1つの財産・1つの家族について、相続税・贈与税・譲渡所得・株式評価がどうつながるかを、時系列のケースで判断できるようにしました。どの税金でどの価額を使うかの整理表と、実家・賃貸物件・自社株・二次相続などの代表的な場面を扱います。
相続税・贈与税 総合ガイド|交差点ケース集
税金は税目ごとに説明されがちですが、実際の判断は「この土地をいつ、誰に、どう渡し、いつ売るか」です。ケースごとに、関係する税金と判断のポイントを並べました。
交差点の考え方と一物多価の整理表
同じ土地や自社株でも、どの税金のどの場面で使うかによって「値段」が変わります。この章では、税目の交差点が生まれる理由を整理し、一物多価(一つの財産に複数の価額があること)の整理表でページ全体の見取り図を示します。
この章の結論
- 交差点が生まれる理由は「時点」「価額の基準」「人」の3つです。いつ、どの基準の価額で、誰から誰へ移るのかを分けて考えます。
- 土地は、相続税では路線価などによる評価額、個人間の売買では通常の取引価額、法人への譲渡では時価を使います。売るときの取得費は、亡くなった人の購入価額などを引き継ぎます。
- 自社株は、相続税では取得した人の立場で評価し、所得税では売った人の立場で評価し直します。「相続税評価額で売れば安全」とは限りません。
- 判断は「相続税の評価と特例」→「分け方」→「売却・納税の時期」の順に進めます。
交差点が生まれる3つの理由
相続税・贈与税・譲渡所得・株式評価は、それぞれ別の法律や通達で動いています。そのため同じ財産でも、次の3つのどれかが変わると、かかる税金と使う価額が切り替わります。
①時点
- 生前に渡す:贈与税(もらった人)
- 亡くなった日:相続税(相続した人)
- 売った時:譲渡所得(売った人)
- 相続時精算課税の贈与は、相続のときに「贈与時の価額」で加算されます
②価額の基準
- 相続税・贈与税:財産評価基本通達による評価額
- 土地建物の個人間売買・負担付贈与:通常の取引価額
- 所得税・法人税での株式の時価:評価通達を修正した価額
- 譲渡所得の取得費:いくらで買ったか(相続では引継ぎ)
③人
- 個人から個人:安く売ると、買った人にみなし贈与
- 個人から法人:時価の2分の1未満で売ると、売った人が時価で売ったものとみなされます
- 法人:安く買えば受贈益。同族会社なら株主へのみなし贈与も論点
相続税法の「時価」は、不特定多数の当事者が自由に取引した場合に通常成立する価額です。ただし実際の課税は、財産評価基本通達の定めで評価した価額によります。土地の路線価は、地価公示価格などの80%程度を目安に、毎年1月1日時点で定められます。
この「通達による評価額」と「実際に売れる値段」の差が、ほとんどの交差点の出発点です。差を利用した取引には、税目ごとに別の価額をあてる仕組みが用意されています。
土地の一物多価:場面ごとの4つの価額
土地は、使う場面ごとに次の価額を使い分けます。いちばん右の列が、実務で誤りやすい点です。
| 場面 | 使う価額 | 根拠 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 相続・通常の贈与 | 相続税評価額(路線価方式・倍率方式) | 財産評価基本通達 | 貸家建付地や小規模宅地等の特例でさらに下がります。通達どおりでは著しく不適当な場合は、総則6項で別の評価がされることもあります |
| 個人間の売買・負担付贈与 | 通常の取引価額 | 負担付贈与通達(平成元年3月29日直評5ほか) | 路線価で売買すると、通常の取引価額との差がみなし贈与とされるおそれがあります。著しく低いかどうかは個別に判定します |
| 法人への譲渡・贈与 | 時価 | 所得税法59条1項、同法施行令169条 | 時価の2分の1未満の対価なら、時価で譲渡したものとみなされます |
| 相続した土地を売る | 取得費は亡くなった人の購入価額などを引継ぎ | 所得税法60条1項 | 相続税評価額は取得費になりません。相続税の一部を取得費に足す特例があります |
| 5年以内に取得した貸付用不動産の相続・贈与 | 通常の取引価額(取得価額をもとにした額の80%も可)通達案 | 「貸付用不動産の評価について」(案) | 2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から適用予定です。2026年10月17日時点では意見公募中で、通達は未制定です |
ケースA:父の土地を4つの場面で見る
前提:父が1990年(平成2年)に2,000万円で買った土地(200㎡)です。路線価による相続税評価額は4,800万円(24万円×200㎡、補正なし)、通常の取引価額(実際に売れる値段)は6,000万円と仮定します。税額は2026年中の譲渡として計算します。
- 1990年 父が購入購入価額2,000万円が、将来売るときの取得費の出発点になります
- 生前 子や会社に売る相手が個人なら通常の取引価額、法人なら時価が基準になります
- 父の死亡 長男が相続相続税は評価額4,800万円で課税されます
- 相続後 長男が売る取得費は父の2,000万円を引き継ぎ、取得時期も1990年のままです
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 相続した土地の価額 | 評価額4,800万円(特例があればさらに下がる) |
| 贈与税 | 父が子に3,000万円で売った | 通常の取引価額6,000万円との差3,000万円が、みなし贈与とされるおそれ |
| 譲渡所得(父) | 子に3,000万円で売った | 実際の対価3,000万円で計算します(個人への譲渡にみなし譲渡はありません) |
| 譲渡所得(父) | 同族会社に2,500万円で売った | 時価6,000万円の2分の1(3,000万円)未満なので、6,000万円で売ったものとみなされます |
| 法人税 | 会社が安く買った | 時価との差3,500万円は会社の受贈益 |
| 譲渡所得(長男) | 相続後に6,000万円で売った | 取得費は2,000万円で、評価額4,800万円ではありません |
子(18歳以上)への売買がみなし贈与とされると、贈与税(特例税率)は次のとおりです。
(3,000万円−110万円)×45%−265万円=1,035万5,000円
このとき父の譲渡所得は3,000万円−2,000万円=1,000万円(長期)です。税額は所得税150万円、復興特別所得税3万1,500円、住民税50万円の計203万1,500円です。
会社に2,500万円で売ると、父は6,000万円−2,000万円=4,000万円に課税されます。税額は所得税600万円、復興特別所得税12万6,000円、住民税200万円の計812万6,000円です。
答え:同じ土地でも、相続税は4,800万円、個人間の売買と法人との取引は6,000万円、売るときの取得費は2,000万円で考えます。法人に売るなら3,000万円が2分の1の境目です。長男が相続後に6,000万円で売ったときの譲渡益は4,000万円で、評価額を取得費にした1,200万円ではありません。
自社株の一物多価:相続税評価と所得税・法人税の時価
取引相場のない株式(自社株)も、場面ごとに価額が変わります。最大の違いは、誰の立場で株主区分を判定するかです。相続税・贈与税は取得した人の取得後の議決権で判定し、所得税は売った人の譲渡直前の議決権で判定します。
| 項目 | 相続税・贈与税 | 所得税(個人から法人へ) | 法人税 |
|---|---|---|---|
| 主な場面 | 相続・遺贈・贈与 | 法人への贈与・低額譲渡でみなし譲渡になるかの判定 | 評価損益、法人が安く譲渡したときの対価 |
| よりどころ | 財産評価基本通達178〜189-7 | 所得税基本通達59-6(評価通達の例+4つの条件) | 法人税基本通達9-1-14ほか(課税上弊害がない限り評価通達の例+条件) |
| 株主区分の判定 | 取得した人の取得後の議決権 | 売った人の譲渡直前の議決権 | 明文なし |
| 中心的な同族株主の場合 | 実際の会社規模で評価 | 常に小会社として評価(斟酌率は実際の規模) | 常に小会社として評価 |
| 会社の土地・上場株式 | 評価通達の評価額 | 譲渡・贈与の時の時価 | 事業年度終了の時などの時価 |
| 法人税額等相当額 | 控除あり(38%施行中。2026年3月31日以前の取得は37%) | 控除なし | 控除なし |
最高裁令和2年3月24日判決は、所得税では譲り受けた人ではなく、譲渡した人の会社への支配力に応じて評価方法を決めるべきだとしました。これを受けて、所得税基本通達59-6は2020年(令和2年)8月に文言が明確化されています。
第三者に売る場合(M&A)は、当事者が合意した価格が収入金額になり、譲渡益に20.315%の申告分離課税がかかります。ただし相続の前後に第三者への売却価格がある場合は、通達評価額との関係で総則6項が論点になり得ます。
なお、評価方法そのものは、国税庁の有識者会議で残余利益方式への一本化などが検討されています検討中。2026年10月17日時点で適用時期は示されておらず、現行の通達で評価します。
ケースB:同じ自社株が1,000円・4,027円・8,980円になる
前提:製造業のX社(中会社の大、Lの割合0.90、発行済株式2万株、1株当たりの資本金等の額500円)です。類似業種比準価額は3,360円、相続税評価の純資産価額は10,030円(法人税額等相当額38%を控除後)、年配当金額は10.0円です。
相続税評価額による総資産は4億円(うち土地1億6,000万円、上場株式2,000万円)、負債は1億5,000万円です。土地の時価は2億円、上場株式の時価は2,200万円とします。社長Bは議決権の60%を持つ中心的な同族株主です。
- 2026年4月1日以後相続税評価の法人税額等相当額が38%になります(それより前の取得は37%)
- 2026年7月10日 譲渡の直前所得税ではBの議決権60%で判定し、中心的な同族株主に当たります
- 同日 譲渡Bが自分の持株会社Y社に2,000株を1株4,027円で売ります
- 2027年3月15日までBが確定申告をします。時価の2分の1未満なら、時価で譲渡したものとして申告します
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税・贈与税 | 後継者(同族株主)が相続・贈与で取得 | 原則的評価方式で4,027円 |
| 贈与税 | 少数株主の従業員が1株1,000円で買う | 取得者の立場では配当還元価額1,000円が時価。差額がなく、みなし贈与の問題は生じません |
| 譲渡所得(B) | 持株会社Y社に4,027円で売る | 所得税基本通達59-6の時価は8,980円。4,027円は2分の1(4,490円)未満なので、時価で譲渡したものとみなされます |
| 法人税(Y社) | 安く買った差額 | 時価との差額は受贈益(法人税上の時価は法人税の取扱いで判定) |
相続税評価(原則的評価方式)と配当還元価額は次のとおりです。
原則的評価:3,360円×0.90+10,030円×0.10=4,027円
配当還元:10.0円÷10%×500円÷50円=1,000円
所得税の時価は、土地と上場株式を時価に置き換え、法人税額等相当額を控除せずに計算します。総資産は4億円−1億6,000万円−2,000万円+2億円+2,200万円=4億4,200万円です。Bは中心的な同族株主なので会社を小会社とみなし、Lの割合を0.50とします(類似業種比準価額は斟酌率0.6のままの3,360円)。
純資産価額:(4億4,200万円−1億5,000万円)÷2万株=14,600円
併用方式:3,360円×0.50+14,600円×0.50=8,980円
時価:14,600円と8,980円の低い方=8,980円
答え:同じX社株式が、従業員の取得なら1,000円、後継者の相続なら4,027円、社長が法人に売るなら8,980円で評価されます。相続税評価額の4,027円でY社に売ると、Bは8,980円×2,000株=1,796万円で譲渡したものとして課税されます。実際に受け取る対価は805万4,000円です。
判断の順番:評価と特例→分け方→売却・納税の時期
交差点のある相続では、次の順に決めると、取り返しのつかない選択を避けやすくなります。相続税の特例には申告期限までの要件が多い一方、売却や納税の方法には、後から選べるものが多いからです。
- ①相続税の評価と特例どの財産がいくらで課税されるかを確かめます。小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、原則として申告期限までの分割と申告が要件です
- ②分け方誰が取得するかで、特例の可否、取得費加算の額、空き家特例を使える人が変わります。換価分割では各相続人に、代償分割で自分の不動産を渡すと渡した人に譲渡所得が生じます
- ③売却・納税の時期申告期限までの居住・保有の継続、取得費加算などの期限、空き家特例の期限を並べてから、売る時期を決めます
- 死亡日相続税の評価の基準日(課税時期)
- 4か月以内準確定申告(亡くなった人の所得税)
- 10か月以内相続税の申告・納付の期限(死亡を知った日の翌日から10か月)。小規模宅地等の居住・保有の継続はここまで
- 申告期限の翌日以後3年取得費加算と、相続した自社株を会社に売るときのみなし配当課税の特例の期限(目安は相続から3年10か月)
空き家特例(被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除)は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が対象です。ただし制度の適用期限は2027年12月31日の譲渡まで期限ありで、2026年中の相続でもこの日が先に来ます。延長は令和9年度税制改正で要望されている段階です要望段階。
よくある誤り
- 「路線価で親子間の売買をすれば贈与税はかからない」:土地建物の個人間売買は通常の取引価額が基準です。差額がみなし贈与とされるおそれがあります。
- 「時価の2分の1以上で売れば安全」:2分の1は、個人が法人に売るときのみなし譲渡の基準です。個人間の「著しく低い価額」は個別に判定します。
- 「相続した土地の取得費は相続税評価額」:亡くなった人の取得費と取得時期を引き継ぎます。
- 「少数株主の価額(配当還元価額)で譲れば常に安全」:買い手が法人なら、所得税は売り手の立場で評価し直すため、みなし譲渡になることがあります。
交差点の詳しい章
専門家向け:根拠と実務論点
根拠
- 時価の意義は相続税法22条・評基通1。通達によることが著しく不適当な財産は評基通6(総則6項)によります。最判令和4年4月19日(民集76巻4号411頁)は、評価額と鑑定評価額の乖離だけでは足りず、画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反するというべき事情が必要としました。総則6項の適用は平成27〜令和6事務年度で27件(不動産13件・株式14件)です。
- 土地建物の個人間取引は負担付贈与通達(平成元年3月29日直評5・直資2-204)により通常の取引価額で評価します。著しく低い価額かは個別に判定し、所得税法59条の2分の1基準は個人間の判定基準ではありません(タックスアンサーNo.4423)。複数財産は譲渡の時ごとに一括して判定します(相基通7-1)。
- 個人から法人への贈与・低額譲渡は所法59条1項、所令169条(時価の2分の1未満)。2分の1以上でも所法157条の適用があり得ます(所基通59-3)。一の契約で複数資産を譲渡したときは合計で判定します(所基通59-4)。株価の増加部分は株主へのみなし贈与です(相法9条、相基通9-2)。
- 個人に時価の2分の1未満で譲渡し譲渡損失が生じたときは、その損失はなかったものとみなされ(所法59条2項)、譲受人は取得費を引き継ぎます(所法60条1項2号)。
- 非上場株式の所得税上の時価は、所基通23〜35共-9の順序(売買実例、公開途上、類似法人比準、純資産価額等参酌)によります。その最後の区分について、所基通59-6が評基通178〜189-7の例を4条件付きで認めています(令和2年8月28日改正で明確化)。最判令和2年3月24日(いわゆるタキゲン事件)は原判決を破棄して差し戻しました。資産課税課情報第22号(令和2年9月30日)は、小会社とみなす場合も斟酌率は実際の規模によるとしています。
- 法人税は法基通9-1-13・9-1-14・4-1-5・4-1-6で、低廉譲渡の対価は2-3-4で準用します。「課税上弊害がない限り」の条件付きで、所基通59-6のような判定時期の明文はありません。
実務論点
- 非上場株式には、土地建物の負担付贈与通達や、上場株式の評基通169(2)のような個人間取引の特則がありません。同族株主が配当還元価額で買えば、原則的評価額との差額がみなし贈与になります。
- 法人税額等相当額は取得日で38%と37%を使い分けます(評基通186-2、令和8年4月1日以後の相続・遺贈・贈与から38%)。所得税・法人税の時価では控除しません。
- 2027年以後の貸付用不動産の評価(通達案)は、評基通185の純資産価額の計算には適用しない案です。法人が持つ不動産は、従来どおり課税時期前3年以内の取得分を通常の取引価額で評価します。
実家を相続したとき:住む・貸す・売る
実家を相続した後、住み続けるか、売るか、貸すかで、相続税の特例と売るときの税金が大きく変わります。同じ家族の4つのケースで、選択による差を金額で比べます。
この章の結論
- 同居していた子が相続するなら、申告期限まで住み続けて所有し続けることで、小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減)が使えます。
- 誰も住まずに売るなら、空き家特例(最高3,000万円、家と敷地を取得した相続人が3人以上なら各2,000万円)と取得費加算のどちらか一方を選びます。2026年(令和8年)中の相続でも、空き家特例は2027年(令和9年)12月31日までの譲渡が対象です期限あり。
- 貸すと空き家特例は使えなくなり、この相続で貸付事業用宅地等の特例も使えません。
- 申告期限前に売ると、同居の子や家なき子は小規模宅地等の特例を失います。取得費加算は使えます。
共通の前提と3つの選択肢
この章では次の家族を例にします。ケースごとに「母が誰と住んでいたか」と「誰が実家を相続するか」だけを変えます。
- 相続
- 母が2026年5月12日に死亡。父は既に亡く、相続人は長男・長女・次男の3人です。相続税の申告期限は2027年3月12日です。
- 実家
- 札幌市内の土地200㎡(相続税評価額4,200万円)と木造家屋(固定資産税評価額150万円)。母が1978年(昭和53年)に土地を900万円で買い、家屋を1,200万円で建てました。
- その他
- 預金5,850万円。遺産の合計は1億200万円、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。
| 選択 | 相続税(小規模宅地等の特例) | 売るときの所得税・住民税 | 期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 住む | 同居の子は申告期限まで居住・保有すれば80%減 | 自分が住んだ家なら居住用の3,000万円控除と軽減税率 | 相続税の申告期限(10か月) |
| 売る | 同居の子・家なき子は申告期限前に売ると使えません | 空き家特例か取得費加算のどちらか | 空き家特例は2027年12月31日まで期限あり。取得費加算は申告期限の翌日以後3年 |
| 貸す | この相続では貸付事業用も使えません | 空き家特例は使えません。取得費加算は使えます | 次の相続で貸付事業用の3年ルール |
空き家特例の延長と要件の見直しは、令和9年度税制改正で国土交通省が要望している段階です要望段階。2026年10月17日時点では延長は決まっていません。
ケースA:同居の長男が相続して住み続ける
ケースA:同居の長男が相続して住み続ける
前提:長男は母と実家で同居していました。遺産分割で長男が実家(4,350万円)を、長女と次男が預金を2,925万円ずつ相続します。
- 2026年5月12日 母が死亡相続開始の直前に、長男が同じ家で母と暮らしていたことが出発点です
- 申告期限まで長男が住み続け、所有し続けます。遺産分割を終えて長男の取得を確定させます
- 2027年3月12日 申告小規模宅地等の特例を適用した申告書を出します(税額が0円でも申告が必要)
- 申告期限の後住み続けても売ってもかまいません。売るときの税金はケースDで比べます
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 特定居住用宅地等 | 同居親族が申告期限まで居住・保有すれば330㎡まで80%減。200㎡の全部が対象 |
| 相続税 | 分割と申告 | 申告期限までに分割し、特例を適用して申告することが要件 |
| 譲渡所得 | 空き家特例 | 相続開始の直前に母以外(長男)が住んでいたので使えません |
| 譲渡所得 | 将来売るとき | 長男自身が所有者として住んだ家なので、居住用の3,000万円控除・軽減税率・取得費加算を検討できます |
特例による減額は4,200万円×80%=3,360万円で、長男の課税価格は4,350万円−3,360万円=990万円になります。
| 項目 | 特例なし | 特例あり |
|---|---|---|
| 課税価格の合計 | 1億200万円 | 6,840万円 |
| 課税遺産総額 | 5,400万円 | 2,040万円 |
| 相続税の総額 | 660万円 | 204万円 |
| 長男の納付税額 | 281万4,700円 | 29万5,200円 |
| 長女・次男の納付税額(各人) | 189万2,600円 | 87万2,300円 |
相続税の総額は、特例なしが1,800万円×15%−50万円=220万円の3人分で660万円です。特例ありは680万円×10%=68万円の3人分で204万円です。各人の税額は、総額を課税価格の割合で分け、100円未満を切り捨てています。
