。
  • 役員やパートの数え方を誤る:代表取締役・専務・監査役などは従業員から除き、週30時間未満のパートや途中入社の人は労働時間を1,800時間で割って加えます。
  • 下位と上位を逆にする:総資産と従業員は下位の区分、その結果と取引金額は上位の区分をとります。
  • 70人以上でも金額基準を見る:従業員70人以上は無条件で大会社です。
  • 業種区分と業種目を混同する:会社規模の業種区分(3区分)と、類似業種比準方式の業種目は別々に判定します。

他の税金との関係

  • 所得税の時価(所得税基本通達59-6)では、売った人が中心的な同族株主なら、実際の規模にかかわらず会社を小会社とみなして計算します。ただし類似業種比準価額の斟酌率は実際の規模の割合のままです:所得税・法人税上の時価
  • 個人が法人に株式を低い価格で売る場合の判定:みなし譲渡

見直しの検討状況

国税庁の有識者会議は2026年(令和8年)8月20日、会社規模に応じた評価体系をやめて評価方式を原則一本化する骨子を示しました検討中。2026年10月17日時点で適用時期は未定で、現在の相続・贈与はこの章の基準で判定します(評価方法の見直しの検討状況)。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 会社規模の区分は評基通178(本文の判定基準と、注の従業員数・総資産価額・取引金額の定義)、Lの割合は評基通179(2)(イ 総資産価額及び従業員数に応ずる割合、ロ 取引金額に応ずる割合のいずれか大きい方)、斟酌率は評基通180(3)。明細書は第1表の2。
  • 現行の基準は平成29年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用(経過措置なし)。この改正で金額基準等が見直され、大会社・中会社の範囲が拡大されました。

実務論点

  • 「総資産価額及び従業員数」の区分で大会社・L=0.90に当たるには従業員数35人超が必要です(記載方法)。取引金額の区分で大会社・L=0.90等に当たる場合は従業員数を問いません。
  • 従業員数の端数は切り捨てず、そのまま区分に当てはめます(記載方法)。従業員から除く役員は評基通178注の列挙(社長、理事長、法令71条1項1号・2号・4号)で、使用人兼務役員・平取締役は除外の列挙にありません。
  • 派遣労働者は派遣元の従業員で、派遣期間のみ雇用されている者は継続勤務従業員以外、派遣の有無にかかわらず賃金を支払われている者は継続勤務従業員です。派遣先は勤務実態に応じて区分して判定しても差し支えないとされています(質疑応答「従業員の範囲」)。
  • 事業年度の変更などで直前期が1年未満のときは、直前期末以前1年間の実際の収入金額により、区分が困難なら月数按分します(質疑応答)。
  • 業種区分の振り分けは、国税庁が業種目別株価等とあわせて示す、日本標準産業分類と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表の「規模区分を判定する場合の業種」欄で確認するのが一般的とされています。
  • 医療法人の出資は、会社規模区分では小売・サービス業に当たります(質疑応答)。
  • 所基通59-6(2)の小会社みなしでも、類似業種比準価額の斟酌率は評価会社の実際の規模に応じた割合によります(資産課税課情報第22号)。
第4章

類似業種比準方式

類似業種比準方式は、評価する会社と事業が似ている上場会社の株価をもとに、配当・利益・純資産の3つの要素を比べて株価を求める方法です。大会社では評価の中心になり、中会社・小会社でも純資産価額と組み合わせて使います。

この章の結論

  • 算式は「類似業種の株価A×(配当・利益・純資産の比準割合の平均)×斟酌率」です。3つの要素の比重は1:1:1で、斟酌率は大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5です。
  • 評価する会社の配当・利益・純資産は、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額に直して比べ、最後に実際の1株当たりの金額に戻します。端数は段階ごとに切り捨てます。
  • 類似業種の株価Aは、課税時期の月・前月・前々月・前年平均・2年間の平均の5つのうち最も低い金額を選べます。2026年(令和8年)分の株価は、2026年10月17日時点で8月分まで公表されています。

算式と考え方

類似業種比準方式では、国税庁が業種目ごとに公表する上場会社(標本会社)の株価と、配当・利益・純資産の金額を使います。評価する会社の3つの要素が類似業種の数値の何倍かを求め、その平均の倍率を類似業種の株価に掛けます。

1株(50円)当たりの比準価額=A×〔(Ⓑ/B+Ⓒ/C+Ⓓ/D)÷3〕×斟酌率
1株当たりの類似業種比準価額=1株(50円)当たりの比準価額×1株当たりの資本金等の額÷50円

A
類似業種の株価(国税庁が業種目別に公表)
B・C・D
課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額・年利益金額・純資産価額(帳簿価額)
Ⓑ・Ⓒ・Ⓓ
評価する会社の1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(帳簿価額)。1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額で計算します
斟酌率
大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5

3つの要素の比重は、2017年(平成29年)1月1日以後の相続・贈与では1:1:1です(合計して3で割る)。それより前は配当1:利益3:純資産1で、合計を5で割っていました。

斟酌率は、規模が小さい会社ほど上場会社との類似性が薄れることを考慮した割合です。会社規模(会社規模の判定)に応じて決まり、中会社ならLの割合にかかわらず0.6です。

1株当たりの資本金等の額と50円換算

国税庁が公表する類似業種のB・C・Dは、上場会社の1株当たりの資本金等の額を50円として計算した金額です。単位をそろえるため、評価する会社の数字も「1株当たりの資本金等の額が50円だったら」という株式数に直して計算します。

1株当たりの資本金等の額=直前期末の資本金等の額÷(直前期末の発行済株式数−直前期末の自己株式数)
50円換算の株式数=直前期末の資本金等の額÷50円

資本金等の額は、法人税法上の資本金等の額です。評価明細書では、法人税申告書の別表五(一)の「差引翌期首現在資本金等の額」の差引合計額を使います。会計上の資本金の額と同じとは限らないため、別表で確認します。

例えば、資本金等の額が1,000万円で発行済株式数が2万株なら、1株当たりの資本金等の額は500円、50円換算の株式数は1,000万円÷50円=20万株です。比準価額を計算したあと、最後に500円÷50円=10を掛けて、実際の1株当たりの価額に戻します。

3つの比準要素Ⓑ・Ⓒ・Ⓓの求め方

比準要素の求め方(いずれも50円換算の株式数で割る)
要素もとにする金額期間除くもの・加えるもの端数
Ⓑ 配当剰余金の配当金額直前期末以前2年間の合計の2分の1(2年平均のみ)特別配当・記念配当など毎期続くと見込めない配当、資本金等の額の減少による配当、自己株式の取得によるみなし配当は除外10銭未満切捨て
Ⓒ 利益法人税の課税所得金額直前期1年間。選択により直前2年間の平均固定資産売却益・保険差益などの非経常的な利益を除き、益金不算入の受取配当等(所得税相当額を除く)と繰越欠損金の控除額を加算。負数は0円未満切捨て
Ⓓ 純資産資本金等の額+利益積立金額(税務上の帳簿価額)直前期末利益積立金額が負数なら資本金等の額から控除し、なお負数なら0円未満切捨て

Ⓑ(配当)は2年平均だけで、Ⓒのような1年だけの選択はありません。特別配当・記念配当などの名前で、将来も毎期続くとは見込めない配当は除きます。

Ⓒ(利益)は、法人税の課税所得金額がもとになります。固定資産の売却益や保険差益などの非経常的な利益は除きます。非経常的な損益が複数あるときは種類が違っても通算し、通算して利益になる場合だけその利益を除きます。通算して損失なら、課税所得から足し戻しません。

Ⓒは、直前期1年間の金額と、直前期・直前々期の2年平均の金額のどちらかを選べます。自動的に低い方になるのではなく、納税義務者が選ぶものです。役員退職金を支給した期など、利益が一時的に下がった期の扱いで結果が変わります(株価が動く要因と対策の注意点)。

Ⓓ(純資産)は、直前期末の資本金等の額と利益積立金額の合計で、税務上の帳簿価額です。会社が持つ土地の含み益などは反映されません。

類似業種の株価Aと業種目

類似業種の株価Aは、原則として課税時期の属する月・前月・前々月の各月の株価のうち最も低いものです。納税義務者の選択により、類似業種の前年平均株価、または課税時期の属する月以前2年間の平均株価によることもできます。実務では、この5つのうち最も低い金額を使います。

各月の株価は、標本会社(上場会社)の毎日の終値の月平均をもとに、1株当たりの資本金等の額を50円として国税庁が計算したものです。B・C・Dも標本会社の財務諸表(連結財務諸表を作る会社は連結)から計算されています。

業種目の決め方

業種目は、国税庁が日本標準産業分類をもとに大分類・中分類・小分類に区分しています。評価する会社の業種目は、直前期末以前1年間の取引金額で次のように判定します。

  • 1つの業種目の取引金額が全体の50%超なら、その業種目
  • 50%超の業種目がないときは、同じ中分類の中の類似する小分類の合計が50%超ならその中分類の「その他の○○業」、類似しない小分類の合計が50%超ならその中分類。中分類どうしでも同じように大分類で判定し、どれにも当たらなければ大分類の「その他の産業」

小分類がある業種目は小分類を使いますが、納税義務者の選択により、その上の中分類(中分類の業種目なら大分類)を使うこともできます。会社規模の判定で使う業種区分(卸売業など3区分)とは別の判定です。

2026年分の株価の公表状況

2026年分の業種目別株価等は、2026年10月17日時点で8月分まで公表されています。課税時期が2026年9月以降の場合は、その月の株価が未公表のため、類似業種比準価額を確定できません。

  1. 2026年6月5日2026年分の業種目別株価等を通達で公表(課評2-41)
  2. 2026年10月8日改正通達(課評2-68)で8月分まで掲載。国税庁サイトの新着情報への掲載は10月16日
  3. 2026年10月17日時点9月分以降は未公表
  4. 参考:2026年1月9日前年の2025年(令和7年)分は、この日付の改正で11月・12月分までを掲載

2026年分の表には2025年11月・12月分と2025年平均も載っています。ただし2026年分の標本会社で計算しているため、2025年分の表の同じ月の値と異なる業種目があります。2026年中の課税時期には、2026年分の表の値を使います。

実務のコツ:公表を待つ月の段取り

2026年9月以降に相続が起きた場合は、該当月の株価の公表を待って計算を確定させます。それまでは公表済みの月と前年平均で試算し、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までの日程を組んでおきます(申告までの10か月のスケジュール)。

計算例:X社の類似業種比準価額

例:中会社(L=0.90)の製造業X社の1株当たりの類似業種比準価額

前提(数値は仮定):課税時期は2026年7月10日、直前期末は2026年3月31日。資本金等の額1,000万円、発行済株式数2万株(自己株式なし)で、1株当たりの資本金等の額は500円、50円換算の株式数は20万株。会社規模は中会社(斟酌率0.6。判定は会社規模の判定の判定例①)です。

  • 配当(普通配当):直前期200万円、直前々期200万円
  • 利益:直前期は課税所得1,500万円−非経常的な利益300万円+受取配当等の益金不算入額50万円=1,250万円(繰越欠損金の控除なし)。直前々期は同じ方法で1,000万円
  • 純資産:直前期末の資本金等の額1,000万円+利益積立金額9,000万円=1億円
  • 類似業種(仮定):A=500円(5つの株価のうち最も低いもの)、B=10.0円、C=50円、D=400円
X社の類似業種比準価額の計算
手順計算結果
Ⓑ 配当(200万円+200万円)÷2÷20万株(10銭未満切捨て)10.0円
Ⓒ 利益2年平均を選択:(1,250万円+1,000万円)÷2=1,125万円。1,125万円÷20万株=56.25円(円未満切捨て)56円
Ⓓ 純資産1億円÷20万株500円
要素別比準割合Ⓑ/B=10.0÷10.0、Ⓒ/C=56÷50、Ⓓ/D=500÷400(各2位未満切捨て)1.00/1.12/1.25
比準割合(1.00+1.12+1.25)÷3=1.1233…(2位未満切捨て)1.12
1株(50円)当たりの比準価額500円×1.12×0.6(10銭未満切捨て)336.0円
1株当たりの類似業種比準価額336.0円×500円÷50円(円未満切捨て)3,360円

答え:X社の1株当たりの類似業種比準価額は3,360円です。中会社の評価額は、これと純資産価額を組み合わせて求めます(X社の純資産価額は10,030円、評価額は4,027円。会社規模ごとの評価額)。

選択や会社規模が違うと、同じ会社でも結果が変わります。X社の数字で比べると次のとおりです。

選択と会社規模による違い(X社の場合)
ケース計算1株当たりの類似業種比準価額
基本(Ⓒは2年平均、中会社)500円×1.12×0.6=336.0円、×103,360円
Ⓒに直前期を選んだ場合Ⓒ=1,250万円÷20万株=62.5円→62円、Ⓒ/C=1.24。比準割合は(1.00+1.24+1.25)÷3=1.163…→1.16。500円×1.16×0.6=348.0円、×103,480円
大会社だった場合(斟酌率0.7)500円×1.12×0.7=392.0円、×103,920円
小会社だった場合(斟酌率0.5)500円×1.12×0.5=280.0円、×102,800円

X社では、Ⓒに2年平均を選ぶ方が直前期を選ぶより120円低くなります。斟酌率の違いだけでも、1株2,800円から3,920円まで変わります。

端数処理・比準要素数1と0の会社・価額の修正

類似業種比準価額の端数処理
項目端数処理
Ⓑ 1株(50円)当たりの年配当金額10銭未満切捨て
Ⓒ・Ⓓ円未満切捨て
要素別比準割合(Ⓑ/B・Ⓒ/C・Ⓓ/D)小数点以下2位未満切捨て
比準割合小数点以下2位未満切捨て
1株(50円)当たりの比準価額10銭未満切捨て
1株当たりの類似業種比準価額円未満切捨て

比準要素数1の会社・比準要素数0の会社

直前期末を基準にしたⒷ・Ⓒ・Ⓓのうち2つが0で、かつ直前々期末を基準にしても2つ以上が0の会社は「比準要素数1の会社」です。直前期末を基準に3つとも0の会社は「比準要素数0の会社」です。どちらも特定の評価会社として、純資産価額を中心に評価します。

比準要素数1の会社は原則として純資産価額で評価し、選択により類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75とすることもできます。比準要素数0の会社は純資産価額で評価します。この判定では、端数処理の結果0になる要素(Ⓑが10銭未満、Ⓒ・Ⓓが1円未満)も0として扱います(特定の評価会社)。

直前期末後の配当・増資と、課税時期に近い決算

直前期末の翌日から課税時期までの間に配当の効力が発生した場合は、比準価額から1株当たりの配当金額を差し引きます。株式の割当てなどの効力が発生した場合は、(比準価額+割当株式1株につき払い込んだ金額×1株に対する割当株式数)÷(1+1株に対する割当株式数)で修正します。

課税時期が直前期末より直後期末に近い場合でも、比準要素は直前期末の数字を使います。標本会社と同じ基準で計算し、課税時期後の事情を入れないためです。

よくある誤り

  • 旧算式を使う:2017年1月1日以後は1:1:1で3で割ります。利益を3倍して5で割るのは旧算式です。
  • 斟酌率とLの割合を混同する:斟酌率(0.7・0.6・0.5)は比準価額の中で掛ける割合、Lは純資産価額と組み合わせる割合です。
  • Ⓒを自動的に低い方にする・Ⓑで1年を選ぶ:Ⓒの2年平均は納税義務者の選択で、Ⓑは2年平均だけです。
  • Aを3か月だけで比べる:前年平均と2年間の平均も選べます。5つのうち最も低いものを確認します。
  • 前年分の株価表を使う:2026年中の課税時期は2026年分の表を使います。同じ月でも前年分の表と値が違うことがあります。
  • 端数処理を最後にまとめてする:要素別比準割合と比準割合は、段階ごとに小数点以下2位未満を切り捨てます。

他の税金との関係

  • 所得税の時価(所得税基本通達59-6)で会社を小会社とみなす場合でも、類似業種比準価額の斟酌率は実際の規模の割合(中会社なら0.6)を使います:所得税・法人税上の時価
  • 会社が株主から自己株式を取得したときのみなし配当は、Ⓑの配当金額に含めません。売った株主側の課税:相続した自社株を会社に売る

見直しの検討状況

国税庁の有識者会議の骨子(2026年8月20日)は、上場会社との比較ではなく評価会社の企業価値をもとに評価し、規模別の評価体系をやめて残余利益モデルによる方式に原則一本化する方向を示しています検討中。適用時期は未定で、2026年10月時点の評価はこの章の現行の方式で行います(評価方法の見直しの検討状況)。

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 算式・斟酌率・50円換算は評基通180(斟酌率は180(3)で中会社0.6・小会社0.5に読替え)。業種目は評基通181・181-2、類似業種の株価は評基通182、比準要素は評基通183((1)配当、(2)利益、(3)純資産)、標本会社の数値は評基通183-2(連結財務諸表により、資本金等の額は資本金の額等、課税所得は税引前当期純利益などと読替え)、比準価額の修正は評基通184。
  • 明細書は第4表の1(1株当たりの資本金等の額、Ⓑ・Ⓒ・Ⓓの基礎計算、比準要素数の判定要素B1・B2・C1・C2・D1・D2)と第4表の2(業種目、A・B・C・D、比準割合、比準価額、修正)。令和8年6月26日付の様式改正で、旧第4表が第4表の1・2に分かれています。
  • 業種目別株価等は令和8年6月5日付課評2-41、最終改正は令和8年10月8日付課評2-68(8月分まで掲載)。令和7年分は令和7年6月9日付課評2-27で公表され、令和8年1月9日付課評2-3の改正で11・12月分まで掲載されました。

端数処理の裏付け

  • 要素別比準割合・比準割合の小数点以下2位未満切捨ては記載方法に明記されています。Ⓑの10銭未満、Ⓒ・Ⓓの円未満、1株(50円)当たりの比準価額の10銭未満、1株当たりの比準価額の円未満の切捨ては様式の表示単位によるもので、国税庁の平成19年3月9日付情報の設例(Ⓑ=2円00銭、Ⓓ=91円、1株(50円)当たりの比準価額215.20円、1株当たりの比準価額3,443円)と整合します。
  • 比準要素数1の判定では、表示単位未満の端数を切り捨てた結果0となる要素は0とします(質疑応答「比準要素数1の会社の判定の際の端数処理」)。

比準要素の実務論点

  • Ⓑは各事業年度中に効力が発生した剰余金の配当で計算し、自己株式の取得によるみなし配当は含めません(質疑応答)。
  • Ⓒの非経常的な損益は種類が異なっても通算し、通算結果が利益の場合にその利益を除きます(質疑応答「固定資産の譲渡が数回ある場合」「種類の異なる非経常的な損益がある場合」)。1年未満の事業年度がある場合は、月数按分などで1年間に対応する金額を求めます(記載方法)。継続的な有価証券売却益、外国子会社からの配当、譲渡損益調整資産、適格現物分配、グループ通算制度の損益通算などには個別の質疑応答があります。
  • Ⓓは別表五(一)の差引翌期首現在の資本金等の額と利益積立金額の合計で、利益積立金額が負数ならその分を資本金等の額から控除し、なお負数なら0です(183注)。
  • 直後期末の方が課税時期に近くても、直前期末の数値によります(質疑応答「直後期末の方が課税時期に近い場合」)。
  • 配当優先株式はⒷを株式の種類ごとに計算します(種類株式・医療法人の出資)。株式等保有特定会社のS1では、Ⓑ・Ⓒに受取配当金等収受割合を乗じるなどの修正をします(特定の評価会社)。
  • 平成29年改正では、比重の見直し(1:3:1から1:1:1)のほか、類似業種の株価に課税時期の属する月以前2年間の平均株価を加え、標本会社の比準要素を連結決算ベースにしました。
第5章

純資産価額方式(38%への改正)

