財務DDで含み益を把握する方法|不動産・ゴルフ会員権・保険の時価

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財務DDで含み益を把握するには、不動産・ゴルフ会員権・保険契約などを一覧にし、帳簿価額(簿価)と時価を根拠資料つきで1行ずつ並べます。含み損や帳簿に載っていない資産も同時に拾い、売却時の税金と換金性を考えたうえで、実態の純資産と買収価格の交渉に反映させます。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

含み益は「資産を洗い出す→時価の根拠資料を集める→簿価と並べて差額を出す」の順で把握し、税金と換金性を考えて実態の純資産に反映します。

  • 中小企業は取得時の金額のまま帳簿に残すうえ、税務上の評価損も限られるため、簿価と時価がずれやすい
  • 不動産は固定資産税評価額・路線価・取引事例など複数の根拠で時価の幅をつかむ
  • ゴルフ会員権は取引相場と預託金の返還見込み、保険は保険積立金ではなく解約返戻金を見る
  • 含み益はそのまま足さず、売却時の法人税等や事業に必要な資産かを考えて評価する
  • 社長個人が使っている資産は、クロージング前に時価で整理しておく
目次

含み益とは?決算書の簿価と時価がずれる理由

含み益とは、資産の時価(いま売却したら見込める金額)が帳簿価額を上回っている部分のことです。反対に、時価が帳簿価額を下回っている部分を含み損といいます。どちらも決算書には表れないため、財務DD(買収の前に対象会社の財務内容を調べる手続き)で資産ごとに確かめます。

簿価と時価がずれる理由は、主に次の三つです。

ずれる理由内容起きやすい資産
取得したときの金額のまま計上する会計では資産を取得原価で計上し、値上がりしても帳簿価額を書き換えない(取得原価主義)長年保有している土地、ゴルフ会員権、非上場株式
税務上、評価損を計上しにくい法人税では、資産の評価損は災害による損傷など限られた場合しか損金にならない。そのため値下がりした資産も簿価のまま残りやすい地価が高い時期に取得した土地、会員権、使っていない設備
保険料や減価償却の処理保険料の全額や2分の1を損金にした保険は、帳簿の資産額が小さい。赤字の年に減価償却を見送った資産は、簿価が実態より大きい法人契約の生命保険、機械設備、建物
中小企業の決算書で簿価と時価がずれる主な理由

中小企業は税務申告に合わせて決算書を作ることが一般的で、時価に合わせて帳簿を見直す機会がほとんどありません。創業からの年数が長い会社ほど、決算書の純資産と実態の純資産の差が大きくなりやすい点を前提に、財務DDを進めます。

減価償却の「償却不足」も含み損の原因になる

法人税では、減価償却費は上限(償却限度額)の範囲内で会社が計上した額だけが損金になり、いくら計上するかは会社が決められます。赤字の年に償却を見送っている会社では、設備や建物の簿価が実態より大きく残ります。固定資産台帳で、各年の償却額が限度額に足りているかを確認します。

どの資産に含み益・含み損が出やすい?確認資料の一覧

確認の対象は、時価が動きやすく、金額が大きく、科目名だけでは中身が分からない資産です。次の表を出発点に、法人税申告書に添付される勘定科目内訳明細書(科目ごとの明細)と照らし合わせて、漏れを防ぎます。

資産簿価と時価がずれる理由時価の根拠になる資料
土地取得したときの価格のまま。地価の上昇・下落が反映されない固定資産税の課税明細書・評価証明書、路線価、近隣の取引事例、不動産鑑定評価
建物・建物附属設備減価償却後の簿価と、実際の使用価値・売却価値が一致しない課税明細書、修繕の履歴、建物の状態の調査
ゴルフ会員権・リゾート会員権取得時の相場のまま。値下がりしても評価損を計上しにくい会員権の取引相場、会則(預託金の据置期間・返還条件)、預託金証書
生命保険契約保険料を損金にした分だけ、帳簿の資産額が小さい保険会社の解約返戻金の証明書、保険証券、契約者貸付の残高
非上場株式・出資金取得価額のまま。発行会社の業績や財産の変化が反映されない発行会社の決算書、直近の取引事例、純資産価額による試算
貸付金・敷金・保証金回収できない部分や、契約上返還されない部分が残っている契約書、相手先の財務状況、賃貸借契約の返還条件
含み益・含み損が生じやすい資産と、時価の根拠になる資料

帳簿に載っていない資産も探す

固定資産台帳と勘定科目内訳明細書だけを見ていると、帳簿に載っていない資産(簿外資産)を見落とします。保険料の全額を損金にしてきた保険契約や、償却を終えて簿価が1円になった設備は、保険会社への契約照会、総勘定元帳の保険料の科目、現地での設備の確認から拾います。

不動産の時価はどう確かめる?