答え:長男が申告期限まで住み続けて所有し続けると、相続税の総額は660万円から204万円に下がります。総額が下がるので、長女と次男の税額も1人約102万円下がります。
同居かどうかは、住民票ではなく生活の拠点で判断します。国税庁の質疑応答事例には、同居していた相続人が申告期限前に転勤した例があります。配偶者や子が住み続け、転勤が終われば戻る家であれば、居住を続けているものとして扱われます。
ケースB:誰も住まずに3人で売る
ケースB:誰も住まずに3人で売る(換価分割)
前提:母は一人暮らしで、3人とも持ち家に住んでいます(小規模宅地等の特例は使えません)。全財産を3人で3分の1ずつ取得し、実家は売って代金を分けます(換価分割)。各人の課税価格は3,400万円、相続税は各220万円です。2027年に家屋を取り壊し(費用180万円)、更地を4,500万円で売ります(仲介手数料等150万円)。
- 2026年5月12日 母が死亡相続開始の直前、家には母だけが住んでいました。その後も誰も使いません
- 2027年3月12日まで換価分割の遺産分割協議をし、持分を各3分の1として相続登記。相続税を申告します
- 2027年中家屋を取り壊して更地で売却・引渡し。札幌市に被相続人居住用家屋等確認書を申請します
- 2028年(令和10年)3月15日まで3人がそれぞれ確定申告をし、空き家特例か取得費加算のどちらかを選びます
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 小規模宅地等の特例 | 配偶者・同居親族・家なき子がいないので使えません |
| 譲渡所得 | 空き家特例の家屋の要件 | 1981年(昭和56年)5月31日以前の建築、区分所有登記なし、母の一人暮らし。すべて満たします |
| 譲渡所得 | 控除の上限 | 家屋と敷地の両方を取得した相続人が3人なので各人2,000万円(2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡)施行中 |
| 譲渡所得 | 期限と金額 | 2027年12月31日までの譲渡で、譲渡対価は3人の合計で1億円以下 |
| 譲渡所得 | 取得費加算との関係 | 同じ土地にはどちらか一方。各人が自分の持分について選びます |
家屋の取得費は、1,200万円×0.9×0.031×49年が取得価額の95%(1,140万円)を超えるため、残りは60万円です。取り壊した家屋の取得費の残りは、取壊し費用とともに譲渡費用になります。1人分(3分の1)の譲渡益は次のとおりです。
収入1,500万円−土地の取得費300万円−譲渡費用130万円(取壊し60万円+家屋の取得費の残り20万円+仲介手数料等50万円)=1,070万円
| 項目 | 空き家特例 | 取得費加算 |
|---|---|---|
| 差し引ける額 | 1,070万円 | 90万5,882円 |
| 課税される譲渡所得 | 0円 | 979万4,000円 |
| 所得税・復興特別所得税・住民税 | 0円 | 198万9,600円 |
取得費加算額は220万円×(土地1,400万円÷課税価格3,400万円)=90万5,882円です。税額は、979万4,000円に所得税15%と復興特別所得税(計149万9,900円)、住民税5%(48万9,700円)をかけたものです。税率はどちらも同じなので、比べるのは差し引ける額の大きさです。
答え:3人とも空き家特例を選ぶと税額は1人0円で、取得費加算より3人で約597万円少なくなります。仮に長男1人が相続して売ると、譲渡益3,210万円から3,000万円を引いた210万円に課税され、税額は42万6,600円です。この例では、3人で持分を分けて売る方が有利です。
ケースC:相続した実家を賃貸に出す
ケースC:長女が相続した実家を賃貸に出す
前提:母は一人暮らしでした。長女が実家(4,350万円)を、長男と次男が預金を相続します。長女は持ち家に住んでいるので家なき子に当たらず、小規模宅地等の特例は使えません。
長女の相続税は281万4,700円です。長女は2026年秋から実家を賃貸に出しました。
- 2026年5月12日 母が死亡相続開始の時点では母の住まい(居住用)でした
- 2026年秋 賃貸開始空き家特例の「相続から売るまで貸していない」要件を満たさなくなります
- 2027年3月12日 申告相続開始の時点で貸していないので、貸付事業用宅地等の特例は使えません
- 将来 売る・相続売るなら取得費加算は2030年(令和12年)3月12日まで。長女の相続では貸付事業用宅地等の3年ルールが問題になります
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 小規模宅地等の特例 | 特定居住用は長女が同居親族でも家なき子でもないので不可。貸付事業用は相続開始時に貸していないので不可 |
| 譲渡所得 | 空き家特例 | 相続から売るまでに貸したので不可(無償で貸した場合も不可) |
| 譲渡所得 | 居住用の3,000万円控除 | 長女が所有者として住んだことがないので不可 |
| 譲渡所得 | 取得費加算 | 2030年3月12日までに売れば使えます |
| 次の相続 | 長女が亡くなったとき | 貸家・貸家建付地として評価が下がります。貸付事業用宅地等は、貸し始めてから3年以内なら原則使えません |
空き家特例を失う重さを、同じ条件(1人で相続し、更地にして4,500万円で売る。譲渡益3,210万円)で比べます。貸さずに2027年中に売れば、空き家特例で税額は42万6,600円です。貸した後に売ると取得費加算しか使えません。加算額は281万4,700円×(4,200万円÷4,350万円)=271万7,641円で、税額は596万8,900円になります。
答え:貸すと、売るときの税額がこの例では約554万円増えます。家賃収入でその差を上回れるか、更地で売るときに必要になり得る立退料(譲渡費用になります)も含めて比べてから決めます。
補足:同居の子や家なき子が貸す場合
同居していた子が申告期限前に引っ越して貸すと、居住の継続要件を満たさず特定居住用宅地等は使えません。家なき子は申告期限までの保有だけが要件なので、他の要件を満たしていれば、貸しても特例を使えます。親が老人ホームに入っている間に実家を貸すと、居住用としての小規模宅地等の特例(80%減)も空き家特例も使えなくなります。貸した部分が貸付事業用宅地等に当たるかは、3年以内の貸付けの制限を含めて別に判定します。
ケースD:申告期限前に売りたい
ケースD:同居の長男が申告期限前に売りたい
前提:ケースAの長男が、2027年2月(申告期限の前)に実家を家屋付きで4,500万円で売る場合と、申告期限の後に売る場合を比べます。仲介手数料等は150万円で、売るまで長男が住んでいます。取得費は土地900万円と家屋の残り60万円なので、譲渡益は3,390万円です。
- 2026年5月12日 母が死亡長男が同居。遺産分割で長男が実家を取得します
- 2027年2月 売却・引渡し申告期限前に手放すと、同居親族の保有継続要件を満たしません
- 2027年3月12日 申告小規模宅地等の特例なしで相続税を計算します
- 2028年3月15日まで2027年分の確定申告で、居住用の3,000万円控除・軽減税率・取得費加算を使います
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 小規模宅地等の特例 | 申告期限まで保有していないので不可(配偶者が取得した場合は売っても可) |
| 譲渡所得 | 取得費加算 | 相続税の申告前の譲渡でも使えます |
| 譲渡所得 | 居住用の3,000万円控除 | 長男が所有者として住んでいたので使えます。取得費加算と併用できます |
| 譲渡所得 | 軽減税率 | 所有期間は母の取得(1978年)から数えて10年超。6,000万円以下の部分は14.21% |
| 項目 | 申告期限前に売る | 申告期限後に売る |
|---|---|---|
| 相続税(3人の合計) | 659万9,900円 | 203万9,800円 |
| 取得費加算額(長男) | 281万4,699円 | 29万5,199円 |
| 譲渡所得の税(長男) | 15万4,100円 | 51万2,060円 |
| 合計 | 675万4,000円 | 255万1,860円 |
取得費加算額は、長男の相続税額を土地と家屋の価額で割り振った合計です。譲渡所得の税は、3,390万円から取得費加算額と3,000万円を引いた残り(1,000円未満切捨て)に税率をかけたものです。税率は所得税10%・復興特別所得税・住民税4%です。
答え:申告期限の後に売る方が、家族全体で約420万円少なくなります。差のほとんどは小規模宅地等の特例の有無です。急いで売りたい場合でも、売るのを申告期限の後にできないか先に検討します。
実務のコツ:取得費加算と申告の順番
売った年の確定申告期限までに相続税の申告が済んでいないと、取得費加算を入れられません。その場合は加算なしで確定申告をし、その後に相続税を期限内に申告した日の翌日から2か月以内に更正の請求をします。相続税を先に申告すれば、最初の確定申告から加算できます。
よくある誤り
- 「空き家特例は相続から3年以内」:相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が対象です。さらに制度の適用期限(2027年12月31日)内であることも必要です。
- 「空き家特例と取得費加算は両方使える」:同じ土地・家屋ではどちらか一方です。最初の申告で空き家特例を選ばなかった譲渡に、後から適用することはできません。
- 「親の家を売れば居住用の3,000万円控除が使える」:売る人が所有者として住んでいた家に限られます。住んでいなければ空き家特例を検討します。
- 「税額が0円になるから相続税の申告は不要」:小規模宅地等の特例は、申告して初めて使えます。
交差点の詳しい章
専門家向け:根拠と実務論点
根拠
- 特定居住用宅地等は措法69条の4第3項2号。同居親族は相続開始の直前から申告期限まで居住を継続し、申告期限まで保有することが要件です。家なき子の相続後の要件は申告期限までの保有だけで、配偶者には取得者ごとの要件がありません。申告期限までの分割が必要で、未分割なら申告期限後3年以内の分割見込書を添付します。
- 空き家特例は措法35条3項・4項。令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を取得した相続人が3人以上なら2,000万円です(人数は取得時で判定、措通35-9の6)。相続時から譲渡時まで事業・貸付け・居住に使わないことが必要で、無償の貸付けや一時的な利用も認められません(措通35-16)。1億円の判定は他の相続人の譲渡分も合算し(措法35条6項・7項)、当初申告で適用しなかった譲渡に後から適用はできません(措通35-18)。
- 取得費加算は措法39条・措令25条の16。相続税額は納付税額に贈与税額控除等を足し戻した額で、配偶者の税額軽減は足し戻しません。分母は債務控除前の課税価格、分子は小規模宅地等の減額後の価額で、資産ごとに譲渡益を限度とします。所得税の確定申告期限後に相続税を申告した場合の更正の請求は措法39条4項1号です。
- 居住用の3,000万円控除(措法35条1項)と取得費加算の併用は、同条2項の適用除外に39条が含まれないことによります。相続人が所有者として住んだことのない家屋には使えません(質疑応答事例)。軽減税率(措法31条の3)の10年超は、相続で取得した資産について被相続人の取得日から判定します。
- 未分割の遺産を換価した場合は、原則として法定相続分で申告します。確定申告期限までに代金を分割し、全員がその割合で申告すればそれも認められ、その後に分割が確定しても更正の請求・修正申告はできません(質疑応答事例)。
実務論点
- 空き家特例の適用では、合計所得金額は特別控除前の譲渡益で判定するため、扶養控除などの判定に影響することがあります。取得費加算は譲渡所得そのものを減らします。
- 札幌市の確認書(都市局建築指導部、郵送または持参)は、申請書を相続人全員の分出します(様式1-3のチェックシートによる)。電気・ガス・水道の使用中止日が分かる書類が必要で、札幌市水道局は使用廃止届出書を発行していないため、閉栓時の領収書などで代替します。
- 老人ホーム入所中に実家を貸すと、特定居住用宅地等としての小規模宅地等の特例(入所後の貸付け・新たな居住者がある部分は対象外)も、空き家特例(入所中の貸付け)も使えません。貸した部分を貸付事業用宅地等として使えるかは、3年以内貸付宅地等の除外を含めて別に判定します(措通69の4-24の3以下)。
賃貸アパート・マンションを持っているとき
賃貸物件は相続税の評価が下がります。一方で、空室、買った時期、贈与の仕方、法人への移し方によって、相続税・贈与税・譲渡所得・株式評価が連動して変わります。4つのケースで、どこに落とし穴があるかを確かめます。
この章の結論
- 相続したアパートは、土地が貸家建付地、建物が貸家として評価が下がり、さらに貸付事業用宅地等の特例(200㎡まで50%減)が使えます。空室の管理と、相続前3年以内の貸付けかどうかで結果が変わります。
- 5年以内に買った賃貸物件は、2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から、原則として通常の取引価額で評価する通達案が公表されています通達案。2026年(令和8年)10月17日時点では案の段階です。
- ローン付きのアパートの贈与は負担付贈与になり、通常の取引価額から負担額を引いた額に贈与税、贈与した親には譲渡所得がかかります。
- 法人化では、建物を時価で売り、土地の貸し方(相当の地代・無償返還の届出)を決めます。株式の評価と小規模宅地等の特例の扱いも変わります。
共通の例と4つの場面
この章では次のアパートを共通の例にします。父が2006年(平成18年)に自分の土地に建てた木造2階建て8室のアパートで、各室の床面積は同じです。
- 土地
- 240㎡。路線価20万円(奥行価格補正などは1.00と仮定)で、自用地の価額は4,800万円。借地権割合60%、借家権割合30%です。
- 建物
- 固定資産税評価額1,500万円。自分で使う家屋の評価は固定資産税評価額×1.0です。
| 場面 | 主な税金 | 評価・課税の基準 | 主な落とし穴 |
|---|---|---|---|
| 相続(ケースA) | 相続税 | 貸家建付地・貸家+貸付事業用宅地等 | 長期の空室、相続前3年以内の貸付け |
| 5年以内に購入(ケースB) | 相続税・贈与税 | 2027年以後は通常の取引価額通達案 | 購入直後の相続では評価があまり下がりません |
| 生前贈与(ケースC) | 贈与税・譲渡所得 | ローン付きなら通常の取引価額−負担額 | 親に譲渡所得。贈与した土地に小規模宅地等は使えません |
| 法人化(ケースD) | 譲渡所得・法人税・相続税(株式) | 建物は時価で売買、土地は貸宅地 | 低額売買のみなし譲渡、借地権の扱い |
ケースA:相続でアパートを引き継ぐ
ケースA:父のアパートを長男が相続する
前提:父が2026年に死亡し、長男がアパートと土地を相続して賃貸を続けます。父は10年以上前から貸しており、相続開始の時は満室です。
- 相続開始その時点の賃貸の状況(満室か、空室があるか)で評価が決まります
- 申告期限まで長男が賃貸を引き継いで続け、土地を持ち続けます(貸付事業用宅地等の要件)
- 申告期限(10か月)特例を適用した申告書を出します
- 申告期限の翌日以後3年以内売るなら取得費加算を使えます
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税(評価) | 土地 | 貸家建付地:自用地の価額−自用地の価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合 |
| 相続税(評価) | 建物 | 貸家:固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合) |
| 相続税(特例) | 貸付事業用宅地等 | 申告期限まで賃貸を続け、保有すれば200㎡まで50%減 |
| 相続税(特例) | 相続前3年以内の貸付け | 3年以内に新たに貸し始めた土地は、3年を超える事業的規模の貸付けがなければ対象外 |
| 譲渡所得 | 相続後に売る | 取得費は父の取得費(建物は減価償却後)を引き継ぎ、取得費加算も使えます |
満室の場合の計算は次のとおりです。
土地:4,800万円−4,800万円×60%×30%×100%=3,936万円
建物:1,500万円×(1−30%×100%)=1,050万円
特例:3,936万円×200㎡÷240㎡×50%=1,640万円の減額
課税価格に入る額:(3,936万円−1,640万円)+1,050万円=3,346万円
8室のうち2室が長く空いたまま、募集もしていなかった場合は、賃貸割合が75%になり、空室部分の土地60㎡は特例の対象から外れます。
土地:4,800万円−4,800万円×60%×30%×75%=4,152万円
建物:1,500万円×(1−30%×75%)=1,162万5,000円
特例:賃貸部分180㎡の価額2,952万円×50%=1,476万円の減額
課税価格に入る額:(4,152万円−1,476万円)+1,162万5,000円=3,838万5,000円
答え:満室なら、自用の場合の土地と建物の合計6,300万円が3,346万円まで下がります。2室の長期空室があると3,838万5,000円になり、課税価格が492万5,000円増えます。
空室が「一時的」と認められる基準は、評価と特例で別々です。評価(貸家建付地の賃貸割合)では、継続して貸してきたか、退去後すぐ募集したか、空室期間が例えば1か月程度かなどを総合して判断します。特例では、空室の直後から不動産業者を通じて募集するなど、いつでも入居できる状態にしていれば対象に含めます。
相続開始前3年以内に建てて貸し始めたアパートは、注意が必要です。亡くなった人が3年を超えて事業的規模の貸付けをしていれば、特例を使えます。事業的規模は所得税の形式基準ではおおむね5棟10室以上で、8室だけでは届きません。
ケースB:5年以内に買った賃貸マンション
ケースB:2026年に買った賃貸マンションを持ったまま亡くなる
前提:父が2026年1月に、新築の一棟賃貸マンション(土地付き)を1億円(土地4,000万円・建物6,000万円)で買いました。代金は全額を借入れでまかない、すぐに貸し始めました。現行の評価は、土地の路線価による評価を購入価格の80%、建物の固定資産税評価額を購入価格の60%と仮定し、満室とします。通達案の評価は、地価の変動なし、鉄筋コンクリート造(耐用年数47年、定額法の償却率0.022)、経過年数2年と仮定します。
- 2026年1月 購入引渡しの時から5年の期間を数えます
- 2026年12月31日までの相続・贈与現行の評価(路線価・固定資産税評価額、貸家建付地・貸家)です
- 2027年1月1日以後で購入から5年以内通達案では原則として通常の取引価額。取得価額をもとにした額の80%も選べます
- 購入から5年を超えた後通達案の対象から外れ、現行と同じ評価方法になります
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税・贈与税(評価) | 2027年以後の評価 | 5年以内に対価を払って取得・新築した貸付用不動産は通常の取引価額(案)。取得価額が取得時の通常の取引価額と認められれば、土地は取得価額×地価変動率、建物は取得価額−償却費の、それぞれ80%も可 |
| 相続税(評価) | 貸家建付地・貸家の減額 | 通達案は土地・家屋の評価の定めによらずに評価するため、重ねては使えないと解されています |
| 相続税(特例) | 小規模宅地等の特例 | 法律の特例なので通達案では制限されません。ただし貸し始めてから3年以内の相続は、3年を超える事業的規模の貸付けがなければ使えません |
| 相続税(債務) | 借入金 | 残高は債務控除できますが、借入れそのものは節税になりません |
現行:土地4,000万円×80%×(1−60%×30%)=2,624万円、建物6,000万円×60%×(1−30%)=2,520万円、計5,144万円
通達案:土地4,000万円×1.00×80%=3,200万円、建物(6,000万円−6,000万円×0.022×2年)×80%=4,588万8,000円、計7,788万8,000円
借入金1億円を差し引いた正味は、現行が5,144万円−1億円=−4,856万円です。通達案では7,788万8,000円−1億円=−2,211万2,000円になります。
答え:同じマンションでも、評価額は購入価格の約51%(現行)から約78%(通達案)に上がり、他の財産から差し引かれる額は約2,645万円縮みます。2026年中の相続は現行の評価ですが、総則6項による否認のリスクは残ります。
通達案は2026年9月18日に公表され、意見公募の締切は10月18日です。最終的な内容や制定日(経過措置の基準日)は、国税庁の公表で確認が必要です。大綱では、通達で定める日の5年前から持っている土地に、その日までに建てた(建築中を含む)建物は対象外とされています。区分所有のマンションの1室を買って貸す場合も、5年以内の取得なら、いまのマンション評価(区分所有補正率)より通達案が優先する案です。
ケースC:アパートを子に生前贈与する
ケースC:ケースAのアパートを生前に長男へ贈与する
前提:父(65歳)が2026年中に、ケースAのアパートを長男(40歳)に贈与します。土地・建物の通常の取引価額は8,000万円、借入金の残高は5,000万円です。父の取得費(土地の購入価額と建物の未償却残高)は3,500万円で、長期譲渡所得になるものとします。満室での相続税評価額は土地3,936万円・建物1,050万円で、敷金の預かりはないものとします。
- 2026年中 贈与の契約ローンを長男が引き受けるか、建物だけを贈与するかで課税が分かれます
- 2027年2月1日〜3月15日長男が贈与税の申告をします。相続時精算課税を選ぶなら、この期間に届出書も出します