純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税の評価額で計算し直し、1株当たりの正味の財産を求める方法です。2026年(令和8年)4月1日以後に取得した株式から、含み益から差し引く法人税等の割合が37%から38%に変わりました。

この章の結論

  • 1株当たりの純資産価額は「(相続税評価額による総資産−負債−評価差額×38%)÷発行済株式数」です。評価差額とは、相続税評価額と帳簿価額でそれぞれ計算した純資産の差(含み益)です。
  • 38%は、2026年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式に使います施行中。2026年3月31日以前の取得は37%です。評価や申告をする日ではなく、取得日で使い分けます。
  • 会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、路線価などではなく通常の取引価額で評価します。引当金は負債になりませんが、未払の法人税等や死亡退職金は帳簿になくても負債です。
  • 純資産価額を80%にできるのは、議決権50%以下の同族グループの株主が、中会社・小会社や一部の特定の評価会社の評価で使う場合だけです。大会社で純資産価額を選ぶときは使えません。

算式と、純資産価額を使う場面

評価会社(株式を評価する会社)の資産と負債は、決算書の金額(帳簿価額)ではなく、財産評価基本通達で評価し直します。例えば、会社が持つ土地は路線価などで評価します。

ただし、評価し直して生じた含み益をそのまま株主の取り分とはしません。含み益に対する法人税等に相当する額を差し引きます。算式は次のとおりです。

1株当たりの純資産価額=(相続税評価額による総資産価額−負債の合計額−評価差額に対する法人税額等相当額)÷課税時期の発行済株式数
評価差額に対する法人税額等相当額=(相続税評価額による純資産価額−帳簿価額による純資産価額)×38%(2026年3月31日以前の取得は37%)

相続税評価額による純資産価額
課税時期の各資産を財産評価基本通達で評価した合計額から、負債の合計額を差し引いた金額です。
帳簿価額による純資産価額
同じ資産の帳簿価額の合計額から、負債の合計額を差し引いた金額です。帳簿価額は税務計算上の金額を使い、減価償却累計額や圧縮記帳の積立金などは資産の帳簿価額から差し引きます。
評価差額
上の2つの差額で、会社の資産の含み益に当たります。差額がない(マイナスになる)ときは、法人税額等相当額を控除しません。
発行済株式数
課税時期の発行済株式数から、自己株式の数を除いた株式数です。直前期末の株式数ではありません。

1株当たりの純資産価額は、円未満を切り捨てます。純資産価額は小会社の評価の基本になるほか、中会社の算式の一部や、特定の評価会社の評価にも使います。大会社でも、純資産価額の方が低ければ選べます。組み合わせ方は会社規模ごとの評価額と特定の評価会社で説明します。

37%から38%へ:いつから、なぜ変わったか

国税庁は2026年3月25日付の通達改正で、評価差額に対する法人税額等相当額の割合を37%から38%に改めました。防衛特別法人税が創設され、2026年4月1日以後に開始する事業年度から課されることに合わせたものです。

38%は、2026年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式の評価に使います。2026年3月31日以前に取得した株式は、従来の37%で評価します。取得日は、相続なら亡くなった日、贈与なら贈与で取得した日です。

  1. 2026年3月31日以前の取得評価差額×37%。評価明細書は「令和6年1月1日以降用」(2024年(令和6年)1月1日から2026年3月31日までの取得)を使います。
  2. 2026年4月1日以後の取得評価差額×38%。評価明細書は「令和8年4月1日以降用」を使います。

国税庁の趣旨説明による38%の内訳は次のとおりで、合計の37.7316%を38%としています。

評価差額に対する法人税額等相当額38%の内訳
税目計算の考え方割合
法人税税率23.2%
地方法人税法人税額×10.3%2.3896%
防衛特別法人税法人税額×4.0%0.928%
事業税税率7.0%
特別法人事業税事業税額×37.0%2.59%
道府県民税法人税額×1.0%0.232%
市町村民税法人税額×6.0%1.392%
合計合計を38%とする37.7316%

割合が上がると控除額が増えるため、純資産価額はわずかに下がります。評価差額が1億円なら、控除額は3,700万円から3,800万円へ100万円増えます。なお、防衛特別法人税の基礎控除に当たる部分は、簡便のため割合に織り込まれていません。

資産と負債に入れるもの・入れないもの

純資産価額は、決算書の資産・負債をそのまま使うわけではありません。帳簿にない資産や負債を加え、財産としての価値がないものを除いて、相続税の評価のルールで範囲を整えます。

純資産価額の計算で調整する主な項目
区分項目扱い
資産に入れる帳簿にない借地権・営業権など相続税評価額を計上し、帳簿価額は0とします。評価差額が大きくなります。
資産に入れる被相続人の死亡によって会社が受け取る生命保険金生命保険金請求権として、相続税評価額と帳簿価額の両方に計上します。資産に計上していた保険積立金は除きます。
資産に入れる被相続人が同族会社に貸していた土地で、無償返還の届出や相当の地代により貸宅地を自用地価額の80%で評価したもの自用地価額の20%相当額を、その同族会社の純資産価額に算入します。
資産に入れない財産性のない繰延資産(創立費・新株発行費など)、繰延税金資産評価の対象になりません。
負債に入れる課税時期の事業年度の法人税・消費税・事業税・住民税などのうち、期首から課税時期までに対応する未払分帳簿になくても負債にします(相続税評価額と帳簿価額の両方)。
負債に入れる課税時期以前に賦課期日があった固定資産税・都市計画税の未払分帳簿になくても負債にします。
負債に入れる被相続人の死亡によって支給が確定した退職手当金・功労金など帳簿になくても負債にします。
負債に入れる未納の公租公課・未払利息など帳簿になくても負債にします。
負債に入れない貸倒引当金・退職給与引当金・納税引当金などの引当金・準備金、繰延税金負債決算書に計上されていても負債にしません。

弔慰金は注意が必要です。相続税で退職手当金等とみなされて課税される部分に限って負債になり、相続税がかからない部分の弔慰金は負債になりません。

会社が受け取った生命保険金を原資に死亡退職金を支払う場合は、支払う死亡退職金と、死亡退職金を差し引いた後の保険差益に対する法人税額等を負債にします。また、会社が持つ子会社などの非上場株式を純資産価額で評価するときは、その子会社の計算では法人税額等相当額を差し引きません。

3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額

評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等と家屋等は、路線価や固定資産税評価額ではなく、課税時期の通常の取引価額で評価します。土地等には借地権など土地の上に存する権利を含み、家屋等には附属設備と構築物を含みます。

その土地・建物の帳簿価額が、課税時期の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、帳簿価額で評価できます。3年を超えて保有している土地・建物は通常どおり財産評価基本通達で評価し、貸家建付地や貸家の評価減も使えます。

このため、会社が不動産を買った直後は、路線価などとの差による評価減が生じません。不動産の購入と株価の関係は株価が動く要因と対策の注意点でも扱います。

これとは別に、国税庁は2026年9月18日、個人が持つ貸付用不動産の評価を見直す「貸付用不動産の評価について」の通達案を公表しました通達案。意見公募の締切は10月18日で、2026年10月17日時点で通達は制定されておらず、最終的な内容が変わる可能性があります。

会社が持つ土地・建物(純資産価額)

  • 課税時期前3年以内の取得・新築は通常の取引価額(帳簿価額が相当なら帳簿価額)
  • 現行の財産評価基本通達のルール
  • 貸付用不動産の通達案は、この計算には適用しないと案に明記

個人が持つ貸付用不動産(通達案)

  • 課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築したものは通常の取引価額
  • 取得価額をもとに計算した価額の80%で評価する選択あり
  • 2027年(令和9年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用予定

会社が持つ不動産は、通達案の5年ルールではなく、従来からの3年ルールで評価します。両者を混同しないようにしてください。通達案の内容は2027年からの貸付用不動産・小口化商品の評価見直しで詳しく説明しています。

議決権50%以下のグループは80%で評価できる

株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計が、議決権総数の50%以下のときは、1株当たりの純資産価額を80%で評価できます。純資産価額を20%減らす取扱いです。

ただし、使える場面は通達で限られています。大会社で純資産価額を選ぶ場合と、開業前・休業中の会社には使えません。

80%評価が使える場面・使えない場面
場面80%評価
中会社の算式(類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L))の純資産価額使える
小会社の純資産価額(併用方式の純資産価額部分を含む)使える
比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満等の会社の純資産価額使える
大会社で類似業種比準価額の代わりに純資産価額を選ぶ場合使えない
開業前・休業中の会社使えない
医療法人の出資使えない

例えば、筆頭のグループの議決権が45%の中会社・小会社で、そのグループの株主が原則的評価方式で評価する場合は、80%評価を使えます。株主の区分は評価方式の判定:株主の区分で説明しています。

国税庁の有識者会議が示した見直しの骨子では、この20%の評価減は廃止せざるを得ないとされています検討中。適用時期は決まっておらず、現在の通達では80%評価を使えます(評価方法の見直しの検討状況)。

仮決算か直前期末か:計算の基準時点

純資産価額は、原則として課税時期の資産・負債で計算します。つまり、課税時期に仮決算を行って計算するのが原則です。

仮決算をしていなくても、直前期末から課税時期までに資産・負債の著しい増減がなく、評価額への影響が少ないと認められるときは、直前期末の資産・負債をもとに計算できます。この場合、相続税評価額は直前期末の資産・負債を課税時期の評価額(課税時期の年分の路線価など)で評価し、帳簿価額は直前期末の帳簿価額を使います。

直前期末の数値を使う場合も、未納の公租公課、確定した配当金、確定した退職手当金などは帳簿になくても負債にします。株式等保有割合・土地保有割合による特定の評価会社の判定も、同じ時点の数値にそろえます。

計算例:1株当たりの純資産価額(38%と37%の比較。数値は仮定)

前提:製造業のX社。課税時期は2026年7月10日で、課税時期に仮決算をしています。発行済株式数は2万株で、自己株式はありません。相続税評価額による総資産は4億円(うち土地等1億6,000万円は3年を超えて保有し、路線価で評価)、帳簿価額による総資産は2億7,000万円です。

決算書の負債1億6,000万円から、退職給与引当金2,000万円を除きます。帳簿にない未払法人税等(期首から課税時期までの分)800万円と、未払固定資産税200万円を加えます。負債は1億6,000万円−2,000万円+800万円+200万円=1億5,000万円です。

X社の1株当たりの純資産価額(38%の場合)
項目計算金額
相続税評価額による純資産価額4億円−1億5,000万円2億5,000万円
帳簿価額による純資産価額2億7,000万円−1億5,000万円1億2,000万円
評価差額2億5,000万円−1億2,000万円1億3,000万円
法人税額等相当額1億3,000万円×38%4,940万円
1株当たりの純資産価額(2億5,000万円−4,940万円)÷2万株10,030円

答え:1株当たりの純資産価額は10,030円です。仮に課税時期が2026年3月31日以前なら、控除額は1億3,000万円×37%=4,810万円です。純資産価額は(2億5,000万円−4,810万円)÷2万株=10,095円になります。議決権50%以下のグループの株主が中会社の算式で使う場合は、10,030円×80%=8,024円です。

よくある誤り

  • 2026年4月1日以後の相続・贈与を37%で計算するのは誤りです。3月31日以前の取得に38%を使うのも誤りで、明細書も取得日に合った様式を使います。
  • 会社が3年以内に買った土地・建物は、路線価や固定資産税評価額では評価できません。
  • 退職給与引当金・貸倒引当金などの引当金は負債に入れません。反対に、帳簿にない未払法人税等・未払固定資産税・死亡退職金は負債に入れます。
  • 大会社で純資産価額を選んだ場合や、開業前・休業中の会社には、80%評価を使えません。
2026年3月に亡くなった父の株式を、9月に評価しています。38%で計算しますか?

37%で計算します。割合は取得日(相続では亡くなった日)で決まり、評価や申告をする日では決まりません。評価明細書も「令和6年1月1日以降用」を使います。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 算式、3年以内に取得・新築した土地等・家屋等の通常の取引価額、80%評価、発行済株式数(自己株式を控除):評基通185(本文・ただし書・注)。
  • 負債の範囲:評基通186。弔慰金は相法3条1項2号・相基通3-18〜3-20により退職手当金等とみなされる部分に限り負債です(質疑応答)。
  • 評価差額に対する法人税額等相当額:評基通186-2。2026年3月25日付課評2-28・課資2-2・課審7-1で37%を38%に改め、括弧書きに防衛特別法人税を加えました。所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)の施行に伴う改正で、2026年4月1日以後の取得に適用されます。経過措置の明文はなく、3月31日以前の取得は従前の37%です。
  • 評価会社が有する取引相場のない株式等(出資・転換社債型新株予約権付社債を含む)を純資産価額で評価する場合の法人税額等相当額の控除不適用:評基通186-3(注)。
  • 相当の地代・無償返還届出の貸宅地の20%相当額の算入:1968年(昭和43年)10月28日付直資3-22。

実務論点

  • 現物出資等受入れ差額(評基通186-2(2)):現物出資・合併・株式交換・株式移転・株式交付で、著しく低い価額で受け入れた資産がある場合の取扱いです。受入れ時の相続税評価額と帳簿価額の差額を、帳簿価額による純資産価額に加算します。この含み益は法人税額等相当額の控除対象になりません。総資産価額(相続税評価額)に占める受入れ資産の割合が20%以下なら適用しません。
  • 保険差益に対する法人税額等:仮決算をしない場合の簡便計算(課税所得×37%)は、質疑応答の2025年(令和7年)8月1日現在の記載で、2026年10月時点でも更新されていません。38%への改正の趣旨説明にも、この簡便計算への言及はありません。2026年4月1日以後の取得に38%を用いるかは国税庁の明示がないため、税務署等で確認してください。欠損法人は保険差益から欠損金額を控除して計算します。
  • 帳簿価額は税務計算上の帳簿価額です。会社規模の判定に使う総資産価額(確定決算上の帳簿価額で、圧縮記帳引当金・積立金を控除しない)とは扱いが異なります。
  • 明細書第5表:帳簿価額による純資産価額・評価差額がマイナスなら0と記載し、3年以内取得の土地等・家屋等は区分して記載します。80%の欄は議決権割合50%以下の株主グループに属する場合のみ記載します。
  • 直前期末基準で計算する場合は、第2表の判定と第7表の1〜第7表の3のS2も同じ時点の数値によります。
  • 有識者会議の骨子(2026年8月20日)は、一定要件の退職給付引当金を負債とする方向や20%評価減の廃止を示していますが、適用時期・経過措置の記載はありません。
第6章

会社規模ごとの評価額:Lの割合

同族株主等が取得した株式は、会社規模に応じて類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせて評価します(原則的評価方式)。この章では、大会社・中会社・小会社の算式とLの割合、80%評価との関係を計算例で確認します。

この章の結論

  • 大会社は類似業種比準価額で評価します。純資産価額の方が低ければ、純資産価額を選べます。
  • 中会社は「類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L)」で、Lは0.90・0.75・0.60のいずれかです。小会社は、純資産価額と「類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50」の低い方です。
  • Lの割合(2つの価額を組み合わせる比重)と、斟酌率(類似業種比準価額の計算の中で掛ける0.7・0.6・0.5)は別のものです。
  • 議決権50%以下のグループの株主は、中会社・小会社の算式の純資産価額を80%にできます。大会社で純資産価額を選ぶ場合は使えません。

3つの算式の全体像

原則的評価方式の評価額は、会社規模ごとに次の表の算式で求めます。会社規模とLの判定は会社規模の判定、類似業種比準価額は類似業種比準方式、純資産価額は純資産価額方式で説明しています。

会社規模ごとの評価額の算式(一般の評価会社)
会社規模評価額の算式斟酌率80%評価
大会社類似業種比準価額。純資産価額の方が低ければ純資産価額を選べる0.7使えない
中会社類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L)。L=0.90・0.75・0.600.6算式中の純資産価額に使える
小会社純資産価額。選択により類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50(いずれか低い方)0.5純資産価額(併用方式の純資産価額部分を含む)に使える

会社規模が大きいほど類似業種比準価額の比重が高く、小さいほど純資産価額の比重が高くなります。各算式の結果は、円未満を切り捨てます。

この表は一般の評価会社の算式です。資産に占める株式や土地の割合が高い会社などは特定の評価会社の方法で評価します。同族株主等以外の株主が取得した株式は配当還元方式で評価します。

大会社:類似業種比準価額が基本

大会社の株式は、類似業種比準価額で評価します。大会社の斟酌率は0.7です。斟酌率は、会社の規模が小さいほど上場会社との類似性が薄れることを考慮した割合で、中会社は0.6、小会社は0.5になります。

1株当たりの純資産価額の方が類似業種比準価額より低い場合は、純資産価額で評価することを選べます。ただし、この場合は議決権50%以下のグループの株主でも80%評価は使えません。80%評価を定めた通達の規定が、大会社の純資産価額の選択を対象にしていないためです。

中会社:Lの割合で2つの価額を組み合わせる

中会社の評価額=類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額×(1−L)

Lは類似業種比準価額の比重で、0.90・0.75・0.60の3段階です。「総資産価額(帳簿価額)と従業員数」で決まる割合と、「取引金額」で決まる割合のうち、大きい方を使います。L=0.90を中会社の大、0.75を中会社の中、0.60を中会社の小と呼ぶのが一般的です(通達上の用語ではありません)。

中会社の類似業種比準価額は、Lがいくつでも斟酌率0.6で計算します。Lは会社規模の判定で決まる組み合わせの割合で、斟酌率とは別のものです。

算式中の類似業種比準価額は、純資産価額に置き換えることを選べます。類似業種比準価額の方が純資産価額より高い会社では、置き換えると評価額は純資産価額と同じになります(80%評価を使わない場合)。

議決権50%以下のグループの株主は、算式中の純資産価額(1−Lの部分)に80%評価を使えます。明細書の算式では、置き換えるかどうかの比較に、80%を掛ける前の純資産価額を使う形とされています(詳しくは税務署等で確認)。

小会社:純資産価額が基本で、併用方式を選べる

小会社の評価額=次のいずれか低い方
①1株当たりの純資産価額
②類似業種比準価額×0.50+1株当たりの純資産価額×0.50

小会社の株式は純資産価額で評価するのが原則で、選択により②の併用方式を使えます。②の類似業種比準価額は斟酌率0.5で計算します。L=0.50と斟酌率0.5は別のもので、両方を使う点に注意してください。

議決権50%以下のグループの株主は、①の純資産価額にも、②の純資産価額部分にも80%評価を使えます。

計算例:中会社の大(L=0.90)の評価額

計算例:相続人AがL=0.90の中会社の株式を相続した場合(数値は仮定)

前提:製造業のX社で、課税時期は2026年(令和8年)7月10日です。Aが属する同族グループの議決権は60%です。

会社規模は、従業員25人・総資産価額(帳簿価額)2億7,000万円で決まるLが0.75、取引金額5億円で決まるLが0.90です。大きい方をとり、L=0.90の中会社(中会社の大)になります。

類似業種比準価額は、類似業種の株価500円と比準割合1.12から求めます。500円×1.12×0.6=336.0円に、1株当たりの資本金等の額500円÷50円を掛けて3,360円です(類似業種比準方式)。1株当たりの純資産価額は、法人税額等相当額を38%として10,030円です施行中(純資産価額方式の計算例)。

X社の1株当たりの評価額(中会社の大)
項目計算金額
置き換えの判断類似業種比準価額3,360円は純資産価額10,030円より低いので、置き換えない―
類似業種比準価額×L3,360円×0.903,024円
純資産価額×(1−L)10,030円×0.101,003円
評価額3,024円+1,003円4,027円

答え:1株当たりの評価額は4,027円です。課税時期が2026年3月31日以前(37%)なら、純資産価額は10,095円で、3,024円+1,009.5円=4,033.5円、円未満を切り捨てて4,033円です。Aのグループの議決権が50%以下なら、純資産価額は10,030円×80%=8,024円で、3,024円+802.4円=3,826.4円、切り捨てて3,826円です。

