ダブルワーク(掛け持ち)の従業員の年末調整は、扶養控除等申告書を出してもらったメインの勤務先1か所だけで行います。ほかの勤務先は乙欄で源泉徴収して年末調整をせず、本人が両方の給与を合算して確定申告で精算します。甲欄・乙欄の判定から給与計算、扶養の判定まで順に整理します。
この記事の結論
年末調整ができるのは「扶養控除等申告書」の提出を受けた勤務先1か所だけです。それ以外の勤務先は乙欄で源泉徴収し、年末調整はしません。
- 申告書を出された勤務先は甲欄、出されていない勤務先は乙欄で源泉徴収する
- 乙欄は少額の給与でも源泉徴収が必要。年末調整はせず、源泉徴収票を交付する
- メインの勤務先でも、他社の給与を合算して年末調整することはできない
- 本人はサブの給与などが20万円を超えると確定申告が必要で、還付になる場合もある
- 扶養や「年収の壁」は、両方の給与の合計で判定する
ダブルワークの年末調整はどちらの勤務先で行う?
年末調整は、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受けている勤務先だけが行います。この申告書は同時に1か所にしか出せないため、掛け持ちの従業員の年末調整をするのは、申告書を受け取ったメインの勤務先(主たる給与の支払者)だけです。
メインの勤務先でも、年末調整の対象は自社が支払った給与だけです。他社の給与を取り込んで合算することはできず、合算は本人の確定申告で行います。自社の立場ごとの対応は次のとおりです。
| 自社の立場 | 毎月の源泉徴収 | 年末調整 | 年明けにすること |
|---|---|---|---|
| メイン(申告書の提出を受けている) | 甲欄 | 自社が支払った給与だけで行う | 源泉徴収票の交付、給与支払報告書の提出 |
| サブ(申告書の提出を受けていない) | 乙欄 | 行わない | 源泉徴収票の交付(乙欄の項目に印)、給与支払報告書の提出 |
| (参考)前の勤務先を辞めてから入社した人 | 甲欄 | 前職の源泉徴収票の金額を含めて行う | 同上 |
「両方の勤務先で年末調整」はよくある誤り
サブの勤務先が年末調整をすると、基礎控除などが二重に差し引かれ、本人に追加の納税が生じたり、勤務先が源泉徴収のやり直しを求められたりします。紛らわしいのは年の途中で転職してきた人です。前の勤務先を辞めてから入社した人は掛け持ちではないため、前職分を含めて自社で年末調整します。「並行して働いているか、辞めてから来たか」で扱いが変わります。
ツール年末調整の過不足を自動計算する年間の給与と源泉徴収税額、控除の内容から、年末調整で還付になるか追加徴収になるかの目安を計算できます。計算する
甲欄・乙欄・丙欄の違いは?何で決まる?
毎月の給与から差し引く所得税は「給与所得の源泉徴収税額表」で求めます。どの欄を使うかは、扶養控除等申告書の提出があるかどうかと、給与の支払い方で決まります。
| 区分 | 使う人 | 特徴 |
|---|---|---|
| 甲欄 | 扶養控除等申告書を提出している人 | 扶養親族の数などを反映する。給与が少なければ税額が0円になることもある。年末調整の対象 |
| 乙欄 | 申告書を提出していない人(掛け持ちのサブ側など) | 所得控除を反映しないため税額が高め。少額の給与でも源泉徴収が必要。年末調整の対象外 |
| 丙欄 | 日々雇い入れる人に、働いた日ごとに支払う給与 | 日額表で計算する。同じ勤務先から継続して2か月を超えて支払う場合は対象外 |
乙欄の税額が甲欄より高めに設定されているのは、基礎控除や扶養控除などの所得控除をメインの勤務先で差し引く前提だからです。サブの勤務先でも同じ控除を差し引くと二重になるため、乙欄では控除を考えずに計算します。具体的な税額は、給与を支払う年分の源泉徴収税額表で確認してください。
なお、掛け持ちの人が申告書をどちらの勤務先にも出していない場合は、両方の勤務先が乙欄で源泉徴収することになり、どちらでも年末調整は行われません。勤務先が1か所だけでも、申告書を出していなければ乙欄です。
令和8年分は「改正前の税額表」で毎月の源泉徴収
基礎控除などの引上げ(2026年12月1日施行・令和8年分から適用)は、2026年中の毎月の源泉徴収には反映されず、12月の年末調整で精算されます。乙欄の給与は年末調整がないため、差し引かれた税額の精算は本人の確定申告で行います。令和9年分の源泉徴収税額表は、2027年1月1日以後に支払う給与から使います。