- 2027年3月15日までローン付きの贈与なら、父が譲渡所得の確定申告をします
- 父の相続精算課税の贈与財産は、贈与時の価額(2024年(令和6年)以後の贈与は年110万円の基礎控除後施行中)で相続税に加算します
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 贈与税 | ローン付きで贈与(負担付贈与) | 土地・建物は通常の取引価額で評価し、負担額を引きます。8,000万円−5,000万円=3,000万円が課税価格 |
| 譲渡所得(父) | ローン付きで贈与 | 負担額5,000万円で売ったものとされ、取得費3,500万円との差1,500万円に課税 |
| 贈与税 | 建物だけを贈与 | 負担がなければ建物は相続税評価額(貸家1,050万円)。贈与後の家賃は長男のもの |
| 相続税 | 贈与した土地・残した土地 | 贈与(精算課税を含む)で取得した土地に小規模宅地等の特例は使えません。父に残した土地を長男に無償で貸すと、評価と特例に影響します |
ローン付き・暦年課税:(3,000万円−110万円)×45%−265万円=1,035万5,000円
ローン付き・精算課税:(3,000万円−110万円−2,500万円)×20%=78万円
建物だけ・暦年課税:(1,050万円−110万円)×30%−90万円=192万円
建物だけ・精算課税:1,050万円−110万円=940万円は特別控除2,500万円の範囲内なので0円
ローン付きの贈与では、父に5,000万円−3,500万円=1,500万円の譲渡所得が生じます。税額は所得税と復興特別所得税で229万7,200円、住民税75万円の計304万7,200円です。建物だけを精算課税で贈与して贈与税が0円になる場合も、特別控除を使うには期限内の申告が必要です。
建物だけを贈与すると、その後の家賃は長男に入り、父の財産として積み上がりません。例えば手取りの家賃が年400万円なら、10年で4,000万円が父の相続財産に加わらずに済みます。
一方、父に残る土地を長男に無償で貸す(使用貸借)場合、土地は原則として自用地として評価されます。贈与の前から入居している借家人がいる場合の評価は、個別に確認が必要です。父の相続で貸付事業用宅地等の特例が使えるのも、長男が父と生計を一にしている場合などに限られます。
答え:「評価額4,986万円からローン5,000万円を引けばゼロ」は誤りです。ローン付きの贈与では3,000万円に贈与税、父に1,500万円の譲渡所得がかかります。建物だけを精算課税で贈与すれば、贈与税0円で家賃を長男に移せますが、土地の評価と特例への影響を合わせて比べます。
敷金を預かっている場合、敷金を返す義務だけを長男に引き継がせると負担付贈与になり、建物は通常の取引価額で評価され、父に譲渡所得が生じ得ます。敷金と同じ額の現金も一緒に贈与すれば、負担付贈与通達は適用されないという国税庁の質疑応答事例があります。
ケースD:建物を法人に移して家賃収入を法人へ
ケースD:アパートの建物を同族会社に売る
前提:父と長男が出資して会社を作り、父がケースAの建物を会社に売ります。建物の時価は2,000万円(未償却残高と同額)と仮定します。土地は父が持ち続けて会社に貸します。
- 会社を設立父と長男が株主になります
- 建物を時価で売却父に譲渡所得が生じます(この例では時価と取得費が同じで譲渡益0円)。会社には登録免許税・不動産取得税がかかります
- 土地の賃貸借相当の地代を受け取るか、地代を受け取りつつ「土地の無償返還に関する届出書」を出します
- その後家賃は会社に入り、役員報酬として家族に分けることができます
- 父の相続土地は貸宅地として評価し、建物は会社の株式の評価に含まれます
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 譲渡所得(父) | 建物の売却価格 | 時価で売るのが基本。時価の2分の1(1,000万円)未満なら時価で売ったものとみなされます。2分の1以上でも同族会社の行為計算否認の余地があります |
| 法人税 | 安く買った場合 | 時価との差額は会社の受贈益 |
| 相続税(土地の評価) | 会社に貸した土地 | 相当の地代を受け取るか、無償返還の届出をして地代を受け取れば自用地の80%。無償返還の届出をした使用貸借なら自用地のまま |
| 相続税(特例) | 小規模宅地等の特例 | 相当の対価を受け取っていれば、会社の貸付事業に使う土地として貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の対象。相続開始前3年以内の貸付けの制限も判定します。無償なら対象外 |
| 相続税(株式) | 会社の株式の評価 | 純資産価額では、3年以内に取得した建物は通常の取引価額。土地の20%相当額も純資産価額に入ります。法人税額等相当額は38%施行中 |
| 贈与税 | 会社に安く売った場合 | 株価が上がった分は他の株主(長男)へのみなし贈与 |
土地(無償返還の届出・地代あり):4,800万円×80%=3,840万円
株式の評価に入る額:4,800万円×20%=960万円
特例を使う場合:3,840万円×200㎡÷240㎡×50%=1,600万円の減額
答え:父の相続では、土地は3,840万円(特例の適用後は2,240万円)で、残りの960万円は会社の株式の評価に含まれます。建物は会社の財産になり、取得から3年以内は通常の取引価額で株価に反映されます。家賃が会社に入るので、父の財産が積み上がるのを抑えられます。
2027年以後に予定される貸付用不動産の評価見直し(通達案)は、会社が持つ不動産(株式の純資産価額の計算)には適用しない案です。会社の不動産は、従来どおり3年以内に取得したものを通常の取引価額で評価します。役員報酬は、定期同額給与などの要件を満たし、不相当に高額でなければ会社の損金になります。純資産価額で控除する法人税額等相当額は、2026年4月1日以後の相続・贈与から38%(それより前は37%)です。
よくある誤り
- 「貸家建付地は30%減」:土地の減額は借地権割合×借家権割合×賃貸割合で、借地権割合60%・満室なら18%減です。30%減は建物(貸家)の方です。
- 「全室空いていても貸家建付地」:課税時期に誰にも貸していない貸家とその敷地は、自用の家屋・土地として評価します。
- 「ローン付きで贈与すれば評価額からローンを引ける」:負担付贈与は通常の取引価額から負担額を引きます。親には譲渡所得もかかります。
- 「貸付用不動産の評価はもう改正された」:2026年10月17日時点では通達案で、適用は2027年1月1日以後の相続・贈与からの予定です。
交差点の詳しい章
専門家向け:根拠と実務論点
根拠
- 貸家建付地は評基通26、貸家は評基通93。借家権割合は札幌国税局の令和8年分財産評価基準書で30%です。評価上の一時的な空室は、質疑応答事例の5つの要素(継続的な賃貸、速やかな募集、他用途への不使用、空室期間、課税時期後の賃貸)で総合判断します。
- 貸付事業用宅地等は措法69条の4第3項4号。空室は、いつでも入居可能な状態で募集していれば貸付事業用に含めます(措通69の4-24の2)。相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使った宅地等は除外し、3年を超えて特定貸付事業を行っていた場合は除外しません(平成30年4月1日以後の相続、措通69の4-24の3〜24の8)。事業的規模は所基通26-9を参照します。
- 貸付用不動産は「貸付用不動産の評価について(法令解釈通達)(案)」(2026年9月18日公表、10月18日締切)。評基通第2章〜第4章とマンション通達の定めにかかわらず評価する構成で、評基通185の純資産価額の計算には適用しません。収用・交換・特定の買換え等による取得は、課税上弊害がない限り除外します。
- 負担付贈与は負担付贈与通達(平成元年3月29日直評5・直資2-204)と相基通21の2-4、贈与者の譲渡所得はタックスアンサーNo.4426。賃貸アパートと同時に敷金相当額の現金を贈与した場合の質疑応答事例では、負担付贈与通達を適用せず、贈与者に譲渡所得も生じないとしています。
- 相続時精算課税は相法21条の9〜21条の16。贈与者は贈与年の1月1日に60歳以上、受贈者は18歳以上の子・孫で、令和6年1月1日以後の贈与は年110万円の基礎控除があります。贈与で取得した宅地等には小規模宅地等の特例は適用されません。
- 使用貸借の土地は使用貸借通達(昭和48年11月1日直資2-189)により自用地として評価します。相当の地代・無償返還の届出は昭和60年6月5日課資2-58ほか、20%相当額の株式評価への算入は昭和43年10月28日直資3-22によります。
- 使用借人がその土地を賃貸建物の敷地として使っていても、借家人の敷地利用権は使用借人の敷地利用権に従属するとして、自用地の価額で評価した裁決があります(昭和61年12月2日裁決、裁決事例集No.32 269頁)。建物の贈与の前から入居している借家人がいる場合の扱いは、個別に確認します。
実務論点
- 評価上の一時的な空室と特例上の空室は、根拠と基準が別です。募集の広告、仲介の依頼、入退去の日付などの記録を残します。
- 通達案の最終版と制定日は未確定で、経過措置の基準日も決まっていません。最終の通達で文言や数値が変わる可能性があります。
- 法人化での建物の譲渡は、時価の2分の1未満ならみなし譲渡(所法59条1項2号、所令169条)、2分の1以上でも所基通59-3の余地があります。
土地を売って相続税を払う・分ける
相続した土地を売ると、相続税と譲渡所得税(売って得た利益にかかる所得税・住民税)の両方が関わります。売る時期・売る土地・売る人の名義で税額が変わるため、売る前に順番を決めておきます。
この章の結論
- 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(目安は相続開始から3年10か月)に売れば、取得費加算が使えます。納めた相続税の一部を取得費に加えるので譲渡所得税が軽くなり、相続税の申告前に売っても使えます。
- 兄弟で分けるとき、換価分割(売って代金を分ける)なら各自に譲渡所得税、代償分割(1人が取得して代償金を払う)なら代償金の工面が課題です。代償金の代わりに自分の不動産を渡すと、渡した人に譲渡所得税がかかります。
- 遺産分割の前に売るときは、共有で相続登記をして全員で売ります。代金の分け方は所得税の確定申告期限までに決めます。期限後に決めても、法定相続分で申告した所得税は直せません。
売る前に決める3つのこと
相続税は、亡くなった日の評価額で計算します。後で土地をいくらで売っても、相続税の額は変わりません。一方、譲渡所得税は売った値段から、亡くなった人の取得費(買った値段など)を差し引いて計算します。相続人は取得費と所有期間を引き継ぎます。
- どの土地を売るか:小規模宅地等の特例(自宅や事業用の土地の評価額を最大80%減らす特例)は、配偶者が自宅の土地を取得する場合を除き、申告期限まで持ち続けることが要件です。納税資金のために売るなら、特例を使わない土地から選びます。
- いつ売るか:取得費加算は、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの売却が対象です。亡くなる前に売った分は対象になりません。
- 誰の名義で売るか:遺産分割の前の土地は相続人全員の共有です。売るには相続登記が必要です。
納税資金のために相続した土地を売る
相続税を払う現金が足りないときの主な手段は、土地を売る・延納(分割払い)・物納(財産で納める)の3つです。売る場合は、取得費加算で譲渡所得税を軽くできます。
ケースA:長男が相続した駐車場を申告期限前に売る
父が2026年(令和8年)2月10日に亡くなりました。相続人は長男と長女です。遺産は自宅3,000万円と預金2,000万円(長女が取得)、青空の月極駐車場5,000万円(長男が取得)で、金額は相続税評価額です。
小規模宅地等の特例を使う土地はないものとします。駐車場は、父が約40年前に1,500万円で買った土地です。長男は納税資金がないため、駐車場を売ります。
- 2026年2月10日父が亡くなります(相続開始)。
- 2026年9月駐車場を6,000万円で売却し、引き渡します(仲介手数料など200万円)。
- 2026年12月10日相続税の申告・納付の期限です。長男は売却代金から385万円を納めます。
- 2027年(令和9年)3月15日2026年分の確定申告で取得費加算を適用します(計算明細書を添付)。
- 2029年(令和11年)12月10日取得費加算を使える売却の期限です。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 相続税の総額770万円を、課税価格の割合で分ける | 長男385万円・長女385万円。売った値段は相続税に影響しない |
| 譲渡所得 | 取得費と所有期間 | 父から引き継ぐ。取得費1,500万円、所有は5年超なので長期譲渡(税率20.315%) |
| 譲渡所得 | 取得費加算 | 長男の財産は駐車場だけなので、相続税385万円の全額が加算される |
相続税:課税価格の合計1億円−基礎控除4,200万円=5,800万円、各2,900万円×15%−50万円=385万円、総額770万円
取得費加算:385万円×(駐車場5,000万円÷長男の課税価格5,000万円)=385万円
課税長期譲渡所得:6,000万円−1,500万円−200万円−385万円=3,915万円
所得税(15%)は587万2,500円、復興特別所得税(所得税の2.1%)は12万3,322円で、合わせて599万5,800円(100円未満切捨て)です。住民税(5%)は195万7,500円です。
譲渡所得税は合計795万3,300円です。取得費加算を使わない場合の873万5,400円より、78万2,100円少なくなります。
取得費加算の額は「その人の相続税額×売った土地の相続税の課税価格に入れた額÷その人の課税価格(債務控除前)」です。土地以外の財産も多く相続した人ほど、加算額は小さくなります。所得税の確定申告期限までに相続税の申告が済んでいないときは、加算なしで所得税を申告します。そして相続税を期限内に申告した日の翌日から2か月以内に、更正の請求をします。
| 方法 | 主な条件 | 税金・コスト |
|---|---|---|
| 売却 | 申告期限までに代金を受け取れること | 譲渡所得税(取得費加算で軽減)、仲介手数料 |
| 延納 | 税額10万円超、金銭で納めるのが困難、担保の提供(延納税額100万円以下かつ3年以下なら不要)、申告期限までに申請 | 利子税。不動産等の割合が75%以上なら、不動産等に係る部分は最長20年・年0.6%(2026年の特例割合。それ以外の部分は年0.9%) |
| 物納 | 延納でも納められない金額が限度。物納に適した財産であること(共有の不動産などは不可) | 譲渡所得税は原則としてかからない。収納価額は原則として相続税評価額(小規模宅地等の特例を使った土地は減額後の価額) |
延納は利子税が低い一方、土地を持ち続けたまま後で売ると、取得費加算の期限(ケースAでは2029年12月10日)を過ぎることがあります。物納した土地は売ったものとはされず、原則として譲渡所得税はかかりません。ただし、納める価額は相続税評価額です。路線価は地価公示価格等の80%程度を目安に定められるので、時価で売れる土地は売却と比べてから決めます。
注意:特例の対象になる土地を申告期限前に売らない
舗装した貸駐車場やアパートの敷地は、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等:200㎡まで50%減)の対象になることがあります。この特例は、申告期限まで貸付けを続け、土地を持ち続けることが要件です。申告期限前に売ると特例は使えません。構築物のない青空駐車場は、もともと特例の対象外です。
兄弟で土地を分けられない:換価分割と代償分割
1つの土地を兄弟で分けるには、売って代金を分ける換価分割と、1人が土地を取得して他の相続人にお金を払う代償分割があります。相続税の総額は同じですが、譲渡所得税とお金の工面が違います。
ケースB:母の土地を兄弟でどう分けるか
母が亡くなりました(父は既に死亡)。相続人は兄と弟です。遺産は土地(相続税評価額6,400万円・時価8,000万円)と預金1,600万円です。
土地は母が約30年前に2,400万円で買いました。時価の合計9,600万円を半分ずつ分けたいと考えています。
- 遺産分割協議換価か代償かを決め、協議書に書きます(相続税の申告期限までが目安)。
- 換価分割なら共有で相続登記をして売却し、代金を2分の1ずつ取得します。翌年の確定申告で兄弟がそれぞれ申告します。
- 代償分割なら兄が土地を取得し、弟に代償金3,200万円を払います。兄は預金や借入れで財源を先に確保します。
- 相続税の申告期限(10か月)取得割合に応じて、各自が相続税を申告・納付します。
| 税目 | 論点 | 換価分割(8,000万円で売却、費用250万円) | 代償分割(兄が土地を取得) |
|---|---|---|---|
| 相続税 | 各人の課税価格と税額 | 各4,000万円で各235万円 | 代償金を時価で決めたので、課税価格に入れる代償金を2,560万円に引き直せる。兄3,840万円で225万6,000円、弟4,160万円で244万4,000円 |
| 譲渡所得 | 誰に課税されるか | 兄弟がそれぞれ2分の1ずつ申告。各自が取得費加算を使える | 現金で払えば譲渡はない。兄が自分の不動産で払うと、兄に時価で譲渡所得 |
| 譲渡所得 | 将来売るときの取得費 | (売却済み) | 代償金3,200万円は兄の取得費にならない。母の取得費2,400万円を引き継ぐ |
相続税の総額:8,000万円−4,200万円=3,800万円、各1,900万円×15%−50万円=235万円、2人で470万円
換価分割の取得費加算(1人分):235万円×(土地3,200万円÷課税価格4,000万円)=188万円
課税長期譲渡所得(1人分):4,000万円−取得費1,200万円−費用125万円−188万円=2,487万円
代償金の引直し:3,200万円×(評価額6,400万円÷時価8,000万円)=2,560万円
換価分割では、兄弟それぞれに相続税235万円と譲渡所得税505万2,300円(所得税・復興特別所得税380万8,800円、住民税124万3,500円)がかかります。代償分割では譲渡所得税はかかりませんが、兄は3,200万円を用意する必要があります。
代償金は、原則として額そのものを兄の課税価格から引き、弟の課税価格に加えます(兄3,200万円・弟4,800万円)。土地の時価を基に代償金を決めたときは、上のように相続税評価額の水準に引き直せます。
兄が代償金の代わりに、自分の土地(時価3,200万円・取得費1,000万円・所有5年超)を渡すと、兄がその土地を3,200万円で売ったものとされます。譲渡益2,200万円に446万9,300円の税金がかかります。弟の取得費は3,200万円、取得日は受け取った日です。兄が後で相続した土地を売る場合、取得費加算の額は代償金の分を調整して計算します(取得費加算の章)。
遺産分割の前に売る必要がある
買い手が見つかった、管理が負担などの理由で、協議がまとまる前に売ることがあります。この場合は、法定相続分で相続登記をして、共有者全員がそれぞれの持分を売る形にします。相続登記は、取得を知った日から3年以内の申請が義務です施行中。
ケースC:協議がまとまる前に空き地を売る(相続人3人)
父が2026年3月20日に亡くなりました。相続人は子3人で、法定相続分は各3分の1です。空き地を2026年8月に売り、代金は代表者の口座で預かります。ほかの遺産の分け方で協議が続いています。
- 2026年3月20日父が亡くなります。空き地は3人の共有(各3分の1)になります。
- 2026年7月法定相続分で相続登記をします(登録免許税は固定資産税評価額の0.4%)。相続人申告登記だけでは売れません。
- 2026年8月3人が売主となって売却し、引き渡します。
- 2027年1月20日相続税の申告期限です。分割前なら法定相続分で計算して申告します。
- 2027年3月15日所得税の確定申告期限です。それまでに代金を分ければ、全員がその割合で申告できます。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 誰がどの割合で申告するか | 原則は法定相続分(各3分の1)。2027年3月15日までに代金を分け、全員がその割合で申告すれば、その割合でよい |
| 譲渡所得 | 申告後に分け方が決まった | 法定相続分で申告した後に代金を分けても、更正の請求も修正申告もできない |
| 譲渡所得 | 取得費加算 | 相続税額がある人が、それぞれ自分の持分について計算する |
| 相続税 | 申告期限までに分割できない | 法定相続分で申告する。分割後、税額が減る人は4か月以内に更正の請求、増える人は修正申告 |
代金の分け方を決める目標日は、所得税の確定申告期限(2027年3月15日)です。協議書には「売却代金から費用を差し引いた残りを、長男2分の1、二男と三男が各4分の1の割合で取得する」のように換価分割の内容を書きます。
分割前の申告では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例はそのままでは使えません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、3年以内に分割すれば、分割の日の翌日から4か月以内の更正の請求で適用できます。当面の葬儀費用などが目的なら、預金の払戻し制度(相続開始時の残高×3分の1×法定相続分、1金融機関150万円まで)で足りることもあります。
よくある誤り
- 「取得費加算は相続から3年以内」:正しくは、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです(目安は3年10か月)。
- 「相続した土地の取得費は相続税評価額」:亡くなった人の取得費と取得時期を引き継ぎます。所有期間も亡くなった人が取得した日から数えます。