会社規模で評価額はどれだけ変わるか

同じX社の数値のまま、会社規模の区分だけを変えて試算すると、次のようになります。会社規模は従業員数・総資産価額・取引金額で決まり、選べるものではありません。この表は、算式の比重の違いが評価額に与える影響を示すための仮定の試算です。

X社の数値で会社規模だけを変えた場合の試算(仮定)
会社規模類似業種比準価額評価額議決権50%以下のグループ
大会社(斟酌率0.7)3,920円3,920円3,920円
中会社の大(L=0.90)3,360円4,027円3,826円
中会社の中(L=0.75)3,360円5,027円4,526円
中会社の小(L=0.60)3,360円6,028円5,225円
小会社(斟酌率0.5)2,800円6,415円5,412円

大会社の類似業種比準価額は500円×1.12×0.7=392.0円、392.0円×500円÷50円=3,920円です。純資産価額10,030円より低いので、評価額は3,920円です。大会社は80%評価を使えないため、右の列も同じ金額です。

中会社の中は3,360円×0.75+10,030円×0.25=5,027.5円で、円未満を切り捨てて5,027円です。中会社の小は3,360円×0.60+10,030円×0.40=6,028円です。

小会社の類似業種比準価額は、500円×1.12×0.5=280.0円から2,800円です。併用方式は2,800円×0.50+10,030円×0.50=6,415円で、純資産価額10,030円より低いので6,415円になります。

右の列は、純資産価額を80%の8,024円として計算しています。例えば中会社の小は、3,360円×0.60+8,024円×0.40=5,225.6円で5,225円です。小会社は2,800円×0.50+8,024円×0.50=5,412円で、8,024円より低いので5,412円です。この例では、最も低い大会社と最も高い小会社で約1.6倍の差があります。

よくある誤り

  • 斟酌率(大0.7・中0.6・小0.5)とLの割合(0.90・0.75・0.60)を取り違えるのは誤りです。中会社の類似業種比準価額は、Lにかかわらず斟酌率0.6で計算します。
  • 小会社の併用方式では、L=0.50と斟酌率0.5の両方を使います。どちらか一方を落とすと評価額を誤ります。
  • 大会社で純資産価額を選んだ場合は、80%評価を使えません。
  • 中会社で類似業種比準価額が純資産価額より高いときは、純資産価額への置き換えを検討します。

他の税金との関係

  • 中心的な同族株主が法人に株式を譲渡・贈与する場合の所得税の時価(所基通59-6)は、会社を常に小会社とみなして計算します。類似業種比準価額の斟酌率は実際の規模のままです:所得税・法人税上の時価
  • 後継者への自社株の承継で、相続税・贈与税・所得税がどう関わるか:自社株を後継者に渡すとき
専門家向け:根拠と実務論点
  • 根拠:評基通179(1)(大会社。ただし書で純資産価額の選択)、179(2)(中会社。Lはイ・ロのいずれか大きい方、算式中の類似業種比準価額を純資産価額とすることの選択)、179(3)(小会社。L=0.50の併用方式の選択)、180(3)(斟酌率0.7を中会社は0.6、小会社は0.5に読み替え)、185ただし書(80%評価)。
  • 80%評価の適用範囲:185ただし書は179(2)の算式と179(3)の純資産価額を対象とし、179(1)ただし書を挙げていません。特定の評価会社では189-2〜189-4が準用し、189-5(開業前・休業中)は185本文のみです。
  • 中会社で置き換えを選ぶ場合の比較:明細書第3表の算式は、次の形とされます。「類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額(80%を乗じる前)のいずれか低い方×L+純資産価額(80%適用時はその金額)×(1−L)」。通達本文には明記がありません。国税庁が掲載する評価明細書は画像のPDFで、当サイトでは算式を文字で確認できていないため、申告では明細書の様式で確かめてください。
  • 端数処理:各算式の結果は円未満切捨てです(表示単位未満切捨て)。
  • 比準要素数1の会社は、179(2)の算式をL=0.25として準用します(189-2)。斟酌率は会社規模に応じます(特定の評価会社)。
  • 所基通59-6(2):譲渡・贈与直前に中心的な同族株主に該当する個人が譲渡等をする場合は、常に小会社として計算します。179の例による場合のほか、189-3(1)で179に準じる場合も含みます。斟酌率は実際の規模によります(資産課税課情報第22号、2020年(令和2年)9月30日)。法基通9-1-14も、法人が中心的な同族株主に該当する場合は小会社として計算する条件を置いています。
  • 規模による評価水準の差:有識者会議の第1回資料では、純資産価額に対する申告評価額の中央値は大会社0.32倍・中会社0.50倍・小会社0.61倍です(会計検査院の分析)。国税庁の2022年(令和4年)分・2023年(令和5年)分の実態把握では、大0.44倍・中0.50倍・小0.60倍です。見直しの骨子は規模別の評価体系の廃止を掲げています検討中。適用時期は未定です(評価方法の見直しの検討状況)。
第7章

特定の評価会社

資産に占める株式や土地の割合が高い会社、配当も利益も出ていない会社、開業して間もない会社などは「特定の評価会社」として、原則として純資産価額で評価します。この章では、6つの類型の判定基準と評価方法、判定を免れるための資産の組み替えの扱いを整理します。

この章の結論

  • 特定の評価会社は、比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満等の会社、開業前・休業中の会社、清算中の会社の6類型です。いずれにも当たらなければ一般の評価会社です。
  • 評価は原則として純資産価額です(議決権50%以下のグループは80%)。比準要素数1の会社は類似業種比準価額を25%使う併用方式を、株式等保有特定会社はS1+S2方式を選べます。
  • 総資産(相続税評価額)のうち株式等が50%以上なら株式等保有特定会社です(会社規模を問わない)。土地等が大会社で70%以上、中会社で90%以上なら土地保有特定会社で、小会社は総資産の規模で基準が分かれます。
  • 判定を免れるために合理的な理由なく資産構成を変えても、その変動はなかったものとして判定されます。

6つの類型と判定の順序

特定の評価会社は、会社規模に応じた一般の評価方法とは別の評価方法を、通達が定めている会社です。類型は6つあり、いずれにも当たらない会社が一般の評価会社として会社規模ごとの評価額の算式で評価されます。

各類型は、後に並ぶ類型に当たるものを除く形で定められています。このため、次の順に確認していくと、通達どおりの結論になります。

  1. 清算中か当たれば清算中の会社です。
  2. 開業前・休業中か当たれば開業前・休業中の会社です。
  3. 開業後3年未満か、比準要素がすべて0か当たれば開業後3年未満等の会社です。
  4. 土地保有割合が基準以上か大会社70%以上、中会社90%以上など。当たれば土地保有特定会社です。
  5. 株式等保有割合が50%以上か会社規模を問いません。当たれば株式等保有特定会社です。
  6. 比準要素のうち2つが0か直前期末で3要素のうち2つが0で、直前々期末でも2つ以上が0なら比準要素数1の会社です。
  7. いずれにも当たらない一般の評価会社として、会社規模に応じて評価します。
特定の評価会社の類型と評価方法
類型主な判定基準評価方法80%評価少数株主が取得した場合
比準要素数1の会社直前期末で配当・利益・純資産のうち2つが0、かつ直前々期末でも2つ以上が0純資産価額、または類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75の低い方使える配当還元方式(原則的評価額が上限)
株式等保有特定会社総資産のうち株式等が50%以上純資産価額、またはS1+S2方式純資産価額に使える配当還元方式(同上)
土地保有特定会社総資産のうち土地等が大会社70%以上・中会社90%以上など純資産価額使える配当還元方式(同上)
開業後3年未満等の会社開業後3年未満、または比準要素がすべて0純資産価額使える配当還元方式(同上)
開業前・休業中の会社開業前または休業中純資産価額使えない純資産価額(配当還元方式なし)
清算中の会社清算中分配見込額の複利現価―配当還元方式なし

少数株主とは、同族株主等以外の株主のことです(評価方式の判定:株主の区分)。配当還元方式の計算は配当還元方式で説明しています。

比準要素数1の会社

比準要素とは、類似業種比準方式で使う1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(帳簿価額)の3つです。直前期末を基準にした3要素のうち2つが0で、かつ直前々期末を基準にした3要素でも2つ以上が0の会社が、比準要素数1の会社です。

配当と利益は、直前期末以前3年間の実績を反映させて判定します。判定に使う要素は次のとおりです(いずれも1株(50円)当たりに換算)。利益と純資産がマイナスのときは0とします。

比準要素数1の判定に使う要素
要素直前期末を基準にした値直前々期末を基準にした値
配当直前期と直前々期の配当の平均直前々期とその前期の配当の平均
利益直前期の利益(選択により直前期と直前々期の平均)直前々期の利益(選択により直前々期とその前期の平均)
純資産直前期末の純資産(帳簿価額)直前々期末の純資産(帳簿価額)

端数処理の結果0円になる要素も0として扱います。配当は10銭未満、利益と純資産は1円未満なら0です。

評価は、原則として1株当たりの純資産価額です。納税義務者の選択により、類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75の併用方式(L=0.25)も使え、低い方で評価できます。類似業種比準価額の斟酌率は、会社規模に応じて0.7・0.6・0.5です。

計算例:比準要素数1の会社の評価額(数値は仮定)

前提:中会社のX社が直前期・直前々期とも無配で課税所得もなく、配当と利益の要素が、直前期末・直前々期末のどちらを基準にしても0になったとします。純資産の要素は500円、類似業種の株価Aは500円、類似業種の純資産Dは400円、1株当たりの資本金等の額は500円、1株当たりの純資産価額は10,030円とします。

類似業種比準価額:比準割合は(0+0+500円÷400円)÷3=0.416…で、小数点以下2位未満を切り捨てて0.41です。1株(50円)当たりの比準価額は500円×0.41×0.6=123.0円で、1株当たりは123.0円×500円÷50円=1,230円です。

X社(比準要素数1の会社)の評価額
方法計算金額
①純資産価額計算済みの値10,030円
②併用方式(L=0.25)1,230円×0.25+10,030円×0.757,830円

答え:①と②の低い方の7,830円です。仮に同じ数値をL=0.90の算式に当てはめると、1,230円×0.90+10,030円×0.10=2,110円です。比準要素数1の会社に当たると、類似業種比準価額の比重が0.25に下がるため、評価額が大きく上がることがあります。

株式等保有特定会社

課税時期の総資産価額(相続税評価額)のうち、株式等の価額(相続税評価額)が50%以上を占める会社です。この割合を株式等保有割合といい、1%未満を切り捨てて判定します。以前は大会社に限り25%以上という基準でしたが、2013年(平成25年)5月27日以後は会社規模を問わず50%以上です。

株式等には、所有の目的や期間にかかわらず、株式・出資・新株予約権付社債が含まれます。国税庁の質疑応答と明細書の記載方法では、次のように整理されています。

株式等に含むもの

  • 証券会社が商品として持つ株式(保管有価証券勘定のものを除く)
  • 外国株式
  • 株式制のゴルフ会員権
  • 法人税法12条で保有とみなされる信託財産の株式等
  • 特定金銭信託

株式等に含まないもの

  • 匿名組合の出資
  • 証券投資信託の受益証券
  • 民法上の組合への出資

評価は、原則として1株当たりの純資産価額です(議決権50%以下のグループは80%)。納税義務者の選択により、S1+S2方式も使えます。

S1
株式等以外の資産の部分を、一般の評価会社に準じて評価した金額です。類似業種比準価額の計算では、受取配当金等収受割合を使って配当と利益から株式等の寄与分を除き、純資産の要素も修正します。斟酌率は会社規模に応じます。
受取配当金等収受割合
直前期末以前2年間の受取配当金等の合計額÷(受取配当金等の合計額+営業利益の合計額)で、1が上限です。小数点以下3位未満を切り捨てます。
S2
株式等の相続税評価額の合計から、その含み益(相続税評価額−帳簿価額)の38%を差し引き、課税時期の発行済株式数で割った金額です施行中。2026年(令和8年)3月31日以前の取得は37%です。

計算例:株式等保有割合と土地保有割合の判定(中会社。数値は仮定)

前提:中会社のY社。課税時期の総資産価額(相続税評価額)は5億円で、うち株式等が2億4,950万円、土地等が1億5,000万円です。

Y社の判定
判定計算結果
土地保有割合1億5,000万円÷5億円=30%中会社の基準90%未満で、当たらない
株式等保有割合2億4,950万円÷5億円=49.9%。1%未満を切り捨てて49%50%未満で、当たらない

答え:Y社はどちらにも当たらず、比準要素数1などの判定へ進みます。株式等が2億5,000万円なら50%となり、株式等保有特定会社です。ただし、判定を免れるための資産の組み替えは認められません(この章の最後の小見出し)。

土地保有特定会社

総資産価額(相続税評価額)のうち、土地等(土地と、借地権など土地の上に存する権利)の価額(相続税評価額)の割合が、次の基準以上の会社です。この割合を土地保有割合といい、1%未満を切り捨てて判定します。

土地保有特定会社の判定基準
会社の区分土地保有割合
大会社70%以上
小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が卸売業20億円以上、卸売業以外15億円以上の会社70%以上
中会社90%以上
小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が卸売業7,000万円以上、小売・サービス業4,000万円以上、それ以外の業種5,000万円以上の会社(上の70%の区分を除く)90%以上
上記以外の小会社対象外

従業員5人以下の会社などは、総資産が大きくても、取引金額が小さければ小会社になることがあります。小会社の基準は、総資産価額(帳簿価額)の規模によって70%以上・90%以上・対象外に分かれます。例えば、卸売業以外で総資産価額(帳簿価額)が15億円以上の小会社は、大会社と同じ70%以上で判定します。

販売用として持つ土地(たな卸資産)も土地等に含みます。評価は1株当たりの純資産価額で(議決権50%以下のグループは80%)、類似業種比準価額との併用方式はありません。

開業後3年未満・開業前・休業中・清算中の会社

課税時期に開業後3年未満の会社は、1株当たりの純資産価額で評価します。直前期末を基準にした配当・利益・純資産の3要素がすべて0の会社(比準要素数0の会社)も同じで、どちらも議決権50%以下のグループは80%評価を使えます。比準要素数0の判定では、配当と利益は直前期末以前2年間の実績で判定します。

開業前または休業中の会社も純資産価額で評価しますが、80%評価は使えません。同族株主等以外の株主が取得した場合でも配当還元方式の定めがなく、純資産価額で評価します。

清算中の会社は、清算により分配を受ける見込みの金額を、分配を受けるまでの期間に応じた基準年利率で割り引いた金額(複利現価)で評価します。期間が1年未満のときや1年未満の端数があるときは1年とし、分配が2回以上見込まれるときはそれぞれ計算して合計します。

ただし、長い間分配をせずに清算中のままの会社は、分配の見込額や時期を合理的に見積もれません。このような会社は、純資産価額で評価するとされています(国税庁の質疑応答)。

判定を免れるための資産構成の変動は認められない

課税時期前に、合理的な理由なく会社の資産構成が変わることがあります。その変動が、株式等保有特定会社や土地保有特定会社と判定されることを免れるためと認められるときは、変動はなかったものとして判定します。何年前までの変動が対象かという期間の定めは、通達にありません。

例えば、課税時期の直前に一時的に借入れをして現預金を増やし、株式等や土地等の割合を基準未満に下げるような変動は、合理的な理由がなければこの規定の対象になり得ます。資産構成を変えるときは、その理由を説明できるようにしておくことが大切です。

持株会社や資産管理会社は、資産の構成上、この2つの類型に当たることがあります。設立や運営の注意点は法人化・資産管理会社と株価が動く要因と対策の注意点で扱います。

よくある誤り

  • 株式等保有特定会社を「大会社は25%以上」という古い基準で判定するのは誤りです。2013年5月27日以後は、会社規模を問わず50%以上です。
  • 販売用の土地(たな卸資産)も、土地保有割合の計算で土地等に含めます。
  • 比準要素数1の判定では、端数処理の結果0円になる要素(例:配当が1株(50円)当たり10銭未満)を0として扱います。
  • 開業前・休業中の会社には、80%評価も配当還元方式も使えません。
  • 株式等保有割合・土地保有割合は相続税評価額で計算します。決算書の帳簿価額の割合で判定すると誤ります。

他の税金との関係

  • 資産管理会社に不動産や株式を移すと、土地保有特定会社・株式等保有特定会社に当たり、純資産価額で評価されることがあります:法人化・資産管理会社
  • 個人が法人に株式を譲渡・贈与する場合の所得税の時価(所基通59-6)も、特定の評価会社の判定を含めて通達の例で計算します。ただし、土地と上場株式は時価とし、法人税額等相当額は控除しません:所得税・法人税上の時価
専門家向け:根拠と実務論点
  • 根拠:評基通189((1)比準要素数1、(2)株式等保有特定会社、(3)土地保有特定会社、(4)開業後3年未満等、(5)開業前・休業中、(6)清算中)、189-2〜189-6、4-4(基準年利率)。各号は後の号に該当するものを除く形で定められ、なお書きで判定回避を否認しています。
  • 明細書:判定は第2表、評価は第6表、S1+S2方式は第7表の1〜第7表の3で行います。様式は取得日で選びます(評価明細書の様式)。
  • 判定時点:純資産価額を直前期末の資産・負債で計算する場合は、株式等保有割合・土地保有割合の判定とS2の計算も同じ時点の数値によります。
  • 土地保有特定会社の小会社の区分は総資産価額(帳簿価額)で分け、土地保有割合は相続税評価額で計算します。たな卸資産の土地等は、評基通4-2により132・133(たな卸商品等)を適用して評価します(質疑応答)。
  • 株式等保有特定会社のS1の会社が比準要素数1の要件にも当たる場合は、189-2に準じます。受取配当金等収受割合が負数となる場合の計算は質疑応答で示されています。
  • 比準要素数1の判定要素は、明細書第4表の1のB1・B2・C1・C2・D1・D2です。端数処理後0円の要素を0とする扱いは質疑応答によります。比準要素数0(189(4)ロ)の配当・利益は、直前期末以前2年間の実績で判定します。
  • 189なお書きの対象は(2)(3)の判定に限られ、遡る期間の定めはありません。
  • 清算中の会社の基準年利率は年分ごとに通達で定められます(2026年分は5月25日付)。長期間清算中の会社を純資産価額で評価する扱いは質疑応答によります。
  • 見直しの検討:有識者会議では、資産管理会社を形式基準で判定し純資産価額方式とする案が示されています検討中。第6回資料の判定案は、特定資産の帳簿価額が総資産の帳簿価額の70%以上、または特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上です。適用時期は未定です(評価方法の見直しの検討状況)。
第8章

配当還元方式

配当還元方式は、同族株主等以外の株主(いわゆる少数株主)が取得した株式を、その株式の配当の額をもとに評価する方法です。会社規模に関係なく使い、原則的評価方式の価額が上限になります。

この章の結論

  • 配当還元価額=年配当金額÷10%×(1株当たりの資本金等の額÷50円)です。年配当金額は、直前期末以前2年間の配当(記念配当などを除く)の平均を、資本金等の額50円当たりに換算した金額です。
  • 年配当金額が2円50銭未満のときや無配のときは、2円50銭として計算します。無配の会社でも、評価額は0になりません。
  • 配当還元価額が原則的評価方式の価額を超えるときは、原則的評価方式の価額で評価します。
  • 配当還元方式を使えるかは、取得した人の取得後の議決権で判定します。個人が法人に株式を譲渡する場合の所得税の時価は、譲渡する人の議決権で判定するため、配当還元価額が通用しないことがあります。

配当還元方式で評価する株主

配当還元方式は、同族株主等以外の株主が取得した株式に使う特例的な評価方法です。対象になるかどうかは、株式を取得した人とその同族関係者の議決権割合や、役員かどうかで判定します。主なケースは次のとおりです。