不動産は金額が大きく、含み益・含み損の大部分を占めることもある資産です。一つの指標に頼らず、性格の違う複数の根拠から時価の幅をつかみます。

時価の目安内容使うときの注意
固定資産税評価額市町村が固定資産税の課税のために決める評価額。毎年届く課税明細書で確認できる原則3年ごとの評価替え(次回は令和9年度)で見直される。実際の取引価格とは差がある
相続税路線価国税庁が毎年公表する、道路に面した土地の1㎡あたりの価額相続税・贈与税の財産評価のための価額。路線価のない地域は倍率方式で評価する
取引事例・不動産会社の査定近隣で実際に取引された価格や、仲介会社による査定額土地の形・接する道路・用途地域などの個別事情で大きく変わる
不動産鑑定評価不動産鑑定士による評価費用と時間はかかるが、金額の大きい物件や価格交渉の根拠に向く
不動産の時価をつかむための主な指標

公的な評価額は算定の目的が違うため、そのまま時価とはみなしません。複数の指標で幅をつかみ、金額が大きい物件や評価が分かれる物件に絞って鑑定評価を依頼すると、費用と精度のバランスが取れます。

建物は解体費用や修繕の先送りも見る

建物は減価償却で簿価が下がっていきますが、時価が同じペースで下がるわけではありません。耐用年数を過ぎても十分に使える建物がある一方、老朽化して大規模な修繕や建替えが近い建物は、売却時に解体費用を差し引いて評価されることもあります。工場や倉庫の敷地では、土壌汚染やアスベストの調査が必要になる場合もあります。

事業に使う不動産と遊休不動産を分ける

本社や工場のように事業に使い続ける不動産は、売却を前提にしないため、含み益があってもすぐには現金になりません。一方、使っていない土地や社宅などの遊休不動産は、売却できる価格で評価し、買い手が引き継ぐか、クロージング前に売却するかを話し合う材料にします。

社長の土地に会社の建物がある場合

会社が社長個人の土地を借りて建物を建てている場合、権利金の支払いの有無や「土地の無償返還に関する届出書」の提出状況によって、会社に借地権(土地を使う権利)という簿外の資産があるかどうかの判断が変わります。土地の賃貸借契約書、地代の水準、届出書の控えをあわせて確認します。

ゴルフ会員権は何を見ればよい?

ゴルフ会員権は、取得したときの価格のまま帳簿に残りやすい資産です。取引相場が取得時より大きく下がっているものや、相場がつかないものもあり、会員権の種類によって見るべき点が違います。

預託金制の会員権

  • 入会時にゴルフ場へ預けたお金(預託金)があり、据置期間の経過後に退会すると返還を請求できる
  • 時価は「取引相場」と「預託金が返ってくる見込み」の両方から考える
  • ゴルフ場の経営状況によっては、預託金の返還が滞ったり、減額されたりすることがある

株主会員制の会員権

  • 会員がゴルフ場を運営する会社の株主になる
  • 時価は取引相場が基本になる
  • 相場がない場合は、運営会社の財務内容や譲渡の条件から価値を考える
  • 会員証・預託金証書の原本があり、帳簿の取得価額と一致している
  • 法人会員か個人会員か。名義が社長個人になっていないか
  • 取引相場があるか。ない場合は、預託金の返還条件と据置期間がどうなっているか
  • 年会費や名義書換料など、持ち続ける費用と手放す費用
  • 誰が利用しているか(取引先の接待か、社長の私的な利用か)

税務上、会員権の値下がりを評価損として損金にすることは原則としてできませんが、法人が売却した場合の売却損は損金になります。含み損が大きい会員権は、売却するか、社長個人が時価で買い取るかをクロージング前に決めておくと、取引の条件を整理しやすくなります。

保険契約の含み益はどこに隠れている?