- 「払った代償金は土地の取得費になる」:なりません。将来売るときの取得費は、亡くなった人の取得費です。
- 「分け方が決まってから所得税を直せばよい」:確定申告期限を過ぎてから代金を分けても、法定相続分で申告した内容は直せません。
他の税金・手続との関係
専門家向け:根拠と実務論点
- 取得費加算:措法39条1項・2項(申告要件)・6項、措令25条の16第1項。相続税額は納付税額に贈与税額控除・相次相続控除・相続時精算課税の贈与税額控除を足し戻した額で、配偶者の税額軽減は足し戻しません。分母は生前贈与加算・精算課税の財産を含む債務控除前の課税価格、分子は課税価格算入額(小規模宅地等の適用宅地は減額後)。資産ごとに計算し、譲渡益が限度(措通39-5)。
- 申告前の譲渡は、申告書の提出時に確定した税額によります(措令25条の16第1項1号、措通39-1)。所得税の確定申告期限後に相続税を期限内申告した場合は、提出日の翌日から2か月以内に更正の請求(措法39条4項1号)。相続税の修正申告・更正後は修正後の税額で計算(措令25条の16第2項)。
- 相続税の申告期限が土日祝日に当たる場合に、取得費加算の期限をどの日から数えるかは個別に確認します。期限間際の譲渡は避けます。
- 代償分割:代償財産の交付は履行時の時価による譲渡(所基通33-1の5)、受領者は時価で取得(38-7(2))、代償債務は取得費に不算入(38-7(1))。課税価格は相基通11の2-9・11の2-10(No.4173:評価額4,000万円・時価5,000万円・代償金2,000万円なら代償財産1,600万円。全員の協議による合理的な方法も可)。代償金を支払って取得した資産の取得費加算は措通39-7で調整。
- 換価分割:質疑応答事例(未分割遺産の換価)。所得税の確定申告期限までに代金が分割され、全員がその割合で申告すれば認められます。期限後の代金分割では譲渡所得に異動が生じず、更正の請求・修正申告はできません。
- 未分割申告:相続税法55条、分割後は32条1項1号(4か月)・31条1項。小規模宅地等(措法69条の4)・配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)は分割見込書の添付が前提。
- 延納・物納:相続税法38条・41条ほか、利子税の特例は措法93条(2026年の延納特例基準割合1.3%)。物納の収納価額は課税価格計算の基礎となった価額。共有不動産は管理処分不適格財産。相続人申告登記(不動産登記法76条の3)は持分を公示せず、売却には相続登記が必要。払戻し制度は民法909条の2。
- 物納の許可を受けて物納した財産は、所得税法32条・33条の適用上、譲渡がなかったものとみなされます(措法40条の3)。超過物納(相続税法41条1項後段)では、非課税は納付を困難とする金額に相当する部分に限られます。過誤納金として還付される超過部分は譲渡所得の課税対象で、措法31条の2・39条の適用がありうるとされています(国税庁質疑応答事例)。
自社株を後継者に渡すとき
自社株(非上場株式)は、贈与・売買・相続後の会社への売却のどれを選ぶかで、かかる税金も株価の決め方も変わります。後継者以外の家族への配慮も、税金とは別に必要です。
この章の結論
- 贈与するなら、事業承継税制の特例措置で贈与税・相続税の全額を猶予できます。計画の提出は2027年(令和9年)9月30日まで、贈与・相続は同年12月31日までが期限です期限あり。期限後の扱いは2026年(令和8年)10月時点で決まっていません。
- 持株会社など法人に売るときの値段は、相続税評価額ではなく所得税基本通達59-6の時価が基準です。その2分の1未満で売ると、時価で売ったものとして売り手に課税されます。
- 相続した株を会社に買い取ってもらう場合、原則はみなし配当(配当所得として累進税率で課税)です。相続税の申告期限の翌日以後3年以内などの要件を満たせば、譲渡所得(20.315%)になります。取得費加算(納めた相続税の一部を取得費に加える特例)も使えます。
- 後継者に生前贈与した株も、遺留分(兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の取り分)の計算に入ることがあり、価額は相続開始時で評価されます。民法特例の合意や種類株式で備えます。
4つの渡し方と株価の基準
同じ会社の株でも、相続税評価額・配当還元価額・所得税の時価で値段が違います(一物多価)。どの値段を使うかは、渡し方と相手で決まります。
| 渡し方 | 主な税金 | 株価の基準 |
|---|---|---|
| 生前贈与(暦年課税・相続時精算課税) | 後継者に贈与税 | 相続税評価額 |
| 事業承継税制で贈与・相続 | 贈与税・相続税を猶予し、要件を満たせば免除 | 相続税評価額 |
| 後継者・持株会社に売る | 売り手に譲渡所得税(20.315%) | 法人へは所得税基本通達59-6の時価。個人間で安すぎるかは相続税評価額で判定 |
| 相続後に会社へ売る(金庫株) | 原則はみなし配当(総合課税)。特例で譲渡所得 | 所得税基本通達59-6の時価 |
相続税評価額は、株を取得した人の議決権で評価方式を決めます。所得税の時価は、売った人の売る直前の議決権で判定します。視点が逆なので、相続税評価額で売れば安全とは限りません。
生前に贈与する:事業承継税制の特例措置を使うか
株価の高い会社の株を一度に贈与すると、贈与税は大きくなります。事業承継税制の特例措置は、要件を満たす後継者が取得した自社株について、贈与税・相続税の全額を猶予する制度です期限あり。
ケースA:父(68歳・代表取締役)が長男(35歳・取締役)に全株を贈与
札幌市の製造業A社(中小企業者・非上場・従業員20人)は、父が株式の100%を持ち、相続税評価額は3億円です。父は2026年10月に代表取締役を退き(取締役として残る)、長男が代表取締役に就任します。11月に全株を長男に贈与します。
- 贈与の前株価を試算し、特例承継計画を作って北海道に提出します(認定経営革新等支援機関の指導・助言が必要。提出期限は2027年9月30日)。
- 2026年10月父が代表取締役を退き、長男が就任します。
- 2026年11月全株を贈与します(特例の贈与は2027年12月31日まで)。
- 2027年1月15日まで北海道知事の認定を申請します(窓口は経済部地域経済局中小企業課)。
- 2027年2月1日〜3月15日贈与税を申告し、株式の全部を担保に提供します。
- その後5年間毎年、北海道に年次報告、税務署に継続届出書を出します。6年目以降も3年ごとに継続届出書を出します。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 暦年課税か精算課税か | 暦年課税(特例税率)なら1億5,799万5,000円、精算課税なら5,478万円。特例措置ならどちらも全額猶予 |
| 贈与税 | 猶予が取り消された場合 | 猶予税額と利子税を納める。精算課税なら納める額が小さく、納めた分は相続税から控除される |
| 相続税 | 父が亡くなったとき | 贈与税は免除。株は贈与時の価額(3億円)で相続したものとされ、切替えの確認を受ければ相続税も猶予 |
| 株式評価 | 贈与の時期 | 評価額が低い時期の贈与ほど、猶予税額も相続時に加算される価額も小さい |
暦年課税:(3億円−110万円)×55%−640万円=1億5,799万5,000円
精算課税:(3億円−110万円−2,500万円)×20%=5,478万円
特例措置の要件を満たせば、申告期限までに納める贈与税は0円です。ただし5年間は長男が代表者を続け、株を持ち続ける必要があります。
猶予は免除ではありません。5年間の経営承継期間内に長男が代表者を退く、株を譲渡するなどすると、猶予税額と利子税を納めます。後継者の要件は、贈与の日に18歳以上、贈与の時に代表者、贈与の直前に役員であることなどです。
役員退職金の支給などで利益と純資産が下がると、類似業種比準価額は下がります。仮に評価額が2億5,000万円の時点で精算課税により贈与すれば、猶予がない場合の贈与税は(2億5,000万円−110万円−2,500万円)×20%=4,478万円です。相続時に加算される価額も2億5,000万円で固定されます。ただし過大な退職金は損金にならず、利益と配当がゼロになると純資産価額中心の評価に変わることがあります。
特例措置の期限後のあり方は令和9年度税制改正で結論を得るとされ、経済産業省などは「抜本見直し」を要望しています要望段階。一般措置(対象は株式の3分の2まで、相続は猶予割合80%、5年平均で雇用8割の維持が必要)は期限なく使えます。非上場株式の評価方法も、国税庁の有識者会議で見直しが検討されています検討中(適用時期は未定)。
後継者や持株会社に売る:所得税の時価に注意
売れば先代は代金を受け取れます。ただし値段の基準は買い手で変わります。持株会社など法人に売るときは、所得税基本通達59-6の時価が基準です。
ケースB:代表者が持株会社に株の一部を相続税評価額で売る
X社の社長(議決権60%・中心的な同族株主)が、2026年7月に後継者の持株会社Y社へX社株2,000株を、相続税評価額の1株4,027円で売ります。X社は交差点の考え方と一物多価の整理表のケースBと同じ会社で、1株当たりの類似業種比準価額は3,360円です。社長の取得費は1株500円とします。
- 売る前社長の売る直前の議決権で株主区分を判定し、59-6の時価を計算します。
- 価格の決定時価の2分の1以上か、同族会社の行為計算否認の余地はないかを確かめます。
- 売買・代金の決済Y社が時価より安く買えば、差額は受贈益として法人税の対象になります。
- 翌年3月15日まで社長が譲渡所得を申告します(分離課税20.315%)。
59-6の純資産価額:土地・上場株式を時価に置き換え、法人税額等相当額を控除せず14,600円
小会社とみなした併用方式:類似業種比準価額3,360円×0.5+14,600円×0.5=8,980円(純資産価額より低いので、これが時価)
時価の2分の1:8,980円÷2=4,490円。売値4,027円はこれを下回る
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 法人への低額譲渡 | 時価で売ったものとされ、収入金額は8,980円×2,000株=1,796万円(実際の代金は805万4,000円) |
| 法人税 | Y社の受け入れ | 時価との差額は受贈益 |
| 贈与税 | Y社の株主 | Y社の株価が上がった分は、社長から株主への贈与とされることがある |
社長の譲渡所得は1,796万円−取得費100万円=1,696万円で、税額は344万5,400円です。実際の代金で計算した143万3,000円の約2.4倍になります。1株4,490円以上で売ればこの課税は避けられますが、同族会社の行為計算否認の余地は残ります。
最高裁令和2年3月24日判決は、譲渡所得の時価は売った人の会社への支配力に応じて評価すべきとして、買った側を基準に配当還元価額を時価とした高裁判決を破棄し、差し戻しました。この判決を受けて、2020年(令和2年)8月に通達59-6の文言が明確化されています。
後継者個人に売る場合、売り手に時価で売ったとみなす規定はありません。ただし時価より著しく低い値段なら、差額に後継者の贈与税がかかります。このときの時価は、買い手の取得後の議決権で判定した相続税評価額です。
相続した株を会社に買い取ってもらい納税する
相続税の納税資金が足りないとき、相続した自社株を発行会社に買い取ってもらう方法があります(いわゆる金庫株)。原則はみなし配当として累進税率で課税されますが、相続税を納める相続人には特例があります。
ケースC:長男が相続したZ社株を会社に売る
父が2025年(令和7年)8月1日に亡くなり、長男がZ社株10,000株(相続税評価額1株15,000円)を相続しました。長男の課税価格(債務控除前)は3億円、相続税額は6,000万円です。父の取得価額は1株500円、Z社の1株当たりの資本金等の額は1,000円です。長男は2026年4月、Z社に4,000株を1株20,000円(8,000万円)で売ります。
- 2025年8月1日父が亡くなります。
- 2026年4月(譲渡の時まで)特例の届出書をZ社経由で税務署に出します。相続税の申告前なら見積額で書けます。
- 2026年4月Z社が4,000株を取得し、代金を支払います。
- 2026年6月1日相続税の申告・納付の期限です。売却代金で納めます。
- 翌年1月31日までZ社が届出書と取得の明細を税務署に出します。
- 2027年3月15日長男が譲渡所得を申告し、取得費加算を適用します。
- 2029年(令和11年)6月1日特例と取得費加算を使える譲渡の期限です。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 所得税(特例なし) | みなし配当 | 8,000万円−資本金等400万円=7,600万円が配当所得(総合課税)。Z社が20.42%(1,551万9,200円)を源泉徴収 |
| 所得税(特例あり) | 相続財産の株を発行会社に売った場合の特例 | みなし配当とせず、8,000万円の全額が譲渡収入。分離課税20.315% |
| 所得税 | 取得費加算 | 6,000万円×(15,000円×4,000株÷3億円)=1,200万円を加算 |
| 相続税 | 特例の前提 | 納めるべき相続税額があること。基礎控除以下や配偶者の税額軽減で相続税がゼロの人は使えない(贈与税額控除でゼロになった人は、控除を足し戻した相続税額で判定) |
譲渡所得:8,000万円−取得費200万円(500円×4,000株)−取得費加算1,200万円=6,600万円
税額:所得税990万円+復興特別所得税20万7,900円+住民税330万円=1,340万7,900円
特例を使うと、税負担は1,340万7,900円で確定します。特例がなければ7,600万円が他の所得と合算され、累進税率で課税されます。
会社法では、会社が買い取れる額は分配可能額の範囲内とされ、特定の株主から買うには株主総会の特別決議などが必要とされます。手続は専門家と確認します。買取価格が所得税基本通達59-6の時価の2分の1未満なら、時価で売ったものとされる点にも注意します。
後継者以外の相続人への配慮:遺留分
税金の対策が整っても、家族の間の公平の問題は残ります。後継者への生前贈与のうち、相続開始前10年以内の特別受益に当たるものは遺留分の計算に入り、価額は相続開始時で評価されます。
ケースD:贈与後に株価が上がり、長女の遺留分を侵害する
父は5年前に長男へ自社株を贈与しました(当時の評価額1億円)。父が亡くなった時、その株は2億円に上がっていました。残りの財産4,000万円は長女が相続します。相続人は長男と長女です(母は既に死亡)。
合意をしなかった場合と、贈与の直後(株価1億円の時点)に民法特例の合意をしていた場合を比べます。
- 贈与の後(父の生前)推定相続人全員と後継者で、民法特例の合意を書面で結びます。後継者は、贈与で取得した株式で議決権の過半数を持ち、代表者になっていることが必要です。
- 合意から1か月以内後継者が経済産業大臣の確認を申請します。
- 確認から1か月以内家庭裁判所に許可を申し立てます。許可で合意の効力が生じます。
- 相続開始後遺留分侵害額の請求権は、知った時から1年、相続開始から10年で消えます。
| 税目・法律 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 民法(合意なし) | 長女の遺留分 | (2億円+4,000万円)×2分の1×2分の1=6,000万円。取得した4,000万円との差2,000万円を長男に金銭で請求できる |
| 民法(除外合意) | 株を算定の基礎から除く | 4,000万円×4分の1=1,000万円。侵害なし |
| 民法(固定合意) | 株を合意時の1億円に固定 | (1億円+4,000万円)×4分の1=3,500万円。侵害なし |
| 相続税 | 株の価額 | 精算課税・事業承継税制で贈与した株は、贈与時の1億円で計算 |
遺留分は相続開始時の価額、相続税は贈与時の価額で計算するため、株価が上がるほど差が開きます。固定合意は、株価の上昇が見込まれる場合に効果が大きい合意です。
民法特例の合意は、後継者が先代からの贈与などで株式を取得した後に結びます。後継者は合意の時に代表者で、その株式により議決権の過半数を持っている必要があります。合意の対象外の株式だけで議決権の過半数を持っている場合は使えません。会社は、合意の時点で3年以上事業を続けている非上場の中小企業者であることが必要です。
種類株式を使い、後継者以外の相続人に無議決権株式、後継者に議決権株式を渡す方法もあります。無議決権株式も原則として議決権の有無を考慮せずに評価されるため、財産は分けつつ経営権を集められます。ただし事業承継税制の対象は議決権に制限のない株式だけで、拒否権付株式(黄金株)を後継者以外が持つと使えません。
よくある誤り
- 「相続税評価額で売れば安全」:法人に売るときは所得税基本通達59-6の時価が基準です。中心的な同族株主が売る場合は小会社とみなすなど計算が異なり、ケースBのように相続税評価額より高くなることがあります。
- 「事業承継税制の特例措置は延長された」:令和8年度改正で延びたのは計画の提出期限(2027年9月30日)だけです。贈与・相続の期限は2027年12月31日のままです。
- 「会社に買い取ってもらえば譲渡所得になる」:相続税額がある相続人が期限内に売り、届出書を出した場合に限ります。それ以外はみなし配当です。
- 「生前に贈与すれば遺留分と無関係」:相続人への10年以内の特別受益に当たる贈与は、相続開始時の価額で計算に入ります。
他の税金・手続との関係
専門家向け:根拠と実務論点
- 事業承継税制:特例は措法70条の7の5(贈与)・70条の7の6(相続)・70条の7の7・70条の7の8(特例贈与者の死亡)です。精算課税の特例は70条の2の8、計画の提出期限は円滑化省令17条2項(令和8年度改正)です。同じ会社で一般措置と特例措置は併用できません。後継者の「贈与の直前に役員」の要件は、2025年(令和7年)1月1日以後の贈与から適用されています。
- 猶予税額:暦年課税は株式のみを取得したとして計算した贈与税、精算課税は(価額−110万円−2,500万円)×20%。利子税は本則3.6%で、2026年の割合から計算すると年0.6%。経営承継期間の経過後に納付する場合は期間中の利子税が0%。担保は対象株式の全部の提供で足ります。
- 所基通59-6の4条件(令和2年8月28日改正)は次の4つです。①譲渡直前の議決権で判定、②中心的な同族株主なら小会社とみなす、③土地・上場有価証券は譲渡時の価額、④評価差額の法人税額等相当額は控除しない。資産課税課情報第22号により、小会社とみなしても類似業種比準価額の斟酌率は実際の規模によります。最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号)は破棄差戻しです。
- 法人への低額譲渡:所法59条1項2号・所令169条。2分の1以上でも所法157条の適用余地(所基通59-3)。株主へのみなし贈与は相法9条・相基通9-2(4)。個人間は相法7条(評基通・取得者基準)。
- 金庫株:みなし配当は所法25条1項5号・所令61条2項6号。特例は措法9条の7・措令5条の2(届出は譲渡の時まで、会社は翌年1月31日まで提出)、取得費加算(措法39条)と併用可(国税庁タックスアンサー1477)。
- 遺留分:民法1042条〜1048条(1044条3項で相続人への贈与は10年以内の特別受益に限る)。民法特例は円滑化法4条・7条・8条。種類株式の評価は平成19年2月26日文書回答(無議決権株式の5%評価減の選択は、相続・遺贈で同族株主が取得し要件を満たす場合)。
生前贈与と相続を比べる
生前贈与が相続より有利かどうかは、相続税に足し戻されるか、どの時点の価額で課税されるか、相続でしか使えない特例を失わないかで決まります。4つのケースで確かめます。
この章の結論
- 暦年贈与の足し戻しは、2026年(令和8年)中の相続なら3年分です。2027年(令和9年)以後の相続から段階的に延び、2031年(令和13年)以後の相続で7年分になります。足し戻されるのは、相続・遺贈(死亡保険金の受取りを含む)や相続時精算課税で財産を取得した人への贈与です。
- 自宅の土地を贈与すると、相続時精算課税でも暦年課税でも小規模宅地等の特例(80%減)は使えません。登録免許税も、相続の0.4%に対して贈与は2%です。
- 住宅取得等資金の非課税(最高1,000万円)は2026年12月31日までの贈与が対象です期限あり。2026年10月時点で延長は決まっていません。
比べるときの物差し
贈与した財産は、贈与税で終わるとは限りません。暦年課税の贈与は一定期間の分が、相続時精算課税(以下、精算課税)の贈与は全部が、贈与した人の相続税の計算に足し戻されます。
| 物差し | 暦年課税の贈与 | 精算課税の贈与 | 相続 |
|---|---|---|---|
| 相続税への足し戻し | 相続・遺贈で財産を取得した人への、加算期間内の贈与(110万円以下も) | 選択後の全部(年110万円の基礎控除部分を除く) | ― |
| 課税される価額 | 贈与時の価額 | 贈与時の価額 | 亡くなった日の価額 |
| 小規模宅地等の特例 | 使えない | 使えない | 要件を満たせば使える |
| 納めた贈与税 | 相続税から控除(還付なし) | 相続税から控除(引ききれない分は還付) | ― |
| 不動産の登録免許税 | 2% | 2% | 0.4% |
孫への暦年贈与:保険金の受取人にすると足し戻される
相続人でない孫への暦年贈与は、孫が相続や遺贈で何も取得しなければ、相続税に足し戻されません。ところが孫を死亡保険金の受取人にすると、孫は遺贈で財産を取得した人になり、加算期間内の贈与が足し戻されます。
ケースA:孫に3年間贈与した祖父が亡くなった