配当還元方式で評価する主な株主
会社配当還元方式で評価する株主
同族株主のいる会社同族株主以外の株主
同族株主のいる会社同族株主でも、中心的な同族株主がいる会社で、本人は中心的な同族株主でなく、取得後の議決権が5%未満で、役員(課税時期の翌日から法定申告期限までに役員となる人を含む)でない人
同族株主のいない会社議決権の合計が15%未満のグループに属する株主
同族株主のいない会社15%以上のグループに属していても、中心的な株主がいる会社で、取得後の議決権が5%未満で、役員(役員となる人を含む)でない人

ここでいう役員は、社長・代表取締役・副社長・専務・常務・監査役などで、いわゆる平取締役は原則として含みません。判定は株式数ではなく議決権で行います。詳しい方法は評価方式の判定:株主の区分で説明しています。

特定の評価会社の株式でも、多くの類型では少数株主の取得に配当還元方式を使えます。使えない会社もあるため、次の表で確認してください。

会社の区分ごとの配当還元方式の可否(同族株主等以外の株主が取得した場合)
会社の区分配当還元方式
一般の評価会社(大会社・中会社・小会社)使える
比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満等の会社使える(原則的評価方式の価額が上限)
開業前・休業中の会社使えない(純資産価額で評価)
清算中の会社使えない(分配見込額をもとに評価)
医療法人の出資使えない(原則的評価方式のみ)

特定の評価会社は特定の評価会社、医療法人の出資は種類株式・自己株式・株式に関する権利・医療法人の出資で説明しています。

算式と年配当金額の求め方

配当還元価額=その株式に係る年配当金額÷10%×(1株当たりの資本金等の額÷50円)

年配当金額は、直前期末以前2年間の剰余金の配当金額の合計額の2分の1を、50円換算の株式数で割った金額です。50円換算の株式数は、直前期末の資本金等の額を50円で割った数です。次の配当は年配当金額に含めません。

  • 特別配当・記念配当など、将来毎期続くと見込めない配当
  • 資本金等の額の減少による配当
  • 自己株式の取得によるみなし配当

年配当金額は資本金等の額50円当たりの金額です。最後に「1株当たりの資本金等の額÷50円」を掛けて、実際の1株当たりの価額に直します。1株当たりの資本金等の額は、直前期末の資本金等の額を、直前期末の発行済株式数(自己株式を除く)で割った金額です。

10%で割るのは、年配当金額の10倍を株式の価値とみることと同じです。明細書の表示単位により、年配当金額は10銭未満、配当還元価額は円未満を切り捨てます。

2円50銭の下限と、原則的評価方式の価額という上限

年配当金額が2円50銭未満の場合と無配の場合は、年配当金額を2円50銭として計算します。1株当たりの資本金等の額が50円の会社なら、2円50銭÷10%=25円が配当還元価額の最低額です。

一方、計算した配当還元価額が原則的評価方式(会社規模に応じた評価方式)の価額を超える場合は、原則的評価方式の価額で評価します。配当が多い会社では、この逆転が起こることがあります。

原則的評価方式の価額の方が高いと明らかな場合は、明細書で原則的評価方式の計算を省略できます。また、課税時期に株式の割当てを受ける権利などが発生していても、配当還元方式では価額の修正をしません。

計算例:従業員が取得した株式

計算例:同族株主のいる会社で、従業員が株式を取得した場合(数値は仮定)

前提:X社は、社長一族のグループが議決権の60%を持つ同族株主のいる会社です。同族株主以外の従業員が、議決権の1%に当たる200株を取得しました。

資本金等の額は1,000万円、発行済株式数は2万株(自己株式なし)です。1株当たりの資本金等の額は500円、50円換算の株式数は1,000万円÷50円=20万株です。配当は直前期200万円、直前々期200万円で、いずれも普通配当です。

X社の配当還元価額
項目計算金額
年配当金額(200万円+200万円)÷2÷20万株10.0円
配当還元価額10.0円÷10%×500円÷50円1,000円
原則的評価方式の価額会社規模ごとの評価額の計算例(中会社の大)4,027円
無配の場合の配当還元価額2.5円÷10%×500円÷50円250円

答え:配当還元価額1,000円は原則的評価方式の価額4,027円を超えないので、1株当たりの評価額は1,000円です。200株では1,000円×200株=20万円です(原則的評価方式なら4,027円×200株=805,400円)。無配の場合や、配当が記念配当だけで年配当金額から除かれる場合は、2円50銭で計算して250円になります。

原則的評価方式の価額4,027円の計算は、会社規模ごとの評価額の計算例で示しています。

還元率10%の由来と見直しの議論

還元率10%は、1964年(昭和39年)の金利水準を参考に設定され、その後見直されていません(国税庁の有識者会議資料)。会計検査院は2024年(令和6年)11月の決算検査報告で、この10%が近年の金利水準と比べて高いおそれがあると指摘しました。還元率が高いほど、評価額は低くなります。

国税庁は2026年(令和8年)4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開き、8月20日の第5回で見直しの骨子を示しました検討中。骨子では、配当還元方式の対象を「特定の少数株主の取得した株式」に縮小する方向や、判定に使う親族の範囲を限定する案が挙げられています。

骨子には適用時期や経過措置の記載がなく、最終的には税制改正の手続の中で決めるとされています。2026年10月時点では、現行の通達どおり還元率10%で評価します。検討の状況は評価方法の見直しの検討状況で説明しています。

よくある誤り

  • 記念配当・特別配当を年配当金額に含めるのは誤りです。将来も続くと見込めない配当は除きます。
  • 年配当金額(50円当たり)のまま計算を終え、「1株当たりの資本金等の額÷50円」を掛け忘れると、評価額を誤ります。
  • 配当還元価額が原則的評価方式の価額を超えるときは、原則的評価方式の価額で評価します。
  • 相続税・贈与税で配当還元価額になる株式でも、誰に売っても税務上問題がないとは限りません。買い手が法人なら、所得税の時価は売り手の議決権で判定します。
無配の会社の株式を従業員が取得した場合、評価額はゼロですか?

ゼロにはなりません。無配でも年配当金額を2円50銭として計算します。1株当たりの資本金等の額が500円なら、2.5円÷10%×500円÷50円=250円です。

他の税金との関係

  • オーナーが持株会社などの法人に株式を譲渡する場合、所得税の時価は譲渡直前のオーナーの議決権で判定します。配当還元価額での譲渡が時価の2分の1未満となり、時価で譲渡したものとみなされることがあります:所得税・法人税上の時価、みなし譲渡
  • 個人間の売買では、少数株主が配当還元価額で買えば贈与税の問題は生じません。同族株主が配当還元価額で買うと、原則的評価額との差額が贈与とみなされます:みなし贈与
  • 従業員持株会を使った承継の考え方:事業承継税制と自社株の承継手法
専門家向け:根拠と実務論点
  • 根拠:評基通188(同族株主以外の株主等が取得した株式の(1)〜(4))、188-2(算式・注・ただし書)、183(1)(1株当たりの配当金額)、188-3〜188-6(議決権の数え方)。
  • 特定の評価会社:189-2〜189-4の会社は、同族株主等以外の株主の取得に配当還元方式を使えます(原則的評価方式の価額が上限)。開業前・休業中の会社(189-5)と清算中の会社には配当還元方式の定めがありません。医療法人の出資(194-2)は188・188-2を準用しません。
  • 年配当金額から除く配当:非経常的な配当、資本金等の額の減少による配当、自己株式の取得によるみなし配当です。みなし配当は会社法上の剰余金の配当に当たらず、継続が見込めないため含めません(質疑応答)。
  • 株式の割当てを受ける権利等が発生していても、配当還元方式では評基通187の修正をしません(質疑応答)。
  • 端数処理:記載方法は表示単位未満切捨てで、年配当金額は10銭未満、配当還元価額は円未満を切り捨てます(明細書第3表・第6表の表示単位による)。
  • 判定の視点:相続税・贈与税は取得者の取得後の議決権で判定し、所基通59-6(1)は譲渡・贈与直前の譲渡人の議決権で判定します。2020年(令和2年)3月24日の最高裁判決(タキゲン事件)は、配当還元価額(1株75円)で法人に株式を譲渡した事案です。少数株主に当たるかを譲受人の議決権で判断した原判決を破棄し、差し戻しました(所得税・法人税上の時価)。
  • 無配の会社の多さ:有識者会議の第1回資料では、分析対象700社の82.4%(577社)が評価直前2期間に無配でした。こうした会社の配当還元価額は、2円50銭の下限で計算されます。
  • 見直しの論点:会計検査院の令和5年度決算検査報告は、還元率10%が高いおそれを指摘しています。骨子は、配当還元方式の対象の縮小や、親族の範囲を配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族に限る案を示しています(検討中)。
第9章

種類株式・自己株式・株式に関する権利・医療法人の出資

普通株式と内容の違う株式や、新株・配当を受け取る権利、医療法人の出資にも、それぞれ評価の決まりがあります。事業承継でよく使う種類株式を中心に、評価の考え方と選べる方法を整理します。

この章の結論

  • 種類株式は、国税庁が2007年(平成19年)に示した取扱いで評価します。無議決権株式は原則として議決権がないことを考慮せず、拒否権付株式(いわゆる黄金株)も普通株式と同じように評価します。社債に近い条件の株式は発行価額で評価します。
  • 同族株主が相続・遺贈で無議決権株式を取得した場合は、要件(申告期限までの遺産分割、全員の届出など)を満たせば「調整計算」を選べます。無議決権株式を5%減額し、その分を議決権のある株式に上乗せする方法です。贈与には使えず、株式全体の評価額も変わりません。
  • 医療法人の出資には配当還元方式と80%評価がありません。出資割合が小さくても原則的評価方式で評価し、類似業種は「その他の産業」、会社規模は「小売・サービス業」の基準で判定します。

種類株式の評価:国税庁が示した3つの類型

会社法では、配当や議決権の内容が違う株式(種類株式)を、定款で定めて発行できます。事業承継では、後継者に議決権のある株式を、ほかの相続人に議決権のない株式を渡すなど、経営権と財産を分ける目的で使われます。

評価の基準は、中小企業庁の照会に国税庁が2007年2月26日に回答した文書と、同年3月9日の国税庁の情報です。対象は、2007年1月1日以降に同族株主が相続・遺贈・贈与で取得した、事業承継で想定される典型的な種類株式です。

示されたのは、①配当優先の無議決権株式、②社債類似株式、③拒否権付株式の3類型です。①は、配当優先の面と無議決権の面に分けて考えます。

種類株式の評価方法(同族株主が取得した場合)
種類評価の方法実務上のポイント
配当優先株式類似業種比準方式では、1株当たりの配当金額を株式の種類ごとに実際の配当で計算します。純資産価額方式では、配当優先かどうかを考慮しません。利益と純資産は種類ごとに分けません。配当の多い種類ほど、類似業種比準価額が高くなります。
無議決権株式原則として、議決権の有無を考慮せずに評価します(議決権のある株式と同じ考え方)。相続・遺贈で要件を満たせば、5%減額の調整計算を選べます(次の項)。
社債類似株式利付公社債の評価に準じて、発行価額で評価します。株式なので、既経過利息に当たる配当は加算しません。下の5つの条件をすべて満たす株式に限ります。
拒否権付株式(黄金株)拒否権を考慮せず、普通株式と同じように評価します。拒否権があっても、評価額は上がりません。

社債類似株式に当たるのは、次の条件をすべて満たす株式です。

  • 配当は優先して分配し、優先配当金を超えて配当しない(不足分は翌期以降に累積する)
  • 残余財産は、発行価額を超えて分配しない
  • 一定の期日に、発行会社が全部を発行価額で償還(取得)する
  • 議決権がない
  • 他の株式を対価とする取得請求権がない

社債類似株式を発行している会社の普通株式などを評価するときは、社債類似株式を社債として扱います。類似業種比準方式では、資本金等の額と株式数から除き、配当金額に含めず、その配当を利益から差し引き、発行価額を純資産から差し引きます。純資産価額方式では、発行価額の総額を負債に計上し、株式数から除きます。

無議決権株式の5%評価減(調整計算)

無議決権株式は、議決権がないぶん安く見えますが、原則として議決権のある株式と同じ評価額です。例外として、同族株主が相続・遺贈で取得した場合に限り、次の要件をすべて満たせば、納税義務者の選択で「調整計算」ができます。

  • 相続税の法定申告期限までに、遺産分割協議が確定していること
  • 相続・遺贈でその会社の株式を取得した同族株主の全員が、法定申告期限までに「無議決権株式の評価の取扱いに係る選択届出書」を所轄税務署長に提出すること
  • 評価明細書に、調整計算の算定根拠を記載して添付すること

無議決権株式の評価額=A×0.95
議決権のある株式の評価額=B+(A×0.05×無議決権株式の株式数)÷議決権のある株式の株式数
(A・B=調整計算前の、無議決権株式・議決権のある株式の1株当たりの評価額)

計算例:後継者の兄が議決権株式、弟が無議決権株式を相続(数値は仮定)

前提:発行済株式12,000株のうち、議決権のある株式8,000株を兄が、無議決権株式4,000株を弟が相続しました。調整計算前の1株当たりの評価額は、どちらも5,000円(配当優先なし)です。要件をすべて満たし、調整計算を選択します。

無議決権株式=5,000円×0.95=4,750円
議決権のある株式への加算総額=5,000円×0.05×4,000株=100万円
議決権のある株式=5,000円+100万円÷8,000株=5,000円+125円=5,125円

調整計算の前後の評価額
相続人調整前調整後
弟(無議決権株式4,000株)2,000万円1,900万円
兄(議決権のある株式8,000株)4,000万円4,100万円
合計6,000万円6,000万円

答え:弟の株式は100万円下がり(4,750円×4,000株)、兄の株式は100万円上がります(5,125円×8,000株)。株式全体の評価額6,000万円は変わりません。

このように調整計算は、会社全体の評価額を下げる仕組みではなく、相続人の間で評価額を付け替える仕組みです。後継者の課税価格は増えるため、遺産分割の内容や納税資金と合わせて検討します。

なお、株主区分は株式数ではなく議決権で判定します。議決権の一部だけが制限された株式は議決権の数に含め、議決権がまったくない株式は0と数えます(株主区分の判定は第2章)。

中心的な同族株主の判定では、本人の議決権に、配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族の議決権を合算します。そのため、後継者が議決権の25%以上を持つ会社では、後継者の兄弟姉妹も中心的な同族株主に当たり、無議決権株式だけを相続しても原則的評価方式になります。一方、中心的な同族株主に当たらない同族株主が無議決権株式だけを取得し、役員でもない場合は、議決権割合が5%未満となり、配当還元方式になることがあります。

自己株式があるときの評価

会社が自分の株式を買い取って持っている場合(自己株式、いわゆる金庫株)、その株式には議決権がありません。評価では、次のように扱います。

  • 株主区分:自己株式の議決権を0として、議決権総数を計算します。
  • 類似業種比準方式:1株当たりの資本金等の額は、直前期末の資本金等の額を、自己株式を除いた発行済株式数で割って求めます。会社が自己株式を取得したときに株主に生じるみなし配当は、比準要素の配当金額に含めません。
  • 純資産価額方式:1株当たりの純資産価額の分母は、課税時期の発行済株式数から自己株式を除いた株式数です。

会社が株式を買い取ると、残る株主の議決権割合が上がります。たとえば、発行済株式1,000株の会社が200株を買い取ると、議決権総数は800個になります。40株を持つ株主の議決権割合は4%から5%に上がり、「取得後の議決権割合が5%未満」に当たらなくなります。株主区分は課税時期の議決権で判定するため、相続・贈与の前に買取りがあったかどうかで結論が変わることがあります。

他の税金との関係

株式に関する権利の評価

増資や配当の手続の途中で相続・贈与があると、株式とは別に「権利」を評価します。計算のもとになる「権利が発生している株式の価額」は、原則的評価方式・配当還元方式・特定の評価会社の評価など、その株式に当てはまる方法で求めた価額です。

株式に関する権利の評価(財産評価基本通達190〜194)
権利どんな権利か評価額
株式の割当てを受ける権利増資で新株の割当てを受ける権利権利が発生している株式の価額から、割り当てられた株式1株につき払い込むべき金額を差し引いた額
株主となる権利払込み後、株主になるまでの権利会社設立の場合は、課税時期以前に1株につき払い込んだ価額。それ以外は、株式の割当てを受ける権利に準じた価額(課税時期の翌日以後に払い込む金額があれば、それを差し引いた額)
株式無償交付期待権株式の無償交付を受けられる権利権利が発生している株式の価額
配当期待権配当の基準日の後、配当を受け取るまでの権利課税時期後に受けると見込まれる予想配当の金額から、源泉徴収されるべき所得税相当額(特別徴収される道府県民税相当額を含む)を差し引いた額
持分会社の出資合名会社・合資会社・合同会社の出資取引相場のない株式の評価方法に準じて評価

たとえば、権利が発生している株式の価額が4,000円で、割り当てられた株式の払込金額が1株1,000円とします。この場合、株式の割当てを受ける権利は1株3,000円(4,000円−1,000円)です。

課税時期が、配当や株式の割当ての基準日の翌日から効力発生日までの間にあるときは、株式の価額も修正します。配当の場合は、株式の価額から予想配当金額を差し引き、配当期待権を別に評価します。ただし、配当還元方式で評価する株式は、株式の割当てを受ける権利などが発生していても価額を修正しません。

医療法人の出資の評価

持分の定めのある医療法人の出資は、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します(財産評価基本通達194-2)。ただし、剰余金の配当が禁止されているなどの特徴から、株式会社とは次の点が違います。

株式会社の株式と医療法人の出資の違い
項目株式会社の株式医療法人の出資
株主(出資者)の区分同族株主等以外の株主は配当還元方式区分なし(出資割合にかかわらず原則的評価方式)
議決権50%以下のグループの80%評価中会社・小会社などで適用適用なし
類似業種の業種目取引金額で判定「その他の産業」
類似業種比準価額の比準要素配当・利益・純資産配当を除いた算式(利益と純資産で比べる形とされています)
会社規模を判定する業種取引金額が最も多い業種小売・サービス業

業種目が「その他の産業」になるのは、医療法人は剰余金の配当が禁止されていて、類似する業種目が見当たらないためです。会社規模の判定では、医療法人をサービス業の一種として、小売・サービス業の基準を使います。特定の評価会社の定め(第7章)は、医療法人の出資にも準用されます。

持分の定めのある医療法人が持分のない医療法人へ移行する場合には、相続税・贈与税の納税猶予などがある「認定医療法人」の制度があります。厚生労働大臣による移行計画の認定を受ける期限は、2026年度(令和8年度)の税制改正で3年延長され、2029年(令和11年)12月31日までです期限あり。なお、医療法人の出資は、法人版の事業承継税制の対象になりません。

よくある誤り

  • 「無議決権株式にすれば評価額が下がる」→原則として下がりません。5%減額は相続・遺贈で要件を満たした場合だけの選択で、下がった分は議決権のある株式に上乗せされます。
  • 「贈与で渡す無議決権株式にも5%減額が使える」→使えません。対象は相続・遺贈による取得だけです。申告期限までに遺産分割がまとまらなかった場合も使えません。
  • 「拒否権付株式(黄金株)は、拒否権の分だけ高く評価される」→拒否権は考慮せず、普通株式と同じように評価します。
  • 「医療法人の出資も、少額なら配当還元方式で評価できる」→医療法人の出資に配当還元方式はありません。