法人契約の生命保険では、帳簿の「保険積立金」と、いま解約したら受け取れる「解約返戻金」の差が含み益になります。保険料の全額や2分の1を損金にしてきた契約では、帳簿上の資産額はわずかでも、解約返戻金が大きく積み上がっていることがあります。

経営者の退職金準備や事業保障のために加入している契約が多く、解約返戻金の金額しだいで想定以上の価値を持つ場合があるため、見落とせない項目です。

確認すること資料見るポイント
契約の全体像保険証券、保険会社への契約内容の照会契約者・被保険者・受取人は誰か。帳簿に載っていない契約がないか
解約返戻金保険会社が発行する解約返戻金の証明書・推移表基準日時点の金額と今後の推移。返戻金がピークを過ぎると減っていく商品もある
帳簿の資産計上額総勘定元帳の保険積立金・前払保険料解約返戻金との差額が含み益(または含み損)
契約者貸付保険会社からの残高の通知契約者貸付を受けていると、解約時の受取額はその分だけ減る
保険契約の含み益を確かめるための確認項目

含み益のある保険を解約すると、解約返戻金と帳簿の資産計上額の差額が益金(法人税の課税対象)になります。M&Aの場面では、解約返戻金を社長の役員退職金の財源に充てる方法や、保険契約を退職金の一部として社長個人に名義変更する方法がよく検討されます。名義変更するときの評価は原則として解約返戻金の額が基準ですが、商品によって例外の扱いがあるため、契約ごとに確認します。

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役員退職金の目安を功績倍率法で計算する保険の解約返戻金を退職金の財源にするときに、支給額の目安を試算できます。計算する

保険積立金と有価証券の評価のくわしい進め方は、有価証券・保険積立金の時価評価と含み損益の確かめ方で整理しています。

含み益は純資産にどう反映する?手順と計算例

集めた時価をもとに、簿価の純資産を実態の純資産(修正純資産)に置き換えます。中小企業のM&Aでは、修正純資産に将来の収益力を表す営業権(のれん)を加えて株価の目安とする方法がよく使われ、含み益・含み損の金額は価格に直結します。

  1. 資産を洗い出す固定資産台帳、勘定科目内訳明細書、保険証券、会員証から対象を一覧にします。全額を損金にした保険や償却を終えた設備など、帳簿に載っていない資産や簿価の小さい資産も加えます。
  2. 根拠資料を集める課税明細書、登記事項証明書、会員権の相場、解約返戻金の証明書など、時価の根拠になる資料を資産ごとに用意します。対象会社に依頼する資料は一覧にし、期限を決めて伝えます。
  3. 簿価と時価を1行ずつ並べる資産ごとに、簿価・時価・差額・評価の根拠・基準日を記載します。時価に幅がある場合は、低い値と高い値の両方を残しておきます。
  4. 換金性と税金を考える事業に使い続ける資産か、売却できる資産か、売却したら税金がいくらかかるかを整理します。
  5. 修正純資産を出し、契約に反映する簿価の純資産に含み益を加え、含み損を差し引きます。結果は価格交渉、クロージング前の資産の整理、表明保証(売り手が契約で事実を保証する条項)の範囲に反映します。

計算例:簿価の純資産が5,000万円の会社

例えば、次のような資産を持つ会社の場合で考えます(金額はすべて仮の数字です)。

  • 土地:簿価1,000万円、時価の目安3,000万円。含み益は3,000万円−1,000万円=2,000万円
  • 保険契約:保険積立金600万円、解約返戻金1,000万円。含み益は1,000万円−600万円=400万円
  • ゴルフ会員権:簿価800万円、取引相場100万円。含み損は800万円−100万円=700万円
  • 使っていない機械:簿価300万円、売却の見込みなし。含み損300万円

含み益の合計は2,000万円+400万円=2,400万円、含み損の合計は700万円+300万円=1,000万円です。修正純資産は5,000万円+2,400万円−1,000万円=6,400万円になります。