祖父は孫(25歳)に、2023年(令和5年)から2025年(令和7年)まで毎年3月に310万円を贈与しました。孫は毎年20万円の贈与税(特例税率)を納めています。祖父は2026年2月10日に亡くなり、相続人の長男と長女が遺産1億2,000万円を6,000万円ずつ相続します。祖父が保険料を負担した死亡保険金500万円の受取人が、長男の場合と孫の場合を比べます。
- 2023年〜2025年の毎年3月孫に310万円を贈与します。(310万円−110万円)×10%=20万円の贈与税を申告・納付します。
- 2026年2月10日祖父が亡くなります。加算期間は相続開始前3年以内(2023年2月10日以後の贈与)です。
- 2026年12月10日相続税の申告期限です。孫が保険金を受け取ったら、孫も申告します。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 孫への贈与930万円の足し戻し | 受取人が長男なら孫は何も取得せず、加算なし。受取人が孫なら加算 |
| 相続税 | 保険金の非課税(500万円×法定相続人の数) | 相続人の長男なら1,000万円まで非課税。孫は相続人でないので使えない |
| 相続税 | 2割加算 | 孫(代襲相続人でない)は算出税額の2割を加算 |
| 贈与税 | 納めた60万円 | 加算されれば相続税から控除。加算されなければ、そのまま |
受取人が長男:1億2,000万円−4,200万円=7,800万円、各3,900万円×20%−200万円=580万円、総額1,160万円
受取人が孫:1億2,000万円+孫1,430万円(保険金500万円+贈与930万円)=1億3,430万円、−4,200万円=9,230万円、各4,615万円×20%−200万円=723万円、総額1,446万円
孫:1,446万円×1,430万円÷1億3,430万円=153万9,672円、2割加算で184万7,606円、贈与税額控除60万円を引き124万7,600円(100円未満切捨て)
長男・長女:各1,446万円×6,000万円÷1億3,430万円=646万163円→646万100円
受取人を孫にすると、家族全体の相続税は1,160万円から1,416万7,800円へ、256万7,800円増えます。
遺言で孫に遺贈する場合や、養子にした孫が相続する場合も、孫は加算の対象になります。反対に、亡くなった年に贈与を受け、相続や遺贈で何も取得しない孫は、その贈与がその年分の贈与税の対象になります。
自宅の土地を精算課税で贈与する
精算課税は、年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除の範囲なら贈与税がかからず、価額が贈与時で固定されるため、値上がりする財産の移転に向きます。しかし自宅の土地は、相続で取得すれば小規模宅地等の特例で評価額が80%減ることがあり、贈与するとこれを失います。
ケースB:同居の長男に自宅の土地を贈与するか、相続させるか
母(70歳)は自宅で長男(45歳)と同居しています。自宅の土地は330㎡以内で相続税評価額4,000万円、ほかの財産は預金6,000万円です(建物は省略)。相続人は長男と長女です。相続の場合、長男が申告期限まで住み続けて土地を持ち続け、特定居住用宅地等として80%減額できる前提とします。
- 贈与する年(2026年)長男が精算課税を選び、2027年3月15日までに届出書と申告書を出して贈与税278万円を納めます。
- 名義の変更贈与の登記の登録免許税は固定資産税評価額の2%です。不動産取得税の対象にもなります。
- 母の相続土地は贈与時の価額から基礎控除を引いた3,890万円で足し戻します。小規模宅地等の特例は使えません。
- 贈与せず相続した場合課税価格は4,000万円×20%=800万円です。相続登記の登録免許税は0.4%で、不動産取得税はかかりません。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 精算課税の贈与税 | (4,000万円−110万円−2,500万円)×20%=278万円。相続税から控除し、引ききれなければ還付 |
| 相続税 | 課税価格に入る土地の額 | 贈与なら3,890万円(特例なし)、相続なら800万円(特例あり) |
| 相続税 | 相続税の総額 | 贈与なら753万5,000円、相続なら290万円 |
| 登録免許税など | 名義を移すコスト | 贈与は2%と不動産取得税。相続は0.4%で、不動産取得税なし |
相続:800万円+6,000万円=6,800万円、−4,200万円=2,600万円、各1,300万円×15%−50万円=145万円、総額290万円
贈与:3,890万円+6,000万円=9,890万円、−4,200万円=5,690万円、各2,845万円×15%−50万円=376万7,500円、総額753万5,000円
この家族では、自宅の土地を精算課税で贈与すると、相続税の総額が463万5,000円増えます。固定資産税評価額が2,800万円なら、登録免許税も相続の11万2,000円に対し、贈与では56万円かかります。
反対に、小規模宅地等の特例を使える人がいない土地や、値上がりが見込まれる土地・収益物件では、贈与時の価額で固定する効果が生きることがあります。ただし値下がりしても贈与時の価額で足し戻され、精算課税で取得した財産は物納にも充てられません。精算課税を一度選ぶと、その人からの贈与は暦年課税に戻せません。
住宅取得等資金の非課税と暦年・精算課税の組合せ
父母や祖父母から住宅の新築・購入資金をもらう場合、2026年12月31日までの贈与なら、省エネ等住宅で1,000万円(それ以外は500万円)まで非課税です期限あり。非課税を超える部分には、暦年課税か精算課税を組み合わせます。
ケースC:父から1,500万円をもらって省エネ住宅を新築する
子(30歳、2026年の合計所得金額600万円)が、2026年中に父から1,500万円をもらいます。そのお金でZEH水準(断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上)の住宅を新築します。
- 2026年12月31日まで贈与(振込)を終えます。2027年以後の贈与は、延長されなければ対象外です。
- 2027年2月1日〜3月15日贈与税を申告します(非課税の範囲内でも必要)。精算課税を選ぶなら届出書も出します。
- 2027年3月15日まで資金の全額で新築し、居住します(または遅滞なく居住することが確実)。新築は屋根のある状態まで、建売・マンションは引渡しが必要です。
- 2027年12月31日までこの日までに住んでいなければ、原則として修正申告が必要です。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 贈与税(非課税) | 非課税の上限 | 省エネ等住宅で1,000万円。受贈者1人につき(贈与者ごとではない) |
| 贈与税(暦年課税) | 残り500万円 | (500万円−110万円)×15%−10万円=48万5,000円 |
| 贈与税(精算課税) | 残り500万円 | 基礎控除110万円の後の390万円を特別控除で0円(特別控除の残りは2,110万円) |
| 相続税 | 父の相続で足し戻すか | 非課税の1,000万円は足し戻さない。精算課税なら390万円、暦年課税なら加算期間内の場合に500万円(3年より前の贈与は100万円控除あり)を足し戻す |
非課税と精算課税の組合せなら贈与税は0円、暦年課税との組合せなら48万5,000円です。精算課税を選ぶと、父からのその後の贈与はすべて精算課税になります。
非課税の主な要件は、受贈者が贈与の年の1月1日に18歳以上の子・孫であること、床面積が40㎡以上240㎡以下であることなどです。所得要件は、贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満なら1,000万円以下)です。配偶者の父母からの贈与(養子縁組がある場合を除く)、家そのものの贈与、住宅ローンの返済資金は対象外です。
住宅取得等資金なら、父母が60歳未満でも精算課税を選べる特例もあります(同じく2026年12月31日まで)。延長の有無は令和9年度税制改正で決まり、国土交通省が「所要の措置」を要望しています要望段階。
毎年の贈与と7年加算の経過措置
暦年贈与の足し戻し期間は、贈与した時期ではなく、亡くなった日で決まります施行中。同じ贈与を続けていても、相続開始の年によって足し戻す額が変わります。
ケースD:父が長男に2024年(令和6年)から毎年110万円を贈与
父は長男に、2024年から毎年1月15日に110万円を贈与しています。贈与税はかからず、申告も不要です。長男は父の相続で財産を取得するものとし、父が亡くなった日(いずれも6月15日)ごとに足し戻す額を比べます。
- 2026年12月31日までの相続相続開始前3年以内の贈与を足し戻します。
- 2027年1月1日〜2030年(令和12年)12月31日の相続2024年1月1日以後の贈与を足し戻します。3年より前の分は、合計から100万円を引きます。
- 2031年1月1日以後の相続7年以内の贈与を足し戻します。3年より前の分は、合計から100万円を引きます。
| 税目 | 論点 | 2026年に死亡 | 2029年(令和11年)に死亡 | 2032年(令和14年)に死亡 |
|---|---|---|---|---|
| 相続税 | 加算期間 | 2023年6月15日以後 | 2024年1月1日以後 | 2025年6月15日以後 |
| 相続税 | 3年以内の贈与 | 330万円 | 330万円 | 330万円 |
| 相続税 | 3年より前の贈与 | なし | 330万円−100万円=230万円 | 440万円−100万円=340万円 |
| 相続税 | 足し戻す額 | 330万円 | 560万円 | 670万円 |
| 贈与税 | 申告 | 不要 | 不要 | 不要 |
同じ毎年110万円の贈与でも、足し戻す額は330万円・560万円・670万円と変わります。2032年の例では、2025年1月までの贈与は足し戻しません。
贈与はその都度契約し、受贈者が自分の口座で管理します。最初に「10年間毎年100万円」のように総額と期間を約束すると、約束した年に定期金の権利の贈与として課税されます。子の名義の預金でも、資金の出所・管理の状況・贈与の事実から、親の財産とされることがあります。
よくある誤り
- 「年110万円以下の贈与なら相続税と関係ない」:加算期間内の暦年贈与は、110万円以下でも足し戻します。足し戻さないのは、精算課税の年110万円の基礎控除部分です。
- 「孫への贈与は足し戻されない」:孫が死亡保険金や遺贈を受けると足し戻され、2割加算もかかります。
- 「すでに7年加算が始まっている」:2026年中の相続は3年です。延び始めるのは2027年1月1日以後の相続からです。
- 「住宅取得等資金の非課税は延長された」:2026年10月時点では未定です。
他の税金・手続との関係
専門家向け:根拠と実務論点
- 加算期間:相続税法19条、令和5年改正法附則19条。延長部分の100万円控除は相続開始日が2027年1月2日以後の場合に生じます(No.4161)。加算対象者は相続・遺贈・精算課税で財産を取得した者(相基通19-3)。相続人以外が受け取った死亡保険金は遺贈により取得したものとみなされます(相続税法3条)。
- 相続開始年の贈与:財産を取得した者は贈与税の課税価格に算入しません(相続税法21条の2第4項)。取得しない者は贈与税の対象(相基通21の2-3)。
- 2割加算は相続税法18条(孫養子は原則対象、代襲相続人は対象外=相基通18-3)。保険金の非課税は相続人が受け取った分に限られます(相続税法12条、No.4114)。暦年課税分の贈与税額控除に還付はありません。
- 精算課税:相続税法21条の9〜21条の16、年110万円の基礎控除は21条の11の2(同じ年に複数の特定贈与者がいれば按分)。加算は贈与時の価額(相基通21の15-2)。小規模宅地等の特例は相続・遺贈で取得した宅地等が対象で、贈与で取得した宅地等には精算課税でも適用がありません(措法69条の4、措通69の4-1)。精算課税の適用財産は物納に充てられません(相続税法41条)。
- 登録免許税は所有権移転で贈与2%・相続0.4%(登録免許税法別表第一、No.7191)。相続による不動産の取得は不動産取得税が非課税(地方税法73条の7第1号)。
- 住宅取得等資金:措法70条の2(2026年12月31日までの贈与)。精算課税の年齢要件の特例は措法70条の3(同日まで。床面積40㎡以上で上限なし、所得要件なし)。非課税部分は生前贈与加算の対象外(No.4508の質疑応答、No.4161)。
- 定期金:最初に総額・期間を約束した場合は、約束した年に定期金に関する権利の贈与(No.4402の質疑応答)。
配偶者の相続と二次相続
夫婦の一方が亡くなったときの分け方は、残された配偶者が亡くなる「二次相続」まで通して考えると、家族全体の税負担が大きく変わります。この章では、遺産の分け方、配偶者居住権、夫婦間の自宅の贈与の3つを数値で比べます。
この章の結論
- 配偶者の税額軽減を目いっぱい使って配偶者に全部を相続させると、二次相続で子の税が増え、合計では不利になることがあります。設例では、配偶者に全部(合計4,018万円)より配偶者に26%(合計2,198万円)の方が1,820万円少なくなりました。
- 配偶者居住権は配偶者の死亡で消え、そのとき贈与税はかかりません。消えた権利は二次相続で相続される財産にならないと解されており、自宅の価値の一部を二次相続の課税対象から外せます。一方、合意解除や放棄で消すと課税されます。
- 婚姻20年以上の夫婦間の自宅の贈与(贈与税の配偶者控除)は生前贈与加算の対象外ですが、小規模宅地等の特例が使えず、登録免許税・不動産取得税の負担が増えます。相続で渡す場合と比べてから選びます。
二次相続で何が変わるか
最初の相続(一次相続)で配偶者が多く取得すると、その財産は配偶者の相続(二次相続)で子に引き継がれ、もう一度相続税の対象になります。二次相続では、一次相続と比べて次の3点が不利に変わります。
- 相続人が1人減るので、基礎控除(税金がかからない枠)が600万円減ります。子2人なら3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。
- 配偶者の税額軽減(配偶者が取得した遺産が1億6,000万円と法定相続分の多い方までなら税がかからない制度)が使えません。
- 法定相続分が子に集中するため、速算表の高い税率がかかりやすくなります。
一次相続の「相続税の総額」は、実際の分け方に関係なく決まります。分け方で変わるのは、誰がいくら納めるかだけです。配偶者の取得分を100万円増やすと、一次では子の税が100万円×一次の実効税率(相続税の総額÷課税価格の合計額)だけ減ります。二次では、100万円×二次の限界税率(速算表の税率)だけ税が増えます。
そのため、二次の限界税率が一次の実効税率より低いうちは配偶者に多く、上回ったら子に多く分ける方が合計は小さくなります。配偶者の取得額が軽減の上限を超えると、一次の税はそれ以上減らず、二次の税だけが増えます。
ケースA:配偶者に全部か、子にも分けるか
ケースA:夫の遺産2億円を妻と子2人で分ける
夫の遺産は、債務・葬式費用・特例を反映した正味の課税価格で2億円です。妻自身の財産は1,000万円、相続人は妻と子2人です。二次相続は一次から10年超後に起き、それまで妻の財産は増えも減りもしないと仮定します。一次で妻が納めた税は、二次の遺産から差し引きます。
- 夫の死亡(一次相続)相続税の総額は分け方に関係なく2,700万円です。妻の取得割合を決めます。
- 10か月以内に申告配偶者の税額軽減は、申告と遺産分割(または申告期限後3年以内の分割見込書の添付)が条件です。
- 妻の生活期間生活費・介護費の支出や資産の値上がりで、二次の遺産額が変わります。
- 妻の死亡(二次相続)相続人は子2人です。基礎控除は4,200万円で、配偶者の税額軽減はありません。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税(一次) | 配偶者の税額軽減の上限 | 2億円×2分の1=1億円と1億6,000万円の多い方。妻の取得が1億6,000万円以下なら妻の税は0 |
| 相続税(二次) | 基礎控除と税率 | 基礎控除4,200万円。妻の遺産が6,200万円を超えると、超えた部分に15%以上の税率 |
| 相続税(二次) | 相次相続控除 | 一次で妻が税を納めていなければ控除は0 |
一次の総額:課税遺産総額は2億円−4,800万円=1億5,200万円です。妻7,600万円×30%−700万円=1,580万円、子3,800万円×20%−200万円=560万円×2人で、総額は2,700万円です。
| 妻の取得割合 | 一次の納付税額 | 二次の妻の遺産 | 二次の税額 | 一次+二次 |
|---|---|---|---|---|
| 0% | 2,700 | 1,000 | 0 | 2,700 |
| 25% | 2,025 | 6,000 | 180 | 2,205 |
| 26% | 1,998 | 6,200 | 200 | 2,198 |
| 50% | 1,350 | 11,000 | 960 | 2,310 |
| 75% | 675 | 16,000 | 2,140 | 2,815 |
| 100% | 540 | 20,460 | 3,478 | 4,018 |
検算(26%):一次は2,700万円×74%=1,998万円で、妻は軽減により0です。二次は(6,200万円−4,200万円)÷2人=1,000万円、1,000万円×10%=100万円×2人=200万円で、合計2,198万円です。100%のときは、軽減額が2,700万円×1億6,000万円÷2億円=2,160万円なので、妻が540万円を納めます。
答え:1%刻みで調べると、合計が最も小さいのは妻26%の2,198万円で、妻100%の4,018万円より1,820万円少なくなります。
26%が境目になるのは、一次の実効税率が2,700万円÷2億円=13.5%で、二次の限界税率が妻の遺産6,200万円までは10%、それを超えると15%になるためです。一次の直後に二次が起きても、妻100%なら相次相続控除540万円を引いて合計3,478万円で、26%の方が有利なままです。
ただし、結論は前提で変わります。妻自身の財産が1億円あれば、最も有利なのは妻0%(合計3,470万円)です。反対に、二次までに妻の財産が生活費や介護費で3,000万円減るなら、最も有利なのは妻41%(合計1,793万円)になります。
ケースB:配偶者居住権を使う
配偶者居住権は、2020年(令和2年)4月1日以後の相続で使える、配偶者が自宅に無償で住み続ける権利です施行中。相続開始時に配偶者がその建物に住んでいたことが前提で、遺産分割(協議・調停・審判)か遺言による遺贈で取得させます。自宅の所有権は子が取得し、配偶者は「住む権利」だけを取得します。存続期間は原則として配偶者の終身で、配偶者が亡くなると消滅します。
相続税の評価額は次の算式で計算します。「時価」は相続税評価額(建物は固定資産税評価額)です。
配偶者居住権=建物の時価−建物の時価×(耐用年数−経過年数−存続年数)÷(耐用年数−経過年数)×複利現価率
敷地利用権=土地の時価−土地の時価×複利現価率
耐用年数は住宅用の法定耐用年数の1.5倍(木造33年、鉄筋コンクリート造71年)です。存続年数は、終身なら配偶者の平均余命で、2026年(令和8年)10月時点の国税庁の明細書では80歳の女性は12年です。複利現価率は法定利率(2029年(令和11年)3月31日までは年3%)で計算し、12年なら0.701です。子が取得する所有権部分は、時価から配偶者居住権・敷地利用権を引いた額です。
ケースB:自宅を「住む権利」と「所有権」に分ける
夫の遺産は自宅(建物1,000万円・土地3,000万円)と預金6,000万円の合計1億円で、相続人は妻(80歳)と子1人です。2026年に遺産分割で配偶者居住権を設定します。建物は木造で、新築から15年です。どちらの分け方でも妻の取得額は5,000万円にそろえ、小規模宅地等の特例と、二次相続までの財産の増減は考えません。
- 夫の死亡(一次相続)妻が配偶者居住権と敷地利用権、子が建物と土地の所有権を取得する遺産分割をします。
- 居住権の登記登記をすると第三者に対抗できます。居住権は売ることができません。
- 妻が住み続ける期間途中で合意解除・放棄をすると、子に贈与税(無償の場合)か、妻に譲渡所得(対価を受けた場合)が生じます。
- 妻の死亡(二次相続)居住権は消滅します。消滅に贈与税はかからず、子は制約のない所有権を持ちます。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税(一次) | 居住権の評価 | 存続年数12年・複利現価率0.701で計算。妻の取得分は配偶者の税額軽減の対象 |
| 相続税(二次) | 消滅した居住権 | 妻の死亡で消滅し、相続される財産にならないと解されている |
| 贈与税 | 合意解除・放棄 | 子が対価を払わなければ、居住権相当額を妻から贈与で取得したとされる |
| 所得税 | 消滅の対価 | 対価を受けた妻の総合課税の譲渡所得 |
評価:配偶者居住権=1,000万円−1,000万円×(33−15−12)÷(33−15)×0.701=7,663,333円(円未満四捨五入)です。敷地利用権=3,000万円−3,000万円×0.701=8,970,000円です。子の所有権は建物2,336,667円、土地21,030,000円です。
| 項目 | 妻が自宅の所有権を取得 | 妻が配偶者居住権を取得 |
|---|---|---|
| 妻の取得(自宅関係) | 4,000 | 1,663 |
| 妻の取得(預金) | 1,000 | 3,337 |
| 一次:子の納付税額 | 385 | 385 |
| 二次:妻の遺産 | 5,000 | 3,337 |
| 二次:子の納付税額 | 160 | 0 |
| 一次+二次 | 545 | 385 |