事業承継税制との関係

  • 事業承継税制で猶予の対象になるのは議決権に制限のない株式だけで、無議決権株式は対象外です。拒否権付株式を発行している会社では、後継者以外が拒否権付株式を持っていないことが要件になります:事業承継税制と自社株の承継手法
専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 種類株式:文書回答「相続等により取得した種類株式の評価について」(平成19年2月26日。照会者は中小企業庁事業環境部長、回答者は国税庁課税部長)、資産評価企画官情報(平成19年3月9日)。相続税法22条。社債類似株式は評基通197-2(3)(利付公社債)に準じて評価します。拒否権付株式は会社法108条1項8号。
  • 議決権の数え方:評基通188-3(自己株式は0)、188-5(議決権制限株式は算入)、会社法308条2項。
  • 自己株式:評基通180(1株当たりの資本金等の額)、185注(発行済株式数)。自己株式の取得によるみなし配当を配当金額に含めない扱いは質疑応答事例(令和8年7月1日現在)。
  • 株式に関する権利:評基通190〜194。価額修正は評基通184・187。配当還元方式の株式で割当て等による価額修正をしない扱いは質疑応答事例。
  • 医療法人の出資:評基通194-2(178、179〜181、182〜183-2、184(2)、185本文、186〜186-3、187(2)、189、189-2〜189-4〔185ただし書と188-2の適用部分を除く〕、189-5〜192に準じて評価)。業種目と規模区分は質疑応答事例。認定医療法人は措法70条の7の9〜70条の7の14。

実務論点

  • 調整計算は、相続・遺贈で株式を取得した同族株主の全員の届出が要件で、1人でも届出がなければ選択できません。社債類似株式には適用しません。
  • 配当優先株式の類似業種比準価額では、資本金等の額と株式数は区分せず、評価する種類の株式数を内書きし、配当金額だけを種類ごとに計算します。これは平成19年の情報による扱いで、現行様式では第4表の1・第4表の2で計算します。
  • 上場会社が発行した非上場の種類株式(利益消却予定・普通株式への転換予定)は、別の質疑応答事例があります。
  • ストックオプションの定め(評基通193-2)は、目的株式が上場株式等の場合のものです。非上場株式を目的とするものの評価方法は、通達に直接の定めがありません。
  • 医療法人の類似業種比準価額の算式は通達で別に定められ(配当の要素を除く)、一般に A×[(Ⓒ/C+Ⓓ/D)÷2]×斟酌率(斟酌率は0.7、中会社相当0.6、小会社相当0.5)の形と説明されます。比準要素数1に相当するかの判定にも読替えがあるため、通達本文で確認して計算します。
  • 認定医療法人の期限(2029年12月31日)は移行計画の認定期限で、認定後の移行期限は認定日から5年以内です。
  • 国税庁の有識者会議では、社債類似株式の条件の一部を満たさない株式も、実態に応じて準じて評価する案が示されています検討中(検討状況は第13章)。
第10章

所得税・法人税上の時価:所基通59-6と最高裁令和2年判決

自社株を会社や持株会社に売る・贈与するときは、相続税の評価額ではなく、所得税・法人税の「時価」で課税関係が決まります。この章では、その時価の求め方(所得税基本通達59-6)と、判定の視点を示した最高裁判決を説明します。

この章の結論

  • 個人が法人に、時価の2分の1未満の価額で株式を売ると、時価で売ったものとみなして譲渡所得が課税されます(所得税法59条1項2号)。法人への贈与も同じです。
  • その時価は、適正な売買実例などがなければ、財産評価基本通達の例に4つの修正を加えて計算します。売り手の譲渡直前の議決権で判定する、中心的な同族株主なら小会社とみなす、土地・上場株式は時価にする、法人税額等相当額を控除しない、の4つです。
  • 最高裁は2020年(令和2年)3月24日、譲渡所得の課税では、配当還元方式を使えるかどうかを買い手ではなく売り手の会社への支配力で判断すべきとしました。相続税評価額や配当還元価額で法人に売れば安全、とは限りません。

なぜ税金ごとに時価が違うのか

同じ株式でも、相続税・贈与税の評価額と、所得税・法人税で使う時価は一致しません(一物多価は第1章)。違いが生まれる理由は、それぞれの税金が何に課税するかにあります。

相続税・贈与税は、財産を受け取った人に課税する税金です。そのため、評価方式は株式を取得した人の取得後の議決権で決まります(取得者基準)。一方、譲渡所得の課税は、売った人が持っていた間の値上がり益に課税するものです。そのため、所得税の時価は、売った人の譲渡直前の議決権で判定します(譲渡人基準)。

時価が問題になる主な取引と課税関係
取引売った側(あげた側)買った側(受けた側)時価の基準
個人から法人へ(贈与、または時価の2分の1未満の譲渡)時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得を計算法人は、時価との差額が受贈益(法人税)所得税は所基通59-6
法人から個人へ(低い価額の譲渡)法人は時価で譲渡対価を計算し、差額は寄附金や給与の論点役員・従業員なら給与所得、それ以外は一時所得とされるのが一般的法人税は法基通2-3-4
個人から個人へ(著しく低い価額の譲渡)実際の対価で譲渡所得を計算(みなし譲渡なし)。時価の2分の1未満で損失が出た場合は、その損失はないものとみなされます時価との差額は、贈与とみなされます(相続税法7条)相続税評価額(取得者基準)

個人から法人への取引では、売った個人の譲渡所得と、買った法人の受贈益(無償や低い価額で資産を受け取ったことによる益金)の両方が問題になります。法人から個人への取引では、法人は時価で売ったものとして計算し、買った個人は時価との差額が所得になります。個人間の取引では、売り手は実際の対価で計算し、買い手の側で贈与税(みなし贈与)が問題になります。

所基通59-6の仕組み:評価通達の例に4つの修正

所得税法59条の「その時における価額」は、株式の場合、所得税基本通達23〜35共-9に準じて求めます。取引相場のない株式は、次の順に当てはめます。

  1. 売買実例がある最近の売買のうち、適正と認められる価額
  2. 公開途上の株式公募等の価格などを参酌して、通常取引されると認められる価額
  3. 類似法人の株価がある類似法人の株価に比準して推定した価額
  4. いずれにも当たらない1株当たりの純資産価額等を参酌した価額。59-6により、原則として財産評価基本通達178〜189-7の例に、次の4つの条件を加えて計算します
所基通59-6の4つの条件
条件内容相続税評価との違い
(1) 判定の基準同族株主等か、配当還元方式の対象か、80%評価の対象かを、譲渡・贈与直前の売り手(贈与者)の議決権の数で判定相続税は、取得者の取得後の議決権
(2) 中心的な同族株主売り手が譲渡直前に中心的な同族株主なら、会社を常に小会社とみなします(純資産価額と、類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50の低い方)相続税は、実際の会社規模
(3) 土地・上場有価証券純資産価額の計算で、譲渡・贈与の時の価額(時価)で評価相続税は、路線価などの評価額
(4) 法人税額等相当額純資産価額の計算で、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しません相続税は38%施行中(2026年(令和8年)3月31日以前の取得は37%)を控除

中心的な同族株主とは、本人と配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族(これらの人が議決権の25%以上を持つ一定の会社を含む)の議決権の合計が、25%以上の同族株主をいいます(第2章)。国税庁の資産課税課情報第22号(2020年9月30日)は、(2)について次の点を示しています。

  • 小会社とみなす場合でも、類似業種比準価額の斟酌率(会社規模に応じて類似業種比準価額を割り引く率)は、実際の会社規模の割合(大会社0.7、中会社0.6)を使います。小会社の0.5にはなりません。
  • 評価会社が持つ子会社株式も、評価会社が子会社の中心的な同族株主に当たれば、子会社を小会社とみなして評価します(斟酌率は子会社の実際の規模)。孫会社も同じです。
  • 子会社・孫会社が持つ土地・上場株式も、譲渡等の時の価額で評価します。

最高裁令和2年3月24日判決(タキゲン事件)

法人への株式の譲渡で、配当還元価額が所得税の時価になるかが争われた事件です。売り手の議決権で判定するという考え方を、最高裁が明確にしました。

事案の概要

  • A社(発行済株式920万株、評価上の大会社)の代表取締役Bが、2007年(平成19年)8月1日、A社株式72万5,000株を法人Cに売りました。価格は1株75円(配当還元価額)、総額5,437万5,000円です。
  • 議決権割合は、譲渡前がB単独15.88%(同族関係者を含め22.79%)、譲渡後がB単独8.00%(同14.91%)、Cが7.88%です。A社には、譲渡の前後を通じて同族株主がいませんでした。
  • Bの死亡後、相続人は75円でBの所得税を申告しました。税務署長は、類似業種比準方式による1株2,505円(異議決定後)を時価とし、時価の2分の1未満の対価による法人への譲渡として更正しました(時価による総額18億1,612万5,000円)。

高裁の考え方(買い手基準)

  • 少数株主かどうかは、取得した法人Cの取得後の議決権で判定します
  • Cの議決権は7.88%で、同族株主のいない会社で15%未満の株主に当たります
  • 配当還元価額75円が時価となり、更正処分は違法としました

最高裁の考え方(売り手基準)

  • 譲渡所得は、売り手のもとで生じた値上がり益への課税です
  • 買い手の会社への支配力は、その値上がり益の額に影響しません
  • 売り手の支配力に応じた評価方法を使うべきで、高裁の判断は誤りとしました(破棄差戻し)

売り手基準で当てはめると、Bは譲渡直前に、同族関係者を含め22.79%(15%以上)、単独で15.88%(5%以上)を持っていました。そのため、同族株主のいない会社の少数株主には当たらず、原則的評価方式(大会社なので類似業種比準方式)で評価することになります。

判決を受け、国税庁は2020年8月に59-6を改正し、売り手の譲渡直前の議決権で判定することを、読替えの形で明記しました。国税庁は、これを従来の取扱いの明確化と説明しています。

計算例:代表者が自社株を同族会社に売る

計算例:中心的な同族株主が、相続税評価額で同族会社に売った場合(数値は仮定)

前提:X社は製造業の中会社(L=0.90)で、発行済株式は2万株です。類似業種比準価額は1株3,360円(中会社の斟酌率0.6で計算)、相続税評価額は1株4,027円です(第6章の計算例)。X社の相続税評価額による総資産は4億円(うち土地等1億6,000万円、上場株式2,000万円)、負債は1億5,000万円です。

代表者B(譲渡直前の議決権60%、中心的な同族株主)が、2026年7月10日、X社株式2,000株を同族会社のY社に1株4,027円で売りました。譲渡時の時価は、土地等が2億円、上場株式が2,200万円とします。

①判定:Bは譲渡直前に中心的な同族株主→原則的評価方式で、X社を小会社とみなす
②類似業種比準価額:斟酌率は実際の規模(中会社0.6)のまま→3,360円
③総資産(時価に置換え)=4億円−1億6,000万円−2,000万円+2億円+2,200万円=4億4,200万円
④純資産価額(法人税額等相当額は控除しない)=(4億4,200万円−1億5,000万円)÷2万株=14,600円
⑤小会社の併用方式=3,360円×0.50+14,600円×0.50=1,680円+7,300円=8,980円
⑥59-6の時価=14,600円と8,980円の低い方=8,980円
⑦判定:時価の2分の1=8,980円÷2=4,490円。対価4,027円は4,490円未満

答え:時価で譲渡したものとみなされ、譲渡収入金額は8,980円×2,000株=1,796万円です(実際の対価805万4,000円ではありません)。

同じ株式でも、相続税評価額は4,027円、同族株主以外の従業員が取得した場合の配当還元価額は1,000円(第8章)、所得税の時価は8,980円です。相続税評価額で法人に売れば安全、とはいえない典型例です。

対価を1株4,490円以上にすれば、所得税法59条1項2号は適用されません。ただし、同族会社への譲渡が同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条)に当たれば、時価で計算されることがあります。買ったY社には時価との差額に受贈益の問題があり、Y社の株価が上がれば、Y社のほかの株主へのみなし贈与も論点になります。

仮に、Bが同族株主ではあるものの、中心的な同族株主に当たらない場合は、実際の規模(中会社、L=0.90)で計算します。3,360円×0.90+14,600円×0.10=3,024円+1,460円=4,484円が時価です。

法人税の時価:法基通9-1-13・9-1-14など

法人が持つ取引相場のない株式の時価は、法人税基本通達に定めがあります。見出しは現在「市場有価証券等以外の株式の価額」です。

  • 9-1-13(評価損を計上するときの時価):次の順に判定します。(1)売買実例があれば、事業年度終了の日前6か月間の売買のうち適正なものの価額。(2)公開途上の株式は、公募等の価格などを参酌した価額。(3)類似法人の株価があれば、比準した価額。(4)それ以外は、純資産価額等を参酌した価額。
  • 9-1-14:(4)の価額を財産評価基本通達の例で計算しているときは、課税上弊害がない限り、3つの条件で認めます。法人が中心的な同族株主なら会社を常に小会社とする、土地・上場有価証券は事業年度終了の時の価額にする、法人税額等相当額を控除しない、の3つです。
  • 4-1-5・4-1-6(評価益を計上するときの時価):同じ区分・条件で、時点は再生計画認可の決定があった時です。
  • 2-3-4(法人が株式を無償・低額で譲渡したときの「通常得べき対価の額」):4-1-4・4-1-5・4-1-6を準用します。

法人税の通達には、所得税の59-6(1)のような「譲渡直前の議決権で判定する」という判定時期の明文がありません。条件も「課税上弊害がない限り」とされているため、取引の事情に応じた検討が必要です。

相続税評価と所得税・法人税の時価の比較

取引相場のない株式の価額:税目ごとの違い
項目相続税・贈与税(評価通達)所得税(所基通59-6)法人税(法基通9-1-14ほか)
主な場面相続・遺贈・贈与個人から法人へのみなし譲渡、個人間の譲渡損失の否認の判定評価損・評価益、法人による低額譲渡の対価
価額の順序評価通達による売買実例→公開途上→類似法人→純資産価額等参酌(評価通達の例+条件)売買実例(6か月間)→公開途上→類似法人→純資産価額等参酌(課税上弊害がない限り)
株主区分の判定取得者の取得後の議決権譲渡人の譲渡・贈与直前の議決権明文なし
中心的な同族株主実際の会社規模常に小会社(斟酌率は実際の規模)常に小会社
土地・上場有価証券評価通達の評価額譲渡・贈与の時の時価事業年度終了の時などの時価
法人税額等相当額控除あり控除なし控除なし

よくある誤り

  • 「相続税評価額で売れば、税務上は問題ない」→法人に売る場合は59-6の時価が基準です。計算例では、相続税評価額4,027円が、時価8,980円の2分の1に届きません。
  • 「買い手が少数株主になるなら、配当還元価額で売ってよい」→買い手が法人の場合、所得税は売り手の譲渡直前の議決権で判定します(最高裁令和2年判決)。一般社団法人や持株会社などの法人に売る場合も同じです。
  • 「小会社とみなすなら、斟酌率も0.5」→斟酌率は実際の会社規模の割合(大会社0.7、中会社0.6)です。
  • 「個人間の売買でも、時価の2分の1が基準」→相続税法7条のみなし贈与に2分の1の基準はなく、時価より著しく低い価額かどうかで判定します。2分の1は、法人への譲渡のみなし譲渡と、個人への譲渡で生じた損失を否認するかどうかの基準です。
後継者個人に売るときも、59-6の時価で考えますか?

個人間の売買には、所得税法59条1項のみなし譲渡は適用されません。売り手は、実際の対価で譲渡所得を計算します。ただし、時価の2分の1未満で売って損失が出た場合、その損失はなかったものとみなされます。

買い手には、時価との差額にみなし贈与(相続税法7条)の問題があります。この時価は相続税評価額で、買い手の取得後の議決権で判定します。少数株主に当たる買い手が配当還元価額で買えば差額は生じませんが、同族株主が配当還元価額で買えば、原則的評価額との差額がみなし贈与になります。

時価の2分の1以上の価格なら、問題はありませんか?

所得税法59条1項2号は適用されません。ただし、同族会社への譲渡で所得税法157条(同族会社等の行為計算の否認)に当たれば、時価で計算されることがあります(所基通59-3)。また、時価より低く買った法人には、受贈益の問題があります。

発行会社(自分の会社)に買い取ってもらう場合はどうなりますか?

発行会社も法人なので、時価の2分の1未満なら所得税法59条1項2号の対象になり、時価は59-6で判定します。受け取る金額は、原則としてみなし配当と譲渡所得に分かれます。相続で取得した株式を一定の期限までに売る場合の特例は、相続した自社株を会社に売る(金庫株)で説明しています。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 所得税法59条1項1号・2号、2項、所得税法施行令169条(著しく低い価額=時価の2分の1に満たない金額)、所得税法157条。法人税法22条2項、61条の2第1項1号。相続税法7条・9条。
  • 所基通23〜35共-9(4)、59-3、59-4、59-6(平成12年追加。最終改正は令和2年8月28日付課資4-2ほか1課共同)。法基通2-3-4、4-1-4〜4-1-6、9-1-13、9-1-14。相基通7-1、9-2(4)。評基通178〜189-7、186-3。
  • 59-6(1)の読替え:評基通178・188・188-6・189-2〜189-4の「取得した株式」を「譲渡又は贈与した株式」に、185・189-2〜189-4の「株式の取得者」を「株式を譲渡又は贈与した個人」に、188の「株式取得後」を「株式の譲渡又は贈与直前」に読み替えます。185ただし書・189-2〜189-4の50%以下の判定と、188(1)〜(4)の該当性は、譲渡又は贈与直前の議決権の数で判定します。(2)は、179の例による場合(189-3(1)で179に準じる場合を含む)に適用します。
  • 資産課税課情報第22号(令和2年9月30日)は、斟酌率、子会社・孫会社の小会社みなし、子会社等の土地・上場株式の時価評価を示しています。子会社の純資産価額で法人税額等相当額を控除しないことは、同情報では明示されていません(評基通186-3により、評価会社が有する株式の純資産価額の計算では、もともと控除しません)。

判例

  • 最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号、集民263号63頁):破棄差戻し。第一審は東京地裁平成29年8月30日判決(国側勝訴)、原審は東京高裁平成30年7月19日判決(一部認容)です。国税庁の情報は、補足意見が相続税の通達を読み替えて所得税に適用する通達の作成手法の分かりにくさを指摘したことを、令和2年改正の契機として挙げています。
  • 東京地裁平成12年7月13日判決(平成7年(行ウ)第266号):売買実例がなく、類似会社比準法も不適当とした上で、法人税の通達を介して評基通179の例(法人税額等相当額を控除しない)による評価は一般に合理性があるとしました。

実務論点

  • 59-6は「原則として」の定めで、適正な売買実例があればそれが優先します(23〜35共-9(4)イ)。売買実例が適正かどうかは、個別に判断します。
  • 令和2年改正は、取扱いの変更ではなく明確化とされています。改正前の(1)も、同族株主に該当するかどうかを譲渡・贈与直前の議決権の数で判定する旨を定めていました。
  • 法基通9-1-14・4-1-6には、判定時期の明文がありません。法人側の受贈益の時価は法人税の取扱いで判定するため、所得税の時価と同額になるかは個別に検討します。
  • 一の契約で複数の資産を譲渡した場合、低額かどうかは、原則として契約ごとに全体で判定します(所基通59-4)。
  • 個人間の非上場株式の売買には、土地等の負担付贈与通達や、上場株式の評基通169(2)のような特則はありません。第三者への売却価格など時価を示す事情があれば、総則6項の論点になり得ます。
  • 59-6の価額は、株価シミュレーターでも試算できます(第15章)。
第11章