さらに、差し引きの含み益1,400万円に税率を仮に30%として税金相当額を考えると、1,400万円×30%=420万円です。これを差し引くと6,400万円−420万円=5,980万円となり、税金相当額を考えるかどうかで420万円の差が生まれます。

税金相当額を差し引くかは交渉の論点

買い手は「売却すれば税金がかかる」として含み益から税金相当額を差し引こうとし、売り手は「売る予定のない資産なので差し引くべきではない」と考えがちです。相続税の株価評価(純資産価額方式)にも、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を差し引く仕組みがあり、考え方の参考になります。

金融機関も融資の審査で、土地の含み損益や回収の見込めない資産を反映した実態の純資産を見ることがあります。決算書と実態の差を説明できるようにしておくことは、M&Aに限らず、融資・資金調達の準備でも役立ちます。

社長個人の資産と混ざっていない?クロージング前の整理

中小企業では、会社の資産を社長が個人的に使っていたり、反対に社長個人の資産を会社が使っていたりすることがあります。財務DDではどちらの資産かをはっきりさせ、買い手が引き継がない資産は、クロージング(代金の決済と株式の引渡し)までに整理します。

よくある状況整理の方法税務の注意点
会社の会員権・保険・車を社長が私的に使っている社長が時価で買い取る。役員退職金の一部として現物で支給する時価より低い価格で譲ると、差額が役員給与とされ、会社では損金にならず、社長には所得税がかかるおそれがある
社長個人の土地・建物を会社が借りている賃貸を続けるか、買い手側が買い取るかを決める地代・家賃が相場とかけ離れていないか。社長が売却すると譲渡所得の申告が必要
会社が社長への貸付金や未収入金を持っているクロージング前に返済してもらう。役員退職金の支給時に精算する回収の見込みがなければ含み損として扱う
オーナー個人と会社の資産の整理(株式譲渡の場合の一般的な例)

社長個人の土地・建物を売却する場合、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える長期譲渡所得なら、所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えた合計20.315%の税率で課税されます。税額は売却価格だけでなく取得費や譲渡費用によって変わるため、売却の条件を決める前に試算しておきます。

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よくある質問

含み益が大きい会社は、その分だけ高く売れますか?

時価純資産を基準に価格を考える場合は、含み益は価格を押し上げる要素になります。ただし、税金相当額を差し引くか、事業に必要な資産かどうかで評価は変わり、収益力を中心に評価する方法では含み益が価格に反映されにくいこともあります。遊休不動産のように事業と切り離せる資産は、別枠で価格を話し合うこともあります。

売り手の側でも、事前に含み益を調べておく意味はありますか?

あります。買い手の財務DDの前に自社で簿価と時価を整理しておくと、価格交渉の根拠を示しやすくなり、後から含み損が見つかって条件が下がる事態も防げます。保険の解約や会員権の売却、役員退職金の支給など、クロージング前に済ませたい手続きの段取りも立てやすくなります。財務の実態を整理する進め方は中小企業の財務コンサルティングの進め方でも紹介しています。

含み損のある資産は、DDの前に売却しておくべきですか?

法人が会員権や遊休資産を売却すると、売却損は原則として損金になり、その期の法人税を減らす効果があります。ただし、社長や親族、関係会社に売る場合は時価での取引が前提で、低い価格で売ると寄附金や役員給与とされるおそれがあります。売却の時期と相手を決める前に、税金と価格への影響を試算しておきます。

親族への事業承継でも、含み益の把握は必要ですか?

必要です。相続税や贈与税の計算で非上場株式を評価するとき、純資産価額方式では資産を相続税評価額に置き換えるため、土地や保険の含み益は株価を押し上げます。後継者に株式を移す時期や役員退職金の支給時期を考えるうえでも、含み益の大きさを知ることが出発点になります。

まとめ

財務DDで含み益を把握する基本は、資産を洗い出し、時価の根拠資料を集め、簿価と1行ずつ並べるという地道な作業です。不動産は複数の指標で幅をつかみ、ゴルフ会員権は相場と預託金の返還見込み、保険は解約返戻金を確認します。含み益は税金相当額や換金性を考えて評価し、含み損や社長個人の資産との線引きもあわせて整理しておくと、価格交渉と契約条件の議論が具体的になります。

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂

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