一次:基礎控除4,200万円、課税遺産総額5,800万円、2,900万円×15%−50万円=385万円×2人で総額770万円です。妻の取得割合は2分の1なので子の税額は385万円、妻は軽減で0です。二次(子1人、基礎控除3,600万円):所有権を取得した場合は(5,000万円−3,600万円)×15%−50万円=160万円です。居住権の場合は妻の遺産が基礎控除以下で0です。
答え:配偶者居住権を使うと、一次+二次の合計は545万円から385万円になり、160万円少なくなります。居住権と敷地利用権の評価額1,663万円分が、二次相続で課税されないと解されているためです。
実際には、小規模宅地等の特例も考える必要があります。妻が取得する敷地利用権には特例を使えます。一方、子が取得する敷地の所有権部分は、子が同居していなければ使えません(配偶者がいる相続では家なき子の特例が使えないため)。その分、差は小さくなります。
また、居住権は売れないため、妻が老人ホームへ移るときなどに柔軟に動けません。配偶者居住権をほかの対策とどう組み合わせるかは、二次相続まで考えた遺産分割で扱います。
ケースC:夫婦間の自宅の贈与(おしどり贈与)と相続を比べる
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、国内の自宅やその購入資金を贈与すると、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円を控除できます(贈与税の配偶者控除)。同じ配偶者からは一生に一度で、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住み、その後も住み続ける見込みが必要です。税額が0円でも贈与税の申告が適用の条件で、適用期限のない制度です。
控除を受けた部分は、贈与者が亡くなっても相続税に加算されません。一方で、贈与で取得した土地には小規模宅地等の特例が使えず、名義変更の費用(登録免許税・不動産取得税)も相続より重くなります。
ケースC:自宅を生前に妻へ贈与するか、相続で渡すか
夫の財産は自宅(土地200㎡の評価額1,600万円、建物400万円)と金融資産8,000万円です。相続人は妻と子2人、婚姻期間は25年です。自宅の固定資産税評価額は土地1,400万円、建物400万円とします。
①生前に自宅を妻へ贈与する場合と、②相続で妻が自宅を取得し、小規模宅地等の特例で土地を80%減額する場合を比べます。どちらも妻が金融資産3,000万円、子が各2,500万円を相続し、相続は2026年中に起きたとします。
- 贈与(①だけ)自宅を妻に贈与し、翌年2月1日〜3月15日に贈与税を申告します。評価額2,000万円なので税額は0です。
- 翌年3月15日まで妻がその家に住み、その後も住み続ける見込みが必要です。
- 夫の死亡①は配偶者控除の部分を加算しません。②は妻が自宅を相続し、特例の適用を申告します。
- 妻の死亡(二次相続)①②とも、自宅は妻の財産として二次相続の対象になります。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 配偶者控除 | 2,000万円まで控除。税額0円でも申告が必要 |
| 相続税 | 生前贈与加算 | 配偶者控除を受けた部分は加算しない |
| 相続税 | 小規模宅地等の特例 | 贈与で取得した土地には使えない。②なら配偶者は要件なしで80%減額 |
| 登録免許税・不動産取得税 | 名義変更の費用 | 登録免許税は贈与2%・相続0.4%。不動産取得税は贈与だけにかかる |
①:相続税の課税価格は8,000万円です。課税遺産総額3,200万円、妻1,600万円×15%−50万円=190万円、子800万円×10%=80万円×2人で、総額350万円です。子1人の税額は350万円×2,500万円÷8,000万円=109万3,750円で、百円未満を切り捨てて109万3,700円です。
②:土地は1,600万円×(1−80%)=320万円、課税価格は8,720万円です。課税遺産総額3,920万円、妻1,960万円×15%−50万円=244万円、子980万円×10%=98万円×2人で、総額440万円です。子1人の税額は440万円×2,500万円÷8,720万円=126万1,467円で、126万1,400円です。
登録免許税は、①が(1,400万円+400万円)×2%=36万円、②が1,800万円×0.4%=7万2,000円です。
答え:①は子2人の相続税が②より33万5,400円少なくなりますが、登録免許税が28万8,000円多く、残る差は4万7,400円です。さらに①には不動産取得税がかかるため、この設例では贈与の効果はほとんど残りません。
土地の面積や、特例を他の土地に使うかどうかで結論は変わるため、贈与と相続の両方を試算して選びます。贈与した自宅は妻の財産になるので、二次相続で妻の遺産が基礎控除を超えるかどうかも確かめます。
判断のポイントと注意
よくある誤り
- 「配偶者は1億6,000万円まで非課税だから、全部を配偶者に相続させるのが得」は誤りです。二次相続を含めると不利になることがあります(ケースA)。結論は、配偶者自身の財産、二次相続までの年数、財産の増減で変わります。
- 「二次相続が早く来れば相次相続控除で軽くなる」とは限りません。一次で配偶者が軽減により税を納めていなければ、相次相続控除は0です。
- 配偶者居住権を無償で合意解除・放棄すると、所有者の子に贈与税がかかります。消滅しても課税がないのは、配偶者の死亡や期間満了などの場合です。
- 贈与税の配偶者控除に適用期限はありません。2026年12月31日までの贈与が対象の住宅取得等資金の非課税期限ありと混同しないようにします。
分け方を決める前の確認
- 配偶者自身の財産と、老後の生活費・介護費の見込みを把握した
- 二次相続で小規模宅地等の特例を使える子(同居・家なき子)がいるか確認した
- 配偶者の年齢と、配偶者居住権を設定するかを検討した
- 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例のため、申告期限までに遺産分割ができるか確認した
- 合計税額だけでなく、配偶者の住まいと生活資金、遺留分も考えた
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一次・二次の合計税額
- 相続税の総額は法定相続分で計算し、分割の内容に左右されません(相続税法16条、相基通16-1)。配偶者の税額軽減額=相続税の総額×(①と②の少ない方)÷課税価格の合計額。①は課税価格の合計額×配偶者の法定相続分と1億6,000万円の多い方、②は配偶者の課税価格(申告期限までに分割されていない財産を除く)です(相続税法19条の2)。
- ケースAは、一次で妻が納めた税を二次の遺産から控除して計算しています。控除しない計算では、妻100%の合計は4,180万円になります(控除すると4,018万円)。
- 相次相続控除=A×C÷(B−A)×D÷C×(10−E)÷10(C÷(B−A)が1を超えるときは1、Eは1年未満切捨て)。Aが0(一次で配偶者が軽減により納付0)なら控除は生じません(相続税法20条、相基通20-1〜20-4)。
配偶者居住権
- 被相続人が相続開始時に配偶者以外の者と共有していた建物には設定できません(民法1028条1項ただし書)。評価は相続税法23条の2、相続税法施行令5条の8、相基通23の2-1〜23の2-6によります。設定時は、遺産分割による場合は分割の時(協議成立日・調停成立日・審判確定日)、遺贈による場合は相続開始時です。耐用年数・経過年数・存続年数の端数は6月以上切上げ・6月未満切捨て、複利現価率は小数点以下3位未満四捨五入、分子・分母が零以下なら零とします。
- 法定利率は設定時のものです(民法404条。2026年4月1日〜2029年3月31日は年3%、令和7年法務省告示第73号)。平均余命は設定時の年の1月1日現在で公表されている最新の完全生命表により、国税庁の評価明細書(令和5年1月1日以降用)は第23回生命表に基づく表を示しています。
- 合意解除・放棄等で建物所有者が対価を支払わない場合は、建物所有者が配偶者居住権相当額を贈与により取得したものとされます。期間満了・配偶者の死亡・建物の全部滅失等による消滅は対象外です(相基通9-13の2)。対価を受けた場合は配偶者の総合課税の譲渡所得です(所基通33-6の8)。無償で消滅した後に所有者が譲渡したときの取得費は、設定がなかったものとして計算します(所法60条2項、所基通60-8)。
- 二次相続で課税されない点は、民法上の消滅(民法1030条、1036条で準用する597条3項)と相基通9-13の2から導かれる整理です。
- 小規模宅地等の特例は、配偶者居住権の目的となっている建物の敷地について、面積を敷地利用権と敷地の所有権の価額の割合で按分して適用します(措令40条の2第6項)。
贈与税の配偶者控除
- 相続税法21条の6。婚姻期間は1年未満の端数を切り上げません(相基通21の6-7)。同一の配偶者からは一生に一度です(相基通21の6-8)。控除相当部分は生前贈与加算の対象外で、相続開始年の贈与は特定贈与財産として加算せず、贈与税の申告が必要です(相続税法19条、相基通19-9)。民法上は持戻し免除の意思表示が推定されます(民法903条4項)。
生命保険・退職金・年金の課税関係
同じ死亡保険金でも、保険料を誰が負担していたかで、相続税・所得税・贈与税のどれがかかるかが変わります。この章では、保険金・死亡退職金・弔慰金・年金の課税関係を3つのケースで整理します。
この章の結論
- 保険の課税は「契約者」ではなく「保険料を負担した人」で決まります。被保険者と保険料の負担者が同じなら相続税、負担者と受取人が同じなら所得税(一時所得)、3者が全部違えば贈与税です。
- 死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。使えるのは受取人が相続人の場合だけで、孫や相続を放棄した人の受取分には使えません。
- 弔慰金は、業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外なら半年分まで非課税です。遺族年金は相続税も所得税も原則非課税で、未支給年金は相続財産ではなく受け取った遺族の一時所得です。
保険料を負担した人で税目が決まる
死亡保険金の課税は、被保険者(保険の対象となる人)、保険料の負担者、受取人の組合せで決まります。判定の基準は契約書の契約者欄ではなく、実際に保険料を払っていた人です。
| 形態 | 被保険者 | 保険料の負担者 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|---|
| ① | 父 | 父 | 母・子など | 相続税(受取人が相続人なら相続、相続人以外なら遺贈で取得したとみなす) |
| ② | 父 | 子 | 子 | 所得税(一時金は一時所得、年金は雑所得) |
| ③ | 父 | 母 | 子 | 贈与税(母から子への贈与とみなす) |
満期保険金も同じ考え方で、負担者と受取人が同じなら一時所得、違えば贈与税です。契約者の名義を変えただけでは贈与税はかかりませんが、新しい契約者が解約して解約返戻金を受け取ると、保険料を負担した人からの贈与として課税されます。
保険料を負担していた親が、被保険者(子など)より先に亡くなった場合、保険事故がまだ起きていない契約は「生命保険契約に関する権利」として相続税の対象です。評価額は相続開始時の解約返戻金の額で、掛捨て型は評価しません。この権利には死亡保険金の非課税枠は使えないと解されています。
ケースA:契約形態ごとの課税を比べる
ケースA:父の死亡で保険金2,000万円が出た(3つの契約形態)
父が被保険者の死亡保険金2,000万円が、長男(30歳)に支払われます。相続人は母・長男・次男の3人です。保険料を払っていたのが、①父、②長男(払込保険料800万円)、③母の3通りを比べます。
- 契約・保険料の支払契約者の名義ではなく、実際に保険料を払った人が負担者になります。
- 父の死亡受取人が保険会社に請求します。保険金の請求権は3年で時効になります。
- ①なら10か月以内相続税の申告で、非課税枠を差し引いた残りを課税価格に入れます。
- ②③なら翌年②は所得税の確定申告、③は翌年2月1日〜3月15日に贈与税を申告します。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | ①父が保険料を負担 | 非課税は500万円×3人=1,500万円。超える部分を受取人の課税価格に入れる |
| 所得税 | ②長男が保険料を負担 | 一時所得。(受取額−払込保険料−50万円)の2分の1を他の所得と合算 |
| 贈与税 | ③母が保険料を負担 | 母から長男への贈与。直系尊属からの贈与なので特例税率。非課税枠はない |
①:長男が全額を受け取るので、2,000万円−1,500万円=500万円が課税価格に入ります。受取人が複数いるときは、非課税枠を相続人の受取額の割合で分けます。
例えば母1,200万円・長男600万円・孫200万円なら、母の非課税は1,500万円×1,200万円÷1,800万円=1,000万円、長男は500万円です。課税されるのは母200万円・長男100万円・孫200万円(相続人でないので全額)です。
②:2,000万円−800万円−50万円=1,150万円が一時所得の金額です。その2分の1の575万円を、給与などほかの所得と合計して所得税・住民税を計算します。
③:(2,000万円−110万円)×45%−265万円=585万5,000円の贈与税です。
答え:同じ2,000万円でも、①は課税価格に入るのが500万円(遺産全体が基礎控除以下なら相続税は0)、②は575万円が所得に加わり、③は585万5,000円の贈与税になります。③は税負担が重くなりやすい形です。
ケースB:死亡退職金と弔慰金
会社から遺族に支払われる死亡退職金は、亡くなった後3年以内に支給額が確定したものが「みなし相続財産」として相続税の対象になります。支払が3年を過ぎても、額が3年以内に確定していれば対象です。死亡退職金にも、保険金とは別に「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
弔慰金(お悔やみとして支払われる金銭)は、業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外の死亡なら半年分までは非課税で、超える部分は退職手当金等として扱います。死亡後に額が確定した賞与や、支給日が来ていない給与は、退職手当金ではなく本来の相続財産なので、非課税枠の対象外です。
ケースB:同族会社の役員だった父に死亡退職金と弔慰金が出た
父は会社の役員で、病気で亡くなりました(業務外の死亡)。月額の普通給与は50万円です。会社は死亡退職金3,500万円(母2,000万円、長男1,000万円、長女500万円)と弔慰金300万円(母)を支給しました。相続人は母・長男・長女の3人で、長女は相続を放棄しています。
- 父の死亡会社が死亡退職金と弔慰金の額を決めます。
- 死亡から3年以内に額が確定みなし相続財産として相続税の対象です。3年を過ぎて確定したものは、遺族の一時所得とされます。
- 10か月以内に申告申告書の第10表で、退職手当金の非課税枠を計算します。
- 自社株の評価株価の純資産価額の計算では、支給が確定した死亡退職金を会社の負債にします。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 死亡退職金の非課税 | 500万円×3人=1,500万円。放棄した長女も人数に数えるが、長女の受取分には使えない |
| 相続税 | 弔慰金 | 業務外は普通給与の半年分(50万円×6か月=300万円)まで非課税 |
| 所得税 | 死亡後3年を過ぎて確定した退職金 | 相続税ではなく遺族の一時所得とされる |
| 株式評価 | 会社の純資産価額 | 死亡退職金は負債になる。弔慰金は退職手当金等とされる部分だけが負債 |
相続人として受け取ったのは母2,000万円と長男1,000万円の計3,000万円です。母の非課税は1,500万円×2,000万円÷3,000万円=1,000万円、長男は1,500万円×1,000万円÷3,000万円=500万円です。課税されるのは母1,000万円、長男500万円、長女500万円(放棄者なので全額)の計2,000万円です。
弔慰金300万円は半年分の範囲内です。業務上の死亡なら、3年分の1,800万円まで非課税になります。
答え:死亡退職金3,500万円のうち課税されるのは2,000万円で、弔慰金300万円は全額非課税です。弔慰金が500万円なら、300万円を超える200万円は退職手当金等として非課税枠の計算に含めます。
ケースC:年金の受給権・未支給年金・遺族年金
年金の形で受け取るお金は、種類によって課税がまったく違います。保険金を年金形式で受け取る権利は相続税の対象ですが、公的年金の未支給分や遺族年金は相続財産になりません。
ケースC:父の死亡後に母が受け取る3種類の年金
年金を受給していた父が亡くなり、母が次の3つを受け取ります。①父が保険料を負担した保険の保険金を年金形式で受け取る権利、②父が受け取るはずだった公的年金の未支給分、③遺族年金です。①は年額120万円・残り10年、予定利率1.0%で、解約返戻金は1,050万円、一時金で受け取るなら1,100万円とします。
- 父の死亡年金受給権者死亡届は、厚生年金が10日以内、国民年金が14日以内です(年金機構にマイナンバーが収録されている人は原則省略できます)。
- 未支給年金・遺族年金の請求未支給年金は、死亡時に生計を同じくしていた遺族が請求します。時効はどちらも5年です。
- 10か月以内に相続税の申告①の年金受給権を「定期金に関する権利」として評価し、課税価格に入れます。
- 翌年の確定申告②の未支給年金は、受け取った年の母の一時所得です(特別控除は最高50万円)。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | ①年金受給権 | 定期金に関する権利。解約返戻金、一時金、算式による額のいずれか多い額で評価 |
| 所得税 | ②未支給年金 | 遺族固有の権利で相続財産ではない。受け取った母の一時所得 |
| 相続税・所得税 | ③遺族年金 | 原則としてどちらも非課税 |
①の算式による額は、年額120万円×複利年金現価率です。複利年金現価率は(1−1÷1.01の10乗)÷0.01=9.4713…で、小数点以下3位未満を四捨五入して9.471です。120万円×9.471=11,365,200円で、解約返戻金1,050万円・一時金1,100万円より多いので、これが評価額です。
答え:①は11,365,200円が相続税の課税価格に入ります。②は相続税の対象外で母の一時所得、③は相続税・所得税とも原則非課税です。
①の年金受給権に基づいて母が毎年受け取る年金は、所得税の雑所得になります。ただし全額ではなく、毎年の年金を非課税部分と課税部分に分け、課税部分から対応する保険料を差し引いた額が雑所得です。課税部分は、受け取る年数がたつにつれて増える計算です。贈与税がかかった年金受給権や、相続税・贈与税が実際にはかからなかった場合も同じ扱いです。
受取人の決め方と注意点
死亡保険金は受取人固有の財産で、遺産分割の対象にならず、相続を放棄しても受け取れます。ただし相続税では「みなし相続財産」として課税され、放棄した人は非課税枠を使えません。非課税枠の計算に使う法定相続人の数には、放棄した人も含めます。放棄した子が受け取っても、一親等の血族なので2割加算はありません。
孫など相続人でない人を受取人にすると、3つの不利が重なります。①非課税枠が使えません。②遺贈で財産を取得した人になるため、亡くなった人から受けていた暦年課税の贈与が生前贈与加算の対象になります。③代襲相続人でない孫は2割加算の対象になります。
保険金は原則として遺産分割の持戻し(特別受益)の対象になりません。ただし、遺産全体に比べて保険金が著しく大きいなど、相続人の間の不公平が著しい特段の事情があれば、持戻しの対象になりうるとした最高裁の決定があります。
財務省が2026年(令和8年)9月1日に公表した令和9年度税制改正の要望には、死亡保険金の非課税限度額を引き上げる金融庁の案があります要望段階。現行の枠に「500万円×配偶者と未成年の被扶養の法定相続人の数」を上乗せする内容で、2026年10月時点では決まっていません。
よくある誤り
- 「契約者が父だから相続税」と考えるのは誤りです。実際に保険料を負担した人で判定します。
- 「相続放棄をすれば保険金に相続税はかからない」は誤りです。みなし相続財産として課税され、非課税枠も使えません。
- 孫が受け取った保険金・退職金に非課税枠を使うのは誤りです。2割加算と生前贈与加算の対象にもなります。
- 未支給年金を相続財産に含めるのは誤りです。受け取った遺族の一時所得です。
- 死亡後に額が確定した賞与や未払の給与に、退職手当金の非課税枠を使うのは誤りです。本来の相続財産です。
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保険金・退職手当金
- 保険金は相続税法3条1項1号、退職手当金等は同項2号のみなし相続財産です。非課税は12条1項6号(保険金)・7号(退職手当金等)で、限度額は500万円×法定相続人の数(15条。放棄者を含めて数え、養子は実子ありで1人・なしで2人まで)。相続税法の「相続人」には放棄者・相続権を失った者を含みません(3条1項)。各人の非課税額=限度額×その相続人の受取額÷全相続人の受取額。保険金とともに受け取る前納保険料・剰余金・割戻金も保険金に含めます。
- 保険料の負担者と受取人が同じなら所得税で、一時所得の金額=総収入金額−払込保険料−特別控除(最高50万円)、総所得金額への算入はその2分の1です(所法34条)。負担者・被保険者・受取人が全部異なれば贈与税です(相続税法5条)。一時払養老保険等で保険期間5年以下のものなどは、金融類似商品として源泉分離課税です。
- 生命保険契約に関する権利は評基通214により解約返戻金の額で評価し、掛捨て型は評価しません。被相続人が契約者なら本来の相続財産、契約者が別人なら相続税法3条1項3号のみなし相続財産です(相基通3-36)。