株価が動く要因と対策の注意点

自社株の評価額は、会社の利益・配当・純資産と、会社が持つ資産の中身で動きます。よく話題になる対策ごとに、株価への効果と、注意点・否認リスクを整理します。

この章の結論

  • 類似業種比準価額は配当・利益・帳簿上の純資産で、純資産価額は課税時期の資産・負債の相続税評価額で動きます。役員退職金は利益と純資産を下げますが、比準要素数1の会社に当たるなど、評価方式そのものが変わることがあります。
  • 会社が取得して3年以内の土地・建物は「通常の取引価額」で評価するため、不動産を買っても純資産価額はすぐには下がりません。持株会社は株式等保有特定会社に当たりやすく、判定を免れるための資産の組替えは認められません。
  • 評価額だけを見た対策には、総則6項による否認(2015〜2024事務年度(平成27〜令和6事務年度)で株式14件)や、法人への譲渡での所得税の時価の問題が伴います。株価対策は、税目をまたいで検証してから実行します。

評価額を動かす要素と主な対策の一覧

類似業種比準方式は、評価会社の1株当たりの配当(Ⓑ)・利益(Ⓒ)・純資産(Ⓓ)を、上場会社の業種平均と比べます。Ⓑは直前期末以前2年間の平均、Ⓒは直前期か2年平均のどちらかを選択、Ⓓは直前期末の帳簿上の数値です。土地などの含み益は、Ⓓには反映されません。

純資産価額方式は、課税時期の資産・負債を相続税評価額で評価し、含み益(評価差額)の38%を差し引きます施行中。2026年(令和8年)3月31日以前の取得は37%です。

どちらの比重が大きいかは、会社規模で変わります。大会社は類似業種比準価額、小会社は純資産価額が中心で、中会社はLの割合で組み合わせます(第6章)。同じ対策でも会社によって効き方が違うのは、このためです。

主な対策と株価への効果・注意点(一覧)
対策株価への主な効果注意点・否認リスク
役員退職金の支給損金で利益(Ⓒ)が下がり、支払で純資産(Ⓓ)も下がります不相当に高額な部分は損金になりません。利益・配当が0になると、比準要素数1・0の会社として、純資産価額中心の評価に変わることがあります
配当の引下げ・無配配当(Ⓑ)が下がります。少数株主の配当還元価額も下がります(無配なら年配当金額2円50銭で計算)利益も0なら、比準要素数1の会社に当たりやすくなります。記念配当などとして除けるのは、継続が予想できない配当だけです
生命保険(死亡保険金の受取り)純資産価額では保険金の請求権が資産、死亡退職金などが負債になります。類似業種比準方式では、保険差益を利益から除きます保険金が退職金などを上回る分は、純資産価額を押し上げます
不動産の取得3年以内の取得分は通常の取引価額で評価するため、取得直後は評価減が出ません土地保有特定会社に当たると純資産価額で評価します。判定を免れるための資産の組替えは否認されます。総則6項にも注意します
持株会社の設立子会社株式を純資産価額で評価する際、子会社の段階では法人税額等相当額を控除しません株式等保有特定会社(株式等の割合50%以上)に当たりやすくなります。低い簿価で受け入れた含み益は、控除の対象外です
従業員持株会への譲渡オーナーの持株が減ります。従業員側は配当還元方式になることが多いです買い手が法人なら、売り手基準の時価でみなし譲渡となるおそれがあります。議決権の分散にも注意します
種類株式の発行無議決権株式も、原則は普通株式と同じ評価です5%減額は相続・遺贈で要件を満たす場合だけで、合計額は変わりません
相続時精算課税での贈与相続時に加算する額が、贈与時の価額で固定されます贈与後に株価が下がっても、贈与時の価額で加算します。選択は撤回できません
事業承継税制評価額に対応する税の納税を猶予・免除します(評価額は下がりません)特例措置には期限があります。要件を外れると、猶予が打ち切られます
発行会社への譲渡(自己株式)その株式の議決権が0になり、残る株主の議決権割合が上がります時価の2分の1未満ならみなし譲渡です。時価は所基通59-6で判定します

役員退職金・配当・生命保険

役員退職金を支給すると、損金として法人税の課税所得が減り、利益(Ⓒ)が下がります。支払によって利益積立金額も減るため、純資産(Ⓓ)も下がります。非経常的な利益がない期に支給すれば、課税所得の減少がそのまま利益の減少に反映されます。Ⓒは直前期と2年平均の選択があるため、どの期に計上するかで効果が変わります。

ただし、次の点に注意します。

  • 不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項)。その部分は課税所得を減らしません。
  • 利益と配当が0になると、比準要素数1の会社(直前期末で3要素のうち2つが0、直前々期末でも2つ以上が0)や、比準要素数0の会社に当たることがあります。その場合は純資産価額を中心とする評価に変わります(特定の評価会社は第7章)。
  • 支払で総資産が減るため、株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定割合も変わります。

被相続人の死亡で支給が確定した死亡退職金は、純資産価額の計算で負債になります。弔慰金は、相続税で退職手当金等とみなされる部分だけが負債です。

配当(Ⓑ)は、直前期末以前2年間の平均で計算します。特別配当・記念配当などの名称でも、除けるのは将来毎期継続することが予想できない配当だけで、名称だけでは判断されません。無配や配当の引下げは、類似業種比準価額のほか、少数株主の配当還元価額(無配なら年配当金額2円50銭で計算)も下げます(第8章)。

会社が受け取る死亡保険金は、純資産価額の計算では保険金の請求権を資産に計上し、資産に計上していた保険積立金は除きます。支払う死亡退職金と、保険差益に対する法人税額等は負債に計上します。そのため、保険金が退職金などを上回る分は、純資産価額を押し上げます。類似業種比準方式では、保険差益は非経常的な利益として利益(Ⓒ)から除きます。

不動産の取得と土地保有特定会社

会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物は、路線価や固定資産税評価額ではなく、課税時期の通常の取引価額で評価します。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は、帳簿価額によることもできます。そのため、取得直後は純資産価額の評価減が生じません。3年を過ぎると通常の評価に戻り、貸家建付地などの減額も使えます。

類似業種比準方式では、純資産(Ⓓ)が帳簿価額ベースのため、取得そのものではほとんど変わりません。減価償却費や借入金の利息は、利益(Ⓒ)に影響します。

被相続人が同族関係者となっている同族会社に、個人の土地を貸している場合もあります。土地の無償返還の届出などにより、その貸宅地を自用地価額の80%で評価したときは、残りの20%相当額をその会社の株式の純資産価額に加えます。土地の評価と株価の評価は、セットで確認します。

土地の割合が大きくなると、土地保有特定会社(土地等の割合が大会社70%以上、中会社90%以上など)に当たり、純資産価額で評価されます。課税時期前に合理的な理由なく資産構成を変え、それが土地保有特定会社や株式等保有特定会社と判定されることを免れるためと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定します。

なお、貸付用不動産を取得後5年以内なら通常の取引価額で評価する通達案が2026年9月に公表され、2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から適用予定とされています通達案。2026年10月17日時点では意見公募中で、通達は制定されていません。案では非上場株式の純資産価額の計算には適用しないとされ、会社の不動産は従来どおり3年以内の取得分が通常の取引価額になります(通達案の内容)。

持株会社・従業員持株会・種類株式

持株会社(資産管理会社)をつくると、相続財産は事業会社の株式から持株会社の株式に置き換わります。持株会社の総資産(相続税評価額)の50%以上が株式等なら株式等保有特定会社に当たり、原則として純資産価額で評価します(選択によりS1+S2方式)。

持株会社の純資産価額の計算では、持っている子会社株式を純資産価額で評価する際、子会社の段階では法人税額等相当額を控除しません。株式交換や現物出資などで、含み益のある株式を低い帳簿価額で受け入れることがあります。その含み益は、法人税額等相当額の控除の対象になりません(受け入れた資産が総資産の20%以下なら、この扱いは適用されません)。

従業員が取得する株式は、従業員が同族株主等以外の株主に当たれば、配当還元方式で評価します。オーナーから従業員個人への譲渡なら、所得税法59条1項のみなし譲渡は適用されません。一方、買い手が一般社団法人や持株会社などの法人の場合、オーナー側の時価は売り手基準の所基通59-6で判定します。原則的評価方式になる場合は、配当還元価額での譲渡がみなし譲渡に当たるおそれがあります(第10章)。

種類株式は、無議決権株式も原則として普通株式と同じ評価です。相続・遺贈での5%減額の選択も、株式全体の評価額は変えません(第9章)。

生前贈与・事業承継税制・発行会社への譲渡との組合せ

相続時精算課税で贈与した株式は、贈与者の相続のときに、贈与時の価額で相続税の課税価格に加算されます。株価が低い時期に贈与すれば価額を固定できますが、贈与後に株価が下がっても、贈与時の価額で加算されます。2024年(令和6年)1月1日以後の精算課税の贈与には年110万円の基礎控除があり施行中、その部分は加算されません(相続時精算課税の仕組み)。

法人版の事業承継税制は、株価を下げる制度ではなく、評価額に対応する贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度です。特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、贈与・相続等の適用期限が2027年12月31日です期限あり(第14章)。

会社が株主から株式を買い取ると(自己株式の取得)、その株式の議決権は0になり、残る株主の議決権割合が上がります。発行会社は法人なので、時価の2分の1未満で売ればみなし譲渡の対象になり、時価は所基通59-6で判定します。純資産価額で見ると、1株当たりの純資産価額より低い価格で買い取れば残る株式の1株当たりの価額は上がり、高い価格なら下がります。

相続で取得した株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社へ売る場合は、みなし配当課税の特例があります。対象は、納付すべき相続税額がある人に限られます(金庫株とみなし配当の特例)。

総則6項と否認リスク

財産評価基本通達6(総則6項)は、通達どおりに評価すると著しく不適当な財産は、国税庁長官の指示を受けて評価すると定めています。国税庁の資料では、2015〜2024事務年度の適用件数は27件で、そのうち株式が14件でした。非上場株式も対象になり得ます。

2022年(令和4年)4月19日の最高裁判決は、不動産の事案です。通達による画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、通達を上回る価額による課税も許されるとしました(総則6項と最高裁令和4年判決)。株価を下げる行為が相続の直前に集中している場合などは、この点も含めて検討します。

よくある誤り

  • 「利益を0にすれば株価は大きく下がる」→比準要素数1の会社に当たると、原則として純資産価額で評価します(類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75も選択可)。純資産価額が類似業種比準価額より高い会社では、かえって評価額が上がることがあります。
  • 「会社で不動産を買えば、すぐに株価が下がる」→取得から3年以内は通常の取引価額で評価するため、評価減はすぐには生じません。
  • 「株価を下げてから法人に売れば、所得税も安く済む」→法人への譲渡の時価は、所基通59-6で別に計算します。相続税評価額の引下げが、そのまま所得税の時価の引下げになるとは限りません。

実務のコツ:対策の前後で判定をやり直す

対策を検討するときは、実行前と実行後のそれぞれで、株主区分、会社規模、特定の評価会社の判定、比準要素の数を一つずつ確認します。あわせて、法人への譲渡が絡む場合は所得税・法人税の時価も試算します。株価シミュレーターで、主な数値の変化を確かめられます。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 評基通6、183(1)(非経常的な配当の除外)、183(2)(非経常的な利益の除外)、185(3年以内に取得した土地等・家屋等)、186(負債の範囲、死亡退職金)、186-2(2)(現物出資等受入れ差額)、186-3(評価会社が有する株式の純資産価額)、188-2(年配当金額2円50銭の下限)、189なお書き(判定回避の否認)、189-2〜189-4。貸宅地の20%相当額の純資産価額への算入は昭和43年10月28日付直資3-22。
  • 法人税法34条2項(不相当に高額な役員給与)。相続税法21条の15・21条の16(精算課税の加算)。措法70条の7の5・70条の7の6(事業承継税制の特例措置)。所得税法25条・59条、措法9条の7・39条。
  • 質疑応答事例:種類の異なる非経常的な損益がある場合、評価会社が受け取った生命保険金の取扱い、評価会社が支払った弔慰金の取扱い、欠損法人の負債に計上する保険差益に対応する法人税額等。

実務論点

  • 非経常的な損益は、種類が異なっても通算し、通算結果が利益の場合にその利益を除きます。保険差益と退職金の支給が同じ期にある場合は、この通算の扱いを踏まえて、期ごとにⒸを計算します。
  • 仮決算をしない場合の保険差益に対応する法人税額等は、質疑応答事例(令和7年8月1日現在の法令等)で、課税所得の37%相当額とする扱いが示されています。2026年4月1日以後の相続でこの割合を38%に読み替えるかは国税庁の明示がないため、所轄税務署等に確認します。欠損法人では、保険差益から欠損金額を控除して計算します。
  • 現物出資等受入れ差額は、課税時期の総資産価額(相続税評価額)に占める現物出資等受入れ資産の割合が20%以下なら適用しません。
  • 189なお書きの対象は、株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定です。何年前までの変動かという期間の定めは、通達にありません。
  • 総則6項の株式の適用件数14件の内訳(事務年度)は、平成27年1件、平成29年3件、令和元年1件、令和4年3件、令和5年6件です。国税庁は、適用件数が少ないことは通達の見直しを要しないことを意味しないと説明しています(有識者会議第5回議事要旨)。非上場株式に適用された個別の裁判例は、判決文で確認してから引用します。
  • 有識者会議では、一時的な役員退職金を正常利益の計算で損金から除く案、資産管理会社を形式基準で判定し純資産価額方式とする案、完全支配関係の子会社株式を修正して親会社の評価に反映する案、従業員持株会の株式を固定価格で評価する案が示されています検討中(第13章)。
第12章

評価明細書の様式(令和8年4月1日以降用)と実務の流れ

取引相場のない株式の評価額は、国税庁の「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」で計算します。2026年(令和8年)は、純資産価額の法人税額等相当額が38%になったことに対応して、新しい様式ができました。

この章の結論

  • 2026年4月1日以後の相続・遺贈・贈与で取得した株式は、「令和8年4月1日以降用」を使います。2024年(令和6年)1月1日〜2026年3月31日の取得は「令和6年1月1日以降用」です。申告する日ではなく、取得した日で選びます。
  • 表は第1表の1〜第7表の3と付表で構成されます。以前の第4表は第4表の1・第4表の2に、第7表・第8表は第7表の1〜第7表の3に再編されました。「令和8年1月1日以降用」という様式はありません。
  • 令和8年分の類似業種の株価は、2026年10月17日時点で8月分まで公表されています。課税時期が2026年9月以降なら、その月の株価の公表を待って計算を確定させます。

2026年の様式改正:何が変わったか

2026年3月25日付の財産評価基本通達の改正で、純資産価額の計算で差し引く法人税額等相当額の割合が、2026年4月1日以後の取得から38%になりました施行中。防衛特別法人税の創設を反映したものです(第5章)。

これに合わせて、評価明細書の様式と記載方法を定める通達が2026年6月26日付で改正され、国税庁が7月3日に公表しました。公表されたのは、次の6つです。

  • 取引相場のない株式(出資)の評価明細書(令和8年4月1日以降用)
  • 同(令和6年1月1日以降用)の改正版
  • それぞれの記載方法等(2種類)
  • 上場株式の評価明細書
  • 登録銘柄及び店頭管理銘柄の評価明細書

表の番号も再編されました。以前の「第4表」は第4表の1・第4表の2に、「第7表」「第8表」は第7表の1・第7表の2・第7表の3になっています。令和6年1月1日以降用の改正版も、同じ構成です。古い番号を前提にした資料やソフトを使うときは、表の対応関係に注意します。

取得日による様式の使い分け

様式は、申告書を出す日ではなく、相続・遺贈・贈与で株式を取得した日(課税時期)で選びます。相続なら亡くなった日、贈与なら贈与で取得した日です。

取得日と評価明細書の様式
取得日(課税時期)使う評価明細書法人税額等相当額
2026年4月1日以後令和8年4月1日以降用38%
2024年1月1日〜2026年3月31日令和6年1月1日以降用(2026年6月の改正版が公表されています)37%
2021年(令和3年)3月1日〜2023年(令和5年)12月31日平成30年1月1日以降用(令和3年改正の記載方法)37%

たとえば、2026年3月に亡くなった人の相続税を2027年(令和9年)1月に申告する場合は、令和6年1月1日以降用を使い、法人税額等相当額は37%で計算します。反対に、2026年4月以後の相続なのに37%のまま計算すると、純資産価額が高すぎる結果になります。

評価明細書の各表の役割

評価明細書は、株主区分の判定から評価額の計算までを、表ごとに順に進める構成です。各表の内容と、このページで詳しく説明している章は次のとおりです。

評価明細書(令和8年4月1日以降用)の構成
表主な内容説明している章
第1表の1納税義務者と同族関係者の議決権割合、株主区分(原則的評価方式か配当還元方式か)の判定。未分割の株式や自己株式の記載第2章
第1表の2会社規模(大会社・中会社・小会社、Lの割合)の判定。総資産価額(帳簿価額)・従業員数・取引金額第3章
第2表特定の評価会社の判定(比準要素数1、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満等、開業前・休業中、清算中)第7章
第3表一般の評価会社の評価額(原則的評価方式・配当還元方式)、株式の価額の修正、株式に関する権利第6章・第8章・第9章
第4表の1・第4表の2類似業種比準価額。1株当たりの資本金等の額、配当・利益・純資産、比準要素数の判定要素、業種目と類似業種の株価第4章
第5表1株当たりの純資産価額。資産・負債の相続税評価額と帳簿価額、法人税額等相当額、80%評価第5章
第6表特定の評価会社の評価額、配当還元価額、株式に関する権利第7章
第7表の1〜第7表の3株式等保有特定会社のS1+S2方式第7章
付表同族関係者の範囲など第2章

第1表の1で配当還元方式と判定された株主は、第3表(特定の評価会社は第6表)で配当還元価額を計算します。配当還元価額が原則的評価方式の価額を超える場合は原則的評価方式の価額になりますが、原則的評価方式の価額の方が高いと認められるときは、その計算を省略できます。

実務の流れと集める資料

  1. 課税時期と様式を決める相続は亡くなった日、贈与は取得した日です。取得日で、様式と38%・37%のどちらを使うかが決まります。
  2. 資料を集める決算書と法人税申告書は、直前期・直前々期・その前の期の3期分をそろえます(比準要素数1の判定に、その前の期の配当なども使うため)。株主名簿や不動産の評価資料も集めます(下のチェックリスト)。
  3. 株主区分を判定する第1表の1。課税時期の議決権で、原則的評価方式か配当還元方式かを決めます。遺産分割の前なら、各相続人が未分割の株式の全部を取得したものとして議決権を数えます。
  4. 会社規模を判定する第1表の2。直前期末の総資産価額(帳簿価額)と、直前期末以前1年間の従業員数・取引金額で判定します。
  5. 特定の評価会社かを判定する第2表。株式等や土地等の割合、比準要素の数、開業後の年数などを確認します。
  6. 類似業種比準価額と純資産価額を計算する第4表の1・第4表の2と第5表。類似業種の株価は、課税時期の年分の表を使います。
  7. 評価額を出し、申告書に記載する第3表(特定の評価会社は第6表・第7表)。国税庁の相続税の申告書の記載例でも、評価明細書を先に作る順序が示されています。

類似業種比準方式の比準要素は、課税時期が直後の決算期末に近くても、直前期末の数値を使います。純資産価額は課税時期の資産・負債で計算するのが原則です。ただし、課税時期に仮決算をしておらず、直前期末から課税時期までに資産・負債の著しい増減がなく影響が少ない場合は、直前期末の資産・負債を基に計算できます。

評価のために集める資料

  • 直前期・直前々期・その前の期の決算書と法人税申告書(資本金等の額と利益積立金額が分かる別表五(一)を含む)
  • 課税時期の株主名簿と定款(議決権の数、自己株式、種類株式の内容)
  • 役員の一覧(課税時期の役員と、申告期限までに役員になる予定の人)
  • 直前期末以前1年間の従業員の人数と労働時間が分かる資料
  • 固定資産台帳、土地・建物の評価資料(路線価図・固定資産税評価額など)、3年以内に取得した不動産の取得資料
  • 会社が持つ有価証券・保険契約・借入金の資料
  • 配当の実績が分かる資料(特別配当・記念配当の区分を含む)
  • 課税時期の未払いの税金や、死亡退職金の支給が分かる資料