ツール給与の源泉徴収税額(月額・甲欄)を計算するメインの勤務先で甲欄を適用する場合の、毎月の源泉徴収税額の目安を計算できます。計算する
採用時に何を確認する?メインとサブの決め方
ダブルワークのトラブルの多くは、採用時の確認不足から起こります。入社の手続きで次の点を確認し、本人の回答を記録しておきましょう。
- ほかに勤務先があるか。あれば扶養控除等申告書をどちらに出しているか
- 前の勤務先を辞めて入社したのか、並行して働き続けるのか
- 前職がある場合、前職の源泉徴収票を年末調整までに出してもらえるか
- 乙欄になる場合、手取りが少なく見える理由を本人に説明したか
- 家族の扶養に入っている場合、両方の給与の合計で扶養の範囲を超えないか
どちらをメインにするかは本人が決めます。法律で「給与の多い方」と決まっているわけではありません。ただ、給与が多く長く勤める勤務先をメインにすると、毎月の源泉徴収が実際の税額に近くなり、年末調整で精算できる範囲も広がります。申告書は毎年、その年最初の給与を受け取る日の前日までに、メインの勤務先へ提出してもらいます。
乙欄は手取りが少なく見えるため、説明がないと不信感につながりがちです。多めに差し引かれた税金は確定申告で精算できることも伝えておくと安心です。入社手続きの全体像は従業員採用の流れと手続きの解説で確認できます。
乙欄の給与計算・仕訳・納付はどうする?
乙欄の従業員がいても、経理処理の型は通常の給与と同じです。差し引いた所得税は「預り金」で処理し、甲欄の従業員の分とまとめて納付します。
計算例:乙欄の給与を支払ったときの振込額
例えば、乙欄の従業員に給与80,000円を支払い、源泉所得税2,400円を差し引く場合を考えます。税額は説明用の仮の金額で、実際は社会保険料などを差し引いた後の金額と源泉徴収税額表で求めます。振込額は 80,000円−2,400円=77,600円 です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 80,000円 | 普通預金 | 77,600円 |
| 預り金(源泉所得税) | 2,400円 |
源泉所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納めます。給与を支払う人が常時10人未満で納期の特例の承認を受けていれば、年2回にまとめて納付できます。乙欄の分も、甲欄の分と同じ「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)」に含めて納め、別の手続きにはなりません。
| 区分 | 原則 | 納期の特例 |
|---|---|---|
| 納付期限のルール | 支払った月の翌月10日 | 1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日 |
| 令和8年12月分(年末調整分を含む) | 2027年1月12日(火) | 2027年1月20日(水) |
年末から年明けにかけては、甲欄と乙欄の従業員を分けて次の順で進めると漏れを防げます。
- 従業員ごとに甲欄・乙欄を確認する扶養控除等申告書の提出の有無を一覧にし、年の途中で入社・退職した人の扱いも確かめます。
- 甲欄の人だけ年末調整をする前職のある人は前職の源泉徴収票の金額を含めます。乙欄の人は12月の給与まで乙欄で源泉徴収し、年末調整はしません。
- 源泉徴収票を全員に交付する乙欄の人にも交付します。原則は翌年1月31日までで、令和8年分は2027年2月1日(月)が期限です。
- 給与支払報告書を市区町村に提出する従業員が翌年1月1日に住んでいる市区町村へ、乙欄の人の分も提出します。2027年1月1日以後は、これを提出すれば税務署への源泉徴収票の提出をしたものとみなされます。
- 12月分の源泉所得税を納付する年末調整による過不足を反映した金額を、上の表の期限までに納めます。
源泉所得税を差し引き忘れたり、納付が遅れたりすると、不納付加算税や延滞税の対象になることがあります。給与の勘定科目や預り金の管理方法は中小企業の経理・会計処理のガイドでも整理しています。
掛け持ちの従業員本人は確定申告が必要?