- 退職手当金等は、死亡後3年以内に「額」が確定したものです(相基通3-30・3-31)。弔慰金等は業務上3年分・業務外半年分までです(相基通3-20)。死亡後に確定した賞与・支給期未到来の給与は本来の相続財産です(相基通3-32・3-33)。3年経過後に確定したものは遺族の一時所得とされます(所基通34-2)。
- 取引相場のない株式の純資産価額では、支給が確定した死亡退職金を負債に計上し(評基通186)、弔慰金は退職手当金等とみなされる部分に限り負債とします(国税庁質疑応答事例)。
- 最決平成16年10月29日(民集58巻7号1979頁):死亡保険金請求権は受取人固有の権利で、民法903条の遺贈・贈与に当たりません。ただし不公平が著しい特段の事情があれば同条の類推適用で持戻しの対象となり、判断要素は保険金の額、遺産総額に対する比率、同居の有無、介護等への貢献の度合い、各相続人の生活実態などです。
年金
- 給付事由が発生している定期金に関する権利は、解約返戻金、一時金、1年当たりの平均額×残存期間に応ずる予定利率の複利年金現価率(有期定期金)のいずれか多い額で評価します(相続税法24条)。複利年金現価率は小数点以下3位未満四捨五入、給付期間の年数は1年未満切上げ、金額は1円未満切捨てです(国税庁の評価明細書の記載方法)。
- 未支給年金は遺族固有の権利で相続財産に当たらず、遺族の一時所得です(国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」事例8)。請求できるのは死亡時に生計を同じくしていた遺族で、順位は配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族です。
- 相続・遺贈・贈与で取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金は、支払年金額を非課税部分と課税部分に分けます。課税部分から対応する保険料等を差し引いた額が雑所得です(所得税法35条、所得税法施行令185条・186条、タックスアンサー1620)。
- 課税部分は、相続税評価額が支払総額(又は支払総額見込額)に占める割合(相続税評価割合)に応じた課税割合で求め、課税単位数で各年に割り振ります(所令185条2項)。実際に相続税・贈与税の納税額が生じなかった人も対象です。受給開始日以前に一時金で受け取った場合、所得税は非課税です(所基通9-18)。
法人と個人の取引:土地の貸し借り・売買・株主への影響
社長個人と同族会社の間で土地を貸したり売ったりすると、相続税の土地評価、所得税の譲渡所得、法人税、ほかの株主の贈与税が同時に動きます。この章では、よくある3つの取引をケースで整理します。
この章の結論
- 社長の土地を会社が使うとき、相当の地代を受け取るか「土地の無償返還に関する届出書」を出して賃貸すると、土地は自用地の80%で評価されます。残る20%は会社の株式の純資産価額に含めます。相当の対価で貸していれば、特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%減額)の対象になります。
- 社長が会社に時価の2分の1未満で土地を売ると、時価で売ったものとして譲渡所得が課税されます。会社には受贈益が生じ、株価が上がれば、ほかの株主が社長から贈与を受けたものとみなされます。
- 会社が社長に安く売っても贈与税はかかりません。時価との差額は、役員への給与(賞与)として所得税の対象とされるのが一般的な扱いです。
一つの取引に4つの税金が関わる
法人がからむ取引では、個人どうしの取引と比べて「時価」の基準と課税される人が変わります。土地の時価は、相続税・贈与税の財産評価では路線価などによる相続税評価額を使います。一方、法人との売買や個人間の売買で安すぎるかどうかを判断するときは、通常の取引価額(実際に売買される価格)が基準です。
| 取引 | 渡した側 | 受け取った側 | ほかの株主(同族会社の場合) |
|---|---|---|---|
| 個人から法人へ(時価の2分の1未満の譲渡・贈与) | 時価で譲渡したとみなして譲渡所得 | 時価との差額が受贈益(法人税) | 株価の上昇分が贈与とみなされる |
| 個人から法人へ(2分の1以上だが時価未満) | 実際の代金で譲渡所得。行為計算の否認で時価になることがある | 時価との差額が受贈益 | 著しく低い価額なら株価の上昇分が贈与 |
| 法人から個人へ(低額譲渡) | 差額は役員給与・寄附金など(法人税) | 役員・使用人は給与所得、それ以外は一時所得が一般的 | ― |
| 個人から個人へ(著しく低い価額) | 実際の代金で譲渡所得 | 時価との差額がみなし贈与(贈与税) | ― |
ケースA:社長の土地を会社が使っている
社長個人の土地に会社が建物を建てて使う形は、同族会社でよく見られます。権利金を払う慣行のある地域で、権利金も相当の地代も払わずに貸すと、借地権の認定課税(会社が借地権相当の利益を受けたとされる課税)が問題になります。そのため、相当の地代(土地の自用地価額のおおむね年6%)を払うか、「土地の無償返還に関する届出書」を出す方法が検討されます。
相続税では、貸し方によって土地の評価と小規模宅地等の特例の可否が変わります。相当の地代を受け取っている場合や、無償返還届出書を出して地代を受け取っている場合(賃貸借)は、土地(貸宅地)は自用地の80%で評価します。無償返還届出書を出して無償で貸している場合(使用貸借)は100%です。
どちらの場合も、会社が持つ借地権の価額は零とされます。80%で評価したときは、残りの20%を借地権相当として会社の株式の純資産価額に加えます。
ケースA:社長の土地に会社の工場が建っている
社長は会社の株式を100%持ち、自分の土地400㎡(自用地評価額1億円)を会社に貸しています。会社はその土地に工場を建て、製造業を営んでいます。権利金は受け取っていません。
社長が亡くなり、会社の役員である長男が土地と株式を相続しました。地代を受け取る場合、その額は相当の対価に当たるものとします。
- 貸し始め相当の地代を受け取るか、無償返還届出書を出すかを決めます。
- 貸している期間地代を受け取るか無償かで、土地の評価と特例の可否が決まります。
- 社長の死亡土地は貸宅地として評価し、株式の純資産価額には借地権相当額を加えます。
- 申告期限まで長男が役員であり、土地を持ち続け、会社がその土地で事業を続けることが特例の条件です。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税(土地) | 貸宅地の評価 | 相当の地代、または無償返還届出で賃貸借なら自用地の80%。無償返還届出で使用貸借なら100% |
| 相続税(株式) | 借地権相当額 | 80%評価のときは自用地の20%を会社の純資産価額に加える |
| 相続税(特例) | 特定同族会社事業用宅地等 | 相当の対価で貸し、長男が申告期限に役員なら400㎡まで80%減額。無償なら対象外 |
| 法人税 | 借地権の認定課税 | 権利金も相当の地代もなく、届出もないときに問題になる |
| 貸し方 | 土地の評価額 | 小規模宅地等の特例 | 課税価格に入る土地の額 | 純資産価額に加える額 |
|---|---|---|---|---|
| 相当の地代を受け取る | 8,000 | 80%減額 | 1,600 | 2,000 |
| 無償返還届出+地代(賃貸借) | 8,000 | 80%減額 | 1,600 | 2,000 |
| 無償返還届出+無償(使用貸借) | 10,000 | 対象外 | 10,000 | 0 |
計算:80%評価は1億円×80%=8,000万円、特例後は8,000万円×(1−80%)=1,600万円です。株式の純資産価額の計算では、1億円×20%=2,000万円を資産に加えます。使用貸借は事業としての貸付けに当たらないため、特例を使えません。
答え:貸し方の違いだけで、課税価格に入る土地の額は1,600万円から1億円まで変わります。3つの中では、地代を受け取らない使用貸借が相続税の面で最も不利です。
ケースB:社長が会社に土地を安く売る
個人が法人に、時価の2分の1に満たない価額で資産を売ると、時価で売ったものとみなして譲渡所得が課税されます(みなし譲渡)。法人への贈与も同じです。時価の2分の1以上でも、同族会社の行為計算の否認(税負担を不当に減らす取引を税務署が引き直す規定)に当たると、時価で計算されることがあります。
買った会社には時価との差額の受贈益が生じ、法人税の対象になります。さらに、会社の株式の価額が上がると、その上昇分は、ほかの株主が売った社長から贈与を受けたものとみなされます。
ケースB:社長が会社に土地を時価の半値未満で売る
社長Aが昔2,000万円で買った土地(通常の取引価額1億円)を、2026年(令和8年)中に会社へ4,000万円で売ります。保有期間は5年を超え、譲渡費用はないものとします。会社の株主はAが40%、長男Bが60%です。
- 売買契約代金4,000万円は、時価1億円の2分の1未満です。
- 翌年のAの確定申告時価1億円で売ったものとみなして、譲渡所得を申告します。
- 会社の決算時価と代金の差額6,000万円が受贈益として法人税の対象になります。
- Bへの影響会社の株式の価額が増えた分のうちBの持分相当を、BがAから贈与で取得したものとみなされます。
- 3年以内にAが亡くなった場合会社が取得した土地は、株式の純資産価額の計算で路線価ではなく通常の取引価額で評価します。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 所得税(A) | みなし譲渡 | 時価の2分の1未満なので、時価1億円で譲渡したとみなす |
| 法人税(会社) | 受贈益 | 時価との差額6,000万円を益金に算入 |
| 贈与税(B) | 株主へのみなし贈与 | 株価の上昇分のうちBの持分相当がAからの贈与 |
| 相続税(Aの株式) | 3年以内に取得した土地 | 純資産価額では通常の取引価額で評価 |
Aの譲渡所得は1億円−2,000万円=8,000万円(長期)です。所得税8,000万円×15%=1,200万円、復興特別所得税1,200万円×2.1%=25万2,000円、住民税8,000万円×5%=400万円で、合計1,625万2,000円です。
受け取った代金は4,000万円なのに、税金は1億円で売った場合と同じです。代金を時価の2分の1以上(5,000万円以上)にすれば、このみなし譲渡の規定は適用されず、実際の代金で計算します。それでも、行為計算の否認の可能性と、会社の受贈益、株主へのみなし贈与の問題は残ります。
答え:Aは手取り4,000万円に対して1,625万2,000円の税負担になり、会社には6,000万円の受贈益、Bには株価の上昇分の贈与税の問題が同時に生じます。
ケースC:会社が社長に安く売る
贈与税は個人から財産をもらったときの税金なので、法人から財産をもらっても贈与税はかからず、所得税の対象になります。会社が時価より安く資産を売ったときの差額も、買った人が会社から受けた経済的利益として扱われます。
ケースC:会社の土地を代表取締役に安く売る
会社が所有する土地(時価3,000万円)を、代表取締役の社長に1,000万円で売ります。
- 売買時価との差額2,000万円が、会社から社長への経済的利益になります。
- 社長の所得税役員が会社から受けた利益なので、給与所得(役員賞与)として扱われるのが一般的です。贈与税はかかりません。
- 会社の法人税差額は役員給与として扱われ、損金にならないことがあります。
- 買うのが家族の場合会社の役員・従業員でない家族が買うなら、一時所得とされるのが一般的です。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 法人からの財産の取得 | かからない(所得税の対象) |
| 所得税(社長) | 差額2,000万円 | 役員・使用人なら給与所得、業務と関係のない個人なら一時所得とされるのが一般的 |
| 法人税(会社) | 差額の扱い | 相手に応じて役員給与または寄附金。役員給与は損金不算入となりうる |
給与所得とされる場合は、差額2,000万円をほかの給与と合わせて所得税・住民税を計算します。会社と関係のない家族が買い、一時所得とされる場合は、(2,000万円−50万円)×2分の1=975万円を、ほかの所得と合計します(ほかに一時所得がない場合)。
答え:会社から安く買うと、贈与税ではなく所得税の問題になり、役員である社長には差額2,000万円が給与として課税されるのが一般的です。
判断のポイントと注意
同族会社との取引では、取引の前に「時価」を確かめることが出発点です。土地は通常の取引価額が基準です。非上場株式を法人に売るときの時価は、所得税基本通達59-6の方法で計算します。59-6では、売る人が中心的な同族株主なら会社を小会社として扱い、会社の土地・上場株式は時価で計算し、評価差額に対する法人税額等相当額は控除しません。
よくある誤り
- 「路線価(相続税評価額)で会社に売れば問題ない」は誤りです。法人との取引の時価は通常の取引価額です。路線価での代金が時価の2分の1未満なら、みなし譲渡になります。
- 「時価の2分の1以上なら安全」とは限りません。行為計算の否認、会社の受贈益、株主へのみなし贈与の問題が残ります。2分の1の基準は個人が法人に売るときのもので、個人間の売買の基準ではありません。
- 無償返還届出書を出して会社に土地を無償で貸している場合(使用貸借)は、土地は自用地として100%で評価され、特定同族会社事業用宅地等の特例も使えません。
- 「会社から安く買えば贈与税で済む」は誤りです。法人から受けた利益には所得税がかかります。
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土地の貸借
- 相当の地代は、権利金の取引慣行のある地域で、自用地価額(過去3年間の平均額)のおおむね年6%の地代です。権利金等がなければ借地権は零、貸宅地は自用地の80%です。無償返還届出書の提出がある場合は借地権零・貸宅地80%、使用貸借なら100%です(昭和60年6月5日付課資2-58ほか)。被相続人が同族関係者である同族会社に貸し、80%で評価したときは、20%相当額を株式の純資産価額に算入します(昭和43年10月28日付直資3-22)。
- 特定同族会社事業用宅地等は、相続開始直前に被相続人とその親族などが50%超を保有する法人の事業(不動産貸付業等を除く)に供されていた宅地等です。取得者が申告期限に役員(法人税法2条15号)であり、保有を継続することが要件です(措法69条の4第3項3号、措通69の4-23・69の4-24)。相当の対価を得ている貸付けに限られ、使用貸借は対象外です。役員要件を満たさない場合は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)となりえ、その場合は3年以内貸付けの除外規定がかかります。定款の写しと、法人が証明した株式の保有状況の書類を添付します。
低額譲渡・贈与
- 法人への贈与・遺贈と、時価の2分の1未満の対価による法人への譲渡はみなし譲渡です(所法59条1項、所令169条)。2分の1以上でも所法157条に該当すれば時価で計算されることがあり(所基通59-3)、低額かどうかは契約ごとに判定します(所基通59-4)。受贈法人は受贈益を益金に算入します(法法22条2項)。
- 同族会社に時価より著しく低い価額で財産を譲渡して株式の価額が増加したときは、増加部分を譲渡者から株主への贈与として扱います(相続税法9条、相基通9-2(4))。会社が資力を喪失している場合の債務超過相当部分は除かれます(相基通9-3)。
- 法人からの贈与は贈与税の対象外で(相続税法21条の3第1項1号)、法人からの贈与による金品は一時所得ですが、業務に関するもの・継続的なものは除かれます(所基通34-1(5))。役員・使用人が勤務先から受ける利益は給与所得とするのが一般的な扱いで、個人側の所得区分は取引の事実関係によって判断します。法人側は役員給与の損金不算入(法法34条)や寄附金(法法37条)の論点になり、有価証券の低額譲渡の対価は通常得べき対価の額によります(法法61条の2、法基通2-3-4)。
- 純資産価額では、課税時期前3年以内に取得した土地等・家屋等を通常の取引価額で評価し(評基通185)、評価差額に対する法人税額等相当額は2026年4月1日以後の相続等から38%です施行中。
- 非上場株式の所得税上の時価は所基通59-6によります(譲渡直前の議決権で判定、中心的な同族株主なら小会社、土地等・上場有価証券は時価、法人税額等相当額は控除しない)。最判令和2年3月24日は、譲渡人の会社への支配力に応じた評価によるべきとして原判決を破棄し、差し戻しました。
海外・非居住者・その他の特殊なケース
相続人や亡くなった人が海外とかかわる場合、借金が多い場合、相続人がいない場合は、通常の相続にはない論点が出てきます。この章では4つのケースで、どの税金がどの順番で問題になるかを示します。
この章の結論
- 日本にある不動産や、国内の営業所(支店など)に預けた預金などの国内財産は、相続人や亡くなった人がどこに住んでいても日本の相続税の対象です。国外財産まで課税されるかは、住所・国籍・在留資格と、国外に住んでいる期間で決まります。
- 海外に住む相続人は、納税管理人を届け出て10か月以内に相続税を申告します。1億円以上の有価証券などを持つ人が亡くなり、海外に住む相続人が取得すると、亡くなった人に所得税がかかることがあります(国外転出時課税)。
- 借金が多いときは、3か月以内に相続放棄か限定承認を選びます。限定承認では亡くなった人が財産を時価で売ったものとみなされ、準確定申告で所得税を納めます。相続人がいないとき、特別縁故者が受けた財産は遺贈とみなされ、相続税の対象です。
ケースA:相続人が海外に住んでいる
相続税がかかる財産の範囲は、財産を取得した人と亡くなった人の、それぞれの住所・国籍・在留資格で決まります。住所は生活の本拠で判定します。日本国籍の人が国外にいても、国内にいる親族の扶養を受けて留学している人や、国外勤務がおおむね1年以内の見込みの人は、日本に住所があるものとされます。
- 一時居住者
- 相続開始の時に在留資格(出入国管理及び難民認定法の別表第一の資格。経営・管理、技術・人文知識・国際業務、留学など)を持つ人です。そのうち、相続開始前15年以内に日本に住所があった期間の合計が10年以下の人が当たります。
- 外国人被相続人
- 相続開始の時に在留資格があり、日本に住所があった亡くなった人です。
- 非居住被相続人
- 相続開始の時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所がなかった人、または10年以内に住所があってもその間ずっと日本国籍がなかった人です。
| 相続人(財産を取得した時) | 亡くなった人が外国人被相続人・非居住被相続人に当たらない | 亡くなった人が外国人被相続人・非居住被相続人 |
|---|---|---|
| 日本に住所あり(一時居住者を除く) | 全財産 | 全財産 |
| 日本に住所あり・一時居住者 | 全財産 | 国内財産のみ |
| 日本に住所なし・日本国籍あり・10年以内に日本に住所あり | 全財産 | 全財産 |
| 日本に住所なし・日本国籍あり・10年以内に日本に住所なし | 全財産 | 国内財産のみ |
| 日本に住所なし・日本国籍なし | 全財産 | 国内財産のみ |
亡くなった人が国外転出時課税の納税猶予を受けていた場合などは、判定が異なることがあります。
ケースA:日本で父が亡くなり、日本国籍の長男が海外に住んでいる
日本に住む父が2026年(令和8年)に亡くなりました。相続人は日本に住む母と、海外勤務で8年前から海外に住む長男(日本国籍)です。父はずっと日本に住み、有価証券を1億2,000万円持っていました。長男は、父が2,000万円で買った上場株式(相続開始時の時価6,000万円)を相続します。
- 父の死亡長男は日本国籍で10年以内に日本に住所があったので、国外財産も含めて課税される区分です。
- 4か月以内海外に住む長男が有価証券を取得するので、国外転出時課税の対象です。相続人が父の準確定申告で、含み益に対する所得税を申告します(納税猶予の手続も検討します)。
- 10か月以内長男は納税管理人を定めて届け出て、相続税を申告します。提出先は父の住所地の税務署で、準確定申告の所得税は債務として差し引きます。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 長男の課税範囲 | 日本に住所なし・日本国籍あり・10年以内に日本に住所あり。国外財産を含む全部が課税 |
| 所得税 | 国外転出時課税(相続) | 父が1億円以上の有価証券等を持ち、海外に住む長男が取得。含み益に父の所得税 |
| 相続税 | 債務控除 | 準確定申告で納める父の所得税は債務として差し引ける |
| 譲渡所得 | 取得費加算 | 国外転出時課税の適用を受けた資産は対象外 |
長男が取得した株式の含み益は6,000万円−2,000万円=4,000万円です。父が相続開始時に売ったものとみなして、所得税4,000万円×15%=600万円、復興特別所得税600万円×2.1%=12万6,000円、合計612万6,000円を準確定申告で納めます。亡くなった年の所得には、翌年度の住民税は課されないとされています。
答え:長男は国外財産を含めて相続税の対象になり、父の準確定申告では612万6,000円の所得税等が生じます。この所得税は、相続税の計算で債務として差し引けます。
生前に、海外に住む子へ有価証券を贈与した場合も、同じ要件(1億円以上・10年以内に5年超の国内居住)に当たれば、贈与した親に含み益の所得税がかかります。この所得税は、贈与した年の確定申告で納めます。
相続で国外財産を取得した日本の居住者は、年末の国外財産が5,000万円を超えると、翌年6月30日までに国外財産調書を提出します。相続した年は、相続した国外財産を除いて判定できます。