類似業種の株価の公表タイミングと期限

類似業種比準価額に使う業種目別の株価などは、国税庁が年分ごとに公表します。令和8年分は2026年6月5日付で公表され、その後の改正で月分が追加されて、10月8日付の改正で8月分まで掲載されました。2026年10月17日時点で、9月分以降は公表されていません。

類似業種の株価は、課税時期の月・前月・前々月・前年平均・課税時期の属する月以前2年間の平均のうち、最も低いものを使います。そのため、課税時期が2026年9月以降の場合は、その月の分が公表されるまで類似業種比準価額が確定しません。前年の令和7年分は、2026年1月9日付の改正で12月分まで掲載されました。

2026年中の贈与なら、贈与税の申告期間は2027年2月1日から3月15日までです。前年と同じ時期に公表されれば、申告期間の前に12月分までそろいます。公表の状況は、国税庁ホームページで確認します。

令和8年分の表には、令和7年11月・12月分と令和7年平均も載っています。ただし、令和8年分の標本会社で計算しているため、令和7年分の表の同じ月の値と異なる業種目があります。2026年の課税時期には、令和8年分の表を使います。

  1. 2026年3月25日財産評価基本通達を改正。法人税額等相当額を38%に(4月1日以後の取得から)
  2. 2026年6月5日令和8年分の業種目別株価等を公表
  3. 2026年6月26日評価明細書の様式・記載方法を改正(7月3日に国税庁が公表)
  4. 2026年10月8日業種目別株価等を改正し、8月分まで掲載
  5. 2026年10月17日本ガイドの基準日。9月分以降は未公表

実務のコツ:株価は早めに試算する

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。自社株の評価額は、遺産分割、納税資金、事業承継税制の認定申請(相続の場合は相続開始の翌日から5か月経過後〜8か月以内)、会社への売却の判断にかかわります。類似業種の株価が未公表の月があっても、決算書がそろった段階で仮の数値で試算し、公表後に確定させると、判断が遅れません。

よくある誤り

  • 「2026年の相続だから、令和8年1月1日以降用を使う」→その様式はありません。2026年1月1日〜3月31日の取得は令和6年1月1日以降用、4月1日以後の取得は令和8年4月1日以降用です。
  • 「申告書を出す日に合わせて、新しい様式を使う」→様式と38%・37%は、取得日で決まります。
  • 「株式等保有特定会社の計算は第8表に書く」→現行の様式では、第7表の1〜第7表の3です。
  • 「直後の決算の方が課税時期に近いので、その数値で類似業種比準価額を計算する」→比準要素は、直前期末の数値を使います。

他の税金・手続との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠

  • 明細書通達:平成2年12月27日付直評23ほか「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」。令和8年6月26日付課評2-46・課資2-10・課審7-9で一部改正(国税庁の公表は令和8年7月3日)。
  • 評基通186-2:令和8年3月25日付課評2-28・課資2-2・課審7-1で、割合を37%から38%に改め、括弧書きに防衛特別法人税を加えました。令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に適用します。
  • 業種目別株価等:令和8年6月5日付課評2-41、最終改正は令和8年10月8日付課評2-68(8月分まで掲載)です。令和7年分は令和7年6月9日付課評2-27で公表され、令和8年1月9日付課評2-3まで改正されました。評基通182・183・183-2。

実務論点

  • 令和5年9月28日付課評2-76ほかで公表された令和6年1月1日以降用は、第4表・第7表・第8表(第8表は株式等保有特定会社の株式の価額の計算明細書の続き)の構成でした。2026年6月の改正で、令和6年1月1日以降用も、第4表の1・2、第7表の1〜3に再編した改正版が公表されています。
  • 国税庁の趣旨説明(令和8年3月)は、改正前の名称で第5表・第8表に法人税額等相当額の欄があり、令和8年6月頃に様式を改正する予定と記載していました。様式は、国税庁ホームページの最新版を使います。
  • 端数処理(記載方法の通則等):各欄は表示単位未満を切り捨てます。要素別比準割合・比準割合は、小数点以下2位未満を切り捨てます。議決権割合は1%未満を切り捨てます(50%超51%未満は51%とします)。
  • 純資産価額を直前期末の資産・負債で計算する場合、相続税評価額は直前期末の資産・負債について課税時期の評価額(課税時期の年分の路線価など)、帳簿価額は直前期末の帳簿価額によります。第2表の株式等保有割合・土地保有割合の判定や、S2の計算も、同じ時点の基準にそろえます。
  • 相続税の申告書の作成順序(国税庁の令和8年分の記載例):評価明細書を先に作り、第9表→第10表→第11・11の2表の付表1〜4→第11表の付表1〜4→第13表→第14表→第15表→第11表の順に記載します。
第13章

評価方法の見直しの検討状況(有識者会議)

国税庁は2026年(令和8年)4月から有識者会議を開き、取引相場のない株式(非上場株式)の評価方法の見直しを検討しています。この章では、検討のきっかけ、示された骨子と試算、そして2026年10月時点で実務がどう向き合えばよいかを整理します。

この章の結論

  • 国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が、2026年4月から評価方法の見直しを検討しています検討中。8月20日の第5回では、会社規模別の評価体系を廃止して「残余利益方式」に原則一本化する骨子が示されました。
  • 骨子には適用時期・経過措置の記載がなく、最終的には税制改正の手続の中で決めるとされています。2026年10月17日時点の評価は、これまでどおり現行の財産評価基本通達で行います。
  • 第6回(9月16日)の試算で示された「大会社71.7%上昇・小会社21.8%低下」などの数字は、還元率8%などの仮定を置いた例示です。決まった数字として扱わず、自社株の現状を把握したうえで動向を見守ることが大切です。

有識者会議の位置づけと開催状況

国税庁は2026年4月16日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の開催を発表しました。相続税法は財産を取得の時の時価で評価すると定めています(相続税法22条)。この時価主義の下で、非上場株式の評価制度がどうあるべきかを検討する場です。

会議は4月20日の第1回から9月16日の第6回まで、ほぼ月1回のペースで開かれています。

  1. 2024年(令和6年)11月会計検査院が令和5年度決算検査報告で、評価方式によるかい離と配当還元方式の還元率を指摘
  2. 2026年4月16日国税庁が有識者会議の開催を発表
  3. 2026年4月20日〜7月3日第1回(4月20日)・第2回(5月11日)・第3回(6月4日)・第4回(7月3日)
  4. 2026年8月20日第5回。当日の机上配付資料で「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」を提示
  5. 2026年9月16日第6回。残余利益方式の算式案と、1,378社を対象にした試算を提示
  6. 2026年10月17日時点第6回の議事要旨は作成中。第7回以降の日程や取りまとめの時期は未定

見直しのきっかけ:会計検査院の指摘

きっかけは、会計検査院が2024年11月に公表した令和5年度決算検査報告です。検査院は次の2点を指摘し、規模の異なる会社の間の公平性などを考慮した検討を求めました。

  • 評価方式によるかい離:類似業種比準方式(上場会社の株価と比べる方法)を使う割合が高い大きな会社ほど、評価額が相対的に低くなっています。
  • 配当還元方式の還元率:少数株主の株式に使う配当還元方式の還元率10%が、近年の金利水準と比べて高すぎるおそれがあります。

第1回の会議資料には、その裏付けとなるデータが載っています。検査院の分析では、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%にとどまりました。分析対象700社の82.4%(577社)は、評価の直前2期間に配当をしていませんでした。国税庁も、2022年(令和4年)分と2023年(令和5年)分の申告について実態を調べています。

純資産価額に対する申告評価額(申告で使われた評価額)の割合・中央値
会社規模会計検査院の分析国税庁の実態把握(2022年・2023年分)
大会社0.32倍0.44倍
中会社0.50倍0.50倍
小会社0.61倍0.60倍

どちらの分析でも、会社が大きいほど純資産価額に比べて評価額が低い傾向が出ています。また、還元率10%は1964年(昭和39年)の金利水準を参考に定められ、その後見直されていないことも会議資料で示されています。

見直しの骨子:残余利益方式への一本化

2026年8月20日の第5回会議では、当日の机上配付資料として「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」が示されました。柱は次の4つです。

  1. 会社規模に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせる体系を廃止し、評価方式を原則として一本化
  2. 上場会社との比較ではなく、評価会社そのものの企業価値の総額を前提に株式を評価
  3. 収益力を反映する方法(インカムアプローチ)として「残余利益モデル」を採用
  4. 純資産価額方式の対象と算式を見直し、配当還元方式の対象は「特定の少数株主の取得した株式」に縮小

残余利益モデルは、帳簿上の純資産に、将来の超過収益の現在価値を加えて企業の価値をとらえる考え方です。超過収益(残余利益)とは、利益のうち「純資産×還元率」を上回る部分をいいます。骨子では過去数年分の平均利益を使い、還元率はCAPM(株式に期待される収益率を求める理論)などを参考にするとされ、有識者からは5年分とする意見が出ました。

骨子で示された主な見直しの方向(2026年10月時点で検討中)
論点現行の通達骨子の方向
評価の体系会社規模に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式を使い分け・併用規模別の体系を廃止し、残余利益方式に原則一本化
配当還元方式同族株主等以外の株主が取得した株式に適用(還元率10%)対象を特定の少数株主の取得した株式に縮小
少数株主の判定親族は6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族など。取得後の議決権5%未満などで判定親族を配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族に限る案。議決権割合と株式保有割合のいずれかが3%未満かで判定する案
議決権50%以下の同族グループ純資産価額を20%減額(80%で評価)20%減額は廃止せざるを得ないとの整理
退職給付引当金引当金は負債にしない一定の要件を満たすものを負債とする方向
資産管理会社独立の区分はなく、株式等保有特定会社・土地保有特定会社に当たるかで判定形式基準(事業承継税制の基準を参考)で判定し、純資産価額方式で評価
その他―代表者の親族である役員の報酬の2分の1を加算する案、オペレーティングリースをなかったものとして引き直す案、完全支配関係にある子会社を連結ベースと同等に評価する案、従業員持株会の株式を固定価格で評価する案など

第6回の算式案と試算:数字は仮定に基づく例示

2026年9月16日の第6回会議では、残余利益方式の算式案が示されました。平均利益と平均配当は過去5年の平均で、利益・純資産は法人税申告書の数字をもとにする案です。6年目以降の価値(ターミナルバリュー)は加算しない方向とされています。

評価額=直前期末の純資産価額(D0)+5年分の残余利益の現在価値の合計×しんしゃく率
1年目の残余利益(RI1)=平均利益(C)−D0×還元率
各年の純資産(Dt)=前年の純資産(Dt−1)+平均利益(C)−平均配当(B)

計算例:1年目の残余利益のイメージ(還元率8%は試算上の仮定)

前提:直前期末の純資産1億円、過去5年の平均利益1,250万円、還元率8%。

式:1,250万円−1億円×8%=1,250万円−800万円=450万円

答え:1年目の残余利益は450万円です。純資産1億円・還元率8%のままなら、平均利益が800万円を下回ると残余利益はマイナスになります。

算式案の形からは、純資産に比べて利益が大きい会社ほど評価額が高く、利益が小さい会社ほど低くなる仕組みといえます。第6回では、1,378社を対象にした試算も示されました。

第6回会議の試算(1,378社。加算期間5年・還元率8%・しんしゃく率0.8の仮定)
区分現行の評価額と比べた増減
全体(中央値)+2.3%
大会社+71.7%
中会社+12.1%
小会社−21.8%

現行で類似業種比準方式の比重が大きい大会社ほど評価額が上がり、純資産価額が中心の小会社では下がる結果です。ただし、還元率8%・しんしゃく率0.8は試算のために置いた仮定で、決まった数値ではありません。仮定が変われば結果も変わります。

適用時期は未定:いま実務で確認しておくこと

骨子は、見直しの内容に加えて評価水準や税負担のあり方も含め、最終的には税制改正のプロセスで決定するとしています。骨子にも第5回の議事要旨にも、適用時期や経過措置の記載はありません。財産評価基本通達の取引相場のない株式の定めで2026年に改正されたのは、純資産価額方式の法人税額等相当額の割合(37%から38%)だけです。

経済産業省は令和9年度税制改正要望で、評価方式の見直しに当たっては企業の成長や事業承継を妨げないよう慎重な検討を求めています要望段階。適用時期を見込む民間の解説もありますが、一次資料に裏付けはありません。

いま確認しておきたいこと

  • 相続・贈与の評価は、現行の財産評価基本通達で行います(2026年4月1日以後の取得は法人税額等相当額38%施行中、評価明細書は令和8年4月1日以降用)。
  • 自社株の評価額が純資産価額と類似業種比準価額のどちらに近いかを把握し、見直しの影響の方向をつかみます。
  • 議決権50%以下の同族グループの80%評価や、配当還元方式を前提にした株式の移転計画は、骨子で見直しの対象とされている点を意識します。
  • 事業承継税制の特例措置の期限(特例承継計画の提出は2027年(令和9年)9月30日、贈与・相続は2027年12月31日)期限ありは、評価方法の見直しとは別に進みます。
  • 2026年12月に予定される令和9年度税制改正大綱と、有識者会議の次の資料を確認します。

よくある誤り

  • 「残余利益方式への改正が決まった」「○年から評価方法が変わる」と説明するのは誤りです。2026年10月17日時点では有識者会議で検討中で、適用時期・経過措置は決まっていません。
  • 「試算どおり大会社の株価は約1.7倍になる」も誤りです。試算は還元率8%・しんしゃく率0.8などの仮定に基づく例示で、算式自体もまだ案の段階です。個々の会社の結果は財務内容によって異なります。
  • 結論が出ていない段階で評価額を下げることだけを目的に資産構成を変えると、現行の通達の下でも、特定の評価会社の判定回避の否認(財産評価基本通達189なお書き)や総則6項の対象になり得ます。

他の税金・他の章との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠と資料

  • 評価の根拠:相続税法22条(時価主義)、財産評価基本通達178〜189-7(現行)。2026年の取引相場のない株式に関する改正は評基通186-2(37%→38%、令和8年3月25日付課評2-28ほか)のみです。
  • 契機:会計検査院 令和5年度決算検査報告(2024年11月)。
  • 有識者会議:開催発表2026年4月16日。第1回資料(検査院・国税庁のデータ)、第5回当日机上配付「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」、第5回議事要旨、第6回資料(算式案・試算)。

実務論点

  • 骨子は「最終的には税制改正プロセスにおいて決定」と明記し、適用時期・経過措置に触れていません。顧客への説明では検討中・適用時期未定であることを明示し、特定の年からの適用を前提にした試算を確定情報のように示さないことが重要です。
  • 試算の加算期間5年・還元率8%・しんしゃく率0.8は、第6回資料でもシミュレーション上の仮定・例示とされています。
  • 第6回の資産管理会社の判定案(特定資産の帳簿価額が総資産の帳簿価額の70%以上、又は特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上)は、事業承継税制の資産保有型会社・資産運用型会社の判定と同じ水準です。
  • 利益の正常化:一時的な役員退職金等を正常利益の計算で損金から除く案が第6回資料にあります。現行の類似業種比準方式では、非経常的な利益がない期に支給した役員退職金は、課税所得の減少として利益の比準要素にそのまま反映されます。
  • 従業員持株会:持株会を通じた保有、規約で価額が定められていること、退会時に固定価格で買い取られ持ち出せないことなどを要件に固定価格で評価し、他の株式は企業価値総額から持株会株式の総額を控除して評価する案。固定価格での譲渡ルールの有効性を認めた最高裁平成21年(2009年)2月17日判決が参考として紹介されています。
  • 種類株式:社債類似株式の条件に一部該当しない株式も、実態に応じてこれに準じて評価する案があります。
  • 総則6項(評基通6)の適用は2015〜2024事務年度(平成27〜令和6事務年度)で27件、うち株式14件。国税庁は第5回で、適用件数が少ないことは通達の見直しを要しないことを意味しないと説明しています(議事要旨)。
  • 第5回議事要旨には、役員報酬の加算案に反対意見が多かったことが記録されています。
第14章

事業承継税制と自社株の承継手法

自社株を後継者に引き継ぐ方法には、事業承継税制で贈与税・相続税を猶予する方法のほか、生前贈与、売買、金庫株、持株会社、M&Aなどがあります。この章では、法人版・個人版の事業承継税制の要点と期限、主な承継手法にかかる税金を比べます。

この章の結論

  • 法人版事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出が2027年(令和9年)9月30日まで、最初の贈与・相続が2027年12月31日までです期限あり。2026年(令和8年)10月17日時点ではどちらも期限内で、特例措置そのものの延長は決まっていません。
  • 特例措置なら自社株にかかる贈与税・相続税の全額を猶予でき、後継者の死亡などで免除されます。一方、5年間の報告や代表者の継続などの要件を外れると、猶予税額と利子税を納めることになります。
  • 承継の手法ごとに、かかる税金(贈与税・相続税・譲渡所得税・みなし配当)と株式の価額の基準が異なります。後継者以外の相続人との関係(遺留分)は、税制とは別に民法特例などで手当てします。

法人版事業承継税制:特例措置と一般措置

法人版事業承継税制は、後継者が都道府県知事の認定を受けた中小企業の非上場株式を贈与・相続で取得したとき、その株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度です。株式の価額は財産評価基本通達で評価します。

制度は、時限の「特例措置」と期限のない「一般措置」の2本立てです。同じ会社の株式については、どちらか一方しか使えません。

特例措置と一般措置の比較
項目特例措置一般措置
事前の計画特例承継計画の提出が必要(2027年9月30日まで)不要
適用期限2018年(平成30年)1月1日〜2027年12月31日の贈与・相続等なし
対象になる株式全株式(議決権に制限のない株式等)総株式数の3分の2まで
納税猶予の割合贈与・相続とも100%贈与100%、相続80%
後継者最大3人1人
雇用の確保5年平均で8割を下回っても猶予は続く(理由を記載した報告書の提出が必要)5年平均で8割を維持できないと猶予打切り
経営環境が悪化したとき譲渡対価などで税額を再計算し、差額を免除免除なし
相続時精算課税60歳以上の贈与者から18歳以上の者へ(推定相続人・孫以外も可)60歳以上の贈与者から18歳以上の推定相続人・孫へ

法人版の特例措置について令和8年度税制改正で延びたのは、特例承継計画の提出期限(2026年3月31日から2027年9月30日へ)だけです。最初の贈与・相続の期限(2027年12月31日)は変わっていません。期限後のあり方は令和9年度税制改正で結論を出すとされ、経済産業省・厚生労働省は「抜本見直し」を要望しています要望段階。結論は2026年12月の税制改正大綱で示される予定で、延長・恒久化・廃止のいずれも決まっていません。

特例措置の手続と期限

特例措置は、決まった順序で手続を進めます。特例承継計画は贈与・相続の後に認定申請と一緒に出すこともできますが、それができるのも2027年9月30日までです。2027年10月〜12月に贈与・相続があっても、9月30日までに計画を出していなければ特例措置は使えず、一般措置だけになります。

  1. 特例承継計画の作成・提出認定経営革新等支援機関(税理士・公認会計士・金融機関・商工会議所など)の指導・助言を受けて作成し、本店所在地の都道府県に2027年9月30日までに提出します。確認を受けても、認定や猶予が約束されるわけではありません。
  2. 贈与または相続最初の取得は2027年12月31日まで。贈与の場合、先代は贈与の時に代表権を外れている必要があります(代表権のない役員として残ることはできます)。
  3. 都道府県知事の認定申請贈与は贈与した年の10月15日〜翌年1月15日。相続は相続開始の翌日から5か月を経過した日以後、8か月以内。
  4. 申告と担保の提供贈与税は翌年2月1日〜3月15日、相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、期限内申告で適用を受けます。対象株式の全部を担保に提供すれば足ります。
  5. 5年間の報告申告期限の翌日から5年間(経営承継期間)は、都道府県への年次報告と税務署への継続届出書を毎年提出します。
  6. 6年目以降税務署へ継続届出書を3年ごとに提出します。出し忘れると猶予が打ち切られます。
  7. 免除先代や後継者の死亡、次の後継者への免除対象贈与などで、猶予税額が免除されます。