2か所以上から給与を受けている人は、次の合計額が20万円を超えると確定申告が必要です。合計するのは、年末調整をしなかった給与(従たる給与)の収入金額と、給与・退職所得以外の所得金額です。サブの勤務先の給与が年20万円を超えるなら、原則として申告が必要と考えてください。
| 本人の状況 | 確定申告 | ポイント |
|---|---|---|
| 従たる給与と、給与以外の所得の合計が20万円超 | 必要 | 両方の給与を合算して申告し、乙欄で差し引かれた税額を精算する |
| 上記の合計が20万円以下 | 原則不要 | 還付を受けたい場合や医療費控除を使う場合は申告できる。申告するなら20万円以下の給与も含めてすべて合算する |
乙欄は控除を考えずに多めに差し引かれているため、確定申告をすると還付になる場合があります。令和8年分の確定申告期間は2027年2月16日(火)から3月15日(月)までです。申告の義務がない人の還付申告は、翌年1月1日から5年間提出できます。
基礎控除申告書には「両方の給与」を含めた見込み額を書く
メインの勤務先で年末調整を受けるときは、基礎控除申告書の合計所得金額の見積額に、サブの勤務先の給与も含めます。令和8年分の基礎控除は合計所得金額に応じて段階的に決まり、489万円以下なら104万円です。合算を忘れると控除額を誤るおそれがあり、その差は確定申告で精算することになります。
扶養と「年収の壁」は両方の給与の合計で判定する
掛け持ちをしている人が家族の扶養に入っている場合、扶養の判定は1つの勤務先の給与ではなく、すべての給与の合計で行います。勤務先ごとに見ると範囲内でも、合計すると超えることがあり、本人と家族の勤務先の年末調整の両方に影響します。
| 判定すること | 何で判定するか | 令和8年分の目安(給与のみの場合) |
|---|---|---|
| 本人に所得税がかかるか | すべての給与の合計 | 178万円以下ならかからない(令和8・9年分) |
| 家族の扶養控除・配偶者控除の対象か | すべての給与の合計 | 136万円以下 |
| 配偶者特別控除の対象か | すべての給与の合計 | 136万円超207万円未満 |
| 19〜22歳の子の控除 | すべての給与の合計 | 136万円以下は特定扶養控除、136万円超197万円以下は特定親族特別控除 |
| 家族の社会保険の扶養に入れるか | すべての収入の見込み額の合計 | 原則130万円未満(19〜22歳は配偶者を除き150万円未満、60歳以上・障害者は180万円未満) |
| 勤務先の社会保険に加入するか | 勤務先ごと | 週20時間以上、企業規模51人以上、学生でないなど |
社会保険への加入は勤務先ごとに判断し、両方の勤務先で加入の要件を満たした場合は、本人が届出をして保険料を按分する仕組みになります。所得税の扶養の目安が上がった仕組みは基礎控除の引上げと178万円の壁の解説で詳しく説明しています。
札幌・北海道で働く人と雇う会社の確認ポイント
- 北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円です。時給が上がると、同じ勤務時間でも年収が増え、扶養や「年収の壁」の判定が変わることがあります。
- 確定申告書の提出先は、住所地を管轄する税務署です。札幌市内は区によって管轄の税務署が分かれ、書面を郵送する場合は2026年7月10日から札幌業務センターへ送ります。
- 給与支払報告書は、従業員が翌年1月1日に住んでいる市区町村へ提出します。勤務先と住所の市町村が違う従業員は、住所地の市町村への提出です。
扶養の判定や確定申告の要否は、勤務先の数・収入の時期・家族の状況で変わります。初回無料で確認できます。
無料で相談するよくある質問
サブの勤務先で誤って年末調整をしてしまったらどうなりますか?
控除が二重に差し引かれ、税額が不足している状態です。サブの勤務先は乙欄で計算し直した税額との差額を本人から徴収して納付する必要が生じる場合があり、本人は両方の給与を合算して確定申告で精算します。気づいた時点で早めに対応することが大切です。
どちらの勤務先にも扶養控除等申告書を出していない場合は?
両方の勤務先が乙欄で源泉徴収し、どちらでも年末調整は行われません。税額の精算は本人の確定申告で行い、多く差し引かれていれば還付されます。翌年からは、メインにする勤務先に申告書を出すと毎月の手取りが安定します。
副業が業務委託(フリーランス)の場合も乙欄の対象ですか?
業務委託の報酬は給与ではないため、源泉徴収税額表の乙欄は関係しません。報酬は事業所得や雑所得として扱い、給与の勤務先では通常どおり年末調整をします。給与以外の所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は必要です。
掛け持ちの人の住民税はどう計算されますか?
各勤務先が提出する給与支払報告書を、住所地の市区町村が合算して計算します。給与のほかに所得がなければ、給与分について本人が住民税の申告をする必要は通常ありません。確定申告をした場合は、その内容が市区町村に伝わります。
まとめ
ダブルワークの従業員の年末調整は、扶養控除等申告書を受け取ったメインの勤務先だけが、自社の給与分について行います。サブの勤務先は乙欄で源泉徴収し、源泉徴収票を交付します。採用時に掛け持ちの有無と申告書の提出先を確認し、乙欄の理由を本人に説明しておくとトラブルを防げます。両方の給与の合計で確定申告や扶養の判定が必要になる点も、本人に伝えておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