遺産分割協議書には、実務上、相続人全員の実印と印鑑証明書が求められます。日本に住民登録がない海外在住の日本国籍の人は、在外公館で、印鑑証明に代わる署名証明を取ります(本人が出向き、領事の面前で署名します)。相続登記など住所の証明が必要な手続には、在留証明を使います。外国籍の人は、現地の公証人などで署名の認証を受けます。
ケースB:亡くなった人が外国人
日本に住む外国人が亡くなった場合、その人が外国人被相続人に当たるかどうかで、国外財産が課税されるかが変わります。ここでいう在留資格は別表第一の資格で、永住者や日本人の配偶者等(別表第二)は含みません。北海道のリゾート地などで外国人が持つ日本の不動産も、国内財産として日本の相続税の対象です。
ケースB:在留資格「経営・管理」で日本に住む外国人が亡くなった
外国籍のXさんは、在留資格「経営・管理」で7年前から日本に住んでいました。財産は国内の支店に預けた預金とマンション(合計8,000万円)と、本国の不動産・預金(合計2億円)です。相続人は、別表第一の在留資格で7年前から日本に住む妻(外国籍)と、本国に住む子(外国籍)です。
- Xさんの死亡在留資格があり日本に住所があるので、Xさんは外国人被相続人に当たります。
- 相続人の区分の判定妻は一時居住者(15年以内の日本の住所が10年以下)、子は日本に住所も日本国籍もない人です。
- 10か月以内に申告課税されるのは国内の支店に預けた預金とマンションだけです。日本の財産を取得して申告する子は、納税管理人を届け出ます。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税(妻) | 一時居住者で、亡くなった人が外国人被相続人 | 国内財産のみ課税(居住制限納税義務者) |
| 相続税(子) | 日本に住所も国籍もなく、亡くなった人が外国人被相続人 | 国内財産のみ課税(非居住制限納税義務者) |
| 相続税 | 債務・葬式費用 | 国内財産のみ課税される人は差し引ける債務の範囲が限られ、葬式費用は差し引けない |
| 相続税 | 外国の相続税 | 国外財産も課税される人が外国で相続税を課された場合は、外国税額控除で二重課税を調整 |
| Xさんと妻の在留資格 | 日本で課税される財産 | 理由 |
|---|---|---|
| 経営・管理など(別表第一) | 8,000 | Xさんが外国人被相続人なので、妻・子とも国内財産のみ |
| 永住者(別表第二) | 28,000 | Xさんは外国人被相続人に当たらず、妻は日本に住所ありで全財産、子も全財産 |
答え:Xさんの在留資格が「経営・管理」なら、日本で課税されるのは国内財産8,000万円だけです。夫婦とも永住者だった場合は、本国の財産を含む2億8,000万円が課税対象になります。
ケースC:借金が多い相続
借金(債務)が財産より多いときは、相続の開始を知った時から3か月以内に、家庭裁判所で相続放棄か限定承認の手続をします。何もしないと、借金も含めて全部を引き継ぐ単純承認とみなされます。遺産分割協議で「何も取得しない」と決めても相続放棄にはならず、借金は免れません。
単純承認
- 財産も借金も全部引き継ぐ
- 3か月以内に手続をしなければこれになる
- 相続財産を処分すると単純承認とみなされることがある
限定承認
- 相続した財産の範囲で借金を返す
- 相続人全員が共同で、財産目録を作って申述する
- 亡くなった人が時価で売ったとみなす所得税がかかる
相続放棄
- 初めから相続人でなかったことになる
- 1人ずつ申述でき、次の順位の人が相続人になる
- 生命保険金は受け取れるが、非課税枠は使えない
ケースC:借入金5,000万円が残る父の相続
父の財産は駐車場用地(時価2,000万円、父が昔400万円で取得)と預金1,000万円で、借入金は5,000万円です。母が受取人の生命保険金3,000万円(保険料は父が負担)があります。相続人は母と長男です。
- 父の死亡財産3,000万円に対して借入金5,000万円で、2,000万円の債務超過です。
- 3か月以内家庭裁判所に相続放棄(各自)か限定承認(全員共同)を申述します。期間内に決められなければ、期間の伸長を申し立てられます。
- 限定承認なら4か月以内駐車場用地を時価で売ったとみなし、相続人が父の準確定申告で所得税を申告します。
- 放棄なら10か月以内に判定母が受け取った保険金は遺贈とみなされます。相続税がかかるかを判定します。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 所得税 | 限定承認のみなし譲渡 | 相続開始時の時価で父が譲渡したとみなし、準確定申告で申告 |
| 譲渡所得 | 限定承認で取得した資産 | 相続人は時価で取得したことになる。取得費加算は使えない |
| 相続税 | 放棄した人の保険金 | 遺贈で取得したとみなす。非課税枠は使えない |
| 相続税 | 基礎控除の人数 | 放棄した人も法定相続人の数に含める |
限定承認の場合:みなし譲渡益は2,000万円−400万円=1,600万円(長期)です。所得税1,600万円×15%=240万円、復興特別所得税240万円×2.1%=5万400円で、合計245万400円です。この所得税は、相続税の計算では債務として扱います。
相続放棄の場合:母と長男が放棄すると、父の直系尊属(父母など)、いなければ父の兄弟姉妹が相続人になります。その人たちは、自分が相続人になったと知った時から3か月以内に判断します。母の保険金3,000万円は遺贈により取得したものとみなされ、非課税枠は使えません。ただし基礎控除は、放棄がなかったものとして数えた2人分の3,000万円+600万円×2人=4,200万円で、3,000万円はこれ以下なので相続税はかかりません。
答え:限定承認なら、駐車場用地のみなし譲渡で父に245万400円の所得税等がかかります。相続放棄なら借入金は引き継がず、母の保険金3,000万円にも相続税はかかりません。
ケースD:相続人がいない
相続人がいないとき(全員が相続放棄をした場合を含みます)は、家庭裁判所が選んだ相続財産清算人が財産を管理し、借金を返します。残った財産は、特別縁故者(生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人など)への分与を経て、最後は国のものになります。
ケースD:子も兄弟姉妹もいない人の財産を、介護をしたいとこが受ける
Aさんは独身で子がなく、父母・祖父母と兄弟姉妹は先に亡くなり、おい・めいもいません。遺言はありません。財産は預金4,000万円と自宅です。長年Aさんの療養看護をしたいとこのBさんがいます。
- Aさんの死亡Bさんなどの利害関係人が、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てます(収入印紙800円、官報公告料5,582円、必要に応じて予納金)。
- 公告(6か月以上)相続人を探す公告と並行して、清算人が債権者などに2か月以上の期間を定めて申出を求めます。
- 期間満了後3か月以内Bさんが特別縁故者として、家庭裁判所に財産の分与を請求します。
- 分与を知った日の翌日から10か月以内Bさんは分与された財産について相続税を申告します。分与されなかった財産は国庫に帰属します。
| 税目 | 論点 | 判断 |
|---|---|---|
| 相続税 | 特別縁故者への分与 | 分与時の時価で、Aさんから遺贈により取得したものとみなす |
| 相続税 | 2割加算 | いとこは一親等の血族でも配偶者でもないので対象 |
| 所得税 | 分与された資産の取得費 | 分与を受けた時の時価で取得したものとして計算 |
| 相続税 | 共有の財産 | 相続人がいない共有者の持分は、他の共有者が遺贈で取得したものとして扱う |
期間の目安:公告は6か月以上で、その満了後3か月以内に分与を請求します。分与の額は家庭裁判所が決め、Bさんの申告期限は分与を知った日の翌日から数えます。
答え:Bさんが分与を受けた財産は遺贈とみなされ、分与を知った日の翌日から10か月以内に相続税を申告します。Bさんはいとこなので2割加算の対象です。
相続人がいない人は、遺言で財産を渡す先を決めておけます。自筆証書遺言は、2026年10月時点では全文・日付・氏名の自書(財産目録を除く)と押印が必要です。押印を不要にするなどの民法改正は成立していますが、まだ施行されていません成立・施行待ち。法人に遺贈すると、含み益のある財産は亡くなった人が時価で売ったものとみなされ、準確定申告が必要になります(国や地方公共団体への遺贈など、一定の場合は課税されません)。
判断の順番と注意
- 課税される財産の範囲亡くなった人と相続人の住所・国籍・在留資格を確認します。
- 借金と3か月の期限財産と借金を調べ、相続放棄・限定承認が必要かを決めます。
- みなし譲渡の有無限定承認、法人への遺贈、一定の場合の海外に住む相続人への有価証券の移転では、亡くなった人に所得税が生じます。
- 申告の手続準確定申告は4か月以内、相続税は10か月以内です。国内に住所がない人は納税管理人を届け出ます。
よくある誤り
- 「海外に住めば日本の相続税はかからない」は誤りです。日本にある不動産や国内の営業所に預けた預金は、どの区分でも課税されます。日本国籍の相続人の国外財産が課税されないのは、相続開始前10年以内に日本に住所がなく、かつ亡くなった人が外国人被相続人・非居住被相続人に当たる場合に限られます。
- 永住者は一時居住者・外国人被相続人に当たりません。外国籍でも国外財産が課税されることがあります。
- 「遺産を何も受け取らなければ借金も引き継がない」は誤りです。借金を免れるには、家庭裁判所での相続放棄が必要です。
- 相続放棄をした人の保険金に非課税枠を使うのは誤りです。一方、基礎控除の人数には放棄した人も含めます。
関連する章
専門家向け:根拠と実務論点
納税義務者・財産の所在
- 相続税法1条の3・2条、相基通1の3・1の4共-3〜共-7(重国籍者は日本国籍を有する者に含まれます)。
- 財産の所在は相続税法10条によります(預貯金は受け入れた営業所、株式・社債は発行法人の本店、貸付金債権は債務者の住所など。判定は取得時の現況)。
- 制限納税義務者は控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用は控除できません(国税庁タックスアンサー4126)。外国税額控除は相続税法20条の2で、外国税額は原則として納付すべき日の対顧客直物電信売相場で換算します(相基通20の2-1)。
- 国外財産調書は、居住者(非永住者を除く)で12月31日の国外財産が5,000万円を超える者が翌年6月30日までに提出します(国外送金等調書法5条1項)。相続開始年は相続国外財産を除いて判定でき(同条2項)、記載の有無により相続税の過少申告加算税・無申告加算税が5%軽減・加重されます(同法6条)。
海外在住の相続人の書類
- 在外公館の署名証明は、日本に住民登録がない海外在留者に、日本の印鑑証明に代わるものとして発給されます。日本国籍者が対象で、本人の出頭が必要です(代理・郵送は不可)。書類と綴り合わせる形式と単独の形式があり、どちらにするかは提出先に確認します。在留証明は外国での住所を証明するもので、用途に不動産登記などが挙げられています(外務省「在外公館における証明」)。
- 不動産登記では、日本の領事の署名証明で印鑑証明書に代えられ、取得が困難なときは外国の公証人の署名証明も認められています(法務省)。相続税の申告書に添付する遺産分割協議書の扱いは、国際相続の章の専門家向け欄にまとめています。
国外転出時課税(相続)
- 所得税法60条の3。相続開始時の対象資産(有価証券、匿名組合出資、未決済の信用取引・デリバティブ取引)が1億円以上で、相続開始前10年以内の国内居住が5年超の被相続人が対象です。その被相続人から非居住者が対象資産を取得すると、相続開始時に譲渡等があったものとみなします。2015年(平成27年)7月1日以後の相続から適用されています施行中。
- 納税管理人の届出・担保提供等により5年(延長で10年)の納税猶予があり、取得者全員が居住者となった場合などは課税を取り消せます。遺産分割で非居住者への移転が変わったときは、事由発生日から4か月以内に修正申告・更正の請求をします。猶予分の所得税を相続人が納付することとなった場合等には、相続税の更正の請求の特則があります(相続税法32条1項9号)。
限定承認・相続放棄・相続人不存在
- 限定承認は共同相続人全員で財産目録を作成して申述します(民法923条・924条)。譲渡所得の基因となる資産は相続開始時の時価で譲渡したものとみなし(所法59条1項1号)、相続人は時価で取得したものとされ(所法60条4項)、取得費加算の対象外です(措法39条7項)。
- 放棄者は相続税法上の相続人に含まれません(3条1項)。一親等の血族なら放棄しても2割加算はなく(相基通18-1)、放棄者が現実に負担した葬式費用は遺贈により取得した財産から控除して差し支えないとされています(相基通13-1)。
- 相続人不存在では、相続財産清算人の選任と6か月以上の公告(民法952条)、債権者等への2か月以上の公告(同957条)を経ます。特別縁故者の請求は期間満了後3か月以内(同958条の2)、残余は国庫帰属(同959条)です。分与財産は分与時の時価で遺贈により取得したものとみなし(相続税法4条1項)、申告期限は分与を知った日の翌日から10か月以内です(同29条1項)。所得税上の取得価額は分与を受けた時の時価です(国税庁質疑応答事例)。共有者が死亡して相続人がいない場合の持分は、他の共有者が持分に応じて遺贈により取得したものとされます(相基通9-12)。
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このページの出典・参考資料(112件)
- 国税庁 財産評価基本通達 第1章 総則
- 国税庁 令和8年分の路線価等について
- 国税庁 負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について
- 国税庁 タックスアンサーNo.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
- 国税庁 タックスアンサーNo.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
- 国税庁 タックスアンサーNo.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
- 国税庁 所得税基本通達59-1〜59-6
- 国税庁 資産課税課情報第22号(令和2年9月30日)
- 国税庁 法人税基本通達9-1-7〜9-1-15の2
- 国税庁 相続税法基本通達 第9条関係
- 裁判所 最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決
- e-Gov 貸付用不動産の評価について(案)
- 国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議
- 国税庁 タックスアンサーNo.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 措置法通達69の4関係
- 国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3261 建物の取得費の計算
- 国税庁 質疑応答事例 相続人が譲渡する被相続人の居住用財産
- 国税庁 質疑応答事例 未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告
- 国税庁 タックスアンサーNo.4155 相続税の税率
- 札幌市 被相続人居住用家屋等確認書
- 国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置
- 財務省 令和9年度税制改正要望(国土交通省)空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長
- 国税庁 タックスアンサーNo.4614 貸家建付地の評価
- 国税庁 質疑応答事例 貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲
- 札幌国税局 令和8年分 借家権割合
- 国税庁 申告書記載例 共同住宅の一部が空室となっていた場合
- 国税庁 タックスアンサー 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱 二 資産課税
- 国税庁 質疑応答事例 賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係
- 国税庁 タックスアンサーNo.4426 負担付贈与を受けたとき
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- 国税庁 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて
- 国税不服審判所 裁決要旨 使用貸借に係る土地
- 国税庁 相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
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- 国税庁 財産評価基本通達185〜188-6
- 国税庁 租税特別措置法通達39-1〜39-5
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- 国税庁 質疑応答事例 超過物納に係る過誤納金に対する譲渡所得の課税
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- 財務省 令和8年度税制改正の解説(相続税・贈与税関係)
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- 国税庁 タックスアンサー1477(相続財産の非上場株式を発行会社に譲渡した場合)
- e-Gov法令検索 民法
- e-Gov法令検索 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律
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- 国税庁 No.4503 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税選択の特例
- 国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表
- 国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合(質疑応答)
- 国税庁 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
- 国土交通省 令和9年度税制改正要望(住宅取得等資金の贈与税の非課税措置)
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4168 相次相続控除
- 国税庁 配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例
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- 国税庁 相続税法基本通達 3-18〜3-33
- 国税庁 財産評価基本通達 200〜214
- 国税庁 定期金に関する権利の評価明細書 記載方法等
- 国税庁 相続税の申告書作成時の誤りやすい事例 事例5
- 国税庁 相続税の申告書作成時の誤りやすい事例 事例8
- 国税庁 質疑応答事例 評価会社が支払った弔慰金の取扱い
- 裁判所 最高裁平成16年10月29日決定
- 金融庁 令和9年度税制改正要望(死亡保険金の非課税限度額)
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- e-Gov法令検索 所得税法59条
- e-Gov法令検索 所得税法施行令169条
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- 国税庁 所得税基本通達 34-1
- 国税庁 法人税基本通達 2-3-4
- 国税庁 No.4138 相続人が外国に居住しているとき
- 国税庁 相続税法基本通達 第1条の3・第1条の4関係
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- 国税庁 No. 1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
- 国税庁 No. 1468 相続・遺贈で非居住者に資産が移転した場合の国外転出時課税
- 国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国税庁 相続税法基本通達 第20条・第20条の2関係
- e-Gov法令検索 国外送金等調書法5条
- 外務省 在外公館における証明(在留証明・署名証明)
- 法務省 外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて
- 裁判所 相続の放棄の申述
- 裁判所 相続の限定承認の申述
- 裁判所 相続財産清算人の選任
- e-Gov法令検索 相続税法4条
- 国税庁 質疑応答事例 相続財産の分与により取得した資産の取得費等
このページは、2026年10月17日時点で確認できた法令・通達・国税庁などの公表資料にもとづく一般的な解説です。税制や運用は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。実際の申告・手続の際は、最新の公表資料を確認するか、税理士などの専門家にご相談ください。
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最終確認日:2026年10月17日 作成:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)