北海道の会社の認定窓口は、北海道経済部地域経済局中小企業課です。2026年9月14日から電子申請もできるようになりました。標準処理期間は書類がそろってから60日で、1月15日ぎりぎりの申請では3月15日の申告期限に認定書が間に合わないおそれがあると案内されています。

2027年中の贈与の認定申請期限(2028年(令和10年)1月15日)は土曜日なので、早めの申請が安全です。連絡先や支援機関は北海道の事業承継の支援機関にまとめています。

主な要件と、猶予が打ち切られる場面

要件は会社・先代・後継者のそれぞれにあります。主なものは次のとおりで、全要件は事業承継税制 完全ガイドで解説しています。

  • 会社:非上場の中小企業者で、常時使用従業員が1人以上。資産保有型会社(特定資産が総資産の70%以上)・資産運用型会社(運用収入が総収入の75%以上)に当たらないこと(従業員5人以上・事務所等・3年以上の事業継続という事業実態があれば例外)。拒否権付株式(黄金株)を後継者以外が持っていないこと。
  • 先代:代表権を持っていたことがあり、同族で議決権の50%超を持ち、同族内(後継者を除く)で筆頭であること。
  • 後継者(贈与):18歳以上で、贈与の時に代表者。特例措置は贈与の直前に役員であればよく(2025年(令和7年)1月1日以後の贈与)、一般措置は贈与の日まで引き続き3年以上役員であることが必要です。
  • 後継者(相続):相続開始の翌日から5か月を経過する日に代表者で、相続開始の直前に役員であること。被相続人が70歳未満で亡くなった場合や、特例措置で特例承継計画に記載された後継者の場合は、役員要件は不要です。

猶予が続くのは、要件を守り続けている間だけです。経営承継期間(5年)の間に次のような事由があると、猶予税額の全額と利子税(本則は年3.6%で、各年の特例の割合に軽減)を納めます。後継者が代表者を退く(やむを得ない理由を除く)、同族の議決権が過半数を割る、株式を譲渡する、会社が資産管理会社に当たる、といった事由です。5年の経過後も、株式の譲渡(M&Aを含む)や資産管理会社への該当、解散などでは納付が生じます。

計算例:評価額3億円の全株を特例措置で贈与した場合

前提:先代(68歳)が後継者の長男(35歳)に、評価額3億円の自社株の全部を2026年中に贈与。同じ年にほかの贈与はなく、精算課税の特別控除は未使用とします。

課税方式による猶予税額の違い
課税方式計算贈与税額(全額猶予)
暦年課税(特例税率)(3億円−110万円)×55%−640万円1億5,799万5,000円
相続時精算課税(3億円−110万円−2,500万円)×20%5,478万円

どちらも、申告期限までに納める贈与税は0円です。ただし、経営承継期間中に猶予が取り消されると、この猶予税額に利子税を加えて納めます。精算課税を選んでいれば、取消し時に納める贈与税は5,478万円が基準になり、納めた贈与税は先代の相続のときに相続税から差し引かれます(引ききれない分は還付)。

答え:猶予税額は暦年課税で1億5,799万5,000円、相続時精算課税で5,478万円。取消しに備える観点では、精算課税の方が負担を抑えられます。

個人版事業承継税制の要点

個人事業者向けには個人版事業承継税制があります。対象は、青色申告の事業(不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業を除く)を営む個人の後継者です。認定を受けて「特定事業用資産」を贈与・相続で取得した場合、その資産にかかる贈与税・相続税の全額の納税を猶予します期限あり。

  • 期限:個人事業承継計画の提出は2028年9月30日まで、贈与・相続は2028年12月31日まで(2026年10月時点で期限内)。
  • 対象資産:前年分の青色申告書の貸借対照表に載っている事業用の宅地等(400㎡まで)、建物(床面積800㎡まで)、一定の減価償却資産。
  • 小規模宅地等の特例との関係:被相続人の事業用の宅地について「特定事業用宅地等」として小規模宅地等の特例を受ける人がいると、個人版は使えません(どちらかを選択)。比較は特定事業用宅地等を参照してください。
  • 後継者の相続時の事業従事要件の例外は「先代が60歳未満で死亡」した場合です。法人版の「70歳未満」と混同しないよう注意します。
  • 継続届出書は3年ごとに税務署へ出します。法人版のような都道府県への毎年の年次報告はありません。

自社株の承継手法と、それぞれの税金

事業承継税制を使わない場合や、猶予の対象外の部分がある場合は、ほかの手法を組み合わせます。手法ごとに課税される税金と、株式の価額の基準が違う点が重要です。相続税・贈与税は財産評価基本通達による評価額、個人から法人への売買は所得税の時価(所基通59-6)が基準になります。

自社株の主な承継手法と税金
手法主な税金長所注意点
事業承継税制(特例措置)贈与税・相続税を猶予し、要件を満たせば免除税負担が実質ゼロになり得る期限(計画2027年9月30日・承継2027年12月31日)、手続の負担、取消しのリスク
生前贈与(暦年課税)贈与税(年110万円の基礎控除、最高55%)株価が低い時期に少しずつ移せる相続前の贈与は相続財産に加算(加算期間は3年から7年へ段階的に延長)。一度に多く移すと税率が高い
生前贈与(相続時精算課税)年110万円の基礎控除後、累計2,500万円を超える部分に20%一度に多く移せ、相続時の加算額は贈与時の価額で固定贈与した株式は相続財産に加算。選択の撤回は不可
後継者個人への売買先代に株式の譲渡所得税(20.315%)先代は対価を受け取れる後継者の買取資金が必要。時価より著しく低い価額だと、差額は後継者への贈与とみなされる
持株会社への売買先代に株式の譲渡所得税(20.315%)先代の財産が現金になり、後継者の支配を持株会社に集約できる価格は所基通59-6の時価が基準で、2分の1未満ならみなし譲渡。借入で買う場合は事業会社からの配当で返済するのが代表的な形。持株会社の株価は株式等保有特定会社の判定に注意
金庫株(発行会社への譲渡)相続人の特例なら全額が株式の譲渡所得の収入金額。それ以外はみなし配当(総合課税)と譲渡所得相続税の納税資金づくり、株式の会社への集約特例は納付すべき相続税額がある人が、申告期限の翌日以後3年以内に譲渡した場合だけ。会社の買取資金と会社法上の手続が必要
種類株式・属人的株式移す方法(贈与・相続など)による議決権と財産的な価値を分けて配分できる無議決権株式は事業承継税制の対象外。事業承継税制では、黄金株を後継者以外が持たないことが要件。属人的株式(株主ごとに議決権などを変える定め)は議決権要件との関係を個別に確認
従業員持株会従業員の取得は通常、配当還元方式で評価先代の持株の削減、従業員の経営参加議決権の分散。譲受人が法人ならオーナー側にみなし譲渡のおそれ。退会時の買戻しルールを規約で定める
信託適正な対価を負担せずに受益者となった人が、信託財産を贈与・遺贈で取得したとみなされる(相続税法9条の2)議決権の行使と財産の帰属を分けて設計できる受益権は信託財産(株式)をもとに評価。設計が複雑で、事業承継税制との組合せは個別確認が必要
M&A(第三者への承継)株式譲渡なら先代に株式の譲渡所得税(20.315%)後継者不在の解決。創業者の利益を確保できる相手探しと条件交渉が必要。事業承継税制の適用中なら猶予税額の納付が生じる

遺留分への備え:民法特例(除外合意・固定合意)

事業承継税制で税金を猶予しても、ほかの相続人の遺留分(最低限の取り分)の問題は解決しません。後継者が生前贈与で受けた自社株は、遺留分の計算の基礎に入ることがあります。そこで、経営承継円滑化法の民法特例を使う方法があります。

除外合意

  • 後継者が先代から贈与などで取得した自社株の価額を、遺留分を算定する財産から除外します。

固定合意

  • 自社株の価額を、合意した時点の価額に固定します。
  • 合意後に株価が上がっても、その分は遺留分に影響しません。
  • 合意時の価額が相当であることについて、税理士・公認会計士・弁護士などの証明が必要です。

どちらも、後継者と先代の推定相続人全員の書面による合意が必要です。会社は合意時点で3年以上事業を続けている非上場の中小企業者、先代は過去または合意時に代表者、後継者は合意時に代表者で、先代からの贈与などで取得した株式により議決権の過半数を持っていることが要件です。合意から1か月以内に経済産業大臣の確認を申請し、確認から1か月以内に家庭裁判所へ許可を申し立て、許可を受けると効力が生じます。遺留分の基本は遺留分で解説しています。

よくある誤り

  • 「事業承継税制の特例措置は延長された」は誤りです。延びたのは特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)だけで、最初の贈与・相続は2027年12月31日までです。
  • 「計画は贈与や相続の後に出せばよい」が通用するのは2027年9月30日までです。それ以後は計画自体を出せません。
  • 「猶予されれば終わり」ではありません。猶予は免除ではなく、代表者を退く、株式を譲渡する、継続届出書を出し忘れるなどで、猶予税額と利子税を納めることになります。
  • 「被相続人が60歳未満で亡くなれば後継者の役員要件は不要」は法人版では誤りで、70歳未満です。60歳未満は個人版の事業従事要件の例外です。

他の税金との関係

専門家向け:根拠と実務論点

根拠条文

  • 法人版一般措置:措法70条の7(贈与税)、70条の7の2(相続税)、70条の7の3・70条の7の4(贈与者が死亡した場合)。特例措置:措法70条の7の5〜70条の7の8。推定相続人等以外への精算課税の特例:措法70条の2の8。
  • 個人版:措法70条の6の8(贈与税)、70条の6の9(贈与者が死亡した場合)、70条の6の10(相続税)。
  • 計画の提出期限:円滑化省令17条2項(特例承継計画)・17条4項(個人事業承継計画)。いずれも令和8年度改正で延長され、2026年4月1日施行。
  • 金庫株:措法9条の7・措令5条の2(取得費加算〔措法39条〕と併用可)。個人から法人への低額譲渡:所法59条1項2号・所令169条。個人間の低額譲渡:相法7条。信託:相法9条の2。

実務論点

  • 2028年1月15日(2027年贈与の認定申請期限)が土曜日である点について、翌開庁日への延長が及ぶかは一次資料で確認できていません。前倒しで申請します。
  • 特例の雇用要件:5年平均が8割を下回った場合は、理由を記載した報告書(認定経営革新等支援機関の所見付き)を経営承継期間の末日の翌日から4か月以内に都道府県へ提出し、確認書の写しを継続届出書に添付します。
  • 先代(贈与者)が死亡すると贈与税は免除され、株式は贈与時の価額で相続により取得したものとみなされます(生前贈与加算の期間とは無関係に加算)。都道府県の切替確認を受ければ、相続税の納税猶予に切り替えられます。
  • 担保は対象株式の全部を提供すれば、猶予税額と利子税に見合う担保の提供があったものとみなされます。経営承継期間の経過後に猶予税額を納付する場合、期間中の利子税は年0%に軽減されます。
  • 猶予の対象は議決権に制限のない株式等に限られます。医療法人の出資は対象外で、持分なし医療法人への移行は認定医療法人制度(移行計画の認定期限2029年(令和11年)12月31日)で対応します。
  • 令和9年度要望では、早期事業再生法に基づく権利変更決議の効力発生を猶予税額の免除事由に加えることも要望されています(要望段階)。
第15章

株価シミュレーター

決算書・法人税申告書の数字と類似業種の株価を入力すると、現行の財産評価基本通達に沿って自社株の評価額の目安を計算できます。所得税の時価(所基通59-6)との比較もできます。

この章の結論

  • 会社規模の判定から、類似業種比準価額・純資産価額・会社規模ごとの評価額・配当還元価額・所基通59-6による時価までをまとめて計算します。
  • 純資産価額の法人税額等相当額は、取得日が2026年(令和8年)4月1日以後なら38%、それより前なら37%に切り替えます施行中。
  • 類似業種の株価は国税庁の業種目別株価等から入力します。特定の評価会社の判定・評価と種類株式は対象外なので、結果は目安として使い、申告や売買価格は評価明細書で確定させます。

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このツールで計算できること

シミュレーターの機能と解説の章
機能計算の内容解説
会社規模の判定業種・従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額から、大会社・中会社(L=0.90・0.75・0.60)・小会社を判定会社規模の判定
類似業種比準価額配当・利益・純資産を50円換算の株式数で1株当たりに直して類似業種と比べ、斟酌率(大0.7・中0.6・小0.5)を掛ける類似業種比準方式
純資産価額評価差額に38%(または37%)を掛けた法人税額等相当額を控除純資産価額方式
会社規模ごとの評価額大会社・中会社・小会社の算式で計算。議決権50%以下の同族グループは純資産価額の80%評価会社規模ごとの評価額
配当還元価額年配当金額(2円50銭未満は2円50銭)÷10%×1株当たりの資本金等の額÷50円。原則的評価方式の価額が上限配当還元方式
所基通59-6の価額土地等・上場株式を時価にして、法人税額等相当額を控除せずに計算。売る人が中心的な同族株主なら小会社とみなし、そうでなければ実際の会社規模の算式による所得税・法人税上の時価

原則的評価方式と配当還元方式のどちらになるかは、先に評価方式の判定の判定ツールで確認してください。

入力する数値と資料

  • 会社規模:直前期末の総資産価額(帳簿価額)、直前期の取引金額、従業員数(継続勤務従業員と、それ以外の人の労働時間÷1,800時間の合計)。
  • 類似業種の数値:株価Aは課税時期の月・前月・前々月・前年平均・2年平均のうち最も低い値。配当B・利益C・純資産Dも同じ業種目の値を使います。
  • 比準要素:直前期・直前々期の配当(特別配当・記念配当などを除く)と利益(課税所得から非経常的な利益を除くなどの調整後)、法人税申告書の別表五(一)の資本金等の額と利益積立金額、自己株式を除いた発行済株式数。
  • 純資産:資産の相続税評価額と帳簿価額、負債。3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で入れ、引当金は負債に入れません。

令和8年分の業種目別株価等は、2026年10月17日時点で8月分まで公表されています。課税時期が2026年9月以降の場合、当月などの株価はまだ公表されていない点に注意してください。

計算例で使い方を確かめる

計算例:製造業X社(中会社)の株式(数値はすべて仮定)

前提:課税時期2026年7月10日。従業員25人、総資産価額(帳簿価額)2億7,000万円、取引金額5億円、資本金等の額1,000万円、発行済株式2万株。類似業種はA=500円・B=10.0円・C=50円・D=400円です。

配当は直前期・直前々期とも200万円、利益は直前期1,250万円・直前々期1,000万円、簿価純資産1億円。課税時期の資産は相続税評価額4億円・帳簿価額2億7,000万円、負債1億5,000万円です。所得税の時価では、土地等の時価が相続税評価額より4,000万円、上場株式の時価が200万円高いものとします。

主な計算結果
項目計算結果
会社規模総資産・従業員で0.75、取引金額で0.90。大きい方をとる中会社(L=0.90)
類似業種比準価額比準割合1.12(配当10.0円・利益56円・純資産500円から)、500円×1.12×0.6=336.0円、336.0円×500円÷50円3,360円
純資産価額(2億5,000万円−1億3,000万円×38%)÷2万株10,030円
評価額3,360円×0.90+10,030円×0.104,027円
配当還元価額10.0円÷10%×500円÷50円1,000円
59-6の時価土地等・上場株式の時価との差4,200万円を加え、法人税額等相当額を控除しない純資産価額14,600円と、3,360円×0.50+14,600円×0.50=8,980円の低い方8,980円

答え:相続税評価額は1株4,027円、配当還元価額は1,000円、所得税の時価(中心的な同族株主が法人に譲渡する場合)は8,980円です。

計算の前提と限界

  • 2026年10月17日時点の現行通達で計算し、有識者会議で検討中の見直し検討中は反映していません(評価方法の見直しの検討状況)。
  • 利益の比準要素は、直前期と2年平均のうち低い方で計算します。実際の申告では納税義務者が選択します。
  • 特定の評価会社(株式等保有特定会社・土地保有特定会社・比準要素数1の会社・開業後3年未満の会社など)の判定と評価(S1+S2方式など)には対応しておらず、一般の評価会社として計算します。直前期の比準要素のうち2つ以上が0のときは注意を表示しますが、直前々期を含めた判定はしません。該当しそうなら特定の評価会社で確認してください。
  • 種類株式、医療法人の出資、株式に関する権利には対応していません。業種目の判定や土地・上場株式の評価額は、別に確認した数値を入力します。

よくある誤り

  • 「結果をそのまま申告に使える」は誤りです。申告では、評価明細書(2026年4月1日以後の取得は令和8年4月1日以降用)で資料に基づいて計算します。
  • 「相続税評価額で売れば安全」とは限りません。計算例で中心的な同族株主が4,027円で法人に売ると、時価8,980円の2分の1(4,490円)未満となり、時価で譲渡したものとみなされます。

他の計算ツールとの関係

専門家向け:根拠と実務論点
  • 端数処理:配当の比準要素は10銭未満、利益・純資産は円未満切捨て。要素別比準割合と比準割合は小数点以下2位未満切捨て、1株(50円)当たりの比準価額は10銭未満、1株当たりの価額は円未満切捨て(明細書の記載方法・国税庁の設例)。
  • 純資産価額:帳簿価額による純資産価額がマイナスなら0として評価差額を計算し、38%(2026年3月31日以前の取得は37%。評基通186-2)を控除します。80%評価は中会社・小会社の算式に適用し、大会社が純資産価額を選ぶ場合には適用しません。
  • 大会社・中会社では、類似業種比準価額が純資産価額を上回るときは純資産価額に置き換えます。中会社の置換えの比較には80%適用前の純資産価額を使う形で、これは様式第3表の算式による一般的な理解に基づきます。
  • 59-6の価額:中心的な同族株主の判定は譲渡・贈与直前の譲渡人の議決権で行い、類似業種比準価額の斟酌率は実際の規模のままです(資産課税課情報第22号)。この計算は80%評価を反映していないため、譲渡人の同族グループの議決権が50%以下の場合は別途検討します。法人税上の時価(法基通9-1-14ほか)は課税上弊害がない限りという条件付きで、判定時期の明文がない点も異なります。
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ジェイスタート会計事務所は、公認会計士・税理士の事務所として、生前対策から相続税の申告、不動産の売却、会社・事業の次世代への引き継ぎまでを支援しています。ご相談の内容は守秘義務のもとで取り扱います。

  • 相続税・贈与税・譲渡所得税の申告
  • 土地の評価(不整形地補正・小規模宅地等の特例)
  • 非上場株式の評価・同族会社の自社株集約
  • 生前対策・相続時精算課税の活用
  • 不動産売却における特別控除の適用
  • 事業承継税制のご提案と活用

相続税の申告期限は10か月。特例の適用は期限内申告が前提です。まずは期限とご状況をお知らせください。初回のご相談は無料です。お問い合わせには原則として翌営業日までにお返事します。

このページの出典・参考資料(83件)

このページは、2026年10月17日時点で確認できた法令・通達・国税庁などの公表資料にもとづく一般的な解説です。税制や運用は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。実際の申告・手続の際は、最新の公表資料を確認するか、税理士などの専門家にご相談ください。

計算例・設例の数値は説明のための仮定です。計算ツールの結果は概算で、正確性や個別の結果を保証するものではありません。確定度ラベル(施行中・成立・施行待ち・通達案・検討中・要望段階など)は2026年10月17日時点の状態を示します。

最終確認日:2026年10月17日 作成:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)

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